リボーンアート フェスティバル失われてはじめて、「あった」ことに気づいた。
2011年の東日本大震災で、私たちは不可抗力の自然の猛威により多くのものを失いました。命、建物、文化、歴史。しかしその災害は「喪失」だけを私たちに与えたのではありません。逆説的ですが、震災で全てが失われたことをきっかけに「あったものは何か」を認識するようになったのです。
被害を受けた東北地域には、人の手の加えられていない自然が多く残され、人の営み、地域の伝統芸能、豊かな食と暮らしがありました。同時に、私たちにはかつて「生きる術」があったことに気づきました。思想家・人類学者の中沢新一氏によると、生きる術とは、食や住や経済などの「生活の技」、アートや音楽やデザインの「美の技」、地域の伝統と生活の「叡智の技」、これらを発見し、地域が繁栄していけるよう子孫に受け継いでいくための道筋であると言えます。
「Reborn-Art Festival」とはすなわち、「Art=人の生きる術」を「Re・born=蘇らせる」総合芸術祭。東北だけではなく、全国各地で今、私たちが失いつつある「生きる術」を、被災地である石巻でもう一度取り戻し、未来へ繋げよう—。そんな想いから2017年にスタートしたイベントです。
リボーンアート フェスティバル東北の地で、人々がアートと音楽と食で繋がる。
立ち上げたのは、音楽プロデューサーの小林武史氏と、Mr.Childrenの櫻井和寿氏、坂本龍一氏の3名が拠出した資金をもとに設立された環境保護などを行う非営利団体「ap bank」。実行委員長は小林氏が務めます。中心となるのは、「アート」「音楽」「食」を軸とした様々なプロジェクトで、石巻市の牡鹿半島を中心に、国内外のアーティストが地域や地元の人々と触れ合いながら作品を制作・展示し、音楽フェスを開催するほか、各地から集まった有名シェフたちが地元の食材を活かした料理を提供。初回は名和晃平、ルドルフ・シュタイナー、宮島達男らのほか、音楽でもエレファントカシマシ、Chara、スガ シカオら著名アーティストが参加しました。
リボーンアート フェスティバル今回は新たに「マルチキュレーター制」を取り入れ、より多彩に。
プレイベントとなる昨年の「TRANSIT! Reborn-Art 2018」を経て今年、盛大に2回目が開催されます。テーマは「いのちのてざわり」。小林氏は「現代社会の状況は、人が生きることの本質からどんどん遠ざかりつつあるように思える。石巻でしか生まれ得ない『いのち』という我々の根源に深く触れることのできる作品を、そこで新たなポジティブをみつける未来に向けたダイナミズムを、ぜひ体感していただきたい」と語っています。
今回のポイントは、新たにマルチキュレーター制を取り入れ、6つのエリアで7組のキュレーターがそれぞれのテーマをもとに作家をセレクトし、作品を展開すること。例えば桃浦エリアでは小林氏がキュレーターとなり、草間彌生氏、増田セバスチャン氏、パルコキノシタ氏、村田朋泰氏の作品で展示を構成。「リビングスペース」をテーマに、震災によって居住空間が変貌したものの、強烈な過去の記憶も残る牡鹿半島・桃浦で「現在進行形でのリビングスペース=生きる場とは何か」を探るアートプロジェクトです。
リボーンアート フェスティバル今年も、牡鹿半島を和多利夫妻や草間彌生らが彩る。
また前回のメインキュレーターだったワタリウム美術館の和多利恵津子・浩一氏が牡鹿半島の先にある網地島にアートによる「楽園」を作るなど、初年度に参加した有名アーティストたちが牡鹿半島の各エリアをそれぞれの思いで彩ります。普段はキュレーションをしない作家もどのような展示を繰り広げるか、国内外のアート業界から注目を集めています。
リボーンアート フェスティバルいにしえと現代を融合させたライブや舞台作品も。
もちろん音楽イベントも前回同様のボリュームを予定しています。8月3日、4日に行われるオープニングイベントでは、様々な時代の名曲を映像とともに視覚化させ表現するライブを開催。また、7月13日と9月22・23日には宮沢賢治の作品をベースに中沢新一氏が脚本を書き下ろし、小林氏がオペラに仕上げた「post rock opera『四次元の賢治』」を公演。キャストには俳優の満島真之介氏、コムアイ(水曜日のカンパネラ)、Salyu、ヤマグチヒロコ氏を配し、異色の舞台作品となる予定です。
リボーンアート フェスティバル東北は食の宝庫。海、山、野の自然をテーマに「食を冒険」する。
また、今回は「食」をより充実させています。前回に続き、牡鹿半島の明るく元気な浜のお母さん達の浜の営みを感じられる食堂「はまさいさい」と、荻浜を眺めながら地元の食材を楽しめるレストラン「Reborn-Art DINING」が登場するほか、地域の食材や自然をテーマにしたツアーに参加し、ゲストシェフがその食材に関する体験をお皿で提供する「石巻フードアドベンチャー」などを実施。フードディレクターはパリ出身の料理人兼アーティストであるジェローム・ワーグ氏と、ジェローム氏とともに神田に「the Blind Donkey」をオープンした原田慎一郎氏が務めます。
リボーンアート フェスティバル復興への足取りを、一歩一歩。
「Reborn-Art Festival」は単なる音楽フェスではなく、より地域との結びつきが強く、よりアート性が高い、まさに総合芸術祭という名にふさわしいイベントです。前回の来場者は51日間の会期中延べ26万人にのぼり、その経済効果は22億円と言われています。
日本の名だたるミュージシャンやアーティスト、ものづくりに携わる人々が、東北の未来、そして日本のこれからを真剣に考えると、これほどに壮大なムーブメントを起こせるのか—。音楽ファンならずとも、その強く真摯なメッセージに心を動かされることでしょう。
住所:宮城県石巻市(牡鹿半島、市内中心部)
開催期間:2019年8月3日~9月29日
提携会場:牡鹿半島、網地島、石巻市街地、松島湾(石巻市、塩竈市、東松島市、松島町、女川町)
Reborn-Art Festival HP:http://www.reborn-art-fes.jp/
写真提供:Reborn-Art Festival