美観地区の夜景

現在の美観地区の夜景です



こんな感じで和傘をライトアップしているイベントを行なっております(*´꒳`*)



昼間には見ることができない美観地区の顔でした(о´∀`о)

発展させる食文化、対峙すべき環境問題。鮨と日本酒を通して、おいしい以外を考える。

様々な視点から食に関する問題意識と向き合うペアリングを試みた『恵比寿 えんどう』店主の遠藤記史氏(左)と『新政』の福本芳鷹氏(右)。

恵比寿 えんどう × 新政酒造「個性溢れる」鮨と日本酒とのペアリング。その先にある世界とは何か。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、全国の飲食店や生産者が厳しい状況にある中、「この時期でもあえて」と鮨と日本酒のペアリングに挑戦した『恵比寿 えんどう』店主・遠藤記史氏。パートナーは、「古今に渡る清酒醸造法を詰め込み新たな味わいを目指し醸されている」と言われる『新政』。

「秋田の『新政酒造』を訪れた際、非常においしい酒で感銘を受けた一方、高級ワイン同様に一般的な鮨には合わせずらい酒質だと感じました。『新政』が発祥となる6号酵母を使ったり、生酛づくりや木桶仕込みなど伝統製法に基づいているので特徴的な酸味や甘みがあり、日本酒としての魅力ではあるけれど、現代の鮨に合うかといえば難しいとも感じました。それは代表の佐藤祐輔さんも同じ認識でした。私自身、酒に合う鮨は握りたくないし、佐藤さんも食事に合うことを優先とした酒造りはしていない。だからと言って“合わない”と結論づけてしまうとこの先には何も発展しないため、互いが目指すベクトルを理解しながら、ペアリングを探っていこうと始めた試みでした。実は、一年前にも同様のペアリングを試みたのですが、課題はあるものの、まだはっきりと見えている訳ではありません。鮨も日本酒も去年と今年とでは違いますし、ブラッシュアップされているので、模索する過程に新たな発見がある」と、遠藤氏。

しかし、それ以前にどうしても中止したくなかった理由がありました。

「今回のペアリングの意義は、味ではなく、様々な問題に向き合いたかった」。

「新たな味わいの日本酒を目指し醸されている」新政とのコラボレーションにあえて挑戦することにより、互いの発展を模索する。

恵比寿 えんどう × 新政酒造自然環境の維持に努めつつ、食文化の発展を模索する。

水産資源の減少に危機意識を高めるシェフ約30名が加盟する『シェフス・フォー・ザ・ブルー』の活動に参加するメンバーのひとりである遠藤氏。『新政』の酒造りに惚れ込むだけでなく、今年もあえてペアリングに挑戦したのには、食文化と自然環境への危機意識がありました。

「これまでの漁業は網や一本釣りなどアナログな方法が一般的でしたが、テクノロジーが発達した現代では獲ろうと思えばいくらでも魚は獲れてしまいます。日本の漁業は危機的な状況にあると言えます。科学技術の進歩と食文化の発展は、単純には比例しないものです。そこには倫理観が絶対に必要で、取り放題になっている漁業は今後、規制しなければならない時代に来ていると思います」と表情を引き締める遠藤氏。

魚の王様とも言われ、鮨の花形でもあるマグロの中でも、世界中で乱獲が進み絶滅危惧種に指定された太平洋クロマグロについて「ほかの魚を代用するのは正解ではない。イナゴが別の畑に行くようなもので、結局は次のマグロやウナギを生むだけ。現状に対しての解決策になっていません」と、遠藤氏。

フレンチやイタリアンと比べ、魚を主役としている鮨店でサステナブルな活動を続けることは難しい立場に立っていると言えます。

「水産資源と環境に配慮した漁業で獲られた天然の水産物であるMSC認証の基準に照らしたら、鮨に使える魚はほとんどありません。けれど魚を一番使う鮨屋だからこそ、自然環境の維持に努めながら食文化の発展を模索するべきだと思っています。新型コロナウイルスの影響を受け、飲食店はどこも厳しい状況にあります。そうした中、仮にマグロの漁獲量が増えたとしても、何もしないでいたら食文化史には空白の時間ができてしまう。自然も食文化も一度消えてしまったら、復活させるのは困難です。いつの日か新型コロナウイルスが終息し、過去を振り返った時、食文化を発展させたことを証明するためにも足跡(ペアリング)を残す意義があると思ったのです」と、語ります。

様々な産地へ訪れ、魚が育つ環境を肌で体感する遠藤氏。「ただおいしい魚を仕入れるだけではいけない。自然の変化に耳を傾け、自らの目で見て確認することが大切」と遠藤氏。そして「マグロの漁獲量にしても身質にしても新型コロナウイルス後の方が明らかに向上している。人の活動が停止したことによって海の環境は向上した」と、遠藤氏。

約15年ぶりの大雪に見舞われるなど、2021年はとりわけ寒さが厳しい秋田。Photograph:SHINGO AIBA

生酛造りに挑戦するなど、昔ながらの日本酒造りに回帰する一方、クリエイターとのコラボレーションにも意欲的な『新政酒造』。Photograph:SHINGO AIBA

すべて純米作りに転換し、酒米は全量「秋田県産米」、昭和初期に5代目蔵元・佐藤卯兵衛が自蔵で発見した現存する最古の市販清酒酵母「6号酵母」にこだわる。Photograph:SHINGO AIBA

創業1852年の『新政酒造』従来の常識を覆す革新的な酒造りのトップランナー。Photograph:SHINGO AIBA

恵比寿 えんどう × 新政酒造志へのオマージュを込めた、パッションのペアリング。

この日実現した鮨と『新政酒造』のペアリングは、スッポンからスタート。次々と料理が供された後、握りにもそれぞれの個性を捉えた『新政』が登場します。

遠藤氏の傍らで瓶を片手に差配を振るうのは、『新政酒造』の福本芳鷹氏。北海道札幌市の名店『鮨 一幸』にて腕を磨いた後、酒造りの道へ転向した異色の経歴を持つ人物です。ゆえに、鮨職人の想いを一番知る酒人と言っても過言ではありません。

鮨と日本酒、どちらも作り手の立場をよく理解する福本氏はフランスのあらゆるワイン産地で活躍するワイン仲介業者の「クルティエ」のように、提供者として酒蔵と飲み手との関係を繋ぎます。

例えば、柑橘類や三杯酢を合わせる蟹料理には、白麹仕込の純米酒「亜麻猫」を。白麹に含まれるクエン酸で甘酸っぱいニュアンスを柑橘類や三杯酢の酸味に置き換えるなど、福本氏の発想とアプローチは眼を見張るものばかり。温度帯の変化があるのも、日本酒ならではと言えます。

「飲食店で日本酒を扱うには更に掘り下げる必要性があると感じ、酒造りの現場でより本質を知るために『新政酒造』の門を叩きました。遠藤さんのように理解のある人と組めるのは、非常にありがたいです」と、福本氏。

「冒頭でもお話ししたように、『新政』は伝統や地域性を表現することを目的としているために、食事に合うことを優先とした酒造りはしていない。しかし秋田の風土にこだわり、それを大切にして酒造りをしているところにこそ惹かれました。日本酒も鮨も、自然を抜きにしては成り立ちません。味そのものの相性というよりも、志へのオマージュを込めたパッションのマリアージュができれば良いと思いますし、それが伝わって欲しい」と、遠藤氏は語ります。

スッポン×2018年収穫米より木桶仕込みがはじまった「涅槃龜(にるがめ)第7世代」、蟹×「見えざるピンクのユニコーン2016」。

左より、あん肝×EXILE橘ケンチ氏とコラボによる「陽乃鳥 橘(ひのとり たちばな)」、キュウリの塩麹漬け×「農民藝術概論2019」。

左より、ウナギ、カラスミ×「紫八咫2013(むらさきやた)」、金目鯛、メヒカリ×酒米の陸羽132号を使用した無肥料無農薬米仕込み純米酒「六號酵母生誕九十周年記念酒」。

