壱岐ジンプロジェクト壱岐を知ることから始まったジン造り。
コロナ禍に長崎県の離島・壱岐で始まったクラフトジン造り。
それは島の美しさを若い人にもどうにか届けたいと願う若きホテルマンの情熱と、壱岐を代表する焼酎蔵の強いこだわりがタッグを組むことで動き出しました。まだまだ試行錯誤の連続ですが、『ONESTORY』では2021年3月の完成を目処に調整を重ねるジン造りに密着。ジンという新たな酒で、小さな島に巻き起こる奇跡を目撃しに、寒風吹きすさぶ冬の壱岐をキーマンふたりと回ったのです。
(キーマンふたり、『壱岐リトリート 海里村上』でホテルマンとして働く貴島健太郎氏と『壱岐の蔵酒造』代表・石橋福太郎氏の詳しい紹介はこちらにて。)
ずばりテーマは壱岐らしさを表現すること。
壱岐を発祥とする麦焼酎に壱岐で採れる野菜や植物などを漬け込み、それらを再蒸溜します。ベースに使う麦焼酎の仕込み水も壱岐の地下水。更には焼酎の素となる麦や米も壱岐産ということで、まじりっ気なしの壱岐のジンを目指すといいます。それは壱岐の素材にこだわり続けた『壱岐の蔵酒造』だからこそ、なし得た酒。焼酎造りの根幹でもある、メイド・イン・壱岐をジン造りに惜しげもなく使うと『壱岐の蔵酒造』代表の石橋福太郎氏は明言しています。
ただし、素材をただ壱岐産にすればいいというわけではありません。ジンを構成する大切な要素の香りと味も壱岐らしさが出るものにしたい。そうしてふたりがまず訪れたのが『壱岐ゆず生産組合』でした。
「壱岐はね、ゆずの一大産地なんです。柚子胡椒などがとても有名で、冬の時期にはたわわに実るゆずが島のあちこちで見られるんです。ウチでもゆずリキュールがとても人気で、その知識をジンにも活かしたいと思います」とは、壱岐の蔵酒造代表の石橋福太郎氏。
「ゆずって柑橘の中でも独特の和の香りがあると思いませんか? 日本らしさというか、他の柑橘にはない爽やかさ、それを壱岐のジンの主要な香味のひとつにできたら素敵ですよね」と壱岐リトリート海里村上の貴島健太郎氏。
ジン造りのキーマンふたりは、すでにゆずの使用は決めている様子。そして『壱岐ゆず生産組合』の加工場を訪れるとすぐに嬉しい悲鳴を上げたのです。
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壱岐ジンプロジェクト廃棄物の数々こそが壱岐を表現する重要アイテムに。
「えー、これ全部廃棄に回っちゃうの? それは勿体なさすぎる! 全部欲しい!」。声の主は石橋氏でした。出くわしたのは、ゆずの皮むきの工程。専用の皮むき機を使い数秒でゆずひとつが丸っと剥かれていくのですが、なんと皮以外の中身は捨てられてしまうというのです。とても勿体ない話ですが、ゆずの生産量に作業量が追いついていないのと、皮の価値ほど中身に需要がないのがその理由だと、『壱岐ゆず生産組合』の長嶋邦明氏は教えてくれます。
「これ、そのまま漬けたらすごい贅沢ですね。この部屋に充満するゆずの香りがそのままジンに引き継がれるわけですから」と貴島氏も興奮気味です。
更には少し黒ずんだもの、果汁を搾った後の搾りカスなども見て回り、それら全てが現状では廃棄に回ることを知り、それぞれを漬けてみたいとふたりの声は熱を帯びたのです。
長嶋氏もまた、持て余していた壱岐のゆずが生まれ変わるならば好きなだけ持っていってくださいと、笑って言ってくれました。
壱岐を代表する柑橘のゆず。その新たな使い道に手応えを感じたふたりは、その足で『JA壱岐市柑橘部会』会長の馬場勝利氏のもとも訪れます。
「2020年は台風の影響などで2~3割しか出荷できないかもしれない……」。話は「麗紅(れいこう)」というみかんに関してです。「清見」と「アンコール」の交配で生まれた系統に「マーコット」を交配した品種で、同じ交配により生まれた別の品種に人気の「せとか」があるなど、その味は折り紙付きで、近年めきめきと人気を上げる品種がなんと大ダメージを受けているというのです。
「木にはこんなにたわわに実っているのに、出荷できないなんて」と驚く貴島氏。
「ちょっとしたことなんだけど、色が悪かったり、傷ついていたり、成長が遅かったりで大部分が基準以下なんですよ。くやしいけど仕方ない」と馬場氏。
