ポップアップで世界を沸かせるシェフユニットが遂に『DINING OUT』に。ガガン・アナンドシェフ×福山剛シェフの「GohGan」による二夜限りの宴。[DINING OUT RYUKYU URUMA with LEXUS/沖縄県うるま市]

福山シェフとガガンシェフ。楽しいこと、人を喜ばせることが大好きな2人は互いへの信頼関係も厚い。

ダイニングアウト琉球うるま琉球王国の交易の要衝・勝連を舞台に、土地に伝わる「おもてなし」の精神を2人のシェフが表現。

2020年1月18日(土)、19日(日)に『DINING OUT RYUKYU URUMA with LEXUS』が開催されます。今回、舞台となるのは、沖縄県うるま市。那覇空港から車で約40分、沖縄らしい海景色をはじめとする豊かな自然と、深い歴史を持つ土地です。世界遺産・勝連城跡が古の栄華を伝える勝連は、琉球王国時代、中国や東南アジア、そして当時、外国であった日本などとの交易で大きく栄えた地域。異国と交わることで高尚な文化が育まれ、沖縄最古の歌謡集「おもろさうし」で詠われた「気高さ、心の豊かさ」を意味する「肝高(きむたか)」が、美徳として人々の暮らしや精神に根付いています。さまざまな異文化が伝わる交易の要衝ゆえに育まれたおもてなしの姿勢もまた、土地の人々に受け継がれているもの。

『DINING OUT RYUKYU URUMA with LEXUS』の厨房を仕切るのは、そんなうるま、勝連という地を象徴するようなシェフユニット。タイ・バンコク『Gaggan Anand』のオーナーシェフ、ガガン・アナンドシェフと、福岡『La Maison de la Nature Goh』の福山剛シェフによる『GohGan』です。いわずと知れた世界的なシェフ2人。『Asia's 50 Best Restaurants』において4年連続1位に輝き、 Progressive Indian Cuisine(進歩的インド料理)を打ち出したガガンシェフと、九州で唯一、同アワードにランクインした福山シェフは、2021年、福岡に『GohGan』をオープンすることでもガストロノミー界の話題をさらっています。3年前、北海道虻田郡で開催された『DINING OUT NISEKO with LEXUS』を体験した2人が、満を持しての登場。うるまの地での二夜にかける想いを、それぞれの料理哲学とともに紐解きます。

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人を楽しませることが大好きなガガンシェフ。厨房を離れても、その姿勢は変わらない。

ポジティブで誠実、そして大らかな福山シェフのオーラは、周囲をぱっと明るくするかのよう。

ダイニングアウト琉球うるま毎日満席になる、地域に愛される店を。原点を貫きながら、世界の舞台へ躍り出たガストロノミー界の異端児。

2016年、『Asia's 50 Best Restaurants』に選出された『La Maison de la Nature Goh』。九州地区のレストランとしては初。加えて、開業から14年目を迎える店のランクインは、大きな話題を呼びました。ランクインまでの道筋も、まったくもってユニーク。世界の舞台を目指す料理人たちにとっては登竜門的なアワード。ゆえに、そこに照準を定めたシェフたちはコースの価格設定から皿数、しつらえからプレゼンテーションに至るまで『50 Best Restaurants』スタンダードで店づくりを行います。が、福山剛シェフは違いました。2002年の開業以来14年、ただただ“地元に愛される店”として年月を重ねてきたのです。
「Best50の存在は知っていたけれど、まったく意識したことなどなかった。10年以上どうにか満席を続けて来られたご褒美かな、と思ったくらいで」
いたずらっぽく笑いながらそう話す福山シェフの表情には、おごりはもちろん、余分な気負いも一切ありません。

福岡県朝倉郡生まれ。物心ついた頃から料理に興味を持ち、高校時代にはアルバイトとしてフランス料理店『イル・ド・フランス』で働き始めます。今はなき福岡のクラシックフレンチの名店。そこで7年間、腕を磨いた後、ワインレストラン『マーキュリーカフェ』でさらに7年修業。開業したのは31歳のときでした。
「フランス料理は、リピーターがつきにくいジャンル。どうしたら“また来たい”と思って頂けるか。九州の食材や和の調味料も取り入れ試行錯誤していくうちに、いい意味で料理がボーダレス化していった気がします」
店舗での営業第一、「満席主義」を掲げる福山シェフは、他の料理人とのコラボレーション、ポップアップ等には、長い間、まったく興味がなかったといいます。
「むしろ否定的だった。イベントでつくる料理は、完成度でいったら店で100回つくっているものには叶わない。コストもかかるから、ゲストの負担も増える。いいことないな、と」

2015年、ガガン・アナンドシェフに出会い、その考えが大きく変わります。福山シェフは、店の10年来の常連客である中国人男性に招かれて出掛けた上海のある高級レストランでガガンシェフと初めて顔を合わせます。それから数か月後、『La Maison de la Nature Goh』で、その中国人男性のバースデーパーティが開かれることになり、ゲストとして招待されて来福していたガガンシェフと再会。「バースデーパーティは、サプライズで一緒に料理をつくろうよ」というガガンシェフの提案を「いいね」と受け入れます。福山シェフ、ガガンシェフがともに信頼を置く、大切なゲスト、たった一人を喜ばせるために即興で組まれた一夜限りのユニット。

「僕もガガンもすごく楽しかったんですよね。何よりそのゲストがとても喜んでくれたことが2人ともうれしくて。これはクローズドなイベントにしておいてはもったいないな、と」
これが『GohGan』のはじまり。世界中から注目を集めるシェフのユニットは、かくも偶発的に、かつビジネス抜きの「おもてなし」からスタートしたというのですから驚きです。
福山シェフは、ガガンシェフから、そして『GohGan』の活動から、大きな刺激を得たと話します。

「元々がきっちり、粗相なくやりたいという性格。料理や食材に対して“こうあるべき”みたいな考えが強くあったけれど、ガガンはまったく違う。一皿をどう楽しませるか。その方法に“べき論”はないんです。視野が開け、料理に自由を与えられたと感じました」
コラボレーションに対する考え方もまったく変わったといいます。
「他の料理人の仕事を、実際の作業の流れの中で間近で見られる。すると調理の技術だけでなく、スタッフの指導の仕方、ゲストとの向き合い方、すべてが見え、自分自身の仕事を客観的に見られるようになる。それが店のステップアップにつながれば、お客様に還元できますよね」

すべて「お客様を喜ばせるため」。これは、福山シェフの変わらぬ姿勢です。『Asia's 50 Best Restaurants』にランクインした後もコースは6,000円と8,000円のまま。県外、海外からのゲストは増えたものの、今も7割が、長く店に通う地元福岡のゲストだといいます。店であれ、ポップアップの会場であれ、目の前にいるゲストを喜ばせ、満足させたい。周囲の評価が変わっても、福山シェフの気持ちは変わらないのです。

西中洲の路地の奥にひっそりと佇む『La Maison de la Nature Goh』。周囲は小さなバーやスナックなどが軒を連ねる古い町並みが残る。

独立前に勤めたワインバーで、ゲストと向き合う楽しさを覚えたという福山シェフ。店のしつらえはカウンターが中心に。ほか、増築してつくった個室もある。

鯖 巨峰 水前寺菜。唐津のサバを軽く塩で締めてから炙り、皮ごと薄切りにした巨峰、水前寺菜のおひたしを合わせて。サバのねっとりとした食感と巨峰の果実味のフレッシュさ、淡い旨みをまとった粘り気のある水前寺菜が一体に。

