全ては整った。長谷川在佑&川手寛康の短期密着連載・最終章! [デンクシフロリ/東京都港区]

『デンクシフロリ』のメンバー集合! 左より女将の橋本恭子さん、シェフの森田祐二氏、スタッフの寺下尚希氏、山木 望氏、後野篤郎氏、そして長谷川在佑氏、川手寛康氏。更に、日本料理の料理人・黒野仁喜氏が合流する。

デンクシフロリ2020年9月30日、「デンクシフロリ」オープン!

改めて振り返ること、2020年8月。

『傳』の長谷川在佑氏と『フロリレージュ』の川手寛康氏がふたりでレストランを始めるという一本の連絡があってから約1ヶ月、それならば!と工事中の現場から密着し続けた短期連載も今回が最終章になります。

本プロジェクトの経緯やお店に携わる様々な人の声も吸い上げ、多角的な視点から『デンクシフロリ』ができるまでを綴ってきました。
当初、コンセプトを伺った時、「何か凄そうですが、結局どんなお店なのか……」と、「???」が頭をよぎったのは、今でも記憶に新しい正直な感想(汗)。

しかし、わからなくて当然なのです。
なぜなら、ふたりが歩み出そうとしている世界は、新たな一歩であり、前代未聞の挑戦のため、すぐに他所が理解しようと思うこと自体、虫が良すぎるわけなのです。
そのふわりとしたイメージは、密着することによって、少しずつつながっていったような気がします。
それは、このお店が掲げる一番の根幹である「人と人とのつながり」がどんどん結実していった様子にありました。

長谷川氏の言葉を借りるならば、「“クシ”は料理にも表現しますが、それが主ではありません。“つなぐ”ものはさまざま。和食とフレンチ、傳とフロリレージュ、長谷川と川手、文化と文化、国と国……。そして、一番は人と人。見えない“クシ”で“つなぐ”ことが一番重要」。これに尽きると思います。

ただ食べるためではない。ただ飲むだけではない。集いや出会い、ご縁が生まれる場所こそ『デンクシフロリ』なのです。
その理解を手助けしてくれたのは、本連載でも取材した建築家・デザイナー、陶工、左官職人、フラワーデザイナー、染色家の方々でした。
スケルトンだったそこは、彼らの手によりどんどん具現され、つながっていきます。

そして遂に、2020年9月30日オープン!

その全貌を一挙公開します。

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入口の暖簾は、江戸型染作家・小倉充子さんによるもの。通称、よっぱらいおじさんの「デンクシフロリ」ロゴのグラデーションは、徐々によっていく様を表す。

お店に入ってすぐ。正面の壁面仕上げは、大橋左官の職人・大橋和彰氏によるもの。そこに飾る花は「piLi flower design works」のフラワーデザイナー・大類淳子さんが手がける。ひとつ一つを観察するだけでも、そこかしこに何かと何かがつながる。

空間の主役でもあるおくどさんも大橋左官の職人・大橋和彰氏が手がける。おくどさん、壁面ほか、適材適所に表情を変えて仕上げる。経年変化も楽しみだ。

カウンターの素材はイロコと呼ばれるアフリカンチークを採用。「純和に寄らず、洋の要素も加味しました」と、建築家・インテリアデザイナーのエスキス・甲斐晋介氏。

凹字型の空間は『フロリレージュ』と同スタイル。『フロリレージュ』が劇場型であれば、『デンクシフロリ』は小劇場型。元気に! 賑やかに! コミュニケーションがつながる場所。

デンクシフロリ誰もが美味しいと思える料理を構成した。「デンクシフロリ」のコースを全公開!

「今回は、誰もが食べて美味しい!と思える料理を念頭にコースを考えました」。
そう語るのは、川手氏です。

「何度も何度も試作しました。毎日アイデアを出し合っては、作っては手直しして。お店の営業時間以外は、お互いのキッチンに行き来する日々でした」とふたりは話します。

そんなコースは、全8品。
・ブータンノワール りんご
・いわし レバームー
・ビスク 海老芋
・なす 茄子ピューレ
・ピジョン えび
・フラン 水牛モッツァレラ
・タンコンフィ 茸ご飯
・甘味

まず、「ブータンノワール りんご」。フレンチでは定番のブータンノワールに長谷川氏考案のりんごのガリを合わせます。「このガリは、季節に合わせて変えていく予定です」とは長谷川氏。また、通常はマスタードを添えるところですが、和がらしにしているのも特徴的です。

「いわし レバームー」は、『傳』と『フロリレージュ』が初めてコラボレーションした時の組み合わせを再構築。「どうしてもこの料理をコースに加えたかった」とふたりが話す思い出の品です。少しずつレバームーをいわしに乗せて食べるも良し、単体で香りを楽しむも良し、串からはずして混ぜ合わせるも良し。お好みに合わせてお楽しみいただきたいひと皿です。

「ビスク 海老芋」の海老芋は、出汁を含ませ、ビスクの濃厚な味わいと絶妙なバランスが溶け合います。ソースではなく、スープとの合わせも斬新なひと皿です。

「なす 茄子ピューレ」のなすは、揚げ浸しに。皿上に広がる2種のソースには、酸味の効いたものとスパイシーなオイルを用意。上にはナスの皮で作ったペーパーシートを添えます。本作は、Vol.2の連載の試作でも登場しましたが、その時よりも進化しています。

「ピジョン えび」の鳩は味噌漬けに、えびは醤油漬けに。漬けの響宴が成された料理。コース内、唯一のふた皿構成には、森田氏が作るパスタも添えられます。基本的に今回のコースは、長谷川氏と川手氏が考案したものですが、この料理に限り、長谷川氏・川手氏・森田氏がつながる味を堪能できます。

「フラン 水牛モッツァレラ」は、出汁ベースの茶碗蒸しに軽く炙ったモッツァレラを沈め、表面には醤油の餡とオリーブオイルを浮かばせます。

「タンコンフィ 茸ご飯」の茸は、舞茸とセップ茸を。「今後は、季節によって茸の種類を変えて行く予定です」と長谷川氏。合わせる牛タンには醤油の餡を絡め、器の縁にはアクセントに山椒の実のペーストを添えます。『傳』直伝、土鍋から炊き上げたご飯を見せる演出もまた、美味しさを倍増させます。

最後の甘味は2種より。ひとつは「煎茶プリン」。クラシックなプリンに煎茶のクリームと茶葉を乗せ、豊かな香りを演出します。もうひとつは「メレンゲ大福」。炊いた小豆とメレンゲをアイスにし、きめ細やかな餅で包み、メレンゲでサンドします。「ガシガシ食べてほしい!」とは川手氏の言葉。

また、それらに彩りを添え、相乗効果を生むのがドリンク。中でも、特に割りものがおすすめです。

沖縄の柑橘フルーツ、カーブチーを使用したサワーや「ブータンノワール りんご」のりんごのガリを使用した「アップルジンジャー」、山葵を漬け込んだウォッカにかぼすを添えた「かぼす山葵」はその好例です。また、大麦焼酎 青鹿毛(あおかげ)と台湾茶 八八金萱を合わせたお茶割りで〆るのも「デンクシフロリ」流。

川手氏は、台湾に姉妹店『ロジー』を展開し、『ハレクラニ沖縄』のレストラン「シルー」のコンサルティングシェフも務めます。台湾と沖縄、つながりのある地域から選ぶ素材を起用したドリンクもまた、「デンクシフロリ」らしさと言えます。

とにもかくにも、まずはぜひご賞味あれ!

森田氏を中心に料理を展開。オープン前のこの日は、長谷川氏と川手氏も参加し、ポイントや手順を整理。精度を上げていく。

席に用意される式膳は、越前塗。こういった細かい演出も高揚感を誘う。

「ブータンノワール りんご」は、Vol.2の連載にも登場。試作の初期段階から採用されるも精度は更にアップ。当初、千切りだったりんごは輪切りになり、より食感と味わいが増す。

「いわし レバームー」は、長谷川氏と川手氏が初めてコラボレーションした思い出のメニュー。「これだけはどうしてもコースに入れたかった」とふたり。以前よりも向上したふたりの技術やキャリアは、当時の味よりも、はるかにレベルアップ!

