神のエネルギーを導く花。利島が誇る日本一の宝・椿。[東京”真”宝島/東京都 利島]

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監督・撮影・編集:中野裕之
撮影:佐藤 宏 音楽:木下伸司

東京"真"宝島椿を撮るためにもう一度訪れた。空からもその赤色は輝いていた。

「利島(としま)には、2回上陸しました」。
そう語るのは、映像作家の中野裕之監督です。そんな中野監督が利島でどうしても撮りたかったもの、それは椿。
古くから日本の椿は魔除けの花としても知られ、神のエネルギーを導く花として親しまれてきたといわれています。
「1回目は、緑が鮮やかなうちに島全体と海を撮り、雰囲気も知るために上陸しました。2回目は椿。撮影を分けたのは、開花時期もそうだったのですが、それよりも椿を撮ることに集中したかったから」と語るよう、映像冒頭には、椿の美しきピンクが画面を彩ります。「チャッ、チャッ」と鳴くメジロの声は、まるで鳥たちもその開花を喜んでいるかのよう。
「島の約80%が椿林で覆われている利島は、日本で一、二を争う椿油の生産量を誇ります。椿の数は、約20万本! 早いものは11月ごろから咲き出し、長いもので4月下旬まで残ります。利島と言えば椿! 椿と言えば利島!」。

利島の椿の歴史は、江戸時代まで遡り、200年以上にわたって椿油を生産されていると言われています。初夏から秋にかけて十分に油を貯め、冬に花を咲かせる椿は、「ワックスがかかったように葉が艶々しており、太陽が当たると撮影時にハレーションを起こしてしまうほど!」。
また、椿は常緑のため、風景で四季を感じることが難しく、開花を持って季節の訪れを知らせる役目も果たしています。
「椿を撮影している時に、空からもその風景を覗いてみたのですが、そのカットが一番気に入っています。深い緑にヴィヴィッドに点在する椿は、本当に美しかったです」。
その椿を育てるために畑が段々になっているのも、落ちた実が雨などで流されないで収穫できるように考えられた先人たちの工夫からなるもの。
利島の椿は、島のシンボルであり、古くから島を支えてきた宝でもあるのです。


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冬の時季に花を咲かせるヤブツバキは島のシンボル的存在。初夏から秋にかけ、たっぷり油を蓄えた実になる。

島内には、約20万本のヤブツバキがひしめき合う。椿油の生産量は、日本で一、二を争う。

ヤブツバキをはじめ、自然豊かな利島には、ウグイスやメジロ、キジも生息する。

宮塚⼭の裾野に広がるヤブツバキ。冬になると島全体を艶やかに彩る。

都心から南に約140km離れた場所に位置する利島の人口は、約300人。島の魅力に魅かれ、移住する人も多い。

東京"真"宝島色々な人に島のことを聞いたが、誰も答えられなかった謎の島・利島。

「僕も今回の撮影で初めて利島へ行きました」。
そう語る中野監督。
「行く前に色々な人に“どんな島か知っていますか?”“行ったことありますか?”など聞いたのですが、誰も島のことを答えられる友人知人はいませんでした。しかし、きっとそれが普通なのだと思います。だから利島は謎の島であり、秘密の島。それが魅力的なのだと思います」。
先述の通り、利島へ2回訪れた中野監督は、まず1回目の撮影でイルカに虜になりました。
「利島には、約20頭のイルカの生息が確認されており、ドルフィンスイムとダイビングと両方楽しめる珍しい島だということが分かりました」。

そして2回目は、椿。
「繰り返しですが、利島と言えば椿。どうしてもカメラに収めたかったので、開花に合わせ再訪しました。花の数は想像以上で圧巻! そして、その時にもうひとつ感じたことは、美しい鳥の鳴き声が多いということ。僕はメジロに出合ったのですが、キジやウグイスもいるそうです。あくまで持論ですが、鳥のいる場所は良い生態系が形成されていると思っています。利島にもそれを感じました」。
ゆっくりと椿を眺め、鳥のさえずりに耳を傾ける。海に足を向ければイルカとの出合い。
利島は都会の喧騒とは対極の世界。朝日が1日の始まりを告げ、そのバトンを夕日が受け取り、1日の幕を閉じる。当たり前の日常の全てが美しい。時計や携帯を見る時間は忘れ、島の時間にその身を委ねたい。
「もしまた訪れる機会があれば、3回目の利島では釣りを楽しんでみたいです!」。

島の周囲には、野生のイルカが20頭ほど群れで生息している。利島のイルカは、高確率で合うことができる。

利島村の夕日展望台からの景色。周囲に遮るものがない利島では、美しい夕日を望めるスポットが多い。

東京"真"宝島断崖絶壁に囲まれた小さな島は、ひとつの山から成る。

都心から南に約140km、島の周囲は約8km、面積は4.12㎢。
利島は、他の島と比べてもその形状が特異であり、珍しくもその周囲は砂浜ではなく、断崖絶壁です。
「島と一体化する宮塚山は、山頂はもちろんですが、道中そのものが展望台のように絶景が広がります。散策中、僕のライフワークとも言える神社探しもまたそこで出合いました。島民から一番神様と呼ばれる阿豆佐和気命神社に始まり、二番神様の大山小山神社、三番神様の下上神社などを巡りました。そして、この島の特徴は、山だって事。だから坂が多い! 特に人が住む地域は、坂が急です」。
そんな利島は、島を周遊するにしても車で20分もあればできてしまうほどコンパクトなサイズ感。
「人が住まう地域は島の北側に集中し、宿や飲食店も少ない。そこが暮らしの全て。一見、これを不便と感じる人もいると思いますが、この現代離れした世界が今の時代に必要だと思います。いや、もしかしたら、人として生きる正しい世界は、こっちの方なのかもしれません」。
椿以外、何も事前情報がなかった中野監督は、利島をそんな風に感じたそうです。

最後に中野監督は、「何で利島っていう名前(読み方)なんだろう?」と素朴な疑問を抱きますが、その由来については今なおはっきりとはしていません。以前は、外島や戸島と書かれていた説もあるそうです。
「その謎めいたところもまた歴史ある島の魅力。全てを知ることが必ずしも美徳とは限りませんね」。

改めて問いたい。
利島は“どんな島ですか?”“行ったことありますか?”
「誰かにそう聞かれたら、その魅力を存分に伝えてあげたいです!」。

島の周囲はわずか約8km。その輪郭を断崖絶壁が囲む。

利島から南側の伊豆諸島の島々を望むことができる南ヶ山園地。新東京百景にも選ばれる名所。

利島村にある夕日展望台は、島民からも愛されているスポット。夕日から夜の帳まで楽しめる。

標高507mの宮塚山。中腹に登山道が数カ所あり、展望台も用意されている。 

正月三が日は、山廻りの日としてお米とお酒を持って一番神様、二番神様、三番神様と参拝。阿豆佐和気命神社は一番神様。

上記の阿豆佐和気命神社から少し歩いたところにある大山小山神社は、二番神様。

三番神様である下上神社はウスイゴウ園地の下にあり、阿豆佐和気命の妃を祀っている。

集落内で一番山よりの都道沿い位置する堂山神社。創建については不詳であり、明治初期にそれぞれ私宅に祭ってあった神々を合祀して設立。

利島の集落は、北斜面に位置する。坂道の先に海が見えるというふたつの関係は、長崎やサンフランシスコにも似る。

宮塚山登山の終着地。利島で発掘された銅鏡を模った池や当時の住居をモデルにしたあずまやなど、古代太陽信仰をテーマにした場所。

島全体がひとつの山のような形状をした利島。その頂点となるのが宮塚山。

(supported by 東京宝島)

大見得を切るような造形美。その姿は、まるで島が歌舞いていた。[東京”真”宝島/東京都 三宅島]

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監督・撮影・編集:中野裕之
撮影:佐藤 宏 空撮:遠藤祐紀 音楽:木下伸司

東京"真"宝島睨みを利かされた僕は、島に撮らされていたのかもしれない。

「とにかくこれまで回った島の中でも、一番“ジオ”を感じました」。
そう語るのは、映像作家の中野裕之監督です。
この「ジオ(=地球・土地)」をもう少し紐解くと、島の輪郭にそれを感じる風景が広がっていたと言います。
「例えば、赤場暁(あかばっきょう)。海岸側には大小の石が集積され、もっと陸に目を向ければ朱色に染まる岩場や赤土、更にそれを空から望めば、現在の大地があって。異物同士の地層は火山活動によってできたのは理解できるのですが、その歴史の一片が可視化される場所を目の当たりにした時、すごくジオを感じました。この島は、生きているのだ、と」。

また、中野監督の目には、そんな三宅島の姿がこう映ったそうです。

「三宅島は、歌舞いていた」。

「かぶくとは、ご存知の通り、 歌舞伎の語源であり、古語です。本来の意味は、かたむく、自由奔放にふるまう、異様な身なりをする、など、色々ありますが、島を奇抜だという見方をしているわけではありません。歌舞伎の醍醐味でもある、大見得を切ったように島が見えるのです、三宅島は」。
そして、ひと言でいえば「格好良い」。

しかし、時折走る緊張感。心身を解放してくれる包容感のある一方、無意識に体が感じる厳威。その刹那は、「島の睨み」かもしれません。
この邂逅は「言葉で表せない感覚」ではありますが、長年積み重なって築き上げられた歴史ある島、そう容易いわけがありません。
「三宅島は、僕が格好良く撮ったのではなく、島にそう撮らされたのかもしれません。ですが、余所者の僕にそういうチャンスを頂けたことに感謝したいと思っています。海、風、空など、撮影に恵まれた環境もまた、島の天佑だったのかもしれません」。

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三宅島は富士火山帯に含まれる活火山。生きる島、生きる地球を身体中で感じることができる。

島の北東に位置する赤場暁。「地層を見れば、過酷な時代を生き抜いてきたことが想像できる。それでも自然が生み出した光景は美しい」。

近年では2000年に噴火した標高約775mの雄山。島内では、ダイナミックな火山島の景観を望むことができる。※特別に許可を得て撮影しております。

東京"真"宝島足元の植物から林、森、山。蘇る力と絶えない生命力。三宅島は、随一、緑が美しかった。

冒頭、三宅島に「一番“ジオ”を感じた」理由は、ほかにもあります。
それは「緑」です。
「荒涼とするひょうたん山で必死に自生する植物から迷子椎のような巨木、更には全体を見渡せば、サタドー岬を手前に海側から見た島の景色は、一面が緑です」。

その土地に根付いた木々は、生きる島に力強さを纏わせます。
「椎取神社に訪れた時に広がっていた白木にも驚きを隠せませんでした。見た目も似るそれは、綺麗に胴吹きされ、その佇まいは、まるで自らを持って時代の足跡を残しているかのようでした。2000年の噴火によって鬱蒼とあった森は飲み込まれてしまいましたが、約20年でここまで蘇ったのかと思うと感慨深い気持ちにもなりました」。
また、そんな植物の力強い生命力に安らぎを与えてくれるのもまた植物。花好きの中野監督の心を癒したのは、仙人草でした。
「樹齢うん十年、うん百年などという樹木はもちろん“大好物”なのですが、花の美しさにもちゃんと目をやりたいです。三宅島の花といえばガクアジサイを思い浮かべますが、僕は仙人草に惹かれました。島を離れてしまっても、どこかでこの香りと出合えば、島の余韻を呼び覚ませてくれるかもしれませんね」。

