その味わい、軽やかにして、濃醇。輝き始めた石川県独自の新品種酒米「百万石乃白」。前編[Bon appétit Ishikawa !/石川県]

ずらりと並んだ石川県の日本酒を前に、ワインテイスターの大越基裕氏。どれも原料に新品種酒米・百万石乃白を使った、デビュー間もない日本酒だ。
※写真の百万石乃白を使った日本酒は、2021年2月時点で入手できたものです。

百万石乃白新しい酒米「百万石乃白」で醸された未知なる日本酒の数々。

日本酒の新酒の搾りが最盛期を迎えた2月、とある共通点をもった日本酒が一堂に集められました。ずらりと並んだ21種の日本酒はすべて、石川県にある酒蔵が酒米「百万石乃白」を原料に使って醸したもの。2020年から本格的な醸造が始まったばかりの、まだあまり世に知られていない1本が勢ぞろいしています。

これらを一挙に唎(き)いてみようというのは大越基裕氏。フランスでワイン醸造を学び、グランメゾンでシェフソムリエを務めた経験を持つ、日本のトップソムリエのひとりです。現在は、モダンベトナム料理とファインワインの店『An Di』を経営しながら、ワインテイスターとしてレストランや飲料メニューの監修やプロデュース、商品開発などで活躍中。日本酒にも精通しており、国際的な日本酒コンクールでの審査員の経験もあります。造り手、レストランサービス、カスタマー…さまざまな視点で酒類を見つめることができるプロフェッショナルです。

「21本を一気にテイスティングすることによって、まだベールに包まれた百万石乃白という新しい酒米の輪郭が浮かび上がってくることでしょう」と、大越氏は期待します。1本につき酒、水、酒と2回の試飲で一口の酒をじっくりと味わいながら、パソコンに素早くメモを打ち込んでいきます。時折、酒を口に運ぶや否や大越氏の目の色が変わるような瞬間が見られました。そのような銘柄では、とりわけ入念にテイスティングを行われていきます。

試飲しながら、香りの種類や味わいの特徴、バランス、持っている世界観などを素早くメモしていく。

『ONESTORY』フードキュレーターの宮内隼人も大越氏と共にすべての酒を唎いた。

百万石乃白通底する “軽やかさ”、きらりと光る個性。

テイスティングを終えた大越氏は開口一番、率直な感想を語ります。
「全体としては、ミッドパレット(最初に感じる味わいの次に感じる中間部の味わい)から余韻に向かって軽やかなイメージがあるように思います。旨口系のリッチな口当たりの酒を主に造っている蔵であっても、うま味とともに軽やかな終わり方をしてくれる 。心地よい抜け感がある“軽やかなお米”という印象を受けました」

百万石乃白の特長の一つが、他の酒米と比べて元々のタンパク質含有量が少ないこと。このことにより、雑味の原因となるアミノ酸が少なくなり、雑味の少ないきれいな酒を造りやすくなります。もう一つの特長は、高精白できること。玄米の表面をたくさん削っても割れにくく、雑味の元となるアミノ酸が多く含まれる表層部分を取り除くことができる。この二つの特長の相乗効果で、さらに、他の酒米に比べアミノ酸が少なくなり、すっきりした味わいに仕上げやすい酒米と言えます。大越氏は百万石乃白のポテンシャルを次のようにまとめています。

「百万石乃白は、軽やかさが光る一方、おそらくタンパク質含有量が低いことにより、主にミッドパレットの厚みが控えめになりがちという傾向もあるように感じました。厚みを出すためにうま味を無理に出そうとすると、キレが損なわれて味わいが重くなりがちです。軽やかな印象はそのままに、うま味は優しく広がり、輪郭が整っている。心地よくキレていく余韻と共に全体がうまくまとまっている。これが百万石乃白のポテンシャルを高次元に発揮させたお酒のイメージではないかと思います」

以下、大越氏の具体的なコメントとともに4本を紹介します。

天狗舞 COMON 純米大吟醸
精米歩合:50%
アルコール度数:15%
車多酒造

「元々味わいをきっちり出すことに長けている蔵元。天狗舞らしいキャラメル系やシリアル系の香り、完熟したバナナのような芳醇な香りを出しつつも、味わいにフレッシュ感を残していて軽やか。うま味と爽やかさのバランスが秀逸です。一般的には純米大吟醸の酒では明確な酸味が出てこないことが多い中、心地いい酸も感じられる。この酸があるおかげで、うま味のキレもよくなっています。天狗舞らしい力強い味わいと百万石乃白のデリケートさを見事にクロスさせています」

手取川 純米大吟醸原酒 百万石乃白
精米歩合:50%
アルコール度数:15%
吉田酒造店

「グリーンアップルに加えてほんのりストロベリーのような香りが印象的なのですが、手取川の素晴らしい点は、この香りの出し方をきちんと抑制し味わいとバランスを取っていること。グリーンアップル系の香りを出す場合、日本酒はやや甘い味わいの印象に仕上げられることが多いので、このような軽やかさが持ち味のお米とバランスを取るために、香りのコントロールがひときわ重要となります。この手取川は香りが絶妙に抑えられていて見事に軽やかであり、ミネラリーなニュアンスまである。香り、軽やかさ、ミネラル感が1本の線にうまくまとめられていて、非常にタイト、ピュア、そしてエレガントなストラクチャー(骨格)に仕上がっていると感じました」

奥能登の白菊 百万石乃白 純米吟醸
精米歩合:55%
アルコール度数:15%
白藤酒造店

「どこまでも、とことん穏やか。蒸しあげたお米やバナナのやさしい香り。口に入れた瞬間からソフトで、ミッドパレット、余韻に至るまでやさしく穏やかで、軽やかなタッチで終わっていきます。前出の手取川とは対照的に、明確な味わいのストラクチャーが出現するのではなく、ふんわりとやさしい世界観に包まれます。百万石乃白の酒米としての本質、純粋な部分を、もしかすると最もうまく捉えている造りなのかもしれません」

遊穂 生もと 純米 百万石乃白
精米歩合:68%
アルコール度数:14%
御祖酒造

「今回の21本の中で最も個性的と言えます。キャラメル系、シリアル系、完熟バナナ、パン・デピス(香辛料が入ったライ麦パン)などの香りが感じられます。非常に強いうま味と酸味のコントラストが表現されています。うま酸っぱさが際立つ世界観でありながら、最後は穏やかにキレていく。遊穂はうま酸っぱい世界観を極めて高度につくり上げる蔵です。もっとうま味や酸味を押し出した酒もありますが、このように極めて軽やかに終わっていくのは、百万石乃白という酒米ならではの個性が生かされているからでしょう。強く、芳醇な味わいを押し出す遊穂スタイルが、百万石乃白によってライトに表現されているという点で、新たなとても魅力的な仕上がりになっています」

百万石乃白を使った日本酒のテイスティングを通じて、「日本酒は農作物である」という認識を新たにしたと大越氏は話します。
「こうして百万石乃白を共通項に横断的に味わったことで、各蔵が元々持っている個性の奥に、百万石乃白が生み出す世界観が浮かび上がってきました。石川県産の独自の米を地元の蔵がみんなで使い、さまざまな日本酒が生み出されていく。これにより、石川の土地で、石川の米で、石川の水で、石川の人の力で醸された日本酒は、なんとなくこんなおいしさであると提示できたのです。元来、日本酒は農作物であり、その土地の恵みが凝縮されたもの。その個性を味わう喜びをあらためて実感しました」

「百万石乃白は軽やかな世界観を展開する酒米という本質が見えてきた」と大越氏。

1976年、北海道生まれ。国際ソムリエ協会インターナショナルA.S.Iソムリエ・ディプロマ。渡仏後2001年より『銀座レカン』ソムリエ、2006年より約3年間フランスにてブドウ栽培・ワイン醸造を学ぶ。帰国後同店シェフソムリエに就任。2013年、ワインテイスター/ワインディレクターとして独立。2017年にモダンベトナム料理店『An Di』オープン。世界各国を回りながら、最新情報をもとにコンサルタント、講演、執筆などを通じてワインの本質を伝えている。日本酒や焼酎にも精通しており、ワインと日本酒を組み合わせた食事とのマリアージュにも定評がある。

Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 石川県、公益財団法人いしかわ農業総合支援機構)

石川県食のポータルサイト
いしかわ百万石食鑑
https://ishikawafood.com/

その味わい、軽やかにして、濃醇。輝き始めた石川県独自の新品種酒米「百万石乃白」。前編[Bon appétit Ishikawa !/石川県]

ずらりと並んだ石川県の日本酒を前に、ワインテイスターの大越基裕氏。どれも原料に新品種酒米・百万石乃白を使った、デビュー間もない日本酒だ。
※写真の百万石乃白を使った日本酒は、2021年2月時点で入手できたものです。

百万石乃白新しい酒米「百万石乃白」で醸された未知なる日本酒の数々。

日本酒の新酒の搾りが最盛期を迎えた2月、とある共通点をもった日本酒が一堂に集められました。ずらりと並んだ21種の日本酒はすべて、石川県にある酒蔵が酒米「百万石乃白」を原料に使って醸したもの。2020年から本格的な醸造が始まったばかりの、まだあまり世に知られていない1本が勢ぞろいしています。

これらを一挙に唎(き)いてみようというのは大越基裕氏。フランスでワイン醸造を学び、グランメゾンでシェフソムリエを務めた経験を持つ、日本のトップソムリエのひとりです。現在は、モダンベトナム料理とファインワインの店『An Di』を経営しながら、ワインテイスターとしてレストランや飲料メニューの監修やプロデュース、商品開発などで活躍中。日本酒にも精通しており、国際的な日本酒コンクールでの審査員の経験もあります。造り手、レストランサービス、カスタマー…さまざまな視点で酒類を見つめることができるプロフェッショナルです。