スープにクシが刺さった斬新な「ビスク 海老芋」。海老芋には出汁を含ませ、風味豊かに。

揚げ浸しにしたなすに酸味とスパイスを効かせた2種のソースでいただく「なす 茄子ピューレ」。本作を始め、「ブータンノワール りんご」、「いわし レバームー」に使用された白磁の器は、『李荘窯』の有田焼陶工・寺内信二氏が手がける。

「ピジョン えび」では味噌漬けの鳩と醤油漬けのボタンエビをクシで刺した漬けペアリング。パスタは森田氏が手がけ、添えたネギソースと絡めても美味しい。和食・長谷川、フレンチ・川手だけでなく、イタリアン・森田もつながる料理。

表面にかかったオリーブオイルの風味がモッツァレラと茶碗蒸しのつなぎとなり、絶妙にマッチ。和と洋が見事に融合された「フラン 水牛モッツァレラ」。

湯気が立ち上る炊きたてのご飯。土鍋から見せる演出は、『傳』の手法を採用。土鍋は、 Vol.4の連載にも登場した『安楽窯』陶磁器製造の有田焼陶工・末村安孝氏が手がける。

味はもちろん、香りが豊かな「タンコンフィ 茸ご飯」。タンにかかった餡をご飯に絡めても美味しい。

「煎茶プリン」は、「食べた後の余韻が他の茶葉と比べてダントツに心地良い!」と長谷川氏と川手氏。

「メレンゲ大福」は「思っ切りバリバリ口に頬張って食べてください!」と川手氏。本作を始め、「ピジョン えび」、「フラン 水牛モッツァレラ」、「タンコンフィ 茸ご飯」、「煎茶プリン」の器は、Vol.4の連載にも登場した『柳瀬晴夫窯』14代目、小鹿田焼陶工・柳瀬元寿氏が手がける。

ウォッカベースに沖縄の青みかん「カーブチー」を合わせたサワー。「“いわし レバームー”とぜひ!」とは女将・橋本さん。

「アップルジンジャー」は、生姜を漬けたウォッカベースに紅玉りんごジュースとスパイスを効かせた自家製ジンジャーシロップを加え、「ブータンノワール りんご」のりんごのガリと仕上げる。

山葵を1日ウォッカに漬け、液体に風味をまとわせた「かぼす山葵」。「山葵のツンとした味と香りに爽やかな柑橘を合わせました。本当の酒飲みが好きな味!」と橋本さん。

大麦焼酎 青鹿毛と台湾茶 八八金萱を合わせたお茶割りは、麦の香ばしい香りとお茶の爽やかな味わいが綺麗にまとまる。「タンコンフィ 茸ご飯」のような甘辛いタレの味との相性は抜群。「“メレンゲ大福”との合わせもぜひ!最後の“あがり”感覚でもお召し上がりください!」と橋本さん。

デンクシフロリ長谷川在佑と川手寛康は、コラボレーションをしたのではない。レストランを作ったのだ。

「2020年9月30日にオープンを迎えますが、ここからがスタート。森田シェフを中心に『デンクシフロリ』のメンバーがそれぞれ考えていくことが大切」と長谷川氏と川手氏は話します。

ふたりがお店には立たないものの、名シェフによる新店とあれば、自ずとゲストの期待値は高まります。
「期待値が高いのは覚悟の上。僕は長谷川さんにはなれないですし、川手さんにもなれません。美味しい料理を作ってお客様に楽しんでいただくこの舞台を誠心誠意全うするだけです」と森田氏。

「改めて思うことは、僕たちはコラボレーションをしたのではありません。レストランを作ったのです。コースの内容は、時間をかけてじっくり考え、どうすれば美味しいと思ってもらえるかを日々熟考しました。それは、イベントでご提供するような数日限定の料理ではありません。常にお楽しみいただけるレストランでご提供する料理を作りました」と長谷川氏と川手氏は話します。

「“クシ”という鎖があったからこそ、できたと思います。ある種のルール、規制があったのが良かった。自由に表現し過ぎたら、まとまらなかったかもしれません」と長谷川氏。
「改めて“クシ”って良い言葉で良い出会いを“つなぐ”のだと思いました」と川手氏。

長谷川氏と川手氏のつながりに始まり、和食とフレンチ、そこにイタリアンがつながり、食材をつなぎ、料理をつなぎ、ものをつなぎ、人をつなぎ……。

―全ては整った―
冒頭にそう明記しましたが、実は誤りがあり、厳密には1ピース欠けています。

それは、『デンクシフロリ』がつなぐ最後のピース、お客様。

そのピースは、ぜひあなたが。

常に笑顔が絶えないメンバー。お客様も含め、同じ空間に居合わせた人々がいかにグルーヴを体感できるかが重要。そういった意味では、『デンクシフロリ』は、バンドにも似るのかもしれない。

住所:東京都渋谷区神宮前5-46-7 GEMS 青山CROSS B1A MAP
TEL:03-6427-2788
https://denkushiflori.com

Photographs:JIRO OHTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI