津軽ボンマルシェ・特別対談「津軽ボンマルシェ」に登場した4人が津軽の「繋がり」について特別対談。
これまで多くの津軽人を紹介してきた「津軽ボンマルシェ」。取材を続けて気付いたのは、あちこちで何度も耳にする名前があったり、思いもよらない人と人が旧知の仲だったりと、繋がりが非常に強い地域だということです。そこで、10記事を公開した節目にお届けしたいのが今回の対談企画。これまで「津軽ボンマルシェ」にご登場いただいた職業も年齢もバラバラな4人「弘前シードル工房kimori」高橋哲史氏、「蟻塚学建築設計事務所」蟻塚学氏、「KOMO」岡詩子氏、岡氏と「素のままproduct」を共同し、完全予約制・紹介制サロン「澱と葉」も運営する川口潤也氏に、地元・津軽と、津軽人の繋がりについて語ってもらいました。“繋がり”がテーマということで、会場として借りたのは弘前市内のカフェ「集会所indriya」。イベントや教室を開催し、地域の人々を繋げるコミュニティスポットです。居心地のいい空間の中、笑いの絶えないひとときとなりました。
▶詳しくは、TSUGARU Le Bon Marché/100年先の地域を創造するために。多彩で奥深い「つながる津軽」発掘プロジェクト!
津軽ボンマルシェ・特別対談津軽人の気質は、“どんと構えた博打打ち”?
高橋:蟻塚さんと最初に会ったのは8年前くらい。蟻塚さんの手掛けた「王余魚沢(かれいざわ)倶楽部」の建物がとてもよくて、知り合いを通じて紹介してもらったんです。「王余魚沢倶楽部」はひとりの建築家が手掛けるというより、地域の人を巻き込んで一緒にやっているイメージで。僕もまだ構想中だった「kimori」のシードル工房を人が集まる場所にしたかったから、彼に設計を依頼したのが始まり。
蟻塚:「kimori」が建ってからも、それで終わりの関係にはならないなという予感はありましたよね。誘い合って飲みに行くことはないけれど、誰かに呼ばれて行った場所に高橋さんがいるのはしょっちゅう。最近はSNSで面白そうなことしている人がいるなと思っていたら、その後自然とどこかで会うということも多いです。
高橋:逆に詩子と会ったのは、“変態飲み会”がコンセプトの会が最初(笑)。津軽の変態をたくさん呼んで飲もうという。
岡:変態は褒め言葉ですもんね。都会は何もしなくてもたくさんの人と関わりを持てるけど、青森では人が少ない分、変態同士気が合う! と思える人がいると、もうそこでがっちりと繋がって面白いことが始まる感じがあります。
川口:僕は津軽エリアの青森市で生まれて、南部エリアの八戸で育ったのですが、2つのエリアの違いをバリバリに感じるんですよ。津軽は割と明るくて、居心地がいいです。南部は日中静かに仕事をして、夜に飲み屋で弾ける人が多いイメージ。歴史も天候も違うし、まったく違う国!
高橋:津軽の農家はりんご専業が多いのですが、南部の農家は色々作っているところがほとんど。こっちより天候が厳しいからリスク分散が必要なんです。逆にりんご一本だと、台風が来れば一発でダメになっちゃう。津軽は博徒(笑)。博打打ちが多いんですよ。“じょっぱり”(津軽弁で「豪快」の意味)ですよね。
岡:それでこそ津軽! みたいなのはあるかも。あとうちの実家は、いまだに鍵をかけないんですよ。で、家に帰ると誰が持ってきたのか分からない野菜が置いてある。野菜の形から、「これは〇〇さんの畑のだ」みたいな(笑)。
高橋:あるねー(笑)。
岡:私は“お付き合い貯金”って呼んでいるんですけど、代々培ってきた近所同士の繋がりがあるから、最悪何かあっても生きていける。だから思い切りがいいのかなとも感じます。その貯金は、自分も受け継いでいきたい。
蟻塚:自分は弘前市の街中で育ったシティボーイなので、うちには鍵も付いているし野菜も届かない(笑)。津軽の中でも地域差はあります! でもやっぱり、じょっぱり気質は感じますね。
津軽ボンマルシェ・特別対談元城下町・弘前を抱える津軽。文化度の高さに自覚あり。
川口:気質もそうですが、文化も全然違うのが津軽と南部。八戸は喫茶店より居酒屋の数が断然多いですが、津軽に来ると喫茶店がたくさんあって、みんなコーヒーが大好き。本をたくさん読むし、アートやデザインの感度も高い。
蟻塚:文化度の高さみたいなものは、やっぱり意識しますよね。僕に設計の仕事を頼んでくれる地元のお客さんたちは、暮らしの質が高い方が多いなと実感しています。街を歩けば文化的な史跡もたくさんあるし。ただ建築の意匠性への理解など、まだまだな部分もあって。もっと掘り起こしていきたいとは思います。
高橋:自分としては、津軽はイノベーティブなことを受け入れる土壌があると思いますよ。元々弘前が城下町というのもありますが、ちょっと特殊な話をすると……ここでは死が身近なんですよね。少し前まで、亡くなった親戚をイタコのような女性に呼び下ろしてもらうことも普通でした。一歩先は死の世界だから、死ぬ前に後悔しないよう、やれることはやれと考えるというか。でも一方で、目立ちたくないという気質もある。
