真のファーマーズ王国。付加価値でなく、美味しさを追求する生産者たち。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

ローカルファインフードフェア滋賀シーズン外れだからこそ発見できた食材の新たな魅力。

東京都内で活躍する料理人やパティシエが、滋賀県産の食材を使った料理をそれぞれの店で提供する期間限定のフードフェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。滋賀の食材を探求すべく、4人のシェフとバイヤーによる生産者巡りも2日目へ。一体、どんな食材との出会いが待っているのでしょうか。

2日目は、土砂降りのなか、ワイン原料のイメージが強いマスカットベリーAを「黒蜜葡萄」として生産する東近江市『aito budo labo』の訪問からスタート。
ここでは、漆崎厚史氏が深刻な後継者不足を抱えていたブドウ畑を受け継ぎ、8年前ほど前から黒蜜葡萄を栽培しています。
「シャインマスカットのように皮ごと食べられたりするわけでもなく、粒が大きいわけでもないですが、黒蜜葡萄は圧倒的な糖度とコクがあって、昔ながらのワイルドな味わいなんです」と漆崎氏がその特徴を説明。土壌もよく、昼夜の寒暖差のあるこの地域だからこそ、このようなブドウが育つのだと教えてくれます。
とはいえ、8年前に引き継いだブドウ畑の樹木は樹齢およそ50年。そこから糖度を上げて「黒蜜葡萄」として出荷するには、2~3つの房がなるひとつの枝に対してひと房に間引いていく必要があります。さらに、ひと房70~80粒くらいになるように摘果していかなければなりません。

シェフたちが訪れたのは7月上旬、まさにその摘果のシーズンでした。出荷は8月下旬とあって黒蜜葡萄はまだ色づいていない状況。しかし、そこにまた物語が生まれるのです。
「摘果したブドウは食べられるんですか?」
そう尋ねたシェフたちは、まだ淡い黄緑色をしたブドウを味見させてもらいます。すると、それがシェフたちを釘付けにするのでした。実はまだ固く、甘さは一切ありません。とりわけ酸味が主張するのですが、後藤氏はこの酸味を気に入ったよう。
「摘果したブドウにこんな酸味があると正直思いませんでした。お菓子を作っていても酸味がほしいと基本的にはレモン果汁を使います。すると、どうしてもレモンの風味ものってしまうけど、この摘果した黒蜜葡萄は、癖のないきれいな酸味。酸味の調味料としてアイデアの幅を広げてくれると思います。自分としては樹齢50年のブドウの樹木を引き継いでやっていること、そのブドウの樹木の雰囲気も好き。ここに来なければ分からなかった発見です」
これには漆崎氏もにっこり。
「摘果したブドウはブドウじゃないと思っていました。ものすごく量が出るので、これが商品になるのであればすごく嬉しいですね」

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7月上旬、摘果シーズンの黒蜜葡萄。ここから摘果、間引きして8月下旬の出荷まで糖度を蓄えていく。

漆崎氏と談笑する後藤氏。果実だけでなく樹木の話まで、後藤氏は黒蜜葡萄にくびったけ。

ローカルファインフードフェア滋賀600年もの間変わらぬ、栽培方法。珍しい焙煎茶に一同感嘆。

続いて訪れたのは、同じ東近江市にあっても愛知川の最上流部、標高500mほどの場所に位置する政所(まんどころ)町。ここで政所茶を生産するのは、『茶縁むすび』の代表・山形蓮さんです。
政所茶は600年以上の歴史を持つ、いまや希少となった在来種のお茶。全国的には品種改良が進み、お茶全体に占める在来種の割合は2%以下になっているそうですが、政所は古くからこの在来種を守ってきた地域だといいます。栽培にこだわり、この集落の生産者たちは「人の口に入るものに、わざわざ農薬なんて使わんでいい」という信念で茶畑を育ててきました。事実、ここでの栽培方法は、600年間ほとんど変わっていないそうなのです。
冬は雪が降り積もり、マイナス15℃くらいまで冷え込む気候、昼夜の寒暖差があり、霧が立ち込める風土、そしてお茶に対する信念が詰まった生産者の思いが、最上のお茶を生み出すのです。 
ここで試飲してシェフたちを驚かせたのは、山形さんが「これは変わり種なんですが……」といって煎れてくれた焙煎茶。このお茶が、普通のお茶ではありませんでした。

「このお茶のもとになっているのが、樹齢100年くらいの樹木そのもの。といっても、樹齢が古く生産力の落ちた樹木を地際部より切り取って、残った地上部や地下部の芽の生育を促す『台刈り』をしたもの。その樹木の幹や葉っぱ、枝などすべてを薪でじっくりと焙煎して煮出しました。つまり、お茶の木そのものを味わいます」

味わえば、お茶とは思えない複雑なニュアンス。つくださんが「ウイスキーみたいな雰囲気があるし、甘みがある」といえば、薮崎氏は「ピートのような香りもある」。山本氏は「焼き芋みたいな甘みも感じられる」。後藤氏はただただ「これは素晴らしいな~」と感嘆。
さらに、つくださんは「シンプルに寒天で固めて、そのままを味わってもらえたら面白そう。最後までお茶の樹木を無駄にしないというストーリーもすごくいいですね」

『茶縁むすび』の代表・山形さんの説明を受けながら茶畑を視察。集落の合間に茶畑が広がる。

こちらが、一同を驚かせた焙煎茶。幹、枝、葉など茶樹全体を味わうという発想も素晴らしい。

『茶縁むすび』の向かいにある光徳寺の本堂階段にて、一同に振る舞ってくれたお茶にテロワールを感じる。

右が収穫時期によって味わいが異なる平番茶。左は手摘みした煎茶。いずれも湧き水で煎れてくれた。

ローカルファインフードフェア滋賀牛肉×明日葉!? 滋賀食材のコラボレーションが誕生?

政所町からもほど近い、『永源寺マルベリー』でも新たな発見がありました。ここでは、馬糞を敷き詰めて、牛糞、鶏糞、自然の堆肥を使ったオーガニック圃場で、桑、明日葉、モリンガなどの植物を栽培。それをパウダー状に加工して、お茶や青汁などの原料として出荷しています。このパウダーにシェフたちのアンテナが反応しました。
「パウダーは粉物に練り込んでもいいですし、明日葉のパウダーなんかは、スパイスのかわりに塩に混ぜて使ってもいい。肉を焼くときに、胡椒のかわりにふってみても面白いかもしれない。それこそ昨日いただいた近江牛に使っても美味しいと思う」と薮崎氏。さらに、「さっきの政所茶に桑の葉や明日葉のパウダーを少し混ぜてお茶にしてみてもいい」と次々とアイデアが生まれます。
パウダーこそ味わえなかったものの、一行は栽培中の明日葉の葉を畑からちぎってそのまま試食。薮崎氏は早速店でも使ってみたいと言います。

モリンガの畑にて。鶏糞や馬糞、牛糞といった有機肥料にて土壌をつくっている。

『永源寺マルベリー』の上田長司さん。土砂降りにも関わらず丁寧に説明をしてくれた。

明日葉の茎を折ると黄色く出液。カルコンといい植物では明日葉にしかないフィトケミカルの一種。

ローカルファインフードフェア滋賀伝統野菜に課した厳しい規格基準。B品の行方は?

次は、東近江市から南下し、甲賀市にある生産者の元へ。ここ甲南町杉谷では江戸時代から伝わる近江の伝統野菜が栽培されていました。『杉谷伝統野菜栽培部会』の部会長を務める上杉広盛氏は、ここで「杉谷なすび」「杉谷とうがらし」「杉谷うり」の3種の伝統野菜を継承して育てています。
伝統野菜といえば、聞こえはいいかもしれません。しかし、実際にはこの伝統野菜を守るのにも苦労が絶えません。たとえば、杉谷とうがらし。その特徴といえば、実の先が曲がりくねった形になりますが、それがまっすぐだったり、曲がりすぎていたりすると「杉谷とうがらし」を名乗ることができません。さらに大きさ、柔らかさにまで厳しい規格基準が課せられます。少しでも実に傷があっても同様で、実際に収穫した6割は「杉谷とうがらし」の条件を満たさず、廃棄してしまうのだそう。しかも、これらを「杉谷とうがらし」として出荷できるのは、杉谷で栽培されたもののみといいます。
そんな話を聞き、一行が注目したのは、その廃棄されてしまうB品でした。見た目は「杉谷とうがらし」の基準を満たさずとも、辛さが一切なく、唐辛子ならではの風味とみずみずしい味わいという特徴は変わりません。
「杉谷なすび」「杉谷うり」も同様で、伝統野菜を名乗る厳しい基準をクリアしたものだけが出荷されています。
お土産に杉谷うりをもらった一行。これは後日談ですが、滋賀から帰京した数日後、つくださんは自身のフェイスブックにこの「杉谷うり」を使ったコンポートの写真をアップ。伝統野菜を使ったお菓子作りに勤しんでいたようでした。

杉谷とうがらし。辛味成分は一切なく、齧るとみずみずしい風味が広がる。

杉谷なすびの畑にて。ソフトボール大の大きさになるまで手間暇かけて栽培される。

杉谷うり。種を取ってスライスしサラダにして食べても美味しいのだそう。

ローカルファインフードフェア滋賀無農薬は付加価値にあらず。美味しさを追求した朝宮茶

そして、滋賀県食材視察の最後も、素晴らしい生産者との出会いがありました。
それが、甲賀市信楽町で1200年の歴史を誇る、日本でも最古級といわれる「朝宮茶」の生産者、『かたぎ古香園』7代目、片木隆友氏です。
ここには標高400m前後というロケーション、年間の大きな温度差、川筋に発生しやすい霧が茶葉を乾燥から守るなど、茶づくりには最高の環境が整っています。そればかりか、『かたぎ古香園』では、50年ほど前から無農薬栽培を実施。茶畑に菜種と胡麻の圧搾した油粕などの有機肥料を施肥すだけでなく、畝間の土を掘りおこし、刈りとった笹や茅などを樹の根元に敷きつめるなど、手間と時間をかけた茶づくりを信条としています。
とはいえ、片木氏の信念は決して無農薬栽培だけにあるわけではりません。
「無農薬だからいいわけでありません。われわれにとって無農薬は当たり前。それが付加価値になってはいけないんです。一番は美味しいお茶をつくることです」
その言葉にはつくださんが反応します。
「無農薬でお茶を“美味しい”というところまでもっていけている生産者は意外と少ない。正直、片木さんのお茶には、ちょっと感動しました」
それに呼応するように薮崎氏が「レストランではティーペアリングをやっているところも多いけど、国産のお茶でこれだけの種類があって、畑違いのお茶を出せるのなら、ここに料理を合わせこんでペアリングしていくのも面白い」といえば、後藤氏は、「畑で違ったりとか、加工の仕方でいろいろなタイプがあるので、単純にお茶として楽しむというより、ひとつの食材として使ってみたいです」とも。
山本氏は「これだけのお茶があるのなら、煎茶の“ロマネ・コンティー”が飲んでみたい」とダジャレを込めて賛辞を送ります。

山本氏もその多種多様なお茶にぞっこん。香り、味わい、すべてにおいて料理人を魅了した。

茶葉をそのまま味わえば、まるでスナック菓子のよう。風味、香りが秀逸。

悪天候で茶畑は巡れなかったものの、『かたぎ古香園』の事務所にてじっくりと話を聞いた。

ローカルファインフードフェア滋賀2日間で見えてきた滋賀県の生産者と食材に宿る本質。

2日間を通して、出合ってきた滋賀の生産者と食材。こうして振り返るとあるひとつの共通事項が浮かび上がってきました。
それは、滋賀県には無農薬、有機栽培をはじめ、自然に配慮して食材を育てる生産者が実に多いこと。それは、滋賀県民の心の底に、“海”の存在があるからなのではないでしょうか? 豊かな水系が流れ込み琵琶湖という“海”を形成している。そして、その琵琶湖がまた滋賀県特有の食文化を生み出す。だからこそ、その海を、農薬などを使うことで自分たちの手で汚したくないという思いが根底にあるのではないでしょうか。

食材の素晴らしさとともに、その生産者たちの思いは確実に今回視察に参加した4人に届いたことでしょう。
今回の視察で巡った生産者の食材を使った料理は、8月2日~10月31日まで開催されるLocal Fine Food Fair SHIGA』で味わうことができます。きっと、美味しさとともに、生産者の熱き思いまでも届けてくれるに違いありません。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:SHINJI YOSHIDA

