岡山の「まち」に泊まり、その文化と空気を心身に染み渡らせる。[A&Aジョナサンハセガワ/岡山県岡山市]

岡山市の歴史文化ゾーンに現代美術アーティストと日本人建築家のコラボレーションによる宿泊施設を配置していくプロジェクト「A&A」。その第1弾となる2棟のうちのひとつ。(photo: Yoko Inoue)

A&A ジョナサンハセガワアートと建築が呼応し、相互作用して生まれた新たな存在。

世界に向けて開かれた瀬戸内の要衝であり、土地そのものにも深く長い歴史が息づいている岡山市。
そんな文化資源にあふれた地に、約20年もの歳月をかけて世界レベルの現代アート作家と建築家が協奏した宿泊施設を配置していく――そんな壮大な計画が、公益財団法人石川文化振興財団が進めるプロジェクト「A&A」です。
 
今回ご紹介するのは、その第1弾としてオープンした2軒のうちの1軒。アーティストとアーキテクト(建築家)の名を冠した『A&A ジョナサンハセガワ』です。
 
建物の世界観を演出するアーティストには、模倣という手法の中に創造性を見いだす作風で知られるジョナサン・モンク氏を。そして氏の「アートとは即ちアイデアそのものである」というポリシーと協奏するアーキテクト(建築家)には、ハーバード大学デザイン大学院・カルフォルニア大学ロサンゼルス校・メンドリジオ建築アカデミーの客員教授を歴任している長谷川 豪 (はせがわ ごう)氏が迎えられました。
 
2人のアーティストとアーキテクトの協奏が生み出した新たな「建築作品」の魅力を、たっぷりとお伝えします。

【関連記事】A&Aリアムフジ/アーティストとアーキテクト(建築家)の協奏がホテルを「作品」へと昇華。

1棟建てプライベートタイプの建物は、複合的な要素をはらみながら強烈な個性と存在感を放っている。(photo: Yoko Inoue)

A&A ジョナサンハセガワ岡山の「まちに泊まる」体験を経て、多くを知り、そして感じる。

『A&A ジョナサンハセガワ』のコンセプトは、岡山の「まち」を模倣して再解釈すること。その試みが、新たな「岡山のまち」の魅力を見つけ出せる空間となっています。
モンク氏の斬新な発想は、長谷川氏のハイレベルな技術と建築に見事に溶け込んで、相互作用を奏でつつ昇華。そうして織り成された構造の中でも目を惹くのは、全く異なる個性を持つ3つの空間がゆるやかに連携している点です。
 
天井が低く落ち着いた雰囲気が漂う寝室と、庭と一体化した縁側のようなエントランス。そして展望台のような爽快な高さと眺めを誇る浴室の3つのスペースが、異なる視座から岡山の街並みの存在感を際立たせ、街の隙間を駆け巡る光や風までをも体感させてくれます。
 
さらに美術館などの文化施設が集約し、「日本三大庭園」のひとつ『後楽園』を旭川越しに眺めることができるロケーションが、『A&Aジョナサンハセガワ』という建物をラグジュアリーな展望スポットとしています。

かつて敷地内にあった建物の形状を再現し、その間に新しい構造体を1つ挿入。全く異なる個性を持つ3つの空間を行き来することで、異なる視座から岡山市の街並みを鑑賞できる。(photo: Yoko Inoue)

個性的な浴室からは日本三大庭園のひとつである後楽園を旭川越しに眺めることができる。(photo: Yoko Inoue)

A&A ジョナサンハセガワプロジェクト「A&A」が広げる新たなムーブメント。

こうして『A&Aジョナサンハセガワ』は、単なるアーキテクト(建築家)の手を借りて立体化したアーティストの芸術でもなく、単にアーティストのセンスを組み込んだアーキテクトの建築でもない、新たな「建築作品」として結実しました。
そんな稀有(けう)な存在が、今後も公益財団法人石川文化振興財団が進めるプロジェクト「A&A」によって続々と生み出されていく予定です。
 
アーティストとアーキテクトの協奏によって、新たな作品=宿泊施設を生み出す。さらに、そこにゆったりじっくり滞在してもらうことで、岡山の文化と風土にインスパイアされたコンセプトを肌で感じながら、岡山そのものの魅力に浸ってもらう――そんな幾重にも感動を生み出す体験が、プロジェクト「A&A」を機軸に広がっていきます。
 
芸術家によるアートであると同時に、建築家による建築でもあり、鑑賞対象としても、体験可能な施設としても成り立つ新たな存在。そんな特別な「空間」の創出に、今後も期待を隠せません。

「完全なオリジナル」を制作することはほぼ不可能であるという考えのもとに、一貫して「模倣」という手法を制作に取り入れてきたモンク氏のコンセプトを、見て、泊まって体感する。(photo: Yoko Inoue)

あまたの建築賞を受賞してきた長谷川氏の造形の妙に、時を忘れて浸ろう。(photo: Yoko Inoue)

住所:岡山市北区出石町1丁目6番7-1号 MAP
電話:086-206-2600 (A&Aフロントデスク)
チェックイン: 10:00 (最終チェックイン:17:00) 
チェックアウト: 12:00 
宿泊者数:最大4名(1棟)
料金:97,500円~(税サ込)
https://a-and-a.org/jonathan-hasegawa/
写真提供:公益財団法人石川文化振興財団

