フードキュレーターが発掘した全国の食材を、美しく味わい深いヴィーガンコースに。[FARO/東京都中央区]

写真はコース序盤でゲストの心を掴んだ「菊芋のミルフィーユ」。

フードキュレーションテーブル/ファロ食材のプロ・フードキュレーターと名店のヴィーガンコースの出会い。

フードキュレーターとは、全国津々浦々を歩き、その地の生産者と話し、自らの足と舌で食材を探す食材のプロフェッショナルのこと。
たとえば現在のガストロノミーなら、料理を管轄するシェフとワインを取り仕切るソムリエが支えるのが一般的。しかし食の多様化、グローバル化、持続可能な食材の追求などが進み、より広い視野で食を捉える必要がある昨今、このフードキュレーターが第三の主役として、ガストロノミーを支えることとなるかもしれません。

2019年12月、そんなフードキュレーターが見つけ出した食材に焦点を当てたディナーイベント『Food Curation Table with FARO』が開かれました。食材リサーチを担当したのは、過去17回開催されたプレミアムな野外レストランイベント『DINING OUT』を通し、日本各地の食材を見つめてきたフードキュレーター・宮内隼人。今回、第一弾としてタッグを組んだのは能田耕太郎シェフ率いるイノベーティブイタリアン『FARO』。コースは、能田シェフが追求するヴィーガンコース。日頃から日本各地の野菜や果物を探し歩き、そのポテンシャルをヴィーガンという世界で表現する能田シェフ。季節感、産地の個性、生産者の思いが如実に表れるこのヴィーガンで、フードキュレーションの意義と食材の素晴らしさを伝えることを目指しました。「通常のヴィーガンコースでも多くの食材を使用しますが、今回フードキュレーターに加わってもらうことで、100種以上の素晴らしい食材を使用できました」と話す能田シェフ。

『FARO』とフードキュレーターの出会いは、果たしてどんな料理に昇華されたのでしょうか。提供された料理の詳細やイベントの様子を余さずにお知らせします。

【関連記事】Food Curation Table with FARO/『DINING OUT』を支えた食材と名店『FARO』の出会い。この日、この場所だけでの至高のヴィーガンコース。

能田シェフはローマ『ビストロ64』のオーナーシェフとして3年連続ミシュラン一つ星を獲得した人物。

フードキュレーションテーブル/ファロ100種以上の食材を、ひとつのコースに集約する。

まず導かれたレセプションでは、フードキュレーター・宮内隼人が出迎えました。ゲストはウェルカムドリンクを傾けながら、フードキュレーションについてのスピーチに耳を傾けます。

フードキュレーターの役割は、全国各地の生産者のもとを訪ね、その食材について取材し、深く理解するのが一側面。そしてもうひとつの側面が、シェフ側のスタイル、理念を理解した上で、食材とシェフをつなぐこと。そうすることで食の新たなアウトプットを生み出すのが、フードキュレーターの役目だといいます。

「独自の基準で定めた各地の素晴らしい食材を私達は“ローカルファインフード”と呼んでいます。条件はいたってシンプルで、ひとつはその土地の風土に合っていること、もうひとつは取り扱う生産者の技術が卓越し、理にかなっていること。この2点を満たしたいわば“土地の資産”を広く体験していただくべく、今回このようなイベントを開きました」フードキュレーター・宮内は今回のイベント趣旨をそう話しました。

レセプションに続いて案内されて着いた席には、メニューではなく食材リストが置かれていました。あんがとう農園かぶ、鬼丸農園鬼丸りんご、黒木農園しろいし蓮根、柴田農園パースニップ……。そこにあるのは、フードキュレーターが全国各地から見つけ出した100種以上の食材名だけ。いまだ料理の全体像は想像さえもつきません。運ばれる料理への期待は、いっそう高まります。

まず登場したのは、いくつかのフィンガーフード。十五夜味噌と黒にんにくのディップで味わう根菜「ピンツィモーニオ」、シナモンの根に刺した「島バナナのフリット」、リンゴの香りをまとった「春菊と三福海苔の生春巻き」。カトラリーを使わず、手で触れて直接食材を感じることで、その力強い存在感が響きます。

続く「菊芋のミルフィーユ」は、菊芋のほのかな甘みにコーヒーの香りが奥行きを加え、「ビーツのカネデルリ」は、力強い酸味と濃厚な味わいが主張します。コースはまだ序盤。それでもゲストのほとんどが、従来のイメージを覆す『FARO』のヴィーガンの世界に心酔しはじめていました。

レセプションではフードキュレーター・宮内隼人がフードキュレーションについて解説した。

十五夜味噌と黒にんにくで味わう「ピンツィモーニオ」は、食材の味がダイレクトに伝わった。

「島バナナのフリット」と「春菊の三福海苔の生春巻き」。まずは手で直接触れて味わう。

貴重な国産シナモンの根は「誰もやっていないことに挑戦する」ことが理念の佐賀県・富田農園から。

酸味のある「ビーツのカネデルリ」は、ポルチーニが香る団子とともに。

ワインペアリングはイタリアワインの銘品を軸に、ノンアルコールはフードキュレーターが探したジュースや茶を合わせた。

フードキュレーションテーブル/ファロ食材にさまざまな角度で焦点を当てる多彩なアプローチ。

中盤から徐々に盛り上がりをみせるコース。続いての一品は、「じゃがいものスパゲティ」。低温で長期間熟成することで糖度を増した「倶知安じゃが五四○」を細切りにし、パスタのように味わう能田シェフの得意料理。トリュフの香りをまとった豆乳ベースのソースが、どっしりとした土の力を伝えます。続く「蓮根のラビオリ」は、海苔をあわせることで土の力強さと磯の風味が見事な調和を描き出します。
次なる料理は藻塩でカブを蒸し焼きにする「かぶの塩釜焼き」が登場しました。藻塩が浮き上がらせるカブの甘みとみずみずしさ。この料理を通して、カブの新たな魅力に気づいたゲストも多かったことでしょう。
そしてここで続いた三品は、すべて根菜。同じ根菜でありながら、異なるアプローチにすることで、それぞれがまったく別の魅力を放つ。能田シェフの技と食材への理解が改めて垣間見えた構成でした。

メインディッシュはステーキ。椎茸の名産地・大分県から届いた肉厚の原木椎茸を使う「原木椎茸のステーキ」です。絶妙な火入れにより、水分をしっかりと残しながら香ばしさもたたえたこの椎茸は、決して“肉の代用品”などではなく、この椎茸こそがこの構成の唯一解であると思わせる確かなおいしさを湛えていました。

「おいしいと思ってもらうこと。料理人として、まっすぐにそこだけを目指しました」と、能田シェフの信念はいたってシンプル。続く「干し柿とヴィーガンチーズ」の優しい甘さが椎茸の余韻を包みながら、能田シェフのパートは続く加藤峰子シェフパティシエへと受け継がれます。

味、香り、テクスチャ。さまざまな表情を見せるヴィーガン料理がゲストの心を捉えた。

「じゃがいものスパゲティ」は通常コースでも登場する能田シェフのシグネチャーディッシュ。さらに卓上で白トリュフを振りかけ、贅沢な味わいに。

「蓮根のラビオリ」。ねっとりした皮と歯ごたえのある餡という食感のコントラストも魅力。

「かぶの塩釜焼き」。ほのかな塩気により、カブ本来の甘みがいっそう際立った。

「原木椎茸のステーキ」。肉厚の大分県産椎茸のジューシーな旨みが光る一品。大分県でクヌギ原木栽培を続ける『山や』から自慢の一品が届いた。

フードキュレーションテーブル/ファロ伝統を再解釈して落とし込む美しきヴィーガンデセール。

エグゼクティブシェフ・能田耕太郎氏とともに『FARO』を支えるのは、シェフパティシエ・加藤峰子氏の存在。加藤氏が手がけるヴィーガンデセールで、コースはフィナーレへと向かいます。「伝統をヴィーガンに落とし込むには、かなりの実験が必要。簡単ではありません」加藤氏はそう話します。しかしその難しさは、加藤氏にとって楽しみでもあります。「スイーツという嗜好品からヴィーガンを考えるのもおもしろいですよね」そういって、新たな料理開発に挑みます。
そんな加藤氏が手がけたプレデセールは「パースニップのラビオリ」。上にはパースニップと生姜のクリームをしのばせ、じんわりとおだやかな甘みを作り出しました。バラやカルダモンのほのかな香りも、味の広がりを演出します。
デセールは日本で唯一のスペシャルティコーヒーとウワミズザクラが主役。コーヒーの薄い飴の下にコーヒーの果実であるカスカラのゼリー、その下にウワミズザクラの実を使ったアイスクリームとコーヒーを詰めたチョコレート。多重奏の味わいがありながら、そのすべてを上質なコーヒーが包み込み、全体の統一感も演出。加藤氏が他に代えがたいシェフパティシエであることが、この一皿から存分に伝わります。

