『CAFÉ JI MAMA』五十嵐氏を通してみる素顔の南会津。前編。[NEW GENERATION HOPPING MINAMI AIZU/福島県南会津郡]

2019年6月29日から6月30日の1泊2日限定で開催された南会津ツアーでの1コマ。

ニュージェネレーションホッピング南会津特急リバティに乗って、改札さえない小さな無人駅へ!

2018年から1年以上かけて南会津のリポートを行ってきたONESTORYが、今年4回に渡って四季それぞれの南会津の魅力を詰め込んだオリジナルツアーをプロデュース。その皮切りとなるツアーが6月最後の週末に開催されました。ナビゲーターを務めたのは、会津田島にある『CAFÉ JI MAMA』のマスター・五十嵐大輔氏。2010年より有志がボランティアで企画・運営を行う野外音楽フェス「大宴会in南会津」の中心人物でもあります。

ちなみに店名の「ジーママ」は沖縄の方言で「自由気まま」という意味。今回のツアーも「自由気まま」を軸に、ガイドブックにはない秘密のスポット、心尽くしの郷土料理や地酒、地元を盛り上げる面白い人達との触れあいが楽しめる趣向になっています。

五十嵐さんというフィルターを通した1泊2日の南会津の旅は、名所を点と点で辿る旅とは異なる表情を見せてくれました。その模様を前後編に分けてリポートします。まずは初日の様子をご覧ください。

【関連記事】NEW GENERATION HOPPING MINAMI AIZU/『CAFÉ JI MAMA』五十嵐氏を通してみる素顔の南会津。後編。

浅草を朝9時に出発し、特急リバティに揺られて3時間あまり。南会津にある完全無人の「会津山村道場」駅に到着。

ニュージェネレーションホッピング南会津動物が遊びに来る森の中で、じっくり煮込んだ無水カレーを。

奇跡的な梅雨の晴れ間、浅草から3時間余りで特急リバティが着いたのは無人駅「会津山村道場」。小さな駅には改札すらなく、「本当にこの駅でよかったの?」と少し心配に。そんな不安を一瞬で吹き飛ばしてくれた笑顔のスタッフに促され、用意されていたバスに乗り込みます。5分程で着いたのは緑が気持ちいいオートキャンプ場。柔らかな下草の上を歩き、ふと前を見ると紅白幕に「大宴会」の文字。その傍らには人懐っこい笑顔の人物が立っています。「ようこそ、いらっしゃいました。私が五十嵐です」。実はここ、ローカルならではの温かみが人気の野外音楽フェス「大宴会in南会津」の会場にもなっている場所で、開催時には1000人ほどの人が押し寄せるそう。

促されるままに草原を進むと、特設キッチンと大きな木製テーブル。火にかかった寸胴からは芳ばしい匂いが漂ってきます。「今日は地元で採れたサラダにオリジナルチキンカレーを召し上がって頂きます」。ほろほろと繊維がほどけるまで煮込まれたチキンと野菜の旨みが溶け合ったルーは堪らない美味しさ。「もしかしたら、カモシカが見られるかも?」とは五十嵐氏の奥様・史織氏。この辺りは動物が多く、兎やたぬき、鹿がやってくることもあるのだとか。珍客の登場を待ちつつ、配られた白いカップを手に取ります。ぽってりとした白磁のカップは少し青みがかっており手馴染みも抜群。これは、会津本郷焼の『工房 爽』のもの。丁寧にハンドドリップで淹れて頂いたコーヒーを飲んでいると、ホッと気が弛みます。午後からは、ほどけた心に何が飛び込んでくるのでしょうか?

着いた先は、音楽フェス「大宴会in南会津」の会場と同じ會津山村道場。紅白幕の前で参加者を出迎えてくれたのは、編み笠をかぶった五十嵐氏。

會津山村道場の入口には2010年から始まった「大宴会in南会津」のポスターが貼られている。名だたるアーティストに「あ、この人も来たんだ!」という声が方々から挙がった。

