全ては整った。長谷川在佑&川手寛康の短期密着連載・最終章! [デンクシフロリ/東京都港区]

『デンクシフロリ』のメンバー集合! 左より女将の橋本恭子さん、シェフの森田祐二氏、スタッフの寺下尚希氏、山木 望氏、後野篤郎氏、そして長谷川在佑氏、川手寛康氏。更に、日本料理の料理人・黒野仁喜氏が合流する。

デンクシフロリ2020年9月30日、「デンクシフロリ」オープン!

改めて振り返ること、2020年8月。

『傳』の長谷川在佑氏と『フロリレージュ』の川手寛康氏がふたりでレストランを始めるという一本の連絡があってから約1ヶ月、それならば!と工事中の現場から密着し続けた短期連載も今回が最終章になります。

本プロジェクトの経緯やお店に携わる様々な人の声も吸い上げ、多角的な視点から『デンクシフロリ』ができるまでを綴ってきました。
当初、コンセプトを伺った時、「何か凄そうですが、結局どんなお店なのか……」と、「???」が頭をよぎったのは、今でも記憶に新しい正直な感想(汗)。

しかし、わからなくて当然なのです。
なぜなら、ふたりが歩み出そうとしている世界は、新たな一歩であり、前代未聞の挑戦のため、すぐに他所が理解しようと思うこと自体、虫が良すぎるわけなのです。
そのふわりとしたイメージは、密着することによって、少しずつつながっていったような気がします。
それは、このお店が掲げる一番の根幹である「人と人とのつながり」がどんどん結実していった様子にありました。

長谷川氏の言葉を借りるならば、「“クシ”は料理にも表現しますが、それが主ではありません。“つなぐ”ものはさまざま。和食とフレンチ、傳とフロリレージュ、長谷川と川手、文化と文化、国と国……。そして、一番は人と人。見えない“クシ”で“つなぐ”ことが一番重要」。これに尽きると思います。

ただ食べるためではない。ただ飲むだけではない。集いや出会い、ご縁が生まれる場所こそ『デンクシフロリ』なのです。
その理解を手助けしてくれたのは、本連載でも取材した建築家・デザイナー、陶工、左官職人、フラワーデザイナー、染色家の方々でした。
スケルトンだったそこは、彼らの手によりどんどん具現され、つながっていきます。

そして遂に、2020年9月30日オープン!

その全貌を一挙公開します。

【関連記事】東京都港区/「デン」と「クシ」と「フロリ」の関係。

入口の暖簾は、江戸型染作家・小倉充子さんによるもの。通称、よっぱらいおじさんの「デンクシフロリ」ロゴのグラデーションは、徐々によっていく様を表す。

お店に入ってすぐ。正面の壁面仕上げは、大橋左官の職人・大橋和彰氏によるもの。そこに飾る花は「piLi flower design works」のフラワーデザイナー・大類淳子さんが手がける。ひとつ一つを観察するだけでも、そこかしこに何かと何かがつながる。

空間の主役でもあるおくどさんも大橋左官の職人・大橋和彰氏が手がける。おくどさん、壁面ほか、適材適所に表情を変えて仕上げる。経年変化も楽しみだ。

カウンターの素材はイロコと呼ばれるアフリカンチークを採用。「純和に寄らず、洋の要素も加味しました」と、建築家・インテリアデザイナーのエスキス・甲斐晋介氏。

凹字型の空間は『フロリレージュ』と同スタイル。『フロリレージュ』が劇場型であれば、『デンクシフロリ』は小劇場型。元気に! 賑やかに! コミュニケーションがつながる場所。

デンクシフロリ誰もが美味しいと思える料理を構成した。「デンクシフロリ」のコースを全公開!

「今回は、誰もが食べて美味しい!と思える料理を念頭にコースを考えました」。
そう語るのは、川手氏です。

「何度も何度も試作しました。毎日アイデアを出し合っては、作っては手直しして。お店の営業時間以外は、お互いのキッチンに行き来する日々でした」とふたりは話します。

そんなコースは、全8品。
・ブータンノワール りんご
・いわし レバームー
・ビスク 海老芋
・なす 茄子ピューレ
・ピジョン えび
・フラン 水牛モッツァレラ
・タンコンフィ 茸ご飯
・甘味

まず、「ブータンノワール りんご」。フレンチでは定番のブータンノワールに長谷川氏考案のりんごのガリを合わせます。「このガリは、季節に合わせて変えていく予定です」とは長谷川氏。また、通常はマスタードを添えるところですが、和がらしにしているのも特徴的です。

「いわし レバームー」は、『傳』と『フロリレージュ』が初めてコラボレーションした時の組み合わせを再構築。「どうしてもこの料理をコースに加えたかった」とふたりが話す思い出の品です。少しずつレバームーをいわしに乗せて食べるも良し、単体で香りを楽しむも良し、串からはずして混ぜ合わせるも良し。お好みに合わせてお楽しみいただきたいひと皿です。

「ビスク 海老芋」の海老芋は、出汁を含ませ、ビスクの濃厚な味わいと絶妙なバランスが溶け合います。ソースではなく、スープとの合わせも斬新なひと皿です。

「なす 茄子ピューレ」のなすは、揚げ浸しに。皿上に広がる2種のソースには、酸味の効いたものとスパイシーなオイルを用意。上にはナスの皮で作ったペーパーシートを添えます。本作は、Vol.2の連載の試作でも登場しましたが、その時よりも進化しています。

「ピジョン えび」の鳩は味噌漬けに、えびは醤油漬けに。漬けの響宴が成された料理。コース内、唯一のふた皿構成には、森田氏が作るパスタも添えられます。基本的に今回のコースは、長谷川氏と川手氏が考案したものですが、この料理に限り、長谷川氏・川手氏・森田氏がつながる味を堪能できます。

「フラン 水牛モッツァレラ」は、出汁ベースの茶碗蒸しに軽く炙ったモッツァレラを沈め、表面には醤油の餡とオリーブオイルを浮かばせます。

「タンコンフィ 茸ご飯」の茸は、舞茸とセップ茸を。「今後は、季節によって茸の種類を変えて行く予定です」と長谷川氏。合わせる牛タンには醤油の餡を絡め、器の縁にはアクセントに山椒の実のペーストを添えます。『傳』直伝、土鍋から炊き上げたご飯を見せる演出もまた、美味しさを倍増させます。

最後の甘味は2種より。ひとつは「煎茶プリン」。クラシックなプリンに煎茶のクリームと茶葉を乗せ、豊かな香りを演出します。もうひとつは「メレンゲ大福」。炊いた小豆とメレンゲをアイスにし、きめ細やかな餅で包み、メレンゲでサンドします。「ガシガシ食べてほしい!」とは川手氏の言葉。

また、それらに彩りを添え、相乗効果を生むのがドリンク。中でも、特に割りものがおすすめです。

沖縄の柑橘フルーツ、カーブチーを使用したサワーや「ブータンノワール りんご」のりんごのガリを使用した「アップルジンジャー」、山葵を漬け込んだウォッカにかぼすを添えた「かぼす山葵」はその好例です。また、大麦焼酎 青鹿毛(あおかげ)と台湾茶 八八金萱を合わせたお茶割りで〆るのも「デンクシフロリ」流。

川手氏は、台湾に姉妹店『ロジー』を展開し、『ハレクラニ沖縄』のレストラン「シルー」のコンサルティングシェフも務めます。台湾と沖縄、つながりのある地域から選ぶ素材を起用したドリンクもまた、「デンクシフロリ」らしさと言えます。

とにもかくにも、まずはぜひご賞味あれ!

森田氏を中心に料理を展開。オープン前のこの日は、長谷川氏と川手氏も参加し、ポイントや手順を整理。精度を上げていく。

席に用意される式膳は、越前塗。こういった細かい演出も高揚感を誘う。

「ブータンノワール りんご」は、Vol.2の連載にも登場。試作の初期段階から採用されるも精度は更にアップ。当初、千切りだったりんごは輪切りになり、より食感と味わいが増す。

「いわし レバームー」は、長谷川氏と川手氏が初めてコラボレーションした思い出のメニュー。「これだけはどうしてもコースに入れたかった」とふたり。以前よりも向上したふたりの技術やキャリアは、当時の味よりも、はるかにレベルアップ!

スープにクシが刺さった斬新な「ビスク 海老芋」。海老芋には出汁を含ませ、風味豊かに。

揚げ浸しにしたなすに酸味とスパイスを効かせた2種のソースでいただく「なす 茄子ピューレ」。本作を始め、「ブータンノワール りんご」、「いわし レバームー」に使用された白磁の器は、『李荘窯』の有田焼陶工・寺内信二氏が手がける。

「ピジョン えび」では味噌漬けの鳩と醤油漬けのボタンエビをクシで刺した漬けペアリング。パスタは森田氏が手がけ、添えたネギソースと絡めても美味しい。和食・長谷川、フレンチ・川手だけでなく、イタリアン・森田もつながる料理。

表面にかかったオリーブオイルの風味がモッツァレラと茶碗蒸しのつなぎとなり、絶妙にマッチ。和と洋が見事に融合された「フラン 水牛モッツァレラ」。

湯気が立ち上る炊きたてのご飯。土鍋から見せる演出は、『傳』の手法を採用。土鍋は、 Vol.4の連載にも登場した『安楽窯』陶磁器製造の有田焼陶工・末村安孝氏が手がける。

味はもちろん、香りが豊かな「タンコンフィ 茸ご飯」。タンにかかった餡をご飯に絡めても美味しい。

「煎茶プリン」は、「食べた後の余韻が他の茶葉と比べてダントツに心地良い!」と長谷川氏と川手氏。

「メレンゲ大福」は「思っ切りバリバリ口に頬張って食べてください!」と川手氏。本作を始め、「ピジョン えび」、「フラン 水牛モッツァレラ」、「タンコンフィ 茸ご飯」、「煎茶プリン」の器は、Vol.4の連載にも登場した『柳瀬晴夫窯』14代目、小鹿田焼陶工・柳瀬元寿氏が手がける。

ウォッカベースに沖縄の青みかん「カーブチー」を合わせたサワー。「“いわし レバームー”とぜひ!」とは女将・橋本さん。

「アップルジンジャー」は、生姜を漬けたウォッカベースに紅玉りんごジュースとスパイスを効かせた自家製ジンジャーシロップを加え、「ブータンノワール りんご」のりんごのガリと仕上げる。

山葵を1日ウォッカに漬け、液体に風味をまとわせた「かぼす山葵」。「山葵のツンとした味と香りに爽やかな柑橘を合わせました。本当の酒飲みが好きな味!」と橋本さん。

大麦焼酎 青鹿毛と台湾茶 八八金萱を合わせたお茶割りは、麦の香ばしい香りとお茶の爽やかな味わいが綺麗にまとまる。「タンコンフィ 茸ご飯」のような甘辛いタレの味との相性は抜群。「“メレンゲ大福”との合わせもぜひ!最後の“あがり”感覚でもお召し上がりください!」と橋本さん。

デンクシフロリ長谷川在佑と川手寛康は、コラボレーションをしたのではない。レストランを作ったのだ。

「2020年9月30日にオープンを迎えますが、ここからがスタート。森田シェフを中心に『デンクシフロリ』のメンバーがそれぞれ考えていくことが大切」と長谷川氏と川手氏は話します。

ふたりがお店には立たないものの、名シェフによる新店とあれば、自ずとゲストの期待値は高まります。
「期待値が高いのは覚悟の上。僕は長谷川さんにはなれないですし、川手さんにもなれません。美味しい料理を作ってお客様に楽しんでいただくこの舞台を誠心誠意全うするだけです」と森田氏。

「改めて思うことは、僕たちはコラボレーションをしたのではありません。レストランを作ったのです。コースの内容は、時間をかけてじっくり考え、どうすれば美味しいと思ってもらえるかを日々熟考しました。それは、イベントでご提供するような数日限定の料理ではありません。常にお楽しみいただけるレストランでご提供する料理を作りました」と長谷川氏と川手氏は話します。

「“クシ”という鎖があったからこそ、できたと思います。ある種のルール、規制があったのが良かった。自由に表現し過ぎたら、まとまらなかったかもしれません」と長谷川氏。
「改めて“クシ”って良い言葉で良い出会いを“つなぐ”のだと思いました」と川手氏。

長谷川氏と川手氏のつながりに始まり、和食とフレンチ、そこにイタリアンがつながり、食材をつなぎ、料理をつなぎ、ものをつなぎ、人をつなぎ……。

―全ては整った―
冒頭にそう明記しましたが、実は誤りがあり、厳密には1ピース欠けています。

それは、『デンクシフロリ』がつなぐ最後のピース、お客様。

そのピースは、ぜひあなたが。

常に笑顔が絶えないメンバー。お客様も含め、同じ空間に居合わせた人々がいかにグルーヴを体感できるかが重要。そういった意味では、『デンクシフロリ』は、バンドにも似るのかもしれない。

住所:東京都渋谷区神宮前5-46-7 GEMS 青山CROSS B1A MAP
TEL:03-6427-2788
https://denkushiflori.com

Photographs:JIRO OHTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI

これを逃したら二度と味わえない!? サッポロ一番の無限の可能性を楽しむレストランが期間限定オープン。[サッポロ一番劇場/東京都港区]

なんとこれがサッポロ一番!? 参加した一流シェフ2名の共作による「伊勢エビチリ」。5,500円のディナコースの一品として登場する。

サッポロ一番劇場サッポロ一番への思いが詰まった16日間限定の夢の劇場がついに開演!

たかがインスタントラーメン。

そう思っている方がいたら、そんな人にこそ、ぜひこの店に足を運んでほしい。
名だたるレストランのセカンドラインが軒を連ね、世のグルマンたちを夜な夜な魅了する『虎ノ門横丁』に9月25日(金)から10月10日(土)までの期間限定でオープンする『サッポロ一番劇場  @虎ノ門横丁』。『虎ノ門横丁』では、これまでにもポップアップレストランとしてさまざまな店を期間限定でオープンしてきましたが、今回コラボするのは料理人やレストランにあらず。何と、日本が誇るインスタントラーメン『サッポロ一番』とコラボして、サッポロ一番を使ったアレンジ料理を提供しようというのです。

しかも、その前代未聞のコラボに参加するシェフも、一流の料理人。中華から銀座『Renge equriosity』の西岡英俊氏、イタリアンから自由が丘『mondo』の宮木康彦氏がサッポロ一番のしょうゆ味、みそラーメン、塩らーめんの3種のインスタントラーメンを自在にアレンジ。独自の視点と解釈、さらにお互いの“らしさ”をプラスして、未知なるサッポロ一番のポテンシャルを引き出そうというのです。

さらに言えば、一人一品ずつではなく、ランチでは開催期間中を3期に分け、ランチでは西岡シェフが4品、宮木シェフが5品のラーメンを考案するというから、両シェフの熱量も凄まじい。ディナーには、お酒とともに楽しめるようサッポロ一番がコース料理となって登場、両シェフの共作も提供されるとあって、サッポロ一番ファンはもとより、これには世のフーディも黙ってはいられないことでしょう。

そんな期間限定の『サッポロ一番劇場』のプレス発表にONESTORYが参加、サッポロ一番の驚くべきポテンシャルを体感してきました。

サッポロ一番のおなじみのあの味が、一流シェフの手にかかるとこうも味が変わろうとは!

プロデューサーであるマッキー牧元氏。自身もサッポロ一番アレンジ料理をつくりつづけてきたが、両シェフの料理のアプローチには舌を巻いた。

こちらは宮木シェフ作「3種イワシのアーリオーリオエペペロンチーノ カリカリパン粉がけ」1,000円。10月1日(木)~5日(月)に登場。

サッポロ一番劇場3品から垣間見えた、両シェフのサッポロ一番へのリスペクトと愛。

プレス発表で実際に供されたのは全3品。しかし、この3品だけでサッポロ一番の奥深き世界、両シェフによるこの企画に対しての熱量と本気度を知るには十分すぎる内容でした。

まず登場したのは、宮木シェフ考案の「サッポロ一番塩らーめんのテッリーナ」。見た目からして「これがサッポロ一番?」と目を白黒させれば、味わってさらに驚きます。塩らーめんの麺と、白菜、椎茸、人参といった野菜を、塩らーめんのスープを寄せてテリーヌにしているのですが、味わえば確かにあのサッポロ一番塩らーめんそのものの味なのです。ただ、すごいのは、添えられたアンチョビのソースとともに口に運ぶと、その味わいが激変すること。聞けば、ソースにはフルーツトマトとクリーム、レモンの皮が混ぜられ、それらの酸味と塩味が塩ラーメンの味わいを引き締め、「これがサッポロ一番?」と、改めて食べ手を驚かせるのです。
「白菜、椎茸、に〜んじん♪」
あの名CMを知っている世代には懐かしいテリーヌの構成も、遊び心満載。サッポロ一番ファンなら心をぐっと掴まれることでしょう。

続く料理は西岡シェフ作。こちらもサッポロ一番塩らーめんを、ストレートにアレンジした「天然真鯛の松茸ラーメン」。しかし、シェフのアイデアは食べ手の想像を軽々と超越してくるのでした。
まず、スープには真鯛のアラから取った出汁を使用。粉末のスープの素を溶いてつくるのですが、フリーズドライのネギだけを除外。そうすることでサッポロ一番塩らーめんらしさを残しつつも、「インスタントラーメンのジャンキーさを消すことができる」のだそう。合わせる具材は、焼いた松茸と岩のり。松茸で仕立てたオイルをスープに浮かべることで、麺との絡み具合もアップし、香りも重層的に。未知なるサッポロ一番の世界にうなるばかりです。

3品目は宮木シェフの「モンサンミッシェル産ムール貝の混ぜそば」。こちらは『mondo』でも提供するコルツェッティというパスタとムール貝のラグーのソースを合わせた一品から着想し、みそラーメンをアレンジ。刻んだムール貝とにんにく、玉ねぎ、セロリを白ワインで煮込み、そこにみそラーメンのスープの素を絡めたソースを中心に、卵黄、ネギ、セロリ、トマト、バジルの葉をトッピングしています。しっかりと混ぜ合わせて食べれば、みそラーメンが主張しつつも、しっかりとイタリアンとして着地させるあたり流石。黒酢のスプレーで「味変」させる点にも、楽しさが溢れています。

「サッポロ一番塩らーめんのテッリーナ」。白菜、椎茸、にんじん、麺を塩らーめんのスープで寄せて形成。夜のディナーコースに登場する。

準備期間中も連絡を取り合い、お互いのアイデアをブラッシュアプしていったという宮木康彦シェフ(左)と西岡英俊シェフ(右)。

西岡シェフによる「天然真鯛の松茸ラーメン」1,500円。すだちを搾ると上品な味わいが東南アジアのテイストになり、違う顔を見せる。9月30日(水)まで。

宮木シェフが考案した「モンサンミッシェル産ムール貝の混ぜそば」1,000円。みそラーメンとイタリアンが見事に融合する。9月30日(水)まで。

サッポロ一番劇場ランチではしょうゆ、みそ、塩の3種のラーメンが各15食限定で登場。

プロの凄みを痛感した。
「超一流のサッポロ一番の作り方」という本を出し、「サッポロ一番塩ラーメンのアレンジなら50種類は軽いぜ」と、威張っていた自分が恥ずかしい。
プロの手にかかると、こんなにもサッポロ一番ラーメンの可能性が広がるのか。
長い長いサッポロ一番ラーメン人生で、こんなにも驚いたことはない。(原文ママ)

これは、この店のプロデューサーであるマッキー牧元氏がFacebookに投稿した文。ここに書かれている内容が決して誇張されたものではないことは、この日供された3品を味わって身にしみてわかりました。

そして、マッキー牧元氏はこうもいうのです。
「どう味を構築して、構成していったらいいかは、これまでにサッポロ一番をアレンジして作り続けてきた身からすれば、ある程度想像がつく。しかし、ふたりのシェフはさらにその先を行っていた。最も驚くべきは、麺へのアプローチ。『こんな茹で方をすると、こんな食感になるのか?』と舌を巻いた。

ランチに登場する9品のラーメンに、ディナーコースで供される6品を加えると、西岡シェフと宮木シェフの両氏が考案したメニューは全15品。その一つひとつに苦心があり、アイデアがあり、サッポロ一番への愛とリスペクトを感じます。
この日食べた料理はわずか3品。驚くには十分すぎる内容ですが、一方で、それはサッポロ一番の無限の可能性の一部に触れたに過ぎません。
マッキー牧元氏も「できることなら、全メニューを皆さんに味わってほしい」と、その出来に太鼓判を押します。

繰り返しになりますが、『サッポロ一番劇場』がオープンするのは10月10日(土)までの期間限定。ランチでは3種のラーメンを提供しますが、各限定15食。この機会を逃したら二度と味わえない!? ふたりのシェフによるアレンジメニューをどうぞお楽しみください。

ふたりの一流シェフと、サッポロ一番による、わずか16日間限定の夢の劇場。未知なる味の発見と、一期一会の邂逅を楽しみたい。

住所:東京都港区虎ノ門1-17-1虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー3F 虎ノ門横丁  MAP
開店期間
9月25日(金)~ 10月10日(土)
営業時間
平日:ランチ12:00~ 売り切れ終い 
   ディナー18:00~(LO21:00)
土日:ランチ12:00~ 売り切れ終い 
   ディナー17:30~(LO21:00)
https://www.toranomonhills.com/toranomonyokocho/1029.html

PhotographsJIRO OHTANI
Text:SHINJI YOSHIDA

(supported by サッポロ一番)

本で旅する物語。もうひとつの「森岡書店」。[森岡書店/東京都中央区]

本と旅/森岡書店森岡督行と読む、見る、日本の旅へ。

───
旅には2しゅるいあります。
ひとつは、遠くまで行って、ちがう場所の空気をすうふつうの旅。
もうひとつは、本を読んで想像のせかいをめぐる心の旅です。
───
これは、建築家・安藤忠雄氏が手掛けたはじめて絵本『いたずらのすきなけんちくか』の一節です。

「改めて、自分が本と向き合うきっかけになった言葉です」。
そう話すのは、『森岡書店』の店主・森岡督行氏です。

「本の良いところは、まず形があるということです。もうひとつは読み返したくなるということではないでしょうか。これはデジタルにはない感覚だと個人的には思っています。再読の度、自分の成長とともに印象が異なることがあるのもおもしろい。はじめて読んだ時には気づかなかった発見もあるかもしれません」。

紙で読む、見る行為は、画面で読む、見る行為より、記憶に深く刻まれると言われています。脳科学の分野では証明されているようですが、脳が認識する部位が異なることと反射光と透過光の違いにもあるそうです。

「地域に特化したものや街をテーマにしたもの、はたまた建築や寺社仏閣、祭りや催事、日本の目線、海外の目線など、多角的に日本の旅を想像できる本を選書していきたいと思います。特に外国人が見る日本は、我々が気づかないところに重きを置いたり、見慣れた風景すら新しく感じることもあります」。

そして、本に浪漫を感じるところは、前出のように形として残ることです。

「本は、人の命よりもはるかに長く生き続けます。つまり、歴史の伝承物でもあるのです。今ある本も、もしかしたら、数十年、数百年先には古書店に並び、また別の人の手に渡るかもしれません。そんなドラマもまた、形に残る本だからこそ得られる喜びです」。

そう話す森岡氏ですが、実は本に関する失敗談も。

「今思えば、手放せなければよかったと後悔している本もあります。また読み返したいと思った時には手元にない……ということもしばしば。しくじった!(笑)と思っても、後悔先に立たず。ですが、再会できるのもまた本。そんな縁も楽しみたいと思います」。

銀座に実店舗を構える『森岡書店』では、一冊の本を扱う本屋ですが、ここはもうひとつの『森岡書店』。

店主とともに、さまざまな本を通して、日本を読む、見る、想像の旅へ出かけたいと思います。

住所:東京都中央区銀座1-28-15 鈴木ビル1F MAP
TEL:03-3535-5020

1974年、山形県生まれ。1998年に神田神保町の一誠堂書店に入社。2006年に独立し、茅場町の古いビルにて古書店・ギャラリー『森岡書店』を開業。その後、2015年に銀座へ移転し、一冊の本を売る本屋として『森岡書店 銀座店』を開業。著書に『写真集 誰かに贈りたくなる108冊』(平凡社)、『BOOKS ON JAPAN 1931-1972 日本の対外宣伝グラフ誌』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『荒野の古本屋』(晶文社)など。

Photographs:JIRO OTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI

ウォバッシュ ワークシャツ

定評だったウォバッシュストライプにワークシャツが登場!

  • しっかり染めた経糸と緯糸で織り上げ抜染にてドットをストライプ状に配した素材。
  • 海外先行販売の商品が日本に登場!
  • サイズ感はワークタイプシャツですので、ウェスタンシャツにくらべ身頃が広めです。
  • 強度を考えた昔ながらの方法で、身頃、袖を全て巻き縫いで仕上げました。そのため裏もロック目の無い綺麗な仕上がりになっています。
  • ワンウォッシュ済み。
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IHSH-266: サイズスペック

  着丈 肩巾 バスト 裾回り 袖丈 袖口
XS 70.0 40.0 104.0 102.0 62.0 11.0
S 71.5 42.0 108.0 106.0 62.0 11.0
M 73.0 44.0 112.0 110.0 63.5 11.5
L 74.5 46.0 116.0 114.0 65.0 12.0
XL 76.0 48.0 120.0 118.0 66.5 12.5
XXL 77.5 50.0 124.0 122.0 68.0 13.0
XXXL 79.0 52.0 128.0 126.0 69.5 13.0
  • 商品により多少の誤差が生じる場合がございます。予めご了承ください。

素材

  • 綿100%

IRON HEART ポケットバッグ

IRON HEARTのポケットバッグ!

 
      
  • ナイロンのリップストップ(パラシュートクロス)で作った小型の軽くて丈夫なコバッグです
  •   
  • たたんで収納できるミニケースが付属。
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  • ジーンズのポケットにすっぽり入るサイズです。
  •   
  • バッグ本体の片面にはバイクマークのプリント、ミニケースのフラップにはピスネームを付けています。
  •   
  • 男女ともにご使用頂ける使い易いシンプルなバッグです

素材

 
      
  • ポリエステル:100%
  •  

初公開!! 長谷川在祐と川手寛康が託したふたり。新シェフと女将の挑戦。[でんくしふろり/東京都港区]

新たなシェフ・森田祐二氏(右)と女将・橋本恭子さん(左)。なぜ、ふたりが『でんくしふろり』に携わることになったのか、その真相に迫ります!

でんくしふろり『でんくしふろり』のシェフは誰なのか。遂に、その答えが明らかに。

『傳』の長谷川在祐氏と『フロリレージュ』の川手寛康氏が手がける新たなお店『でんくしふろり』。まだまだ謎は多く、未だその詳細は明らかにはなっていませんが、一番の注目は、誰がシェフを務めるのか。

ふたりは自店があるため、本プロジェクトのスタート時から「僕たちが立つお店にはしません」と公言。しかし、新シェフの存在については、これまでヴェールに包まれていました。
そのシェフは、『傳』や『フロリレージュ』からの人選ではありません。

名前は、森田祐二氏。北海道・札幌のイタリアン『トラットリア/ピッツェリア テルツィーナ』で研鑽を積んだ人物です。
そして、森田氏とともにお店を切り盛りするのは、『フロリレージュ』からの電撃移籍、マネージャーの橋本恭子さんです。

気になるのは、やはりプロセス。
ふたりは、どうゆう理由で『でんくしふろり』への切符を手にしたのでしょうか。

森田祐二・橋本恭子・でんくしふろり。そのつながりを紐解きたいと思います。

【関連記事】東京都港区/「でん」と「くし」と「ふろり」の関係。

『でんくしふろり』の名刺も完成! 裏面には川手氏作の「よっぱらいおじさん」を模した屋号が。橋本マネージャーは、遂に橋本女将に!