「21本を一気にテイスティングすることによって、まだベールに包まれた百万石乃白という新しい酒米の輪郭が浮かび上がってくることでしょう」と、大越氏は期待します。1本につき酒、水、酒と2回の試飲で一口の酒をじっくりと味わいながら、パソコンに素早くメモを打ち込んでいきます。時折、酒を口に運ぶや否や大越氏の目の色が変わるような瞬間が見られました。そのような銘柄では、とりわけ入念にテイスティングを行われていきます。

試飲しながら、香りの種類や味わいの特徴、バランス、持っている世界観などを素早くメモしていく。

『ONESTORY』フードキュレーターの宮内隼人も大越氏と共にすべての酒を唎いた。

百万石乃白通底する “軽やかさ”、きらりと光る個性。

テイスティングを終えた大越氏は開口一番、率直な感想を語ります。
「全体としては、ミッドパレット(最初に感じる味わいの次に感じる中間部の味わい)から余韻に向かって軽やかなイメージがあるように思います。旨口系のリッチな口当たりの酒を主に造っている蔵であっても、うま味とともに軽やかな終わり方をしてくれる 。心地よい抜け感がある“軽やかなお米”という印象を受けました」

百万石乃白の特長の一つが、他の酒米と比べて元々のタンパク質含有量が少ないこと。このことにより、雑味の原因となるアミノ酸が少なくなり、雑味の少ないきれいな酒を造りやすくなります。もう一つの特長は、高精白できること。玄米の表面をたくさん削っても割れにくく、雑味の元となるアミノ酸が多く含まれる表層部分を取り除くことができる。この二つの特長の相乗効果で、さらに、他の酒米に比べアミノ酸が少なくなり、すっきりした味わいに仕上げやすい酒米と言えます。大越氏は百万石乃白のポテンシャルを次のようにまとめています。

「百万石乃白は、軽やかさが光る一方、おそらくタンパク質含有量が低いことにより、主にミッドパレットの厚みが控えめになりがちという傾向もあるように感じました。厚みを出すためにうま味を無理に出そうとすると、キレが損なわれて味わいが重くなりがちです。軽やかな印象はそのままに、うま味は優しく広がり、輪郭が整っている。心地よくキレていく余韻と共に全体がうまくまとまっている。これが百万石乃白のポテンシャルを高次元に発揮させたお酒のイメージではないかと思います」

以下、大越氏の具体的なコメントとともに4本を紹介します。

天狗舞 COMON 純米大吟醸
精米歩合:50%
アルコール度数:15%
車多酒造

「元々味わいをきっちり出すことに長けている蔵元。天狗舞らしいキャラメル系やシリアル系の香り、完熟したバナナのような芳醇な香りを出しつつも、味わいにフレッシュ感を残していて軽やか。うま味と爽やかさのバランスが秀逸です。一般的には純米大吟醸の酒では明確な酸味が出てこないことが多い中、心地いい酸も感じられる。この酸があるおかげで、うま味のキレもよくなっています。天狗舞らしい力強い味わいと百万石乃白のデリケートさを見事にクロスさせています」

手取川 純米大吟醸原酒 百万石乃白
精米歩合:50%
アルコール度数:15%
吉田酒造店

「グリーンアップルに加えてほんのりストロベリーのような香りが印象的なのですが、手取川の素晴らしい点は、この香りの出し方をきちんと抑制し味わいとバランスを取っていること。グリーンアップル系の香りを出す場合、日本酒はやや甘い味わいの印象に仕上げられることが多いので、このような軽やかさが持ち味のお米とバランスを取るために、香りのコントロールがひときわ重要となります。この手取川は香りが絶妙に抑えられていて見事に軽やかであり、ミネラリーなニュアンスまである。香り、軽やかさ、ミネラル感が1本の線にうまくまとめられていて、非常にタイト、ピュア、そしてエレガントなストラクチャー(骨格)に仕上がっていると感じました」

奥能登の白菊 百万石乃白 純米吟醸
精米歩合:55%
アルコール度数:15%
白藤酒造店

「どこまでも、とことん穏やか。蒸しあげたお米やバナナのやさしい香り。口に入れた瞬間からソフトで、ミッドパレット、余韻に至るまでやさしく穏やかで、軽やかなタッチで終わっていきます。前出の手取川とは対照的に、明確な味わいのストラクチャーが出現するのではなく、ふんわりとやさしい世界観に包まれます。百万石乃白の酒米としての本質、純粋な部分を、もしかすると最もうまく捉えている造りなのかもしれません」