森のなかに設えられたランチ会場。愛らしいガーランドで飾り付けられた森のダイニング。机やキッチンの上には紫色のカラーや野草が活けられていた。

木製玩具のブランド「マストロ・ジェッペット」の動物があしらわれた名札。参加者はこの裏に名前を書き、互いの名前を呼び合った。

玉ねぎやトマトなど野菜から抽出した水分のみで2日間煮込んだ無水カレー。複雑な旨みながら胃に優しい味わい。

総勢11名がサラダやカレーに舌鼓を打った。「7月になれば、名産の南郷トマトが出てきますよ」と五十嵐氏。

コーヒーをサーブする史織氏。豆はコーヒーの栽培から製造、販売まで手掛ける茨城県の名店「サザ・コーヒー」のものを使用。

ニュージェネレーションホッピング南会津心地いい風を受けて、爽快サイクリング。

食後のアクティビティはサイクリング。初めての電動アシスト自転車はひと漕ぎでグンと距離が伸び、アップダウンの多い地形でも快適です。先陣を切って走るのは、生粋のサイクリスト・野田雅之氏。地元の方が考えたコースを走っていると、ただの情報が実感として立ちあがってくるのを感じます。例えば、「南会津の80パーセントは山林」という数字。自転車で走っていると、常に山が周囲を取り囲み、豊かな自然に包まれている感覚を覚えます。都内近郊に比べて稲がまだ赤ちゃんサイズなのも、東北の春は少し遅れてやってくること、ゆえに田植え時期が遅いことの証左。

田んぼで虫を食むサギや鴨を眺めつつペダルを漕ぎ続けると、一帯が見渡せる小高い丘で、野田氏が自転車を止めました。「私はここから見る風景が大好きで。春は新緑、夏は緑と空の青さのコントラスト、一帯が金色に染まる実りの季節は最高です。ここらは有数の豪雪地帯ですが、一面が真っ白になる冬もいいものです」。四季の移り変わりを感じとれる自分だけの場所を持っている野田氏がうらやましくなった瞬間でした。その高台の奥に小さな神社があります。鳥居をくぐった瞬間、結界を越えて神の領域に足を踏み入れたような厳かな気持ちになりました。土地の方が祈りを捧げる場所だからでしょうか。敷地内には男杉、女杉と呼ばれる樹齢数百年のご神木があり、迫力ある佇まいに圧倒されます。

「まだ梅の実ほどの大きさでしょ」と言われて触ったりんごの可愛らしさ、「あそこだけ木がないでしょう? 実はわらび園なんですよ」と指さされてみた山肌のコントラスト。近景も遠景も、野田氏や五十嵐氏の言葉と一緒にメモリーに刻み込む事で、思い出の彩度がよりあがった気がします。

ヘルメットをかぶり、電動アシスト自転車を物色する参加者一同。簡単な説明で初心者でもすぐに乗れるようになった。

隊列をナビゲートするのはサイクリストの野田氏。自転車でこの地を訪れた際に人の温かさに惚れこみ、千葉の松戸から移住を決めた人物。

この辺りの田植えの時期は5月末から6月頭にかけてと少し遅い。伸び始めた稲が風になびくなかを駆け抜ける。

サイクリング後、地元の若者が営む農園の100パーセントりんごジュースが配られた。渇いた喉に優しい酸味と甘みが嬉しい。

ニュージェネレーションホッピング・南会津専用鎌を使って、アスパラの収穫体験。

自転車を降り、次に向かった先はビニールハウス。生い茂った葉はフワフワしていてフェンネルっぽいけれど、どこか違う。これは一体!? 実はここ、湯田浩史・久美夫妻が営むアスパラのビニールハウス。よく見ると、土からポコポコとアスパラが顔を出しています。「収穫シーズンが終わったアスパラの茎をそのまま伸ばしていくと、葉が出てこのような姿になります。しっかり世話をして根を張り巡らせておくと、来年の春にはそこから新しいアスパラが芽を出すんです。雪解け水が土を浄化するので春先のアスパラは最高に美味しいですよ」と湯田氏。

刃先がギザギザになったアスパラ専用の鎌(!)をお借りし、サクリと一振り。収穫したてのアスパラは、切り口からぽたぽたと水が滴り落ちる瑞々しさです。

湯田夫妻。収穫体験ができるよう、シーズン終わりの貴重なアスパラをたくさん残してくださっていた。

アスパラ専用というニッチな鎌を持ってパシャリ。「ここでしか撮れない記念写真を」、とばかりに皆シャッターを押しまくった。

両サイドに屹立するアスパラの森(!?)。太くて美味しそうな個体を探し、真剣モード。

気持ちいいほどまっすぐに伸びたアスパラたち。「収穫したては味が違いますよ」と湯田氏。

ニュージェネレーションホッピング南会津地酒に地ビール・・・地元尽くしの「ミニ大宴会」。

しばしのフリータイムのあと、夜のミニ大宴会へと向かいました。ミニなのに大とはこれいかに? 実は「大宴会in南会津」終了後にアーティストと地元の方が一緒にお酒を飲む打ち上げが楽しいと評判なので、それのミニ版を体験してもらおうというのがディナーの趣旨。会場となったのは『南会津マウンテンブルーイング/Taproom Beer Fridge』の裏庭です。オーナーの関根健裕氏はひとりで地ビール「アニービール」の醸造を行っており、この日はIPAとコーヒーを使ったフレーバーのクラフトビールが振る舞われました。降りしきる雨のなか、タープが張られた会場には次々に地元の方が集まってきます。大人数の乾杯で幕を開けたこの宴会、五十嵐氏や関根氏のお母様による郷土料理の差し入れや、『トポリーノ』の舟木久美子氏が手掛けるイタリアン前菜とビールの相乗効果で早々に打ち解けたムードになり、至る所で笑い声が響きました。

ビールをたっぷりいただいたところで、日本酒に移行しました。なんといっても南会津は全国有数の「酒どころ」。数多の酒蔵が切磋琢磨しあう環境にあり、そのひとつ「山の井」や「會津」を擁する『会津酒造』の専務・渡部裕高氏も参戦。県外には出回らないレア酒を注いでくださいました。クリアな飲み口でズンと胃の腑に届く旨みに思わずクーッという声にならない声が漏れます。場が温まったところで登場したのは先ほどのアスパラ。軽く塩をしただけなのに、味が凝縮したアスパラの美味しいこと! 

名物と旨い酒をしっかり腹に収めたところで、とっておきの場所に案内すると五十嵐氏。案内してもらわなければ気後れして入れなかったであろうスナックで二次会を楽しみ、夜は更けていったのでした。

【夏のツアーの詳細はこちら】「夏」のツアーは、写真家・小林紀晴氏と巡る、南会津写真紀行。地域の価値ある風景を撮る旅へ。


(supported by 東武鉄道

関根氏が醸造した「アニービール」で乾杯! ホップの鮮烈な香りが駆け抜けるIPAに「ビールは農作物なんだなぁ」としみじみ。

会津地方の祝いの席に欠かせない「こづゆ」を田島地方では「つゆじ」と呼ぶ。貝のお出汁が堪らないこの一品は五十嵐さんのお母様の差し入れ。

各家庭により味付けが異なる郷土料理の「ニシンの山椒漬け」も旨い。こちらは関根氏のお母様が差し入れて下さった。

参加者のアレックス氏は炭酸の立ち上り具合に興味津津。これはいいね!と、早々に一杯目を飲みほしてしまった。

会津酒造の渡部氏。参加者には南会津の名産・杉で作った枡が配られ、一同、香り高い器でクリアな酒を楽しんだ。

周囲を山に囲まれた南会津は寒暖差が激しく、豊富な雪解け水を持つ米どころでもある。旨い酒が生まれる条件が整っているのだ。

五十嵐氏の同級生・室井崇氏も登場。会場に活けられたカラーなどの花々は、花卉農家の室井氏が育てたもの。

出荷の際、長いアスパラは規格を揃えるため下部を切り落とすが、「採り立ては下の方ほど旨い」と湯田氏。そんな知恵を授かることができるのも、参加者と地元の方の距離が近いツアーならでは。

旨みを閉じ込めるためカットせずに焼いたアスパラをそのままガブリ。迸る瑞々しいエキスに方々から「うまい!」とため息が毀れた。

南会津では昔から味付けマトンがソウルフードとして根付いている。地元で評判のお店「目黒食肉店」で地元の味を満喫。

ビールの話になるととまらなくなる関根さん。いま、アメリカで評判の貴重なビールも冷蔵庫から出して下さった。

ほろ酔いの一行が辿りついた二次会会場は『アルフィー』という喫茶兼スナック。個人旅行で入るにはなかなか敷居が高い佇まいだ。

店内の壁には隙間なく貼られた古いポスターがびっしり。BGMはマスターが録りためた昔のラジオ番組。乾杯の発声はサイクリストの野田氏。

厚めのピザにタバスコをたっぷりかけて。酔っている時ほどジャンクな飯が旨い。なかにはクリームソーダを頼む参加者も。

住所:〒967-0004 福島県南会津郡 南会津町田島上町甲4004 MAP
電話:0241-62-8001
http://ji-mama.com/