(supported by 滋賀県)

料理人が滋賀の食材と真っ向に向き合う2日間。滋賀食材のポテンシャルを知る。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

『みなくちファーム』にて。健全な環境で育つ多彩な野菜を前にシェフたちの話に花が咲く。

ローカルファインフードフェア滋賀中華の料理人が「蓮の葉」の新たな可能性を見出す。

東京都内で活躍する料理人やパティシエが、滋賀県産の食材を使った料理をそれぞれの店で提供する期間限定のフードフェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。その食材を探すべく、4人のシェフとバイヤーが1泊2日で滋賀の生産者のもとを訪ねました。

米原駅に到着した一行が、まず向かったのは車で15分ほど走った長浜市布勢町。そこで待っていたのは、3ヘクタールもの見事な蓮畑でした。蓮は午前中に花を咲かせ、数時間で萎んでしまうものの、午前10時に到着した一行を、蓮はその花の甘い香りで出迎えてくれました。

ここは、NPO法人「つどい」による農園事業である『きんたろう村農園』。いまは一帯に見事な蓮畑が広がっていますが、もともとは耕作放棄地であり、現在執行役員を務める川村美津子さんがわずか10アールほどの田んぼの一部を借りて5年前に蓮を植え始めたのがきっかけとなり始まったそう。

「蓮の栽培は、1000年以上の歴史があるのに、開花や水あげのシステムなど、まだまだ解明されていないことがたくさんあります。なかなか流通しにくい食材でもあるんです」

そんな川村さんの言葉に、南青山で薬膳中華『Essence』のオーナーシェフ薮崎友宏氏がいち早く反応します。そう、蓮といえば中国料理には欠かせない食材。しかし、薮崎氏が喜んだのはただ、この蓮が“国産”であることだけが理由ではありません。蓮畑を歩いた薮崎氏はあることに気づいたのです。それが蓮畑の状態でした。

「雑草を駆除するのに除草剤を使うとイネ科の植物だけが残るんです。でも、ここの畑を見ると他の小さな雑草もあるでしょ。ちゃんと除草剤を使わずに無農薬で蓮を管理している証拠です」

自身でも栃木県足利市に農園を持つ薮崎氏ならではの目の付け所。それを聞いた川村さんも「土壌改良剤と卵の殻を土には与えていますが、無農薬、無肥料。基本的には雑草との戦いです」と笑います。

『きんたろう村農園』では、そんな蓮の花をつかったジャム、蓮の葉のパウダーなども商品化していますが、やはりシェフたちの注目は蓮の葉そのもの。

「中華ではちまきに使ったり、チャーハンを詰めて蒸したり、スープにしたりします。ただ日本に流通する蓮の葉は、乾燥された中国産がほとんど。これが商品化できるなら自分だけで使うのでなく、いろんな中華の料理人にすすめていきたい」
薮崎氏だけでなく、和菓子と日本酒のマリアージュを提案する『薫風』のつくださちこさんや、幡ヶ谷『Equal』のシェフパティシエ・後藤裕一氏も興味津々。イタリアンの元料理人でもある食材バイヤーの山本敦士氏は、「どうやって蓮を、食材として流通させるか」に考えを巡らせていました。

【関連記事】滋賀食材フェア/琵琶湖の豊かな水が育む、瑞々しい食材。料理人たちが見た滋賀県の食材の底力。

3ヘクタールの広大な蓮畑。わずか10アールの耕作放棄地から『きんたろう村農園』は始まった。

蓮に一番興味を示していたのが薮崎氏。食材に向き合う好奇心は視察1軒目から大いに発揮されていた。

川村美津子さん。ご覧の笑顔で、シェフとの距離感を感じさせない対応。『きんたろう農園』ではしいたけの菌床栽培も行う。

ローカルファインフードフェア滋賀独特の食材と食文化を育む、滋賀県の“海”。

滋賀県といって忘れてはならないのが、琵琶湖。地元の人はこの琵琶湖を“海”と呼ぶほど、母なる湖に特別な思いがあります。その理由のひとつは、この“海”が滋賀県独特の食材や食文化を生み出していることでしょう。

琵琶湖の北岸の大浦漁港にある『西浅井漁協』で、一行はビワマスと小鮎を試食、琵琶湖独特の淡水魚の話に聞き入ります。
「ビワマスは、一般的なマスと異なり、海に出ず、一生を淡水域で終える魚です。サケ科であるもののサーモンとは異なり、その脂は上品で、今日はお刺身で食べていただきます。もちろん煮ても、焼いても美味しいんです」とは、漁協の代表理事を務める礒崎和仁氏。

また、“小鮎”と呼ばれる鮎も琵琶湖の特産。渓流で藻などを餌とする鮎とは異なり、主にプランクトンを食べて育つ“小鮎”は、成魚でも体長は10数センチほど。頭から尾までまるごと天ぷらにしていただくと、渓流で育つ鮎とはまた違った印象。その味わいに、薮崎氏が口を開きます。
「薬膳には、『一物全体』という言葉があります。食べ物にはすべての部分にそれぞれの栄養があるという意味です。この時期に鮎の体のところにだけ皮を巻いて春巻きとして出しているんですが、その料理にこの小鮎を使ってもいいかもしれません」

その後も、独特の食文化、琵琶湖ならではの淡水魚の話に耳を傾ける一行。ビワマス、小鮎を試食しながらの食談義に花を咲かせます。

ビワマス。漁の最盛期は7月だが、琵琶湖の水温が下がる1~2月が脂がのってより一層美味しくなるとか。

昼食を兼ねた試食ではビワマスの刺身と小鮎の天ぷらを。ここでも薮崎氏は何かアイデアがわいた様子。

『みなくちファーム』にて。奥様の水口良子さんを囲み、後藤氏とつくださんがハーブ談義。

ローカルファインフードフェア滋賀就農わずか8年。シェフも納得のトップレベルの野菜を栽培。

次に一行が向かったのは、琵琶湖の北西、高島市にある『みなくちファーム』。ここは、農薬や化学肥料を使わずに、持続可能な循環型農業を実践する農場です。現在でこそ10ヘクタールの畑を擁して年間100種以上の野菜を栽培しますが、就農した8年前はわずか25アールほどの畑から『みなくちファーム』は始まったといいます。
「荒れ果てた耕作放棄地を借りて、妻と一緒に手で石を拾い、ユンボを使って開墾。25アールの畑になるまで半年かかりました」と笑うのは代表の水口淳氏。

その畑を案内してもらうと気づくことがあります。きれいに除草されている箇所もありますが、一部は雑草と野菜が混在。しかし、それこそが『みなくちファーム』の野菜づくりにおける信念でもあります。
「どうしても草むしりをしないといけないときはやります。でも、草にまみれて育つ野菜もある。なるべく自然の形態を壊さぬよう、野菜本来の力を発揮できる環境で育てることが一番です」
そんな話を聞き、シェフたちは俄然前のめりになります。とりわけ、菓子作りが専門となるつくださんと後藤氏は、ハーブに注目しました。
「ハウスものより力強さが全然違う。ブッシュバジルはすごく印象的だったし、フェンネルシードも本来は乾燥され加工されたものが流通していますが、こうして生のシードを見られるのも産地を訪れたからこそ。フェンネルの花も甘くて美味しい。フランス修業時代は夏場によく使っていたので、さっぱりした何かを作れたらいいですね」
そう後藤氏がいえば、店では野菜を使った和菓子も多く手掛けるつくださんは、滋賀で古くから栽培されてきたまくわうりに対して「むかしのマスクメロンのようなイメージ。ウリですけど、ほんのりと甘みがあって、シンプルにコンポートにしてみてもいいかも」と想像をふくらませます。

一方で、山本氏は「日々、市場でも野菜を見ていますし、いろんな産地の農家さんにも足を運びますが、ここの野菜はトップレベル。水口さんは新しいものへのチャレンジ精神もあるし、こうした間違いない野菜はバイヤーとしていろんなシェフに紹介していきたい」といいます。

雑草と共生するレモングラス。できる限り自然の形を崩さず栽培している。

バイヤーの山本氏。「土がいいから、土のままいける!」とサラダゴボウをそのままがぶり。

後藤氏が気に入っていたフェンネルの花。食べるとハーブらしいさわやかで、ほんのりとした甘さ。

ローカルファインフードフェア滋賀滋賀といえばこれ! 日本三大和牛のひとつ近江牛の生産者のもとへ。

そして、1日目の最後に訪れたのが、循環型畜産で滋賀が誇るブランド牛・近江牛を育てる『千成亭ファーム』。その牛舎のひとつにシェフたちは足を運びます。

見渡す限りの田園地帯に囲まれた牛舎を訪れ、シェフたちが口々に言うのは「牛舎が清潔」であること。それは牛たちにいかにストレスを与えず育てるかを大切にした『千成亭ファーム』のこだわりでもありました。
風通しが良いように設計された牛舎、一頭あたりの7平米のスペースを確保し、寝床に清潔なおがくずを敷いた飼育環境などがそうさせるのでしょう、いわゆる“牛舎”特有の匂いも気になりません。

そうした環境で仔牛から育て、成長過程に合わせて飼料を変え、30ヶ月の月齢を目安に育て上げることで、より上質な肉質を目指して出荷するのだといいます。
そんな話を聞いたシェフたちにこの日の最後のご褒美が。それが『千成亭』が営む『せんなり亭 心華房』での夕食。
サーロイン、カイノミ、イチボ……。近江牛の美味しさを鉄板焼で体感したのでした。
野菜、魚、肉。滋賀県のさまざまな食材を間近にした1日。翌日はどんな生産者、食材との出会いがあるのか。シェフたちは、2日目の視察にも期待に胸を膨らせます。

とにかく清潔な牛舎。成長過程に合わせ異なる飼料を与えるなど、牛たちの生育環境にこだわる

職人としての生産者の感覚と、PCによる個体監視を実施し、牛の状況を常に把握している。

近江牛のサーロインの鉄板焼。サシは多いものの、きめ細やかな肉質でくどさは一切ない。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:SHINJI YOSHIDA

(supported by 滋賀県)

美味しいひと皿ではなく、感動するひと皿。大切なことは、キッチンの外にある。[SUGINOMORI REVIVAL/長野県塩尻市]

 「奈良井には、昔からあるひとつ一つのものに“誇り”を感じます。それは、きっと住民の方々が大事に受け継いできたからだと思います。町を知り、学ぶことによって、それをどう料理に活かせるのかを追求していきたいです」と『嵓 kura』の料理長、友森隆司氏

友森隆司インタビュー同じ塩尻でも奈良井は特別。ここだけにしかない、誇りがある。

そう話すのは、宿泊施設『BYAKU』に内包するレストラン『嵓 kura』の料理長、友森隆司氏です。

友森氏は、同じ塩尻にある大門にて自身のレストラン『ラ・メゾン・グルマンディーズ』を構えるシェフです。2011年に『トムズレストラン』として開業し、2015年に現在の店名に改め、10年の節目を迎えた2021年。レストラン『嵓 kura』の料理長として、新たな料理人人生を歩む決断をしたのです。

「パリや東京、横浜、そして松本など、さまざまな国と地域でフランス料理を学んできました。そんな中、ご縁で訪れた塩尻の野菜の魅力に惹かれ、お店を構えるならこの地域でと思い、2011年に開業しました。しかし、お店を成功させることだけでなく、当時から “塩尻の食文化を伝える”ことを目標に掲げていました。その期限は、20年」。

そのゴールは、「塩尻の食文化を“日本全国、世界へ”を伝えること」。自らロードマップを描き、達成までに設けた期限は20年と決めていました。着々と目標に向け、レストラン以外にも活動を開始。料理教室やイベントを通して地域や住民、生産者との交流を図り、食材の仕入れにおいても畑まで足を運びます。農家から余った野菜をいただけば、無駄にせず、出張マルシェも展開。塩尻の食文化を伝えることを通して、雇用も生んできたのです。

