理想の美しさを巧みに表現した、南会津のトリップムービー第二弾。[南会津ショートフィルム/福島県南会津郡]

南会津ショートフィルム/佐藤英和報道、ドキュメンタリー制作の巧者、佐藤英和が示す夏の南会津。

四季折々の南会津の姿を、4人の映像作家の作品を通じて紐解いていく「南会津ショートフィルム」。その2作目となる「Mysterious Minami-aizu sketch of summer」が公開されました。指揮を取るのは、報道やドキュメンタリーといったテレビ番組や、企業のビデオパッケージなど多彩な作品を手がける映像ディレクター、佐藤英和氏です。近年ではNHK・Eテレで放送されたドキュメンタリー「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」を担当し、猫と作家の愛おしい日々を綴った番組は、大きな話題になりました。

南会津での撮影が行われたのは残暑の頃。日本列島を揺るがせた大型台風が通過する中、深い自然に分け入り撮影された映像は、副題の「sketch of summer」の通り、南会津の夏、その名残の断片を素描するように紡がれていきます。

空の雲や霧はダイナミックに捉えられる一方で、地上では泡沫や葉脈といった詳細な自然が切り取られ、マクロとミクロという正反対の視点がテンポよく展開される構成が印象的です。
「レンズを向けたものの多くは、光や動きが作り出す不定形で流動的なものです。移ろいやすいもの、消えていくものに惹かれるのは僕の癖です」と語る佐藤氏。

陽光と陰影、水に風、躍動する生命の息吹は、カメラを媒介して、あるいは再生スピードや色を変え、逆再生し、万華鏡や分割といった加工がなされ、純粋な記録とは異なる映像に昇華されています。それは目で視たものが脳や神経を経由し、指先から紙へとアウトプットされるデッサンのように、写実的でありながらも虚構であり、それを臆面もなく示すことこそが、佐藤氏が選んだ表現の形です。

「そもそも過去のいくつかのことは、僕の中でも理想化されて記録されたりしていると思うのです。個人的な話で恐縮ですが、祖母が認知症を患った時、子供の頃に覚えた歌を楽しそうに歌っていたことが印象に残っていて。もしこの時、頭になにかの映像が浮かんでいるとすれば、それは多幸感に満ちた風景だったのでしょう。今回の映像にあるのも、ある種の理想化された南会津であり、欲望が生み出した美しい風景です。肉眼で知覚するものを、よりフィクション化することで、作られた風景だということを強調しています」。

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雲や霧が南会津の低山を通り過ぎていく。残暑ある南会津の断片がダイナミックに描かれている。

水面に映る南会津の景色。ゆらゆらと揺れては消える一瞬の姿は、佐藤監督が惹かれるポイント。

南会津ショートフィルム/佐藤英和見る者の感性に委ねる「言葉であらわせない表現」

SNSの流行などで写真や映像の加工が当たり前となった昨今、人々の記憶に残る風景の現実と虚構の境目が持つ危うさは、より顕著になってきています。今回は人の頭の中で作られる「閉じられた映像」で創作することが、佐藤氏が南会津と対峙し導き出した解でした。

「理想としては毎回、カメラが初めて発明された時に戻るように真新しい気持ちで、『この映像と音声を記録する装置を使い、どのように世界と向き合うか』を考えること。そこで大切なことは、自分の頭で考えたことを世界に当てはめないということ。印象派の画家オーギュスト・ルノワールの息子で映画監督のジャン・ルノワールは父についてこう書いているんです–––『彼は想像力というものを信じていなかった。想像力とは傲慢さの一形態だとみなしていた。「われわれの頭脳だけから生じたものが、われわれのまわりに見られるものより価値があると思うには、たいへんなうぬぼれが必要だよ。想像力などでは、たいして遠くまで行けやしないが、この世界はこんなに広いんだ。一生のあいだだって歩き続けられるし、それでもまだ終りは見えないんだよ。」(わが父ルノワールより引用)
表現は世界に『敗北』し続ける。常にそう考えていて、今回は南会津の豊かな自然に対する敗北の記録だと思います」。

映像には手を加えている反面、音響にはほとんど加工を入れていないのも今回の作品の特徴です。目を閉じれば、裸の「南会津の音」が優しく鼓膜を揺らします。そこには映像と音による「言葉で表せない表現」が、実践されています。