遊穂 生もと 純米 百万石乃白
精米歩合:68%
アルコール度数:14%
御祖酒造

「今回の21本の中で最も個性的と言えます。キャラメル系、シリアル系、完熟バナナ、パン・デピス(香辛料が入ったライ麦パン)などの香りが感じられます。非常に強いうま味と酸味のコントラストが表現されています。うま酸っぱさが際立つ世界観でありながら、最後は穏やかにキレていく。遊穂はうま酸っぱい世界観を極めて高度につくり上げる蔵です。もっとうま味や酸味を押し出した酒もありますが、このように極めて軽やかに終わっていくのは、百万石乃白という酒米ならではの個性が生かされているからでしょう。強く、芳醇な味わいを押し出す遊穂スタイルが、百万石乃白によってライトに表現されているという点で、新たなとても魅力的な仕上がりになっています」

百万石乃白を使った日本酒のテイスティングを通じて、「日本酒は農作物である」という認識を新たにしたと大越氏は話します。
「こうして百万石乃白を共通項に横断的に味わったことで、各蔵が元々持っている個性の奥に、百万石乃白が生み出す世界観が浮かび上がってきました。石川県産の独自の米を地元の蔵がみんなで使い、さまざまな日本酒が生み出されていく。これにより、石川の土地で、石川の米で、石川の水で、石川の人の力で醸された日本酒は、なんとなくこんなおいしさであると提示できたのです。元来、日本酒は農作物であり、その土地の恵みが凝縮されたもの。その個性を味わう喜びをあらためて実感しました」

「百万石乃白は軽やかな世界観を展開する酒米という本質が見えてきた」と大越氏。

1976年、北海道生まれ。国際ソムリエ協会インターナショナルA.S.Iソムリエ・ディプロマ。渡仏後2001年より『銀座レカン』ソムリエ、2006年より約3年間フランスにてブドウ栽培・ワイン醸造を学ぶ。帰国後同店シェフソムリエに就任。2013年、ワインテイスター/ワインディレクターとして独立。2017年にモダンベトナム料理店『An Di』オープン。世界各国を回りながら、最新情報をもとにコンサルタント、講演、執筆などを通じてワインの本質を伝えている。日本酒や焼酎にも精通しており、ワインと日本酒を組み合わせた食事とのマリアージュにも定評がある。

Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 石川県、公益財団法人いしかわ農業総合支援機構)

石川県食のポータルサイト
いしかわ百万石食鑑
https://ishikawafood.com/

11年の歳月をかけて誕生した酒米「百万石乃白」の秘めたるチカラ。後編[Bon appétit Ishikawa !/石川県]

百万石乃白を使って3回の醸造を経験した吉田酒造店の社長で杜氏の吉田泰之氏。山田錦に匹敵する県産酒米の登場を喜ぶ。

百万石乃白「石川県産米で大吟醸酒を」の願いに応えるために。

冬場の寒冷な気候や白山水系の清冽(せいれつ)な地下水脈など酒造りに適した環境に恵まれる石川県。日本の代表的な杜氏集団のひとつである能登杜氏を擁する酒どころで、37の蔵が酒造りを連綿と続けています。百万石乃白は県内の蔵元や杜氏たち待望の酒米。その誕生の秘密を探るために、金沢市才田町にある石川県農林総合研究センター農業試験場を訪ねました。百万石乃白の品種開発の歴史は、2005年までさかのぼります。

当時は、日本酒の消費量が減少していく中、地域の独自性を打ち出した付加価値の高い日本酒を造るために、地域固有の酒米を求める声が大きくなってきた頃。石川県内で造られる大吟醸酒は、ほとんどが兵庫県産山田錦を使ったものでした。米の表面を50%以下に削って使うことが条件となる大吟醸酒。大粒で割れにくい山田錦は、「酒米の王様」として吟醸酒カテゴリーに君臨しています。新品種開発のスタートは、石川県酒造組合連合会からあらためて「石川県産の酒米で大吟醸酒を造りたい」との要請を受けたのがきっかけ。「50%まで精米しても割れにくいこと」と明解な育種目標が掲げられました。

百万石乃白の開発を担当した石川県農林総合研究センター農業試験場 育種グループ主任研究員・畑中博英氏。

農業試験場では毎年約50組の米の交配を行なっていると、育種グループ主任研究員・畑中博英氏は話します。
「米の中心にある白い部分を心白といいますが、この部分がもろいため、大吟醸酒を造る時は心白近くまで削るのでどうしても割れやすくなってしまいます。この問題を克服するために、交配ではとにかく心白が小さいものを選抜していきました。有望な交配の組み合わせを入念に検討しても、その結果が出るのは1年後。優良な組み合わせが見えたら、試験醸造を行いながら、さらに選抜を繰り返していくので、長い年月がかかります。割れにくくても、収穫量が少なかったり、酒にした時の味がいまいちだったりという問題もありました。結局、百万石乃白の開発には実に11年を要しました」

大粒の酒米「ひとはな」と大吟醸酒向けの酒米「新潟酒72号」との掛け合わせにより、石川県独自の酒米「'05酒系83」が誕生。これに山田錦を交配することで、のちに百万石乃白と命名される理想形「石川酒68号」の産出に至りました。肝心の“割れ”について農業試験場の分析では、50%精米時で割れるのは1割以下と、山田錦の2割以下を凌ぎます。さらに、収穫量も山田錦を上回り、草丈は山田錦よりも1割ほど低いことから台風などで倒れにくく、石川県での栽培にも適しています。

