能登の情景や素材を紐解き、料理に落とし込むべく奮闘する植木シェフ。
ダイニングアウト輪島 大自然に秘められた、未知の食材を探す旅。2019年10月5日(土)、6日(日)に開催される『DINING OUT WAJIMA with LEXUS 』。舞台は北陸、能登半島北部の石川県輪島市です。
今回シェフを務めるのは、アメリカで活躍するジョシュア・スキーンズ氏と、石川県金沢市出身、現在は東京にレストラン『AZUR et MASA UEKI』を構える植木将仁氏。植木シェフは、「日本の伝統野菜や伝統工芸、歴史や文化を、フレンチを通して世界に発信する」ことを哲学としています。中でも、特に自身のルーツである北陸についての思い入れや知識は人一倍です。
「いつも店では北陸の食材を積極的に使い、歴史的な背景や土地の情景が浮かぶような料理を考え、提供しています」という植木シェフ。しかし、大いなる海と山に抱かれた能登半島には、まだ見ぬ自然の恵みが眠っているはずです。
そこで、新たな食材との出合いを求めて、能登の地へと降り立った植木シェフ一行。ちょうど北陸地方の梅雨明けが宣言されたこの日、青空の下、燦々と降り注ぐ陽光に照らされながら歩き回る中で、なんとも滋味溢れる食材の数々に魅了されることとなりました。
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海に囲まれた能登半島の食は、多種多様な魚介類が魅力。
ダイニングアウト輪島 能登が誇る海の幸、バラエティ豊かな海藻を求めて。日本海に突き出した能登半島。当然、新鮮な魚介類に期待が高まりますが、今回スポットを当てるのは海藻です。石川県では、一年を通して約30種類の海藻がとれるそう。昔は家の近所の浜辺で海藻をとって夕食に使うなど、地域の人々にとっては最も身近な食材の一つとして親しまれてきました。また、祭りや仏事、神事などの伝統料理や精進料理でも、海藻は欠かせないもの。海藻を主とした、豊かな食文化が育まれてきたのです。
そこで訪ねたのが、海藻の研究者である、石川県水産総合センターの池森貴彦氏。能登町の九十九湾に面した施設『のと海洋センター』で待ち合わせた一行は、挨拶もそこそこに、早速池森氏と共に藻場へ。実際に海へ入り、さまざまな海藻のレクチャーを受けました。
イシモズクやナツモズク、イバラノリやアオノリなど、初夏の海は海藻の宝庫。目の前でとれたてのモズクを口にした植木シェフは「美味しい! 全然しょっぱくないし、すごくシャキシャキしていますね」と唸り、ノリには「すごい! きちんと海苔の味がします」と感嘆の声を上げていました。特に現場が湧いたのが、フサイワズタ(うみぶどう)です。プチプチとした食感、ほんのり塩気のある自然の旨みは野生ならではと、一同絶賛。また、ウミゾウメンにも注目が集まりました。その名の通り細く長く、独特のプルプルとした食感が美味な珍味です。「ツルっとしていて、磯の香りの糸こんにゃくみたい」とは植木シェフ。さらに、マクサ(てんぐさ)も発見しました。そのままでは無味ですが、地元の人々はこれで自家製のところてんを仕込むのが常となっています。
「海藻がこれほど味わい豊かとは思いませんでした」と感動しきりの植木シェフ。ですが、気になるのは『DINING OUT』本番となる、10月初旬の状況。海藻はその多くが秋に芽吹き、冬~夏に旬を迎えるのです。しかし、「旬のものを生で味わうのは格別ですが、地域の人々は海藻を様々に加工することで、一年中食してきました。現代では、冷凍保存が一般的。今のうちに必要な海藻をキープしておけば大丈夫ですよ」と池森氏。安堵すると共に、この地では自然の恵みを大切にいただくため、様々な工夫や技術も育まれてきたことを知りました。
池森氏から説明を受けつつ、足元に漂うとれたての海藻をそのまま実食。
まずは海藻をとりに藻場へ。少しの間にこれだけの成果が。
海から上がると今度はしゃぶしゃぶで、一味違う旨さを堪能。
ダイニングアウト輪島 山奥で見つけたのは、丁寧な仕事が光る七面鳥と猪。海の幸を楽しんだあとは、一気に門前町の山奥へ。けたたましい鳴き声が響くそこは、七面鳥の飼育場です。出迎えてくれたのは、『阿岸の七面鳥』の名で1988年からこの地で営む大村正博氏。鶏舎の中を覗くと、300羽を超える七面鳥がいました。
美しい水と空気、そしてコシヒカリを餌にのびのびと、ストレス無く育て上げるという七面鳥。贅沢な環境はもちろん、ここの七面鳥が絶品と評判な理由は、その飼育期間の長さにあるといいます。通常は数ヵ月のところ、『阿岸の七面鳥』は1年半もの歳月を経て出荷。「長い時間をかけて育てる分、肉質も味も全然違う。脂が乗り切った七面鳥は格別で、独特の弾力と旨みがあります」と木村氏。試食した植木シェフも、「外国産の七面鳥はパサついていてあまり味がない印象で、正直料理に取り入れるイメージはなかったんです。でも、『阿岸の七面鳥』は柔らかくてしっとり。ジューシーで脂が美味しくて、本当に驚きました」と絶賛していました。
一方、能登はジビエも豊富。特に能登島には、美味しい作物をかぎつけて能登半島から泳いで渡ってきたという猪が、大量に繁殖しています。そうした猪を仕留め、丁寧な処理を施し、上質な猪肉を提供しているのが、すでに植木シェフご用達の、能登島にあるジビエ肉専門店『山本ジビエ』。道中、10月初旬の状況を確認すべく立ち寄ったところ、店主の通称チャーリー氏から「ちょうど9月末から脂が乗ってくる」と吉報がもたらされました。さらに、猪肉にシイタケとイチジクを練り込んだというソーセージを試食。また一つ新たな美味しさに出合いました。
