フランチャコルタ×ファロ ポップアップバー革新のイタリアワインと料理の邂逅イベントが銀座の名店で開催。
イタリアの文化やモードの発信地・ミラノから車で約1時間の距離にあるワイン産地の名、かつ同地において瓶内二次発酵製法で醸造するスパークリングワインの名称でもあるフランチャコルタ。イタリアワインの格付けの最高峰、統制保証原産地呼称(D.O.C.G)に認定された歴史は数多いイタリアワインの銘醸地と比べれば最近であり、その歴史は50年あまり。しかし現在、世界のワイン消費が鈍化する中で快進撃を続け、マーケットを広げている活気あるワインとして注目されています。一方、郷土料理、伝統料理というイメージの強いイタリア料理の枠を飛び出し、銀座からこれからの時代に求められる料理を、イタリア料理で培った知識と技術を土台に切り開こうと新たなガストロノミー料理を志向するリストランテが、イノベーティブイタリアン『ファロ』。イタリアの伝統をベースにしながら革新を目指すことで共通する両者が、2020年11月19日よりポップアップバーでタッグを組み、フリーフローや期間限定の特別コースメニューに挑みます。(期間:2020年11月19日(木)〜12月18日(金))。
このまたとない機会を楽しんでいただくべく、ONESTORYでは企画の注目のしどころをレポートさせていただきます。
フランチャコルタ×ファロ ポップアップバー攻めすぎない泡とヴィーガン料理の可能性。
そもそもフランチャコルタとはどんなワインなのか、もう少し詳細に説明させていただきます。イタリアを代表する瓶内二次発酵スパークリングワインという枕詞で紹介されることの多いこのワインは、冷涼なアルプスから吹き下ろす冷たい風と温暖なイゼオ湖、北風と太陽に切磋琢磨されて健全に育つブドウ、氷河が削って運んだミネラル豊富な土壌に保水力の高い粘土質土壌、また、モンテオルファノという主要産地に陣取る山の麓には水はけの良い土地が広がり、小さいながらもモザイクのように豊かな微気候に恵まれています。よく比較されるところのシャンパーニュからすると生産規模は約1/20と非常に小さいのですが、近年イタリア国内消費も国外への輸出量も年々増加。
日本で人気となった理由は様々考えられますが、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵製法でありながら、泡のアタックが非常にソフトで自然な果実味があること、酸が強すぎずスムースな喉越しであるのは大きな特長で、広く日本人の好みにフィットしたと思われます。そもそもシャンパーニュは日照量が少ない冷涼な地域で、完熟しないブドウ果汁に糖を補って発酵を促し、酸化熟成などで風味を強めてその特色を確立。きめ細かく強いアタックの泡、強い酸、ドライ感が格式に繋がってきたのです。対して太陽に恵まれ、ブドウが自然に完熟する環境下のフランチャコルタは、丁寧な造りながらも緊張感を強いない、いい意味での隙があり、その緩やかさが今の時代の自然な風合いや軽さを求める料理に合っているのではないでしょうか。
こうしたフランチャコルタの特長を考えれば、『ファロ』のエグゼクティブシェフ、能田耕太郎さんが、自身が考案するヴィーガンメニューにフランチャコルタを合わせてみたいと考えたのは自然な流れなのかもしれません。能田さんは目下、日本でヴィーガンガストロノミー料理という分野のパイオニアとなることを自らに課してもいるのです。ファロのヴィーガン料理は、基本コースで提供されます。動物性食材を使用しない穏やかながら起伏あるコースにドリンクの構成はとても重要になります。期待したいのは、ワインと料理が互いを挑発することなく、しなやかな押し引きの中でバランスをとる関係性。今回は、19日にスタートするポップアップバーの企画と並行して提供されるヴィーガンコース料理(要予約制)を、いち早くフランチャコルタとのペアリングで体験させていただきました。
フランチャコルタ×ファロ ポップアップバー多様な泡とヴィーガンのコース料理のマリアージュ。
