「人間はどう生きていくのか。生き抜いていくのか。今一度、真剣に考えていきたい」とおの屋 要/佐々木要太郎

1981年生まれの佐々木氏は、21歳の若さで遠野に戻り、どぶろくの醸造からスタートさせる。

旅の再開は、再会の旅へ。今までが当たり前ではなかった。それを認識させてくれたのは、新型コロナウイルスがもたらした唯一の良点。

「和食ではない。でもフレンチやイタリアンベースでもない料理は唯一無二」。

東京の飲食店や酒販店、ワイン関係者までもが声を揃えてそう絶賛するお店が岩手県遠野市にあります。

『とおの屋 要(よう)』がそれです。

店主の佐々木要太郎氏は、民話の里・遠野に初めてできた『民宿 とおの』の4代目も担います。

佐々木氏は、高校卒業後、飲食とは全く関係のない職に従事していましたが、久方ぶりに帰った故郷・遠野で「何かできることはないか」と始めたのが自家栽培米を使ったどぶろく醸造でした。

「遠野の地に根ざして生きていく」。

そう覚悟を決めてから、先代の父とともに厨房に入り『民宿 とおの』を全国から客を集める名宿に育て上げます。

そこから「自分の力だけで勝負できる場を」と一念発起し、2011年、民宿に隣接する敷地に和のオーベルジュ『とおの屋 要』をオープン。地元の食材を使った発酵食品や自家製加工肉をふんだんに取り入れたユニークな料理とどぶろくとのマリアージュは、国内だけでなく、世界からも注目を集めています。

しかし、そんな宿の運営は窮地を迎えます。2020年4〜6月の予約は全てキャンセル。理由は新型コロナウイルスによって発生した緊急事態宣言によるものです。

「緊急事態宣言後は徐々にお客様も戻っており、今(2020年10月現在)では、ありがたいことに『とおの屋 要』としては依然と変わらずお客様にお越し頂いております。 本館の『民宿とおの』は2021年3月まで休館予定です。理由は、3密に当てはまる施設状況の為です。休館後、『民宿とおの』は、1日1組の宿泊施設に変わる予定でおり、1階部分をカフェにし、都心部との距離を縮める場作りをスタートさせます」。

経済活動を再開する施策は展開されど、施設やレストラン、お店など、空間構成によっては、必ずしもすぐに受け入れ体制が整っているわけではありません。『民宿とおの』のようにスタイルを変える必要が出てしまうことやそれに伴う資金繰りなど、苦渋の選択を迫らせることも多々あります。

「地元全体として見ても観光業や飲食業は苦戦を強いられていると思います。また、遠野に関しては、Go To トラベルキャンペーンの効果はあまりないという情報も伺います」。

国や政府が講じる地方活性の施策は、全てに適合しているわけではありません。効果的な部分のみ報じるメディアの存在は、時に錯覚さえ起こします。では、適合していないところを報じるところはあるのかと言えば、それは中々ありません。

果たして、真実はどこにあるのか。

そして、佐々木氏が一番想うこと。それは食に対しての見直しです。

「このような状況になってしまったからこそ、食についてもっと掘り下げて考えてみてはいかがでしょうか」。

それは、佐々木氏自身も含め、国民ひとり一人が向き合うべき問題でもあると思います。

「コロナ禍の最中ですが、改めて思うことは、今までが当たり前ではなかったのだということです。それを認識させてくれたのは、唯一良い機会だったと感じています。 文明はとてつもないスピードで進化してきました。その逆に人間の感覚や感性は退化した事は言うまでもありません。 目先の数字に操られ、“人間”都合で全てを決め、生産・廃棄・自然環境破壊・悪循環農業。 こういったことを我々人間が行ってきたのは事実です。そして、こういった問題も地球上で人間しか解決できないのだということもまた事実だと考えています。 今、こういった問題に気が付き指摘し、正そうとする人たちの割合が少ないことは大きな問題ではないでしょうか。今こそ、イノベーションを起こしていく必要性を感じております」。

大袈裟に言えば、人間は地球を支配し、全てを変える力さえ手に入れてしまったのです。自然の営みから外れた不可能を可能にし、時に環境に負荷をかけ、私欲を正義に見せることもしばしば。

「今回のこの新型コロナウイルスという問題を含め、この現代において人間はどう生きていくのか。生き抜いていくのかを今一度真剣に考えて行くべきだと思っています」。

『とおの屋 要』と言えばどぶろく。どぶろくと言えば『とおの屋 要』。その味に惚れ込むレストランは国内だけでなく、バスクの『ムガリッツ』など、世界に名をとどろかすトップレストランばかり。

イニングと宿泊客用のリビングは吹き抜けに。六間継ぎ目なしの太い梁や建具の装飾など、建築された当時の構造、意匠を可能な限り生かしている。

モダンなデザインながら古い建物にしっくりなじむ椅子は、長野県木曽の木工作家・般若芳行氏のもの。

人間工学に基づき設計されたドイツ『ヒュルスター』社のベッドを設えるゲストルーム。

『とおの屋 要』のエントランスは、石が敷かれたアプローチの先に。建物は紫波町(しわちょう)の豪農が所有していた米蔵を移築、リノベーションしたもの。

以前の取材時、田んぼを歩いている間中、「うちの田んぼは綺麗でしょう」と繰り返す佐々木氏。2017年から地域の米農家を支援する「どぶろくの丘プロジェクト」も始動。

住所:〒028-0521 岩手遠野市材木町2-17 MAP
電話:0198-62-7557
http://tonoya-yo.com/

住所:〒028-0521 岩手遠野市材木町2-17 MAP
電話:0198-62-4395
http://www.minshuku-tono.com

Text:YUICHI KURAMOCHI