今日も不思議と人が集まる、ヒゲもじゃ店主の小さなよろず屋。[TSUGARU Le Bon Marché・バンブーフォレスト/青森県弘前市]

小さいながらも個性的な外観が目を引く『bambooforest(バンブーフォレスト)』。店がある弘前市代官町は、こじゃれた雑貨店が点在するエリア。 

津軽ボンマルシェ・バンブーフォレストキッズからお年寄りまで、全世代がお得意様の「雑多屋」。

JR弘前駅から歩いて10分ほどの場所、絶えず車が行き交う通り沿いにありながらひっそりと出しゃばらず、それでいて不思議と存在感を放つショップがあります。「竹森」さんが営むから『bambooforest(バンブーフォレスト)』……そんなわかりやすい店名に反し、どんなジャンルにもカテゴライズしづらいのがこの店の特徴。

例えば、以前『ONESTORY』でも紹介した『木村木品製作所』が手がけるりんごや桜の木工品の横には、マニアックなストリート系ファッションブランドのTシャツやキャップ、トートバッグが。津軽の若手作家の草木染めのアクセサリーや、ドライフラワーアーティストの作品が並んでいるかと思えば、ドイツやタイから輸入された安全素材のキッズ用おもちゃも。棚には全国津々浦々からセレクトされた無添加の食品がずらりと揃い、地元の農家が作る旬の無農薬栽培の野菜が納品されてくるといった塩梅です。

地元の子連れママ、こじゃれた若者、中年男性、青森土産を買いに来た他県からの観光客……客層も、それはもう様々。「ちょくちょく酒のつまみを買いに来る飲兵衛のおばあちゃんもいますよ」と笑顔で話すのは、豊かなヒゲがトレードマークの店主・竹森 幹(かん)氏です。自身の店を雑貨屋ならぬ「雑多屋」と表現する竹森氏。言い得て妙ですが、こうした業態の店は津軽においてかなり少数派。それでも人が絶えないのは、竹森氏のセレクトが魅力的だからに他なりません。

【関連記事】TSUGARU Le Bon Marché/100年先の地域を創造するために。多彩で奥深い「つながる津軽」発掘プロジェクト!

外観からは何屋かわからないが、センスの良さが伝わってくる。勇気を出して扉を開ければ、気になるものが必ず見つかる場所だ。

竹森氏の先輩が営んでいた洋服店の跡地を居抜きで借り受けた大切な場所。小さなスペースに、様々な商品がぎっしりと詰まる。 

本や雑誌、音楽CD、更には植物の種まで並ぶコーナー。ジャンルは異なるが、どれも一貫したテーマやポリシーが感じられるものばかり。

津軽ボンマルシェ・バンブーフォレストキャンプ場が近く、温泉は銭湯感覚。津軽の環境がUターンの決め手に。

竹森氏は弘前市出身。21歳で上京、ずっと好きだったアパレル業界を目指して高円寺の古着屋に入り、店長も務めます。その後、独立を念頭に企業の法人部へ転職、3年ほど働きネットショップを立ち上げた頃に起こったのが、東日本大震災でした。小さな子供を抱えながら、安全な水や食料の確保に不安と疑問を感じる日々。竹森氏は、故郷・津軽へ帰ることを決意します。

「まだ子供が生まれる前、奥さんを連れて1週間帰省したことがあって。その時、津軽の色んなことが再発見できたんです。岩木山ってこんなに格好良いんだとか、キャンプ場にもすぐ行けるじゃんとか(笑)。アウトドアが好きなので当時は何時間もかけてキャンプしに行っていたけれど、片やこっちでは温泉も銭湯感覚(笑)。帰ってきたきっかけは震災でしたが、やっぱり津軽の環境に惹かれたのもありますね」と竹森氏。

最初はインターネットをメインに、その後商業施設のチャレンジショップとして店舗を構え営業。当初はアート感覚で楽しめる海外製のおもちゃを個人輸入し販売していましたが、今の物件に出会い2014年に移転、路面店として新たなスタートを切ります。商品ラインナップが増えだしたのは、その頃から。子供が舐めたり噛んだりしても安全な木のおもちゃや、出所がはっきりわかる原材料で作られた食料品……「そもそも、そういうものを置いている店がこっちは少なくて。まずは自分が使っている、信頼の置けるものから始めようと思いました」と竹森氏。