岡:分かる! 私の場合、周りが表に出す機会をくれてこれまでやってきたけど、自分では目立たないように生きているつもりなんです(笑)。もちろん商品を売るのに必要な発信はしますが、「見て見て!やってるよ!」というスタンスとは違う。これ、津軽のほかのクリエイターさんを見ていても思うのですが、表に出てくる人ほど、ベースの部分はその人の中で完結している。
川口:目立つかどうかに頓着していないよね。でも「あの人おもしろいよ」って、ほかの人が発信するという。
高橋:やりたいことはやるけど、目立ちたくない津軽人(笑)。詩子が話したみたいに隣近所との心理的距離が近いから、変なことできないというのもあるのかも。
津軽ボンマルシェ・特別対談違うアプローチで、同じ山頂を目指す。だからみんなどこかで交わる。
高橋:さっき津軽と南部の違いが出ましたが、津軽の中でも地域の捉え方に結構差があると思います。
岡:そうですよね。私は高校が弘前市だったし親戚もいるので、鶴田も弘前も同じエリアという感覚だけど、鯵ヶ沢や深浦など日本海側のエリアは遠いイメージ。鶴田から車で15分くらいで行けるのに(笑)。
高橋:狭い範囲の中に色んな気候風土があるから、実際の距離と心理的な距離が違う。県外の人が見る津軽の地図の範囲と、僕らが暮らしながら感じ取っている範囲は、全然違うと思います。後は、みんな地元から見る岩木山の形が一番好きだから、津軽人同士、市町村単位で喧嘩になる(笑)。つい悪気はないのに「裏側から見たら」とかいっちゃって(笑)。ただね、最近は自分の中で、エリアの感覚が変わってきたんですよ。「kimori」の10年計画としては、弘前と並行してニュージーランドにも畑を持ちたい。
一同:おお!海外!
高橋:津軽はそもそもりんご栽培に向かない気候でやってきたので、その分農家の技術力がすごいんです。この技術力があれば、世界のどこでも美味しいりんごを作れるし、北半球と南半球に畑を持てば、1年を通じて出荷できる。鮨と同じですよ。昔は海外で鮨といえばカリフォルニアロールだったけれど、今はちゃんとした江戸前鮨が主流になってきた。りんごはこんなに美味しいものだと世界が分かれば、津軽のりんごがスタンダートになる。日本と海外と行き来しながら暮らすのも楽しそうですし(笑)。
蟻塚:逆に自分は弘前から動かないかな。もちろんほかのエリアからの仕事も受けますが、建築業界っていまだに東京ベースの考え方が根強くて、それが悔しいんですよ。建築専門誌でさえ、雪国ならではの建築の在り方を共感してくれるところは少ないです。こっちに帰ってから、割と早い段階でそれに気付いてあきらめていたんですけど……。でもこれからは、津軽に根差した建築をちゃんと発信していくべきだなと。たとえば竣工写真って、普通は青空に木々の緑が映えるような、いい気候の時期に撮るんです。でも津軽なら、あえて真冬の一番厳しいときに撮るのがいいじゃん、て。
岡:みなさん素晴らしい。自分はずっとそんな立派な目標は立てずに生きてきて……これからも多分変わらないのですが、新しい働き方の提案はできるかなと思っています。私の職業は青森県内だとすごく特殊。作っているのは工芸でも趣味の手作り品でもなくて、本業が分からない(笑)。でも仕事はひとつじゃなくていいと思うんです。私たちの世代は生まれたときから不景気だから、上からずっと「大変だね」といわれてきて。「これって大変なんだ」と思い込んでいる子も多いと思うんですけど、安定したものがなくても生きていけるよ、私はこうやって鶴田で8年やってきたよと伝えたい。川口さんと一緒に「素のままproduct」を始めたのも、飲食の人の働き方を探りたいと思ったから。
高橋:飲食は本当に大変だよね。休めばロスが出るし、利益率も低いし。
岡:そうそう。料理をまったくしないので、もう作ってくれる人に感謝しかない!
川口:自分は「素のままproduct」でも、会員制で自然派ワインやお茶と料理を出している「澱と葉」のイベントでも、料理人とは名乗っていなくて。職人的な料理人って毎日作り続けないと感覚が鈍るといいますけど、そこまでやれる自信もないし、僕はそこからリタイアした人間。でも、だからこそやれることを考えました。日々インプットしておけば、即興的にアウトプットできる場さえあれば活動できる。僕も岡さんも社会不適合者なのですが(笑)、自分の命を守りながら人の役に立つことを考えて、実行していきたいと思います。
岡:東京だとできないことがやれるのも鶴田だし、実験しやすい地に生まれてラッキーでした。鶴田で実現できるなら、日本のどこでも実現可能なはず。
高橋:こうやって話を聞いていると、やっていることはバラバラでアプローチも全然違うんだけど、共感するしずっと聞いていられる。一緒に仕事をする人でも、ビジネスだけの関係ならこんなに盛り上がらないじゃないですか。フィールドは違っても同志なんだなと感じます。形は違うけど、見ているものは同じ。
一同:あ! これって……岩木山みたいじゃない!?
高橋:みんな違うルートで登って、頂上で会う感じですね(笑)。
場所協力:集会所indriya
住所:青森県弘前市紙漉町4-6 MAP
電話:0172-34-6858