今回のペアリングイベントのナビゲーターは、ワインジャーナリストの宮嶋勲さん。宮嶋さん自身もまた、クリエイティビティの高いヴィーガン料理コースを日本で体感するのは初めてということで、その反応もまた楽しみのひとつです。
ここからは今回の料理と合わせるフランチャコルタの一部をご紹介。
まずは、八寸×Brut Quadra “Green Vegan”。
八寸の皿はバジルのカゼッタ、切干し大根のタルト、ナスお米のチップス、菊芋のミルフィーユで構成。
日本料理の八寸からイメージしたアンティパストミスト(前菜の盛り合わせ)に、グリーン色のエチケット“Green Vegan”が、この日の食事の始まりを象徴的に物語ります。切干し大根や菊芋、日本の里山の冬を彷彿とさせる野菜が小さなポーションにぎゅっと詰まった八寸風前菜に、野菜のトーンのあるフランチャコルタが心地よく染み入るのです。
続いては、能田さんの名がイタリアの国内外で広く知られるきっかけとなったじゃがいものスパゲッティをヴィーガンバージョンで。通常は魚醤にアンチョビバターでコクを出すが、今回はセロリ醤油、甘みとコクにココナッツクリームを使用。歯ごたえを残してさっと炒めたじゃがいもは、エスニックな芳香を纏うとまた違う料理のような表情を見せます。合わせたフランチャコルタは補糖なしでドサッジョ・ゼロと表示されるタイプ。(同様に補糖しないフランチャコルタをNATUREと表示する場合も多い)
通常シャンパーニュなどでは、二次発酵時に酵母の餌となる糖を足して泡を醸成します。しかしフランチャコルタの場合、一次発酵を終えてなお完熟したブドウに糖が残っているため、そのまま糖をたすことなく瓶内で二次発酵が進むのです。ですから、近年このドサッジョ・ゼロは糖質のない健康的ワインとしても注目されているのです。キリッとしたドライなフランチャコルタが、味の複層的なじゃがいもパスタの輪郭をはっきりさせてくれます。
メインは肉厚な椎茸のファルス。椎茸の傘の中には干しゼンマイ、発酵ビーツ、ポルチーニ茸が詰められており、野菜由来の豊かな旨みに、熟成したフランチャコルタの厚み、伸びやかな酸が重なります。カ・デル・ボスコを代表するアンナマリア・クレメンティは、おそらくはシャンパーニュ好きも好むであろう、凛として重厚感のある、フランチャコルタにしては少々緊張感を強いるワイン。ミレジマートは、良年のみに造られて製造年度を記します。動物性の刺激のないところに、アンナマリア・クレメンティの良質でタフな泡が少し力強さを足す。メインで満足感をどう出すかがヴィーガンコースの難しさであり面白味と思いますが、そこにフランチャコルタの力を借りるというわけです。
また、デザートの面白さも特筆。
ファロをファロたらしめていのは料理だけではないのです。その一人が、菓子職人の加藤峰子さん。彼女が世界のベストレストラントップ50で何度も世界一位になり、殿堂入りを果たしたイタリア唯一のレストラン『オステリア・フランチェスカーナ』で菓子担当だったのはあまりに有名。素材の組み合わせに素晴らしいセンスを発揮する彼女の今回の提案は、紫蘇とアーモンドミルクのソルベ。チャーミングなフェルゲッティーナのロゼと一緒に味わえば、赤のニュアンスが増幅します。赤紫蘇は季節に収穫したものをシロップ(甜菜糖とメープル)に浸けて、横田農園のバラの香りとバジル、ラズベリーの香りが重ねられ、なんとも優雅な香り。さらに今回特別に事前注文できるアラカルトで、彼女のシグニチャーである花のタルトが登場しました。何度食べても毎回感動する花のタルトは、40数種もの花とハーブを一つ一つ、刺繍のように緻密に配した珠玉のタルト。農園の収穫次第で、少しずつ内容は変わり、お品書きに淡々と書き連ねられた花とハーブの名前は、読むだけでポエジーなのです。
フランチャコルタ×ファロ ポップアップバー感性を研ぎ澄ます料理とスパークリングの組み合わせ。