でんくしふろりきかっけは、田原諒悟。9:1で反対されたが、チャンスは今しかないと思った。

田原諒悟氏は、『フロリレージュ』の姉妹店、台湾『ロジー』を担うシェフです。「ミシュランガイド台北2020」では、2つ星を獲得。2018年のオープンから数えて半年も満たない期間で1つ星を経て、現在に至るスピード昇格です。そんな田原氏と森田氏は、前述の『トラットリア/ピッツェリア テルツィーナ』で約4年間、同じキッチンに立っていました。

「諒悟さんは、北海道で一緒に働いていた僕の先輩です。ひと足先に拠点を東京に移し、今では世界で活躍するシェフとして尊敬しています。一方、僕は、2020年に入ったくらいに今の店から独立しようか、他のジャンルのお店で料理の幅を広げようか悩んでいました。ちょうどその時、今回の件で一本の連絡を頂いたのです。長谷川さんと川手さんがふたりで始めるお店のシェフを探していると」。

当時は、まだ『でんくしふろり』という名前はおろか、物件も未定。海のものとも山のものともつかぬ状態ではありましたが、田原氏の誘いもあり、長谷川氏と川手氏に会うため、森田氏は一度上京します。
「お話しさせて頂き、正直、断る理由がありませんでした。チャンスしかないと思いました。イタリアンでは学べない技術や表現の自由度、自分の求めているステージがそこにはありました」。

しかし、唯一の懸念もありました。それは、新型コロナウイルスの問題です。都外からの上京は、必ずしも賛同を得られるわけではありません。
「9:1で反対されました。“今じゃなくてもいいんじゃないか”、“もう少し状況が落ち着いてからにしたらどうだ”など、その意見は様々でしたが、僕は今しかないと思いました。コロナを理由に諦めたくなかった」。
それらの声は、当然、森田氏を心配してのこと。しかし、自分のタイミングでチャンスはやってこないことを森田氏は分かっています。
来年であれば是非が通用すれば良いですが、それもまた難しい。逃せば手から滑り落ちてゆくかもしれません。更には、こんな絶好が再び訪れるとは限りません。

しかし、9:1の1。それは誰だったのでしょうか。
森田氏の師匠、『トラットリア/ピッツェリア テルツィーナ』の堀川秀樹氏です。

「“もうここでは学び尽くした”、“次のステージへ進め”、“絶対、行くべきだ”。堀川さんは、そうおっしゃってくれました」。しかし、こう言葉も続けます。
「“大切な人やお世話になった人、周囲の人への配慮を怠らず、真摯に説明をし、きちんと理解を得てから行きなさい”とも言われました」。

強力な1の味方によって、2020年9月14日に北海道を後にします。東京入りしてからは、『傳』と『フロリレージュ』のキッチンに入り、実際に同じ現場でシェフとしての時間をともにし、訓練の日々。それ以外は、メニュー作りに没頭します。
「料理のベースを長谷川さんと川手さんが作ってくださっているので、オープンまでにその精度をいかに上げられるかが自分の使命。ふたりに安心してお店を任せてもらえるように務めます!」。

『でんくしふろり』森田祐二シェフの誕生の瞬間です。

「今回、このようなチャンスをいただけた長谷川さんと川手さんには感謝しかありません。これからの人生を捧げるつもりで頑張ります!」と森田氏。

でんくしふろりマネージャーから女将へ。もう一度、ゼロからやってみたかった。

『でんくしふろり』の未来を担うもうひとりの重要人物、それが橋本恭子さんです。ご存知の方も多いとは思いますが、『フロリレージュ』のマネージャーを務めています。意外にも見えるこの移籍は、「自分が更に成長できる絶好の舞台!」と言います。今回に限らず、常に我が道を切り開いてきたようにも見える橋本さんの歩みを振り返ると「運だけでここまできました!」と豪快に笑います。

「もともとは全然飲食とは関係ない仕事をしていて、ひょんなことからお手伝いをすることになったのが約10年前。表参道にできる某飲食店の立ち上げでした。最初だけ……と思っていたのですが、気がつけば7年半(笑)。とても好きなお店だったので辞める理由はありませんでしたが、“このままでよいのか”、“次のステージに向かわなくてよいのか”など、様々な自問自答を繰り返していました。『フロリレージュ』はお客さんとして訪れていて、料理に感動したのは今でも記憶に新しいです。ある時、川手シェフとお話しする機会があり、“それならば一緒にやってみないか”と声をかけて頂き、満を持してお世話になることに」。

しかし、以前のカジュアルなお店と比べるとレストランでの接客やサービスは通用せず、「最初はひどいものでした……」と苦笑い。試行錯誤するも、中々うまくいかず、目指したこともなかった選択肢の挑戦は、そう甘くはありません。
「ある時、気づいたのです。語弊を恐れずに言えば、“私はレストランに憧れがないのかもしれない”と」。
この「憧れ」をもう少し噛み砕くと、「働き方の憧れ」、「体制の憧れ」を指します。
「例えば、レストランであれば、支配人がいて、マニュアルがあって。その絵図になぞろうとする自分がいたのですが、その憧れが弱かったので理想とはほど遠いサービスに。更には、圧倒的にレストランの経験値のなさを『フロリレージュ』で目の当たりにもしました。しかし、幸い自由度の効く場所だったので、そこで気持ちを切り替えたのです。私は私にできることをやろうと」。
今の橋本マネージャーのスタイルは、こうして形成されたのです。持ち前の明るさと元気、コミュニケーション能力の高さは発揮され、生き生きとカウンター内を笑顔で動き回ります。

そんな過去を振り返っていると「実は私、もともと台湾組だったんです(笑)」とも。
当時、前述の『ロジー』のオープンが控え、そのスタッフとして橋本さんは参画予定でしたが、紆余曲折あり、国内組に。現在は、『フロリレージュ』歴2年半、もう一度、挑戦したいと思った矢先に飛び込んできたのが『でんくしふろり』でした。

「実は、密かにもう一度、カジュアルなお店に興味が湧いてきていたのです。ですが、誰かのお店に情熱を注げる自信がありませんでした。それほど、最初にお世話になった表参道のお店と『フロリレージュ』の想いが特別だったから。そんな時に『でんくしふろり』の話を聞き、即立候補しました。もう一度、ゼロからやってみたかった」。

表参道のお店に始まり、川手氏との出会い、幻の『ロジー』!? 『フロリレージュ』、そして『でんくしふろり』……。決して楽しいことばかりではなく、時に「運」は試練も与えてきましたが、都度、自分らしく橋本さんは乗り越えてきました。

「『フロリレージュ』ではワイン中心のペアリングが主流ですが、『でんくしふろり』では日本酒や割りものをメインにするつもりです。割りものは特にこだわりたいと思っており、予想外の組み合わせや面白い品々の仕込みもしているので、ぜひお楽しみください! ワインやドリンクコースのご用意もする予定ですが、ワイワイ楽しんでいただければと思っています」。

規模は違えど、奇しくも凹字型のカウンターは『フロリレージュ』同様。オープンスタイルで繰り広げられる阿吽の呼吸、美しい動きでゲストを魅了する『フロリレージュ』が「劇場型」であれば、『でんくしふろり』は、声に出して賑やかに笑いさえも生む「小劇場型」か!?

その中心で一番声を張っているのは、橋本女将かもしれません。

「『傳』っぽさもありながら『フロリレージュ』っぽさもある。ふたつの良いところを『でんくしふろり』では表現したいです!」と橋本さん。高い目標は、早くも女将の貫禄が漂う!?

でんくしふろりここには、長谷川在祐も川手寛康もいない。チームで乗り切る。

取材を行った9月某日、森田氏と橋本さんは、会ってまだ4回目。
「森田さんはとにかく明るい! あとは声が大きいのが良い!」と橋本さん。
「いやいや、橋本さんの方が明るくて、声が大きい!」と森田氏。
「でも、声が大きいことは、『でんくしふろり』には絶対に重要!」とふたりは笑いながら声を揃えます。

「私は、お客さまとシェフとの間にいる中間地点、それをうまく中継してつなぎたいと思っています。スタッフのひとり一人にファンがいるようなお店を目指したいと思っています」と橋本さん。
「料理に関してベストを尽くすことはもちろん、サービスや細かいところも互いに支えられたらと思っています。例えば、キッチンとサービスでは、忙しい時と手が空く時のサイクルが異なります。そんな時は、どっちがどっちの仕事と区分するのではなく、お皿を下げたり、お会計をしたりと、みんながみんなの仕事に関心を持っていきたいと思っています」と森田氏。
「それを聞いて、今からそのような視点を持ってくれているのはとても嬉しかったですし、そんなシェフがチームにいることも心強いと思いました」と橋本氏が続きます。

社会で言えば縦割り、横割りですが、『でんくしふろり』流に言うならば、縦くし、横くし。その縦横を取り払い、縦横無尽にくしでつながることが、チームをより強くしてくれるのでしょう。

ご存知の通り、ここには長谷川氏も川手氏もいません。ある意味、スター選手不在の中、それでも勝算があるのは、個人競技ではなく、団体競技にあります。チーム戦だからこそ成せる技なのです。
「とはいえ、まだ上京してきたばかりの田舎者なので、東京に慣れるところから始めます!」と森田氏が言うも、「そのネタが使えるのは、最初の一ヶ月だけ!」と橋本さんの鋭いつっこみ。
「『傳』や『フロリレージュ』のお客様にも、『でんくしふろり』が好きだと言ってもらえるようになりたいです!」とふたりが言うも、すぐさま「とはいえ、お店を始める前からそんな図々しいこと言ってしまう性格も似てる(笑)」と言葉を続け、息もピッタリ。

『でんくしふろり』では、そんなシェフと女将のかけあいも一興か!?
人の出会いもご縁のつながり。ついに、演者は揃いました。

いよいよ、本格始動です!

※『でんくしふろり』の住所も公開! 予約も開始しました!

「まずは同じ価値観を皆で持つことが大事。時にぶつかることもあると思いますが、“どうしたらお客様が喜んでいただけるか”というゴールさえ同じであれば、常に議論してお店を成長させていきたい」とふたり。『でんくしふろり』はチーム戦。全員野球で望む。

Photographs:KENTA YOSHIZAWA
Text:YUICHI KURAMOCHI

「くし」でつながる仲間の声! Part.2 有田焼陶工・小鹿田焼陶工・フラワーデザイナー・染色家[でんくしふろり/東京都港区]

『でんくしふろり』では、陶器やご飯炊き鍋を手がける『安楽窯』陶磁器製造の有田焼陶工・末村安孝氏。「時代に合った焼き物作りを目指しています」。

でんくしふろりふたりの職人技が光る。料理を更においしくする、究極の相方。

「ふたりと」は、『安楽窯』陶磁器製造の有田焼陶工・末村安孝氏と『柳瀬晴夫窯』14代目、小鹿田焼陶工・柳瀬元寿氏であり、相方とは「器」を指します。

今回、『でんくしふろり』の器全般は、ふたりが手がけます。
末村氏は陶器やご飯炊き鍋を、柳瀬氏は器を。両者とも『傳』からの付き合いになります。
「長谷川さんとは、有田焼創業400年事業がきっかけで出会いました。いつも笑顔が素敵で元気をもらっています」とは、末村氏。特にこだわるご飯炊き鍋は、「火の通りが良く、ご飯がふっくら炊けます!」と長谷川氏も絶賛。
『傳』に訪れたた方ならすぐにわかると思いますが、あの土鍋ご飯の美味たるや。お腹だけでなく、心も満たしてくれる優しい味には、ファンも多いはず。

柳瀬氏は、小鹿田焼陶工歴20年目、柳瀬家14代目の異名を誇ります。「仰々しい肩書きですが、一般人です(笑)」
とにこやかに話すも、日々『傳』で使用する器を通し、その実力のほどは長谷川氏が一番良く知っています。
「まだ制作中ですが、自分の作品は常に自然がテーマ。主張が強すぎてもいけませんし、器はあくまで脇役。お店や料理の一部として馴染めることが最良かと思っています」と柳瀬氏。
「長谷川さんは、源泉みたいな人(笑)。長谷川さんと川手さん、スタッフの皆様の手によって器がどんな風に様変わりを見せてくれるのか、自分自身が一番ワクワクしています!」。

器は単体でも美しいですが、料理を迎えることで様々な表情に変化します。

「これから進むべき行方は、長谷川さんと川手さんが歩んできた道に続いていくことを心から願います。そして、お客様へ感謝のおすそ分けをしていただけるようなお店になることを期待しています」と柳瀬氏。
「世界中に元気を届けてもらえるようなお店になってもらえることを願います! ふたりならできるはずですから!」と末村氏。

【関連記事】東京都港区/「でん」と「くし」と「ふろり」の関係。

若干41歳にして、小鹿田焼陶工歴20年目の柳瀬家14代目を担う柳瀬氏。『傳』でも親交の深い長谷川氏の新たな挑戦ともあり、その想いは熱い。

色、形など、様々に試作。どんな器に料理が盛られるのかも是非ご注目いただきたい。

でんくしふろり無意識にゲストの心を掻き立てる、見る旬。食材だけでなく、植物を通して季節を彩る。

アーティスティックな空間の『Florilage』を彩る、ダイナミックな生け込み。それは単なる装飾のみならず、知らず知らずのうちにゲストの高揚を誘い、花の彩りや緑の濃淡を通して旬を知らせてくれます。

今回、『でんくしふろり』も同じ人物が手がけます。それは「piLi flower design works」のフラワーデザイナー・大類淳子さんです。

「『Florilage』の生け込みを手がけさせて頂き、そのご縁で川手さんに声をかけてもらいました。『でんくしふろり』では、植物に関わる装飾全てに携わります」。
と言っても、これから決めていく料理のコンセプトやコース内容、ドリンクなどと同様、装飾も『でんくしふろり』のスタッフたちとディスカッションしていきたいため、現状はまだイマジネーションの段階になります。

「現在は、一部ですがデザインに着手しています。確かに未確定要素はありますが、それでも何か手掛かりにして形にしていくのが、今回は自分の役目だと思っていています。ドキドキしますが、やり甲斐も感じています」。

現段階でわかっていることは、空間の主役がおくどさんということです。

「おくどさんを植物で装飾するコンセプトはお題として頂戴しているので、そこをメインにどうストーリーを組み立ててデザインしていくのかがポイントだと思っています。全体としては、独創的な世界観にふさわしいパワーのある楽しい空間をイメージしつつ、おくどさんへの敬意を表せたらと思っています」。

ふたりからのリクエスト、それは「フレッシュな植物」の起用です。

「時にその場で時間の経過を感じたり、季節の移ろいを感じたり。メッセージを植物に込めたいと思っています。『でんくしふろり』で過ごすゲストの感受もこだわりのポイントにできればと思っています」。

語弊を恐れずに言えば、命ある植物は、常に優雅なわけではありません。花びらや葉が落ちゆく様もまた美しく、生き物として当然の姿でもあるのです。

「『でんくしふろり』は、おいしい料理をいただく以上の何かをすでに感じており、私自身、早くお客として行きたいです!」。

自身のアトリエ「piLi flower design works」にて。『でんくしふろり』では、どんな植物が空間を彩るのか!? そんな視点を含め、風景を愛でる時間も楽しんでいただきたい。

「川手さんの印象は、豪快に笑う人。長谷川さんの印象は、即興で場を作っていくのが上手な人」と大類さん。

でんくしふろり右手でちょいとかき分け、暖簾をくぐる。そこから「でんくしふろり」の世界は始まる。

諸説ありますが、暖簾の文化は奈良時代だと言われているそうです。
主には屋号、商標、はたまた取り扱い商品を記すところもありますが、お客様目線で言うと、暖簾の役目はお店が営業中か否かのサインでもありました。

『でくしふろり』にも暖簾が下がります。手がけるのは、江戸型染作家・小倉充子さんです。

「実家が神保町で履物屋をやっている関係で、神保町時代に『傳』の長谷川さんと知り合いました。それがご縁で、お店の暖簾と手ぬぐいなどを製作させて頂き、今回は『でんくしふろり』でも同じく暖簾と手ぬぐいを手がけさせていただきます」。

小倉さんは、大学でデザインを学んだ後、型染職人のもとで江戸文化と型染めを学び、独立。以降、江戸の町人文化、風俗をテーマに、浴衣や手ぬぐい、下駄の花緒、暖簾など、型染の作品を製作してきた人物です。特筆すべき点は、図案、型彫り、染めまで、ほぼ全ての工程を一貫して手がけていることにあります。

「暖簾はお店にとって第一印象になります。今回は、入口の重厚なアンティークの木戸と共鳴するように暗めの藍色のグラデーションを施しました。柄はオープニングということで、シンプルに『でんくしふろり』の酔っ払いおじさんワンポイントで! これもおじさんが徐々に酔っ払っていく様子を赤のグラデーションで表現しました。今後は季節によって違う素材、色柄でも展開していきたいと企んでいます!」。

手ぬぐいは、『傳』と『Florilage』が初めてコラボレーションした際に制作した手ぬぐいを改めて染めます。丸紋がモチーフのそれにあらゆる食材をぎゅっと詰め込み、混沌としている中から見たこともないような楽しい何かが生まれるイメージでデザイン。注染の本染めで染めています。

「長谷川さんは、いつお会いしても小学5年生男子のようで楽しそう! 昔から全く変わりません。いや、歳を重ねるごとに子供に戻っていっているような気が……(笑)」。
そして、川手氏もまた、「長谷川さんとそっくりだなあと思いました」。

そんなふたりの新たな門出『でんくしふろり』は、ぴかぴかの○年生♪の誕生か!?

