藍染マスクのこと

こんにちは。藍染坐忘です。久々のブログ更新です。

新型コロナウイルス感染症に罹患された方々、及び関係者の皆様に置かれましては、謹んでお見舞い申し上げます。
世界各国での新型コロナウイルス感染症の流行が一日も早く終息致しますことをお祈り申し上げます。
先日ようやく緊急事態宣言も全国的に解除され、徐々に地域にも活気が戻り始めました。

2月中旬、この度の事態の緊急性を知ってより直ぐに、自社で出来ることは無いか?と考え、自社内の縫製設備と技術環境を活かした藍染マスクを作ろうと、スタッフ一同団結し、試行錯誤を重ねオリジナル製品化いたしました。
沢山の方に手にとって頂き、心より感謝申し上げます。
当時深刻だったマスク不足も今は解消され、供給安定により落ち着きを取り戻しましたが、不安な皆様のお役に立ちたい・少しでも明るい気持ちで毎日を過ごして頂きたいとの思いは変わらぬまま、弊社ならではの特別なマスク、また藍染商品の開発を変わらぬ続けております。

-新商品ご紹介-
〜夏も快適に〜 天然藍染抗菌ドライマスク&エアーマスク

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今後とも、こだわりの商品を作り続けてまいります。宜しくお願い致します。

日本人としてパリを愛し、パリに尽くす。僕は、これからもこの街で生き続ける。

Photograph:Restaurant MAISON

MAISON/渥美創太インタビュー

自身初のレストラン「MAISON」開業1年目に訪れた難局。そして、渥美創太シェフの今。

「実は3月の1週目にバカンスに出かけており、新型コロナウイルスの危機感を覚えたのはその旅から戻ってきた直後でした。満席だった予約がすごい数のキャンセルに。明らかに異変を感じました」。
そう話すのは、パリを活動の拠点におく渥美創太シェフです。

渥美シェフといえば、2019年9月に自身初のレストラン「MAISON」をオープンしたばかりであり、世界中から注目を集めています。パリでは珍しい一軒家のそこは、三角屋根の外観も手伝い、その名の通り、まるで「家」のよう。
建築を手がけるのは、同じくパリで活躍する田根 剛氏です。そして、ロゴデザインには映画監督のデビッド・リンチ、カトラリーデザインにはフィリップ・ワイズベッカーなど、驚異的な面々が、その「家」を取り巻きます。

渥美シェフは19歳で渡仏し、「メゾン・トロワグロ」、「ステラ・マリス」、「ラボラトワール・ドゥ・ジョエル・ ロブション」、「TOYO」などの名店にて研鑽を積み、26歳の若さで「ヴィヴァン・ターブル」のシェフに就任。2014年には「クラウン・バー」のシェフに抜擢され、2015年にはフランスのレストランガイド「ル・フーディング」にて最優秀賞ビストロ賞を受賞する快挙を成し遂げます。これは真の意味でパリジャンから愛されたことの証であり、ある種、「星」よりも名誉ある賞賛と言っていいでしょう。

そんな様々を経て、パリ在住14年。その集大成が「MAISON」なのです。

パリがロックダウンになったのは、3月17日。開業1年目、早々に訪れた難局にどう立ち向かうのか。

しかし、渥美シェフは変わらない。

厳密に言えば、今回の件に関わらず、常に不安と戦い、それを払拭するためにはどうしたら良いか不断の努力を続けているため「変わらない」のです。ゆえに、良い時も「変わらない」。

良い時も悪い時も表裏一体。

「最悪の事態は常に想定している。そのための準備と備えはしている」。

パリでは珍しい一軒家の「MAISON」。三角屋根が特徴的であり、その名の通り、まるで家のよう。Photograph:Restaurant MAISON

控えめに配されたレストラン外観のサイン。映画監督のデビッド・リンチによるデザイン。Photograph:Restaurant MAISON

レストラン2階部分。オープンキッチンに8mある長いカウンターが印象的。Photograph:11h45

レストラン1階部分。建築・デザインは、田根 剛氏が手がける。Photograph:11h45

自分にとって大切なことは嘘をつかないこと。見栄を張らず、見て見ぬ振りもしたくない。

「MAISON」は、渥美シェフがオーナーを務めるレストランです。つまり、経営も担います。

「オーナーシェフになると、責任感はもちろん、好きなように料理ができなくなるとかスタッフのケア、お金の管理が大変とか、色々な話を言われました。それはもちろんありますが、幸いにもシェフに抜擢してくれた“ヴィヴァン・ターブル”のオーナーや、“クラウン・バー”のオーナーたちは厳しくも優しく、全てをさらけ出して共有してくれていました。そしてその一部を任せてくれていたお陰で僕にとっては全て当たり前のこととして“MAISON”のオープンに臨めたと思います」。

失礼ながら、二足の草鞋が履けるバランスの取れたシェフなのかといえば、それも違うように見えます。その答えは、渥美シェフと話すに連れ、全てキッチンから学んだのかもしれないと思うのです。

「料理人にあることは、高級食材や希少部位も使いたいという欲求です。それは当然の心理だと思いますし、誰でもそうしたいのは山々。それをお客様においしいを届けたいという善意を盾に“何とかやれるだろう”、“何かで帳尻を合わせれば大丈夫だろう”など、数字と向き合わずに騙しだましやってしまい、自分に嘘をついてしまうのが一番良くない」と言います。

そして、振り返れば、修行時代にも結果として数字と向き合う現場がありました。

「例えば、アラカルトが数の多いレストランがあったとします。お客様は嬉しいかもしれませんが、種類の多さは食材のロスにもつながるのです。昔のシェフは怖い人も多かったので、食材が余ったことを言い出せない若いシェフをたくさん見てきました。僕はそれを見て見ぬふりをしたくなかったので、“これだけ余ってしまうのでメニューを減らした方がいいと思います”と言いましたが、“何で余らせるんだ!”と叱られました。食材のロスは生産者への思いを裏切ることになりますし、お店の経営も悪化させてしまいますから。そんな経験も全て“MAISON”で活かしたいと考えています」。

レストランという大きな組織の現実。それは、名を馳せれば馳せるほど起こりうる可能性を秘めているのかもしれません。結果、そのような環境に違和感を感じ、名店を離れてスタイルの異なる「クラウン・バー」に携わった経緯にもつながります。

「とはいえ、昔のレストランはすごかったと思います。種類豊富な皿数はもちろん、コースの方程式も多種多様。現在のようにお任せ一本でやれるなんてありえませんでした。そういう意味で、今は恵まれている時代だと思います」。
この「恵まれている」とは、料理を作りやすい、食材の量を読みやすいこともしかり、堅実に行えば経営的な体力も自ずと付いてくるという意味も含みます。

「お客様にも、スタッフにも、料理にも、僕は見栄を張らない」。
それは、内に秘めた確固たる自信を感じた瞬間でもありました。

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高級食材だけに頼ることはない。
その季節、その日に生産者から直接届く最高の食材に全てを注ぎ込む。
その日の「MAISON」だから食べられるお皿を作り上げる。
簡単なようですごく難しいそれを毎日実現する。
それだけのことはやってきた。
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嘘をつかない。見栄を張らない。見て見ぬ振りをしない。

この3つを基本に、経営者としての自分とシェフとしての自分の合点を探し続け、体力の備えをしたのちに「MAISON」をオープン。本当のガストロノミーをやるためにレストランへ還ってきたのです。

「まさか新型コロナウイルスのような件でレストランを一時閉めることになるとは思いませんでしたが、2015年の大規模なテロなども経験していて最悪の事態は常にイメージしてきましたし、その不安と向き合う心構えはしてきました。今のお店では、スタッフとのコミュニケーションをより大切にし、改善点はないか、無駄はないかなど、見えないところにもちゃん目を向けるように心がけています。全てを把握することが、レストランも経営も良い世界を創造すると思っているから」。

オープンキッチンのレストラン同様、風通しの良い環境の「MAISON」スタッフは、現在10名。約30席のレストランには少ない人数です。

「レストランを経営するには、料理やワインのコストだけではなく、家賃、人件費など様々あります。今のチームで最高のパフォーマンスを発揮するため、みんな死に物狂いでやっています」と苦笑い。「本当にスタッフには助けられています」と言葉を続けます。

「経営に関しては、妻の存在が大きいです。妻は僕よりもっとシビアだし、政治にも明るい。だから、今回のような一件であれば、より助けられている感はあります。あとは、“クラウン・バー”時代の経理担当者なども親身にサポートしてくれているので、そういった昔の仲間の支援もあっての今だと思っています」と渥美シェフ。

「ただひとつわかることは、近道はない。コツコツやることが大事だと思っています。堅実にやれば体力は付くし、体力が付けはステップアップもできます。経営も現場も料理もうまく機能しないとみんなを不幸にしてしまう。僕は器用ではないので、レストラン内外の多くの仲間たちの助けを借りてオーナーシェフとして進んでいます」。

 

