一言で表すならば「番狂わせ」。果たして、勝利の女神は微笑んだのか!?[ASIA’S 50 BEST RESTAURANTS 2019/マカオ]

今回も大いに湧いた『ASIA’S 50 BEST RESTAURANTS』。興奮冷めやまぬ受賞後のシェフたち。

アジアのベストレストラン50 2019初入賞の2店に加え、大会過去最多となる12店の日本レストランが受賞!

今年もマカオで開催された『ASIA’S 50 BEST RESTAURANTS』。一言で表すとしたら「番狂わせ」。予想外の大会となりました。

今回、『ONESTORY』では3人のシェフに注目していました。ひとりは『傳』の長谷川在祐氏。ふたり目は『Florilege』の川手寛康氏。3人目は『茶禅華』の川田智也氏です。前者のふたりは、昨年2位、3位。あと1歩まできたその先の順位は、今大会のランキングで最大に注目すべき点でした。そして、川田氏。初エントリーな上、参加した日本人シェフの中では最年少。『ミシュラン』では二つ星を獲得しているものの、『ASIA’S 50 BEST RESTAURANTS』は、また別物。世界的に見てもトップレベルのあのティーペアリングは、どう評価されるのかが着眼したい理由でした。

そして、この3人を含む全ての日本人シェフの順位はこのようになりました。

3位『傳』、5位『Florilege』、8位『NARISAWA』、9位『日本料理 龍吟』、14位『La Cime』、18位『Il Ristorante luca Fantin』、23位『茶禅華』(初入賞)、24位『La Maison de la Nature Goh』、25位『鮨さいとう』、26位『L'Effervescence』、45位『Quintessence』、47位『Sugalabo』(初入賞)。

加えて、「Chef’s Choice Award」には『傳』が、「American Express Icon Award」には『日本料理 龍吟』が受賞。

気になる1位はシンガポールの『Odette』、前回1位だったバンコクの『Gaggan』は2位という結果でした。
(全リストは公式HPのhttps://www.theworlds50best.com/asia/en/をご参照ください)

3位に受賞した『傳』は、シェフの投票により選ばれる「Chef’s Choice Award」も受賞。「本当に僕でいいの?」と長谷川氏がジェスチャーしていたのも印象的。

5位に受賞した『Florilege』の川手寛康氏。今後も更なる活躍が期待される日本を代表するシェフのひとり。

23位に受賞した『茶禅華』。「中国料理の素晴らしさと日本の豊かさを伝えることに貢献したいです」と川田氏。

アジアのベストレストラン50 2019順位では測れない、本当に大切なことは何か。

この『ASIA’S 50 BEST RESTAURANTS』は、美味しいだけではない「何か」が必要なのかもしれません。それは、他の大会やガイドでは着目されないようなエンターテインメント性や面白さ、時に奇抜さなど。そして、高い順位を得るには、他国のシェフとコラボレーションなども行い、国外の人々に認知される機会を積極的に設ける活動も必要とされるでしょう。果たして何が大切なのか。

そんな中、日本人シェフ全員が話す「一番」大切なことは、「お店に来て頂くお客様を幸福にすること」だと言います。そして、そんな日本のシェフ同士の結束力は高く、おそらく『ASIA’S 50 BEST RESTAURANTS』に参加する国の中でも「一番」絆が深いと思います。自分の順位よりも仲間の順位を気遣い、共に喜び、共に称え合い、共に涙する姿は、相手を思う気持ちがあってこそ。このふたつの「一番」には決して「番狂わせ」はありません。

更にその絆は、横のつながりだけではありません。前述の「American Express Icon Award」を『日本料理 龍吟』が受賞した場面がそれを象徴しています。

司会者が「RYUGIN!!」とコールし、山本征治氏が壇上に登ると旗を持った4人が突如走り出し、同じ壇上に。その4人は、今回31位にランクインした台湾の『捷運 龍吟』稗田良平氏、50位にランクインした香港の『TA ViE』佐藤英明氏、そして『Il Ristorante luca Fantin』のルカ・ファンティン氏と『茶禅華』の川田智也氏。そう、全員山本氏の弟子です。