「“でんくしふろり”の印象は、ふたりのぴかぴかの一流料理人のおもちゃ箱。今後に期待することは特にありません。きっと期待なんか裏切って、いつも驚かせてくれるお店になると思いますから!」。

暖簾に腕押し、暖簾に誘われ、ふと一杯。愛さればまた訪れ、そうでなければ立ち去る。布一枚だからこそできる技であり、粋な境界線。

未来の暖簾分けはあるのか!?を考えるのは時期早々ですが、まずは暖簾を守るところからスタートします。

『でんくしふろり』を長谷川氏と川手氏以外の視点で聞き取りした「くしでつながる仲間の声!」Part.1&2。登場していただいた建築家、インテリアデザイナー、左官職人、有田焼焼陶工、小鹿田焼陶工、フラワーデザイナー、染色家は、皆プロフェッショナルなミッションを創造することはもちろん、共通していることは、関係者としてではなくゲストとしての高い期待。

仲間が「行きたい!」と思わせる『でんくしふろり』の世界。
 

そんな『でんくしふろり』は、あなたとつながることも心待ちにしています。

※『でんくしふろり』の住所も公開! 予約も開始しました!

制作過程における版木彫り。今回の参画において、「こんなワクワクするプロジェクトにお招きいただいて光栄です!暖簾や手ぬぐいで、少しでもワクワクのお返しができたら幸いです」と小倉さん。

実際の暖簾の制作風景。微妙な染まり具合や濃淡にこだわる。お店に足を運ぶ際は、ぜひご注目を!

Text:YUICHI KURAMOCHI

瑞々しく、香り豊か。パティシエの心を捉えた、水の都の恵みを湛えた滋賀県のお茶とフルーツ。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

ブドウ、梨、柿、イチジク。滋賀県の豊かな水と温暖な気候が多彩なフルーツを育てる。

ローカルファインフードフェア滋賀パティシエと食材バイヤーが巡った、滋賀県が誇るお茶とフルーツ。

都内で活躍する料理人たちが滋賀県産の食材を肌で感じ、その美味しさを最大限に引き出した料理をそれぞれの店で提供する期間限定の滋賀食材フェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。9月11日(金)より都内の各レストランでフェアは始まっていますが、その開催に先立ち、滋賀の食材の本質と美味しさの裏に潜むストーリーを掘り下げるべく、参加する料理人や食材バイヤーが現地の生産者のもとを訪問しました。

料理人たちが参加した滋賀県視察ツアー第一弾に対し、第二弾となる今回の視察はパティシエが中心。素材にこだわるパティシエたちは「知る人ぞ知るフルーツ産地」滋賀県でどんな発見をして、どんなお菓子を構想したのでしょうか。

【関連記事】滋賀食材フェア/産地を巡り、生産者と語り、本質を知る。滋賀県の食材の魅力を伝える都内レストランフェア開催。

古くから茶所として知られる朝宮茶の産地『かたぎ古香園』にて。昼夜の温度差が香り高いお茶を育てる。

ローカルファインフードフェア滋賀ドリンクとしてではなく、素材として捉えられる滋賀県の銘茶。

今回、滋賀県を訪れたのは、フランスの三3つ店や都内の名店のシェフパティシエを経て、2020年に九品仏(くほんぶつ)に自身のパティスリー『INIFINI』を開いた金井史章氏、人気パティスリーからレストラン、ベーカリーまで幅広く経験を積んだ後、その集大成として代官山にデニッシュ専門店『Laekker』をオープンした小出貴大氏、そして洋食の料理人として働くうちにより深く食材を突き詰めようと仲卸に転向し、現在は数多の高級料理店の食材仕入れを担当するバイヤー・木村 聡氏の3名。それぞれ食材に対する深い思い入れがあり、現地に向かう車中からすでに滋賀県の食材談議に花が咲いていました。

一行がまず訪れたのは、県南部の甲賀(こうか)市信楽町の高台にある『かたぎ古香園』の茶畑。1200年以上の歴史を誇り、日本五大銘茶にも数えられる朝宮茶の産地です。『かたぎ古香園』は、茶畑を案内してくれた片木隆友氏の祖父である先々代が小売を始めたことをきっかけに、完全無農薬に切り替えた茶園。47~48年前、その頃は無農薬という言葉さえもなく、完全に手探りの挑戦だったといいます。しかし、その苦労は実り、現在ではこの土地の力を凝縮したような上質なお茶が採れるようになりました。参加者たちも、試飲したこのお茶を「クセがなく、繊細で透明な味わい」と高く評価しました。

しかし、パティシエの目線になると、少し話が変わってきます。
「私のデニッシュは、強く焼き込むスタイル。優しく焼き上げる方がこのお茶には合いそうです」と小出氏が言えば、金井氏も「皿盛りのデザートと違い、一品で完結するケーキは構成要素が多く、このお茶の繊細さが生きてこない」と同意します。
しかし、そこで終わってしまわないのが、人気パティシエたるゆえん。「ダイレクトにショコラに混ぜたらどうか。食感は楽しいけれど口に残る」「ほうじ茶ならバターやアーモンド、卵など他の素材に隠れないかもしれない」「ここのほうじ茶は香りが柔らかく雑味もないためケーキに合わせやすい」。
「私はお菓子はさっぱり」と苦笑する片木氏を置いてけぼりにするように熱く語り合う参加者たち。片木氏に鋭い質問を投げかけつつ、予定時間を大幅に過ぎてもお茶の話に熱中していました。

昔ながらの方法で在来種の茶を育てる政所(まんどころ)茶『茶縁むすび』を訪ねても、パティシエの興味は尽きませんでした。前回の訪問で訪ねた料理人たちが基本的にこの政所茶を「ドリンク」と捉えていたのに対し、お菓子を構成するひとつの「素材」として見た今回のパティシエたち。
「一般的な茶園では、葉の栄養を取られないようになるべく花を咲かせません。しかし政所では自然のままの姿で育てていますから、花も咲くし実もつきます」と話すのは、生産者の山形 蓮さん。この話が参加者たちを惹きつけました。目当ては珍しいお茶の花、そして花を搾って採れるオイルです。山形さんが試しに少しだけ搾ったというオイルを前に、小出氏は「オイルはクリーム系と非常に相性がいいんです」と言い、金井氏も「土地の匂い、土の匂いがするオイル。コーヒーやカカオとも相性が良さそうです」と続けます。ここでもパティシエの頭の中では、具体的なメニューの構想が生まれていたようです。

『かたぎ古香園』の片木氏。半世紀近くも無農薬栽培を続けるこの茶畑には、多くの野生動物もやって来る。

品種はやぶきた。菜種かすや胡麻かすなどの植物系肥料を与えながら完全無農薬栽培で茶を育てる。

『かたぎ古香園』でお茶を試飲する木村氏。元料理人だけに、食材の味や香りに敏感だ。

在来種のお茶を育てる政所。古き良き里山の風景が、パティシエの創造力を刺激する。

政所に湧く清冽(せいれつ)な水は地元の生活用水。硬度40mg/Lほどの軟水で、政所茶との相性は抜群。

葉も花も、時には生産者さえ食べたことのないものも必ず香りを確かめ、口に運ぶのが金井氏のスタイル。

ローカルファインフードフェア滋賀多彩なフルーツが、パティシエのインスピレーションを刺激する。

日本一大きな湖・琵琶湖と、そこに流れ込む460の川。豊富な水に恵まれた滋賀県では、たっぷりと水分を含んだジューシーなフルーツが育ちます。

東近江市で作られるブランドブドウ・黒蜜葡萄もそのひとつ。その実力を探るべく、愛東ぶどう生産出荷組合青年部の漆崎厚史氏の農園を訪ねました。
「ワイン用として知られるマスカットベリーAという品種ですが、生食での美味しさを伝えるために、試行錯誤を重ねてブランド化にこぎつけました」と漆崎氏。糖度は22~23度まで上げ、皮は薄く、実は大きく、種はない。そうして生まれた黒蜜葡萄は、日々各地の食材と向き合う木村氏をして「生食用のマスカットベリーAは初めて見ます。おそらく豊洲市場にも入っていません」と言わしめるほど希少。「身離れが良く、甘みも香りも良いですね」と味の面でも太鼓判を押していました。

琵琶湖東岸に位置する彦根市の名産・彦根梨の畑でも、生産者から説明を受ける一行。かつてこの場所が沼だったこと、今から40年ほど前から地域で梨生産に乗り出したこと、土作り、畑作り、剪定、品種特性、旬……。様々な話を興味深げに聞き入る参加者たち。
ちなみに、完熟してから収穫する彦根梨は日持ちしないため、ほぼ県外には出回らないという希少な梨。さっぱりとした幸水、酸味がありジューシーな豊水の2種を食べ比べながら、次なるメニューのアイデアを練ります。

滋賀県西部にある高島市今津町では、名産品である柿の畑を訪ねました。取材時の9月初頭は、柿の収穫には少し早い季節。それでもJA今津町柿部会の部会長・岡本義治氏は、色づいた柿を探し、その場で食べさせてくれることで、柿を使ったスイーツ作りのアイデアをくれました。
岡本氏の柿園がある深清水(ふかしみず)という地区は扇状地であり、豊富な伏流水が湧き出す地。その水と、長い日照時間を利用して10品種の柿を育てているのだといいます。広大な柿園を歩きながら、そんな説明を受ける一行。試食した柿の味はもちろん、この地で見た景色や聞いた物語が、パティシエのインスピレーションを刺激するのでしょう。

黒蜜葡萄を作る愛東ぶどう生産出荷組合青年部の皆さん。若い世代の力で新たなブランドの認知に挑む。

黒蜜葡萄の品種・マスカットベリーAはワインでおなじみ。デラウェアに近い適度な酸味と上品な甘さが特徴。

美味しさだけでなく、生産者の思いやストーリーも伝えたいと話す小出氏。

彦根梨は出荷の真っ最中。瑞々しく、糖度が高い幸水のもぎたてを皮ごと試食した。

彦根梨を生産する吉田保夫氏。「糖度は計測できるが、食感や香りには生産者の個性が表れる」と言う。

JA今津町柿部会の部会長を務める岡本氏。大正初期から続く柿の名産地・深清水の誇りを伝えてくれた。

色づき始めたばかりの晩夏の柿園にて。焼酎とドライアイスで渋を抜くさわし柿もこの地域の名物。

西村早生(にしむらわせ)、太秋、さわし柿が今回のフェア用の品種。甘み、食感、香りなどそれぞれに際立った個性がある。

ローカルファインフードフェア滋賀ジューシーさと、上質な香り。お菓子作りの肝となる滋賀の食材。

上質なお茶と多彩なフルーツを巡った今回の視察。続いて訪れたのは、甲賀市のイチジク生産者でした。そしてこのイチジクが、参加者に大きな衝撃を与えたのです。

約900坪の敷地でおよそ160本のイチジクの木を育てる『浅野ファーム』の浅野正明氏は、元大手電機メーカー勤務。14年前に脱サラして、露地栽培主体でイチジク生産に乗り出しました。前職の経験からか、園は非常に美しく整備され、生産もロジカル。大きく、甘く育てる日照と水の関係を緻密に計算したイチジクは、品評会でも高い評価を得ています。
採れたてのイチジクを試食した参加者たちも、その美味しさに驚いた様子。更に話は、イチジクそのものの美味しさを超え、この品質を生かすお菓子についてまで広がります。お菓子などに調理する際、熟したイチジクの実は熱を加えることで水分が生地に染みて食感が悪くなってしまうのです。だからといって、洋梨のようにあらかじめソテーすると食感が生きず、コンフィチュールにすると香りが飛んでしまいます。そこで金井氏が提案したのが、ドライフルーツの要領で事前に実の水分を減らすこと。「縦半分に切ったらどうだろう? 」「穴を開けてみては?」「半乾燥なら使用量も増え生産者にもメリットがあるのではないか?」。様々なアイデアを出しながら、具体的に話し合う浅野氏と参加者たち。
「美味しい果実を育てることに尽力しますが、それがどのような形になって使用されるか、最終形のイメージが生産の現場にはあまりありません。パティシエの方々に直接具体的な話を聞けて良かった」。浅野氏は今回の訪問をそう振り返りました。

全ての視察を終えた帰り道、金井氏は滋賀の食材を「瑞々しく、香りが良い」と評しました。「香りを通して記憶に残るお菓子を作ること」を信条とする金井氏だけに、これは最上級の賛辞。生産者と交わした具体的な話から、すでにフェアに向けたアイデアも固まりつつある様子でした。「まずは箱を開けた時の香り、見た目、そして口に近づけた時の香り。そして口どけのスピード感に差をつけることで主張したい香りをどこに持ってくるか」と、自身のお菓子作りの理念を語る金井氏。「甘さは足すことができますが、香りや食感には素材の特徴が出てきます。そういう点で滋賀の魅力を伝えられるメニューを作りたい」と、金井氏は『Local Fine Food Fair SHIGA』への決意を語ってくれました。

傷がついたもの、粒の揃わないもの、捨てられる部位。日頃から食材を無駄なく使用することを意識する小出氏は、そんな値のつかない素材を、正規品と変わらぬ値段で買い求め、加工することを大切にしています。「大げさに言えば、未来への投資。農業が潤わなければ洋菓子はなくなってしまいますから。ただ単純に、捨てられるものに価値を見出すのが面白い、というのもあります」と話す小出氏。それだけに今回の視察で生産者と直接話せたことは、『Local Fine Food Fair SHIGA』に向けての構想だけでなく、今後の自身のクリエイションにも大きく役立ったといいます。そして「例えば若手生産者がブランディングを進める黒蜜葡萄。誰が、なぜ、この場所でそれを作るのか。そういう物語の部分まで伝えられるメニューを作りたい」と決意を語ってくれました。

今回の視察第二弾ではお茶とフルーツの生産者を巡りましたが、『Local Fine Food Fair SHIGA』では、これら以外にも滋賀の食材をふんだんに取り入れた料理が登場します。10月末まで、東京の7つのレストランにて開催していますので、ぜひ、この機会に滋賀の旬の恵みを味わってみてください。

『浅野ファーム』の浅野氏は、就農14年。品評会で高い評価を得る今でも「毎年がチャレンジです」と語る。

品種は桝井ドーフィン。例年、お盆前から10月半ばまで出荷される。

浅野氏が手がけるドライイチジク。パティシエたちはこれをセミドライで試作するよう依頼した。

産地を巡り、生産者の話を聞くことで、これまでにない様々なアイデアが浮かんだという。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(supported by 滋賀県)

瑞々しく、香り豊か。パティシエの心を捉えた、水の都の恵みを湛えた滋賀県のお茶とフルーツ。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

ブドウ、梨、柿、イチジク。滋賀県の豊かな水と温暖な気候が多彩なフルーツを育てる。

ローカルファインフードフェア滋賀パティシエと食材バイヤーが巡った、滋賀県が誇るお茶とフルーツ。

都内で活躍する料理人たちが滋賀県産の食材を肌で感じ、その美味しさを最大限に引き出した料理をそれぞれの店で提供する期間限定の滋賀食材フェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。9月11日(金)より都内の各レストランでフェアは始まっていますが、その開催に先立ち、滋賀の食材の本質と美味しさの裏に潜むストーリーを掘り下げるべく、参加する料理人や食材バイヤーが現地の生産者のもとを訪問しました。

料理人たちが参加した滋賀県視察ツアー第一弾に対し、第二弾となる今回の視察はパティシエが中心。素材にこだわるパティシエたちは「知る人ぞ知るフルーツ産地」滋賀県でどんな発見をして、どんなお菓子を構想したのでしょうか。

【関連記事】滋賀食材フェア/産地を巡り、生産者と語り、本質を知る。滋賀県の食材の魅力を伝える都内レストランフェア開催。

古くから茶所として知られる朝宮茶の産地『かたぎ古香園』にて。昼夜の温度差が香り高いお茶を育てる。

ローカルファインフードフェア滋賀ドリンクとしてではなく、素材として捉えられる滋賀県の銘茶。

今回、滋賀県を訪れたのは、フランスの三3つ店や都内の名店のシェフパティシエを経て、2020年に九品仏(くほんぶつ)に自身のパティスリー『INIFINI』を開いた金井史章氏、人気パティスリーからレストラン、ベーカリーまで幅広く経験を積んだ後、その集大成として代官山にデニッシュ専門店『Laekker』をオープンした小出貴大氏、そして洋食の料理人として働くうちにより深く食材を突き詰めようと仲卸に転向し、現在は数多の高級料理店の食材仕入れを担当するバイヤー・木村 聡氏の3名。それぞれ食材に対する深い思い入れがあり、現地に向かう車中からすでに滋賀県の食材談議に花が咲いていました。

一行がまず訪れたのは、県南部の甲賀(こうか)市信楽町の高台にある『かたぎ古香園』の茶畑。1200年以上の歴史を誇り、日本五大銘茶にも数えられる朝宮茶の産地です。『かたぎ古香園』は、茶畑を案内してくれた片木隆友氏の祖父である先々代が小売を始めたことをきっかけに、完全無農薬に切り替えた茶園。47~48年前、その頃は無農薬という言葉さえもなく、完全に手探りの挑戦だったといいます。しかし、その苦労は実り、現在ではこの土地の力を凝縮したような上質なお茶が採れるようになりました。参加者たちも、試飲したこのお茶を「クセがなく、繊細で透明な味わい」と高く評価しました。

しかし、パティシエの目線になると、少し話が変わってきます。
「私のデニッシュは、強く焼き込むスタイル。優しく焼き上げる方がこのお茶には合いそうです」と小出氏が言えば、金井氏も「皿盛りのデザートと違い、一品で完結するケーキは構成要素が多く、このお茶の繊細さが生きてこない」と同意します。
しかし、そこで終わってしまわないのが、人気パティシエたるゆえん。「ダイレクトにショコラに混ぜたらどうか。食感は楽しいけれど口に残る」「ほうじ茶ならバターやアーモンド、卵など他の素材に隠れないかもしれない」「ここのほうじ茶は香りが柔らかく雑味もないためケーキに合わせやすい」。
「私はお菓子はさっぱり」と苦笑する片木氏を置いてけぼりにするように熱く語り合う参加者たち。片木氏に鋭い質問を投げかけつつ、予定時間を大幅に過ぎてもお茶の話に熱中していました。

昔ながらの方法で在来種の茶を育てる政所(まんどころ)茶『茶縁むすび』を訪ねても、パティシエの興味は尽きませんでした。前回の訪問で訪ねた料理人たちが基本的にこの政所茶を「ドリンク」と捉えていたのに対し、お菓子を構成するひとつの「素材」として見た今回のパティシエたち。
「一般的な茶園では、葉の栄養を取られないようになるべく花を咲かせません。しかし政所では自然のままの姿で育てていますから、花も咲くし実もつきます」と話すのは、生産者の山形 蓮さん。この話が参加者たちを惹きつけました。目当ては珍しいお茶の花、そして花を搾って採れるオイルです。山形さんが試しに少しだけ搾ったというオイルを前に、小出氏は「オイルはクリーム系と非常に相性がいいんです」と言い、金井氏も「土地の匂い、土の匂いがするオイル。コーヒーやカカオとも相性が良さそうです」と続けます。ここでもパティシエの頭の中では、具体的なメニューの構想が生まれていたようです。

『かたぎ古香園』の片木氏。半世紀近くも無農薬栽培を続けるこの茶畑には、多くの野生動物もやって来る。

品種はやぶきた。菜種かすや胡麻かすなどの植物系肥料を与えながら完全無農薬栽培で茶を育てる。

『かたぎ古香園』でお茶を試飲する木村氏。元料理人だけに、食材の味や香りに敏感だ。

在来種のお茶を育てる政所。古き良き里山の風景が、パティシエの創造力を刺激する。

政所に湧く清冽(せいれつ)な水は地元の生活用水。硬度40mg/Lほどの軟水で、政所茶との相性は抜群。

葉も花も、時には生産者さえ食べたことのないものも必ず香りを確かめ、口に運ぶのが金井氏のスタイル。

ローカルファインフードフェア滋賀多彩なフルーツが、パティシエのインスピレーションを刺激する。

日本一大きな湖・琵琶湖と、そこに流れ込む460の川。豊富な水に恵まれた滋賀県では、たっぷりと水分を含んだジューシーなフルーツが育ちます。

東近江市で作られるブランドブドウ・黒蜜葡萄もそのひとつ。その実力を探るべく、愛東ぶどう生産出荷組合青年部の漆崎厚史氏の農園を訪ねました。
「ワイン用として知られるマスカットベリーAという品種ですが、生食での美味しさを伝えるために、試行錯誤を重ねてブランド化にこぎつけました」と漆崎氏。糖度は22~23度まで上げ、皮は薄く、実は大きく、種はない。そうして生まれた黒蜜葡萄は、日々各地の食材と向き合う木村氏をして「生食用のマスカットベリーAは初めて見ます。おそらく豊洲市場にも入っていません」と言わしめるほど希少。「身離れが良く、甘みも香りも良いですね」と味の面でも太鼓判を押していました。

琵琶湖東岸に位置する彦根市の名産・彦根梨の畑でも、生産者から説明を受ける一行。かつてこの場所が沼だったこと、今から40年ほど前から地域で梨生産に乗り出したこと、土作り、畑作り、剪定、品種特性、旬……。様々な話を興味深げに聞き入る参加者たち。
ちなみに、完熟してから収穫する彦根梨は日持ちしないため、ほぼ県外には出回らないという希少な梨。さっぱりとした幸水、酸味がありジューシーな豊水の2種を食べ比べながら、次なるメニューのアイデアを練ります。

滋賀県西部にある高島市今津町では、名産品である柿の畑を訪ねました。取材時の9月初頭は、柿の収穫には少し早い季節。それでもJA今津町柿部会の部会長・岡本義治氏は、色づいた柿を探し、その場で食べさせてくれることで、柿を使ったスイーツ作りのアイデアをくれました。
岡本氏の柿園がある深清水(ふかしみず)という地区は扇状地であり、豊富な伏流水が湧き出す地。その水と、長い日照時間を利用して10品種の柿を育てているのだといいます。広大な柿園を歩きながら、そんな説明を受ける一行。試食した柿の味はもちろん、この地で見た景色や聞いた物語が、パティシエのインスピレーションを刺激するのでしょう。

黒蜜葡萄を作る愛東ぶどう生産出荷組合青年部の皆さん。若い世代の力で新たなブランドの認知に挑む。

黒蜜葡萄の品種・マスカットベリーAはワインでおなじみ。デラウェアに近い適度な酸味と上品な甘さが特徴。

美味しさだけでなく、生産者の思いやストーリーも伝えたいと話す小出氏。

彦根梨は出荷の真っ最中。瑞々しく、糖度が高い幸水のもぎたてを皮ごと試食した。

彦根梨を生産する吉田保夫氏。「糖度は計測できるが、食感や香りには生産者の個性が表れる」と言う。

JA今津町柿部会の部会長を務める岡本氏。大正初期から続く柿の名産地・深清水の誇りを伝えてくれた。

色づき始めたばかりの晩夏の柿園にて。焼酎とドライアイスで渋を抜くさわし柿もこの地域の名物。

西村早生(にしむらわせ)、太秋、さわし柿が今回のフェア用の品種。甘み、食感、香りなどそれぞれに際立った個性がある。

ローカルファインフードフェア滋賀ジューシーさと、上質な香り。お菓子作りの肝となる滋賀の食材。

上質なお茶と多彩なフルーツを巡った今回の視察。続いて訪れたのは、甲賀市のイチジク生産者でした。そしてこのイチジクが、参加者に大きな衝撃を与えたのです。

約900坪の敷地でおよそ160本のイチジクの木を育てる『浅野ファーム』の浅野正明氏は、元大手電機メーカー勤務。14年前に脱サラして、露地栽培主体でイチジク生産に乗り出しました。前職の経験からか、園は非常に美しく整備され、生産もロジカル。大きく、甘く育てる日照と水の関係を緻密に計算したイチジクは、品評会でも高い評価を得ています。
採れたてのイチジクを試食した参加者たちも、その美味しさに驚いた様子。更に話は、イチジクそのものの美味しさを超え、この品質を生かすお菓子についてまで広がります。お菓子などに調理する際、熟したイチジクの実は熱を加えることで水分が生地に染みて食感が悪くなってしまうのです。だからといって、洋梨のようにあらかじめソテーすると食感が生きず、コンフィチュールにすると香りが飛んでしまいます。そこで金井氏が提案したのが、ドライフルーツの要領で事前に実の水分を減らすこと。「縦半分に切ったらどうだろう? 」「穴を開けてみては?」「半乾燥なら使用量も増え生産者にもメリットがあるのではないか?」。様々なアイデアを出しながら、具体的に話し合う浅野氏と参加者たち。
「美味しい果実を育てることに尽力しますが、それがどのような形になって使用されるか、最終形のイメージが生産の現場にはあまりありません。パティシエの方々に直接具体的な話を聞けて良かった」。浅野氏は今回の訪問をそう振り返りました。

全ての視察を終えた帰り道、金井氏は滋賀の食材を「瑞々しく、香りが良い」と評しました。「香りを通して記憶に残るお菓子を作ること」を信条とする金井氏だけに、これは最上級の賛辞。生産者と交わした具体的な話から、すでにフェアに向けたアイデアも固まりつつある様子でした。「まずは箱を開けた時の香り、見た目、そして口に近づけた時の香り。そして口どけのスピード感に差をつけることで主張したい香りをどこに持ってくるか」と、自身のお菓子作りの理念を語る金井氏。「甘さは足すことができますが、香りや食感には素材の特徴が出てきます。そういう点で滋賀の魅力を伝えられるメニューを作りたい」と、金井氏は『Local Fine Food Fair SHIGA』への決意を語ってくれました。

傷がついたもの、粒の揃わないもの、捨てられる部位。日頃から食材を無駄なく使用することを意識する小出氏は、そんな値のつかない素材を、正規品と変わらぬ値段で買い求め、加工することを大切にしています。「大げさに言えば、未来への投資。農業が潤わなければ洋菓子はなくなってしまいますから。ただ単純に、捨てられるものに価値を見出すのが面白い、というのもあります」と話す小出氏。それだけに今回の視察で生産者と直接話せたことは、『Local Fine Food Fair SHIGA』に向けての構想だけでなく、今後の自身のクリエイションにも大きく役立ったといいます。そして「例えば若手生産者がブランディングを進める黒蜜葡萄。誰が、なぜ、この場所でそれを作るのか。そういう物語の部分まで伝えられるメニューを作りたい」と決意を語ってくれました。

今回の視察第二弾ではお茶とフルーツの生産者を巡りましたが、『Local Fine Food Fair SHIGA』では、これら以外にも滋賀の食材をふんだんに取り入れた料理が登場します。10月末まで、東京の7つのレストランにて開催していますので、ぜひ、この機会に滋賀の旬の恵みを味わってみてください。

『浅野ファーム』の浅野氏は、就農14年。品評会で高い評価を得る今でも「毎年がチャレンジです」と語る。

品種は桝井ドーフィン。例年、お盆前から10月半ばまで出荷される。

浅野氏が手がけるドライイチジク。パティシエたちはこれをセミドライで試作するよう依頼した。

産地を巡り、生産者の話を聞くことで、これまでにない様々なアイデアが浮かんだという。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(supported by 滋賀県)

「くし」でつながる仲間の声! Part.1 建築家・インテリアデザイナー・左官職人[でんくしふろり/東京都港区]

空間デザインを手がけるのは、「株式会社エスキス」代表の建築家・インテリアデザイナーの甲斐晋介氏。「川手さんとのお仕事は、今回で4店目。注文が少ない分、緊張します(汗)」。

でんくしふろり川手さんとの出会いは 20年前。独立後、ずっと見続けてきた。

そう話すのは、『でんくしふろり』の空間を手がける、「株式会社エスキス」代表の建築家・インテリアデザイナーの甲斐晋介氏です。
「今回、ご縁をいただいたのは川手さんとの関係からです。最初の出会いは、自分が空間デザインを手がけた西麻布のフレンチ『OHARA ET CIE』だったと思います。まだ、大原正彦さんのもとで修行されている時代でした。その後、独立して開業した青山の『Florilege』と移転した今の神宮前の店舗、台湾に展開した『logy』を手がけさせて頂きました」。

甲斐氏は、『OHARA ET CIE』や『Florilege』をはじめ、日本の名だたるレストランの空間をデザインしています。千駄ヶ谷『Sincere』、代官山『abysse』、外苑前『L’EAU』、有楽町『TexturA』、京都『VEL ROSIER』など、どれも洗練された人気店ばかり。そのほか、虎ノ門『mement mori』と日比谷『Mixology Heritage』のバーや新潟『WineryStay TRAVIGNE』のホテルなど、活躍の場はさまざま。しかし、『でんくしふろり』のようなスタイルは初かもしれません。
「最初にお話を伺った時の印象は、絶対楽しい店になる! そう思いました。世界で活躍されているおふたりのお店なので、国内外からゲストが多くいらっしゃると思いますし、きっと期待値も高い。でも、最初の打ち合わせ段階では、ざっくりと串のお店……としか聞かせてもらえなかったのですが(笑)」。

今回で4店目となる川手氏とのプロジェクトですが、「いつも川手さんからは多くの注文はありません」と言います。
今回のオーダーはひとつだけ。「『傳』と『Florilege』の要素を取り入れてほしい」でした。
「一番難しい……(笑)」。

【関連記事】東京都港区/「でん」と「くし」と「ふろり」の関係。

『でんくしふろり』の図面。おくどさんを主役にコの字型にカウンターを配す。『傳』や『Florilege』同様、オープンキッチンのスタイルは、ライブ感を生む。

でんくしふろりそのプレッシャーは半端じゃない。自分はいつも試されている。

前述の通り、川手氏は多くは語りません。
「プレゼンの時は、汗が止まりません(笑)。そのプレッシャーはもちろん、常に自分が試されているような気がしています」。

しかし、一方で「その期待に応えるため、いつも全力で取り組ませてもらえるので、ありがたい存在です」と言葉を続けます。また、意外だったのは、甲斐氏と長谷川氏は初対面だったこと。
「長谷川さんのお名前は、もちろん存じ上げていました。お会いするまでどんな人かわからず、また川手さんとは違った緊張がありました。ですが、打ち合わせの大半が川手さんとの釣りの話だったので、直ぐに緊張は解けました(笑)」。

とはいえ、長谷川氏も川手氏も世界で活躍する名シェフ。
「プレッシャーも自分が試されている感も2倍です(汗)」。
甲斐氏は、厨房を含む平面レイアウトから動線計画、距離感、使い勝手、見え方、魅せ方など、空間のさまざまに携わります。
「動きやすいオペレーションは設計段階で決まると思っているので、特にこの段階が重要と思っております」。

そんな『でんくしふろり』の空間の主役は、「おくどさん」です。
「コミュニケーションを重ねる中、“おくどさん”というアイデアが出てきました。空間の全体的な印象は、『傳』の日本料理の要素、『Florilege』のフレンチの要素、どちらにもイノベーティブなので、純和や強いフレンチの要素を出しすぎないように心がけました。デザイン的にはカウンターは重要なファクターなので、和を感じられる木の無垢材を採用。ただ、材種はイロコと呼ばれる原産国がアフリカのアフリカンチークを使うことで、純和に寄らず、洋の要素を加味しました」。
そして、「おくどさん」を作るということで、直ぐに思い浮かんだ造り手がいたと言います。
それは、大橋左官の大橋和彰氏です。

「大橋さんとは、神宮前『Florilege』の工事の際に大きなコの字カウンターを作ってもらった時からのお付き合いです。いつも自分の難しいリクエストを軽々と超えて施工してくれる頼もしい仲間です。通常の“おくどさん”を作るのであれば、普通の左官屋さんでも良いのですが、今回は誰も見たことがないイノベーティブな“おくどさん”を作り上げようと思い、大橋さんと試行錯誤して完成させました。ぜひ、カウンターの中心に据えられるおくどさんにも注目してもらいたいです」。

大橋氏は、世界を放浪後、左官の道へ歩んだ一風変わった経歴を持ちます。
「放浪している時、土の建築やヴァナキュラー建築に感動を覚えました。自分もそんな感動を表現したい。そう思った時、身近な素材で作る左官に興味を抱き、この道を志ました」。

今回、大橋氏は、「おくどさん」以外にも入り口の壁、蹲、通路正面の壁、カウンター横の壁も手がけます。
「全てに共通して素材の力と可能性を引き出すことを意識しています。長谷川さんとは、初対面でしたが、気さくに話してくださり魅力的な方だと思いました。川手さんは、美しい料理を作る人」。
言葉数の少なさは、やはり職人気質だが、「今回、『でんくしふろり』に携わらせていただき、本当に光栄です。ふたりのエネルギーに負けないようなおくどさんと壁を作ります!」と意欲も見せる。

「くし」でつながるのは、料理だけではありません。建築、空間、職人もつなぎます。
「常に新しい食と体験を期待してます! 串に何が刺さって出てくるのか? 何を串で繋ぐのか楽しみです」と大橋氏。
「和食、フレンチ、串……。今後の可能性や拡がりを考えても楽しそう!の一言です。これからもずっと進化していく可能性を秘めたお店になると思います!」と甲斐氏。

携わる周囲までも期待が膨らむ『でんくしふろり』。
次回は何をつなぐのか!? 乞うご期待!

※『でんくしふろり』の住所も公開! 予約も開始しました!

大橋左官の大橋和彰氏。『でんくしふろり』では、メインとなるおくどさんのほか、様々な壁面も手がける。お店に訪れたらそんなテクスチャーにも注目したい。

珪藻土や漆喰、砂壁など、自然素材を使用する左官同様、大橋氏のライフスタイルもまた、自然と共存する。

Text:YUICHI KURAMOCHI

Vol.2 シャンパーニュととくべつな一ページ。[NEW PAIRING OF CHAMPAGNE・フロリレージュ/東京都渋谷区神宮前]

「ミシュランガイド」二つ星の「フロリレージュ」オーナーシェフの川手寛康シェフと小説家の角田光代さん。「今回の料理の内容を事前にうかがっていたのですが、全く想像がつきませんでした! その答え合せを楽しみにうかがいました!」と角田さん。その結果はいかに!?

フロリレージュ × 角田光代

 廊下を歩いて店内に入ると、オープンキッチンが舞台のセットみたいにうつくしく広がっている。シックでありながら華やかなそのキッチンに入るのに、ちょっとした勇気がいる。
 今日いただく料理はアンディーブのミルフィーユとアイスクリームの二部構成だと聞いていて、事前にレシピも説明してもらっていたのだが、じつは何も思い描けずにいた。川手寛康シェフが発酵したアンディーブの芯を取り除き、葉、一枚一枚のあいだにトリュフを挟んでいく。手際よく進めているけれど、ものすごく細かい作業だ。それを蒸して半分にカットし、皿に盛る。一枚の絵画のように印象的なうつくしさだ。

【関連記事】NEW PAIRING OF CHAMPAGNE/作家・角田光代が体験する「食べるシャンパン。」の特別連載エッセイ!

川手シェフが「テタンジェ」のトップキュヴェ「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン」に合わせるために考案した料理は「発酵させたアンディーブのミルフィーユ 2部構成」。2部構成の意味は下記にてお楽しみに! 「今回のテーマは“複雑さ”です。味の複雑さ、香りの複雑さ。それを足し算するのではなく、かけ算し、更に、どうアクセントを加えられるかが重要だと思っています」と川手シェフ。

発酵したアンディーブを蒸し、一度その発酵を止めることによってベストな味わいに。「独特な香りですよ」と言う川手シェフに勧めれ、香りを嗅ぐ角田さんは、思わず「おー!」っと唸る。しかし、「この時点では、味の想像がつきません(笑)」と言葉を続ける。

発酵したアンディーブの葉を一枚一枚丁寧にめくり、たっぷりとトリュフを挟んでいく川手シェフ。その仕事を見ながら「まるでキムチみたいですね!」と角田さん。挟むことによってトリュフはアンディーブに香りを纏わせ、同時に余分な水分を吸う役目も果たす。

アンディーブの芯を切り落とし、2つに切った断面。それを見て「すごく綺麗!」と角田さん。トリュフと形成する黄・緑・白・黒の層が美しいそれは、まるで植物のような不思議な雰囲気が漂う。「ちなみに、芯はまた別の料理にしますのでお楽しみに!」と川手シェフ。

開放的なキッチンにて、今回のメニューのポイントを角田さんに説明する川手シェフ。「複雑さ」をテーマにしたそれは、調理過程もまた複雑だ。

アンディーブを漬物のように発酵させ、味わいも香りも複雑に。「その複雑さがテタンジェのトップキュヴェ、コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランに合う」と川手シェフ。この時点で発酵は5日目。「漬け込みすぎず、まだまだ菌が元気な状態で発酵を止めるのが良い」。

フロリレージュ × 角田光代

 アンディーブにはゴルゴンゾーラチーズのソースをかけ、薄い輪切りのレモン、酢漬けにしたフェンネルの花、コリアンダーの花、ハーブをあしらう。この花は、よくよく見ないとわからないくらいちいさい。もう一品が、さっき取り除いたアンディーブの芯とヨーグルトをピュレ状にしたアイスクリームだ。
 けっこうたくさんのトリュフが使われているのに、香りは控えめで、アンディーブのほろ苦さとうっすらとした甘みを引き立てる。そしてこの料理、切り分けた一口に、ソースをどのくらいつけるか、酢漬けの花をいっしょに食べるか否か、皿の端の塩をつけるか否かで、一口一口の味がまったく異なる。トリュフのかぐわしさはシャンパーニュの香りをけっして消さない。一口食べたあとにシャンパーニュを飲むと、キリリとした強さを感じる。ふたたびアンディーブを食べると、さっきとは違う奥深さが生じる。アイスクリームはやわらかい酸味があって、これもまたシャンパーニュと合う。

合わせるのは、ブルーチーズと白ワインのソース。「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランは、香りの中にハチミツのような甘さがあると思います。ブルーチーズとハチミツは相性が良いので、そこも感じて頂ければ」。ソムリエの資格も持つ川手シェフらしい考察の妙。

フェンネルの花、ディルの花、人参の花、コリアンダーの花と種を自家製ピクルスにし、料理のアクセントに。「酢漬けにすることによってそれぞれの個性を引き出します」と川手シェフ。

そのうちのひとつ、コリアンダーの種のピクルスを試食する角田さん。「こんなに小さいのに味の個性がしっかり! しかも、ちゃんとその奥にコリアンダーの存在と香りが残っているのがすごいですね!」。

一見、何の素材を使用してどんな料理なのかが全くわからない容姿もまた、川手シェフの表現の特徴。ナイフを入れながら「料理にドキドキする……」と角田さん。

「アンディーブの芯はまた別の料理に」と言っていたそれは、アイスクリームに! ペースト状にしてヨーグルトと合わせ、アカシアとニセアカシアの花をシロップとともに発酵させ、アカシアのハチミツを混ぜ合わせたソースを添えて提供。料理名にもある「2部構成」の2部目の品。「これもまた変わった味!」と角田さんも驚愕。「料理をしていると端材が出てしまうことがあります。2部構成にする手法を取り入れてからは、食材を無駄なく使用でき、かつ味の広がりを演出できるようにもなりました」と川手シェフ。

「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランは、独創的な料理の味に落ち着きを与えてくれると思います。これまで体験したことのないペアリング」と角田さん。

「通常、シャンパーニュの温度は8℃か9℃。しかし、コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランの場合は、10℃〜13℃の方が味と香りが開き、料理とのバランスも良いと思います」と川手シェフ。

フロリレージュ × 角田光代

 テタンジェの個性は「複雑さ」だと川手さんは言う。だから、複雑さに複雑さをかける料理として、このアンディーブを選んだ。足すのではなく、かける。たしかに、ペアリングすることで未知なる世界が広がっていく感覚になる。
 それにしても、この味を説明するのはむずかしい。味も香りも食感も独特で、比喩として使える料理が思いつかないのだ。しかも、食べ進めるごとに、シャンパーニュと合わせるごとに、変化していっていっこうに固定されないので、「こういう味だ」と言い切ることができない。

おいしい料理とシャンパーニュは2人を笑顔に。「どうやったらあんなに美しくて食べたことのないような味を創造できるのですか?」という角田さんの問いに対し、「パッとひらめくようなことはありません。何度も考えて、何度も試作して。ひとつの料理のために何十時間と費やし、ようやく完成するような地道な作業です」と川手シェフ。

今回の料理は、主役から脇役までの演者が多いメニューですが、ちゃんとひとつにまとめて、コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランにピタリと合わせるのは、さすが」と角田さん。更には、「アンディーブに添えたピクルスやブルーチーズのソース、アイスにかかるアカシアのソースの具合によって味が様々に変化するので、この感覚を言語化するのは難しい」と話す。

料理の複雑な味を何とか言葉として手繰り寄せようとする角田さん。川手シェフの解説にも真剣に耳を傾け、気になる言葉は全てメモを取る。

フロリレージュ × 角田光代

 フロリレージュはフランス料理店ではあるが、川手さんはクラシックなフランス料理にはこだわっていない。クラシックなフランス料理とは、たとえてみると、たくさんの食材をぐっと煮詰めて作るソース。けれど自分の目指すのはそれではなくて、たくさんの食材のもっともおいしい部分を少しずつ使った料理なのだと川手さんは説明する。煮詰めるのではなく、それぞれの持ち味を生かす料理。さらに、食材のもっともおいしい部分以外、ほかの料理店では破棄してしまうような部分も、きちんと生かしたい、というのが川手さんの考えだ。今日の、アンディーブと、取り除いた芯で作るアイスクリーム、という二部構成がまさにその思想そのものである。

「川手さんのように何かひとつのものを極める人は輝いている。例え、100のうち90つらいことがあっても10やりがいを得られたらまた次に進める活力になるのではないでしょうか」と角田さん。「その10のために僕は料理を作り続けています」と川手シェフ。料理と小説、モノは違えど、同じ道をひたすら歩み続ける職人同士。2人は近しい感性を持つのかもしれない

「僕の料理は、お客様をハラハラさせてしまう(笑)。料理を見て“何これ!?”という驚く姿を見るのも密かな楽しみです」と川手シェフ。そんな想定外の味を求める「フロリレージュ」のファンは世界中に多く、ゆえに「たまに手堅い料理を出すと、ものたりない! もっとチャレンジして!とおっしゃる方もいます(笑)」。

フロリレージュ × 角田光代

 店名の、フロリレージュの意味を尋ねると、「詩歌集」だという。ひとつの本に綴じられたうつくしい詩の数々。食材を作る人たち、扱う人たち、料理人、このお店にかかわる人々、支えてくれる人々、それらすべてが集まって完成するものという意味合いでつけた店名なのだという。
 それを聞いて思った。川手さんの世界では、食材、酒類、飲料、食器や家具や調度品、照明や花瓶の花、そして人、それらは隔たりなく等しく存在していて、すべての持ち味を最大限に生かすことを川手さんは目指しているのに違いない。店内に一歩足を踏み入れたとき、舞台みたいだと思ったけれど、ここでのランチタイムなりディナータイムなりはたしかに一日かぎりの舞台なのかもしれない。セットとキャストと音楽、何が登場するのかと、わくわくと席に着く私やあなたも含めて、フロリレージュの幸福な一ページとなる。

「今度は是非コースで楽しみたいです!」と話す角田さんに対し、「よろしければ、ハラハラコースをご用意します!」と川手シェフ。「そのペアリングにはもちろん、コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランで!」とふたり。

住所:東京都渋谷区神宮前2-5-4 SEIZAN外苑B1F  MAP
電話:03-6440-0878
https://www.aoyama-florilege.jp

1967年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学第一文学部卒業。'90年『幸福な遊戯』で第9回海燕新人文学賞を受賞し、デビュー。'96年『まどろむ夜のUFO』で第18回野間文芸新人賞、'98年『ぼくはきみのおにいさん』で第13回坪田譲治文学賞、『キッドナップ・ツアー』で'99年第46回産経児童出版文学賞フジテレビ賞、2000年第22回路傍の石文学賞、'03年『空中庭園』で第3回婦人公論文芸賞、'05年『対岸の彼女』で第132回直木賞。'06年『ロック母』で第32回川端康成文学賞、'07年『八日目の蝉』で第2回中央公論文芸賞、'11年『ツリーハウス』で第22回伊藤整文学賞、'12年『紙の月』で第25回柴田錬三郎賞を受賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞受賞。'14年『私の中の彼女』で河合隼雄物語賞を受賞。

お問い合わせ:サッポロビール(株)お客様センター 0120-207-800
受付時間:9:00~17:00(土日祝日除く)
※内容を正確に承るため、お客様に電話番号の通知をお願いしております。電話機が非通知設定の場合は、恐れ入りますが電話番号の最初に「186」をつけておかけください。
お客様から頂きましたお電話は、内容確認のため録音させて頂いております。
http://www.sapporobeer.jp/wine/taittinger/


Photographs:KOH AKAZAWA

(Supported by TAITTINGER)

Vol.2 シャンパーニュととくべつな一ページ。[NEW PAIRING OF CHAMPAGNE・フロリレージュ/東京都渋谷区神宮前]

「ミシュランガイド」二つ星の「フロリレージュ」オーナーシェフの川手寛康シェフと小説家の角田光代さん。「今回の料理の内容を事前にうかがっていたのですが、全く想像がつきませんでした! その答え合せを楽しみにうかがいました!」と角田さん。その結果はいかに!?

フロリレージュ × 角田光代

 廊下を歩いて店内に入ると、オープンキッチンが舞台のセットみたいにうつくしく広がっている。シックでありながら華やかなそのキッチンに入るのに、ちょっとした勇気がいる。
 今日いただく料理はアンディーブのミルフィーユとアイスクリームの二部構成だと聞いていて、事前にレシピも説明してもらっていたのだが、じつは何も思い描けずにいた。川手寛康シェフが発酵したアンディーブの芯を取り除き、葉、一枚一枚のあいだにトリュフを挟んでいく。手際よく進めているけれど、ものすごく細かい作業だ。それを蒸して半分にカットし、皿に盛る。一枚の絵画のように印象的なうつくしさだ。

【関連記事】NEW PAIRING OF CHAMPAGNE/作家・角田光代が体験する「食べるシャンパン。」の特別連載エッセイ!

川手シェフが「テタンジェ」のトップキュヴェ「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン」に合わせるために考案した料理は「発酵させたアンディーブのミルフィーユ 2部構成」。2部構成の意味は下記にてお楽しみに! 「今回のテーマは“複雑さ”です。味の複雑さ、香りの複雑さ。それを足し算するのではなく、かけ算し、更に、どうアクセントを加えられるかが重要だと思っています」と川手シェフ。

発酵したアンディーブを蒸し、一度その発酵を止めることによってベストな味わいに。「独特な香りですよ」と言う川手シェフに勧めれ、香りを嗅ぐ角田さんは、思わず「おー!」っと唸る。しかし、「この時点では、味の想像がつきません(笑)」と言葉を続ける。

発酵したアンディーブの葉を一枚一枚丁寧にめくり、たっぷりとトリュフを挟んでいく川手シェフ。その仕事を見ながら「まるでキムチみたいですね!」と角田さん。挟むことによってトリュフはアンディーブに香りを纏わせ、同時に余分な水分を吸う役目も果たす。

アンディーブの芯を切り落とし、2つに切った断面。それを見て「すごく綺麗!」と角田さん。トリュフと形成する黄・緑・白・黒の層が美しいそれは、まるで植物のような不思議な雰囲気が漂う。「ちなみに、芯はまた別の料理にしますのでお楽しみに!」と川手シェフ。

開放的なキッチンにて、今回のメニューのポイントを角田さんに説明する川手シェフ。「複雑さ」をテーマにしたそれは、調理過程もまた複雑だ。

アンディーブを漬物のように発酵させ、味わいも香りも複雑に。「その複雑さがテタンジェのトップキュヴェ、コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランに合う」と川手シェフ。この時点で発酵は5日目。「漬け込みすぎず、まだまだ菌が元気な状態で発酵を止めるのが良い」。

フロリレージュ × 角田光代

 アンディーブにはゴルゴンゾーラチーズのソースをかけ、薄い輪切りのレモン、酢漬けにしたフェンネルの花、コリアンダーの花、ハーブをあしらう。この花は、よくよく見ないとわからないくらいちいさい。もう一品が、さっき取り除いたアンディーブの芯とヨーグルトをピュレ状にしたアイスクリームだ。
 けっこうたくさんのトリュフが使われているのに、香りは控えめで、アンディーブのほろ苦さとうっすらとした甘みを引き立てる。そしてこの料理、切り分けた一口に、ソースをどのくらいつけるか、酢漬けの花をいっしょに食べるか否か、皿の端の塩をつけるか否かで、一口一口の味がまったく異なる。トリュフのかぐわしさはシャンパーニュの香りをけっして消さない。一口食べたあとにシャンパーニュを飲むと、キリリとした強さを感じる。ふたたびアンディーブを食べると、さっきとは違う奥深さが生じる。アイスクリームはやわらかい酸味があって、これもまたシャンパーニュと合う。

合わせるのは、ブルーチーズと白ワインのソース。「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランは、香りの中にハチミツのような甘さがあると思います。ブルーチーズとハチミツは相性が良いので、そこも感じて頂ければ」。ソムリエの資格も持つ川手シェフらしい考察の妙。

フェンネルの花、ディルの花、人参の花、コリアンダーの花と種を自家製ピクルスにし、料理のアクセントに。「酢漬けにすることによってそれぞれの個性を引き出します」と川手シェフ。

そのうちのひとつ、コリアンダーの種のピクルスを試食する角田さん。「こんなに小さいのに味の個性がしっかり! しかも、ちゃんとその奥にコリアンダーの存在と香りが残っているのがすごいですね!」。

一見、何の素材を使用してどんな料理なのかが全くわからない容姿もまた、川手シェフの表現の特徴。ナイフを入れながら「料理にドキドキする……」と角田さん。

「アンディーブの芯はまた別の料理に」と言っていたそれは、アイスクリームに! ペースト状にしてヨーグルトと合わせ、アカシアとニセアカシアの花をシロップとともに発酵させ、アカシアのハチミツを混ぜ合わせたソースを添えて提供。料理名にもある「2部構成」の2部目の品。「これもまた変わった味!」と角田さんも驚愕。「料理をしていると端材が出てしまうことがあります。2部構成にする手法を取り入れてからは、食材を無駄なく使用でき、かつ味の広がりを演出できるようにもなりました」と川手シェフ。

「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランは、独創的な料理の味に落ち着きを与えてくれると思います。これまで体験したことのないペアリング」と角田さん。

「通常、シャンパーニュの温度は8℃か9℃。しかし、コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランの場合は、10℃〜13℃の方が味と香りが開き、料理とのバランスも良いと思います」と川手シェフ。

フロリレージュ × 角田光代

 テタンジェの個性は「複雑さ」だと川手さんは言う。だから、複雑さに複雑さをかける料理として、このアンディーブを選んだ。足すのではなく、かける。たしかに、ペアリングすることで未知なる世界が広がっていく感覚になる。
 それにしても、この味を説明するのはむずかしい。味も香りも食感も独特で、比喩として使える料理が思いつかないのだ。しかも、食べ進めるごとに、シャンパーニュと合わせるごとに、変化していっていっこうに固定されないので、「こういう味だ」と言い切ることができない。

おいしい料理とシャンパーニュは2人を笑顔に。「どうやったらあんなに美しくて食べたことのないような味を創造できるのですか?」という角田さんの問いに対し、「パッとひらめくようなことはありません。何度も考えて、何度も試作して。ひとつの料理のために何十時間と費やし、ようやく完成するような地道な作業です」と川手シェフ。

今回の料理は、主役から脇役までの演者が多いメニューですが、ちゃんとひとつにまとめて、コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランにピタリと合わせるのは、さすが」と角田さん。更には、「アンディーブに添えたピクルスやブルーチーズのソース、アイスにかかるアカシアのソースの具合によって味が様々に変化するので、この感覚を言語化するのは難しい」と話す。

料理の複雑な味を何とか言葉として手繰り寄せようとする角田さん。川手シェフの解説にも真剣に耳を傾け、気になる言葉は全てメモを取る。

フロリレージュ × 角田光代

 フロリレージュはフランス料理店ではあるが、川手さんはクラシックなフランス料理にはこだわっていない。クラシックなフランス料理とは、たとえてみると、たくさんの食材をぐっと煮詰めて作るソース。けれど自分の目指すのはそれではなくて、たくさんの食材のもっともおいしい部分を少しずつ使った料理なのだと川手さんは説明する。煮詰めるのではなく、それぞれの持ち味を生かす料理。さらに、食材のもっともおいしい部分以外、ほかの料理店では破棄してしまうような部分も、きちんと生かしたい、というのが川手さんの考えだ。今日の、アンディーブと、取り除いた芯で作るアイスクリーム、という二部構成がまさにその思想そのものである。

「川手さんのように何かひとつのものを極める人は輝いている。例え、100のうち90つらいことがあっても10やりがいを得られたらまた次に進める活力になるのではないでしょうか」と角田さん。「その10のために僕は料理を作り続けています」と川手シェフ。料理と小説、モノは違えど、同じ道をひたすら歩み続ける職人同士。2人は近しい感性を持つのかもしれない

「僕の料理は、お客様をハラハラさせてしまう(笑)。料理を見て“何これ!?”という驚く姿を見るのも密かな楽しみです」と川手シェフ。そんな想定外の味を求める「フロリレージュ」のファンは世界中に多く、ゆえに「たまに手堅い料理を出すと、ものたりない! もっとチャレンジして!とおっしゃる方もいます(笑)」。

フロリレージュ × 角田光代

 店名の、フロリレージュの意味を尋ねると、「詩歌集」だという。ひとつの本に綴じられたうつくしい詩の数々。食材を作る人たち、扱う人たち、料理人、このお店にかかわる人々、支えてくれる人々、それらすべてが集まって完成するものという意味合いでつけた店名なのだという。
 それを聞いて思った。川手さんの世界では、食材、酒類、飲料、食器や家具や調度品、照明や花瓶の花、そして人、それらは隔たりなく等しく存在していて、すべての持ち味を最大限に生かすことを川手さんは目指しているのに違いない。店内に一歩足を踏み入れたとき、舞台みたいだと思ったけれど、ここでのランチタイムなりディナータイムなりはたしかに一日かぎりの舞台なのかもしれない。セットとキャストと音楽、何が登場するのかと、わくわくと席に着く私やあなたも含めて、フロリレージュの幸福な一ページとなる。

「今度は是非コースで楽しみたいです!」と話す角田さんに対し、「よろしければ、ハラハラコースをご用意します!」と川手シェフ。「そのペアリングにはもちろん、コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランで!」とふたり。

住所:東京都渋谷区神宮前2-5-4 SEIZAN外苑B1F  MAP
電話:03-6440-0878
https://www.aoyama-florilege.jp

1967年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学第一文学部卒業。'90年『幸福な遊戯』で第9回海燕新人文学賞を受賞し、デビュー。'96年『まどろむ夜のUFO』で第18回野間文芸新人賞、'98年『ぼくはきみのおにいさん』で第13回坪田譲治文学賞、『キッドナップ・ツアー』で'99年第46回産経児童出版文学賞フジテレビ賞、2000年第22回路傍の石文学賞、'03年『空中庭園』で第3回婦人公論文芸賞、'05年『対岸の彼女』で第132回直木賞。'06年『ロック母』で第32回川端康成文学賞、'07年『八日目の蝉』で第2回中央公論文芸賞、'11年『ツリーハウス』で第22回伊藤整文学賞、'12年『紙の月』で第25回柴田錬三郎賞を受賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞受賞。'14年『私の中の彼女』で河合隼雄物語賞を受賞。

お問い合わせ:サッポロビール(株)お客様センター 0120-207-800
受付時間:9:00~17:00(土日祝日除く)
※内容を正確に承るため、お客様に電話番号の通知をお願いしております。電話機が非通知設定の場合は、恐れ入りますが電話番号の最初に「186」をつけておかけください。
お客様から頂きましたお電話は、内容確認のため録音させて頂いております。
http://www.sapporobeer.jp/wine/taittinger/


Photographs:KOH AKAZAWA

(Supported by TAITTINGER)

降雪のち快晴。シェフたちが目の当たりにした豊かな自然、そして滋賀県の素晴らしき食材。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

ローカルファインフードフェア滋賀滋賀の多彩な食材が、料理人の感性を刺激する。

滋賀県は日本最大の湖・琵琶湖の豊富な水資源で育まれる素晴らしい食材の宝庫。古くから食材の研究、生産が続けられ、近江米や近江牛、湖魚をはじめ、近江の茶、野菜、果物、この地ならではのブランド食材も数多く誕生しています。

そんな滋賀県産食材の美味しさや生産者の思いを東京の人々に伝えるのが『Local Fine Food Fair SHIGA』です。東京都内で活躍する料理人やパティシエが、まずは滋賀県へ視察に赴き、生産地を自分の目で見て、生産者と話し、食材の背景にあるストーリーを知る。そして、東京に戻り、滋賀県産食材を使った料理をそれぞれの店で提供するフェアを行います。一流の料理人たちが腕によりをかけて滋賀県産食材の魅力を引き出すのはもちろんのこと、自分の目で見て、耳で聞いてきたものをお客様に語ります。

今回料理人たちが訪れたのは、冬の滋賀。広大な琵琶湖を中心に、雪に覆われた北部から、滋賀県内では比較的温暖な東部から南部にかけてぐるりと巡り、生産者を尋ねました。雪の下で甘みを増す大根、寒い時期にしか出合えない琵琶湖の氷魚(ひうお)、冬に旬を迎えるいちご。冬だからこそ堪能できる美味しい食材が、滋賀にはたくさんあります。
そんな現地視察の様子を、レポートでお伝えします。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:AYANO YOSHIDA

(supported by 滋賀県)

産地を巡り、生産者と語り、本質を知る。滋賀県の食材の魅力を伝える都内レストランフェア開催。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

ローカルファインドフードフェア滋賀OVERVIEW

水、大地、気候、そして人。
良い食材を生み出すには、これらの条件が必要です。広い大地があっても水がなければ、穏やかな気候でも土が悪ければ、あるいはすべての自然条件を満たしてもそこに熱意ある生産者がいなければ、本当に素晴らしい食材は生まれません。
この条件を満たす食材を我々は「Local Fine Food」と呼んでいます。

今回舞台となった滋賀県には、言わずと知れた日本一の湖・琵琶湖があります。琵琶湖の水は周辺だけでなく関西の広域を潤します。県の半分を占める山のミネラルを、琵琶湖に流れ込む460本もの河川が運び、周囲の大地を豊かにします。穏やかな沿岸部と、雪の積もる山間部、メリハリのある気候は、それぞれの土地にあった作物を育みます。そして古くから食の都・京の食卓を支えてきただけに、生産者たちは蓄積された技術と、高い誇りを持って生産にあたります。

だから滋賀県の食材には、水と大地のパワーと、生産者の心が宿っているのです。心を動かすような力強さが潜んでいるのです。「Local Fine Food」を発掘するのにもってこいの地域と言えます。

今回は、名だたる料理人たちがそんな滋賀県の食材を視察。その土地に足を運び、生産者の声に耳を傾け、風土を知り、郷土料理を食したうえで、滋賀の食材を自らの店で特別な料理へと昇華させ提供する、都内レストランフェアを期間限定で開催します。


題して「Local Fine Food Fair SHIGA」。

『ONESTORY』取材班は、そんな料理人たちの食材探索に密着し、滋賀県の食材の魅力を紐解きます。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(supported by 滋賀県)

メンズ新作ワークシャツが入荷!