全国にコアなファンを持ち、オーダーが絶えない『阿岸の七面鳥』。
猪肉を使った『山本ジビエ』のソーセージは、豊かな山の味わい。
ダイニングアウト輪島 ありのままに育てられ、自然体の美味しさを秘めた野菜と果実。さらにもう1軒、植木シェフご用達の農園にも寄り道。中能登町の『あんがとう農園』です。延べ3haもの広大な敷地で、年間300種類を超える野菜やハーブ、花を栽培しています。少量多品種栽培の畑は色とりどり。よく目を凝らすと見慣れない品種も多く、中には日本でまだここだけでしか栽培されていないものもあります。
しかも、当農園は完全無農薬栽培であることも特徴。基本的に肥料どころか水やりも行いません。土が本来持っている栄養力と野菜が持っている生命力を生かし、太陽の光と雨水のみで生育する作物は、どれも力強い大地の味がします。
ここでも一行は、その場でとれたてを食す、贅沢なひとときを満喫。一方、園主の明星孝昭氏と植木シェフは園内を散策しつつ、トマトやナスなど、秋に旬を迎える野菜やハーブのチェックに余念がありません。当日は一体どのような野菜が並ぶのか、農園を見渡しながら想像が膨らみます。
続いて、秋の味覚の代表格でもある柿の農家も見学。3年前から能登町で『陽菜実園』を営む、柳田尚利氏です。2.6haの農園一面で柿の完全無農薬栽培を実現しており、糖度は破格の50度超え。この日は保存されていたペーストや干し柿を試食しましたが、驚愕の甘さに、一同の頬は緩みっぱなしでした。また、昨年から新たに柿渋づくりにも挑戦中とのことで、植木シェフも何やら画策。上手くいけば当日テーブルのどこかで、柿渋染めの「何か」が見られるかもしれません。
野菜は植木シェフが絶大な信頼を寄せる『あんがとう農園』産を使用。
『陽菜実園』に青々と実る柿も、秋にはちょうど食べ頃に。
ダイニングアウト輪島 自然の営みをそれぞれの解釈で、ふたりのシェフが魅せる。また、能登島で塩づくりを行う、源内伸秀氏も訪問。港のそばに建てた小屋の中に釜を設え、薪火で海水を煮詰める方法で塩を作っています。特に、四季折々に3~4種類の海藻を使って作る『ももも塩』がユニーク。「通常の藻塩よりも海藻を多く使うから『ももも塩』(笑)」というその塩は、舐めてみると納得。「ものすごく海藻の味がする。でも塩辛くなくて、いい塩梅です」と植木シェフも確かな手ごたえを感じていました。
さらに源内氏の案内で、すぐそばの裏山を散策。山に生育する植物の説明を受けながら登ると、ふいにぱっと開けた場所に出ました。そして、天気が良ければ海越しに立山連峰、まれに佐渡島が見えることもあるという絶景がお目見え。能登の里山から望む里海と田園、集落が一続きになった景色は壮観で、この地の素晴らしさを改めて感じることとなりました。
能登半島を縦断し、様々な食材を発掘した今回の旅。「今までよく理解していたつもりでしたが、まだまだ新しい発見がたくさんありました」と目を輝かせる植木シェフは、「山から川、そして海へ。それぞれの土壌で育まれる食材をピックアップし、自然の流れをイメージしつつ、この地で培われた食文化も融合しながら形にしていきたい」と意気込みを語ります。
また、今回は『DINING OUT』初のダブルシェフが実現。もう一人のシェフであるジョシュア・スキーンズ氏とのコラボレーションについても期待が高まります。
「私自身、すごくワクワクしています。ジョシュアシェフにも、彼なりに能登を感じてもらって、彼なりの表現をしてもらえれば良いなと思いますし、基本的には自由にやっていただいて。それに対して寄り添いながら、私が感動した自然や歴史、文化、神事といったものを上手く取り入れて、全体を構成していきたいと思っています」。
史上初、あらゆる人、モノ、コトのコラボレーションにより、輪島という土地の魅力を余すことなく体感できるであろう今回の『DINING OUT』。その予感はこの旅の途中で、確信へと変わりました。今秋、最も豪華な究極のダイニングが繰り広げられることは、間違いありません。
海水を煮詰めるための大きな釜が鎮座する、塩の工房。
ほんのり赤く、海藻の風味が凝縮された藻塩。
まるで自然と一体になったかのような錯覚に陥った裏山散策。
視界が開けた瞬間、目に飛び込んできた絶景。
山のふもとを流れる小川には様々な魚が見られ、思わず目を奪われた。
1967年石川県金沢出身。1990年より渡仏し、南フランスの四ツ星ホテル『ホテル ル デュロス』をはじめ、フランスやイタリアで3年間に渡り料理の研鑽を積む。帰国後、1993年『代官山タブローズ』スーシェフを経て、1998年『白金ステラート』オープンと共にシェフに就任。2000年に独立後、青山に『RESTAURANT J』をオープンした。2007年からは軽井沢『MASAA’s』『RESTAURANT & BAR J』を経て、2017年には株式会社マッシュフーズとともに同店をオープン。日本の伝統的な食材や伝統文化を探求しながら自身の料理に落とし込み発信することで、オープンから間もなくして注目を集め、高い評価を得ている。
AZUR HP:http://www.restaurant-azur.com/