保証のあるフランス、保証のない日本。ロックダウンのフランス、自粛の日本。

この両国を渥美シェフはどう捉えるか。

「フランスの対応は早く、ロックダウン当日に政府が人件費を補償するとの発表がありました。現在は、給与が短期失業保険として84%保証されています。ただ、家賃などその他はその制度には含まれていません。政府は保険会社に保険が適応されるように要請していますが、今なお協議中です」。

今回、一時閉店を余儀なくされた渥美シェフは、医療従事者やホームレスの方々へ食事提供を行うボランティアにも参加しました。それは「MAISON」としてではなく、渥美創太としての活動です。
「この活動を知った時、参加したいと強く思いました。医療従事者の方々には、週2日、1日100食を提供していました。病院の数にして3ヶ所ほどになります。ホームレスの方々には週1日、食事の提供をしていました。パリには、ホームレスに無償で食事を提供しているレストランがあります。その発起人たちがスーパーの賞味期限の迫る食材を集まる場所を郊外に作って、そこから仕入れるものでホームレスの人たちには食事を作っていました。それ以外だと家族や子供と過ごしたり、レシピ開発や新しいプロジェクトの構想などにも取り組んでいました」。

日本に目を向けてみたいと思います。

ロックダウンはせず、自粛という“お願い”と“自己判断”に委ねられ、保証はありません。補助金などが導入され始めているものの、すぐ手元にキャッシュが入るわけではないのが現状です。もし自粛であれば渥美シェフはどうしたのか。

「僕は、お店を閉めます。現状だけで言えば、すごく苦しむと思います。でも、そこで閉める判断ができるような店づくりをしたい」。
それは、「感染拡大の抑制に勤めたいと思いますし、何より人を死に追いやる治療法のない伝染病だから」です。

現在、9月半ばまでは従業員の給与が保証されていますが、それ以外は5月末に発表されます。その間、デリバリーやテイクアウトのような手法があるも、「それをやる時はレストランだからこそできることが何なのかを考えて実現させたい」と渥美シェフは言います。

なぜなら、前述の通り、本当のガストロノミーをやるためにレストランへ還ってきたからです。

「僕は、レストランにこだわりたい」。

支給される食材に加え、「MAISON」で提供しているパン用の小麦粉でパンを焼き、ボリューム満点の食事を作る。

チョコを食べる風習があるイースター(復活祭)の日に提供した食事には、「MAISON」のレシピで作ったチョコレートケーキも添える。その優しさは、おいしい先にある心に響く。

1度に作る数は100食。「MAISON」にある8mのテーブルにずらりと並ぶ。

医療従事者へ届ける料理の箱には、感謝の気持ちを込めて「Merci beaucoup! Super hèros!(本当にありがとう。あなたたちはヒーローだ!)」とメッセージを添える。

ボランティア活動が早く終わった日には、再開後に使える調味料などを仕込む。この日はこの時期にしか取れないニワトコやアカシアの花などを漬けた。

食材を届ける人間も食事を届ける人間もボランティア。様々の人々が参加する本プロジェクトの多くは20代後半から30代後半。若い人たちが積極的に参加している。

医療従事者へ食事を届けるボランティア活動を総括するアソシエーションを立ち上げたアドリアン(中央・マスクの人物)と自主的に参加をしてくれた「MAISON」のスタッフ。

自宅にて子供とうどんを打つ様子。この難の中、渥美シェフがホッとするひと時かもしれない。

フランスと日本の違い。制度、文化、そして、我々は誰かのために尽くせるか。

今回に関していえば、一見「日本と比べてフランスは保証制度が手厚い」と思う人もいるかもしれませんが、それが補えているのは税金です。
標準税率で比べてもフランスは20%に対し、日本はその半分10%。今後、国として備えを得るべく、日本の税金を20%に引き上げるとなった場合、すぐに国民は首を縦にふるのでしょうか。

「自分たちではありませんが、政府から発表されるレストラン再開の合図を待たずにお店を営業しようとしているところがいくつかあります。その理由のひとつに、これ以上の税金を使うと、今後、さらに税率が上がってしまうのではという懸念があります。更には、新型コロナウイルス終息後、本当に困った人たちの保証が出なくなってしまうのではという危惧も耳にします。そのためにも早く経済を再開させようという動きです」。

見切り発車とも思えるそれは、後世や市民、街を守るためなのか、その真意は定かではありません。政府のルールもあるため、一概に正解と位置付けられませんが、これが法律でないということも厄介です。

「実際にお店を再開させたとしても、そのルールをどれだけの人が守るのかもわかりません。誰かが取り締まるのかといっても、それもまた難しいのではないでしょうか。もちろん事態の収束が最優先ですが、”MAISON"も早く開けたい気持ちはあります」。

人類初の難のため、正解を導くのもまた難。

しかし、何があっても、パリがパリたる所以のエスプリは宿ります。それは忘れもしない2019年の事件にもありました。「ノートルダム大聖堂」の大火です。

この時も周囲の動きが早かったことは記憶に新しいです。その好例として、「LVMH」は多額な寄付をした企業のひとつです。さらに同企業は現代アートをフランス国内外において推奨・振興することを目的とした「ルイ・ヴィトン ファウンデーション」も2014年に開館し、芸術活動にも力を注いでいます。そのほか、社会貢献に向けた活動も精力的に行ない、今回も約4,000枚のマスクと香水工場を稼働させて製造した消毒用アルコールジェルをフランス保険当局へ供給しています。

芸術、建築、ファッション、デザイン、そしてレストランなど、それぞれが文化的価値として同様に肩を並べていることは、パリが持つ最大の特徴かもしれません。

今回もパリはパリのやり方で街を守り、きっとこの難を乗り越えるのではないでしょうか。

 

パリはレストランが一番の宝だと思っている。「MAISON」は、その一部になりたい。

これは渥美シェフの言葉です。

「この街で僕は外人ですが、心からパリを愛しています。そして、多くの日本人がパリで活動していますが、みんなパリに尽くしていると思います。だから僕はフランス料理にこだわりたいし、その一心でこれまでやってきました」。

ゆえに、自身初となるレストラン「MAISON」には、並並ならぬ想いが込められています。その価値とは何か?

「“MAISON”は、フランスでやっているフランス料理です。だから、お客様には、フランスの食材をどれだけ伝えられるかを大事にしたいと思っています。そして、理想は“温かい場所”でありたい。そして“ひとつのものを全員で共有できる場所”でありたい」。
その例として、デンマークのレストラン「noma」を挙げます。

「世界で一番好きなレストランかもしれません。人が作る空間が温かく、同じ時間をそこに集う全員が共有するような関係性がいつの間にか生まれている。正直、料理は僕の好みではありませんが、それを度外視するくらいレストランの魅力に引き込まれる」。
そんな「noma」を牽引するヘッドシェフ、レネ・レゼピですら、新型コロナウイルス後は「これからのレストランの在り方は全て変わる」と語っています。

そういう意味でも、時間という体験の総合芸術は、唯一無二の価値を生むかもしれません。しかし、料理や技術を習得するよりも時間を創造することは難儀です。

「レストランは料理だけでなく時間やサービス、空間やそこにあるヒストリー、そこで起こるストーリー全てに対価を払ってくれていると思っています。スタッフの笑顔や会話によって、流れている音楽や居合わせた隣のお客様全てがその時間を一緒に作ります。だからこそ僕は、お客様や僕を含めたスタッフ全員と“MAISON”で過ごす時間を分かち合いたい。そのためにもスタッフが思い切り楽しんで打ち込める環境作りをすることも僕の役目。その全てが結実した“MAISON”を楽しみに来てもらえたら嬉しいです」。

今後の「MAISON」はどうなっていくのか。
「まずは、今週の政府の発表を待ち、その中で自分たちに何ができるのか最善を考えたいです。やっぱりこのレストランを一番知っているのは自分なので、周りに流されずに“MAISON”にとって一番良いルールを見つけて再開に臨みたいと思います」。

開業の決意、閉める決意、再開の決意。
その都度、覚悟を持って臨んできたオーナーシェフ、渥美創太。

「MAISON」の再開を待ち望むファンは、世界中にいます。
それが訪れた時、より魅力に溢れた「MAISON」時間を体感できるはずです。

なぜなら、「そのための準備と備えをしている」から。

Photograph:Restaurant MAISON

 Photograph:Restaurant MAISON

1986年千葉県生まれ。19歳で渡仏し「メゾン・トロワグロ」、「ステラ・マリス」、「ラボラトワール・ドゥ・ジョエル・ロブション」などを経て、26歳で「ヴィヴァン・ターブル」シェフに就任。2014年、100年以上続く「クラウン・バー」のリニューアルに伴いオープニング・シェフを勤め、2015年、フランスで最も人気のあるレストランガイド「ル・フーディング」のベストビストロ賞を受賞。2019年、自身初となるオーナー・シェフを務めるレストラン「MAISON」を開業。また、「ONESTORY」が主催するレストランイベント「DINING OUT」には、過去2回(「DINING OUT ONOMICHI」、「DINING OUT ARITA」)出演。
http://sotaatsumi.wixsite.com/mysite-1