食事が終盤を迎えた頃、宮嶋さんがポソリ。「ヴィーガンのこれだけ洗練されたコース料理は初めていただきましたけれど、今日は赤ワインを飲もうという気には一切ならなかった。感性が研ぎ澄まされるような料理だったので、こういう料理には泡があうと思いました」
スパークリングワインは、開放的にもなるし、逆に内省的にもなるのかもしれません。繊細な味わいに自然と意識が集中するヴィーガン料理と一緒に味わえば、フランチャコルタの泡のサワサワとした川のせせらぎのようなかすかな刺激が1/fの揺らぎのごとく、食事しながらも私たちの心の奥深くをノックしてくるようなのです。
11 月19 日からスタートする『FF Pop-up Bar』では、記事で紹介した中の4種類のフランチャコルタ(なんと、カ・デル・ボスコのアンナマリア・クレメンティを含む)とフィンガーフードをフリーフローで楽しめるとともに、同時展開する4皿構成のショートのヴィーガンコース(ガストロノミーショートコースもあり)も、フリーフローのコースで楽しめます。今回紹介したメニューはあくまで一例で、ファロならではの日本各地の生産者ネットワークから届く素材で、まだまだ引き出しのあるヴィーガン料理が展開されるというから、一度コースで体験してみたい人にとっても、フランチャコルタのバリエーションを体感したい方にとっても良い機会になること請け合いです。
1999年に渡伊。2007年までイタリアの名店で修業を積み、その後、現地でシェフとして活躍。2013年、「ノーマ」(コペンハーゲン)など最高峰の北欧料理店での研修を経て再びイタリアへ。自身が共同経営するローマの「bistrot64」では、ネオビストロのスタイルで人気を支える。2016年11月『ミシュランガイド・イタリア 2017』 にて二度目の一ツ星を獲得。イタリア料理のシェフとして二度の評価を得るに至った初の日本人となる。2017年には「テイスト・ザ・ワールド(アブダビ)」の最終コンペティションにローマ代表として出場し優勝。「ファロ」では、風情や旬を大切にする日本文化の中、イタリアで培ってきたことを東京・銀座で発揮し、自身の感性とチーム力で“お客さまが楽しむレストラン”を創り上げていく。
デザイン、美術、現代アートやモノづくりに興味を持ち、食の分野からパン・お菓子の道を選び進む。約10年間、「イル ルオゴ ディ アイモ エ ナディア」「イル・マルケジーノ」「マンダリンオリエンタルミラノ」(ミラノ)、「オステリア・フランチェスカーナ」(モデナ)など、イタリアの名立たるミシュラン星獲得店にてペイストリーシェフを勤める。「エノテカ・ピンキオーリ」(フィレンツェ)のチョコレート部門を経験。「ファロ」では、"旅するように特別な体験として脳裏に残るようなレストラン”を目指し、日本の自然や和のハーブをリスペクトしたデザートを提案。自家製酵母など原材料からこだわり、メニュー開発に取り組む。
住所:〒104-0061 東京都中央区銀座8丁目8−3 東京銀座資生堂ビル10階 MAP
電話:03-3572-3911
https://faro.shiseido.co.jp/
期間:2020年11月19日(木)〜12月19日(土)
場所:FARO (東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル10F)
電話:0120-862-150(03-3572-3911)※予約受付時間 11:00〜22:00(営業日のみ)
時間:フリーフローはディナータイムのみの展開
ディナー 18:00〜20:30(L.O)
定休日:日曜日、月曜日、祝日、年末年始
同期間で提供する特別ショートコース:
ヴィーガンショートコース 前菜、パスタ、メイン、デザート(税込6,000円 サービス料別途)※メニュー内容は、季節や仕入れ状況により変動する可能性があります。
ガストロノミーショートコース(税込7,000円 サービス料別途)※ご希望のアラカルトメニューは、必ず事前予約をお願いいたします。
Photographs:MASAKATSU IKEDA
Text:KAORI SHIBATA