目を奪う色彩、凄みさえ感じる力強い表現力。北の町に受け継がれる芸術精神をたどる旅。[DINING OUT AOMORI-ASAMUSHI with LEXUS/青森県青森市]

棟方志功記念館で作品を見学する目黒シェフ。

ダイニングアウト青森浅虫

2019年7月6日(土)、7日(日)に開催が決定した『DINING OUT AOMORI-ASAMUSHI with LEXUS』。舞台は青森市浅虫に決定しました。本州最北端の青森県で厳しい冬を耐え抜き、短い春夏を謳歌する北の温泉地・浅虫。その名さえ初耳という人も多いかもしれません。

知られざる地域の魅力を発信し、新たな価値を創出すべく出発した『DINING OUT』のスタッフは、最果ての小さな温泉街、そして青森市を知るために繰り返し現地に足を運びました。そして、徐々に見えてきた本質。まるで山肌の雪が解け色彩が現れるように、少しずつ見えてきた答え。それはこの地に根付く、熾烈なまでのアート性でした。

そして今回の『DINING OUT』に設定されたテーマは、「Journey of Aomori Artistic Soul」。青森の芸術精神をたどる旅。この記事では、まずはその序章へとご招待します。

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浅虫温泉のシンボル・湯ノ島と陸奥湾に沈む夕日。この景色も多くの芸術家の心を動かした。

ダイニングアウト青森浅虫白銀世界が一変する色彩の春。青森の土地柄が育む鮮烈な色彩感覚。

4月中旬、天気は晴れ。青森市はまさに目覚めの最中にありました。
道端にはまだ雪が残っています。桜はまだつぼみのまま。それでも雪解け水で流れを速める小川や、明るい色になりつつある陸奥湾、芽吹き始めた若葉が、待ちわびた春の訪れを告げてくれました。冬の間、モノクロだった景色に、今年も色彩が戻ってきたのです。
青森の「Artistic Soul」、まずはこの色彩から紐解いてみましょう。

青森といえば、思い出すのは「青森ねぶた祭り」。ねぶた祭りの起源は奈良時代にまで遡り、この地に受け継がれていた習俗が中国から伝来した七夕祭が混交して誕生したといわれています。暗闇の中を色とりどりのねぶたが練り歩く様子は、誰もがどこかで目にしたことがあるでしょう。その鮮やかでいて、どこか凄みのある色彩は、青森を代表する“アート”といえるでしょう。

あるいは江戸時代から作られる伝統工芸品である津軽凧。浮世絵の影響を受けたという図柄は、赤、青、緑といった原色が目を引く鮮やかな色彩。これもまた青森のアート性を象徴するものでしょう。

時代をさらに巻き戻して見てみましょう。
青森市にある三内丸山遺跡は、青森市にある日本最大級にして最古の縄文遺跡。同地にある資料館には、遺跡から出土した土偶や土器のほか、漆器や翡翠の工芸品も展示されています。その見事なまでに繊細な太古の遺産、縄文時代前期~中期に作られたと推測されるそれらの出土品を見るに、この地に息づく創造性は7000年以上も前から受け継がれているとさえ思えてくるのです。

雪に閉ざされる冬が長いからこそ、春に芽吹く色彩をより目に焼き付けるからでしょうか。青森には、時代を超え見事なまでの色彩感覚が受け継がれているのです。

闇夜に浮かぶ鮮烈な色彩こそ、青森に受け継がれる芸術精神の象徴。

三内丸山遺跡の『縄文時遊館』には、遺跡から出土した貴重な土器が展示される。

悠久の歴史と受け継がれる魂に思いを馳せる目黒氏。

ダイニングアウト青森浅虫共通項がないことが、唯一の共通項。偉大な先人たちに見る青森のアート。

続いて、青森が輩出した偉大な先人たちについて見てみましょう。

まず思い浮かぶのは“世界のムナカタ”と呼ばれた青森出身の板画家・棟方志功でしょう。その力強く生命力にあふれた作品で知られる20世紀を代表する世界的芸術家。極度の近視のため板に顔がくっつくほど近づいて彫る鬼気迫る姿を思い出す人もいるかもしれません。昭和50年(1975年)に没するまで彫り続け、摺り続けた作品のなかには、きっと青森の血脈が息づいているのです。

あるいは文豪・太宰治も青森の人。自伝的小説『津軽』のなかでは、今回の舞台である浅虫温泉についても、「自分の故郷の温泉だからこそ思ひ切つて悪口を言ふ」と酷評しつつも、「私には忘れられない土地である」と描いています。

写真の分野では生まれ故郷の青森を被写体にし、“写真界のミレー”と称された小島一郎も、
ベトナム戦争を写し、34歳で戦場に散るまでの短い人生のなかで、鮮烈な印象を残したピューリッツァー賞の報道写真家・沢田教一も青森県出身。現代美術では独特なタッチのなかに深いメッセージが隠れる画家・彫刻家の奈良美智、ウルトラマンの怪獣の生みの親、デザイナー・成田亨もいます。詩人・秋田雨雀や連続テレビ小説でもおなじみの三浦哲郎、アングラ文化を牽引した寺山修司や、毒舌でありながら愛されたナンシー関を思い出す人もいるかもしれません。

枚挙に暇がないほどの文化分野の偉人たち。誰もが個性的で共通項を探すことはできませんが、実はこれこそが唯一の共通項。未開の地を切り開き、独自の道を進むことこそが、青森の「Artistic Soul」の形なのでしょう。
もちろん土地の力がすべてではありませんが、内に向かうパワー、自らの心に問いかけ、それを形にする力は、この青森という土地とどこか似ていると思えてなりません。

青森県立美術館には、青森に縁の深い芸術家の作品も数多く収蔵されている。

シャガールの舞台美術をはじめ、国内外の貴重な美術品が鑑賞できる青森県立美術館。

棟方志功記念館にて。目黒氏も作品から伝わるエネルギーに心打たれた様子。

棟方志功が度々訪れた浅虫温泉『椿旅館』は、同氏の作品も多数所有している。

ダイニングアウト青森浅虫魚介フレンチという手法で、独自の皿を描く

「Journey of Aomori Artistic Soul」、青森に宿るアートの魂をたどる旅。芸術家たちを惹きつけ、その内にあるパワーを爆発させる青森の土壌が、少しだけ見えてきたでしょうか。

そしていま、その青森の地で、そして料理という分野で、アートを描かんとする人物がいます。それが今回の『DINING OUT AOMORI-ASAMUSHI with LEXUS』を担当する若きシェフ・目黒浩太郎氏です。

目黒氏の代名詞は、魚介を主役にしたフレンチ。日々刻々と入れ替わる魚介を相手に、自身の持てる技術と知識を駆使して、考え得る最高の表現を目指す。それはたとえば、青森の四季を切り取る写真家や、青森の機微を描く作家と同様のアプローチなのかもしれません。

今回の視察で、初めて青森を訪れたという目黒氏。その場で湧く感情を大切にするために、あえて事前にインプットをせずに青森に向かったといいます。そして湧いたのは「豊かな自然と食材、少し控えめだけど懐の深い人たち、テンションが上がるような素晴らしい美術。本当に良いところですね」という言葉。「料理の構成や表現はこれから考える」と言いつつも、数々のインスピレーションが湧いた様子で「不安は一切ありません」と言い切りました。

アートを掲げたテーマについても、すでに考えはある様子。「たとえばここで見た素晴らしい美術に引っ張られて派手な色彩を取り込んだとしたら、それは僕の表現になりません。僕の料理は、あくまでも食材ありき。魚の色は地味ですが、そこに青森の色彩を落とし込むことができれば、それがきっともっとも自然で、もっとも美しいものになると思います」

誰の真似でもなく、ただ自分のやりかたを貫く。それが何より青森らしさの表現につながることを、目黒氏はいち早く確信していたのかもしれません。

浅虫温泉の湯に浸かる目黒氏。青森の空気を感じながら、料理の構想を練る。

八甲田山や陸奥湾など、芸術の元となった豊かな自然も料理の原動力。

34歳の若き才能・目黒シェフが、どう青森を表現するか期待が募る。

1985 年、神奈川県生まれ。祖父は和食の料理人、母は栄養士とい う環境で育つ中で自然と料理人を志す。服部栄養専門学校を卒業後、 都内複数の店で修業後、渡仏。フランス最大の港町マルセイユのミシ ュラン三ツ星店「Le Petit Nice」へ入店し、魚介に特化した素材の 扱いやフランス料理の技術を習得。帰国後には日本を代表する名店 「カンテサンス」にて、ガストロノミーの基礎ともなる、食材の最適 調理や火入れなどさらに研鑽を積んだ。2015 年、「abysse」をオープ ン。日本で獲れる世界トップクラスの魚介類を使用し、魚介に特化し たフランス料理を提供し、ミシュラン東京では一つ星を獲得している。
abysse HP:https://abysse.jp/