ライフルテーブル/アースキュイジーヌ「地球料理 -Earth Cuisine」第三弾のテーマはカカオ廃材。
食べることが地球のためになる。いままで目を向けられていなかった、社会問題や環境問題の要因となる素材にフォーカスし、「食べる」という新たな可能性を見出す。そして、持続可能な社会を叶える未来へ……。
そんな理念のもと2018年に動き出したのが、「地球料理 -Earth Cuisine- (アース・キュイジーヌ)」。 「あらゆるLIFEを、FULLに。」を掲げ、住生活情報サービスなどを運営する企業、株式会社LIFULLの飲食事業 「LIFULL Table」が手掛けるプロジェクトです。 2018年10月、その第一弾として「Eatree Plates」が始動し、2019年3月には間伐材を食材として使用したパウンドケーキ「Eatree Cake 〜木から生まれたケーキ〜」を発売。続く2019年9月には放置竹林をテーマにした「Bamboo Sweets -竹害から生まれた和菓子-」を発表すると、2020年2月には放置竹林の竹と笹を使用した「Bamboo Galette(バンブー ガレット) -竹害から生まれたガレット-」を世に送り出したのです。
そして、今回がその第3弾。間伐材、竹に続き、「地球料理 -Earth Cuisine-」が目を向けたのは“カカオ”でした。
ライフルテーブル/アースキュイジーヌ差し迫るチョコレート危機。カカオは絶滅の危機にある!
カカオといえば、誰もが知っているようにチョコレートの原材料になる植物です。では、なぜそのカカオに今回焦点が当てたのか。日本人において一番身近にあるスイーツのひとつといっても過言ではないカカオ。事実、日本におけるチョコレート市場はここ10年で35%成長したというデータもあります。しかし、その一方で、問題とされているのが、原料であるカカオ生産における社会問題。大量生産・大量消費にともなう価格低迷を背景に、カカオ農家の貧困問題や児童労働といった問題が浮き彫りになり、さらには需要増による生産地拡大が環境破壊を引き起こしているといいます。それだけではなく50年ほどで収穫力が低下するというカカオ樹の高齢化、昨今の気候変動によるカカオ樹が罹る病気の脅威もあったりと、深刻なカカオ不足が叫ばれ、このままでは2050年までにチョコレートづくりに使われているカカオ豆が絶滅する可能性すらあるといわれ、いずれチョコレートが食べられなくなってしまう恐れまであるというのです。
だからこそ、「地球料理 -Earth Cuisine-」はカカオに目を向けたのです。無論、使うのは一般的にチョコレート製造に用いられるカカオマスやココアバターといったものではありません。使うのはなんと「カカオの廃材」。これまで食材として見向きもされなかった、カカオ豆の殻であり、カカオ樹の葉であり、枝なのです。
名付けて「ECOLATE」。
“カカオの廃材”を食べることで、差し迫る“チョコレート危機”に対して、カカオが抱える問題について、今一度考えてもらおうというのです。
ライフルテーブル/アースキュイジーヌカカオ廃材を使ったスイーツづくりにふたりのパティシエが挑む!