「実は、自分の出身は広島なんです。そんな余所者を受け入れてくださった塩尻の方々は、本当に優しく、温かい心を持っています。それに恩返しをしたいと思って始めたのが、“塩尻の食文化を伝える”活動でした。10年続け、塩尻の中では浸透してきたのですが、次は外に向けて発信したいと思っていました。しかし、それを成すには、『ラ・メゾン・グルマンディーズ』という個人のお店では難しさを感じていました。そんな時にレストラン『嵓 kura』のご縁をいただいたのです。しかし、正直悩みました。自分のお店を置いて奈良井に行くことも然り、歴史ある『杉の森酒造』の再生に自分が務まるのか、奈良井の方々に受け入れていただけるのか……」。

大きな分岐点にもなる2度目のご縁。様々、思いを巡らせるも、決断した決め手は初志貫徹、“塩尻の食文化を伝える”ためでした。

「このプロジェクトに参画することになってから、奈良井に足繁く通っていますが、本当に知らないことばかり。同じ塩尻でも『ラ・メゾン・グルマンディーズ』で仕入れていたものが仕入れられるかといえばできませんし、勝手も全く違う別世界。食文化においても、漬物や発酵、おやきなど、飾り気のないものが多いですが、そんな素朴の中に“誇り”を感じます。実は、奈良井でそば粉を打っているお母さんのところへ遊びに行かせていただく機会があったのですが、そこで食べさせていただいたキュウリのお漬物が本当に美味しくて。もちろん、プロの料理人の方ではなく、家庭で育てたキュウリを家庭で漬けたものなのですが、自分には出せない味でした。こうした体験に『嵓 kura』で表現すべき料理のヒントが隠されていると思いました」。

記憶に残る旅とは、地域らしさを一番色濃く享受できる時間。それは、地域にとって当たり前であればあるほど、日常であればあるほど、ゲストにとっては新鮮であり、唯一無二の体験となるのです。

しかし、地域の人間でない友森氏がそれを表現するのは至難の業。まずは、地域に受け入れていただく料理人になるために、人間になるために。大門に受け入れていただけるよう努力した日々を、もう一度、ゼロから奈良井でスタートさせます。

 店名の『嵓 kura』とは、山稜の下に眠る岩などの意味。古くから奈良井宿を支えてきた奈良井川の源は、山から流れる水。そんな自然からの恵みを料理の起点と捉え、「蔵」の呼び名をそのままに「嵓」として引き継ぐ。

『杉の森酒造』だった当時、酒造りをする「蔵」として活気に満ち溢れていた空間をレストラン『嵓 kura』として再生。奥のガラスの向こうでは、酒造りも復活させる。

友森隆司インタビュー『嵓 kura』の料理に必要なことは、理由のある料理。

奈良井宿は山々に囲まれ、そこから流れ出る水が奈良井川の源。日本最長、約1kmにも及ぶ宿場には、古くは鳥井峠を行く人、来る人の喉を潤わせてきた水場も点在し、今もなお、水と密接に関わる暮らしが形成されています。

「今回、料理の監修を担っていただく長谷川(在佑)シェフが大事にしている食材のひとつにお米があります。ご存知の方も多いですが、ご自身のレストラン『傳』と言えば、土鍋ご飯。『嵓 kura』でもそれを取り入れたコース料理を考案しており、塩尻の西条という地域で育ったお米を使用しようと思っています。理由は、奈良井と同じ分水嶺から育つお米だからです。土鍋ご飯の試作では、その具材に同じ尾根から流れ出る水で育ったシナノユキマスやイワナとも合わせてみました。食材たちが生まれた環境は違えど、同じ水から育ったもの同士、自然と馴染みが良い」。

長谷川氏が『嵓 kura』で大切にしたいことは、「この町が生きてきた自然のものやことを自然なかたちで活かした料理」。前述のキュウリの漬物やお米選び、水との関係にもつながります。

「奈良井に来てから、地元の方々には本当に良くしていただいており、とても感謝しております。町を歩いていると、すれ違いに「山菜持っていきな!」、「フキ持っていきな!」など、声をかけていただくことも多いです。大門では、食材をご一緒する生産者は農家さんのみでしたが、奈良井では地元の方々も生産者のような存在。皆さん、山を熟知されているので、どこに何が自生しているかの知識も豊富。クレソン、キノコ、セリ、三つ葉、ミョウガ、イタドリ、山椒、ウド……。数え切れません。今日、芽が出た。今日、実った。今日、咲いた……。これまで経験したことのない産地の近さ。そんな日々の旬、本当の意味での採れたてをどう料理に活かしていくのか。しかし、同時に自然との近さと運命共同体のため、険しい環境もあります。それを含め、奈良井のことを『嵓 kura』のチーム全員が知り、学ぶことが必要だと思っています」。

また、環境だけでなく、『ラ・メゾン・グルマンディーズ』との違いのひとつに、スタッフの人数が挙げられます。友森氏は、これまで料理をほぼひとりで担ってきたため、自身が表現したいことを自身の手でかたちにしてきましたが、『嵓 kura』はチームで共有し、かたちにしていきます。よって、足並みや目線合わせは非常に重要になります。

「『嵓 kura』に必要なことは、高級な食材を使用したフルコースではないと思っています。例えるなら、美味しいひと皿よりも感動するひと皿。長谷川シェフは、皿に乗った料理よりも、調理の技術よりも、その前の出来事に時間を費やし、丁寧に向き合い、真摯に理解しようとしています。つまり、本当に大切なことは、キッチンの外にあるのだと思います。皿の上だけでは表現できないことに大切なことがあるのだと思います。感動は、そんなプロセスから生まれるのだと考えています。ひと皿一皿、味の記憶だけでなく、なぜそれが生まれたのかを伝え、皿の上では表現できない、見えない物語が記憶に残る料理にしたい。それには、ひと皿が生まれた理由が必要であり、その理由を生むには、背景を学ばなければいけません。奈良井の方々に愛される『嵓 kura』になれるよう、全力を尽くしたいと思います」。

やるべきことはわかっている。やらなければいけないこともわかっている。なぜなら、一度、余所者を経験しているから。10年かけて大門に必要とされるお店になれたように、シェフになれたように、人間になれたように、友森氏は、奈良井でもそれを目指します。

料理監修を担う『傳』の長谷川在佑氏(右)と試作を続ける日々。『BYAKU』に訪れて良かった、『嵓 kura』に訪れて良かったではなく、奈良井に訪れて良かったと思える料理を目指す。

『嵓 kura』では、『傳』のような土鍋ご飯もコース料理に採用予定。お米は、奈良井と同じ分水嶺、塩尻の西条で育つものを使用。

キッチン、サービス含め、塩尻を中心にスタッフは構成。長谷川氏を中心に、日々、トレーニングを重ね、開業までに精度を上げる。


Photographs:SHINJOH ARAI
Text:YUICHI KURAMOCHI

地域と向き合う覚悟。学び続けることによって答えを探し続ける責務。[SUGINOMORI REVIVAL/長野県塩尻市]

「お客様はもちろん、地元の方々に美味しいとおっしゃっていただけるような料理にしたい。開業して良かったと思っていただけるようなレストランにしたい」と『嵓 kura』の料理監修を担う長谷川在佑氏。

長谷川在佑インタビュー自分はこの町に何を残せるだろうか。どんな責任が果たせるだろうか。

約1kmにわたる日本最長の宿場町、「奈良井宿」。そんな歴史ある町並みに200年以上身を構えていたのが『杉の森酒造』です。

2012年、惜しまれつつ閉業してしまったその建物は、宿泊施設『BYAKU』として再生され、2021年8月4日に開業を迎えます。

宿泊機能だけでなく、レストラン、バー、温浴施設、そして、酒蔵も内包。中でも注目したいのは、レストラン『嵓 kura』です。料理を監修するのは、日本のトップシェフとして知られる『傳』の長谷川在佑氏。

「今回のプロジェクトで初めて奈良井宿の存在を知りました。インターネットでどんな町か調べてから現地入りしましたが、実際は想像以上に美しく、現代において忘れ去られていた“正しい時間”が流れている町だと感じました。昨今、テクノロジーの技術が発達し、そのスピードは日に日に早くなっていると思います。SNSであれば、写真やコメントが瞬時にアップでき、時間差なく世界中の人と交流できてしまいます。そんな情報過多の仮想世界は、行ったつもり、見たつもり、食べたつもりなど、“つもり現象”が起こることもしばしば。流通においても、欲しいものを検索し、翌日にはそれが届いてしまう。ものを見て判断することや足を運んで探すプロセスは省かれ、愛着や手間隙という概念は崩壊寸前。先ほどの通り、自分も奈良井宿をインターネットで調べましたが、そこで得たものは一刀両断されました。独自の空気感は、画面上では決して感じることはできず、何もない町のようで“何か”ある、そして、その“何か”は生きる上で必要な“何か”、大切な“何か”だと本能的に身体で感じたのです」。

太陽が昇り朝は訪れ、陽が沈めば夜が訪れる。明るい時間は明るく、暗い時間は暗い。語弊を恐れずに言えば、決して便利な町ではありません。しかし、自然に抗うことなく暮らしが形成されているこの町には、正しい時間が流れています。

長谷川氏が感じた“何か”とは何か。難問の答えはすぐに解けるわけもなく、奈良井宿はそんな容易い町ではありません。

江戸時代から守り続けられた町並みを一歩一歩歩きながら、その建築様式に目を凝らし、「きっと多くの旅人の休息を叶えてきたのだろう」と様々な思いを巡らせるも「感傷に浸っている時間はない」とひと言。

「料理の監修は、『傳』の新メニューを考案することよりも、『傳』の新店を作ることよりも、ほかの何よりも一番難しい」。

レストラン『嵓 kura』は、元々、酒蔵だった空間を再生。できる限り、既存の部材を残し、奥のガラスの向こうでは酒造りも復活させる。

「美味しく仕上げる食事よりも、この町で暮らすには必要だった生きるための食事を学び、料理に活かしていきたい」と長谷川氏。

長谷川在佑インタビュー

料理監修は料理だけにあらず。チームの監修、人間力の向上こそ、絶対条件。

「この町には、高級料理や希少食材は、必要ないと思っています。なぜなら、今の時代、高級料理はどこに行っても食べることはできますし、希少食材も手に入れようと思えば世界中から取り寄せることも可能ですから。それよりも、この町が生きてきた自然のものやことを自然なかたちで料理に活かし、表現したいと思っています。もしかしたら、それは必ずしも“美味しい”が答えではないかもしれません」。

例えば、山々に囲まれた奈良井宿で一級の海鮮を供すことに意味を成すのか? それよりも、ここでは身近に自生する山の幸に意味があるのです。しかし、そんな山の幸も奈良井宿の険しい冬には敵いません。ゆえに、保存食が必要とされ、発酵に意味があるのです。

「レストランに行く。美味しい料理が出る。一見、当たり前のように思うかもしれませんが、果たしてこれは旅先に必要なことでしょうか。美味しい料理=体験とは限らないと考えます。これまで、ありがたいことに様々な国へ足を運ばせていただくことがあります。当然、各地で食事もするわけですが、実はあまりレストランへ行きません。なぜかというと、その土地で生まれたその土地の料理を味わいたいからです。自分が思うそれをいただけるところは“お母さん”が営むお店なのです。そこで地元の味、家庭の味をいただき、調理法を教わり、会話をする。自分にとっては、そんな時間が旅を豊かにしてくれるのです」。

奈良井宿の豊かさは、予約が取れないレストランに行くことやガストロノミーをいただくこととは異なります。それと同じ舞台で勝負する必要もなければ、比べる必要もありません。ランキングや星の数よりも大切なことが『嵓 kura』には必要であり、だからこそゲストを体験へと導くのです。

「そのポテンシャルは、ある。あとは、“我々”の問題」。

「自分の問題」ではなく、「我々の問題」と指す意味は、「料理監修は料理だけにあらず。チームの監修、人間力の向上こそ、絶対条件」につながります。

「実は、メニューを開発することは、さほど難しくはありません。キャリアのある方であれば、技術に関しても自ずと身に付いていくと思います。しかし、本当に大切なことはそこにはないと思っています。地域を理解する心、そこに住まう方々を知る心、そして何より、地域に受け入れていただける人間になること。これは料理人として、レストランに関わるスタッフとして云々以前の問題です。この監修という仕事が難しいと感じる一番の理由は、“土地に自分が居続けることができないこと”にあります。自分が伝えたいことは、常駐するスタッフがどのようにこの土地と介在するべきなのかの意義。おそらく、開業時には未熟な状態です。自分もまだまだ足りないと自覚しています。もっと地域から学ばなければいけない。住民の方々から学ばなければいけない。更に言えば、学んだ先に答えは見つからないかもしれない。それでも『嵓 kura』のみんなで学び続けることが大切なのだと思います」。

なぜ学び続けるのか。それは、奈良井の一員にさせていただくためのほかなりません。

長谷川氏の言う通り、『嵓 kura』は未完成であり、もしかしたら、生涯、未完成のままかもしれません。

ひとりで難しいこともチームで乗り超えていく。チームの価値とは、苦しい時は助け合い、分散し、喜びは共有でき、倍増することにあります。それを成すために必要なことは、これを分かち合える人間になれるか否か。

学ぶことは人間力の向上。そのプロセスには、テクノロジーの技術を駆使した一足飛びはありません。この町同様、正しい時間をかけて正しく身につけていくことが重要なのです。

「料理を作ることだけがレストランではない。お客様のために何ができるか。“良かったよ!”、“また来るね!”ではなく、次の約束をできるような満足をお届けしたい。そのために自分たちに何ができるか。それは“準備”しかありません。準備して、準備して、準備して。それでも反省は生まれてしまいます。しかし、後悔するようなことをしてはいけません。かたちだけのストーリーはいらない。実は、以前、地元の方から鯉を食べる文化のお話を伺ったのですが、その時に“鯉は骨が多くて食べづらいんですけどね”とおっしゃっていて。自分に文化を作ることはできませんが、料理人としての技術を生かして、その鯉を食べやすくすることはできると思いました。学ぶことによっていただいたものを新しいものにしてこの町に残していけるようにしたい。地元の方々が歩んできた時間を大事にしたい。奈良井宿に喜んでいただけるような場所にしたい。心技体を持って、奈良井宿と向き合いたいと思っています」。

自然と暮らしが密接な関係で結ばれている奈良井宿。『BYAKU』の付近に自生している山の幸を摘む長谷川氏とレストラン『嵓 kura』の料理長を担う友森隆司氏。

塩尻を中心に新鮮な野菜などを起用して料理を考案。良い料理作りは、まず地域を知ることと、食材を知ることから始まる。

長谷川氏が地元の方から「鯉を食べる文化はあるも、骨が多く食べづらい」という話を聞き、骨切りを施し、食べやすく試作。

作っては試し、また作っては試し。開業ギリギリまで試作は続く。『傳』でお馴染みの土鍋ご飯は、塩尻のお米を使用してレストラン『嵓 kura』でも提供予定。

レストラン『嵓 kura』のスタッフ。「このチームで様々を乗り越え、何としても良いかたちにしたい。この町に認めてもらえる場所にしたい」と長谷川氏。


Photographs:SHINJOH ARAI
Text:YUICHI KURAMOCHI

6.5ozループウィールTシャツ(LOVE柄)

着心地バツグンの吊り編みTの2021新柄!

  • 吊編み機(LOOPWHEEL)で時間を掛けて編み上げた無地Tシャツ
  • プリントインクは生地に若干染み込むタイプで、味のある仕上がり
  • プリントデザインは山形県酒田市で活躍するピンストライパーHOPPING SHOWER"テツ"氏によるもの
  • プリントTシャツ(14番単糸)より一格薄い生地(16番単糸)を採用
  • ボディ:16番単糸吊編み天竺(6.5oz)
  • ネック:20番双糸フライス編
  • XS〜Lサイズは丸胴(脇接ぎなし)、XL〜XXLは脇接ぎ仕様
  • 定番の7.5ozプリントTシャツよりもワンサイズ小さめになります。ご購入の際は、サイズスペックをご確認下さい
  • 専用衿ネームと裾ネームが付きます

IHT-2106 :サイズスペック

  着丈 肩巾 バスト 裾回り 袖丈 袖口
XS 61.0 39.0 86.0 87.0 19.0 18.0
S 63.0 41.0 93.0 94.0 19.5 18.0
M 65.0 43.0 97.0 96.0 10.0 18.5
L 67.0 45.0 103.0 104.0 20.5 19.0
XL 68.5 47.0 112.0 113.0 21.0 19.5
XXL 70.0 49.0 118.0 119.0 21.5 20.0
  • 商品により多少の誤差が生じる場合がございます。
  • 商品はワンウォッシュ済みです。
  • 定番の7.5ozプリントTシャツよりもワンサイズ小さめになります。ご購入の際は、サイズスペックをご確認下さい

素材

  • 綿:100%

6.5ozループウィールTシャツ(デニム柄)

着心地バツグンの吊り編みTの2021新柄!

  • 吊編み機(LOOPWHEEL)で時間を掛けて編み上げた無地Tシャツ
  • プリントインクは生地に若干染み込むタイプで、味のある仕上がり
  • プリントデザインは山形県酒田市で活躍するピンストライパーHOPPING SHOWER"テツ"氏によるもの
  • プリントTシャツ(14番単糸)より一格薄い生地(16番単糸)を採用
  • ボディ:16番単糸吊編み天竺(6.5oz)
  • ネック:20番双糸フライス編
  • XS〜Lサイズは丸胴(脇接ぎなし)、XL〜XXLは脇接ぎ仕様
  • 定番の7.5ozプリントTシャツよりもワンサイズ小さめになります。ご購入の際は、サイズスペックをご確認下さい
  • 専用衿ネームと裾ネームが付きます

IHT-2107 :サイズスペック

  着丈 肩巾 バスト 裾回り 袖丈 袖口
XS 61.0 39.0 86.0 87.0 19.0 18.0
S 63.0 41.0 93.0 94.0 19.5 18.0
M 65.0 43.0 97.0 96.0 10.0 18.5
L 67.0 45.0 103.0 104.0 20.5 19.0
XL 68.5 47.0 112.0 113.0 21.0 19.5
XXL 70.0 49.0 118.0 119.0 21.5 20.0
  • 商品により多少の誤差が生じる場合がございます。
  • 商品はワンウォッシュ済みです。
  • 定番の7.5ozプリントTシャツよりもワンサイズ小さめになります。ご購入の際は、サイズスペックをご確認下さい

素材

  • 綿:100%

7.5oz ヘビーボディプリントTシャツ(バイク柄2021 New Color)

着やすさと丈夫さを兼ね備えたオリジナルボディTシャツ

  • 着やすさと丈夫さを兼ね備えた7.5ozオリジナル(丸胴)ボディ ※レディースのみ脇はハギ合わせになります。
  • ボディ:14番単糸度詰め天竺(7.5oz)
  • ネック:30/2度詰めフライス
  • プリントはラバーで、バックとフロントワンポイント。
  • ワンウォッシュ済み

IHT-2108: サイズスペック

  着丈 肩巾 バスト 裾回り 袖丈 袖口
L-F 62.0 39.0 84.0 84.0 16.0 17.0
XS 63.0 42.0 90.0 90.0 18.0 18.0
S 66.0 44.0 96.0 96.0 19.0 19.0
M 69.0 47.0 100.0 100.0 20.0 20.0
L 71.0 49.0 106.0 106.0 21.0 21.0
XL 73.0 52.0 115.0 115.0 22.0 22.0

素材

  • 綿:100%

壱岐の魅力を詰め込んだクラフトジンがいよいよ完成![IKI’S GIN PROJECT/長崎県壱岐市]

壱岐の海をイメージしたブルーボトル。白砂が印象的な筒城浜海水浴場の岩場に置いてみると海の色と同化するほど、壱岐の海の色を再現。

壱岐ジンプロジェクト取材した生産者の顔が次々と浮かぶ、壱岐だからこそ生まれたこだわりのジン!

何はともあれ、まずは出来上がったばかりのジンをストレートで味わってみました。
すると、ファーストアタックで驚くほどイチゴの甘い香りが鼻腔に広がったのです。
「あ〜、取材をさせてもらったイチゴ農家の松村春幸さんの畑でにんまりとしたあの甘い香りと同じだ」。取材時の出来事が鮮明に思い出されます。
次に、香りで押し寄せたのは柚子。柚子の皮むき工場を訪れた際に教えてもらった『壱岐ゆず生産組合』の長嶋邦明氏の言葉が浮かびます。「もったいないけど、皮以外は全て捨ててしまうんですよ。でも、いい香りでしょ」。
それがしっかりとジンの個性に乗り移り、こんなに豊かな和の香りを生んでいるとは。
その後もジンを口に含むと、複雑なアスパラガスの味わいから、モリンガのほのかな苦味、ニホンミツバチから採取したという希少な壱岐産ハチミツの甘い香りまで、次々と取材で出会った生産者の顔が思い浮かぶのです。

昨年、コロナ禍で始まった長崎県壱岐島でのクラフトジン造り。壱岐を代表する焼酎蔵と、壱岐唯一の5つ星ホテルがタッグを組んで、壱岐でしか造れないジンを生み出そうと動き出したプロジェクトは、2021年5月末、「JAPANESE IKI CRAFT GIN KAGURA」という名のクラフトジンの完成をもって初回の生産を終えました。そして今回、現地にうかがいジン造りの過程を見守ってきた我々『ONESTORY』も、壱岐発のジンの完成の一報を受け、再び壱岐を訪れたというわけです。群雄割拠のクラフトジン業界で壱岐発のジンはどう映るのでしょうか。今回は、壱岐の料理と合わせるペアリングディナーも体験し、忖度なしにその魅力に迫ってみたいと思います。

夕日に照らされた「JAPANESE IKI CRAFT GIN KAGURA」。ボトルには、約700年近く受け継がれてきた伝統と歴史を持つ壱岐の神事芸能・神楽をデザイン。

干潮時のみ参道が現れる小島神社。そこかしこに広がる壱岐の美しさをボトルで表現した。 

少しの傷で廃棄されてしまっていた果実などを、壱岐の生産者を巡って説明し、譲り受けてジンの素材に。

壱岐ジンプロジェクト何度となく頓挫しそうになったジン造り。その情熱はクラウドファンディングで支援を募り結実。

まずはジン造りの経過報告から。
プロジェクト当初は、『壱岐リトリート 海里村上』の若きホテルマン・貴島健太郎氏と、その熱意にほだされ、壱岐で酒を醸し続ける『壱岐の蔵酒造』の代表・石橋福太郎氏がタッグを組んだジン作り。島から若者が減る一方、高齢化は進み、雇用の確保など、島としての課題も山積み。愛する島と焼酎がこのまま廃れるのは何よりも悲しいと、ふたりは奮い立ったのです。

ですが、コロナ禍という特殊な状況の中、壱岐発のクラフトジン造りは紆余曲折。なかなか思うように進まず、約1年の時を経てクラウドファンディングで支援者を募る形をとり、予定していた3月の完成よりも2ヵ月遅れた5月末にようやく完成したといいます。
今回のジン造りのキーマンふたり、『壱岐リトリート 海里村上』でホテルマンとして働く貴島氏と、『壱岐の蔵酒造』の代表・石橋氏は、それでも良かったと笑います。(詳しい紹介はこちらにて。)

「実は、会社の事情で僕が突如、壱岐から神奈川の箱根へ転勤が決まり、暗雲が立ち込めてしまったりしました。でも、『壱岐リトリート 海里村上』の支配人とソムリエが全面バックアップしてくれ、その後フィニッシュまで持っていってくれたんです。本当にハラハラしました」と貴島氏。
「コロナと同じで、状況が逐一変化していく中で、それでもこのプロジェクトは壱岐の焼酎文化の発展のためには諦められなかった」と石橋氏。
当初のチームが形を変えていく中でも、連携し、協力しあい、ジン造りの灯火を消さずに乗り越えてきたことで、ジンが完成したといいます。
実際、クラウドファンディングでの支援の輪は目標額を大きく上回り、目標100万円の200%以上の支援額を達成。更には、ふたりがかかげてきたフードロスの問題や、麦焼酎発祥の地である壱岐の焼酎をベースに使うこと、そして壱岐の水と壱岐産のボタニカルで香りと味を生み出すなど(詳しい紹介はこちらにて。)、課した課題は全てクリアしたといいます。せっかくやるなら妥協しない。そんなふたりの想いの強さから造られたジン。発売が遅れたのは必然だったのかもしれません。構想から約1年を費やしたジン造りでしたが、少数精鋭、貴島氏と石橋氏が島を走り回り、生産者一人ひとりの理解を求め、廃棄されてしまう食材に再び光を与える。発売の遅れは妥協を許さなかったという証であり、壱岐の海を連想させるブルーボトルの中に壱岐らしさをたっぷりと詰め込んだのです。
「まさに壱岐の情景!」。アルコール度数40%のストレートをぐびりと呷(あお)った、まさにそれが我々編集部の第一印象でした。