アーティストとアーキテクト(建築家)の協奏がホテルを「作品」へと昇華。[A&Aリアムフジ/岡山県岡山市]

約20年かけて、岡山市内に世界レベルの現代アート作家と日本人建築家のコラボレーションによる宿泊施設を散りばめていく計画。その先陣をきる2軒のうちの1軒。(©MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)

A&Aリアムフジ豊かな空間体験を通して芸術への理解を深める。

近年、日本各地に増えつつある土地ごとの歴史や文化を映しとったホテル。それを現代美術アーティストとアーキテクト(建築家)の協奏によって、さらにハイグレードな「作品」へと昇華した存在が、ここ岡山に誕生しました。

その名は『A&Aリアムフジ』。
岡山の芸術文化の振興と地域活性化を目指すプロジェクト「A&A」の第1弾で、グローバル戦略ブランド『koe (コエ)』などを展開する株式会社ストライプインターナショナルの代表取締役であり、『公益財団法人石川文化振興財団』の理事長でもある石川康晴氏がプロデュース。さらにディレクターにギャラリストの那須太郎氏、アドバイザーに建築家の青木淳氏を迎え、宿泊をアートとして体験してもらうことを目指しています。

アート作品として創られた宿泊施設に滞在し、その空間ごと「体験」してもらうことで、芸術への理解を深めながら岡山市を“滞在型都市”へと発展させていくことが目標。(©MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)

贅沢な1棟建ての内部に座せば、アーティストとアーキテクトの想いと、岡山という土地が放つ空気感までをも体感できる。(©MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)

A&Aリアムフジ土地・アーティスト・アーキテクトが織り成す新たな形の「建築」。

『A&A リアムフジ』を担当したのは、NYを拠点とするアーティストのリアム・ギリック氏と、日本の建築設計事務所『MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO』。
構造は主要なマテリアルとして用いた岡山産の巨大なヒノキ集成材「CLT」。これを田の字に組んで、構造フレームとしています。さらに「田」の字を微妙にずらしながら三段積み上げることで、立体的かつ複雑な経路網が折り畳まれた「迷いの空間体」を生み出しています。

この独特かつ様々な想像をもたらす建築家による構造は、グローバリゼーションやネオリベラルの合意性を枠組みとした場合の、抽象化と建築の視点におけるモダニズムの遺産の機能不全な側面を明るみにする、ギリック氏の精神性と共鳴するものです。

ギリック氏の創造の出発点は、地球温暖化の研究家としてあまたの功績を残した気象学者・真鍋淑郎(まなべしゅくろう)氏が導き出した気象学的方程式ですが、ともすれば政治的な議論の対象になりがちなこの問題を、純粋な科学的分析によって理解を促し続けた真鍋氏の活動に敬意を表して、『A&Aリアムフジ』という「作品」を氏へのオマージュとしています。

そしてアーキテクト(建築家)たる『MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO』の原田真宏(はらだ・まさひろ)氏と原田麻魚(はらだ・まお)氏は、こうしたギリック氏の想いを「社会の確信(盲信)を揺らがせ、再思考させる“迷い”のトリガー」と解釈し、建築デザインで受けとめました。

こうして生まれたシンプルでありながらも立体的で複雑な空間は、ほぼ全ての建築デザインが国内外の賞を受賞している『MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO』ならではの、「思想の立体化」とも言うべき快挙となっています。

アーティストによる芸術であると同時に、建築家による建築でもある「作品」。そして鑑賞対象としても、体験可能な機能としても成立している。(©MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)

アートや彫刻を創り、並べるように、岡山市内に「A&A」の宿泊施設を点在させていく。(©MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)

滔々アーキテクトとアーティストがつくり出した迷いの中で思索する。

「A&Aリアムフジ」の建築は、建築家とアーティストが互いのプロフェッショナルな領域を尊重しながらも、「パラレルプレイ(発達心理学で言う「平行遊び」)」的な手法によって立体化することを目指しています。それがさらに岡山という土地が持つ歴史的・文化的な文脈やグローバルな諸問題からのインスピレーションを得ることで、滞在する人々は多くの要素から構築された空間で「迷いながら思索する」という特別な時間を楽しむことができます。

岡山市は世界に通じる瀬戸内の玄関口であり、新進気鋭の芸術祭・『岡山芸術交流』の舞台でもあります。さらに日本の近代建築に多くの影響を与えた前川國男氏の設計による岡山県庁を擁(よう)し、“アートの島”として世界的な注目を集めている直島をはじめとする瀬戸内の島々にも近いなど、国内でもまれに見る文化資源に恵まれた地となっています。

そんな岡山市に滞在して、その魅力を深く知ることで、さらなる気づきと感動を広げていく――そんな新たなムーブメントが、この『A&A リアムフジ』とプロジェクト「A&A」を軸に生み出されようとしています。

「街の中に置かれたアート」としての宿泊施設が、その意味を問いながら「岡山」と共振していく(左:©MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)(右:©Yoko Inoue)

住所:岡山市北区天神町9番2-1号 MAP
電話:086-206-2600(A&Aフロントデスク)
チェックイン: 10:00 (最終チェックイン:17:00) 
チェックアウト: 12:00 
宿泊者数:最大4名(1棟)
料金:95,700円~(税サ込)
https://a-and-a.org/liam-fuji/
写真提供:公益財団法人石川文化振興財団