
















永遠の藍染。
全国各地にけやき並木はあるけれど、群馬県前橋駅前の北口から県庁方面にまっすぐに伸びるけやき並木は、幹の太さ、高さも群を抜いています。1950年に戦災復興事業として植樹されたもので、枝ぶりが伸び伸びとしており、あまりに立派で、その美しさには驚きました。樹齢も長いし、これだけ幹が太く、高い木になるのにはどれだけの歳月が必要か。しかしながら、最近は落ち葉の処理問題から、枝落としをして殺風景にしてしまう傾向にある。せっかく植樹して木を育てても、緑のある景色はどんどん失われているのです。日本は「木」が嫌いな国と思わざるを得ません。
世界を見渡せば、代表的な都市には素晴らしい街路樹があります。ロンドンやバルセロナ、上海にも、素晴らしい並木道がある。枝葉を伸ばした木々の木陰は市民の憩いの場。高く伸び伸びとした木々とビル群に溶け込んでいるというのは、喜ばしい景色です。木が汚い存在という発想では、救われません。前橋市役所の方から聞いた話では、このけやき並木も切ってしまえというクレームが出ているそうです。そうした市民の声が上がっても、決して切ったりせず、負けないで愛し続けて欲しい。大事なことを大事にする。そうした姿勢を貫いて欲しいと思います。このけやき並木を見るためだけに、もう一度、前橋に行きたい。行って励ましたい。このシンボルロードを大事にして欲しい。そう切に思える景色なのです。
住所:群馬県 JR前橋駅北口周辺
1952 年生まれ。東洋文化研究家。イエール大学で日本学を専攻。東洋文化研究家、作家。現在は京都府亀岡市の矢田天満宮境内に移築された400 年前の尼寺を改修して住居とし、そこを拠点に国内を回り、昔の美しさが残る景観を観光に役立てるためのプロデュースを行っている。著書に『美しき日本の残像』(新潮社)、『犬と鬼』(講談社)など。