ゆふいん山荘わらび野森に溶け込む、美術館のような佇まい。
緑に覆われた森の中に現れる、モダンな建物。こんなところに美術館が?と思いきや、ここは旅館。約3,500坪の敷地に、7つの客室棟、レセプション棟、レストラン棟が周囲の自然と呼応するように融け合い、点在しています。ここ『ゆふいん 山荘わらび野』は、懐かしく温かい、この土地の文化と風土を体感できる“由布院の風景”を纏う宿として、2019年2月にオープンしました。
ゆふいん山荘わらび野震災で3年休業ののち、モダンに生まれ変わった。
実は宿の歴史は長く、1988年開業した小さな旅館が原点。現支配人・高田陽平氏の両親が山野に植木をして切り拓き、7室の旅館からスタート。以降も和風旅館として親しまれてきました。ところが、2016年の熊本地震により休業を免れない状態に。一度全て建物を取り壊し、3年という長期の閉館後、それまでの趣とは全く違ったスタイリッシュないでたちで生まれ変わったのです。
ゆふいん山荘わらび野日田の石と木材を建物の随所に。現代アート作品のような空間。
陽平氏を支えるマネージャー的存在の弟・淳平氏は「他の宿では得られない、ゆったりとした“由布院時間”を過ごしてほしい」と話します。主となる建築デザインは『植原雄一建築設計事務所』。景観と一体化し土地に馴染んできたかつての「山荘わらび野」の思考を取り入れ、地元の材料を使い、ゲストがここにしかない極上の時間を過ごせるラグジュアリーな空間を演出しました。
レセプションのエントランスには杉の板にコンクリートを流した珍しい建材を使用。コンクリートでありながら、木の風合いが感じられ、柔らかさを醸しています。建物全体にも日田の石貼りを基調とし、家具はチーク材で統一。部屋の窓は縁取りを大きくして庭を一枚の絵画のように眺められる設えにしました。
ゆふいん山荘わらび野自家米や野菜、地元の海山の幸。五感を満足させる「食」。
ユニークなのは、ウエルカムスイーツとして供されるカヌレ。こちらは淳平氏が震災後に妻とともにオープンしたカヌレ専門店『カランドネル』のものです。
そして中屋敷のレストランでいただく食事は、近海産の魚介類、豊後牛、由布院野菜といった旬の素材、自家米を使った創作料理。室内に備えられたTANNOYのスピーカーからまるで生演奏のような音楽に身を委ねながら、優雅な食の時間を満喫できます。
ゆふいん山荘わらび野建物を壊すことよりも、人を切ることが辛かった。
もちろん、震災から再興し、ここまでの空間を作り上げるのは容易なことではありませんでした。膨大な再建費用や再生にかかる労力はもちろんですが、何よりも辛かったのは、閉館する際にそれまで勤めていた従業員を解雇せざるをえなかったことだと言います。30年の歴史の中で共に支え合ってきた15人の社員は、事情を受け入れ、「解散」となりました。しかし、高田一家の「地震で由布院を終わらせない」という気概と、地域の人々の支えにより宿を再開。リニューアルオープンのセレモニーでは多くの人が喜びを分かち合い、戻ってきた従業員の顔も並びました。また昔のメンバー以外にも、アパレル系など全く違う分野に勤めていたスタッフも加わったことで、よりサービスや企画の幅が広がったと言います。
ゆふいん山荘わらび野高級だけど、気取らない。家族のように温かく。
震災前に比べて宿泊料金の単価も上げ、敢えて高級路線に舵を取った「山荘わらび野」。宿泊客から多いのは、「ホスピタリティが素晴らしかった」という感想だと言います。スタイリッシュで現代的な空間ながら、アットホームで心の通ったサービス。それは、淳平氏が若いスタッフたちに「ゲストを自分のお母さんやおばあちゃんだと思って、喜んでもらえるようなおもてなしを」と常々伝えていることから生まれるのです。
これからの時期、由布院は一層緑が輝く季節です。木々に覆われた密やかな宿で、上質な食と自然を味わう、贅沢なひととき。そんな都会とは流れが違う、ゆったりした「由布院時間」を感じに行ってみてください。
住所:大分県由布市湯布院町川北952−1 MAP
電話:0977-85-2100
営業時間:チェックイン15:00~、チェックアウト12:00
料金:1泊2食 38,000円〜
ゆふいん 山荘わらび野 HP:http://www.warabino.net/
写真提供:ゆふいん 山荘わらび野