今回、「ECOLATE」を開発するにあたって、その大事なファクターを担ったのが、インドネシアの農園により今回の廃材を仕入れ、東南アジア各国のカカオ豆および製菓材料の提供などを行うフーズカカオ株式会社。代表の福村 瑛氏はこう話します。
「話を聞いて、カカオの木を食べることで未来のカカオ生態系をつくれるこのプロジェクトの可能性にとてもワクワクしました。農家さんが木や葉っぱも食品として扱い、農薬を使わずに育ててくれるとカカオ豆自体の農薬問題解決の一助にもなります。これをきっかけに『カカオの木を食べる文化』が発展することを期待しています」。
そして、今回のプロジェクトで最も大切な2人が、カカオの廃材でスイーツを開発したパティシエの江藤英樹氏と、上妻正治氏でしょう。江藤氏は『DOMINIQUE BOUCHET TOKYO』『SUGALABO』といった名店でシェフパティシエを務めた後、現在は虎ノ門『unis』でシェフパティシエを『Social Kitchen』でプロデューサーを務める人物。一方で上妻氏は『Social Kitchen』ディレクターであり、「ジャパンケーキショー」にて3度の金賞を受賞した経歴の持ち主です。
とはいえ、消費者への問題提起、さらにはサステナブルな未来を築くための一助になるという使命があるにせよ、「ECOLATE」が食品である以上、大前提に“美味しい”ことが大切であることは言うまでもありません。カカオの廃材を活かし、江藤氏、上妻氏が考案した「ECOLATE」。いったいどんなスイーツに仕上がっているでしょうか。
ライフルテーブル/アースキュイジーヌまずは美味しいありき、江藤氏と上妻氏考案の「ECOLATE」。
まず、江藤氏が考案したのは、「ECOLATE CARRE」という3種のひと口チョコレート。茶色のキャレは、カカオ豆の殻を50%使用し、ビターな香ばしさを引き出したさっくりとした食感。江藤氏曰く「殻を細かくしすぎず、あえて粗めに残すことで、“廃材っぽさ”を感じてほしかった」といいます。キャメル色のキャレに使ったのはカカオの枝。20%の含有量で、独特の食感に“木の質感”を感じとることができます。そして、印象的だったのはモスグリーンのキャレ。こちらは、カカオ豆の殻、枝、葉を30%ほど混ぜたもの。実は、カカオの葉は伐採してそのまま地面に放っておくと、湿気がたまりカカオ樹の病害の原因にもなるそう。サクサクとしたなかにもしっとりした“やや湿度を感じる食感”には、そんなカカオ農園の姿までもイメージさせてくれました。しかも、これらのキャレには、廃材と糖分、油脂分しか使われていないというから驚きです。江藤氏も「現場には本当に殻、枝、葉そのものの状態で届くんです。それをいかにスイーツにするか。難題でしたが、『廃材でここまでできるんだ』ということを少しでも表現できれば」と話します。
次に上妻氏の「ECOLATE TABLETTE」。こちらはカカオ豆の殻の使用率を33%にまで高めながらも、チョコレートらしい滑らかな質感にこだわったと上妻氏はいいます。
「最大限のハスク(殻)の量を入れてどこに着地させるかが難しかったですね。「ECOLATE TABLETTE」には33%のハスクを使用しましたが、形状、テクスチャーは問題ありませんでした。しかし、問題は渋さだったんです」。
そこで上妻氏は、一般的な砂糖に比べ甘味の強い果糖やキビ糖などをブレンドして加え、その“渋さ”とのバランスを取ったそう。カカオとココナッツが織り成す豊かな風味、ほろ苦さと甘さのなかに、感じる絶妙な酸味のバランスに、チョコレート好きは目を白黒させることでしょう。
いずれにせよ、すごいのはカカオの廃材を使ったチョコレートながら、コンセプト重視にならず、食べてしっかりと美味しく、それでいてカカオの新たな一面をしっかりと食べ手に訴えかけてくる点。よもや廃材として捨てられていた素材が、このような素晴らしきチョコレートになろうとは思いもよらなかったのではないでしょうか。
「ECOLATE CARRE」と「ECOLATE TABLETTE」は、下記にて限定販売中。そして、ぜひ食べることで、カカオという食材の裏に隠れる社会問題に考えを巡らせてみてください。それがカカオの生産者が抱える問題を解決する一助となり、はたまた地球の未来をも守ることにもなるのですから。
住所:東京都千代田区麹町1-4-4 1F MAP
電話:03-6774-1700
LIFULL Table HP:https://table.lifull.com/
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辻調グループフランス校卒業。フランス・ラナプール「L’OASIS」カンヌ「villa des Lys」にて修行。「BEIGE Alain Ducasse TOKYO」にて経験を積み、「DOMINIQUE BOUCHET TOKYO」「SUGALABO」「THIERRY MARX」等、数々の名店でシェフパティシエを歴任し、2020年「unis」のシェフパティシエ「Social Kitchen」プロデューサーに就任。
東京都製菓専門学校卒業後、パティスリーキャロリーヌ、クリオロでチョコレート部門責任者を務め「Social Kitchen」ディレクターに就任。ジャパンケーキショーにて計3度の金賞受賞、World Chocolate Masters国内予選チョコレート部門1位、総合3位など受賞多数。
Photographs:JIRO OHTANI
Text:SHINJI YOSHIDA