椎茸と焦がしバターのエスプーマ。ふっくらとした蒸し鮑に、その肝とほうれん草のリゾットと、椎茸のエスプーマ、焦がしバターを添えて。リッチな旨みが重なり合う。

ダイニングアウト琉球うるまインドの食文化を再解釈し、バンコクから世界へ。「進歩的インド料理」で、世界の頂点に。

福山シェフが、「料理界きってのエンターティナー」と、話すガガン・アナンドシェフ。祖国・インドの食文化を再定義するイノヴェーティヴな料理をアジアの国際都市、タイ・バンコクから発信し、『Asia's 50 Best Restaurants』で4年連続1位を獲得。2019年の『The World’s 50 Best Restaurant』では4位にランクインした、文字通り、アジアを代表する世界的トップシェフです。ガガンシェフが2010年に『Gaggan』を開業して以来、取り組んできたのは、インド料理の革新です。ガストロノミー界の伝説ともいえるスペイン・バルセロナ郊外の『エルブジ』での修業経験を活かし、モダンな調理テクニックと驚きに満ちたプレゼンテーションでつくり上げる料理は繊細で、エネルギッシュで、クリエイティブ。「Progressive Indian Cuisine(進歩的インド料理)」という新たなジャンルを世に打ち出しました。

ガガンシェフに改めて自身の料理哲学について尋ねると「なんでも調理してみること」との答えが。
「インド料理の伝統に縛られず、その時期の旬の食材、地元の産物をすべて見渡し、垣根なく取り入れる。それが私のフィロソフィーともいえる“5S”を支えています」
「5S」とは、Sweet (甘い)、 Salty(しょっぱい)、Spicy (スパイシー)、Sour(酸っぱい)、そして最後に加えられるのが「 Surprise(驚き)」です。
「この“5S”の料理が、私のスタイル。大きなポーションではなく、小さなサイズで一口ずつ味わって頂くことで、まるで花火のように、口の中のあちこちで、さまざまな味わいが爆発するような感覚を感じていただけるはず。この感覚を、楽しさを、料理を通じて伝えること。それが僕の目指すすべて、そして『Gaggan』そのものなのです」

そんなガガンシェフも、『GohGan』での活動から受けた刺激は、計り知れないと話します。福山シェフは「自分にとって、とても大切な人」とも。
「剛さんは本当に面白い人で、剛さんに出会ってから多くのことが変わりました。きっと、剛さんも私に会って変わったことがあるはず。つまり私たちは、お互いに刺激し合って、対等に、真にコラボレーションできる関係なのです。料理人のコラボレーションは珍しくない時代ですが、私たちのような関係は唯一無二ではないかと。『GohGan』での活動を誇りに思います」

福山シェフの日本・福岡だから生まれたフレンチと、ガガンシェフのインドをベースにしたテクニカルでボーダレスな料理。自由度は高いけれど、2つの揺るぎない軸がある。それが『GohGan』の新しさであり、ユニークさにほかなりません。そして、国籍も食の背景もつくる料理も違う2人が共有しているものが、「おもてなし」の気持ち。
ガガンシェフは2019年『Gaggan』を離れ、11月にバンコクの中心に開いた『Gaggan Anand』を新たな拠点に活動しています。「ラボであり、オフィスでもある」と話す空間は、オープンキッチンをテーブルが囲む形で、ゲストとの距離は、より密接に。シェフであるアナンド氏のエネルギッシュなオーラも、プレゼンテーションの一部になっています。

2018年、『GhoGan』で開催した佐賀県佐賀市でのイベントの様子。ガガンシェフは、サーブの直前まで盛り付けをチェック。

『Gaggan Anand』の外観。しつらえからサービスまで「型にハマらず」がスタイルだ。

1階の厨房はフルオープンで、全席シェフズテーブルのよう。赤いライトが妖艶な雰囲気。

ダイニングアウト琉球うるまカジュアル? ファインダイニング? うるまの二夜で、『DINING OUT』の歴史を塗り替える。

福山シェフとガガンシェフの話から浮かび上がるのは、2人にとっていかにお互いの存在が、そして『GohGan』での活動が大切なものだったかということ。それだけに、ポップアップとしては最後となる『DINING OUT RYUKYU URUMA with LEXUS』に賭ける想いは、並々ならぬものがあります。

11月、ガガンシェフに先駆け沖縄に第一回目の視察に出掛けた福山シェフ。今年2度目の沖縄だったとのことですが、その前に行ったのは15年以上前。料理人として改めて旅をしたことで、「産地としてのポテンシャルが見えて来た」と、話します。
「地理的には比較的近い九州で仕事をしているけれど、自然も食材も食文化もまったく違う。アジア諸国に旅したときのような感覚を覚えました。肉に魚、フレッシュハーブやスパイス、フルーツと、素晴らしい食材が多い。きっとこれは使いたがるな、と、ガガンの顔を思い浮かべながらの旅でした」