「JAPANESE IKI CRAFT GIN KAGURA」とペアリングするディナーを待つ間に、目前に広がる穏やかな海を眺めつつ、ふたりの奔走を思い出しながらジンの完成を讃え、ほくそ笑むのでした。

壱岐の景勝地・猿岩を前にインタビューに答えて頂いたキーマンふたり。『壱岐リトリート 海里村上』のホテルマン・貴島健太郎氏(左)と『壱岐の蔵酒造』代表・石橋福太郎氏(右)。

『壱岐リトリート 海里村上』の総支配人であり料理長の大田誠一氏(左)。

『壱岐リトリート 海里村上』のソムリエ大場裕二氏。総支配人と大田氏とともに最終的な味の監修に参加。

壱岐ジンプロジェクト壱岐の料理と、壱岐の素材だけで造ったジン。スペシャルなペアリングディナーを体験。

「飲み飽きない味。実際、私は毎日晩酌で飲んでいるんです。華やかなフルーツの香り、一番はイチゴと柑橘ですね。更にハチミツが入っている分、独特の甘さも。薬草っぽい木の芽、モリンガもほのかに感じますね」と話すのは、『壱岐リトリート 海里村上』の総支配人であり料理長の大田誠一氏。
「ベースのボタニカルサンプルが24~25種類。その中で配合を組み合わせたジンです。全て壱岐の食材であり、石橋さんと貴島の方で味の設計図はしっかりできていたので、調えるのはそれほど難しくはなかったですよ。私の印象ではイチゴの香りが突出していたので、調和させるために調えたくらい。更にこのジンは、香りは強いけど米由来の甘さがある。それこそが壱岐焼酎らしさ。より甘さを引き出すなら氷で少しずつ溶け出すと甘くなりますし、焼酎由来なのでお湯割りにも合う」と話すのは、『壱岐リトリート 海里村上』のソムリエ・大場裕二氏。『壱岐リトリート 海里村上』の料理とお酒、味の統括をする番人ふたりがジンの最終的な監修をしたことで、更に「JAPANESE IKI CRAFT GIN KAGURA」は、壱岐らしさの息吹を注ぎ込まれたといいます。

ペアリングディナーの最初の前菜盛り合わせでは、長崎の郷土料理の呉豆腐や自家製の唐墨大根を受け止めるべく、まずはストレートで提供。ジン本来の力強さを楽しませながら、しっかりと塩味の効いた前菜と調和させます。
かと思えば、アワビやアスパラガスの天ぷらではソーダ割り。
シンプルな壱岐牛の炭火焼きではお湯割り。クラフトジンは壱岐の料理と合わせると、変幻自在、いかようにも表情を変えていく印象です。

「壱岐の素材だけで造ったジンですから、壱岐の料理に合わないわけがない。これはやはり壱岐で飲むべきジンです」と言って大田氏が笑えば、「まさに壱岐のテロワールを凝縮したお酒です。僕からしたら手のかからないペアリングです」と大場氏もセリフをかぶせます。

若者の焼酎離れを危惧し、同じ蒸溜酒ながら全く異なるジンを生み出した今回のプロジェクト。味の番人ふたりはいとも簡単にジンのみで楽しませるペアリングディナーを完成させたそうです(こちらのペアリングディナーは、現時点ではクラウドファンディングのリターンとして提供)。

最後のスイーツは壱岐産日本蜜蜂の自家製アイスクリーム。
これにストレートのジンを合わせると、得も言われぬ多幸感を生み出すのです。あの希少なハチミツの香りが、アイスにかかったハチミツと合わさると追い鰹の要領で膨らみ、旨さを増幅させていくのです。しばし、恍惚としながらも、壱岐の豊かさを感じるペアリングディナーはゆっくりと心地よく終演を迎えました。

壱岐で生み出された料理と、壱岐の素材だけで造ったクラフトジン。それを壱岐の5つ星ホテルで味わう同企画。クラウドファンディングのリターンで8名のみが手にしたこの愉悦は、ぜひ今後、ホテルの名物企画になることを切に願います。

唐墨大根、呉豆腐、玉子味噌漬け、トマト蜜、貝ウニの前菜盛り合わせはストレートで。

黒鮑、烏賊、アスパラガス、南京を天ぷらで。モリンガ塩で味わう。こちらはすっきりとしたソーダ割りがマッチ。

肉料理は壱岐牛炭焼き。こちらは壱岐の柚子塩で味わう。お湯割りがじんわりと壱岐牛の脂を溶かし、旨味が広がっていく。

白眉は壱岐産日本蜜蜂の自家製アイスクリーム。アイスの上にさらにハチミツがかかっており、ちびちびとストレートで味わうとハチミツ由来の甘さが膨らむ。

住所:長崎県壱岐市芦辺町湯岳本村触520 MAP
電話:0120-595-373
http://ikinokura.co.jp/

住所:長崎県壱岐市勝本町立石西触119-2 MAP
電話:0920−43−0770
https://www.kairi-iki.com/

想いはひとつ、壱岐の美しさを詰め込むのみ。キーマンふたりが振り返るジン造り。[IKI’S GIN PROJECT/長崎県壱岐市]

小牧崎にて、日本海に沈む夕日。ジン造りの最後のインタビューはこんな絶景の中で行われた。

壱岐ジンプロジェクト焼酎蔵の代表と若きホテルマン。ふたりが出会いジン造りが動き出す!

若者の焼酎離れを危惧する『壱岐の蔵酒造』の代表・石橋福太郎氏と、仕事で初めて壱岐を訪れることになった『壱岐リトリート 海里村上』の若きホテルマン・貴島健太郎氏。そんなふたりがタッグを組み生み出したのは、壱岐発祥の麦焼酎をベースに使ったジン。年齢も経歴も全く違うふたりが、壱岐の素晴らしさを伝えたいという一心で結びつき、壱岐でしか造り得ないジンを完成させたのです。

全てを壱岐にちなんだものにしたいと、まずふたりが取り組んだのは、焼酎をベースにしながら、廃棄されてしまう壱岐の食材などを蒸溜し、香りをつけるというもの。当然、仕込み水も壱岐の水。ボトルデザインも壱岐出身者が行い、壱岐の海の色を鮮やかに表現しました。1年に及ぶジン造りの最後のインタビューでは、キーマンふたりの視点から「JAPANESE IKI CRAFT GIN KAGURA」というジンについての想いを語って頂きました。

光り輝く「JAPANESE IKI CRAFT GIN KAGURA」。紆余曲折を経てキーマンふたりを中心についに2021年5月末に完成。

壱岐のそこかしこに広がる絶景に、すっとなじむブルーボトルのクラフトジン。

壱岐のモンサンミッシェルとも呼ばれる小島神社。美しい風景が日常に溶け込んでいるのが壱岐という島だ。 

壱岐ジンプロジェクト壱岐を代表する焼酎蔵が目指した、新たなチャレンジとは?

まずは『壱岐の蔵酒造』の代表・石橋氏が次のように話します。
「プロジェクトの構想自体は、実はジンありきでスタートというわけではなかったんです。こんな大変な時代だからこそ、何か面白いことをやりたいという想いから始まり、方針がなかなか定まらず4~5ヵ月が経過。そうこうしていたところに、若きホテルマンの貴島さんがジンを提案してくれたんです。初めは焼酎蔵に『ジンを造ってみませんか?』と大まじめに語る彼をどうかしていると思ったほどです。でも、熱心な彼の想いに耳を傾けると、壱岐愛がビンビンと伝わってきた。そうして僕も覚悟を決めたんです(笑)。それからは試行錯誤の連続。なんせお酒はお酒でもジャンルが全く違いますから。まずはスピリッツ免許を取らないとでした。それでも貴島さんとユズにイチゴ、ニホンミツバチ、アスパラガス、各種柑橘、モリンガなどなど、20以上の生産者を回るうちに、色々と協力者も増えてきて、少しずつ形になっていくのが楽しかった。2020年の3月からプロジェクトが始まり、約1年3~4ヵ月でようやく形になったわけです。『壱岐の蔵酒造』としても新たな事業であり、僕自身も年甲斐もなくワクワクしていたんだと思います」。
若者の焼酎離れを危惧していた矢先、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、壱岐発祥の麦焼酎は大打撃を受けます。そんな中、起死回生のチャレンジとして、石橋氏はジンという新たな手法で挑戦を始めたのですが、ご本人曰く楽しかったと、感想は実にシンプル。自らが愛する焼酎に食材を漬け込み、香りを移すために蒸溜するジンの製法にも可能性を見出したといいます。
「ベースの焼酎から、いくらでも違った味わいを生み出せるのが面白い。壱岐のボタニカルでまだまだやれる可能性を感じましたね」と石橋氏は続けます。
クラウドファンディングで支援を求めると、目標の100万円をたやすく達成し、更に倍額の200万円も達成。クラフトジンの需要が会社の一事業として見えてきたといいます。
「初回ロットは1,000本のみ。どのくらい出るかが未知数で不安で小規模でやってみたんですが、予想以上に出た。嬉しい悲鳴ですが、もう少し造れば良かったなぁ」と石橋氏。
すでにトライアルで生産された1,000本の行き先はほとんどが決まったそうで、次の生産計画も立てやすいとのこと。
そんな1年に及ぶジン造りを振り返る石橋氏の目は、少年のように輝いて見えました。更に石橋氏の頭の中は、すでに次の蒸溜のことでいっぱいのようにも。来期の仕込みではいったいどんな生産者のボタニカルを使うのでしょうか。この経験を生かしたいという想いが言葉からも溢れていました。

『壱岐の蔵酒造』の代表・石橋氏。焼酎蔵の代表自らがジン造りを牽引。

自社の麦焼酎に様々な果実や野菜、ボタニカルを漬け込み、壱岐らしさを探ってきた。

『壱岐リトリート 海里村上』の貴島氏とともに、様々な生産者のもとを訪れ、廃棄される運命にあったボタニカルを再利用したいと訴え続けてきた。

壱岐ジンプロジェクト純粋に壱岐が素晴らしいから、ジンにその想いを詰め込んだ若きホテルマンの挑戦。

「売れ残ってしまったらどうしようというのが、正直な気持ちでした。とにかく、しっかりと売れてくれてひと安心です。クラウドファンディングの支援者などからも『壱岐にこんなのあったんだね』や『とても楽しみです』など、感慨深いとコメントももらえて、チャレンジして本当に良かったです」と、ジン造りの発案者・貴島氏。
20代の貴島氏を中心としてスタートしたプロジェクトですが、『壱岐の蔵酒造』の代表・石橋氏や、『壱岐リトリート 海里村上』の総支配人であり料理長の大田誠一氏など、貴島氏と議論を重ねたのは、年齢を重ねた人生の大先輩ばかり。気後れせずにいかに自分の想いを表現できたのかが気になります。
「とにかく僕にとって壱岐は新鮮だった。僕の感じた壱岐の魅力を詰め込もうと、素直に発言しただけなんです。壱岐の人にとっては、それが都会の感覚と感じてもらえたようなんですが、今壱岐にある美しい風景や美味しい食材は、本当にかけがえのないもの。僕にしたら、皆さんの普通はとてつもなく贅沢だと伝えたかったんです」と貴島氏は話します。
そんな一途な想いこそがこのプロジェクトの骨子。真っ青に輝く「JAPANESE IKI CRAFT GIN KAGURA」は、まさに壱岐の魅力そのものなのかもしれません。
「お勧めは、お湯割りです! ジンなのにお湯割りが美味しかった! 焼酎文化の島らしさで香りが立つのが特徴です。ジンはもちろん、焼酎以外のお酒ではなかなかこうはいかないのかも。それもこのジンが持つ壱岐らしさです」と貴島氏。
更に、貴島氏はこのまま終わらせたくないともいいます。第2弾、第3弾と、バリエーションを加えてやっていけたらと話してくれました。
「ハチミツが、最初はここまで香りがするとは思わなかった。とても貴重なニホンミツバチのハチミツなので、そこまで量を使えなかったのが悔しい。もうワンランク上のプレミアムジンを造れば、思う存分使えるかも」。そんな発想も貴島氏ならではのものなのかもしれません。

壱岐という小さな島で巻き起こった、クラフトジンプロジェクトは、一旦、最初の挑戦を終えました。

麦焼酎発祥の島だからこそ、なし得たジン。
海風が吹き抜ける島でなくては造れなかったジン。
柑橘の島だからこそ生み出せる香りを持つジン。
コバルトブルーに輝く海があったからこそ出来上がったジン。
「JAPANESE IKI CRAFT GIN KAGURA」には、そんな壱岐の魅力が溢れています。初回ロットは1,000本。そのうち最後に残された約200本が2021年8月10日(火)より一般発売されます。壱岐を感じてほしい、そんな挑戦者たちのクラフトジンは、様々な壱岐の方々の顔が浮かぶジンとなりました。
壱岐を訪れたことのない人ならば、美しい海と豊かな食材の香りに思いを馳せ、壱岐を訪れたことのある人ならば、再訪したような錯覚を感じるやもしれません。それほど、このクラフトジンは壱岐なのです。壱岐を感じてみたい、旅気分を味わってみたいという方に、『ONESTORY』は「JAPANESE IKI CRAFT GIN KAGURA」を強くお勧めしたいと思います。

『壱岐リトリート 海里村上』のホテルマン・貴島健太郎氏。壱岐の様々な生産者と会話を繰り返し、想いを伝えてきた。

持ち前のチャレンジ精神で、様々な食材を自ら試食。食べごろ前の柑橘など、まだ苦味しかない状態でも味わってみたいと貴島氏。

完成したクラフトジンのボトルを手に持つ貴島氏。いよいよ最後の200本が2021年8月10日(火)に一般発売される。 

住所:長崎県壱岐市芦辺町湯岳本村触520 MAP
電話:0120-595-373
http://ikinokura.co.jp/

住所:長崎県壱岐市勝本町立石西触119-2 MAP
電話:0920−43−0770
https://www.kairi-iki.com/

イージーショーツ 

ラフ&タフなアイアン流イージーショーツが登場!

  • ウエストオールゴムで履きやすいショーツです。
  • ウエストオールシャーリングのイージースタイル
  • アイアンハートらしく厚手素材で作っているためヘビーさと丈夫さがプラス
  • 色はあえて製品染めをすることで初めから穿きこんだような色合いを表現
  • 部屋の中でもキャンプ場でも、どこでも活躍間違いなし!です。

729: サイズスペック

  ウエスト 前ぐり 後ぐり ワタリ 裾巾 股下
S 80.0 21.5 36.0 31.8 26.0 27.0
M 85.0 22.5 37.0 33.4 27.0 27.0
L 90.0 23.5 38.0 35.0 28.0 27.0
XL 95.0 24.5 39.0 36.6 29.0 27.0
  • 商品により多少の誤差が生じる場合がございます。予めご了承ください

素材

  • 綿100%

暮らすように滞在する。京都・東山から提案するホテルの新たなスタイル。[東山 四季花木/京都市東山区]

東山に誕生した『東山 四季花木』。伝統美を表現しつつ、余計な装飾を削ぎ落とした引き算の美学が光る。

東山 四季花木建築家とインテリアデザイナーの夫婦が手掛けたラグジュアリーホテル。

荘厳な寺社の数々、行灯が照らす古都の町並み、ゆったりとした鴨川の流れ。一般的にイメージされる“京都らしさ”の多くが詰まった京都市東山区。そんな東山区の中心部、東西線東山駅のほど近くに2019年秋、一軒のラグジュアリーホテル『東山 四季花木』が誕生しました。

客室は、わずか8室。宿泊施設の建設ラッシュが続く京都にあって、ともすると見落としてしまいそうな小さなホテルです。しかし足を踏み入れるとそこは、訪れる人のことを考え抜いた数々のホスピタリティに満ちた、唯一無二の存在でした。

ホテルを手掛けたのは、建築家の夫とインテリアデザイナーの妻のご夫妻。二人の言葉を通して、ホテル誕生の物語と、館内の随所に仕掛けられた穏やかに過ごすための工夫を紐解いてみましょう。

1階のアプローチ。正面奥には『唐長』十一代目・千田堅吉の作品が出迎える。

東山 四季花木京都人夫妻が考えた「二人で行くなら、こんなホテル」

石畳の敷かれた三条通り沿いの、五階建ての建物。
どっしりと重厚な石の質感と大きなガラスが醸す怜悧さに、門口の坪庭や親子格子が添える温かみ。複数の建材がバランス良く融合し「街に溶け込んでいるのになぜか目を引く」という不思議な現象を引き起こします。あえて言葉にするならば“和モダン”ですが、それだけでは伝えきれない存在感です。

それもそのはず、設計を担当したオーナー・川上隆文さんは、これまでに数々のホテル、住宅、公共施設などを設計してきた人物。そんな川上さんがとくに意識してきたのは、住まい手、使い手のことです。土地の価値を最大限に活かす建物を設計すると同時に、「たとえば飲食店なら客席が何席で何回転するのか」という、いわば設計士の担当範囲外のことまで考え続けてきたといいます。

そして依頼としての設計を手掛けながら、「自分で作るならこうしたい」という思いを温めてきたのです。言うなれば、“構想数十年”。無駄のない美しさは、建築家としてのキャリアの集大成であり、夢の結晶なのかもしれません。

インテリアデザイナーである妻・北山ますみさんも、理想のベクトルは同じ。仕事として照明、クロス、調度品などを配置するにとどまらず、「実際に利用する人がどう感じるか」という部分まで想像しながらインテリアデザインを手掛けてきました。

「経営のことまで考える建築家は聞いたことがない」と北山さんが言えば、川上さんも「女性目線がありながら、業界の慣例に収まらない芯の強さもあります」と北山さんを評価。そんな互いにリスペクトを抱く二人が「二人で行くなら、こんなホテルが良い」と導き出した答えこそが、この『東山 四季花木』なのです。

北山ますみさん(左)と川上隆文さん(右)のオーナー夫妻。旅好きな二人の思いが、ホテルの随所に込められる。

「旅館のホスピタリティとホテルの快適性の良いとこ取り」を目指したという。

ルーフトップテラスからは京都市内の夜景なども一望。部屋を離れて思い思いに過ごすことができる。

東山 四季花木ゲストの目線で徹底的に考え抜かれたホスピタリティ。

構想を温め続けた二人ですが、実は開業を決めてこの物件を探したわけではありませんでした。単に投機的な目線だけでみれば、これまでに何度も良い物件もありました。しかし二人の心は動きません。それは京都人として、自分たちの大好きな京都をどう表現できるのか、というアーティストの目線での妥協ができなかったのでしょう。

しかしあるとき、縁のあった不動産関係者に、知り合って3日目にこの場所を紹介されます。場所を見た瞬間、二人の心は決まりました。祇園、平安神宮、南禅寺などが徒歩圏内でありながら、市街地の喧騒からは離れた立地。目の前は歩道があり、電柱も地中。東山の緑を望む眺望。「ここでならやりたかったことが表現できる」それがこの土地に決めた理由。
事業として必要に迫られてはじめたホテルではないため、経営においても売上や効率以上に大切にする点があります。
それは、ゲストの満足度。訪れた人が満足し、また来たいと思えることを、ホテルの最高優先度に据えたのです。

ホテルの設えやホスピタリティの方向性は、そんな思いを起点に考えられました。おいしい料理屋と素晴らしい寺社がある京都で、ホテルにまでパワーのある空間に身を置くことが必要か。見どころの多い京都ではホテルの滞在時間が短くなる。それなら広めの客室でゆったりくつろげる時間を提供しよう。夫婦で旅行していたら一人になる時間も必要。ならば露天風呂や屋上テラスを設えよう。夕食は日本料理を食べる方が多いから、朝食は胃に軽く京野菜中心の洋食が良いのではないか……。じっくりと考え抜かれるホテルの方針。

それは京都旅行というストーリーの中でホテルが主役になるのではなく、たとえば親戚の家を訪れたような穏やかな安心感を提供すること。
「外から眺めたパッケージとしての京都ではなく、京都に暮らすようにゆるやかに滞在してもらいたい」そんな思いが、ホテルの中に詰まっているのです。

ウェルカムティーは日本最古の茶園『丸利 吉田銘茶園』の煎茶を季節の和菓子とともに。

チェックイン、チェックアウト、滞在中のくつろぎスポットとして利用できる『茶論』は館内2階。

朝食は京野菜を中心に、はなかごパンや自家製スロージュースとともにヘルシーな内容。名店で料理長も務めた坂辻亮シェフのオリジナル。

東山 四季花木京都らしく、しかし主張し過ぎず。中庸こそがホテルの美学。

ガラスの扉を抜けて内部へ。1階は重厚な石造りのエントランスには、寛永元年創業『唐長』の唐紙やタイルが出迎えます。
チェックインは2階の「茶論(サロン)」へ。土壁や網代天井を施した畳敷きの空間は、滞在中のくつろぎ空間としても利用できます。

客室はすべて26㎡〜54㎡のラグジュアリースタイル。京都らしさ、おだやかなくつろぎを感じさせつつ、決して押し付けにならないインテリアは、北山さんの本領発揮。アメニティや茶器にまで行き届くこだわりも、くつろぎの時間を演出します。開放的で心地よい露天風呂と、360度の眺望が自慢のルーフトップテラス。チェックアウトを12時に設定しているのも、滞在をゆったりと楽しんでもらうための心配りです。

京都の魅力を伝える一貫として、おだやかな時間を提供するホテル。
「丁度良い、といわれるのが何よりうれしい」と北山さんは話しました。「京都は宝石箱のような街。食べ物、工芸、職人の技。京都にはまだまだ知られていない魅力が山ほどあります。そんな京都の魅力を体感してもらうために、ホテルとして“丁度良い”空間と時間を提供したい」

旅において、宿泊施設に望むものは人それぞれ。しかしこの『東山 四季花木』のように出すぎず、引きすぎず、おだやかで、かつ存在感のあるホテルは、これからの京都旅行の新たな過ごし方を提案してくれます。

客室「庭玉」はプライベート庭園付き。部屋からは比叡山や平安神宮の鳥居なども望む。

美術品や盆栽などオーナー夫妻のこだわりが光る客室「遠州」。檜風呂のバスルームも完備。

ルーフトップから望む東山。屋上からは大文字の送り火も煙が届くほどの至近距離で眺められる。

住所:京都市東山区三条通白川橋西入ル今小路町85-1 MAP
料金:1泊朝食付き(1室あたり)60,000円~(税・サ込)
アクセス:地下鉄東西線東山駅より徒歩1分
https://www.shikikaboku.jp/

“メイド・イン・ジャパン”の追求と回帰。「美味しい」の先に踏み込んだ鮨と日本酒のペアリング。

1806年(文化3年)創業の『仙禽』11代目蔵元・薄井一樹氏(右)、『鮨えんどう』店主の遠藤記史氏(左)。 

恵比寿 えんどう × 仙禽日本固有の食材、伝統製法にもう一度光をあてる。 

海洋資源をはじめとした自然環境の維持に努め、新型コロナウイルス感染症の影響を受けつつも、鮨と日本酒のペアリングで食文化の発展に貢献してきた『恵比寿 えんどう』の店主・遠藤記史氏。革新的な酒造りで知られる『新政』に続き、今回ペアリングを試みたのが、栃木の銘酒『仙禽』です。 
 
「『仙禽』はこれまで何度も蔵見学をしていて、蔵元の薄井一樹さんも来店いただいています。今回のペアリングは、鮨と日本酒の相性がいいことは大前提。そこからさらに思想や表現方法、合わせ方の視点にまで踏み込んで見ました」と語る、遠藤氏。 
 
ペアリングにあたり、遠藤氏がコンセプトに掲げたのは「メイド・イン・ジャパン」。国内はもとより海外でも人気の高く、日本の食文化の中で最も「メイド・イン・ジャパン」を標榜しているとも言える鮨ですが、今あえてテーマとした意図はどこにあるのか。 
 