初期から取り扱うタイの『プラントイ』社のおもちゃ。廃材となる無農薬栽培のゴムの木を再利用し、環境と安全性に配慮した商品を作る世界的メーカーだ。 

路面店を構えてからの5年間で一番充実したのが食料品。都内の自然食品店でもあまり見ない、東北の小さなメーカーのものなども見つかる。

県内の若手農家『わらふぁーむ』が生産する無農薬栽培の米は、玄米の状態で量り売り。購入客には、持ち帰り袋の持参が浸透しているという。

津軽ボンマルシェ・バンブーフォレスト「無添加」という言葉は後づけ。美味しさの共感こそが人を呼ぶ。

現在の『bambooforest』で最も売り場面積が広いのが食料品。知る人ぞ知るメーカーの調味料から、都内でも置いている店が少ないレアなスパイスやお茶、気軽につまめるおやつやレトルト食品まで、独自の品揃えを誇ります。そして目移りしながら気付くのは、その多くが無添加のいわゆる「自然食品」だということ。でも「ことさら“自然派”を謳うことはしないんです」と竹森氏。そこには、ちゃんと日常の食卓に喜びを与えてくれる、美味しいものだけをお勧めしたいという自負が覗きます。

「自然食品と呼ばれるものの中には、身体には優しいけれど正直味がいまひとつな商品があるのも確か。せっかく興味を持っても最初の入口がそれでは、自然食品自体がだめになってしまう人もいますよね。うちでは商品を家族全員で試しますし、毎日使っているものもたくさんある。実は自分、店をやっているのに、言葉で伝えるのが苦手なんですよ(笑)。でも自分が美味しいことを知っているからこそお客さんとも話せる。“自然派”“無添加”は後づけでいいんです」と語る竹森氏。

店で観察していると、買い物帰りの主婦や散歩途中の男性など様々な人が次々と来店し、竹森氏とお喋りしながら商品を購入。しかも、なんだか皆さんとても楽しそうです。「売るなら自分でも作らないと」と5年前から畑も始めたという竹森氏。そんな真摯な姿勢が、確実にリピーターを増やしている様子です。

弘前市『前田りんご園』から無農薬栽培の野菜が到着。「価値をわかってくれる店に卸したい」と話す代表の前田祥吾氏は、互いの考え方に共感し合う同世代の仲間だ。

『前田りんご園』の朝採れの夏野菜たち。前田氏曰く「みんながやらない品種も積極的に作っていきたい」。手前は香りの強い津軽の在来種「岩木在来にんにく」。

近所の居酒屋『南国食堂shan2(シャンシャン)』オリジナルの調味料シリーズも人気の商品だ。店は竹森氏の行きつけで、「何を食べても旨い!」と絶賛。 

津軽ボンマルシェ・バンブーフォレスト楽しさの連鎖反応で人々をつなぐ、津軽のハブを目指して。

この場所で営業を始めて5年。『bambooforest』は単にモノを売るだけにとどまらない、違う側面を持つ場所となりました。キャンドル作家の『YOAKEnoAKARI』、ドライフラワーアーティストの『Flower Atelier Eika』、ニット作家の『Snow hand made』など、現在津軽エリアで活躍するクリエイターたちの作品をいち早く扱い、紹介する役割を担ってきたのです。「扱ううちに有名になる作家さんもいる。それを見据え、若手の作家さんには、商品について感じたことを良いことも悪いこともはっきりといいます。店の売り上げを上げるためでもあるし、彼らの収入や知名度を上げるためでもある。だからこそ互いの信頼関係が築けるのだと思っています」と話す竹森氏。

「ほら、うちの店ってめちゃくちゃフライヤーを置いているんですよ」と竹森氏が指さす所には、ライヴやイベント案内、店紹介などがずらり。「この店に来るといい情報があるねっていわれたくて(笑)。若手の作家さんを紹介するのもそうですが、人と人をつなぎたいんです。みんなが楽しそうなのを見ると、自分も楽しいから」。そう言いながら笑う竹森氏の今後の展望は、なんと「角打ち」。そのために酒類販売免許を取る準備をしているのだとか。竹森氏曰く「昼から飲めたら最高じゃないですか? 弘前にはそういう店がないんですよ(笑)」。

「自分が出会った人とモノから影響を受け、変化してきたのが『bambooforest』。自分ひとりでは商品も作品も作れないけれど、脳内で考えていることを表現できているのがこの場所だと思います」と竹森氏。「変化」という単語はそのまま「進化」に置き換えてもいいでしょう。ヒゲもじゃ店主の脳内には、まだまだ楽しい目論見がいっぱい詰まっているようです。その進化が止まることは当分なさそうです。


(supported by 東日本旅客鉄道株式会社

弘前市で活動するキャンドル作家『YOAKEnoAKARI』の作品には、本物の津軽のりんごやラベンダーが閉じ込められている。

プライベートでは親ばかを自認、家族で外遊びするのが好きという竹森氏。音楽やカルチャーにも詳しく、本人の自己評価に反し話し上手だ。竹森氏に会いに訪れる客も多い。

住所:青森県弘前市代官町20-1 MAP
電話:0172-35-4520
定休日:毎週火曜日 第2・第4月曜日  
バンブーフォレスト HP:http://www.bambooforest.jp/