『ONESTORY』として、ひとりの人間として。この一年をどう生きたのか。
振り返ること2018年、毎年恒例に行われている京都『清水寺』が発表する漢字は「災」でした。しかし、その2年後に更なる「災」が訪れることを誰も知る由もありませんでした。
2020年2月。最悪の事態が始まってしまいます。以降、テレビやインターネットなどで「新型コロナウイルス」という言語を目にしなかった日は今日に至るまで1日もありません。
正直、最初は対岸の火事のような感覚でした。しかし、急速に自体は変化していきます。あっという間に自粛から緊急事態宣言。日常は奪われてしまいました。
『ONESTORY』に関して言えば、取材はおろか、地域を行き来することすらできなくなり、予定していた『DINING OUT』も全て白紙。2020年は一度も開催することができませんでした。
一方、これまで出会ってきたレストランやホテルなどは崩壊寸前まで追い込まれ、経営難になるところも少なくありません。前代未聞の難局ゆえ、国や政府の保証もすぐには可決されず、待ったなしで訪れるのは月末の支払いという現実。
それぞれの立場や環境も異なるゆえ、抱えている問題は多種多様。国民全てに満足のいく対応をするのは困難を極めます。
自分たちには何ができるのか、何もできないのか。無力さを感じた時もありました。
そんな時、あるシェフの活動を目にすることになります。
大阪のレストラン『HAJIME』の米田 肇シェフによる飲食店倒産防止対策の署名活動です。
忘れもしない2020年4月5日。一本の連絡からやるべきことが見えた。
前述、『HAJIME』の米田 肇シェフによる飲食店倒産防止対策の署名活動は、3月29日から始まりました。その後、4月5日に米田シェフから今回の詳細を伺い、翌日、4月6日に霞ヶ関への訪問後、付近で緊急取材を行いました。記事の公開は同日というスピード感。最速での配信となりましたが、その理由は、国の補正予算案が発表される前にこの活動を世に伝えなければいけないと思ったからです。
そして、この件をきっかけに『ONESTORY』としてやるべきことが見えたのです。
潰したくないお店がある。
なくなってほしくない場所がある。
応援したい人がいる。
何ができるかわかりませんでしたが、今、自分たちにできる「日本に眠る愉しみをもっと」伝えていかなければならない、届けなければならない。
それが、「#onenippon」という企画でした。
ゴールはありませんでしたが、それでも前へ進むことが大切だと思ったのです。
以降、医療従事者に食事提供する「Smile Food Project」やパリの『MAISON』渥美創太シェフ、ミラノの『Ristorante TOKUYOSHI』徳良洋二シェフ、伝統工芸に表現手法を置く芸術家・館鼻則孝氏など、様々な方々に取材。国やジャンルなど、垣根を超えた現実を記事化していきました。
そんな時に感じたことは、テクノロジーの利点です。
米田シェフや「Smile Food Project」の活動は、インターネットやSNSがきっかけでした。米田シェフは海外のシェフが署名活動を行った前例をインターネットで目にし、「Smile Food Project」は、『シンシア』の石井真介シェフのSNSコメントに『サイタブリア』の石田 聡氏が反応したことから始まりました。また、離れていてもパリやミラノを取材できるコミュニケーションが取れることも、そういった発展によるものと言って良いでしょう。拡散によって輪は広がり、誰かとつながることで安心を得られた人も多かったと思います。
今伝えたい、この瞬間に発信しないと意味がない、そんな情報が多かった2020年は、webの機能が最も有効活用された年にもなりました。雑誌などのように発行日が決まっているものや定期刊行物ではそうはいきません。毎日が生き物のように目まぐるしく循環した『ONESTORY』は、初めての体験でした。
しかし、個人が自由に発信できる場は、イイネなどの数字に左右されることもしばしば。更には、疑似体験を実体験と見紛う傾向も発生し、見たつもり、行ったつもり、食べたつもりなど、「つもり」現象という仮想空間も形成してしまったのではないでしょうか。本質を見失うだけでなく、人を傷つけてしまうこともあるため、誤った使い方をしない道徳心が問われていると思います。
2020年は、新型コロナウイルスによって、全てがリセットされたと言っても過言ではありません。
我々、ひとり一人は、これからどう生きていくべきなのか。
働き方改革ならぬ、生き方企画こそ、人類にとって必要なのではないでしょうか。
そこで新たな企画を始動します。
「生きるを再び考える/RETHINK OF LIFE」です。
人は特別な生き物ではない。我々は、今、どう生きるべきなのか。
「生きるを再び考える/RETHINK OF LIFE」の立ち上げは、「#onenippon」を製作中に見た海外のあるニュースがきっかけでした。それは、ネパールの首都・カトマンズから近代史上初めてエベレストが目視可能になったという内容でした。大気汚染が深刻な地域に起こったそれは、人の活動停止によって明らかに空気が澄んだ証拠です。
そこで、世界的にもっと環境改善された例はないか調べてみたのです。
すると、ほかにも様々な記述があり、 水の都として知られるイタリアの世界遺産・ベネチアでは濁った運河が透き通り、タイやアメリカなどではウミガメの繁殖が増えている報告もされたそうです。プーケットではウミガメの巣は10カ所以上も確認され、過去20年で見ても最多の数だとありました。フロリダの保護団体は、人工照明の減少によって生まれたばかりのウミガメの子が方向を見失うことが少なくなったと伝えています。観光客で賑わうハワイのワイキキでも海の透明度が増したと言われ、固有種の絶滅危惧種に指定されているハワイアンモンクシール(アザラシ)の数が例年より増加しているとニュースも報じられていました。
これらはあくまで一例に過ぎませんが、不謹慎を承知で言えば、新型コロナウイルスが人類にもたらした唯一の美点なのではないでしょうか。
奪われてしまった日常や当たり前などから生まれた時の停止は、様々な変化をもたらしました。
しかし、自然に関しては、人類との関係を遮断することによって野生がみなぎり、本来の姿を取り戻すきっかけになったかもしれません。
昨今、「サスティナブル」という言葉を耳にする機会も増えましたが、源は地球環境にあります。
その保全や配慮がない限り、我々の未来はないでしょう。
「生きるを再び考える」ことは、容易いことではありません。
その答えは、もしかしたら生涯見つからないかもしれません。
しかし、考え続けることに意味があるのだと思います。
もし日常が戻った時、自分はどんな旅をするのか。その答えは「再会」だった。
4月以降、上記のような企画を推進してきましたが、やはり気になるのは「旅」について。
早く取材を再開したいと思う気持ちはもちろん、それよりも、これまで出会ってきた方々の顔が一番に浮かびました。
もし日常が戻った時、自分はどんな旅をするのか。
いや、もっと言えば、例えワクチンが供給されたとしても、日常は戻ってこないかもしれない。これまでの常識は非常識になるかもしれない。当たり前とは何だろう? 旅の概念も変わってしまうのではないか?
様々な思いが錯乱するも、その答えだけは明確でした。「再会の旅」です。
今回の難局は、世界的に見ても人と人が触れ合う環境を遮断され、引きこもりや孤立した生活を余儀なくされました。
そんな時に芽生えるのは、誰かを思う心。
見る、食べるよりも出会うことを目的にした旅は、より一層、絆を深めるでしょう。
ご無沙汰しています! お元気でしたか? またお会いできて嬉しいです! そんな何気ない会話は特別になり、握手やハグ、肩組みなどのコミュニケーションは、心の底から込み上げてくる何かを感じるに違いありません。
そんな旅は、人生において忘れがたい時間になるはずです。
大切なことは、どこへ行くかではなく、誰に会いに行くか。
「HOPE TO MEET AGAIN/旅の再開は、再会の旅へ」の企画は、新型コロナウイルスが終息するまで、コツコツと続けてきたいと思います。
ぜひ、皆様もこれまでの旅を振り返ってみてください。
遠い場所で頑張っている誰かを思い出してしてみてください。
そして、次の旅は、その方のもとへ足を運んでみてください。
旅の再開は、再会の旅へ。
さらに地域と向き合う覚悟。『ONESTORY』のこれから。
周知の通り、2020年は激変の年になってしまいました。これは、もしかしたら生涯を通して、最初で最後の苦行かもしれません。
なぜなら、全世界が同時に対峙する難局は、極めて稀有だと思うからです。
この時代をどう生き抜いたかは、各々が歩むこの先の人生を大きく左右するのではないでしょうか。
『ONESTORY』として、ひとりの人間として、未来の時間軸から今を振り返った時、恥ずかしくない生き方をできているのか? 後悔のない生き方をできているのか? 自問自答を繰り返してきました。
そんな『ONESTORY』の2020年は、「挑戦」の年となりました。
その理由は、これまでになかった新プロジェクトにあります。
メディアだけでない『ONESTORY』のカタチ。『DINING OUT』だけでない『ONESTORY』のカタチ。
弊社代表・大類知樹を中心に立ち上げた「FOOD CURATION ACADEMY」です。
メディアや『DINING OUT』を通じて我々が思うことは、食の定義への変化です。
おいしいはもちろん、シェフや料理人への共感、地域への敬意、土地が育む風土などが食を選ぶ理由となり、それらを体感できる場は、より社会的な存在になってきたと考えます。
これは、星やランキングでは評価しきれない領域です。
世界は日本の「進化」を追いかけられたとしても、「深化」までは追いかけられないでしょう。
我々が大切にしていることは、後者です。
そのほか、まだここでは発表できないプロジェクトを水面下で進めています。それもまた、イベントでもメディアでもないカタチです。
『ONESTORY』は、既成概念にとらわれることなく、時代と目的に合った表現をより強固にしていきます。カタチのないカタチ、その活動体が『ONESTORY』です。
2021年には、それを可視化できると思いますので、ぜひお楽しみいただければ幸いです。
そして、2020年も多くの読者様、地域の方々にお世話になりました。この場を借りて、深く御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
どんなに時代が変わろうとも、『ONESTORY』は、まだ見ぬ日本の感動を探し続けます。
それでは、日本のどこかでお会いしましょう。
『ONESTORY』統括編集長・倉持裕一