でんくしふろり川手さんとの出会いは 20年前。独立後、ずっと見続けてきた。
そう話すのは、『でんくしふろり』の空間を手がける、「株式会社エスキス」代表の建築家・インテリアデザイナーの甲斐晋介氏です。
「今回、ご縁をいただいたのは川手さんとの関係からです。最初の出会いは、自分が空間デザインを手がけた西麻布のフレンチ『OHARA ET CIE』だったと思います。まだ、大原正彦さんのもとで修行されている時代でした。その後、独立して開業した青山の『Florilege』と移転した今の神宮前の店舗、台湾に展開した『logy』を手がけさせて頂きました」。
甲斐氏は、『OHARA ET CIE』や『Florilege』をはじめ、日本の名だたるレストランの空間をデザインしています。千駄ヶ谷『Sincere』、代官山『abysse』、外苑前『L’EAU』、有楽町『TexturA』、京都『VEL ROSIER』など、どれも洗練された人気店ばかり。そのほか、虎ノ門『mement mori』と日比谷『Mixology Heritage』のバーや新潟『WineryStay TRAVIGNE』のホテルなど、活躍の場はさまざま。しかし、『でんくしふろり』のようなスタイルは初かもしれません。
「最初にお話を伺った時の印象は、絶対楽しい店になる! そう思いました。世界で活躍されているおふたりのお店なので、国内外からゲストが多くいらっしゃると思いますし、きっと期待値も高い。でも、最初の打ち合わせ段階では、ざっくりと串のお店……としか聞かせてもらえなかったのですが(笑)」。
今回で4店目となる川手氏とのプロジェクトですが、「いつも川手さんからは多くの注文はありません」と言います。
今回のオーダーはひとつだけ。「『傳』と『Florilege』の要素を取り入れてほしい」でした。
「一番難しい……(笑)」。
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でんくしふろりそのプレッシャーは半端じゃない。自分はいつも試されている。
前述の通り、川手氏は多くは語りません。
「プレゼンの時は、汗が止まりません(笑)。そのプレッシャーはもちろん、常に自分が試されているような気がしています」。
しかし、一方で「その期待に応えるため、いつも全力で取り組ませてもらえるので、ありがたい存在です」と言葉を続けます。また、意外だったのは、甲斐氏と長谷川氏は初対面だったこと。
「長谷川さんのお名前は、もちろん存じ上げていました。お会いするまでどんな人かわからず、また川手さんとは違った緊張がありました。ですが、打ち合わせの大半が川手さんとの釣りの話だったので、直ぐに緊張は解けました(笑)」。
とはいえ、長谷川氏も川手氏も世界で活躍する名シェフ。
「プレッシャーも自分が試されている感も2倍です(汗)」。
甲斐氏は、厨房を含む平面レイアウトから動線計画、距離感、使い勝手、見え方、魅せ方など、空間のさまざまに携わります。
「動きやすいオペレーションは設計段階で決まると思っているので、特にこの段階が重要と思っております」。
そんな『でんくしふろり』の空間の主役は、「おくどさん」です。
「コミュニケーションを重ねる中、“おくどさん”というアイデアが出てきました。空間の全体的な印象は、『傳』の日本料理の要素、『Florilege』のフレンチの要素、どちらにもイノベーティブなので、純和や強いフレンチの要素を出しすぎないように心がけました。デザイン的にはカウンターは重要なファクターなので、和を感じられる木の無垢材を採用。ただ、材種はイロコと呼ばれる原産国がアフリカのアフリカンチークを使うことで、純和に寄らず、洋の要素を加味しました」。
そして、「おくどさん」を作るということで、直ぐに思い浮かんだ造り手がいたと言います。
それは、大橋左官の大橋和彰氏です。
「大橋さんとは、神宮前『Florilege』の工事の際に大きなコの字カウンターを作ってもらった時からのお付き合いです。いつも自分の難しいリクエストを軽々と超えて施工してくれる頼もしい仲間です。通常の“おくどさん”を作るのであれば、普通の左官屋さんでも良いのですが、今回は誰も見たことがないイノベーティブな“おくどさん”を作り上げようと思い、大橋さんと試行錯誤して完成させました。ぜひ、カウンターの中心に据えられるおくどさんにも注目してもらいたいです」。
大橋氏は、世界を放浪後、左官の道へ歩んだ一風変わった経歴を持ちます。
「放浪している時、土の建築やヴァナキュラー建築に感動を覚えました。自分もそんな感動を表現したい。そう思った時、身近な素材で作る左官に興味を抱き、この道を志ました」。
今回、大橋氏は、「おくどさん」以外にも入り口の壁、蹲、通路正面の壁、カウンター横の壁も手がけます。
「全てに共通して素材の力と可能性を引き出すことを意識しています。長谷川さんとは、初対面でしたが、気さくに話してくださり魅力的な方だと思いました。川手さんは、美しい料理を作る人」。
言葉数の少なさは、やはり職人気質だが、「今回、『でんくしふろり』に携わらせていただき、本当に光栄です。ふたりのエネルギーに負けないようなおくどさんと壁を作ります!」と意欲も見せる。
「くし」でつながるのは、料理だけではありません。建築、空間、職人もつなぎます。
「常に新しい食と体験を期待してます! 串に何が刺さって出てくるのか? 何を串で繋ぐのか楽しみです」と大橋氏。
「和食、フレンチ、串……。今後の可能性や拡がりを考えても楽しそう!の一言です。これからもずっと進化していく可能性を秘めたお店になると思います!」と甲斐氏。
携わる周囲までも期待が膨らむ『でんくしふろり』。
次回は何をつなぐのか!? 乞うご期待!
※『でんくしふろり』の住所も公開! 予約も開始しました!
Text:YUICHI KURAMOCHI