「イギリスに6年間留学していた経験があるのですが、現地で感じたのは英語が話せることが国際人としての必要条件ではなく、あくまで十分条件ということ。むしろ日本語や日本の文化を理解しているかどうかが、国際人としての必要条件だと感じました。今、食の世界はボーダーレスで、日本料理でもトリュフやキャビアを使い、和食にワインを合わせることも一般的。フレンチでも昆布出汁を使うし、三ツ星のレストランで日本酒が当たり前に振舞われる。より自由になった一方で、文化が必要以上に混ざりすぎると個性や特徴が失われる。7色ある色も全て混ぜれば黒になるのと一緒です。トリュフやキャビアもそれはそれで美味しいけれど、鮨に握るとどうしても陳腐になってしまいます。日本料理らしいことが個性であり特徴なのであって、これからの国際社会では際立ってくる。つまり、大切なのは“メイド・イン・ジャパン”であること。そこを表現するには、その土地に存在する固有の個性=テロワール(土地)が大事になってきます。そのテロワールに最もこだわっている蔵元が『仙禽』です。僕自身、日本固有の素材にこだわっていきたいし、どのように表現していくか、それが今回ペアリングをやる意義でもあります」。 
 
遠藤氏が考えるペアリングの意義を受け止めるのが、『仙禽』11代目蔵元の薄井一樹氏。遠藤氏が追求する「メイド・イン・ジャパン」を誰よりも理解を示し、自ら実践してきた唯一無二の酒造りについて語ります。 
 
「『仙禽』では、この土地でなければ生まれない“ドメーヌ”、昔ながらの農業に原点回帰する“ルーツ・オーガニック”、木桶仕込み、生酛酒母、古代米(亀ノ尾)使用、米を磨かない精米機も酒造好適米も存在しなかった頃の超古代製法を再現する“ナチュール”を3本の柱に酒造りをしています。“ドメーヌ”も“オーガニック”も“ナチュール”も昔は当たり前のことだったのに、モノを大量生産・大量消費することが世界の常識となり、便利さを追求していく時代の中で失われてしまった。酒造りは便利に走れば走るほど機械工業になり、酒自体も有機質なもの無機質なものになっていきます。日本酒だけでなく、味噌や醤油、器だってそう。失われてしまった伝統文化や製法が多い中で、僕らは日本の優れた技術を継承し、後世の人たちに残していかなければなりません」と、その使命感を薄井氏は語ります。 
 
「古ければ良いという訳ではありません。残すべき製法は守りつつ、味はモダンでなければ。自分の土地で収穫された農作物を加工して、製品にすることをフランスでは“ドメーヌ”と言いますが、一次産業と二次産業の架け橋も担っています。本来はそれが自然なことなのに、流通が発達したからといって、地元と縁もゆかりもない風土の違うものを買って酒造りしたのでは意味がありません。その土地のテロワールが感じられる原料を使って加工すれば、自ずと相性はいいもの。“オーガニック”も同様です。近代農業は化学肥料により、土壌が地球規模で汚染されています。本当にいいものは贅沢品でも何でもなく、素朴で野性味があるもの。とりわけ日本酒では顕著に現れます。“ドメーヌ”も“オーガニック”も“ナチュール”も、時間の針を昔に戻しているだけ。ただの回帰主義でなく、物理的に失われた大事なものを取り戻すための手法なのです」と言葉を続けます。 

水産資源の減少に危機意識を高めるシェフ約30名が加盟する『シェフス・フォー・ザ・ブルー』のメンバーとして活動する遠藤氏(左)。高い酸と濃醇な甘みの「甘酸っぱい」酒で日本酒業界に新風を吹き込んだ薄井氏(右)。 

恵比寿 えんどう × 仙禽東京の鮨が抱える矛盾。鮮度というハードルを超えて。 

ペアリングのテーマ「メイド・イン・ジャパン」を表現するための考え方のひとつ「オーガニック」を象徴するのが、「朝締めの鯛」です。この日届いたのは、愛媛産の鯛で、店に届く数時間前に締めたもの。遠藤氏は「日本一」と称賛します。 
 
この鯛を扱うにあたり、様々な産地を頻繁に訪れ、魚が育つ環境を肌で感じてきた遠藤氏だからこそ抱いた「矛盾がある」と言います。 
 
「今年は例年になく真イワシが多い年だったのですが、“鰯”は読んで字のごとく弱りやすい魚で何より鮮度が大事。漁船の上で食べる機会があったのですが、驚くほど旨かった。でも、この旨さはどうやっても東京では表現できません。産地での味を100点とすると、東京は80点。産地と張り合えるのは、せいぜいマグロくらいでしょう。東京でしかできない表現を考えた時、鮨には熟成というアプローチもあります。ですが、旨味の数値は上がったとしても、食感や香りはブラインドで食べたら何の魚かわからない。熟成するとどれも似たような食感になり、香りはどうしても損なわれます。産地や個体ごとの香りや風味、食感は、鮮度の良い魚の方が圧倒的に表現できる。熟成と鮮度についてはどちらが美味い不味いという話ではなく、ここから先は哲学の問題。ただ僕は新鮮な魚に魅力を感じていて、鮮度を表現するためにもなるべく素材をいじりすぎず、化粧しないよう本来の持ち味をそのままに生かし、単一素材にフォーカスした鮨を追求しています」。 
 
遠藤氏の意図を受け、薄井氏が合わせた日本酒は「朝搾り」。市販されていないため、この日この時にしか味わうことの出来ない希少な酒です。 
「おめでたいイベントですから、当日に上層(醪を搾って液体の酒と酒粕に分ける工程)した日本酒です。鮮度がかなり高いのでガス感もあり、角が立っているけれど若々しさがある。遠藤くんの鯛も朝締めということなので、鮮度と鮮度を掛け算するイメージ。口の中で魚と日本酒のフレッシュ感を合わせることにより、ペアリングのトーンが揃います」と、薄井氏は語ります。 

朝締めしたその日に届いた愛媛産の鯛に、朝搾りのフレッシュな日本酒を合わせて。 

鯛は成長に伴いメスからオスに性転換し、「一部は成長してもメスのままの個体がいる」と遠藤氏。この日はオスを選んだが、捌いたところメスだったそう。オスの力強さとメスの脂が乗った柔らかな身質のどちらも持ち合わせている。 

恵比寿 えんどう × 仙禽ペアリングで捧げる日本の伝統製法と国産原料へのオマージュ。 

ペアリングのもうひとつの考え方「ドメーヌ」を象徴するのが、「富山産ホタルイカ」です。ホタルイカ自体、日本の固有の品種でまさに「メイド・イン・ジャパン」と言える食材ですが、遠藤氏が着目したのは「もろみ」。 
 
このコロナ禍で輸出入を含む流通が一時ストップし、原料である小麦や大豆の生産を海外に依存してきたことに遠藤氏は危機感を感じたといいます。 
 
「“メイド・イン・ジャパン”にこだわった時に一番難しいと感じたのが、醤油と味噌です。日本の伝統的な食文化であり、日本料理には欠かせない核でありながら、原料の多くは海外に依存していて国産でない。それではどうやってもテロワールは表現できません。今回は現地でボイルしたホタルイカに和えたのは、鹿児島県長島町にある石元淳平醸造の『cocoromiso』。醸造所から100km圏内で収穫された国産大豆と『仙禽』のように蔵付き麹を使用しており、江戸時代と同じ作りでテロワールも表現されています。付加価値をつける意味でも、自国の食文化にはしっかりと向き合っていきたい」と、遠藤氏は表情を引き締めます。 
 
このホタルイカに合わせたのは、「クラシック仙禽 雄町」。生酛と呼ばれる伝統的な製法で作られていると、薄井さんは語ります。 
 
「明治以降に登場した簡略的な酒造りとは違い、昔から受け継がれてきた“メイド・イン・ジャパン”を象徴する職人技が凝縮しています。醤油の原料も今や日本産が珍しい時代。大量生産・大量消費の時代の流れで忘れ去れている技法がある中、昔ながらの日本の食材・技術を大事にした掛け合わせです」。 

富山産ホタルイカ×「クラシック仙禽 雄町」。日本固有種のホタルイカに伝統的な手法で醸された日本酒を合わせて。大豆と小麦の穀物感を残したもろみは、「クラシック仙禽 雄町に丁度良い」と、薄井氏。

国産の大豆と小麦を使用したもろみを使用。ホタルイカは叩いて肝ともろみ和えることでいい出汁が出るとのこと。 

恵比寿 えんどう × 仙禽自然の豊かさを実感。生命力×生命力のペアリング。 

ペアリングの考え方の3つ目が「ナチュール」。ここで遠藤氏が選んだのが、「オーガニック ウナギ」です。これまで鮨ダネでアンタッチャブルな食材だったといいますが、あえてチャレンジしたい食材でもあると遠藤氏。今まで扱ってこなかった理由には、「文化的背景もあります」と話します。 
 
「理由はたくさんあるのですが、まず鮨自体が発酵食品であり屋台のファーストフードだったことが大きいと思います。うなぎは当時から高級料理で、焼くための炭どころが必要でした。パッと食べてサッと帰る鮨では、そこまで設備も出来ないしコストもかけられない。江戸前寿司の文化に浸透してこなかった歴史が長いのはそのためです。現代の鮨はファーストフードではなく、きちんとした設備もあり、価格の問題もない。時代背景が変わってきた中で、ネタとして取り込んでもいいと僕は考えています」。 
 
一時期は稚魚が減少し、漁獲量の低下が懸念されたウナギ。遠藤氏は、鹿児島大隅半島の養鰻家・横山柱一氏が育てた「横山さんの鰻」にこだわりがあります。 
 
「自然豊かな環境で、飼育期間で抗生物質を使用せず、良質の自然の餌でストレスなく育てています。このウナギに合わせる日本酒は、おりがらみの日本酒『雪だるま』。僕にとってもチャレンジングな試みでした」と遠藤氏。 
 
オーガニック・ウナギに寄り添う日本酒は、「造り方も自然に寄り添った“江戸スタイル”」だと、薄井氏。ペアリングの考え方にも説得力があり、改めて意義を伺い知ることができます。 
 
「原料の米はオーガニックの亀ノ尾。ほとんど磨いていません。雑味が多く、パンチが効いているとイメージされがちですが、原料の米自体にエネルギーがあるので、自然な造りをすると体液みたいにナチュラルに体に入って来る。味わいも野性味がありつつ繊細です。今回の“横山さんの鰻”も生命力がある。野性味に溢れた生命力溢れる日本酒とウナギを掛け算したペアリングです」と薄井氏は話します。 

「横山さんの鰻」×「仙禽オーガニック ナチュール2020」。生命力溢れるウナギと生命力溢れる日本酒の掛け合わせ。サクサク、トロッとしたテクスチャーのマリアージュも楽しめる。 

「この手法でないと表現できない」と、炭火で焼き上げる。原始的な調理法もまた遠藤氏の揺るぎないポリシー。 

恵比寿 えんどう × 仙禽親交を深めることで無理のない掛け算が成立する、唯一無二のペアリング。 

本来であれば昨年実施されるはずだったペアリング。新型コロナウイルス感染症の影響で今年に延期になったことが、むしろ良い効果を生み出しました。 
 
「去年の時点で僕の中でこうしたいというイメージがあって、延期によってブラッシュアップできました。日本酒では嫌われていた酸をポジティブに取り入れて、シグネチャーとして打ち出したのは『仙禽』が最初。酸があると料理との相性がいいし、日本酒単体での味のバランスもいい。温故知新の発想や伝統をアップデートしている酒造りはインスパイアされました」と遠藤氏。 
 
日頃から親交があり、「ペアリングのためのペアリングではない」と断言する遠藤氏。薄井氏も「家庭料理のペアリングであれば、僕ひとりで考えれば十分。ですが、プロとプロがやる場合はそうはいきません。栃木の蔵と恵比寿の店を毎月のように行き来しているので、いいところも悪いところも知っている。そうでもないと本当の意味でのペアリングは生まれません。ただ、そうしたことを抜きにしてもペアリングしやすい料理と日本酒ではあります」と話します。 

薄井氏が「肉として捉える」というスッポンの照り焼き×熟成した酸とアミノ酸の数値が高い「仙禽オーガニック ナチュール2020」が支える。福島産のキュウリ塩麹×『仙禽』の中でもアルコール度が低く、重心が軽い日本酒「線香花火」。ひとつ前に出されるうなぎの脂を断ち切る。うなキュウをイメージ。

ウナギ×「ユナイテッドアローズ 雪だるま」。オーセンティックな哲学をベースにするユナイテッドアローズとコラボが実現した銘柄。 

「これは鉄板」と二人が声を揃えるあん肝×「ナチュール貴醸酒」、カラスミ×爽やかな酸味のナチュールや熟成された豊かな甘みの貴醸酒をアッサンブラージュした「初代ユナイテッドアローズ」。 

