「なにもない場所だけど、僕の欲しかったすべてがある。」目指すは鳥取だからこそのイタリアン。[AL MARE/鳥取県岩美郡岩美町]

大学卒業後、長野県の水産会社に就職。勤務先であった築地で魚の買付などを担当していた飯田直史氏。料理の世界は30歳からという遅咲きの料理人。

アル マーレ3月取材の現場を、ようやく記事として出せるという現実。

今回ご紹介するレストランの取材は2020年3月某日のこと。今なお世界を震撼させている新型コロナウイルスが、日本ではまだそこまで逼迫した状況にないときでした。ですが、その後政府による緊急事態宣言が発令され、不要不急の外出は控えることに。そういった中、各地の飲食店も自粛を余儀なくされ、外出を助長するレストランの紹介記事は、今は出すべきときではないと我々ONESTORYでは、記事掲載の時期を見合わせることにしました。

そして今回、約2ヶ月の時を経て取材をしたレストランの紹介をさせていただきます。それは、いつの日かまたこの場所を笑顔で訪れてほしいから。そして、今現在も、日々歯を食いしばり頑張っている飲食店が数多くあるから。
日本の各地でがんばる飲食店の皆様にエールを送ります。

のりきろう日本、つながろう日本。

3月某日の取材は快晴ながら風が強く、日本海の荒波が打ち寄せていた。

店の窓からは山陰海岸国立公園に指定される海の絶景が広がる。天気が良ければテラス席へ出ることも可能。

アル マーレ鳥取の海沿いで根を張る、イタリアンの新星がここに。

「作りたいものは溢れるほどあるんです。後は、いつかそんな料理を楽しみに訪れる人で店を埋めるのが目標です」
今回、お話を伺ったシェフの飯田直史氏はそう笑いました。

ONESTORYの読者であるならば、上記のコメントは「あれ?」と思うかもしれません。日本各地に眠る、愉しみを探し求め、伝え続けてきたONESTORY。中でもレストラン記事では、誰も人が来ないような僻地でも、その店を訪れるだけでも旅の目的となり得る、訪れるべきレストランをご紹介してきました。誤解を恐れずに言うならば、今回ご紹介する『AL MARE』は、そんな訪れるべきレストランに今後なりえる原石なのです。

その立地、食材、シェフの仕事と、どれをとってもこの場所でこそ、なし得る味。そのひとつひとつを体験すれば、きっとこう思うのです「また、違う季節に訪れたい」と。

場所は鳥取県岩美町の海岸線。JR山陰線東浜駅からならば徒歩3分と好立地ながら、山陰海岸国立公園に指定される辺り一帯は、自然以外はなにもないを地で行く場所なのです。店名『AL MARE』とは、イタリア語の海岸を意味する言葉。まさに目の前に広がる東浜の絶景こそが、醍醐味のオーシャンフロントレストランです。潮騒とともに移りゆく情景、寄せては返す波音に浸っていると、気がつけば驚くほど時間が経過している心地よい場所でもあります。

「夏は海水浴客も多く訪れる場所ですが、人が少なくなった秋が好き。さらには日本海の荒波を感じる冬もいい。春はまだ体験していないから、今後が楽しみで仕方ないんです」とシェフの飯田氏。

聞けば店のオープンは3年ほど前ながら、飯田氏がシェフに就任したのは9ヶ月前のことだったと言います。

「食材もまだ3シーズンのみの体験ですが、この地は本当に豊かな場所なんです」

目の前に広がる海の恩恵は、地元の漁師や市場の人々と仲良くすることで、今まで知らなかった魚介も果敢に挑戦でき、この地だからこその味を追求。ベースは本場仕込みのイタリアンながら、〆鯖をアレンジしたかと思えば、足の早いモサエビを鳥取の郷土グルメの牛骨スープでパスタに仕上げるなど、枠に囚われることなく自由奔放。さらには海の幸と同様、この地は海を背にすれば山の幸の宝庫でもあるのです。地元の野菜はもちろん、季節ごとに山菜やわさびなど、山の幸がとにかく豊富。それらを趣味でもある釣りを通し、地元の人に貪欲に溶け込むことで、驚くほどの吸収力で飯田氏は自らの料理に生かしてきたのです。

「料理人としてのスタートが30歳からでしたから。人と同じやり方では追いつけないですし、店もとにかく早く軌道に乗せたいと思いまして」

料理人としての人生も型破りならば、鳥取の食材はおろか目の前に広がる海と山の幸を中心に構成するコースも型破り。それが違和感なくイタリア料理に落とし込めているのが、飯田氏がこの地で目指すイタリア料理の形なのです。

境港で水揚げされた鯖を白ワインビネガーを使い〆鯖に。きよみオレンジ、ハマダイコンの花などでサラダ仕立てに。

お隣・浜坂漁港で水揚げのホタルイカを温かいサラダに。山菜とルッコラのペーストとボッタルガで味付け。

活きモサエビと殻で取ったビスクで作ったパスタ。牛骨のスープで旨味をプラス。

鰆のソテーとバターソース。裏山で採れたふきのとうのほろ苦さがアクセントに。

アル マーレ夢ではなく目標。人のいない場所にゲストを呼ぶ店を目指す。

「イタリアは、日本に似ていました。僕が修業したピエモンテとシチリアでは、料理はまったく別物ですし、師でもある徳吉洋二さんと出会ったミラノもまた、独自性が光っていた。南北に長いところも類似性がありますよね。その土地その土地の良さを活かすのがイタリア料理ならば、鳥取には鳥取のイタリアンがあるはずと思っています」

飯田氏が師と仰ぎ、鳥取を郷土に持つ徳吉洋二氏。実はこの『AL MARE』は、徳吉氏が監修を務めることでも話題であり、徳吉氏がミラノで一ツ星を獲得する『Ristorante TOKUYOSHI』で氏の右腕として活躍したのが実は飯田氏なのです。イタリアの名店『オステリア・フランチェスカーナ』でスーシェフを務め、同店のミシュラン三ツ星獲得に大きく貢献。さらに自らの店『Ristorante TOKUYOSHI』もオープンわずか10ヶ月で星を獲得したスターシェフの徳吉氏。そんな日本を代表するシェフが、地元・鳥取の何もない場所に作ったのが海沿いの『AL MARE』なのです。

イタリア時代からの腹心・飯田氏をシェフに据え、地元の食材で魅せるイタリアン。季節季節で変わりゆく、景色、食材、そして飯田氏の感性。どうですか? 一度訪れたならば、「また、違う季節に訪れたい」。そう思わせる、可能性に満ちた一軒が、周囲になにもない『AL MARE』という訳なのです。

豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風」が立ち寄る、美しい海辺のレストランとしても話題に。

釣りの話となるとすぐに笑顔になる釣りキチでもある飯田氏。海が目前のこの場所は氏の理想郷なのかもしれない。

住所:鳥取県岩美郡岩美町大字陸上34  MAP
電話:0857-73-5055
https://www.al-mare.jp/

(supported by 鳥取県)