南会津の自然が紡ぐ音と、佐藤氏の内なる理想が具現化された美しい映像が邂逅した今回の作品に、何を感じ、何を思うのか。珠玉のショートムービーが、あなただけの南会津との出会いをもたらしてくれるに違いありません。


(supported by 東武鉄道

1958年生まれ、京都府宇治市出身。報道やドキュメンタリーを中心にNHK、民放各社のテレビ番組のほか、「積水ハウス」「ロッテ」「横浜美術館」といった企業のビデオパッケージ、ONESTORYでは「DINING OUT ARITA&」の映像制作を担当。

奇跡の酒『加温熟成解脱酒』が、料理人の創作意欲を刺激する。大阪・中国料理『AUBE』東 浩司シェフの場合。[加温熟成解脱酒・AUBE/大阪府大阪市]

中華料理の東浩司シェフが、『加温熟成解脱酒』の複雑な味わいに寄り添う料理に挑む。

オーブ現在と未来が交錯する新たな日本酒の世界。

銘酒『高清水』で知られる秋田の酒蔵『秋田酒類製造株式会社』が世に送り出した『加温熟成解脱酒』。それは、古酒のような色と香りを放ち、しかし口にしてみればフレッシュかつすっきりとした喉越しという不思議な日本酒でした。

熟成感とフレッシュ感、現在と未来が交錯する奇跡の酒。かつて、日本を代表するスーパーソムリエ・大越基裕氏は、この酒を「新しい味のスタイル、新しい世界観です」と言い切りました。日本に先駆けて展開されたパリでは数々の名シェフの心を掴み、多彩なジャンルの料理との相性も証明してみせたこの『加温熟成解脱酒』。

そんな新たな酒のさらなるポテンシャルを探るべく、今回、日本を代表する3名のシェフが、特別なペアリングメニューを考案してくれました。拠点とするエリアも料理ジャンルも異なる3名が、それぞれ『加温熟成解脱酒』をどう捉え、どんなペアリングを見せてくれるのか興味がつきません。

まず最初のひとりは、大阪で中華料理を追求する東 浩司氏。2011年に開業した『Chi-Fu』をわずか1年でミシュラン星獲得に導いた才気あふれる料理人です。そんな東シェフは『加温熟成解脱酒』をどう捉え、どんな料理と合わせたのでしょうか? その様子をお伝えします。

【関連記事】加温熟成解脱酒/パリで話題! ベールを脱いだ『加温熟成解脱酒』という新たなる日本酒の挑戦。

半年間の熟成で十年物の古酒のような深みを生み出すまったく新たな酒。

オーブワインにも造詣が深い東シェフによる『加温熟成解脱酒』のインプレッション。

東シェフは大阪で『Chi-Fu』、『Az/ビーフン東』、そして2018年に開いた『AUBE』の3店を手掛ける人物。伝統の味を受け継ぐ『Az/ビーフン東』、洋食やエスニックの技法も取り入れ、中華料理のベクトルを横方向に広げる『Chi-Fu』、中国の伝統料理をブラッシュアップし、新たな解釈で提供する『AUBE』とそれぞれ趣向が異なりますが、すべてに共通するのが食材の追求。とくに『AUBE』は日本の食材、食文化を深く掘り下げることをテーマにしているため、食材や郷土料理を探して自ら日本各地を巡ることが東シェフのライフワークになっているのだといいます。

そんな東シェフは今から8年前「おそらく世界で初めて」という中国料理のコースとワインのペアリングを開始。ソムリエ資格も持ち、料理と酒の相性に関しては一日の長がある人物です。そんな東シェフが『加温熟成解脱酒』を試飲し、料理の構想に入ります。

「熟成感とフレッシュ感の共存は、唯一無二の個性。ワインで例えれば、赤と白の中間の位置づけ。オレンジワインのニュアンスもあり、蒸し鮑のようなヨード感のある料理に合いそうですね」と印象を語る東シェフ。さらに「フレッシュな味は、白身の肉、豚しゃぶや蒸し鶏なんかも合いそうです。甘みも嫌味にならない程度で、アイデアが広がります」とイメージを語ります。そんな東シェフは、豊富な知見と湧き上がるアイデアで、どんな料理を作り上げたのでしょうか。