「実は私は体質的にお酒が飲めないので、香りをチェックすることしかできないのですが、試験醸造で『良い酒ができた』という声が上がった時には、本当にうれしかったですね。ようやく一人前の酒米に、うまい酒に育ったんだなと」

2018年に石川県内10の蔵が百万石乃白の使用を開始し、2019年には20蔵、2020年には24蔵に拡大。多くの酒蔵が百万石万白の醸造に挑戦しており、今後、県産酒米としての定着が期待されています。

精米後の百万石乃白。公募によって決まった愛称の由来は、その美しい白さ。

百万石乃白適切な栽培法を確立するために、田んぼでの奮闘は続く。

古来、米作りが盛んな加賀平野。そのほぼ中央に位置する白山市山島地区で、稲作・麦・大豆の農業を営む林勝洋氏は、酒米作りにも積極的に取り組んでいます。夏場、この地では、手取川が冷涼な空気を運ぶことで夜から朝にかけての気温がぐっと下がり、良質な米ができる条件である昼夜の大きな寒暖差が生まれています。酒米として山田錦に次いで全国2位の収穫量のある五百万石、吟醸酒向けに先行開発された石川県独自の酒米・石川門に加え、3年前からは百万石乃白の作付けも開始。2020年7月に設立された生産者団体「百万石乃白」研究会の会長も務めています。百万石乃白の4作目となる今年は、3.3ヘクタールに田植えしました。品種の特性が少しずつわかってきたと話します。

「百万石乃白の稲は軸が太いのが特徴です。そして軸は根元から広がり気味に伸びて、穂がつく頃には一株の束がバサッと広がっています。石川門や五百万石よりも収穫期が1ヵ月ほど遅い晩生(おくて)の品種なので、実のつまり方もしっかり。稲穂の形としてはやや不格好ですが、そのおかげで強い風でも倒れにくく、高い収穫量をもたらしています」

「百万石乃白」研究会では、25の生産者が、より適切な栽培方法や収穫後の管理方法などについて情報交換しながら栽培しています。目下の課題は、肥料の選定と施肥のタイミングの見極めです。酒蔵が百万石乃白を安心して使えるように、栽培地域や生産者による品質のブレをなくし、いち早く安定供給できる体制を整えることを目指しています。

林氏は、夏場は米作り、冬場では近隣にある吉田酒造店の蔵人として酒造りに従事した経験もあります。酒米を作るには、それを使う現場を知りたいという思いがあったからだと話します。
「我々百姓ってのは、ついつい自分が作りたいもんばかり作ってしまうもんで。それを意識的に変えていかんと。何が求められて、どんな農業をしていかねばならんのか? そこにちゃんと向き合って挑戦するのがおもしろい。新品種の酒米を作るのは正直、農業経営的にはまだ割りに合わなくて、厳しいものがある。でも、やる。なぜなら、おもしろいからですよ」

林勝洋氏に百万石乃白の田んぼを案内してもらうonestoryフードキュレーターの宮内隼人。極力農薬を使わず、土壌改良に能登産牡蠣の殻を利用するなど、そこに隠れた工夫や手間ひまの一端を知った。

百万石乃白は軸が太く、広がって伸びるのが特徴。成長しても草丈が短く、倒れにくい点も評価が高い。

26歳の結婚を機に農業指導員から脱サラ就農した林氏。農業指導を行う中で、白山市は全国屈指の稲作の好適地と判断。「ここでやっていけなきゃダメ」と農家への転身を決断したという。

百万石乃白ここにしかない水、ここでしかとれない米、ここにしかない酒造りの技を。

霊峰白山を間近に望む穀倉地帯、手取川扇状地で150年に渡って酒を造り続ける吉田酒造店。大越基裕氏も高く評価した「手取川 純米大吟醸原酒 百万石乃白」を醸す酒蔵です。迎えてくれたのは、昨年7代目社長に就任した吉田泰之氏。山形の出羽桜酒造で修行し、10年前から家業での酒造りに取り組み、現在は杜氏も務めています。

酒米には伝統的に山田錦と五百万石を使い、2008年からは県産の石川門、そして2018年からは百万石乃白を積極的に使って酒造りをしています。酒米は、精米時の割れやすさもさることながら、発酵によって溶けて味や香りが出るかどうか、雑菌に対する強さなど特徴は千差万別。吉田氏は、酒米の個性について学校のクラスを例にして話します。

「山田錦はスーパースター。勉強は一番、スポーツ万能、健康優良児の人気者。五百万石は成績は上位だけど、苦手教科も少しある、体育も脚は速いけど球技は苦手みたいな。でも、サポート役としては非常に優秀で、山田錦が学級委員長なら、五百万石は副委員長として力を発揮してくれる。実際、麹米として使うと素晴らしい働きをしてくれます。石川門は割れやすいため、雑菌に汚染されやすく、日本酒ではタブーとされるスモーキーな香りを発しやすい酒米。勉強も運動も苦手で気難しい生徒ですが、実はアートや音楽の才能がずば抜けている天才肌。扱い方によって大化けするタイプです。そして、百万石乃白は注目の転校生。勉強でもスポーツでもみんなをあっと驚かせているけれど、まだミステリアスな存在。どの子も、それぞれにかわいいんですよ」

銘酒「手取川」と「吉田蔵」を醸す吉田酒造店。山廃仕込みを中心とする伝統的な酒造りを守り、2020年に創業150周年を迎えた。

吉田酒造店では、蔵人たちが蔵周辺の田んぼで酒米を育てている。初夏、百万石乃白は青々とした葉を広げつつあった。

吉田酒造店では、兵庫県産山田錦のほか、石川県産の五百万石、石川門、百万石乃白の4種の酒米を使用。自社精米によって最適な磨き方も追求している。

この10年ほどで、全国的に日本酒の味は格段に向上したと吉田氏。しかし、その背景を知っていると、手放しでは喜べないと話します。酒造りから流通に至るまでの冷蔵技術の発達、発酵を促進させる添加物の使用、水質を醸造しやすい構成に変えるテクノロジーなど、多大なエネルギーを要し、地域で培われた酒造りの伝統技術を否定する手法も少なくないからです。極端な話、優れた酒米を取り寄せ、水質を調整し、最新技術と電力をふんだんに使えば、東京都心のビルでも高品質な酒は造れます。でも、果たしてそこに地酒としての価値はあるのでしょうか。何を大事にして、何を変えていくべきか? 吉田酒造店は原点回帰しながら、地域に根差す蔵としてのあるべき姿を模索しています。

「私たちにとって水は命。かつて暴れ川と呼ばれた手取川が山の岩石を平地に運んだことから、この地でくみ上げる地下水はミネラル感豊富な中硬水となります。この水を守っていくためには、森や田んぼが健全に保たれていくことが必須です。田んぼが次々と工場やショッピングモールに変わっていく状況に危機感を覚え、7年前に地元の酒米をさらに積極的に使っていくようになりました。百万石乃白はこの地の気候風土に適しているので、持続可能性の観点でも理想的です。そして、百万石乃白を使った3回目の造りを経て、この地の水や私たちが大事にしている伝統的な製法との相性のよさも見えてきました。ここにしかない水、ここでしかとれない米、ここにしかない酒造りの技で、次世代の地酒を造っていきたいと思います」

いまだ謎めく転校生、百万石乃白の真価が問われるのは、これからです。

百万石乃白や石川門を使った最新の酒をテイスティング。アルコール度数を13%程度に抑えた食事に寄り添う酒の開発に注力している。「百万石乃白のバランスのよさ、石川門の自然でやさしい甘味、どちらも甲乙つけがたい」と宮内。

工場内の貯蔵庫などには冷たい地下水を利用した井水式クーラーを導入して、極力電力を使わない操業を追求。今年、全電力は再生可能エネルギー由来に変えた。「アイデンティティである水、米を見つめ直し、持続可能な酒造りを目指していきたい」と吉田氏。

住所:石川県白山市安吉町41 MAP
電話:076-276-3311
https://tedorigawa.com/


Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 石川県、公益財団法人いしかわ農業総合支援機構)

石川県食のポータルサイト
いしかわ百万石食鑑
https://ishikawafood.com/

11年の歳月をかけて誕生した酒米「百万石乃白」の秘めたるチカラ。後編[Bon appétit Ishikawa !/石川県]

百万石乃白を使って3回の醸造を経験した吉田酒造店の社長で杜氏の吉田泰之氏。山田錦に匹敵する県産酒米の登場を喜ぶ。

百万石乃白「石川県産米で大吟醸酒を」の願いに応えるために。

冬場の寒冷な気候や白山水系の清冽(せいれつ)な地下水脈など酒造りに適した環境に恵まれる石川県。日本の代表的な杜氏集団のひとつである能登杜氏を擁する酒どころで、37の蔵が酒造りを連綿と続けています。百万石乃白は県内の蔵元や杜氏たち待望の酒米。その誕生の秘密を探るために、金沢市才田町にある石川県農林総合研究センター農業試験場を訪ねました。百万石乃白の品種開発の歴史は、2005年までさかのぼります。

当時は、日本酒の消費量が減少していく中、地域の独自性を打ち出した付加価値の高い日本酒を造るために、地域固有の酒米を求める声が大きくなってきた頃。石川県内で造られる大吟醸酒は、ほとんどが兵庫県産山田錦を使ったものでした。米の表面を50%以下に削って使うことが条件となる大吟醸酒。大粒で割れにくい山田錦は、「酒米の王様」として吟醸酒カテゴリーに君臨しています。新品種開発のスタートは、石川県酒造組合連合会からあらためて「石川県産の酒米で大吟醸酒を造りたい」との要請を受けたのがきっかけ。「50%まで精米しても割れにくいこと」と明解な育種目標が掲げられました。

百万石乃白の開発を担当した石川県農林総合研究センター農業試験場 育種グループ主任研究員・畑中博英氏。

農業試験場では毎年約50組の米の交配を行なっていると、育種グループ主任研究員・畑中博英氏は話します。
「米の中心にある白い部分を心白といいますが、この部分がもろいため、大吟醸酒を造る時は心白近くまで削るのでどうしても割れやすくなってしまいます。この問題を克服するために、交配ではとにかく心白が小さいものを選抜していきました。有望な交配の組み合わせを入念に検討しても、その結果が出るのは1年後。優良な組み合わせが見えたら、試験醸造を行いながら、さらに選抜を繰り返していくので、長い年月がかかります。割れにくくても、収穫量が少なかったり、酒にした時の味がいまいちだったりという問題もありました。結局、百万石乃白の開発には実に11年を要しました」

大粒の酒米「ひとはな」と大吟醸酒向けの酒米「新潟酒72号」との掛け合わせにより、石川県独自の酒米「'05酒系83」が誕生。これに山田錦を交配することで、のちに百万石乃白と命名される理想形「石川酒68号」の産出に至りました。肝心の“割れ”について農業試験場の分析では、50%精米時で割れるのは1割以下と、山田錦の2割以下を凌ぎます。さらに、収穫量も山田錦を上回り、草丈は山田錦よりも1割ほど低いことから台風などで倒れにくく、石川県での栽培にも適しています。

「実は私は体質的にお酒が飲めないので、香りをチェックすることしかできないのですが、試験醸造で『良い酒ができた』という声が上がった時には、本当にうれしかったですね。ようやく一人前の酒米に、うまい酒に育ったんだなと」

2018年に石川県内10の蔵が百万石乃白の使用を開始し、2019年には20蔵、2020年には24蔵に拡大。多くの酒蔵が百万石万白の醸造に挑戦しており、今後、県産酒米としての定着が期待されています。

精米後の百万石乃白。公募によって決まった愛称の由来は、その美しい白さ。

百万石乃白適切な栽培法を確立するために、田んぼでの奮闘は続く。

古来、米作りが盛んな加賀平野。そのほぼ中央に位置する白山市山島地区で、稲作・麦・大豆の農業を営む林勝洋氏は、酒米作りにも積極的に取り組んでいます。夏場、この地では、手取川が冷涼な空気を運ぶことで夜から朝にかけての気温がぐっと下がり、良質な米ができる条件である昼夜の大きな寒暖差が生まれています。酒米として山田錦に次いで全国2位の収穫量のある五百万石、吟醸酒向けに先行開発された石川県独自の酒米・石川門に加え、3年前からは百万石乃白の作付けも開始。2020年7月に設立された生産者団体「百万石乃白」研究会の会長も務めています。百万石乃白の4作目となる今年は、3.3ヘクタールに田植えしました。品種の特性が少しずつわかってきたと話します。

「百万石乃白の稲は軸が太いのが特徴です。そして軸は根元から広がり気味に伸びて、穂がつく頃には一株の束がバサッと広がっています。石川門や五百万石よりも収穫期が1ヵ月ほど遅い晩生(おくて)の品種なので、実のつまり方もしっかり。稲穂の形としてはやや不格好ですが、そのおかげで強い風でも倒れにくく、高い収穫量をもたらしています」

「百万石乃白」研究会では、25の生産者が、より適切な栽培方法や収穫後の管理方法などについて情報交換しながら栽培しています。目下の課題は、肥料の選定と施肥のタイミングの見極めです。酒蔵が百万石乃白を安心して使えるように、栽培地域や生産者による品質のブレをなくし、いち早く安定供給できる体制を整えることを目指しています。

林氏は、夏場は米作り、冬場では近隣にある吉田酒造店の蔵人として酒造りに従事した経験もあります。酒米を作るには、それを使う現場を知りたいという思いがあったからだと話します。
「我々百姓ってのは、ついつい自分が作りたいもんばかり作ってしまうもんで。それを意識的に変えていかんと。何が求められて、どんな農業をしていかねばならんのか? そこにちゃんと向き合って挑戦するのがおもしろい。新品種の酒米を作るのは正直、農業経営的にはまだ割りに合わなくて、厳しいものがある。でも、やる。なぜなら、おもしろいからですよ」

林勝洋氏に百万石乃白の田んぼを案内してもらうonestoryフードキュレーターの宮内隼人。極力農薬を使わず、土壌改良に能登産牡蠣の殻を利用するなど、そこに隠れた工夫や手間ひまの一端を知った。

百万石乃白は軸が太く、広がって伸びるのが特徴。成長しても草丈が短く、倒れにくい点も評価が高い。

26歳の結婚を機に農業指導員から脱サラ就農した林氏。農業指導を行う中で、白山市は全国屈指の稲作の好適地と判断。「ここでやっていけなきゃダメ」と農家への転身を決断したという。

百万石乃白ここにしかない水、ここでしかとれない米、ここにしかない酒造りの技を。

霊峰白山を間近に望む穀倉地帯、手取川扇状地で150年に渡って酒を造り続ける吉田酒造店。大越基裕氏も高く評価した「手取川 純米大吟醸原酒 百万石乃白」を醸す酒蔵です。迎えてくれたのは、昨年7代目社長に就任した吉田泰之氏。山形の出羽桜酒造で修行し、10年前から家業での酒造りに取り組み、現在は杜氏も務めています。

酒米には伝統的に山田錦と五百万石を使い、2008年からは県産の石川門、そして2018年からは百万石乃白を積極的に使って酒造りをしています。酒米は、精米時の割れやすさもさることながら、発酵によって溶けて味や香りが出るかどうか、雑菌に対する強さなど特徴は千差万別。吉田氏は、酒米の個性について学校のクラスを例にして話します。

「山田錦はスーパースター。勉強は一番、スポーツ万能、健康優良児の人気者。五百万石は成績は上位だけど、苦手教科も少しある、体育も脚は速いけど球技は苦手みたいな。でも、サポート役としては非常に優秀で、山田錦が学級委員長なら、五百万石は副委員長として力を発揮してくれる。実際、麹米として使うと素晴らしい働きをしてくれます。石川門は割れやすいため、雑菌に汚染されやすく、日本酒ではタブーとされるスモーキーな香りを発しやすい酒米。勉強も運動も苦手で気難しい生徒ですが、実はアートや音楽の才能がずば抜けている天才肌。扱い方によって大化けするタイプです。そして、百万石乃白は注目の転校生。勉強でもスポーツでもみんなをあっと驚かせているけれど、まだミステリアスな存在。どの子も、それぞれにかわいいんですよ」

銘酒「手取川」と「吉田蔵」を醸す吉田酒造店。山廃仕込みを中心とする伝統的な酒造りを守り、2020年に創業150周年を迎えた。

吉田酒造店では、蔵人たちが蔵周辺の田んぼで酒米を育てている。初夏、百万石乃白は青々とした葉を広げつつあった。

吉田酒造店では、兵庫県産山田錦のほか、石川県産の五百万石、石川門、百万石乃白の4種の酒米を使用。自社精米によって最適な磨き方も追求している。

この10年ほどで、全国的に日本酒の味は格段に向上したと吉田氏。しかし、その背景を知っていると、手放しでは喜べないと話します。酒造りから流通に至るまでの冷蔵技術の発達、発酵を促進させる添加物の使用、水質を醸造しやすい構成に変えるテクノロジーなど、多大なエネルギーを要し、地域で培われた酒造りの伝統技術を否定する手法も少なくないからです。極端な話、優れた酒米を取り寄せ、水質を調整し、最新技術と電力をふんだんに使えば、東京都心のビルでも高品質な酒は造れます。でも、果たしてそこに地酒としての価値はあるのでしょうか。何を大事にして、何を変えていくべきか? 吉田酒造店は原点回帰しながら、地域に根差す蔵としてのあるべき姿を模索しています。

「私たちにとって水は命。かつて暴れ川と呼ばれた手取川が山の岩石を平地に運んだことから、この地でくみ上げる地下水はミネラル感豊富な中硬水となります。この水を守っていくためには、森や田んぼが健全に保たれていくことが必須です。田んぼが次々と工場やショッピングモールに変わっていく状況に危機感を覚え、7年前に地元の酒米をさらに積極的に使っていくようになりました。百万石乃白はこの地の気候風土に適しているので、持続可能性の観点でも理想的です。そして、百万石乃白を使った3回目の造りを経て、この地の水や私たちが大事にしている伝統的な製法との相性のよさも見えてきました。ここにしかない水、ここでしかとれない米、ここにしかない酒造りの技で、次世代の地酒を造っていきたいと思います」

いまだ謎めく転校生、百万石乃白の真価が問われるのは、これからです。

百万石乃白や石川門を使った最新の酒をテイスティング。アルコール度数を13%程度に抑えた食事に寄り添う酒の開発に注力している。「百万石乃白のバランスのよさ、石川門の自然でやさしい甘味、どちらも甲乙つけがたい」と宮内。

工場内の貯蔵庫などには冷たい地下水を利用した井水式クーラーを導入して、極力電力を使わない操業を追求。今年、全電力は再生可能エネルギー由来に変えた。「アイデンティティである水、米を見つめ直し、持続可能な酒造りを目指していきたい」と吉田氏。

住所:石川県白山市安吉町41 MAP
電話:076-276-3311
https://tedorigawa.com/


Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 石川県、公益財団法人いしかわ農業総合支援機構)

石川県食のポータルサイト
いしかわ百万石食鑑
https://ishikawafood.com/