日本最長の宿場町に眠った「杉の森酒造」再生物語。[SUGINOMORI REVIVAL/長野県塩尻市]

Suginomori Revival歴史ある『杉の森酒造』を再生すべく、『傳』長谷川在佑、『ラ・メゾン・グルマンディーズ』友森隆司、酒職人・松本日出彦が立ち上がる。

長野県塩尻市、この地には古き良きという言葉では表せない「日本」を知る場所があります。

「奈良井宿」です。

中山道にあるそこは、「木曽の大橋」のかかる「奈良井川」沿いを約1kmにわたって町並みを形成している日本最長の宿場。ここには、世界も驚愕する「日本」の時の営みが積み重ねられているのです。

江戸時代より続く中山道沿いにある「奈良井宿」は、かつて行き交う大勢の旅人で賑わっていたと言われます。その町並みは、「奈良井千軒」と謳われ、今なお、旅籠の幹灯や千本格子などがその面影を残しています。

ただ、ただ、歩いているだけで風格と誇りを感じるのは、そんな要素が凝縮されているせいかもしれません。

そして、場所だけでなく、風景が守られてきたことこそ、「奈良井宿」が他の宿場町と異なる特筆すべき点。それが現代においても成されているのは、歴史の数だけ受け継いできた人々の努力があってこそ。住民なくしては、これまでも、これからも、「奈良井宿」の歴史を語ることはできません。

偶然ではなく必然。意志ある人々によって歴代守られてきた風景が持つ価値は、昭和53年(1978年)に「重要伝統的建造物群保存地区」として国から選定されたことに裏付けされています。以降、平成元年(1989年)には国土交通大臣表彰の「手づくり郷土賞」、平成17年(2005年)には「手づくり郷土大賞」、平成19年(2007年)には「美しい日本の歴史的風土百選」、平成21年(2009年)には社団法人日本観光協会「花の観光地づくり大賞」なども受賞。

いつの時代においても、町づくりに懸ける想いが脈々と受け継がれているのです。

しかし、一方でそんな長い歴史の中で姿を消してしまったものもあります。

そのひとつが、古い軒先に一際大きな杉玉が飾られていた酒蔵『杉の森酒造』です。

創業は、寛政5年(1793年)。200年以上、町の風景に溶け込んだ酒蔵は、平成24年(2012年)に惜しまれながらも長い歴史に幕を下ろしました。

今回、『ONESTORY』は、そんな『杉の森酒造』を再生するプロジェクトに参画。

宿泊施設、温浴施設などを備える建物の中、我々は、蔵だった場所をレストランとバーに再生。復活させる酒蔵と共に地域の発展に取り組み、一度止まってしまった時を再び元に戻します。

料理のプロデュースには、日本を代表する料理人、『』の長谷川在佑氏を迎え、現場は塩尻の名店『ラ・メゾン・グルマンディーズ』の友森隆司氏が牽引します。更に、酒造りの監修を担うのは、松本日出彦氏。

名手を揃えるも、過度な演出をすることはありません。

「奈良井宿」だから味わえること、『杉の森酒造』だったから体感できることを大切にします。

それは、町との共生も意味します。

江戸時代を彷彿とさせる原風景に身を委ねれば、必ずや忘れかけていた日本の豊かさに気付かされるでしょう。

建築様式に目を凝らし、風景に想いを馳せる。連なる店に訪れ、ものに触れ、人に出会うことによって、この町の魅力を最大限に享受できるのです。

見るもの、感じるもの、その全てに歴史が感じられ、タイムスリップしたかのような錯覚に陥る地域一帯の体験時間こそがこの町の醍醐味。

一歩一歩、歩を進めることによって旅の奥行きは更に増していきます。

日本人こそ知るべき日本の風景の蓄積がここにはあります。
日本人こそ知るべき日本の時の流れがここにはあります。

果たして『杉の森酒造』は、どんな形で再生するのか。その全貌を追います。

※ご予約は、下記のHPにてご確認ください。
https://byaku.site

標高950mに位置する「奈良井宿」の桜は、ほかの地域と比べるとやや遅く、4月下旬から5月下旬が見頃。本数こそ少ないが、「奈良井川」沿いに咲く桜は、住民の癒やしでもある。

新緑が美しい夏の「奈良井宿」は、「鎮神社例大祭」 (例年8/12、宵祭り8/11)も開催。そのほか、木曽漆器祭・奈良井宿場祭」(例年6月第1金曜・土曜・日曜に開催。2021年は新型コロナウイルスにより、中止)も行われ、期間中には、宿場内にある漆器店、工芸品店にお値打ちの品が数多く並ぶ。

「奈良井宿」を囲む圧巻の紅葉は、例年、10月から11月が見頃。朱色、黄色に染まる風景は、樹齢300年以上の総檜造りの太鼓橋「木曽の大橋」などとも相性が良く、ノスタルジックな世界を形成する。

冬の「奈良井宿」は、雪化粧をまとい一面に銀世界を形成する。厳しい寒さを伴うが、その静寂は美しく、この時期だからこそ堪能できる美味もある。


Photographs:JIRO OHTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI