美しい景観を100年先に繋げるために。弘前公園の桜を守る、桜守という仕事。[TSUGARU Le Bon Marché・桜守/青森県弘前市]

「大好きな植物を仕事にできてうれしい」と橋場さん。プロの樹木医としての厳しい視線と、植物への純粋な愛着を兼ね備えている。

津軽ボンマルシェ例年200万人以上が眺める弘前公園の桜。

毎年ゴールデンウィーク頃に開かれる日本一の桜まつり・弘前さくらまつり。人口約17万人の弘前市に、まつりの期間だけで例年200万人以上の人が訪れると聞けば、その盛り上がりようが窺えます。

残念ながら2020年の弘前さくらまつりは中止となってしまいましたが、お濠の向こうに咲き誇る桜が市民の心の支えとなったことは想像に難くありません。そしてさらに想像してみれば、遠くに見える桜の陰に、その美しさを守り続ける縁の下の力持ちが居ることもわかります。

それが今回の主役、桜守(さくらもり)です。弘前市の職員として弘前公園の桜を手入れする「チーム桜守」は約45名。そのひとりで樹木医である橋場真紀子さんに話を伺いました。

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同じ種類の桜でも、日当たりや地面の傾斜、人に踏まれやすい場所など、環境により生育具合が変わってくるという。

約45人のメンバーで構成されるチーム桜守。「ひとりだとできないことも、チームならできる」と橋場さん。

桜の状態を調査、管理する桜守。その仕事は開花調査や土壌の改良から枝の雪下ろしまで多岐にわたる。

津軽ボンマルシェ弘前市民と桜の深い繋がり。

弘前城を中心とした弘前公園には、52品種、約2600本。例年4月下旬から5月上旬に見頃を迎える桜は、弘前のシンボルとなっています。この桜は、単なる春の風物詩として以上に、市民と深いかかわりがあります。

たとえば「不定期ですが、雪や寿命で倒れた弘前公園の桜を木材として使用しています」と話すのは、弘前市に工房を構えるオーダーメイド家具工房『木村木品製作所』の木村崇之さん。「桜の木自体は古くから家具造りに使われ、珍しいわけではありません。でもこれが弘前公園の桜になると、意味が変わってきますよね。楽しませてくれた桜を最後まで大切にしよう、というメッセージにもなります」と、桜への愛着を語ります。

開花の時期以外も、毎日弘前公園を散歩する人もいます。桜の景色を名物にするカフェやレストランもあります。「桜との繋がりが非常に強い市民。市職員に桜の管理をする係があること自体が、市民の理解があることの証明です」と橋場さんは話しました。

「桜を見に来た方には綺麗だな、すごいな、と思って頂ければ良いのですが、私たちは仕事ですから、葉の出方や樹勢、土壌の状態など、さまざまな点を注視しなくてはなりません」とプロの目で桜を見守る橋場さん。
「それでも満開の時期にはやっぱり圧倒されてしまいますが」と笑う橋場さんの物語を少しだけ紐解いてみましょう。

樹齢100年を越す桜が密集して咲き誇るのが弘前公園の桜の特徴。開花密度は国内屈指で、圧倒的な存在感の桜が楽しめる。

通年開放される弘前公園は市民の憩いの場。「桜の四季を見てもらいたい」という意識が、チーム桜守のモチベーションに繋がる。

津軽ボンマルシェ開花調査から雪下ろしまで。桜を支える桜守の仕事。

橋場さんは1973年、青森県大鰐町に生まれました。
「自然が当たり前にある環境で育ったからでしょうか」と、小さい頃から植物が好きで、成人後は弘前公園内にある植物園に就職。そこで経験を積み樹木医の資格を取り、やがて弘前市の職員となり、公園緑地課に配属されました。
「弘前公園が自分のフィールド。恵まれた環境だと思います」と自身の仕事への愛を語ります。

桜守の仕事は、一年中続きます。4月と5月は開花調査。花の咲き方、散り方を見て、今後に繋げる計画を立てるのです。「少し調子の悪いエリアがあれば、肥料の与え方などを変える。そして翌年以降に効果を調査する。地道な作業です」

6月になると土壌を調査するほか、新しい品種を作るための種の採取。夏には枝や葉をチェックし、病虫害の部分を剪定します。秋には極端に弱った木の土の入れ替えをし、冬は枝の雪下ろし。古い枝を落とし、若い枝を育てるための冬の剪定も大切な仕事です。そして1月には枝を加温して人工的に開花させることで、その年の開花量を調査し、3月からは開花を予想。どの作業も桜のために欠かすことのできない、大切な仕事です。

ハサミとノコギリとコテが仕事の三種の神器。特注で角の部分に刃を入れたコテは、土壌を調べたり、樹皮を削ったりと万能。

夏の剪定は、春から伸びた枝で病気や虫害が被害枝を落とす作業。細かいチェックが後の生育に繋がる。

公園内の桜は約2600本。状態を調査するだけでも膨大な時間がかかる。

津軽ボンマルシェその目が見据えるのは、100年先の弘前公園。

橋場さんに仕事で辛かったことを聞くと「ありませんね」ときっぱり。それでも「今年はさくらまつりが中止になって、改めて大勢の方がこの桜に関わり、待ち望んでいたのだとわかりました。早くまたみんなで楽しめたら良いですね」と思いを聞かせてくれました。
反対に仕事でうれしいことは「今年の桜は良いね、といわれること。市民の方は桜との思い出が多く、大切に見守っていますから、その言葉は重いですね」といいます。弘前の桜を守る、責任と誇りが垣間見える言葉です。

弘前市で桜が管理されはじめたのは昭和30年代から。手入れの方法や桜への思いを、脈々と引き継ぎながら現在に至ります。

その甲斐あって、通常は60〜80年といわれるソメイヨシノの寿命ですが、弘前公園には樹齢100年を越える木が400本以上。開花量も豊かな古木の存在が、日本屈指といわれる弘前公園の桜景色を生み出しているのです。

「弘前の桜を守るために仕事をしています。だから今の夢は、この景色を100年先まで繋げること」
桜を守るため日々努力する桜守の存在を思えば、来年の桜はいっそう美しく感じられるかもしれません。

昭和30年代から受け継がれる管理方法だが、資材や機械の入れ替わりに合わせ、時代に沿った方法が日々模索されている。

古い枝が若い枝と入れ替わることを繰り返しながら、毎年美しい花を見せる桜。その陰には桜守たちの仕事がある。

住所:青森県弘前市大字下白銀町1 MAP
電話:0172-33-8739(弘前市公園緑地課)
https://www.hirosakipark.jp

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