視察から福岡に戻った福山シェフは、翌日、バンコクに向かいました。
「彼の新しい店で食事をした後、沖縄で見てきた食材の情報を一通りシェアしました。『GohGan』では最終的にメニューが決まるのは本番の2、3日前なんてこともザラでしたが、今回はそういうわけにはいかないよね、と。ガガンがどこまでいうことをきいてくれるかはわかりませんが(笑)」
話す様子から、2人がもうすでに『DINING OUT』を楽しんでいる様子が伝わってきます。
2017年『DINING OUT NISEKO with LEXUS』を経験して以来、『GohGan』での『DINING OUT』は夢だったと、2人は話します。
「徳吉洋二シェフの料理は文句なしに素晴らしかった。ニセコのローカルな食材をベストな形で調理し、表現は非常にクリエイティブだった。そのときから“僕らならどうやる?”と、剛さんと話していたんです」

そう話すガガンシェフ、実は沖縄は未訪の地なのだとか。取材の後に予定されてた視察の旅への期待を次のように話します。
「タイと似たイメージを抱いています。トロピカルフルーツ、野菜、ヤギと、食材にも共通点が多い。酒の文化もユニーク。例えば素晴らしいラムがありますよね。それからいい蟹があるとも! 早く行きたくて仕方ありません」
真剣に一皿に向き合う料理も好きだけれど、自分はハッピーで楽しい「時間」を提供したい。その想いこそが、『GohGan』という稀有なポップアップユニットを生み出した、2人のシェフに共通する姿勢です。

「ファインダイニングでいくか、カジュアルにするか。ガガンとさんざん話をして“祭をやろう”と」
福山シェフは笑いながら話します。2人の料理人でやる意味、その2人が『GohGan』である意味。『DINING OUT』の歴史に、これまでになかった新章を加える意欲は満々です。
『GohGan』では、双方のスタッフがチームに加わりますが、『DINING OUT』では、さらに地元スタッフ勢が加わることにも期待を寄せます。

「私たち2人のチームだけでなく、地元のシェフ、サービススタッフみんなが主役。彼らとコラボレーションをして『DINING OUT』を共に創り上げたい。私たちは沖縄という土地からいろんなことを学ぶはずですし、地元の方々にも何かを残したい」と、ガガンシェフ。
「沖縄のみなさん、ぜひ大いに狂っていきましょう! そうでないと、私も剛さんもクレイジーな人間ですから、一緒にやっていられないですよ。覚悟しておいてくださいね」
ファインダイニングかカジュアルかではなく、「祭」を。その全貌は、1月の沖縄うるまで明らかになります。

『La Maison de la Nature Goh』のダイニングのエントランスには、ガガンシェフと福山シェフのマスコットが飾られている。

ポップアップユニット「GohGan」が、沖縄の食材でどんな驚きと感動を与えてくれるのか期待が募ります。

1971年生まれ。福岡県出身。高校在学中、フレンチレストランの調理の研修を受け、料理人の道へ。1989年、フランス料理店『イル・ド・フランス』で研鑽を重ね、その後、1995年からワインレストラン『マーキュリーカフェ』でシェフを務めた。2002年10月、福岡市西中洲に『La Maison de la Nature Goh』を開店。2016年には、九州で初めて「Asia's 50 Best Restaurants 」に選出され、2019年には24位にランクインを果たす。

インド コルカタ出身。2007年にバンコクへ移住し、その後レストランの料理長を務める一方、エルブジで研修を積む。2010年に開いたレストラン「Gaggan」では、エグゼクティブシェフを務め、Progressive Indian Cuisine(進歩的インド料理)を打ち出す。世界的注目が集まる「Asia's 50 Best Restaurants」において4年連続1位に輝き、2019年の「The World's 50 Best Restaurant」では4位を獲得。同年8月新たなチャレンジに向けてお店をクローズし11月に再始動をする。