2018年に開店した『AUBE』では、日本各地の食材を中華料理にして提供する。

料理と酒のペアリングを知り尽くす東シェフをして「新しい酒」といわしめた。

東シェフは深いワインの知識をいとぐちにこの「初めての酒」の解読に挑んだ。

オーブ

細部まで工夫を凝らし、酒と料理を共鳴させる。

「着想の出発点は、紹興酒と上海蟹という伝統的な組み合わせ。それを踏襲しつつ、現代的な酒にどうアプローチするか考えながら組み立てました」そういって東シェフが差し出した料理は、「上海蟹の茶碗蒸し 百合根餡かけ」。上海蟹の出汁と卵で茶碗蒸しを作り、ほぐした蟹の身と具材を入れる茶碗蒸し。モクズガニを崩して汁にする山口県の郷土料理もヒントになっているそう。そして一見シンプルに見えるこの料理、実は『加温熟成解脱酒』と合わせる数々の工夫が潜んでいるのです。

「解脱酒のクリアな味に合わせるため、塩を一切使っていません」と、いきなり驚きの情報を教えてくれた東シェフ。さらに複雑味のある解脱酒のそれぞれのニュアンスに、多彩な味と香りをあわせています。たとえば解脱酒の米のニュアンス、ほのかに甘い香りに合わせてキンモクセイの花を、熟成感ある香りには甘酢漬けの新生姜を。おこげの香ばしさや銀杏の風味、全体を引き締めるラー油も、それぞれが酒に寄り添います。12~13度で提供する解脱酒の滑らかなテクスチャに合わせ、茶碗蒸し自体の口当たりにもこだわりました。

そしてさらなる仕掛けはその後。ある程度食べ進めたら、東シェフは菊の花びらを一枚、酒に浮かべるよう勧めました。「蟹と菊を楽しむのは、古くから中国の粋人の嗜み。いわば詩の世界の話です」と語る東シェフですが、実は解脱酒の故郷である秋田県は、食用菊が好まれる地域。同郷の酒と花を合わせて味わうという、なんとも粋な楽しみ方は、各地の食材や伝統に造詣が深い東シェフならではの発想です。

キンモクセイ、銀杏、おこげ、ラー油など多彩な香りが立体的なおいしさを演出。

複雑な酒のニュアンスに合わせ、とくに香りは重層的な要素をちりばめた。

オーブ社長も脱帽した、料理の味、テクスチャ、そして粋な試み。

この日は『秋田酒類製造株式会社』の社長・平川順一氏、営業部課長の嶋嘉洋氏も大阪を訪れ、東シェフが仕立てる料理と、『加温熟成解脱酒』の調和を楽しみました。
「おいしいの一言。味もそうですが、茶碗蒸しの滑らかさと解脱酒の舌触り、テクスチャの部分でも相性が良く、するりと入ってくる印象でした」と感激した様子の平川氏。嶋氏も「菊花の苦味と解脱酒の相性は新発見でした。しかも秋田の菊を使ってくれたことが本当にうれしいですね。我々の期待の一手、二手先を返してくれるような、素晴らしいマリアージュでした」と手放しの称賛を寄せていました。

『AUBE』は2ヶ月に1度メニューが変わり、東シェフが訪れ、心打たれた食材や食文化を反映した料理が10品ほどのコースで登場します。そして2019年10月半ばからのコースには、この「上海蟹の茶碗蒸し 百合根餡かけ」が登場します。それだけこの料理と酒の調和は、東シェフの心に響いたのでしょう。
「もちろん、合わせるのは『加温熟成解脱酒』です。唯一無二の酒と、そこに寄り添う料理。かつてない味の調和をお楽しみください」


(supported by  秋田酒類製造株式会社)

「料理の深い味わいが解脱酒と非常にマッチしています」と平川社長。

予約制、6席のみのエレガントな店『AUBE』に、解脱酒と今日の料理が並ぶことが決まった。

東シェフが調和の軸に据えたのは香り。複雑な酒の香りに寄り添わせるために、多彩な食材を料理に潜ませた。

住所:大阪府大阪市北区西天満4-4-8 2F MAP
電話:06-6940-0317

1980年、大阪府生まれ。新橋の名店『ビーフン東』の家に生まれ、若くして料理人を志す。赤坂の維新號グループで修業を積んだ後、新橋『ビーフン東』の料理長として6年間研鑽を積む。2011年、大阪で『Chi-Fu』と『Az/ビーフン東』の2店を開業、『Chi-Fu』はミシュランガイド2013で1つ星を獲得。2018年には新たに『AUBE』を開業、さらにカフェプロデュースやメニュー開発など活躍の場を広げている。ソムリエ資格も持ち、ワインスクールアカデミー・デュ・ヴァン銀座校で講師も務めた。