そんな中、貴島氏は許可を得て、出荷できない麗紅をもぎ、その場で齧(かじ)ってみました。
「苦いし、酸っぱい! でもすごい強い香りです(笑)」と貴島氏。
「そりゃそうだよ、まだ完熟前なんだから」と馬場氏が笑います。その笑顔につられるように、冬の圃場に温かい空気が満ちていくのです。
「これも絶対に試してみよう。他にも壱岐にはたくさんの柑橘があるから、チェックしないとだな」と石橋氏。事情を説明した『JA壱岐市柑橘部会』の馬場氏も大いに頷き、出荷できない麗紅の漬け込みはもちろん、壱岐の柑橘もテストさせて頂くことに。
これらと同じように廃棄される果実や野菜はまだまだあると、その日生産者巡りをアテンドでしてくれたJA壱岐市の松嶋 新氏は教えてくれました。
アスパラガス農家の西村善明氏の元では、出荷時には大きさを揃えるために一番美味しい根元の部分は切ってしまうと聞かされ、更にその量が壱岐だけでも年間3トンに及ぶと聞き、驚愕させられます。
イチゴ農家の松村春幸氏のハウスでは、ちょっとした傷があるだけで、傷みの早いイチゴはスーパーマーケットに並ぶ際にはその傷が傷みになってしまうので、出荷できないと教えてもらいました。
「全部美味しく味わえるのに、世に出せないものがこんなにあるんですね」と貴島氏。
「だからこそ、そういう廃棄される野菜や果物でもジンにすれば無駄なく使える」と石橋氏。
廃棄される野菜や果物を少しでもお金に換え、島の農家をサポートできるジン造りは、今、世界中で叫ばれるSDGsの活動そのもの。持続可能な島の農業の一助となるかもしれません。
壱岐ジンプロジェクト最後は心意気まで酒に詰める。それが壱岐のジンの形に。
「壱岐らしさってなんですかね? もちろん柑橘やイチゴは絶対に美味しいのですが、それらだけで壱岐のジンって言えますかね?」と話す貴島氏。ホテルマンの貴島氏は出来上がったジンをホテルの夕食時にペアリングで出せたらと夢見ます。その際に、更に「壱岐」を感じてもらえるような圧倒的な個性が欲しいと望むのです。
翌日訪れたのは、壱岐で幻のニホンミツバチではちみつを作る冨山一子さん。
「壱岐の季節の花々の蜜がウチのはちみつの素。味わえば、壱岐を感じてもらえると思いますよ」と冨山さん。
現在、ほぼひとりで作業を行う冨山さんのはちみつは、無農薬で育てられた花の蜜。それは味わうとすーっと身体に染み入るものでした。しかし生産量はごくわずかで、一般にはなかなか流通せず、高価です。
「実際に価格が高いので、とても材料として使えるはちみつではないんですが……」と前置きしつつ、冨山さんはこう続けます。「でもですね、今回、お世話になっている『壱岐リトリート 海里村上』さんと壱岐を代表する『壱岐の蔵酒造』さんが壱岐の名物をと動いているのを知り、何かお役に立てればと思っているんです」。
蜜を搾った後のハチの巣を提供してくれるというのです。ひとりでの作業が追いつかず、冷凍庫に眠るハチの巣は、実際には引く手あまただというのですが、ご自身で保存している分を壱岐の未来のために分けてくれるというのです。
「季節の壱岐の花を使ったはちみつ、すごいですね」と貴島氏は喜び、「これはすごい後押しです」と石橋氏は恐縮します。
更に北インド産のスーパーフードとして注目されるモリンガを壱岐で作る松本マサ子さんの元を訪れ、試させてほしいと懇願。ふたりの熱意にほだされて松本さんも頷いてくれたのです。
我々『ONESTORY』も、こうしたふたりの動きが、確かに島の生産者さんに着実に伝播していく瞬間を目撃。新たなものを生み出す障壁を軽々と飛び越えるのは、人を動かす情熱なのだと教えてもらったのです。
他にも試してみたのは、ウニの殻、温泉の結晶など、壱岐で思い浮かぶもの色々。いよいよ次回は完成のタイミングに立ち会います。果たして味や香りはどうなるのでしょうか? 更にはラベルにボトル、ジンのネーミングまで? 壱岐らしさを追い続けたクラフトジンが、ついにお目見えです!
住所:長崎県壱岐市芦辺町湯岳本村触520 MAP
電話:0120-595-373
http://ikinokura.co.jp/
住所:長崎県壱岐市勝本町立石西触119-2 MAP
電話:0920−43−0770
https://www.kairi-iki.com/