ワインテイスター大越基裕氏が解説。ディナーに華を添えた世界最高峰ソムリエのサービス。[DINING OUT WAJIMA with LEXUS/石川県輪島市]

2004年当時最年少にてマスターソムリエとなった米国出身のロバート・スミス氏(左)が、『DINING OUT WAJIMA with LEXUS』のドリンクを担当。体験した日本を代表するソムリエ大越基裕氏(右)がドリンクについて徹底解説。

ダイニングアウト輪島かつてない豪華な布陣。ワイン界のオーソリティ、マスターソムリエの参戦。

石川県輪島市を舞台に2019年10月5日、6日に開催された『DINING OUT WAJIMA with LEXUS』は、17回の歴史を重ねる『DINING OUT』としても過去最高の布陣だと開催前から注目を集めました。

「漆文化の地に根付く、真の豊かさを探る。」というテーマの下、世界が注目するアメリカ人シェフ、ジョシュア・スキーンズシェフと、能登にルーツを持つ『AZUR et MASA UEKI』の植木将仁シェフの2人がコラボレーション。加えて、ドリンク担当として、世界のワインシーンに影響を与えてきたマスターソムリエ、ロバート・スミス氏が参加。更に、並行して進められた『DESIGNING OUT Vol.2』では、世界的建築家の隈 研吾氏がこの日のために輪島塗の器をプロデュースするという前代未聞の構成となりました。

2人のトップシェフの料理に、世界最高峰ソムリエが加わることで、どのような化学反応が起こったのか。ワインテイスター、大越基裕氏の視点を交えお伝えします。

【関連記事】DINING OUT WAJIMA with LEXUS

食事を楽しみながら、ワインと料理とのペアリングについてテイスティングを行う大越氏。

金蔵地区の棚田が会場に。初日は雨模様だったが、2日は見事な月夜となった。

ダイニングアウト輪島また一歩、新境地へ。回を重ねるごとに成熟する『DINING OUT』の現在地。

日本とフランスを拠点に、世界各地のワイン産地や都市に足を運び、世界のワインの今を伝えるワインテイスターの大越基裕氏。レストランサービスから国際市場のワイン動向までを熟知し、日本のワイン界をリードする存在です。2016年佐賀県唐津市で開催された『DINING OUT ARITA& with LEXUS』にはソムリエとして参加をした経験も。今回、マスターソムリエのロバート・スミス氏のドリンクペアリング、ワインサービスをプロの目線で紐解きます。

「初のダブルシェフの競演、著名な建築家の隈研吾氏が関わる『DESIGNING OUT Vol.2』の同時開催と、マスターソムリエの参戦とかつてないコンテンツが揃った今回。野外で行われるハイエンドなレストランイベントというだけで十分にバリューだった『DINING OUT』ですが、ますますラグジュアリーさを増している。ここまで来たかと驚きを感じました」。
まずは今回の『DINING OUT WAJIMA with LEXUS』について、大越氏はそのように話します。

2019年、日本に拠点を移したマスターソムリエのロバート・スミス氏については、かねてからその動向に注目をしていたと話します。
「日本ではいまだ認知度が十分とはいえませんが、イギリスにおけるマスター・オブ・ワイン(MW)、アメリカにおけるマスターソムリエ(MS)は、間違いなく世界最高峰のワイン資格。ロバート氏が日本に移住したことで、日本在住者では初となるマスターソムリエが誕生したわけで、今後、日本のワイン業界をどう刺激していくかに関心があります」。

今回、11皿の料理に合わせて用意されたのは、ワインを中心とした9アイテムのペアリングドリンク。大越氏は一体、そのうちのどんな点に着目したのでしょうか。

笑顔でテーブルを回るロバート氏。訊ねたことすべてに丁寧に答えながら、堅苦しさゼロのサービスも印象的。

『DINING OUT』史上初のダブルシェフの競演となった今回。『AZUR et MASA UEKI』の植木将仁シェフ(左)と、 アメリカ人として熾火料理で唯一三ツ星に輝いたジョシュア・スキーンズ氏(右)。

『DESIGNING OUT Vol.2』では、クリエイティブプロデューサーに世界的建築家の隈研吾を迎え、オリジナルの「輪島塗」の器を披露。その器に2人のシェフの料理が盛り付けられた。

ダイニングアウト輪島世界のガストロノミーの潮流と符合する「軽やかさ」が基調のペアリング。

「世界のガストロノミーのここ数年の動向として、料理が軽やかになっているという傾向があります。2人のシェフによる11皿のコースもやはり、その流れを汲むもの。ペアリングドリンクのセレクトも今の料理シーンをリスペクトしたスタイルであったことが、最初に感じた印象です」
ジョシュア氏の本拠地であるアメリカ西海岸のワインといえば、日照量豊かな恵まれた気候で育まれるぶどうを使ったリッチでボリューム感がある味わいが、まずは頭に浮かびます。が、ロバート氏のセレクトは「より洗練されたものだった」と、大越氏はいいます。

ペアリングの一例は以下の通り。アミューズにシャンパーニュ、仔牛のカルパッチョにナパ・バレーのロゼ、ラディッシュの一皿にはサンタクルーズマウンテンの複雑味のあるシャルドネ、鮑の炭火焼きに奥能登の自然栽培米を使った日本酒という具合です。

「ロゼはナパの中でも冷涼な地域のものですし、シャルドネも同じく涼しいエリアの重すぎないもの、ソノマのジンファンデルもフレッシュさが印象に残りました」と、大越氏。

「アメリカのワインがラインナップの半数を占めるペアリングは、我々、日本人ソムリエにはない発想。シェフとソムリエ、2人がアメリカ人だからこそ生まれた表現が、能登輪島の食材を使った料理と合わさる斬新さ。新たな視界が開けるようなペアリングでした」

ハイクオリティなシャンパーニュ造りを実践するRMの造り手「クラブ・トレゾール・シャンパーニュ」認定のシャンパーニュを、アミューズとともに。

ジョシュアシェフによる鮑の一皿。肝や炊いた際の出汁も余すところなく閉じ込めた凝縮感のある味わいには「自然栽培米の純米酒がぴったり」と、マーク氏。

植木シェフによる「ノドグロと藻屑蟹」にロバート氏が合わせたのは七尾市『布施酒造』の「大古酒5年」にふぐ出汁を加えたもの。

ダイニングアウト輪島テクスチャーの、旨みのトーンの重なりが、想像を超えたハーモニーを生む。

とりわけ印象に残ったペアリングについて大越氏に訊ねると、迷わず「植木シェフの仔牛のカルパッチョとアズール ロゼ」という答えが返ってきました。
「カルパッチョとはいえ、生ではなくガストロパックで加熱調理されたもの。野菜や発酵食品で味わいの層をつくった一皿です。通常のフレッシュなロゼでは負けてしまいますが、カリフォルニアのシラー、グルナッシュからつくるこのロゼは、フレッシュだけれど充実感ある味わいで、テクスチャー含め非常に相性が良かった」

さらにもう一点、ジョシュアシェフの「ラディッシュ」と、『Saison』が所有するワイナリーのシャルドネも味わい深かったと話します。
「味付けは、出汁のジュレとバターのソース。バターにシャルドネは鉄板の組み合わせゆえ、やや面白みに欠けると感じたのですが、このシャルドネ、味わってみるとバターっぽさがない。溌剌(はつらつ)さは残しながらも、口中に広がる酸化熟成のテイストが出汁の風味とが見事なマリアージュでした。ラディッシュ自体はフレッシュなのですが、最終的には凝縮感ある出汁の味が余韻に残る。酸化熟成から生まれる風味と旨みは、出汁と想像を超えるハーモニーでした」。

その精度もさることながら、日本の発酵食品がつくる味の複雑味や出汁の旨みについても研究し、セオリーを超えて考え提案されたペアリングに、大越氏も感銘を受けたようです。

植木シェフによる「仔牛のカルパッチョ」と、ロバート氏セレクトの「アズール・ロゼ」。「フレッシュさとは一線を画す味わいに、程よい厚みのあるロゼが寄り添う」と、大越氏。

ジョシュアシェフの「ラディッシュ」と、マーク氏が共同オーナーを務める『Saison』のワイナリーのシャルドネ。

ダイニングアウト輪島想像の枠外にあるドリンクサービスで、これまでにない体験を。

「我々はプロの集団ですから、料理の完成度やワインなどの提供も含めたサービスで、ゲストを満足させるのは当然です」
開催に先駆けて行われたインタビューで、ロバート氏は、そのように話していました。アジア以外の国からシェフを招いての開催は、初めてのこと。ゆえに、これまでの回とは違った体験を提供したいという気持ちも強かったといいます。

2日間のサービスを終え、今回のドリンクセレクトのプロセスについて、ロバート氏にも話を伺いました。
「今回、ジョシュアの料理に合わせるワインは、『Saison』の共同オーナーでソムリエ、ワインメーカーのマーク・ブライトが担当。春から一緒に仕事をしているマサ(植木シェフ)の料理に合わせるワインを、私が選びました。それぞれの現在のパートナーシップを活かして、よりよいものを、と考えた結果です」

ワイン以外のドリンクも、登場しました。例えばジョシュアシェフの「鮑の熾火焼き」には輪島市『白藤酒造』の「奥能登の白菊」。
「マークは自らワイナリーも所有していてワインづくりも行っています。マーク自身のワインをチョイスに入れたらどうかと提案しましたが、やはりローカリティにこだわりたい、と。元々、マークは年に一度は日本を訪れるほどの親日家で、大の日本酒好き。レストランには200アイテム以上をオンリストしています。その中で、ギリギリまで熟考を重ね、前々日に決まったのが輪島の酒蔵が自然栽培米で醸す純米酒でした」

それを聞いて、大越氏が続けます。
「もし日本人ソムリエが鮑料理のペアリングアイテムを考えたなら、日本酒というチョイスは正攻法過ぎて優先順位が下がる。でも、アメリカ人だからこそ、そこに日本の食文化に対するリスペクトという視点が生まれ、彼らの純粋な表現になる。『白藤酒造』は歴史を守りながら革新も続ける酒蔵で、このチョイスは素晴らしいと感じました」

「漆文化の地に根付く、真の豊かさを探る。」という今回のテーマは、ジョシュア・スキーンズシェフというアメリカ人のトップシェフが参加することにより、多角的な視点と立体的な表現が生まれました。ロバート氏、そしてマーク氏のワインセレクトは、その視点、表現をさらに確かにするものだったといえるでしょう。

「味わいの感想は人それぞれ。一般のお客様とプロの方でも異なる感想を抱かれるでしょう。ひとつの正解がない世界で私たちがお届けしたかったもののひとつは、さまざまな酒づくりに関わる方々の想いや仕事。それを2人のシェフとキッチンスタッフ、サービススタッフ全員から成るチームで、皆さんにお届けできたならば、何よりだと感じています」

ロバート氏は、そう話し2日間の、いや準備開始から約半年以上に渡る『DINING OUT』でのサービスを総括しました。

ゲストへ事前の紹介はなかったが、華のあるサービスで会場を盛り上げたマーク・ブライト氏。

左からロバート氏、大越氏、マーク氏。国境を超えて活躍するワインのプロフェッショナル同士の話は尽きることがなかった。

1971.2.9 生まれ。テキサス州ダラス育ち。家業が食に関わる仕事をしていたことで、幼いころからホスピタリティと料理に触れる。ネヴァダ大学ラスベガス校ホテルホスピタリティ学部卒。いくつかのブティックレストランを経て、1998 年ラスベガスの ホテルベラージオ入社。 ジェームスビアード賞を受賞したジュリアンセラーノ氏がシェフを務める、レストランピカソにてソムリエとして約 18 年間従事。2004 年に当時最年少にてマスターソムリエに合格。史上 149 人目の資格保持者となる。

1976年、北海道生まれ。国際ソムリエ協会  インターナショナルA.S.Iソムリエ・ディプロマ。2013年6月、ワインテイスター/ワインディレクターとして独立。世界各国を回りながら、最新情報をもとにコンサルタント、講師や講演、執筆などもこなしてワインの本質を伝え続けている。ワインだけでなく、日本酒、焼酎にも精通しており、ワインと日本酒を組み合わせた食事とのマリアージュにも定評がある。

ラスベガスのネバダ大学在学中に、Hotel Bellagioで勤務。そこでマスターソムリエの指導の下サーバーとして猛勉強し、サンフランシスコの有名レストランにてソムリエとして活躍。
2009年にジョシュア・スキーンズとパートナーシップを組み、Saisonをオープン。わずか5年でミシュラン三ツ星を獲得。現在はサンフランシスコとロサンゼルスに拠点を置くSaison Hospitalityのシーフードレストラン「Angler」のワインディレクター兼共同オーナーとして、Saison cellar wineのワイン醸造者として、そしてグループのソムリエとして活躍中。