4人は自分の受賞よりも師匠の受賞に歓天喜地し、「龍吟」と書かれた旗を目一杯振り続けました。
「突然でビックリしました(笑)。彼らは皆優秀なので、それがこうやってアジアでも評価されることは自分の受賞よりも嬉しいです」と山本氏。

師匠は弟子を想い、弟子は師匠を想う姿は、会場中を感動に包みました。それが日本のシェフであり、チーム日本なのです。

順位は結果であり、本質は人にあります。その本質を、今大会では日本のシェフは魅せてくれたと思います。

『傳』『 Florilege』、『La Cime』、『La Maison de la Nature Goh』のシェフを始めとした4チーム。シェフ同士の結束はもちろん、各店のスタッフとの絆も強い。

「American Express Icon Award」を『日本料理 龍吟』が受賞した場面。4人の弟子も歓喜。

アジアのベストレストラン50 2019改めて、『ASIA’S 50 BEST RESTAURANTS』を振り返って。

チェアマンを務めた中村孝則氏は大会を振り返り、「今回、ランクインされた日本のレストランは12店と過去最多であり、熾烈なアジアの中で『茶禅華』と『Sugalabo』のニューエントリーがふたつもありました。それはとても誇らしいです。評価されるので順位はありますが、おそらくその全てが僅差だったと思います。そして、僕自身、改めて行ってみたいレストランの発見もありました。現代はSNSやインターネットの急速な発達により、社会は情報に溢れています。ゆえに、見たつもり、聞いたつもり、行ったつもり……と、錯覚を起こしてしまうこともあります。そんな時代だからこそ、“体験”は“価値”だと思います。その価値がレストランにはあり、レストランは体験が全てなのです。『ASIA’S 50 BEST RESTAURANTS』を通して、ぜひ皆様にもその体験をして頂けたら嬉しいです」と話します。

今回、『ONESTORY』は3人のシェフに注目しましたが、ランクインされたレストランは全て素晴らしい「ベストレストラン」です。人は体験することで感動が生まれます。是非、シェフと出会い、料理に歓喜し、ご自身でその感動を味わっていただければと思います。

そして、2020年はどうなるか!? 誰がランクインし、どこで開催されるのか!? 母国日本での開催はあるのか!? 早くも次回に期待が高鳴ります。

授賞式前夜の一枚。この笑顔が物語るように、日本のレストランの絆は強く深い。それがチーム日本。

ふたりの作家が回想する、南会津で出逢った美しき景色、人、伝統・文化。[NEW GENERATION HOPPING MINAMI AIZU]

福島県南会津への玄関口となる、東武東上線浅草駅のプラットホームで談笑するアレックス・カー氏(左)と小林紀晴氏(右)。

ニュージェネレーションホッピング南会津ふたりの作家による待望の対談が実現。テーマは「南会津の旅」。

福島県の南西部にあり、東北地方の南の玄関口「南会津」。手付かずの自然と山間の環境に守られながら、独自の伝統文化が育まれたこの地域には、他の地域では失われつつあるプリミティブな景色が広がり、訪れた誰をも魅了します。東武鉄道株式会社と共に、1年間をかけて南会津を見つめ直す旅を続けた『ONESTORY』。その主役でありナビゲーターを担ったのは、ふたりの作家です。ひとりは写真家であり、作家の小林紀晴氏。そしてもうひとりは、東洋文化研究家であり作家のアレックス・カー氏。旅の起点となる東京・浅草駅でそれぞれの旅を思い返しながら、南会津の魅力を語っていただきました。

