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王朝時代の交易の要衝、世界遺産・勝連城跡を舞台に、世界を沸かせるシェフユニット、最後のポップアップ。[DINING OUT RYUKYU-URUMA with LEXUS/沖縄県うるま市]
ダイニングアウト琉球うるま交易の地が育んだ「肝高」のスピリットを、国籍を超えた料理人ユニットと厨房チームが現代に蘇らせる。
1月18日(土)、19日(日)、通算18回目、昨年に引き続き沖縄で『DINING OUT RYUKYU URUMA with LEXUS』が開催されました。舞台となったのは県南東部のうるま市に残る世界遺産・勝連城跡。古くからの海運の要衝で、15世紀には琉球王朝と拮抗する栄華を誇った勝連。さまざまな国の人々を受け入れ、文化に寄り沿うことで発展をしてきた土地には「気高さ、心の豊かさ」を意味する「肝高(きむたか)」の精神が今も根付いているといわれています。今回の『DINING OUT』のテーマは、この「肝高(きむたか)」、そして交易の地に伝わる「おもてなし」。厨房を預かるのはそのテーマにこれ以上ないほど相応しいシェフユニット『GohGan』です。
『Asia's 50 Best Restaurants』において4年連続1位に輝いた、現在はタイ・バンコク『Gaggan Anand』を率いるガガン・アナンドシェフと、九州で唯一、同アワードにランクインした福岡『La Maison de la Nature Goh』の福山剛シェフによるポップアップユニット『GohGan』。2021年以降、福岡に共同でレストランをオープンすることも大きな話題を呼んでいます。料理がすべて決まるのは本番直前、ライブのグルーヴとサプライズな演出で知られる『GohGan』のパフォーマンスが、勝連の地でどのように花開くのか。関係者を含め、誰も予測ができぬまま本番を迎えた、二夜の様子をレポートします。
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ダイニングアウト琉球うるま琉球開闢の伝説に縁ある島がレセプション会場に。
沖縄には琉球王朝開闢にまつわる土地がいくつかありますが、そのひとつが沖縄南部・浜比嘉島。この島に降り立ったアマミキヨ(アマミチュー)とシネリキヨ(シルミチュー)、男女の祖神が居住したといわれる「シルミチュー」という場所は、今も霊場として祀られています。今回の『DINING OUT』では、この浜比嘉島がレセプション会場に。
到着後、浜辺でウェルカムシャンパーニュを楽しむゲストの前に、ホストを務める中村孝則氏が登場します。中村氏が身にまとっているのは15世紀に勝連を収めた武将「阿麻和利」の装束を再現した衣装。本番前に何度も開催地を訪れ、土地への理解を深めるとともに、歴史や風俗にまつわるさまざまなものを自ら取り入れて、ゲストをもてなすのが中村氏のスタイルです。自己紹介を簡単に済ませた中村氏は、勝連で行われる『DINING OUT』の成功を祝して乾杯の音頭を取ります。
「沖縄では今もたくさんの神話が言い伝えられていて、人々の生活に信仰が深く根付いている。そのあり方を皆さんに知って頂くため、今日はシルミチューへのお参りを行いたいと思います」
中村氏の声かけで、グラスを置いたゲストから順に、森へと続く石段に向かいます。一段、また一段と登るにつれ、神秘的な空気に包まれ、百段近くある石段の最上段に近づくと、鉄の柵に囲われた鍾乳洞が見えてきます。これが「シルミチュー」。通常は見学できない洞窟の内部を、この日は特別に見せてもらいました。ゲストは順番に洞窟の中に入り、しばし立ち止まり、厳粛な面持ちでそれぞれの祈りのときを過ごします。
単なる野外レストランではなく、土地の歴史と文化に触れ、食文化が育まれた背景に迫るのが『DINING OUT』の醍醐味。海を眺め、森に分け入ることで浜比嘉島、ひいては勝連の人々の祖を敬いながら、進取の精神で土地を発展させてきた、その歴史の一端と精神性に触れられる、貴重なひとときとなりました。
