旅の再開は、再会の旅へ。今も昔も同じ。派手なことをやるつもりはない。長野に根ざしたお店作りを地道に続ける。
2019年6月、軽井沢の別荘地にある1軒の瀟洒(しょうしゃ)な建物に『LA CASA DI Tetsuo Ota』はオープンしました。
その主人は、太田哲雄氏です。
ご存知の方も多いと思いますが、太田氏と言えば「アマゾンカカオ」。アマゾン産のカカオの中でも厳選した高品質なそれを世に送り出し、日本のレストランシーンに多大な影響を及ぼしています。
ゆえに、ここはレストランでもあり、カカオラボでもあります。
「軽井沢の店ですが、軽井沢だけにフォーカスしたくはありません。僕は白馬に生まれ、自然に囲まれて育ちました。長野県人として、長野全体のために何ができるかを考えたい」と言う通り、その食材は多彩。白馬の川魚も信州牛や北信州のそば粉、あるいはイタリアのハムやチーズ、ペルーのカカオもしかり、自身が知りうるあらゆる手段を使い、太田哲雄というシェフの半生を料理に表現していきます。
地元と地元以外。その両輪のバランスが、やがて太田氏が「地産地消の一歩先」と語る地域創生を実現するのかもしれません。
開店後、早々に予約困難の人気店に。この「家」を訪ねるためだけに旅をする人も少なくありません。2020年に世界に難局をもたらしたコロナ禍においても「集客に大きな影響はありませんでした」と話します。
「緊急事態宣言が出てしまった時には約1ヶ月お店を閉めましたが、以降は日数を減らして夜営業をできるだけ昼営業にしていました。その分、お菓子(TETSUキャラメルポップコーン)の製造に力を注いでいました。卸販売が基本ですが、個人受付も始めました」。
しかし、全てが『LA CASA DI Tetsuo Ota』のような状況ではありません。代表的な観光地・軽井沢はどのように変化したのでしょうか。
「軽井沢は誰もが知る観光地ですが、元々の地の方々は閉鎖的です。観光業を生業とされている方とそうではない方の県外からのお客様に対しての向き合い方が違います。観光業の売り揚げは全てに差が出過ぎてしまっています。流行っている場所やお店は何も特に変わらず、反対に昨年よりも売り上げを伸ばしています。一方、集客に困っていたところは状況が更に酷くなっています。地域に密着しながら、軽井沢だけではなく、長野県全体的な関わりを考えながら共に歩んで行くことが大切だと思います」。
今、地域に必要なこと何か。それは、「循環の仕組み」だと太田氏は言います。
「地産地消は当たり前だと思います。自給自足率を少しでも上げ、地域にお金を循環させる仕組みを作ってもらえると嬉しいです。そして、一番の願いは、日本の資源を守る対策。中でも水源は切に思います」。
水は人の命に必要不可欠な源であることはもちろん、他種の生命体や植物を始めとした自然においても大切な源であり、地球の資源。
また、太田氏が実行する循環の仕組みは、食に限った話ではありません。お菓子の製造ラインには地元の高校生や高齢者も積極的に採用し、雇用の循環も積極的に行っています。
「派手なことをやる必要はありません。地道に長野県に根ざすお店作りを目指しています」。
地道――。未だ世界中に暗雲は立ち込めていますが、歩むべき正しい道は、それぞれが根ざした「地」と真摯に向き合い、生きる「道」なのかもしれません。
「世界という広義に見れば、ヨーロッパや中南米の現状は日本よりも逼迫していると思います。ほかの国が困っている時ほど助け合う精神が必要だと思います。今なお、不安な日々が続いていますが、自分は自分にできることをやるだけ。『LA CASA DI Tetsuo Ota』へ訪れてくださるお客様がほんの束の間、安らいだ気持ちになってくれる場所でありたいと思います」。
住所:長野県北佐久郡軽井沢町大字発地342-100 MAP
電話:0267-41-0059
Text:YUICHI KURAMOCHI