ふたつの噴石丘が並んでいたが、長い年月をかけ、海側の一つが波風に削り取られてしまったといわれる「ひょうたん山」。

手前に見えるのは、海面から約20mの高さにそびえる絶壁の岬「サタドー岬」。流れ出た溶岩と火山弾が見られる。

古代より、噴火を司る神が宿る神木と伝えられる。また、密林に迷い込んでもこの大木を目印にすれば助かると言われ、「迷子椎」と呼ばれるように。

「椎取神社」周辺は、2000年の噴火により森の大半がなくなってしまったが、現在は蘇りつつある。立ち枯れた白木も立ち並ぶ。

三宅島の撮影中に出合った仙人草。濃厚で甘く、繊細な花の香りが特徴。

東京"真"宝島水中の建築と芸術。そこにはもうひとつの三宅島の世界があった。

「三宅島には、柱状節理を形成する風景があります。陸でのそれは、ある意味想像できるのですが、水中にも存在していることが島の魅力を一層引き立てます」。
溶岩やマグマが冷えて固まる時、その体積は小さくなって縮みます。その縮みが生じる際に割れ目が発生し、5角形や6角形の柱状になるのです。これを柱状節理と言います。

中野監督曰く、「水中の建築」。
「それ以外にも、巨大な岩のアーチや地形が生んだドロップオフなど、水中にも“ジオ”を感じずにはいられません。そして、もうひとつ忘れてはならないのが、テーブルサンゴの群集です。三宅島のテーブルサンゴは、世界最北端としても知られるダイビングの聖地。広がるそれは、自然が創造する芸術。もちろん、悠々と泳ぐウミガメや様々な魚との出合もあります。陸の三宅、海の三宅。双方の表情をぜひ体感してほしいと思います」。

水中にも見られる噴火の足跡。しかし、この「柱状節理」は、火山からの贈りものと言って良いくらい、形状が美しい。

溶岩が生み出した海底アーチ。独特の地形が海の中を幻想的な世界に演出する。

世界中のダイバーを虜にするのは「テーブルサンゴ」。サンゴの群集が見事に広がる。

透明度の高い三宅島の美しい海では、ウミガメに至近距離で遭遇することも。

三宅島は、島周辺の海域が全てダイビングスポットと言って良いくらい様々な魚たちと出逢え、海が美しい。

東京"真"宝島鳥のさえずり、沈む夕日。三宅島の1日は、儚くも美しい。

中野監督は、島の生命体や自然の生態系を感じ取る上で欠かせないことがあると言います。それは、「鳥のさえずり」です。
「三宅島には、美しい鳥の声が鳴っていました。聞けば三宅島は、野鳥の生息密度が非常に高く、通称バードアイランドと呼ばれるほどだそうです。中でも、“日本一のさえずり小径”と称される大路池やその周辺の原生林には200種以上の野鳥が生息しているそうです。国の天然記念物であり絶滅危惧種として指定されている希少な鳥アカコッコは、一目見るために国内外から訪れる観光客も少なくないそうです。鳥が気持ちよく過ごしている島は、正しい自然の島。この島は、鳥にとって楽園だと思いますよ」。

鳥に魅了される中野監督ならではの映像よろしく、本編の冒頭は、無音の境地の中、優雅に鳴く鳥のさえずりから始まり、次のシーンでは良く見ると心地良く空を舞う鳥の姿を採用する細かい演出も。
「雄山中腹には展望台もあるのですが、ここから見る朝日は本当に綺麗です。遊歩道も整備されているのでアクセスも良いため、必見の景色です。そして、この遊歩道しかり、人の手を加えるバランスが絶妙だなと思うのが、迷子椎。巨木を支える支柱も島への敬意。決してあらがえない自然との共存を選んだ島民がこの島で暮らすことの覚悟や意義を、そんなところで少し感じました」。

人と自然の領域、人と自然の境界線。
様々な試練を経て、なぜ今なお島民はこの島で暮らすのか。それは三宅島への愛。全てを受け入れ、人と自然が共存する島、それが三宅島なのです。

「大路池」は三宅島を代表する野鳥観察スポット。希少なアカコッコからイイジマムシクイ、 カラスバトなど多くの野鳥を見ることができる。

雄山中腹を通る環状道路を七島展望台から坪田方面に進んだ先にある「大路池展望台」。天気の良い日は、「御蔵島」や「八丈島」まで見える。

「三宅島は、地球の生命力を感じることができた島でした。生きる島ゆえ困難もあるとは思いますが、この島の今を後世に残したいという思いで撮りました」と中野監督。

(supported by 東京宝島)