「シルミチュー」を参拝したゲストを乗せ、送迎のLEXUSは浜比嘉島を後にし、ディナーの本会場へ。経由する平安座島と勝連半島を結ぶ5.2キロの「海中道路」はうるま市を代表する名勝地。1月にしては肌寒い生憎の曇り空ながら、海の上を滑るようなドライブが、ディナーへの期待を高めます。
ダイニングアウト琉球うるま四方に展望が開けた勝連城跡の丘に現れたレストラン。
到着したのは、世界遺産・勝連城跡。15世紀、王権を強固なものにしつつあった琉球王国に最後まで抵抗した按司「阿麻和利」の居城で、沖縄の世界遺産の中で最古のグスクとして知られています。城は四方に展望が開けた丘を取り囲んで築かれており、防衛、交易の両面で良好な立地であったことがわかります。中国をはじめ、東南アジア、日本(本土)との海外貿易で栄華を極めた歴史があり、もっとも高い場所に築かれた「一の曲輪」から周囲を見渡せば、当時の情景が思い浮かぶかのようです。
闇の中に浮かび上がる白いテントが、この日のディナー会場。テーブルは、背後にフルオープンの厨房を従え、目の前に勝連城跡を望むという贅沢なレイアウトです。サービスの開始が近づくにつれ、キッチンが心地よい緊張感と活気に包まれていくのは『DINING OUT』の常ですが、この夜の熱量は格別。厨房そのものがふつふつと沸くかのような熱気がたぎっています。その渦の真ん中にいるのがガガン・アナンドシェフと福山剛シェフ。
2017年、『DINING OUT NISEKO with LEXUS』にゲストとして参加して以来、いつかは自分たちの手でと夢見た念願の舞台。同時に2015年から12回の開催を重ねてきたポップアップユニット『GohGan』としては最後のパフォーマンスとなります。この記念すべき夜を見届けたい。テーブルに着席したゲストの期待値が最高潮を迎えた頃、いよいよディナーがスタートします。
ディナーのはじまりに、中村氏の紹介で一人の男性がゲストの前に登場します。泡盛メーカー『忠孝酒造』の代表、大城勤氏。この日は2017年の泡盛鑑評会で沖縄県知事賞を受賞した『忠孝酒造』の貴重な長期熟成の泡盛が乾杯酒として振る舞われました。一斗の甕からカラカラ(陶製の酒器)に泡盛を汲みながら、大城氏が説明をします。
「甕の中の泡盛は、最短で17年、長いものでは30年以上熟成したものがブレンドされています。熟成した泡盛のことを古酒(くーす)といいますが、古酒は琉球王朝時代でも大変に貴重なもので、このちぶぐゎーと呼ばれる小さな酒器で少しずつ、大事に楽しまれていました」
ゲストの前ににちぶぐゎーが用意され、カラカラを持ったサービススタッフが、テーブルを回りサーブします。
「年月を刻む古酒は、子の誕生を祝ったりと、家族や親族、人と人との絆を深める酒でも。今宵、お集まりの皆様が絆で結ばれますように」
琉球王朝時代から泡盛が果たしてきた役割を告げる言葉が、乾杯の音頭に。そして同時に勝連城跡が幻想的にライトアップされました。
ダイニングアウト琉球うるま沖縄発アジアへ。一心同体の厨房から繰り出された15皿のコース。
「ようこそ、暑い沖縄へ」と、ガガンシェフが挨拶をすると、テーブルから笑い声が沸き上がります。日没後の気温は10度前後という肌寒さでしたが、会場のムードは一気に温まった様子。福山シェフが「今日がGohGanとしての最後の日。一緒に楽しみましょう!」と、さらにゲストを盛り上げます。
料理の準備をしに厨房に戻った2人に替わり、中村氏がコースの説明に入ります。手元に絵文字で綴られたメニューが用意されていること、最初の数品は「バイト」と呼ばれる手で食す料理が続くこと。全15皿のコースには、ガガンシェフの料理哲学ともいえる「5S」が散りばめられていること。
「5Sとは、Sweet (甘い)、 Salty(しょっぱい)、Spicy (スパイシー)、Sour(酸っぱい)、そして最後が「 Surprise(驚き)」です」
ちょうどその説明が終わる頃、一皿目がテーブルへと運ばれてきました。ガガンシェフのスペシャリテの一つ、「ヨーグルトエクスプロージョン」。球状のゼリーをハーブのチップと一緒に口に入れると、口の中でスパイシーなヨーグルトが弾けます。
二皿目は「3種のリキットアップ」。カラフルな野菜パウダーに隠れているのは、柚子やレーズンのスパイシーなチャツネと、田芋でつくる沖縄伝統料理「ドゥルワカシー」。カトラリーなどは使わず、皿を舐めて食べるガガンシェフのもう一つのスペシャリテです。会場は一瞬、どよめきに包まれますが、意を決したゲストたちがトライし始めると、一気に空気がほぐれたのを感じます。
「カルカッタに生まれ、スペインで料理を学び、バンコクで店を開いたガガン。さまざまな民族と文化の中で生きてきましたが、“食べる”ときは誰もが同じく、平等であるようにという想いが込められた一皿です」と、中村氏。
国ごとに違う食器の文化も、階級で異なるテーブルマナーも関係なし。体の一部である舌で、味わう。現代のパブリックなシーンでは“ありえない”プリミティブな食体験が、テーブルを囲む人々の垣根を取り払います。
パンチの効いた冒頭の2皿で、『GohGan』の何たるかを知ったゲストは、リラックスしてコースの流れに身を委ねます。ガガンシェフのカラーが全面に出た皿が続きますが、沖縄の食材や郷土料理をベースにした味づくりは、数回の事前視察を経て、食材選びなどの土台を固めた福山シェフの仕事あってこそ。「どの皿が誰の料理」ではなく「2人でつくる1皿」が淀みなく流れ、11回のポップアップイベントを重ねてきた『GohGan』の底力を鮮やかに披露し続けます。
インドの伝統菓子・ゲイヴァとジーマミー豆腐を合わせた「ジーマミーゲイヴァ」、福山シェフの鮑のスペシャリテをベースにした「蒸し夜行貝 肝のソース」。沖縄のスパイシークラブとハーブ山羊を使った2種のカレー。山羊のカレーは、ガガンシェフが父親のレシピでつくったものが、福山シェフによるジューシー風のビリヤニとともに供されます。厨房から「お代わり食べたい人、まだあるよ!」という声が飛んだのは、『DINING OUT』史上、初めてのことではないでしょうか。見たこともない形状、味わったことのない食感、やや派手めなプレゼンテーションで皿の数だけゲストを驚かせながら、過ぎゆく時間は、家族や親族、大切な仲間が絆を深める食卓の和やかさでした。
ダイニングアウト琉球うるま皿の上だけでなく、場が担う役割を過去から、未来へ。
ディナーの中盤に、ライトアップされた勝連城跡を舞台に現代版組踊「肝高の阿麻和利(あまわり)」が披露されました。演者は、地元の中高生たちです。
勝連城が海外交流で最も盛んだった今から約560年前の昔、その時代を創り上げた一人の英雄「阿麻和利」。勝連城の繁栄に大きな役割を担った10代目城主「阿麻和利がここ勝連城で見た景色と異文化との交流」という今回の『DINING OUT』のテーマを体現する演目でした。「肝高」の精神性が現代まで継承され、溌溂と歌と舞いを披露する姿に、惜しみない拍手が贈られます。
デザートまでサプライズは続きます。豆花やタピオカを浮かべたパイナップルのスープ、フレッシュのアテモヤを使った「陰と陽」、2皿のデザートを手掛けたのは台湾で活躍する日本人パティシエ・平塚牧人氏。スペインの『カンロカ』、シンガポールの『アンドレ』などの名店を経て、現在、台中のグランメゾン『ル・ムー』のシェフパティシエを務める平塚シェフは、2017年以来、『GohGan』のポップアップでデザートを担当していて、この日も沖縄に駆けつけてくれたのです。さらに、平塚シェフからとっておきのデザートが。
「『GohGan』ポップアップの最後の日は、新たな船出に向けてガガンシェフと福山シェフの結婚式を」と、「G」の文字をかたどったウェデイングケーキを用意してくれたのです。ケーキの前に並び、ファーストバイトを促す福山シェフを交わし、一人、先につまみ食いをするガガンシェフ。漫画のようなやりとりまで、阿吽の呼吸。2人のシェフの表情にも、安堵と達成感が見て取れます。
長くポップアップユニットとして活動してきたけれど、『DINING OUT』という舞台は「容易なものではなかった」。二夜を振り返り、2人のシェフは口をそろえます。「だからこそやってみたかった。その結果、得たものは大きい」と、ガガンシェフ。