和歌山県串本産の鰆×『新政』の中でもスタンダードな銘柄「生成 2019 -Ecru-」。

金目鯛の握り×秋田市鵜養地区産美郷錦100%使用の無肥料無農薬米仕込み純米酒「六號酵母生誕九十周年記念酒」。

「異端教祖株式会社2016」には、マグロ中トロと赤貝を合わせる。

くじら×脂がのったクジラに合わせて、オーク樽貯蔵したお酒で仕込んだ貴醸酒「陽乃鳥」。

マグロの赤身×「異端教祖株式会社2016」。

左より、イカ×「亜麻猫 改」、海老×飯米の陸羽132号を使用した無肥料無農薬米仕込み純米酒「六號酵母生誕九十周年記念酒」。

左より、ノドグロ×菩提酛で醸した「翠竜(すいりゅう)」、ホタテ×「生成 2019 -Ecru-」。

左より、締め鯖×「異端教祖株式会社2016」、穴子×「紫八咫2013(むらさきやた)」。

手巻きのトロたく×秋田市鵜養地区産美郷錦100%使用の無肥料無農薬米仕込み純米酒「六號酵母生誕九十周年記念酒」。

美味の締めくくりに供されるお椀。クリアな旨味と温かみで食後の余韻も長い。

恵比寿 えんどう × 新政酒造現代生活の向上と自然環境の維持、目指すは「両立」。

2020年より世界を難局に迎えた新型コロナウイルスをきっかけに、遠藤氏は「様々な分野での両立が大切」だと語ります。

ペアリングの締めくくりでもあるマグロについては、「自然環境の保護と食文化の発展」。新型コロナウイルスについては、「感染予防と飲食店の営業」。「それぞれを両立させなければいけない」と、遠藤氏は話します。

「地球温暖化が進み、台風の発生回数も年々増えていますが、このコロナ禍で人の移動や経済が止まったことにより、自然環境への負担が減り生態系にはプラスになった。マグロに関して言えば、新型コロナウイルス以降の方が漁獲量も身質も圧倒的に向上しています。とは言え、人間は文明がなかった石器時代には戻れません。現代生活の向上と自然環境の維持が選択肢としてどちらもある以上、両立を目指すべきだと考えます」と、遠藤氏。

音楽の仕事で渡ったニューヨークで日本酒に開眼し、帰国後、酒造りにも携わることになった福本氏は、日本酒業界をグローバルな視点で客観視します。

「日本酒に対しては、海外の方がより柔軟に楽しまれています。日本の食文化がグローバル化し、世界に広がる中、本物を追求するなら日本にわざわざ求めにくる。それほどの価値を構築しなければならないと思っています。『新政』に在籍して3シーズン目になりますが、秋田は約15年ぶりに寒波に見舞われるなど今年は特に寒い。温暖化の影響か自然環境の変化も実感しています。新型コロナウイルスの影響で社会は目まぐるしく変化していますが、酒造りはもともと人間の都合より微生物の都合が優先。翻弄されているのは常に人間の方です。遠藤さんが海の生態系や自然環境に問題意識を持つのと同様、例えば、お酒づくりの工程で副産物として大量に出る酒粕をエネルギーに転換できないか、蔵人たちも考えています。新型コロナウイルスによって日本酒や鮨、ひいては日本の食文化について考える機会を与えられたと思い、これからもシンクロしながらペアリングの意義を深めていきたいです」と語ります。

外食応援のプロモーションとして、あるいは集客や収益アップを目的としたイベントも数多く見受けられる中、食文化の発展や環境問題と向き合うことを目的にした『恵比寿 えんどう』×『新政』のペアリング。

ただおいしい、ただ食べるという行為を超えたその意義は、来年、再来年、更にはそれ以降もやり続けることによって解が見出されるのかもしれません。

住所:東京都渋谷区恵比寿南1-17-2 Rホール4F MAP
電話:03-6303-1152

住所:秋田県秋田市大町6-2-35 MAP
電話:018-823-6407
http://www.aramasa.jp


Photographs:JIRO OHTANI
Text:MAMIKO KUME