▶詳細は、NEW GENERATION HOPPING MINAMI AIZU/南会津の一年を密着取材! 春夏秋冬を作家と巡り、若き力を発掘する旅へ。

アレックス氏は春冬の2回、小林氏春夏秋冬を通じ6回も南会津を訪れた。片道3時間強の旅も、東武鉄道の新型特急「リバティ会津」なら快適そのもの。

1年にわたる「南会津」の企画に共に携わり、初対面を果たしたおふたり。旅の話題ですぐに打ち解けた。

ニュージェネレーションホッピング南会津圧倒的な大自然、季節の景色、人、茅葺き、祭り。通うほど惹かれる「南会津」。

それぞれ別々に南会津へ訪れた写真家であり作家の小林紀晴氏と東洋文化研究家であり作家のアレックス・カー氏。ふたりの作家には、この街がどう写り、どんな言葉を紡いだのか。それぞれの独自の視点がありましたが、どこか繋がっている感性を持つもの同士にも見えます。

小林紀晴氏(以下、小林。敬称略)
「春夏秋冬を通じて、計6回訪れました。これまで会津若松には何度か足を運んだことがあったのですが、南会津は初めて。まったくの未知の場所でしたので、正直ピンときませんでしたが、通いながら地域をつぶさに見ていくと、祭りや風習も興味深く、次第に魅了されていきました。四季それぞれの景色も、コントラストが鮮やか。特に春と冬は素晴らしかったですね。昨年の冬は雪が2メートルも積もるほどで圧倒されましたが、春には雪が溶けてなくなり、同じ場所とは思えないほど。非常に印象的な体験でした。」

アレックス・カー氏(以下、アレックス。敬称略)
「私は冬と春で2回ほど訪れました。一番の目的は「大内宿」です。山間に40戸160名が暮らす小集落で、築300年の古民家が整然と並んでいる。その町並みを勉強するつもりで、まず行ってみたい場所のひとつでした。全国的に見ても、茅葺き屋根の古民家が1箇所だけ残され、重要伝統的建造物群保存地区に指定はされているものの、周囲には何もないというのはありがちですが、南会津は違います。大内宿だけではなく旧街道や前沢曲家集落、昭和村とあちこちに点在している。茅葺き屋根の家々があれだけ広範囲に建ち並び、文化としてきちんと残っている地域は、日本広しといえど他にありません。非常に貴重な財産なのです。現在、どれだけ力を注いでいるかはわかりませんが、南会津や福島県が今後もきちんと整備をして活用すれば、かなりの財産になると思いました。」

長野県諏訪出身の小林氏も南会津の豪雪には圧倒された様子。冬でしか撮影できない景色をカメラに収める。

国選定重要伝統的建物群保存地区「大内宿」。茅葺き屋根の古民家にカメラを向ける小林氏。

「大内宿」の茅葺き屋根に厚く降り積もった雪と青空を切り取った小林氏の作品「雪そら」。

旅の目的のひとつだった「大内宿」を訪れたアレックス氏。茅葺きのオーソリティーとして知見をさらに深めた。

「規模といい保存状態といい、茅葺き屋根の古民家がこれほど美しく残されているのは日本広しといえど珍しい」と、アレックス氏。

ニュージェネレーションホッピング南会津ふたりの視点を通じて紐解かれる「南会津」ならではの知られざる魅力。

小林紀晴氏とアレックス・カー氏。ふたりの共通点は、作家ということだけではありません。両者は、国内外を問わず旅する旅人なのです。様々な国や街を見てきたふたりには、この南会津という地域の何に価値を見出し、何に惹かれたのでしょうか。

アレックス「新潟県・佐渡の田舎を思い出しました。水田が物凄くきれいに広がっていて、集落がちょこちょこと点在する。まだまだ開発されておらず、のどかな雰囲気が残されている。そんな佐渡と南会津に共通点を感じました。」

