『加温熟成解脱酒』に着想を得たペアリングメニューの開発に、福岡フレンチの雄・福山剛シェフが挑む。[加温熟成解脱酒・La Maison de la Nature Goh/福岡県福岡市]
ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ枠に囚われぬフレンチシェフが、未知なる日本酒とのペアリングに挑む。
古酒の香りとフレッシュな味わいを併せ持つ奇跡の酒『加温熟成解脱酒』。秋田の酒蔵『秋田酒類製造株式会社』が開発したその新たな酒にインスピレーションを得て、3名のシェフがペアリングメニューを考案してくれました。料理ジャンルも、歩んできた道も、活躍する地方も、そして料理へのアプローチも異なる3名。しかし確固たる独自の道を確立する3名。そんな料理人たちが、この『加温熟成解脱酒』からどんな着想を得て、どんな料理を組み立てたのでしょうか?
今回の登場は、九州で唯一2019年度の『アジアのベストレストラン50』に選ばれた福岡市『La Maison de la Nature Goh』の福山 剛シェフ。フランス料理を軸に据えつつ、枠に囚われない発想で自在な料理を生み出す九州の雄。そんな福山シェフは、『加温熟成解脱酒』をどう捉え、どんな料理と組み合わせるのでしょうか? 料理の至るまでの道筋とその胸の内に迫ります。
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ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ福山剛という料理人が、もっとも大切にすること。
福山シェフの料理をより多角的に理解するために、まずはその人となりを紐解いてみましょう。物心がついた頃から料理が好きで、小学生の頃の誕生日プレゼントに調理道具をねだるような子供だったという福山シェフ。高校在学中から福岡市のフランス料理店に勤め始めたのも、いわば当然の流れでした。初めて目にするプロのフランス料理のクリエーションに感激した福山シェフは、その世界に没頭。7年にわたりその店で腕を磨きます。
心境に変化が訪れたのは、中洲にあった馴染みのワインバーで働き始めたときでした。それまでは最先端のフランス料理、まだ世の中にない料理を作り上げることを目指していましたが、カウンター主体のワインバーでゲストの表情を見ながら料理をすることで、自分の理想とゲストのニーズのギャップに気づいたのだといいます。「それまでの“難しい料理を作る”という熱意は、いわば自己満足。シンプルで、お客さんが喜ぶ料理、それこそ自分が目指す道だと気づきました」
福山シェフ自身が「もっとも大事な経験」と振り返るこのワインバーでの気づきを経て、2002年に開いた『La Maison de la Nature Goh』。そこでは「お客さんが安心できる店、一度来た人が誰かを連れてきたくなる店」を目指しました。振る舞われる料理は、フレンチの技法をベースにしつつ、九州の食材や日本の調味料も取り入れた、気取らないもの。「自分が作りたいものよりも、お客さんが喜ぶもの」という福山シェフの言葉を証明するように、オープンから17年、すべてのゲストが食べたもの、飲んだもののリストがあり、それを元にコースを構成するのだといいます。
ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ
栄光を捨てて挑むさらなる挑戦も、ゲストの期待に応えるため。
少し遠回りですが、もう少しだけ福山シェフのことを紐解いてみましょう。開店17年を過ぎ、グルメの街・福岡でもトップクラスの人気を誇る『La Maison de la Nature Goh』は、2020年いっぱいで閉じられる予定です。それは福山シェフの、新たな挑戦のためです。
福山シェフには、互いに信頼し合う料理のパートナーがいます。その人物の名は、ガガン・アナンド氏。「アジアのベストレストラン50」で4年連続1位に輝いたバンコク『Gaggan』のシェフその人です。2015年にひょんな縁から出会った福山シェフとガガン氏。意気投合した二人はコラボレーションプロジェクト『GohGan』として年に3回ほどポップアップレストランを開催してきました。そしてそのコラボの集大成として、2021年夏頃を目処に『GohGan』を常設店として再スタートを切ることが決定しているのです。
九州でカリスマ的人気を誇る名シェフと、アジアのレジェンドシェフによるコラボ店の誕生。それは料理界を揺るがすビッグニュースでした。もちろん、来年50歳を迎える福山シェフにとっても大きな決断だったに違いありません。しかし福山シェフはこともなげにいいます。「みなさんが期待していることをしたいだけ。お客さんを喜ばせたいという気持ちは変わりません」どこで、誰と、何をしようとも、その福山シェフの根本だけは決して揺らぐことはないのです。
ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ表面的にはシンプル、口にすると奥深い。福山シェフの料理が酒を輝かせる理由。
「まず感じたのは、シェリーや紹興酒のニュアンス。日本酒というジャンルですが、シチュエーションを飛び越えて幅広い料理に合うと思いました」
『加温熟成解脱酒』を試飲した福山シェフは、まずそう感じたといいます。とりわけシェフの興味を引いたのは、紹興酒を思わせる角のない甘み。福山シェフはそのファーストインプレッションを信じ、中華のニュアンスを持つアプローチに決めました。さらに甘さを引き立てるためにフルーツを取り入れ、少しずつ料理は形になります。そもそも福山シェフのクリエーションは、食材や自身の経験を起点として生まれたイメージに肉付けしていく手法。料理書を参考にしないため、従来の枠は重要ではありません。大切なことは「食べた人が驚き、喜ぶ」というイメージだけ。
そうして『フォアグラ 洋梨 八角をきかせたソース』は完成しました。フォアグラと赤ワイン煮にした洋梨の甘みが『加温熟成解脱酒』に寄り添い、八角が醸すオリエンタルな香りが融合しかけた酒と料理を再び衝突させ、鰹節状にした干した鴨の日本料理的な旨みが再び酒と料理を歩み寄らせる。ただしその変化が時間差なくやってくるため、味は横幅ではなく縦に、つまり味の奥行きとして刻まれるのです。そして味の余韻が残る間に『加温熟成解脱酒』を口に含めば、フォアグラとソースの重厚感と酒の熟成感、フルーツの甘みと酒のフレッシュ感がそれぞれ合わさり、抜群の相性となるのです。
さらに福山シェフは、もうひとつの仕掛けを用意していました。それは料理ではなく『加温熟成解脱酒』側のアレンジです。シェフとソムリエが生み出したのは、『加温熟成解脱酒』をルイボス、ハイビスカス、ローズヒップなどをブレンドしたオリジナルハーブティーで割り、炭酸を少々加えたカクテル。解脱酒の持ち味である甘みと熟成感はそのままに、さらなる軽さと、華やかな香りを加えたのです。このカクテルもまた、料理と見事なペアリングを見せました。
福山シェフの経験と技、そして“おもてなしの心”が形となった『フォアグラ 洋梨 八角をきかせたソース』は、2019年冬のおまかせペアリングコースの1品として登場予定。これはフィナーレに向けてさらなる盛り上がりをみせる『La Maison de la Nature Goh』で重要な役割を担うことでしょう。ぜひその見事なマリアージュをご自身の舌で試してみてください。
住所:〒810-0002 福岡県福岡市中央区西中洲2-26 MAP
電話:092-724-0955
1971年生まれ。福岡県出身。高校在学中、フレンチレストランの調理の研修を受け、料理人の道へ。1989年、フランス料理店『イル・ド・フランス』で研鑽を重ね、その後、1995年からワインレストラン『マーキュリーカフェ』でシェフを務めた。2002年10月、福岡市西中洲に『La Maison de la Nature Goh』を開店。2016年には、九州で初めて「アジアのベストレストラン50」に選出された。西部ガスクッキングクラブ講師などを務める。