 

 

 

 

 

 

こんにちは晴れ

 

 

皆様どうお過ごしでしょうか?

こちらは台風が過ぎてから朝と夜は比較的

涼しくなったように感じます。

 

 

 

さて、そんな涼しくなってきたこの時期からぴったりの

春先まで着れる新作シャツが入荷致しましたので紹介させて頂きます!

 

 

 

 

 

じゃーーーん!!

 

 

 

 

めちゃくちゃかっこいい!!&かわいい!!!

ストライクゴールドからの新作ワークシャツです!

生地感良き!シルエット良き!

店内入ってすぐの所で展開しておりますルンルン

 

 

 

 

 

全部で7種類ございます!

 

 

SGS2003 チェックネルワークシャツ

サイズS/M/L/XL

¥19,800(税込)

 

 

 

 

 

SGS2004 チェックワークシャツ

サイズS/M/L/XL

¥19,800(税込)

 

 

 

 

 

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サイズS/M/L/XL

¥19,800(税込)

 

 

 

 

以上です!

 

 

 

全種類SサイズからXLサイズまでございますので

女性の方も着ることが出来ます!

カップル、夫婦、友達とお揃いなんて

最高にお洒落で可愛いと思いますラブラブ

 

 

 

 

 

ジーンズとの相性抜群です!

お気に入りの1枚見つけて下さいね!

(試着だけでも大歓迎ですよーーー!)

 

 

 

 

 

倉敷に来た際は是非お立ち寄り下さい!

スタッフ一同お待ちしております。

 

 

日中はまだまだ暑いので水分補給や塩分補給で

熱中症対策お忘れ無く手

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひと皿以上、ふた皿未満の方程式。1.5皿という哲学。[東京都港区]

『傳』のキッチンにて試作をスタート。「予定はないです! ゼロベースで始めます!」とふたり。

でんくしふろり打ち合わせは常にキッチンで。テーブルから生まれる料理はない。

8月某日、『傳』のキッチンにて『でんくしふろり』の試作はスタート。
と言っても、ふたりの中では昼夜問わず、常にやり取りを重ねているため、この日が初日という認識はありません。
「今日は、いくつか試してみたいものを用意してきました!」。そう話すのは、『フロリレージュ』の川手寛康氏です。
手際良く、もといガサガサとせわしなくそれらを並べ、中にはラー油と書かれたケースも!?(のちにこれはハリッサだと判明。後述参照)

「まずはこれを試してみたいんです」と川手氏が取り出したのは、三角に形状したブータンノワール。「これにフルーツとか合わせても良いと思うんですけど、長谷川さんどう思います?」というアイデアに被せ気味で「りんごのガリを作ってみたんですけど、合わせてみませんか?」と長谷川氏。
漬けておいた輪切りのリンゴを「これなら千切りの方が合うな」とつぶやきながらサクサクと包丁を入れ、串に刺したブータンノワールに盛り、お互いにひと口。ふたりの声が揃います。

「合う!」。

続けて、「これならもっとガリをガバっと盛っても良いかも」と長谷川氏が言えば、「あとは辛子を添えてもアクセントになりそう」と言う川手氏に対し、再度、被せ気味に「種から挽いた自家製の辛子もあります!」と長谷川氏。
それらを試し、またひと口。もう一度、ふたりの声が揃います。

「合う!」。

「僕には、りんごのガリという発想はありませんでした。こうゆうところは、ふたりでやるおもしろさですよね」と川手氏。「これだけガリを盛るなら、ブータンノワールのサイズがもっと大きくても良いかも」と長谷川氏。ふたりの手と会話が休まることはありません。
「僕らは、じっくりテーブルで顔を付け合わせながら考えることはありません。もちろん、事前にアイデアやイメージを出し合うことはありますが、基本的にはキッチンで全て行います」とふたり。

型にはめすぎず、ゴールを決めすぎず、その日のセッションから生まれるのは、余白によるサプライズや想像を超えた化学反応。
ふたりの共通点は、自分らしさにどう相手らしさをどう足し算できるか、はたまたその逆も然り。互いを尊重し合っているところにあります。

この日、ふたりが用意したものがピタリと合点するのは、相手の料理やその特徴を知っているからこそ。まだまだ試作は続きます。

【関連記事】東京都港区/「でん」と「くし」と「ふろり」の関係。

川手氏のブータンノワールに長谷川氏のリンゴのガリを盛り付け、種から挽いた自家製の辛子も添えて。

上記の料理にリンゴのガリを盛り付ける長谷川氏。味だけでなく食感もまたアクセントに。

この日のために川手氏は色々用意。色々記される中、気になるのはフレンチシェフが作るラー油!?の文字。

でんくしふろり『傳』と『フロリレージュ』の食材は使わない。高級食材や希少食材も使わない。

次に登場したのはナス。
「これはナスにフォアグラ、穴子を詰めたものになります。フレンチだとビネガーをかけて食べたりしますが、長谷川さんのエッセンスを加えたらどうなるんだろう?と僕も楽しみな料理です」と川手氏。
「だったら、これとか合うと思います。葛粉で溶いた酸味のあるタレです。ちょっと味見してもらえますか?」と長谷川氏。
ひと口含み、「これは合いそう!」と川手氏が言うとさっそく試作。
「ナスがうまく串にささらないなぁ」と川手氏が言えば、「くるっと巻いてみましょうか?」と長谷川氏。タレをかけて、互いにひと口。
ふたりの声が揃います。

「合う!」。

「なんだろう、これは。ナスだけで食べると『フロリレージュ』の味なんだけど、このタレをかけると全く別の料理になる!」と川手氏が目を丸くすれば、長谷川氏もまた「わっ! なんだこれは!? 一体、何料理なんだ!?」と笑います。続けて、これを添えたらおもしろいかもと川手氏が取り出したのは紫のシート。
「これは先ほどのナスの皮で作ったペーパーシートです。これがあることによって、味の重層をより楽しめるかもしれません」と川手氏。「であれば、このシートも串に挟んでみますか? 刺すだけじゃなくて挟める串もあるので!」と言い、実際に試してみると「いや、これはないな(笑)。何か変だし、食べづらい(笑)」。
良き時もあれば、悪き時もある。試作はトライ&エラーの繰り返しです。


そのほか、川手氏は、レモンを丸々焦がした自家製パウダーやフランス料理で使われる唐辛子をベースにしたペースト状の調味料のハリッサを日本風にアレンジしたもの、そして、長谷川氏も絶賛した海老の頭に赤味噌をほんの少し隠し味に加えた濃厚ソースを用意。
「これはすごい! 野菜とかイカとかの串にドバッと漬けて食べても合いそう」と長谷川氏が言えば、「それは良い! でも、そうであれば、この味噌の風味を弱くして、ビスク風にした方がもっと合いそうな気がします!」と川手氏。

一方、長谷川氏は、出汁と昆布を効かせた自家製醤油やカツオの漬け、イワシを用意。更に、「塩麹と醤油麹も今作っている最中なので、それを使った川手さんの料理も見てみたいです」と長谷川氏。
「『でんくしふろり』では、僕らがキッチンに立たないので、まずは基本をしっかり作りたいと思っています。今はまだ、基本の“き”の段階」とふたり。
「『DINING OUT』のご縁がきかっけで、今でも静岡の『サスエ前田魚店』を『傳』は仕入れていますが、その日獲れた良い魚をお任せで送っていただいています。届いたものを見て、どんな料理にするのが良いか考えてメニューを構成していくのですが、最初の『でんくしふろり』にはハードルが高すぎます。まずは、決まった食材でしっかり体制を作ることが大事。その分、僕らがバックアップしたいと思っています」と長谷川氏。

そう話したと思えば、いきなり「あと、チーズを使った料理も作りたいね」とふたり。「そうそう、デザートも試作してみたんです」と川手氏。会話があっちに行ったりこっちに行ったり。
「メレンゲで挟んだ大福です」。
ひと口、長谷川氏が食べると「大福だけど軽くておいしい! あぁ、お茶が飲みたくなってきた……」。
「『でんくしふろり』では、最後にお茶を出すのもいいですね!」と川手氏が言えば、「絶対良いと思う! ほうじ茶とか絶対欲しくなる!」と長谷川氏。そして、「デザートだったらプリンも良いと思います! うちにベースになるプリンがあるので食べてみてください」と言葉を続けます。それを食べた川手氏は「これはシンプルに出してもおいしいけど、キャビアとも合うと思う!」。
「やっぱり、これもお茶に合いそう!」とふたり。しかし、「あ、でも……、お茶を出すっていうことは……」と川手氏が言えば、「ゆのみがない!(汗)」と長谷川氏。

まるで漫才。ふたりの掛け合いは止まりません。

川手氏作のフォアグラ、穴子を詰めたナスに長谷川氏作の葛粉で溶いた酸味のあるタレをかけ、ナスの皮で作ったペーパーシートを添えて。

「長谷川さんの作るタレやソースは、真似できそうでできない」と川手氏。

川手氏が用意した海老の頭を丸々使った濃厚ソース。「牛乳を入れたり、とろみをつけるとまた違った味に変化します」。

川手氏が作るハリッサを試食。「あー、これは何か絶対合わせられる! 万能調味料!」と長谷川氏。

 漬けにしたカツオに塩をひと振り。「焼きのものだけでなく、生のものも構成に入れていくとおもしろい」と長谷川氏。

メレンゲに挟んだ大福。「ありそうでなかった組み合わせのデザートを表現してみたかった」と川手氏。

川手氏が用意した大福をひと口。「大福なんだけど、軽く、最後はお茶が欲しい!」と長谷川氏。

長谷川氏が用意したプリンを食べ、「これはシンプルにおいしいですね。あまりアレンジしなくて良い気もしますが、キャビアとかを合わせてもおもしろい」と川手氏。

それぞれが用意した料理やその場で繰り広げられる技術、情報の開示は、ふたりにとって刺激になる。

でんくしふろり自ずと引き寄せられたイワシとレバー。僕らの原点はここにある。

前述に用意した長谷川氏のイワシ。このイワシにはふたりの原点が隠されています。
振り返ること約10年前、まだレストラン界でコラボレーションが主流でない時にふたりはそういった試みを実践していました。
「一番思い出に残っているメニューは、イワシのなめろうにフォアグラアを組み合わせたひと品」とふたりは言います。
「僕は川手さんの料理と発想力に毎回驚かされていました。この時もそうです。なめろうにフォアグラを入れるなんて! しかもそれがおいしい。日本料理にはない発想ですし、本当に勉強になりました」と長谷川氏。
「僕だってそうですよ。さっき長谷川さんが作った酸味を効かせた葛粉のタレありましたよね。実は自分でも作ってみたことがあるのですが、何となく違う。コピーした味になってしまうんです。真似できそうでできない。ある人に伺ったのですが、旨味の視点で見れば、フランス料理は日本料理には勝てないそうです。それだけ奥が深い」と川手氏。
隠れたところに手数が多いのは、日本料理の特徴であり、美徳。陰翳礼讃のごとく、見えないところに本質や技術は潜んでいるのかもしれません。

今回は、同じ内蔵でもフォアグラをレバーに変えてイワシと合わせるイメージをふたりは持っています。しかし、まだ形になる一歩手前。
「例えば、イワシのタルタルとレバーのタルタルを合わせるとか、色々考えています」と川手氏。「あとは、つくねなんですが、最初はイワシで徐々にレバーの味わいに、和から洋へグラデーションしていくような仕掛けがあったり。もちろん、いくつかの玉を串で刺して、ひとつずつ変化するのもおもしろい」と長谷川氏。
「原点に返るという意味では、もうひとつ。長谷川さんとコラボレーションした時に鳩を使った料理を作ったんです。最初はそのまま食べて、最後は長谷川さんが鳩に合うように作った生姜で炊いたお米と出汁のスープをかけてひと皿が完成するという内容でした。ひと皿なんですが、おいしさと楽しさはひと皿以上。この考え方は『でんくしふろり』でも取り入れたいですし、そうゆうお店にしたい」と川手氏。

ふたりだからできる、ひと皿以上、ふた皿未満の方程式。1.5皿という世界が『でんくしふろり』の哲学なのかもしれません。

とはいえ、試作の段階。はたしてどうなるのかは、乞うご期待!

長谷川氏が仕込んだイワシ。「川手さんとイワシを使って料理を考えると約10年前のコラボレーションを思い出します」。

長谷川氏が用意したイワシをたたきに。「イワシを使った串はメニューに取り入れたい」と話すふたり。

上記のたたいたイワシをバーナーで炙り、様々な手法で味を確認する。

キッチンでは笑顔が絶えないふたり。今回の試作を経て、また次の課題に向けて、料理を考案していく。

Photographs:JIRO OTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI

秋の香り

みなさまこんにちは!


まだまだ暑い日が続きますね(・・;)

9月に入りましたがまだまだ夏のような日が続く倉敷です(๑・̑◡・̑๑)


さて、秋に向けて倉敷デニムストリートは続々と新商品を入荷しております!!