小林「南会津ほど雪は降りませんが、僕の地元である長野県諏訪にどこか似ていると思います。実家は甲州街道沿いの宿場町にあり、子供の頃は旅籠の格子など面影がかろうじて残っていて、お寺も茅葺き屋根にトタンがかかっていた。諏訪では南会津にあるような昔懐かしい景色はもはや失われているので、寂しさを感じます。」

アレックス「茅葺き屋根はトタンをかけてくれれば、茅だけでなく柱や梁なども残り、構造自体が守られます。先入観として茅葺きは補修にお金が掛かり難しいと思われているようですが、実は耐用年数や費用的にも、木造などとさほどかわらない。日本では茅葺きイコール江戸時代のイメージですが、海外はそうではありません。デンマークやオランダなどヨーロッパでは近代美術館や新築住宅でも茅葺きが増えています。形も独特で、造り方によっては彫刻的な造り方ができる。茅葺き職人が世界に出て、学ぶ時代です。クリエイティブで建築家も興味を持つ分野、エコの面でも存在意義はとても大きい。日本では取り壊して新築にしてしまうところも多い中、南会津では保存されている。兵庫の有馬にも何百件と残っていますし、京都の美山でも補助金で吹き替えを行なっています。南会津は周辺の自然や田んぼも美しいまま残されている。四季折々の景色もあり、全てが揃っているんです。これは大きなチャンスだと思います。」

小林「僕はこれまで日本全国の祭りを巡り、特に「奇祭」と呼ばれる地域ごとの小さなお祭りを撮影し続けています。南会津ではまだ行けていないのですが、「高野三匹獅子」など興味深い祭りがあるそうです。ぜひ行ってみたいのですが、近づかないと日程がわからない(笑)。新潟・佐渡などの祭りは曜日に関係なく、決まった日にちに開催されますが、南会津では土日に開催するらしい。地元の方からしたらわざわざ遠方から観光客が来るはずがないと思っているのかも知れませんが、価値や素晴らしさに気づいていない。とてももったいないし、そこは工夫する余地があるとも思います。」

思い入れのある京都・亀岡や新潟・佐渡と比較し、考察するアレックス氏。小林氏も故郷の長野・諏訪との共通点を語ってくれた。

春に訪れた「南会津」の旅でアレックス氏が宿泊した湯の花温泉の民宿「ふじや」も茅葺きの文化を継承する。

デンマークにある草葺き屋根の家屋。ガラスなどと組み合わせ、建築としての新しい可能性を示す好例。茅葺きは建材として世界的にも注目されている。

独自の視点を語るアレックス氏に共感する、小林氏。「南会津」でのそれぞれの経験を共有するひと時となった。

故郷の長野・諏訪ではすでに失われてしまった景色の面影や伝統文化を南会津に見た、小林氏。

ニュージェネレーションホッピング・南会津アレックス氏と小林氏それぞれが認め、勧める「南会津」の魅力。

この対談企画では、ぜひ聞いてみたいことがありました。それは、「それぞれが相手に勧めたい南会津の魅力」です。なぜならば、互いに共通点を持つふたりならば、必ずや興味も引かれ合うと思ったからです。

小林「駒嶽神社の境内にある「大桃の舞台」は見所のひとつです。最初、冬に行ったのですが雪が深くて近づけなかった。春か夏がいいでしょう。国の重要有形民俗文化財に指定されている茅葺き屋根の農村舞台で、一時期は途絶えていたそうですが夏に農民歌舞伎をやるそうです。観光化されていないし、手作り感が魅力。地元の楽しみとして親しまれています。もうひとつは、会津町「左下り観音(さくだりかんのん)」。山の斜面の岩盤を切り開いてお堂が建てられ、観音様を祀っている。京都の清水寺や佐渡の清水寺(せいすいじ)、鳥取の投げ込み寺にも似ています。自然の中にどうやって、何のために作られたのか興味深く、迫力があります。やや荒れている印象を受けたほど、観光客はほとんどいないし、地元でもあまり知られていないようです。」