「日頃は生産者の人を見た上で、食材ではなくその生産者自身とコラボレーションをしています。だから今回は(フードキュレーターの)宮内さんとコラボレーションしたつもり。宮内さんの目を通して見たものから、さまざまなアイデアをもらいました」加藤氏はそう振り返ります。

伝統のベースの上に独自の解釈を加えたクリエーションが加藤峰子シェフパティシエの真骨頂。

飴、ゼリー、アイス、チョコレート。複雑な味わいをひとつにまとめる加藤氏の技術が光る。

日本で唯一スペシャルティコーヒーの認証を受ける沖縄県『アダファーム』のコーヒーを使用。年間50kgしか収穫されない幻のコーヒーだ。

「プチフール」は22種ものハーブを使った爽やかなタルト。

フードキュレーションテーブル/ファロヴィーガンは制限ではなく、可能性の追求。

目に美しく、ボリュームもあり、バラエティ豊かに繰り広げられたヴィーガンコース。体験したゲストに共通するのは、ヴィーガンのイメージが根本から覆される思いだったかもしれません。
ヴィーガンが浸透しきれていない日本では、ときに精進料理のように「我慢するもの」として、あるいは肉や魚や乳製品の味に似た代用品を探すものとして受け取られることがあります。しかし、この日伝えられたのは、おいしさを大前提としたヴィーガンの魅力でした。

「動物性食材を使わないことを“制限”だと思ううちは、ヴィーガンをやるべきではありません。世の中には無数の食材がありますが、一度のディナーで使うのは多くても数百種類。それこそ使い切れないほどの食材があるわけですから」能田シェフはヴィーガンコースを手がけることについて、そう話しました。料理人として、おいしさを追求する上で、ヴィーガンは決して制限ではないのです。

そしてそんな能田シェフ、加藤シェフパティシエの期待に応えるだけの食材は、まだまだ日本に眠っているのです。そんな食材のポテンシャルにも改めて目が向く一夜でした。

大きな拍手とともに幕を閉じた第一回の「Food Curation Table」。まだ見ぬ日本の素晴らしい食材を掘り起こし、その魅力を伝えるフードキュレーター。その意義を伝えるべく、今後もさまざまなレストランとタッグを組み、食材のポテンシャルが輝く料理としてお届けする予定です。次回の開催にもぜひご期待ください。

フィナーレでは能田シェフ、加藤シェフパティシエが登場。シャイな能田シェフだが、ヴィーガンへの思いの丈を言葉にして伝えた。

会場には「アジアのベストレストラン50」のチェアマンを務める中村孝則氏の姿も。

1999年に渡伊。2007年までイタリアの名店で修業を積み、その後、現地でシェフとして活躍。2013年、「ノーマ」(コペンハーゲン)など最高峰の北欧料理店での研修を経て再びイタリアへ。自身が共同経営するローマの「bistrot64」では、ネオビストロのスタイルで人気を支える。2016年11月『ミシュランガイド・イタリア 2017』 にて二度目の一ツ星を獲得。イタリア料理のシェフとして二度の評価を得るに至った初の日本人となる。2017年には「テイスト・ザ・ワールド(アブダビ)」の最終コンペティションにローマ代表として出場し優勝。「ファロ」では、風情や旬を大切にする日本文化の中、イタリアで培ってきたことを東京・銀座で発揮し、自身の感性とチーム力で“お客さまが楽しむレストラン”を創り上げていく。

デザイン、美術、現代アートやモノづくりに興味を持ち、食の分野からパン・お菓子の道を選び進む。約10年間、「イル ルオゴ ディ アイモ エ ナディア」「イル・マルケジーノ」「マンダリンオリエンタルミラノ」(ミラノ)、「オステリア・フランチェスカーナ」(モデナ)など、イタリアの名立たるミシュラン星獲得店にてペイストリーシェフを勤める。「エノテカ・ピンキオーリ」(フィレンツェ)のチョコレート部門を経験。「ファロ」では、旅するように"特別な体験として脳裏に残るようなレストラン"を目指し、日本の自然や和のハーブをリスペクトしたデザートを提案。自家製酵母など原材料からこだわり、メニュー開発に取り組む。

住所: 東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル 10F MAP
電話:0120-862-150/03-3572-3911
※電話予約受付は11:00~22:00(営業日のみ)、2ヵ月先の月末分まで。
営業時間:ランチ/12:00~13:30(L.O.) , ディナー/18:00~20:30(L.O.)
定休日:日曜・月曜・祝日・夏季(8月中旬)・年末年始
https://faro.shiseido.co.jp/