本と旅/森岡書店森岡督行と読む、見る、日本の旅へ。
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旅には2しゅるいあります。
ひとつは、遠くまで行って、ちがう場所の空気をすうふつうの旅。
もうひとつは、本を読んで想像のせかいをめぐる心の旅です。
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これは、建築家・安藤忠雄氏が手掛けたはじめて絵本『いたずらのすきなけんちくか』の一節です。
「改めて、自分が本と向き合うきっかけになった言葉です」。
そう話すのは、『森岡書店』の店主・森岡督行氏です。
「本の良いところは、まず形があるということです。もうひとつは読み返したくなるということではないでしょうか。これはデジタルにはない感覚だと個人的には思っています。再読の度、自分の成長とともに印象が異なることがあるのもおもしろい。はじめて読んだ時には気づかなかった発見もあるかもしれません」。
紙で読む、見る行為は、画面で読む、見る行為より、記憶に深く刻まれると言われています。脳科学の分野では証明されているようですが、脳が認識する部位が異なることと反射光と透過光の違いにもあるそうです。
「地域に特化したものや街をテーマにしたもの、はたまた建築や寺社仏閣、祭りや催事、日本の目線、海外の目線など、多角的に日本の旅を想像できる本を選書していきたいと思います。特に外国人が見る日本は、我々が気づかないところに重きを置いたり、見慣れた風景すら新しく感じることもあります」。
そして、本に浪漫を感じるところは、前出のように形として残ることです。
「本は、人の命よりもはるかに長く生き続けます。つまり、歴史の伝承物でもあるのです。今ある本も、もしかしたら、数十年、数百年先には古書店に並び、また別の人の手に渡るかもしれません。そんなドラマもまた、形に残る本だからこそ得られる喜びです」。
そう話す森岡氏ですが、実は本に関する失敗談も。
「今思えば、手放せなければよかったと後悔している本もあります。また読み返したいと思った時には手元にない……ということもしばしば。しくじった!(笑)と思っても、後悔先に立たず。ですが、再会できるのもまた本。そんな縁も楽しみたいと思います」。
銀座に実店舗を構える『森岡書店』では、一冊の本を扱う本屋ですが、ここはもうひとつの『森岡書店』。
店主とともに、さまざまな本を通して、日本を読む、見る、想像の旅へ出かけたいと思います。
住所:東京都中央区銀座1-28-15 鈴木ビル1F MAP
TEL:03-3535-5020
1974年、山形県生まれ。1998年に神田神保町の一誠堂書店に入社。2006年に独立し、茅場町の古いビルにて古書店・ギャラリー『森岡書店』を開業。その後、2015年に銀座へ移転し、一冊の本を売る本屋として『森岡書店 銀座店』を開業。著書に『写真集 誰かに贈りたくなる108冊』(平凡社)、『BOOKS ON JAPAN 1931-1972 日本の対外宣伝グラフ誌』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『荒野の古本屋』(晶文社)など。
Photographs:JIRO OTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI