天上のカタルシス、無我の境地。苦難の分、神はその報酬を僕に授けてくれた。[東京”真”宝島/東京都 神津島]

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監督・撮影・編集:中野裕之
撮影:佐藤宏 音楽:木下伸司・Lior Seker 

東京"真"宝島

一合目から登らなければ、出合えなかった風景がそこにはあった。

神津島のシンボル、「天上山」。登山ルートは白島登山道と黒島登山道の2種があり、今回、中野裕之監督は白島登山道から山頂を目指します。地上572mのそれは、6合目までは車で合流できるため、頂上の景色を見るためだけであれば、この選択が一般的です。しかし、中野監督が選んだ道は、一合目からの登山。

「実は、知らなかったんです……。6合目まで車で行けることを……」。
!?
そう、中野監督は知らなかったのです。ただ、知らなかっただけなのです。6合目まで車で行けることを。
「とにかく、1合目から3合目までは急斜面で人ひとりが通れるほどの狭い道幅。本当に辛かった。島の方に“天上山”のことを伺ったら、“幼稚園の年長さんも登りますよ”とおっしゃっていたので、それなら楽勝だ!と思って登ったら、大変なことになってしまいました(笑)。おそらく、6合目からの話だったのだと思います……」と、その時のことをかみしめるように話します。

「本当に辛かったなぁ」、「かなりキツかったなぁ」。そう、話す中野監督ですが、登山中に心を癒してくれたのは花の存在でした。
「僕が登った時にはキキョウが咲いていました。“天上山”は、花の百名山にも選ばれるほど、花の美しい山。そんな美しい花が僕に一歩一歩前へ足を運ぶ力を与えてくれました」。
春にはスミレやアジサイ、夏にはバラやラン、秋には中野監督も見たキキョウやキク、冬にはユリなど、四季を通して様々な花が咲き誇ります。そして、歩みを進める中、最も中野監督が感動した風景との出合いが訪れます。

それは、神域へ入る境界線ともいえる鳥居。
「“光”を“観”る。これが本来の観光だと思っています。この光を観た時、僕は神津島の真の観光に触れられたような気がしたのです。閉ざされた登山道で、こんなにも美しい景色と出合えるとは思いませんでした」。
それは、3合目から4合目に差し掛かる途中。つまり、1合目から登る選択をしなければ、この景色と出合うことはできなかったのです。
「神様からのご褒美だと思いました」。

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白島登山道の途中、3合目から4合目に差し掛かる時に出合った鳥居との邂逅。「この風景が僕の中では一番神々しく、神津島らしいと思った1枚でした」と中野裕之監督。

 2合目から3合目あたりの山道。左右の木が支えあうように重なり、まるでトンネルのよう。「この山道も好きな風景」。

島の北部に位置する「赤崎海岸」に作られた「赤崎遊歩道」。全長約500mのそれは、展望台もあり、伊豆諸島北部の島々や富士山、南アルプスなどを望むことができる。

台形のように山頂が広がる「天上山」。山頂からは、太平洋を一望できる。

「天上山」の山頂の景色。上記と角度を変えて見ると、目下には「前浜海岸」が広がる。

石が積み重なったような山頂付近。「乾いた土壌でも、そこに生きる植物があることに感動を覚えます」。

「登山中、キキョウの花を良く見かけました。本当はもっと撮るつもりだったのですが……。登るのに精一杯でした……」。

「天上山」の一部は崩れ、えぐられている山肌も。過酷な自然環境を物語る。

東京"真"宝島天上へ向かうまでのプロセスが生んだ、絶景の価値と深く刻まれた記憶。

「天上山」は、台形に近い形をしており、山頂が広がっている山です。島の名所でありながら、深山幽谷の趣きも漂う理由は、やはりその島名の通り、神々の力か。

「6合目から歩いていくと、徐々に景色が開けてきます。山の側面をギリギリに歩く道からは絶景が広がり、様々なスポットが点在しています。ハート形の“不動池”は古くから島の漁師の信仰の対象であり、今も池の中央には龍神を祀る社があります。荒涼とした砂地には、“表砂漠”と“裏砂漠”とあり、特に“裏砂漠”の鋭角的な形状は、どこか遠い惑星のクレーターのよう。また、“不入が沢(はいらないがさわ)”は、遥か昔、神代の時代にこの地で伊豆諸島の神々が集まり、水を分ける相談をしたと伝えられており、この島らしい逸話だと思いました。最高地点からは富士山や南アルプスを始め、眼下には、太平洋が広がります」。
神々しくも感動的なスポットであるも、中野監督は「この感動は6合目から登っていたら得られなかったかもしれない」と言います。

