
小麦粉は使わず、杉のパウダーとアーモンドプードルで仕立てた「Eatree Cake~木から生まれたケーキ~」。
ライフルテーブル/アースキュイジーヌプロジェクトの起点は、奥多摩の森を舞台にした「木を食べる」野外レストラン。
地球のため、未来のため、持続可能な食を考える――。それは単なるお題目ではなく、現代に生きる私たちすべての、危急の問題となっています。乱獲により年々漁獲高を減らす水産資源、高齢化が顕著な農林業、環境破壊やフードロス。そんな数々の問題へ切り込む第一歩として2018年10月、奥多摩の森を舞台に、LIFULL Table Presents「地球料理‐Earth Cuisine‐」プロジェクト第一弾「Eatree Plates」と銘打った野外レストランイベントが開催されました。
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プロジェクトを企画したのは、「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージに掲げる住生活情報サービス運営企業(株)LIFULL。地球上でまだ光が当たっていない素材にフォーカスし、未来を見据えた食材の探求を目的としたこのプロジェクト。今回テーマに選ばれたのは、日本全国の山林で問題となっている間伐材でした。
奥多摩の森の中という環境、料理を担当した田村浩二氏のクリエイション、そして「木を食べる」という大胆なアプローチにより、イベントは参加者の心を動かし、社会への問題提起を果たし、喝采とともに幕を下ろしました。しかしプロジェクトはそれで終わりではありません。より多くの人に「Eatree Plates」の世界観を伝え、より多くの人の考えるきっかけをつくる。そんな思いのもと、間伐材である杉を使った前代未聞のパウンドケーキ「Eatree Cake~木から生まれたケーキ~」を世に送り出したのです。
ケーキづくりは「地球料理-Earth Cuisine-」を通して「自身の視野も意識も変わりました」と語る田村浩二氏が担当。そこでそんな田村氏と、同プロジェクトのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めるLIFULL川嵜鋼平氏の話を軸に、この「木のケーキ」の意義と魅力を考えてみましょう。

「LIFULL Table Earth Cuisine」プロジェクトの第一弾は間伐材を食べる「Eatree Plates」。

森の中で木のフルコースを食べる稀有なる体験。会場を照らす照明も間伐材でつくられた。

一品目は木のパウダーを使った「樹皮のスナック」。木の幹を器にしたプレゼンテーションで。

屋外キッチンで腕を振るう田村氏。その飛び抜けた発想と技術はゲストを唸らせた。

杉のパウダーをベースにポルチーニ茸や昆布出汁を合わせた「木と土のコンソメ」。

3品目の「牡蠣のポシェ」。牡蠣にニョッキと杉パウダーを合わせ、海老をベースにしたソースで味わう。

ローストした鳩に、松茸、木のパウダーで作ったシート状のチュールをあしらった「鳩のロースト 薪仕立て」。

デザートには杉と檜、ラベンダーの香りをつけた「大地のブランマンジェ」が登場した。
ライフルテーブル/アースキュイジーヌプロジェクトの仕掛け人が、木のケーキに込めたメッセージ。
日本の国土の約3分の2は森。そしてその森の約40%は人工林。この人工林は間伐をしないと、環境が悪化してしまう。しかし間伐した木材の行き場はない。ならば新しい使い道として食べてみてはどうか。それが、「Eatree Plates」の出発点でした。
「手付かずの問題を、可能性に変える。それが弊社のコーポレートメッセージ達成への方策でした。そしてその解決を、誰しもに身近で、楽しい“食”に求めました」と、LIFULLの川嵜氏。「地球料理-Earth Cuisine-」プロジェクトのチーフ・クリエイティブ・オフィサーとして、間伐材の問題に、食べるという方向から挑みました。
「食とは、味だけではなく五感で感じるもの。本物の森林で木を口に入れるという、いわば内外から木を感じる森林浴は、強い印象を残せると思いました」川嵜氏が目指したのは、“木を食べる”というインパクトを起点に、やがて環境問題へ目を向けてもらうこと。つまりただおいしい食事を楽しむのではなく、「Eatree Plates」の世界観を共有することを目標にしていたのです。そしてその世界観をさらに広げるため、次なる一手としてケーキの開発に着手したのです。
「もちろん“木を食べる”ということに、多少の抵抗はあると思います。しかし『杉ってどんな味なんだろう?』という疑問を持たれたら、とりあえずこのケーキをお試し頂ければと思います。田村シェフは小さなパウンドケーキのなかに、ギュッと森を閉じ込めてくださいました。その感覚を初体験してください」田村氏と意見を交換しながら完成した「Eatree Cake」をそう評する川嵜氏。
さらに川嵜氏はこのケーキの意義を「このEatree Cakeには、1本あたり約20%木が使われています。そして木の約70%は可食部分。つまり“木は食べられる”という事実の周知と同時に、間伐材消費という実際のソリューションにもなっているわけです」と語りました。世にも珍しい、木のケーキ。その存在を知り、実際に食べることは、そのまま私たちの地球と未来へと繋がるのです。

サステナブル(持続可能)な食の探求を目指すチーフ・クリエイティブ・オフィサーの川嵜氏。

「木のケーキ」はインパクトだけではなく、間伐材問題の具体的な解決策としても期待される。

「Eatree Cake」は期間限定で麹町「LIFULLテーブル」でも販売され好評を博した。現在はECサイトでのみ販売中。(店頭販売は終了)
ライフルテーブル/アースキュイジーヌおいしさか、メッセージか。名シェフが苦心の末に出した結論とは。
「最初は困惑しました。木を使った料理は、自分でもはじめての挑戦でしたから」奥多摩で開催された「Eatree Plates」をそう振り返る田村氏。しかし見事に木のフルコースをつくりあげた経験は、自身の意識にも大きな変化を生んだといいます。「林業の問題を知ると同時に、大きな気づきがありました。それは環境や道徳というだけではなく、何よりもまず“木は食べられる”というシンプルな事実です」。
そんな気づきを胸に、次なるハードルであるケーキづくりに挑んだ田村氏。もちろんそれは簡単な道ではありませんでした。「料理人として、おいしさの追求はもちろん大切。しかし今回もっとも伝えたかったのは、“木は食べられる”という事実。食材としての“木”のストーリーを伝え、まず知ってもらうことが大きな一歩になると考えました」そう語る田村氏。そして伝えることを第一に考えた結果、何よりもまずわかりやすい形であることを念頭に開発に着手したのだといいます。
田村氏の頭にあった着地点は、最初のひと口で“木を食べている”と伝わり、かつ香りの余韻も“木”で終わること。そこで通常はコーンスターチを使う部分を、杉からつくるウッドパウダーに置き換えました。その含有量は実に20%。しかし杉のパウダーは、舌に残り、ともするとザラつきを感じさせてしまう。ならば全体をしっとりとした食感に仕上げることで、ザラつき自体を楽しませよう。また、杉自体は香りは良いものの、ケーキにしては重さがあり過ぎる。柑橘の香りで軽やかさを演出してはどうか。杉の苦味をもっとも引き立てる甘さのバランスはどこか……。
田村氏の試行錯誤は続きました。元ミシュラン星付き店のシェフである田村氏にとって、単に“おいしいケーキ”をつくるのは難しいことではないのかもしれません。しかし、田村氏の頭にあるのは、おいしさ以上に大切な“伝える”ということ。「たとえ味に賛否両論が出ようとも、ただ“おいしいものを食べた”ではなく、“木を食べた”という印象を刻みたかったんです」。

持続可能な水産資源を考える「Chefs for the Blue」への参画など、積極的に食と未来を考える田村氏。

味とメッセージ性の両立を、見事なバランスで実現したパウンドケーキ。
ライフルテーブル/アースキュイジーヌこれが木の味! 前代未聞の「木のケーキ」、ぜひお試しを。
シェフの思いと、LIFULLのメッセージを乗せて完成した「Eatree Cake~木から生まれたケーキ~」。ひと口食べると、力強い木の香りが口中に広がります。しかしその味わいは、しっとり水分を含んだ上質なケーキ。その食感とほのかな苦味、複雑な香りを楽しみながら嚥下すると、口中に木ならではの名残とともに、また森の香りが広がります。
目を閉じて味わえば、大げさではなく本当に森林浴の風景が浮かぶような力強い木の香り。ケーキとしてのおいしさと、“木を食べている”という事実が、見事なバランスで成り立った一品に仕上がっているのです。それはおそらく誰しもが経験したことのない、未知なる味。そして長く記憶に刻まれるような、深みある味。それは背景にあるストーリーとメッセージを知ることで、さらに印象深くなることでしょう。
この「Eatree Cake~木から生まれたケーキ~」は現在、ECサイトにて限定販売中。地球を思い、未来を考える第一歩として、そしてシンプルに「木ってこんな味」と知る経験として、ぜひお試しください。そして味わったケーキの感想と間伐材の問題を、ぜひ身近な方と話し合ってみてください。

「食べることで社会と繋がる、食べることで環境を考える。そんなケーキになりました」と語る田村氏。

「Eatree Cake~木から生まれたケーキ~」はLIFULL TableのECサイトで限定販売中。
住所:東京都千代田区麹町1-4-4 1F MAP
電話:03-6774-1700
LIFULL Table HP:https://table.lifull.com/
ケーキの予約はこちら:https://table.lifull.com/eatreecake/?nx_id=table_top_eatreecake
開店わずか2ヶ月でミシュラン1つ星を獲得したフレンチレストラン「Tirpse」元シェフ。 世界のベストレストラン50のDiscovery seriesアジア部門選出、 ゴーエミヨジャポン2018期待の若手シェフ賞受賞。 持続可能な魚食を広める活動「Chefs for the blue(シェフズ・フォー・ザ・ブルー)」の 参画メンバーであり、複数の事業を手掛ける事業家、経営者としても活躍。 .science株式会社 取締役、Tanpan.CO事業開発部 執行役員。