アレックス「難しい選択ですね。観光客が来ないと地域再生できませんが、一方でやたらと観光地化されるのも困ります。誰も行かないという魅力もあるように思います。私が小林さんに勧めるのは、昭和村。全体的にトタンが掛かった茅葺き屋根の集落なのですが、規模も大きく、周囲の田んぼがとにかく美しい。周囲の山々も植林をしていない自然の山。秋は特に綺麗だと思います。」

小林「「昭和村」は行ったことがありますが、冬だけ。他の季節は撮れていませんし、山ばかりを見て集落を見ていませんでした(笑)。」

アレックス「小林さんのモノクロの写真を見て、すぐに惹かれました。ふたりとも同じところを見ているのですね。強烈な印象でした。この周辺の山々は木が違う。幹が細くてデリケートなのです。杉の下手な植林から免れたのか、理由はわからないのですが、あのエリアはブナやナラなどの原生林が残っている。非常に珍しいですね。日本各地でも、九州・四国・京都の周辺もだめ。あったとしてもパッチワーク状態。杉が増えると暗いし、山は死んでしまう。最近の日本の山は本当につまらなくなった。景色に四季がない、三季です。明るい自然な山々を見て、とても嬉しかったし安らぎを感じました。私が特に惹かれた理由もそこですね。」

小林「地元の長野ではもうこういう風景は撮れないですね。杉が増えてしまって。南会津の冬の山々こそ、モノクロで撮りたくなる。来年もう一度、個人的に撮りに行こうと思っています。」

小林氏の夏の写真紀行で祭りを取材。地元の人のみで行う郷土芸能「大桃夢舞台」の演者を撮影した一枚。

小林氏がアレックス氏にお勧めしたのが「大桃の舞台」。苔むして草が生えた茅葺き屋根を鮮明に切り取る。

岩盤に沿って建てられた「左下観音」も小林氏がぜひ訪れるべき、と勧める場所のひとつ。

南会津に点在する茅葺きの集落を探訪したアレックス氏。今後も「通い続けたい」と抱負を語った。

小林氏がモノクロで撮影した冬の南会津の山。「手付かずの自然が残っていて、南会津の山は明るい。感動しました」とアレックス氏。

「白と黒が反転したかのような冬景色に惹かれます」とは、小林氏。

ニュージェネレーションホッピング南会津旅の印象をさらに深めた、新しい出会い。人と人との縁が、再訪につながる。

今回の旅では、風景や催事、店や観光地など、様々な場所に訪れましたが、その数だけ人との出会いも多くありました。出会いの数だけ物語やエピソードが生まれ、その時間は、彼らの南会津の旅をより一層豊かにしてくれました。中でも、特に印象に残った人の話を両者から伺います。

アレックス「手打ち蕎麦を提供する『こめや』の主人であり、茅葺き職人でもある吉村徳男さん。吉村さんは公務員を辞めて、茅葺き職人に転身された方。茅葺きの技術と伝統を守るために廃校を再利用して伝習施設を造り、若い世代に手ほどきしています。古材を集めている只浦豊次さんも再会したい方のひとり。全国的にも地域住民は無関心なものです。各地域には吉村さんや只浦さんのように伝統文化を再認識させてくれる、中心的リーダーがいる。彼らが中心となって地域に貢献してくれるからこそ、街に活気がもたらされるのです。」
▶詳しくは、心に語りかける、民話の風情も色濃い茅葺き民家を訪ね歩く。

小林「飲み屋の方々は印象に残っています。僕は旅先でふらりとお店に入って、地元の人から古い風習など話しを聞くのが好きなのです。『ビアフリッジ』の関根健裕さん、『カフェ ジーママ』の五十嵐大輔さんとも出会いがありました。戊辰戦争の話、新しい靴をおろした時のならわしの話、大火の話、剣道の試合の話など。お酒を飲みながら、生の声が聞ける。普段は酔うと次の日にどんな話をしたか忘れたりするのですが、記憶に残っています。『会津酒造』9代目の弟に当たる渡部裕高さんは若いながら「ご先祖様のおかげです」とごく普通に、それも度々口にするのが印象的でした。」
▶詳しくは、小林紀晴 冬の写真紀行「反転の雪」。