「この7年で90回も日本に来ているけれど、沖縄は日本の他の地域とはまったく文化が違う。食材でいえば、良質なハーブやスパイスがたくさんあり、とりわけカレーリーフや唐辛子は素晴らしく、今回の料理の重要な素材となった。山羊の味も素晴らしく、本気でタイで飼育したいと考えたほど。山羊のカレーだけは、他のスタッフには触らせず、一人でつくりました。ここで生まれた料理、沖縄のスタッフと働いて得たものは、バンコクの店での、そして福岡に生まれる新しい『GoGan』での仕事に、必ず繋がっていくと思います」
福山シェフは「最後のポップアップ『GohGan』ということで、寂しい気持ちになったりするのかな、と思ったけれど、ガガンとの仕事は最後までただ、ただハッピーでした」と、清々しい表情で話します。
「最初は僕とガガン含め、4、5人で始めた『GohGan』が、沖縄のスタッフ、『DINING OUT』スタッフや関係者の方々、200人ものチームで一丸となれた。まずはこのことに感無量です。いつもはぱっと現場に入り、すぐ本番、ということが多いのですが(笑)、今回は、食材視察の時間も頂き、僕たちなりに感じて、2人で共有したストーリーをコースに盛り込むことができたんじゃないかなと。食材にしても、人の優しさにしても、沖縄から受けた刺激は大きく、アジアはだいたい回っているけれど、久しぶりにいいショックを与えてくれる土地でした。今回、サポートして下さった皆さんのためにも、これからも、沖縄と関わり続け、一緒に何かして行けたら、と思います」
地域の食材や食文化という価値を掘り起こす『DINING OUT』にとって、土地のどの素材を選び、どのような考えの下に調理をするかは、毎回、大きな課題となります。ですが今回、『GohGan』がこの二夜で叶えたものは、皿の上の表現にとどまりませんでした。国籍の異なる人々が集まり、泡盛の盃を交わして、食の場で、人種や国籍を超えた交流の場を共有すること。チーム・ガガンとチーム・福山に、地元沖縄のスタッフも加わった厨房スタッフも、実に国際色豊かな顔ぶれ。交易で栄え、異国の人々をもてなした、ありし日のように。勝連という土地が担った役割を、二夜に蘇らせたのです。
インド・コルカタ出身。2007年にバンコクへ移住し、その後レストランの料理長を務める一方、『エルブジ』で研修を積む。2010年に開いたレストラン『Gaggan』では、エグゼクティブシェフを務め、Progressive Indian Cuisine(進歩的インド料理)を打ち出す。世界的に注目が集まる「Asia's 50 Best Restaurants」において4年連続1位に輝き、2019年の「The World's 50 Best Restaurant」では4位を獲得。同年8月に新たなチャレンジに向けてお店をクローズし、11月に『Gaggan Anand』を拠点として再始動した。
1971年生まれ。福岡県出身。高校在学中、フレンチレストランの調理の研修を受け、料理人の道へ。1989年にフランス料理店『イル・ド・フランス』で働き始め、そこで研鑽を重ねた。その後、1995年からワインレストラン『マーキュリーカフェ』でシェフを務めた。2002年10月、福岡市西中洲に『La Maison de la Nature Goh』を開店。2016年には、九州で初めて「Asia's 50 Best Restaurants」に選出され、2019年には24位にランクインを果たした。
神奈川県葉山生まれ。ファッションやカルチャーやグルメ、旅やホテルなどラグジュアリー・ライフをテーマに、雑誌や新聞、テレビにて活躍中。2007年に、フランス・シャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士爵位)の称号を受勲。2010年には、スペインよりカヴァ騎士(カヴァはスペインのスパークリングワインの呼称)の称号も受勲。2013年からは、世界のレストランの人気ランキングを決める「世界ベストレストラン50」の日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。主な著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。
http://www.dandy-nakamura.com/