統括編集長が選ぶ! 歴史と文化が宿る日本ならではの桜、絶景5選。[2019年春、桜の旅。/歴史と桜]

『三多気の桜』は標高の低い所から高い所に向かって順に開花していくため、4月上旬から中旬まで比較的長く楽しめる。

歴史と桜里山の風景や伝統文化に寄り添う桜とともに、日本らしい花見を。

極東の小さな島国ゆえ、大陸諸国とは異なる独自の文化が開花した日本。太古より人々の目を楽しませてきた自然、四季とともにこの国が歩んだ歴史は、全国各地で史跡、あるいは名勝となって、美しい景色を今に留めています。過去から現在、そして未来へと受け継がれる絶景の条件とは、何でしょうか。歴史的な価値は言わずもがな、目に焼きつくような華やかさ、日本的な侘び寂び、あるいは圧倒的な迫力……それだけではないような気がします。放っておけば朽ちていってしまうものを、残したい、残すべきだと強く願う人の思いがそこにはあるのです。桜の季節もいよいよ本番。日々、取材や撮影で全国を旅する『ONESTORY』の統括編集長、倉持裕一が、数多ある桜の名所から、これだ!という絶景を選びました。日本にいるなら一度は見ておきたい、歴史と文化、美意識が宿る桜をお楽しみください。

奈良を起点としたお伊勢参りの最短ルートとなる『伊勢本街道』が通る三重県美杉町三多気(みたけ)地区。霊場『真福院(しんぷくいん)』へと向かう参道沿いに植樹された約500本の「ヤマザクラ」や「シダレザクラ」が開花を迎えるころ、日本古来の里山の風景に、鮮やかな桜の花が彩りを添えます。『三多気の桜』と呼ばれ国の名勝にも指定されているこの風景を特別なものにしているのは、手入れの行き届いた棚田に、茅葺き屋根の家。多くの人にとってなじみがないはずの景色なのに、不思議と懐かしさを感じます。私たちが無意識に求める心の故郷が、そこにあるからなのかもしれません。

もうひとつ、最近目にすることが少なくなった季節の風物詩といえば、大きな鯉のぼりではないでしょうか。愛知県岩倉市で約400年前から続く伝統工芸の鯉のぼり作り。その工程のひとつである糊を川の水で落とす「のんぼり洗い」を、桜とともに見ることができるのが、愛知県の『五条川』です。川沿いの堤防道路の両岸に植えられた約1,400本もの「ソメイヨシノ」の開花と時を同じくして、色とりどりの鯉のぼりが川面を鮮やかに彩ります。水面にたゆたう鯉のぼりと花筏の共演は美しくノスタルジック。日本の美意識が集約された絶景です。

▶詳細は、ヤマザクラと棚田の共演がもたらす、温かさに満ちた懐かしい日本の姿。
▶詳細は、清水の川面にゆらゆらと浮かぶ、桜の花びらと色鮮やかな鯉のぼり。

『五条川』周辺で3月下旬から4月初旬に開催される「岩倉桜まつり」では、「のんぼり洗い」の実演や山車(だし)の巡行など、春の訪れを盛大に祝うイベントも行われる。

歴史と桜史跡と桜の華麗なる共演。歴史が宿る絶景を満開の桜が彩る。

鎌倉時代から江戸時代まで、約700年続いた武士の時代。盛者必衰の厳しい時を生きた武将たちが残した城は、かつては2万5,000以上あったとされていますが、現在、天守が現存する城は12を数えるのみといわれています。中でも圧倒的な大城郭を有し、白漆喰(しろしっくい)で塗られた城壁から「白鷺城」とも呼ばれる『姫路城』は、日本の城の歴史的価値、そして美しさを世界に知らしめる存在です。城の周辺、約55.2haを整備し造られた『姫路公園』には、約1,000本の桜が植えられ、4月上旬に見頃を迎えます。様々な桜の風景が楽しめるのは、広大な面積を有する都市公園ならでは。白亜の城を背景に咲く満開の桜を愛でながら、日本が誇る歴史と自然の華麗なる共演を楽しみたいものです。

城と同じく、歴史的価値を内包する史跡といえば古墳です。ミステリアスな部分も多く、歴史のロマンを感じさせる古墳はとりわけ九州に多く存在しているといわれ、宮崎県西都市に位置する『西都原古墳群(さいとばるこふんぐん)』は、日本で初めて本格的な学術調査が行われた地として知られます。総面積約68.5haの中に311基の古墳が点在し、その周辺に整備された『御陵前広場』は、のどかでありながら、そこはかとなくスピリチュアルな雰囲気が漂います。春には約2,000本の「ソメイヨシノ」に加え、約30万本の菜の花も開花し、祭りの開催も相まって賑やかな雰囲気に。広大な春景色、その規格外のスケールは古墳という史跡あってのもの。いにしえの営みに感謝しつつ、自然が織りなす風景に身を委ねてみてください。

歴史という視点から桜を見る時、環境ではなく桜そのものに宿る歴史も忘れてはならないでしょう。「国内最古」のひとつとされる『山高神代桜(やまたかじんだいざくら)』は、全身で歴史を体現し続けている貴重な存在です。山梨県北杜市に位置する『実相寺』の境内にあり、品種は日本の古来種「エドヒガン」、推定樹齢はなんと1800年から2000年! その始まりは神話の時代に遡り、武将・日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の折にお手植えになったという伝説が残されているというのだから驚きです。春には毎年欠かさず花をつけ、四季を巡り、いくつもの時代を見送った、その事実に思いを馳せながら見る誇り高くたくましい姿は、感動必至です。(文中には諸説ある中の一説もございます。)

▶詳細は、日本古来の美意識を見事に体現した、白亜の城と桜の共演。
▶詳細は、咲き誇る桜と菜の花に青い空。豊かな色彩のコントラストで魅了する。
▶詳細は、神話の時代より時を重ね、今年も花開く。生命力と存在感に満ちた国内最古の桜。

『姫路公園』の『三の丸広場』は絶好のビューポイント。「平成の大修理」を経て生まれ変わった『姫路城』と桜の共演を楽しみたい。

『西都原古墳群』近隣では3月下旬から4月上旬に「西都花まつり」を開催。幻想的な桜のライトアップも。

樹齢、根回りともに日本最大級。悠久の時間を生きてもなお生命力に溢れる姿は尊く、思わず手を合わせる人も。