「こめや」のご主人であり、茅葺きの担い手として活躍する吉村氏と。集落にある茅葺き伝承施設には、遠方から実習に訪れる人も少なくない。

「大内宿」にある蕎麦処『三澤屋』を経営する只浦氏(写真中央)。古材を集め、活かす、アイデアマンだ。

南会津をクラフトビールで盛り上げるべく、自宅のガレージを改造し、店と醸造所を造ったという『ビアフリッジ』の関根氏。

会津田島の町でカフェを営む『カフェジーママ』の五十嵐氏。1000人以上の集客を誇る南会津ローカルの野外フェス「大宴会in南会津」を立ち上げた発起人でもある。

『会津酒造』にて。入口近くに広がるスペースが、小林氏のお気に入り。歴史と伝統を感じさせる佇まい。

ニュージェネレーションホッピング南会津春夏秋冬、2度3度と足を運びたくなる「南会津」の吸引力とは。

何度も足を運んだ南会津。回数を重ねるごとに愛情も増し、街の歴史や文化に触れることによって、今まで知らなかった街の姿と出合っていきます。もし再び南会津に訪れるとしたら、お互いどこへ向かうのだろうか。

アレックス「私は秋に南会津を訪れてみたいですね。なぜなら、山が美しいから。京都のお寺に行けば庭に秋を感じるかもしれませんが、今の日本には秋がない。どこに行ってもつまらない。だから南会津で秋を満喫したいですね。」

小林「僕はやはり「祭り」。「高野三匹獅子」が気になっています。関東の場合、関東にも一人立ちの獅子舞は多いのですが、会津も一人立ち。何かしらの関係があるのか、ないのか....とても気になります。南会津はなかなか知られていない場所。だからこそ、自然や古くからの集落が残ったとも言えます。色々な人との出会いの中で、変わらないことの良さ、変えないことに誇りを持っていると気づかされました。去年と今年が何も変わらないことに価値がある。そうした考えは本当に素晴らしく、これからも通い続けたいと思いました。」

アレックス「東京近郊にありながら開発されず、手付かずの自然があり、伝統文化が継承された美しい田舎の町がある。これは特別なことだと感じています。都心からラグジュアリーな電車で快適にアクセスできるのに、行ったことがある人は少ないなんて。一大皮肉です(笑)。南会津はまだまだ可能性があり、知られていない魅力があります。今後も色々な季節に、様々な場所へ何度でも足を運びたいと思います。」


南会津の旅を通して記憶の軌跡と価値観が交わった、ふたりの作家。『ONESTORY』では今後も南会津に目線を向けながら、知られざる魅力を引き続きご紹介していきます。ご期待ください。

今回の対談で「南会津」への思いを新たにしたふたりの作家。今後も旅はまだまだ続きそうだ。

1968年長野県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。新聞社にカメラマンとして入社。1991年独立。アジアを多く旅し作品を制作。2000~2002年渡米(N.Y.)。写真制作のほか、ノンフィクション・小説執筆など活動は多岐に渡る。東京工芸大学芸術学部写真学科教授、ニッコールクラブ顧問。著書に「ASIAN JAPANESE」「DAYS ASIA」「days new york」「旅をすること」「メモワール」「kemonomichi」「ニッポンの奇祭」「見知らぬ記憶」。

1952 年生まれ。イエール大学で日本学を専攻。東洋文化研究家、作家。現在は京都府亀岡市の矢田天満宮境内に移築された400 年前の尼寺を改修して住居とし、そこを拠点に国内を回り、昔の美しさが残る景観を観光に役立てるためのプロデュースを行っている。著書に『美しき日本の残像』(新潮社)、『犬と鬼』(講談社)など。