「山頂からの景色はもちろん重要だし、美しかったのですが、同じくらいプロセスも大切。僕の中では、あの1合目からの経験が全てに価値を纏わせたと思っています。景色の価値、登山の価値、島の価値。1合目から登って初めて見える景色があるんだなと思いました」。
この初めて見える景色とは、目に見える景色だけではありません。それは、心眼に見る目には見えない価値の景色なのです。

月面のような風景は「表砂漠」。砂は真っ白でサラサラ、規模は大きくないが、綺麗な砂漠。

荒涼とした風景が広がる「裏砂漠」。ここを抜けると、「天上山」の東側の崖地に面した「裏砂漠展望地」につながる。

雨の後だけ表れるという「不動池」。ハート型(写真の向きは逆さ)の池として知られ、「天上山」の名所として人気も高い。

「天上山」山頂の火口跡、「不入が沢(はいらないがさわ)」。神々が集まった場所とされ、立ち入りを禁じていることがその名の由来。

東京"真"宝島顔の見えない誰かのために、そして島のために。その身を尽くした情熱のテイクアクション。

「天上山」では、苦行!?とも言える登山と絶景以外にも、感動を得たと中野監督は言います。
「何度も言ってしまうのですが、1合目からの登山は本当に辛かったし、キツかったのです。その時に救われたのが、ベンチの存在でした。“天上山”には、所々、登山道にベンチがあります。景色を見てほしくて設置したのか、体を休めるために設置したのかは分かりませんが、確実に言えることは、この重たい木材を持って登山した人がいて、作った人がいるということです。素晴らしいと思いました。日本のベンチ特集の企画があったら、間違いなく1位取れますよ!」。また、その感動は地上でも体験したと言葉を続けます。その場所は、「赤崎遊歩道」です。

「島の北部に位置する“赤崎遊歩道”は、全長約500mの木造遊歩道です。展望台からは、伊豆諸島北部の島々や富士山、南アルプスなどを望むことができ、設置された飛び込み台も人気です。ここを見て思ったんです。遊歩道は、一番の観光につながると。先ほどの“天上山”のベンチではありませんが、これを作った人がいると思うと、本当にすごい。遊歩道がなければただの岩場ですが、ただの岩場を名所にした工夫と創造力が“赤崎遊歩道”だと思うのです。“天上山”のベンチにしても“赤崎遊歩道”にしても、誰かのために、島のために、という想いがあって生まれたもの。そのために身を尽くした情熱と行動力は、偉大だと思いました」。

その他にも、「前浜海岸」や「沢尻湾」、「多幸湾」など、神津島には名所がまだまだあります。自然と共存しながら生み出された観光資源は、島民の知恵と努力の賜物なのです。

「このベンチから見る景色は格別。そして、このベンチを作るために木材を運んで登山をした人は立派です」と中野監督。

自然の入り江を生かした海水浴場、「赤崎遊歩道」。展望台や飛び込み台、シュノーケルからダイビングまで楽しめる。

沈み行く夕日も神々しい。何でもない風景の全てが特別に映るのもまた、神の思し召しなのかもしれない。

 約10mの真っ白な十字架は、おたあジュリアを偲んで建てられた「ジュリアの墓」。

 「長浜海岸」の南側にあるぶっとおし岩。長年の波の侵食によって削られた穴は、自然が作り上げた驚愕の景観。

 島の西側に位置する「前浜海岸」。約800mの白砂が続くそこは、民宿が多い中心部から近く人気のスポット。

「沢尻湾海水浴場」。近くには、温泉保養センターや露天風呂なども用意され、便利に海水浴を楽しめる。

島の東側に位置する「多幸湾」。背景には雄大な景色が広がり、切り立った「天上山」がそびえ立つ。

東京"真"宝島再訪は元旦に初詣。初日の出も望みながら、もう一度、神津島の感動を享受したい。

「伝説、神話、言い伝え、風習。全てを取ってもこれだけ神々しい場所は稀有だと思います。僕が感動した“天上山”の鳥居もしかり、ひとつの島にこれほどまでに社寺や像、モニュメントがあるのも、ある種の別世界であり非日常。でも、この島にとっては、それが日常的風景として広がっていて。そんな島で、もう一度そのエネルギーを享受したいです」。
 
そして、その「もう一度」の時は、中野監督の中で心に決めているそうです。それは、元旦。
「是非、元旦に訪れてみたいと思いました。だって、神の島で初詣をして、初日の出を望むってすごくないですか! だから、いつかの元旦を夢見て、神津島にまた訪れたいです」。

3合目あたりの登山の映像シーン。大地を一歩一歩踏みしめる“ざっざっ”という音の演出は、臨場感が漂う。

「天上山」を登山する中野監督。「本当に辛かったですが、(強がりではなく)1合目から登って良かった! 達成感が違う!」。

「山頂や山道に鳥居があるのも珍しいと思いました。やはり神津島は、その名の通り、神が宿る島であり、その最高峰が“天上山”なのだと思います」と中野監督。

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白砂がどこまでも続くロングビーチにミルキーブルーの海。自然が生み出す圧巻の造形美から目が離せない。[東京“真”宝島/東京都 新島]

東京"真"宝島OVERVIEW

東京から南に約151km、新島は伊豆諸島のちょうど中ほどに位置しています。島は南北に細長く、島の北には若郷地区、南には本村地区の2つの集落がありますが、元は別々の島でした。その証拠に、若郷地区には玄武岩質の黒い砂浜が存在しており、886年の大きな海底噴火によって2つの島がひとつになり、今の島のかたちになったといわれています。つまり、今から約1100年ほど前にできた島だから「新島(あたらしま)」と名付けられたというのです。

新島に初めて訪れた人は、他の伊豆諸島の島々とは違う印象を持つことでしょう。島の印象を決定づける最大の理由。それは圧倒的な“白さ”でした。火山島である伊豆諸島は、そのほとんどが玄武岩質であり、真っ黒な火山岩が多いのですが、新島は流紋岩と呼ばれる白い火山岩で島全体が覆われています。そのため、ビーチの砂も白く、海の色は驚くほどのミルキーブルー! 他の島の海の色とはまったく異なり、目にするすべてのものが白く映るのでした。

この白い砂浜は、新島だけで採れる珍しい石「コーガ石」が浸食されて砂になり、堆積したもの。そのコーガ石を原料に美しいオリーブグリーンの「新島ガラス」が生まれたり、不思議な石像「モヤイ像」が彫られては島のあちこちに点在していたり……。他にも1970年代に巻き起こったという離島ブームの名残が島のそこかしこに感じられました。当時の若者たちは、非日常の世界を求めて、この美しい新島を目指したのでしょう。今では考えられないほどたくさんの人の波が押し寄せたといいます。

東京とは思えない圧巻のロングビーチ「羽伏浦海岸」は、島の代名詞的存在です。その絶え間ない波のパワーは、時に美しくサーファーたちを魅了し、時に激しくビーチのかたちをも変えてしまう、すさまじい力を持っていました。日本とは思えない絶景を目の当たりにした時、長い時間をかけて生まれた新島独特の圧倒的なまでの自然の造形美に、誰もがきっと息をのむことでしょう。


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古き良き日本が今に残る式根島の風景。穏やかな島の暮らしが静かに息づく。[東京“真”宝島/東京都 式根島]

東京"真"宝島OVERVIEW

東京にある11もの有人の島の中で最も小さい島。それが式根島です。島の面積は約3.7㎢、外周は約12kmとコンパクト。けれど、そんな数字では決してはかれない、さまざまな魅力が小さな島に凝縮されていました。

式根島は隣に位置する新島と二島合わせて同じ行政区分の新島村に属しています。新島からの距離は約5km、連絡船「にしき」で約10分の近さにありながら、まったく異なる景観を有しています。新島と同じく、白い流紋岩の溶岩に覆われた式根島ですが、その形はテーブルのように真っ平ら。しかしながら、島の周囲はリアス式海岸さながらの複雑な入り江で構成されており、穏やかな波が島を取り囲んでいます。

火山島である伊豆諸島の他の島々が織りなすダイナミックな景観とは裏腹に、式根島では、とても日本的かつ箱庭的な美しさを見てとることができます。島の北部には表情豊かなビーチがいくつも点在しており、夏ともなれば波の穏やかな白砂のビーチには海水浴客があふれます。南側の海岸沿いには大きな岩間からこんこんと湧く温泉が! なんとこの小さな島に2種もの源泉が豊富に湧き出ているのです。潮の満ち引きに合わせて入る海中温泉のため、「入るタイミングが肝心だよ」と島の人が教えてくれました。西には年中緑に覆われた森が広がり、1〜2時間ほどで回れる優しい遊歩道が整備されています。また、島の中心部にある集落には島民約500人が暮らしており、歩いて回れる範囲にほぼ集中しています。美しい海や絶景温泉へも歩いて行ける、そんなほどよいサイズ感が式根島の最大の魅力なのです。

小さな島だからこそ、出会えた風景がいくつもありました。道の真ん中で日向ぼっこする島猫に出会ったり、木漏れ日が心地いい遊歩道で深呼吸したり。はたまた、なんでもそろう島の商店をふらりと訪れ、島ならではのお弁当や焼きたてのパンを買ったり。車で足早に回ってしまっては決して出会えない島の風景にふと足を止めてしばし時を過ごす時、都心とは違う島ならではの時の流れを感じられるはずです。

島での暮らしは、自然との境目と人の暮らしとが途切れることなく、ひと続きになっています。式根島で出会った島の風景や人のあたたかさに触れるたび、かつてはどこにでもあった古き良き日本の豊かさと穏やかさが、この島では今なお息づいていることに気づかされることでしょう。


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