想像を超える展示空間で、アートを見る。買う。[ARTISTS’ FAIR KYOTO 2020/京都府京都市]

モダンな重要文化財が「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2020」の舞台に。

アーティストフェア京都 2020アーティストが自分だけでなく、若手作家まで売り込む斬新なイベント。

京都で3年前から開かれている「ARTISTS' FAIR KYOTO」は、他のアートフェアとは一線を画した、これまでのアートフェアの枠組みを超越するイベントです。

「アートフェア」とはバイヤーやコレクターが美術品の買い付けをする催しで、海外では「アートバーゼル」や「アーモリーショー」など大きなものから小規模なものまで頻繁に開催されています。近年は日本でも行われ、一般の人にも開かれた作品展のようなアートフェアも見られるようになりました。

ただ、通常のアートフェアはギャラリー単位で出展し、ギャラリストが作品を紹介しますが、「ARTISTS' FAIR KYOTO」は「アーティスト自身が企画、運営、出品、プレゼンする」という珍しいスタイル。

ただ単に作品を「商品」として並べるのではなく、作家の意思のもとに表現し、その空間を味わった上で来場者が購入する、展示会としての面白さを併せ持ったアートマーケットなのです。

普段は非公開の元印刷工場の地下空間を現代アートが彩る。

2019年の風景。左は南方熊楠の哲学思想を追った「まんだらぼ」プロジェクトで知られ、京都を中心に世界で活躍する前田耕平氏作。右は、第22回岡本太郎現代芸術賞で「岡本太郎賞」を受賞した檜皮一彦氏作。

2019年より。中央は油野愛子氏の作品。幼少期の記憶に起因するおもちゃや、愛着物に着想を得て表現する若手作家。

アーティストフェア京都 2020若手アーティストと企業、コレクターをつなぐ架け橋に。

ディレクターを務めるのは、自らもアーティストである椿昇氏。「世界のアートフェアがマンネリ化しつつある状況を変えたい」という想いから、この「ARTISTS' FAIR KYOTO」を作家が自分の作品をプロデュースするというスタイルに方向づけました。

国内外で活躍する旬なアーティストたちが自分自身の作品を出展するだけでなく、彼らが「アドバイザリーボード」となって若手アーティストを推薦。そこには、「アーティストを志す若者が生涯にわたって制作により生計を立てられるよう、個人コレクターや企業などと接続するためのブリッジとなり、制作を続けられる未来への一歩を踏み出したい」という願いが込められています。

地域再生のアートプロジェクトのディレクターも務める椿昇氏。

椿氏が推薦するアーティスト、前田紗希による作品『18_5』(キャンバス、油彩)。椿氏は「これだけナイフで絵の具を重ね削り取るという人為を加えながらもMの絵画には気になる所が何一つ存在しない」と評する。

アーティストフェア京都 2020国内外で活躍する第一線アーティストほか、過去最多の62組が参加。

今年は「Singularity of Art (シンギュラリティ オブ アート)」をテーマに、アドバイザリーボードとして名和晃平、塩田千春、加藤泉、ヤノベケンジらをはじめ、第一線で活躍するアーティスト19名が参加します。そして、彼ら独自の目線によるキュレーションと公募により選出された若手アーティスト49組が参加。過去最多となる合計60組以上のアーティストが、ペインディングからテクノロジーを駆使したインスタレーションまで多種多様な表現方法を披露し、新時代のアートマーケットを作り上げます。

京都を拠点に、国内外での展覧会や他ジャンルのクリエイターとのコラボレーションを展開する彫刻家・名和晃平氏。撮影:Nobutada OMOTE|SANDWICH

塩田千春氏と作品。頻繁に使われるモチーフのひとつである「舟」は、先の見えない未来を連想させる。撮影:Sunhi Mang  (C)2019 Chiharu Shiota

アーティストフェア京都 2020エキセントリックな地下空間と建造物が、多彩な表現に彩られる。

注目すべきは会場となる空間。まずは近代洋風建築の重要文化財である「京都文化博物館 別館」は、明治期築の重厚な建物です。そして、もう一つの舞台である「京都新聞ビル地下1階」は、かつて印刷工場として使われていた巨大な地下帝国のような空間。「趣のある京都の建物をエキセントリックな展示空間に変え、現代アートを鑑賞できるのも本フェアの見どころの一つ」と椿氏。

また今年は、市内のホテルや飲食店など身近な会場で行われるサテライトイベント「BLOWBALL」にも注目が集まっています。木崎公隆・山脇弘道からなる現代アートのユニットYottaが運営する本格石やきいも販売車「金時」や、若手ディレクター3名が手がける、市場をオルタナティブに思考するアートマーケット「スーパーマーケット“アルター”市場」など、街中のあちこちで斬新な表現が繰り広げられます。

1906年(明治39)築、元日本銀行京都支店である「京都文化博物館 別館」。

広大な地下神殿のよう。廃墟感たっぷりの「京都新聞ビル地下1階」。

アーティストフェア京都 2020「売れる、売れない」よりも「見られることが大事」。

一流アーティストの作品を直に見る・買うことができるだけではなく、彼らの審美眼で選んだ次世代を担うアーティストと出合えることがこのフェアの見どころ。
ベルリンを拠点に活躍し、糸を空間に張り巡らした大規模なインスタレーションで知られる塩田千春氏もこのアートフェアに初回から参加。
塩田氏は、ONESTORYストーリーの取材に対しこのようにコメントを寄せています。
「エネルギーのある20代につくった作品は、後々とっても貴重なものになるので、『売れる・売れない』関係なしに、大きな会場で人の目に触れることができるのはとてもいい環境だと思います。私が学生だった時は、作品発表の機会自体が少なく貸画廊へお金を払って個展をするということがよくありました。でも今の時代に生きる若いアーティスト達はARTIST’S  FAIR KYOTOのような機会があり、恵まれていると感じます。ぜひ多くのコレクターや美術関係者に自分の作品を見てもらい、飛躍のきっかけが得られることを願っています」。

「シンギュラリティ」とは「特異点」の意味。伝統から革新を生み出し続ける京都において、「ARTIST’S  FAIR KYOTO」により新たなマーケットが形作られ、アートが次元上昇する特異点が見出されるのではないでしょうか。

京都にある2つのユニークベニューにこの2日間、さまざまな感性が交差する。

開催期間:2020年2月29日(土)、3月1日(日)
開催場所:京都府京都文化博物館 別館 MAP/京都新聞ビル地下1階 MAP  
時間:11:00~18:00
入場料:1,000円(学生無料 要・学生証) ※京都新聞ビル地下1階は無料
https://artists-fair.kyoto/
(写真提供:ARTISTS' FAIR KYOTO実行委員会)