味がぼやけないよう皮目を炙り、食感のコントラストと旨味が立ったメジマグロ×焦げた風味と旨味を受け止める「仙禽 愛山10年熟成」。アミノ酸の数値が高い金目鯛昆布締め×「モダン仙禽 無垢」。 

丁寧に包丁を入れた脂ののりがいい中トロ×ドメーヌ・さくら山田錦を35%まで磨き上げ、甘味とクリアな酸味を備えた「仙禽 一聲2021」のペアリングは、甘味と甘味の掛け算。

血の風味があり食感もコリコリとした赤貝×テクスチャーの相性がいい「全麹仕込み バーボン樽」、大トロ×高いアルコール度数で大トロの脂を支える「仙禽ナチュール2020(お燗)」。 

酢で締めすぎない、青身の小魚らしさが特徴の小肌×おりが絡んだフレッシュ感のある味わいの「さくら」、イカらしいサクサク感のある朝締めのアオリイカ×亀ノ尾、山田錦、雄町をアッサンブラージュした「Hope! 希望」を冷で。 

肉と似た重心のあるクジラ×「温度が低いと支えられず、お燗ではネガティブな部分が顔を出す」と常温で提供する「仙禽ナチュール2021」。 

温かい状態で握りにする鹿児島県甑島の車海老×古代米「亀ノ尾」の個性が発揮された「クラシック仙禽 亀ノ尾」をお燗で。ネタの中でもっとも油が乗っているというノドグロ×山田錦、亀ノ尾、雄町の3品種の酒を黄金比でブレンド=アッサアンブラージュした「醸」の甘さが引き立て合う。 

磯の風味が際立つホタテの磯辺焼き×「赤とんぼ」、淡白な旨味のあるサヨリ×酸度が高く、上品な貴醸酒の甘みがある「七夕物語」。 

トリ貝×「仙禽ナチュール2021」食感が柔らかく甘味が強い、これからが旬のトリ貝。ミネラル燗のある手巻きのトロたく×ひやおろし「赤とんぼ」。 

恵比寿 えんどう × 仙禽人間同士のペアリングが可能性を生む。矛盾を抱えてもなお模索する「東京でしか表現できない鮨」。 

今回のペアリングを通して、ふたりが表現したかった「メイド・イン・ジャパン」。鮨と日本酒を掛け算することで、今後も見据えるテーマがより明確になりました。 
 
「遠藤さんは元々ペアリングに長けている鮨職人です。“線香花火”や“赤とんぼ”のように普通なら敬遠されがちな古いヴィンテージも平気でペアリングに呼び込んで、当ててくる。本当に勉強になります。今回のペアリングは、ふたりして蔵で厳密にテイスティングしながら決めました。僕ひとりでは絶対に完成できなかった。料理を作る人、酒を造る人が人間同士もペアリングして初めていいものが生まれるもの。そこを外すと、ボーダー柄にチェックのズボンを履くようなもの。かみ合わなくなりますからね」と薄井氏。 
 
ペアリングというアプローチで様々な視点を通し、食文化の発展と課題と向き合う遠藤氏もまた、今後に向けてさらなる意欲を燃やします。 
 
「『仙禽』とはペアリングに対する考えも方向性も共通しています。あえて寄せる必要はなく、あるがままでいい。現在の東京のフードシーンはデジタルな情報発信が主流ですが、デジタルやオンラインでは表現に限界があるとも感じています。やはり今回のペアリングのように体感してみないしないことには、本当の価値はわかりません。東京にはモノもヒトも情報も集まるけれど、東京でしか食べられない鮨を追求しづらくもある。食文化の分岐点にある今、そうした矛盾を捉える段階まできた。引き続き、模索していきたいです」。 

住所:東京都渋谷区恵比寿南1-17-2 Rホール4F MAP
電話:03-6303-1152

住所:栃木県さくら市馬場106 MAP
電話:028-681-0011
http://senkin.co.jp​​​​​​​


Photographs:JIRO OHTANI
Text:MAMIKO KUME

芸能界屈指のラーメン通・田中貴氏が見る、ロングセラー袋麺「サッポロ一番」のさらなる可能性。[サッポロ一番 ひとてま荘Kitchen/東京都港区]

田中貴氏とマッキー牧元氏。音楽を通して出会った旧知のふたりが、「サッポロ一番」を挟んで語り合う。

サッポロ一番劇場『虎ノ門横丁』に誕生した「サッポロ一番」の期間限定レストラン。

虎ノ門ヒルズ内のシックな空間に、26の人気店が集う『虎ノ門横丁』。その一角に、ひときわ個性を放つポップアップレストランが誕生しました。暖簾に描かれるのは「サッポロ一番」のロゴ。そう、発売以来半世紀以上、袋麺のトップブランドとして君臨し続けるあの「サッポロ一番」です。この『サッポロ一番 ひとてま荘Kitchen』は、「サッポロ一番」に、文字通り“ひとてま”加えたオリジナルメニューが味わえる店なのです。

発売元のサンヨー食品は「サッポロ一番」にひと手間、ひと工夫を加えることで、さらに美味しく、栄養バランスもアップするアレンジレシピを提案してきました。ここでは、そのアレンジレシピの味を再現するだけでなく、さらにタベアルキスト・マッキー牧元氏を監修に迎え、その味をブラッシュアップして、ここでしか味わえない逸品として提供されます。牧元氏といえば、『超一流のサッポロ一番の作り方』(2018年/ぴあ株式会社刊)などの著作がある、大の「サッポロ一番」フリーク。さらに、2020年10月に同所で開催された『サッポロ一番劇場』もプロデュース。中華とイタリアンの名シェフに「サッポロ一番」をカスタムしてもらい、コース仕立てでアレンジメニューを提供しました。今回も、そんなおなじみの「サッポロ一番」が牧元氏の手でどのように生まれ変わるのか、各所で話題を集めています。

さて、今宵はそんな『サッポロ一番 ひとてま荘Kitchen』に、ひとりのお客様がやってきました。穏やかな笑みを浮かべつつ、カウンター内の調理を鋭い目で見つめるその顔は、いまや芸能界一のラーメン通として知られるサニーデイ・サービスのベーシスト田中貴氏です。自身を「評論家ではなく、ただのラーメン好き」という田中氏に、はたして牧元氏がアレンジした「サッポロ一番」は、どのように響くのでしょうか?

『虎ノ門横丁』の一角に誕生した期間限定のレストラン。オープンで入りやすい雰囲気が魅力。

調理法、アレンジ、盛り付けなどで、最高の状態の一杯を提供。「サッポロ一番」の未知なる可能性を伝える。

「サッポロ一番」公式サイトなどで提案するアレンジレシピを、マッキー牧元氏がさらにアレンジ。今だけ、ここだけのメニューが登場する。

サッポロ一番劇場冷やすことでキリッと締まった麺が、田中氏を唸らせる。

『サッポロ一番 ひとてま荘Kitchen』は2021年7月1日(木)〜7月18日(日)までの期間限定オープン。メニューは7月9日までの前半が「レモンの冷やし塩らーめん」「冷麺風冷やしごま味ラーメン」「じゃがいものみそまぜそば」の3品、後半7月10日〜7月18日が「冷やし台湾風みそラーメン」「かぼすの冷やししょうゆ味」「豚キムチの旨辛みそラーメン」というラインナップです(メニューはいずれも700円)。

田中氏は着席すると、さっそく前半メニューの3品をオーダー。牧元氏はキッチンで田中氏を迎えます。
実はふたりは牧元氏の前職であるビクターエンタテインメント時代からの旧知の仲。田中氏にとって牧元氏は「大先輩です」という間柄ですが、ことラーメンに関しては話が別。妥協を許さぬ意見が期待されます。

届いた料理を、真剣な面持ちで味わう田中氏。傍らではその姿を牧元氏が見つめます。しばしの沈黙の後、田中氏から飛び出したのは「美味しいですね」の一言でした。そして田中氏が最初に着目したのは、麺について。

「味によって麺が違うんですね」

「そう、そこがサッポロ一番のすごいところ。味噌ならリングイネのような楕円形の麺、塩なら喉越しの良い丸麺といった具合に、味によって麺を使い分けているんです」

「それぞれ味の絡みも良いし、冷やして締めているから食感も良い。生麺に近づけるという発想ではなく、乾麺ならではの良さを引き出していると思います」

カウンターを挟んで交わされる会話。音楽を通して出会ったふたりが、食というフィールドで語り合う。しかしそれは、妥協を許さず、ひとつの事象を掘り下げるアーティストの姿そのものでした。

いつもにこやかな田中氏も、ラーメンを前にすると真剣。忌憚のない意見が飛び出す。

7月9日までの限定メニューのひとつ「レモンの冷やし塩らーめん」。「サッポロ一番塩らーめん」をベースに、さっぱりとした味わいに仕上がっている。

「ホクホクじゃがいものみそまぜそば」は、「サッポロ一番みそラーメン」がベース。キタアカリの甘みやバターとチーズのコクがアクセント。

サッポロ一番劇場多彩なアレンジで、おなじみの「サッポロ一番」が驚きの味に。

その後も、田中氏の核心を突くコメントが次々に飛び出します。
「じゃがいものみそまぜそばは、鶏挽き肉が合いますね。ちょうど良く旨みが足されています」と田中氏がいえば、「豚だと脂が出すぎてしまうから、あえて鶏を選びました」と牧元氏。
さらに、「ラーメンにじゃがいもを合わせるというのも珍しい。崩して混ぜると甘みが足されて味が変わってきますね」とのコメントには、「トッピングで味変しながら楽しむ、エンターテイメントとしてのメニューですね」と牧元氏。
この軽快なやり取りもラーメン通である田中氏の経験値の豊富さと、牧元氏との関係性があってのこと。

さらに、田中氏が「一方で、レモンの冷やし塩らーめんは、サラダチキン、水菜、糸唐辛子など、主張の強すぎないトッピングで、非常にわかりやすい美味しさですね」というと、牧元氏は「こちらは味変ではなく、食べ進めながら食感に変化をつけて楽しむイメージです」と勘所をついたコメントと答えが返ってきます。

まさに、ラーメン通の田中氏の知識と経験は、「サッポロ一番」相手にも遺憾なく発揮された様子でした。

帰り際には「サッポロ一番の見方が変わりました」と感慨深げに語った田中氏。
「家でも袋麺を食べるときは必ず何らかのアレンジをしていましたが、冷やすという発想はありませんでした。生麺とは別ジャンルの乾麺の可能性をあらためて感じるメニューでしたね」と、感想を伝えてくれました。

アレンジの監修を務めたマッキー牧元氏。自身の経験とサッポロ一番への愛を、メニュー開発に込めた。

キムチやキュウリを添えて冷麺風にアレンジした「冷麺風冷やしごま味ラーメン」。

3種のアレンジメニューを味わい「サッポロ一番の印象が変わった」という田中氏。「自宅でもアレンジに挑戦したい」と語ってくれた。

1955年生まれ。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、日々飲み食べ歩く(年間約600食)。まさに、「食べるグルメマップ」。「味の手帖」「食楽」「銀座百点」など多数の雑誌やWebで連載中。

1971年生まれ。サニーデイ・サービスのベーシスとして1994年、成蹊大学在学中にメジャーデビュー、2000年に解散するも2008年に再結成。現在もライブは即日ソールドアウトとなるなど、その人気ぶりは健在。ラーメン愛好家としても知られている。

住所:東京都港区虎ノ門1-17-1虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー3F 虎ノ門横丁  MAP
開店期間
7月1日(木)~7月18日(日)
営業時間
ランチ 11:30~15:00 (LO 14:30)売り切れ終い
ディナー17:00~20:00 (LO 19:30)売り切れ終い
https://www.toranomonhills.com/toranomonyokocho/

Photographs:KOH AKAZAWA
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(supported by サッポロ一番)

暑い季節に

皆様こんにちは(・∀・)

暑い季節になってきましたね☀️

まだ、梅雨明けは宣言されておりませんけど倉敷も暑い日が続いております💦


そんな暑い時期には




インディゴ染のタオルでございます(*゚∀゚*)



大きさも3種類ご用意しております(´∀`*)

お土産や贈り物にもご利用ください(*゚▽゚*)