
ノンアルコールのペアリングの礎を築いた外山氏の原点。
WAKO ANNEXノンアルコールのペアリングの礎を築いた外山氏の原点。
2021年10月1日(金)、『和光アネックス』地階のグルメサロンがリニューアルにあたり、日本の酒や食材の魅力に改めてスポットを当てるプロジェクト「FIND OUT ABOUT NIPPON」。
今回は調布市『Maruta』のドリンクディレクターを務める外山博之氏が、3種類の食品とドリンクの組み合わせを提案します。「香り」を軸にした独自のペアリングに定評のある外山氏は、果たしてどのような組み合わせを教えてくれるのでしょうか。
外山氏は、まずバーテンダーとして飲食界のキャリアをスタートしました。しかし、バーやレストランで働くうち、徐々にワインへ興味を惹かれ、その後、ソムリエに転身。カクテルとワインの知識という強みを手に入れ、次なる興味は料理とドリンクの組み合わせに向かいました。ただし、その対象は、アルコールだけに留まりませんでした。
「“すみません、お酒飲めないんです”。時々、耳にする言葉ですが、不思議ですよね。何も悪いことをしていないのに、なぜ謝るのか」。
そう話す外山氏。あるいはそれはバーテンダーやソムリエである外山氏への、気遣いの言葉だったのかもしれません。しかし、外山氏は決意します。
この無用な「すみません」をなくすこと。お酒を飲む人も飲まない人も、平等に食事を楽しめるようにすること。
それは、遡ること5、6年前、まだ「ペアリング」という言葉も今ほど浸透していなかった頃。 更に前例のないノンアルコールのペアリングは、いわば手探りの暗中模索でした。
そこで外山氏が立てた方針はふたつ。ひとつは、あくまで料理が主役であり、ドリンクは引き立て役に徹すること。もうひとつは香りを軸に組み合わせを考えること。
こうして外山氏は、アルコール、ノンアルコールを問わず、そして以前はタブー視されていた甘い酒やカクテルも食中のドリンクとして取り入れました。今でこそノンアルコールのペアリングや食中酒としてのカクテルはすっかり市民権を得ていますが、その礎に外山氏の挑戦の歴史が果たした役割は小さくありません。
※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日(金)にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロン及びWAKOオンラインストア(上記バナー)にて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、外山博之氏がセレクトする18種の食品やお酒などをはじめ、9種のペアリングをご用意しております。WAKOオンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

「香り」を軸に組み合わさるペアリングは、単品では決して味わうことのできない口福が生む。

とにかく、香る。香る。香る。ソムリエでもある外山氏は、香りから本質と魅力を解読する。
WAKO ANNEXほんのり甘いハチミツ酒とスパイスの利いたピクルスの意外な相性。
そんな外山氏がまず選んだ酒はハチミツの醸造酒・ミード。外山氏が手にした愛媛県『完熟屋』の「ミサキミード」は、豊かな香りとほのかな甘みが特徴の上質な一本です。特に外山氏は、その香りに注目しました。
「マスカットのような爽やかな香りが特徴。酸味のバランスも良いため、甘いお酒が苦手な人にもぜひ飲んでもらいたい」。
そう話す外山氏が、組み合わせとして選んだのは、同じく愛媛県の『GOOD MORNING FARM』が作る「グリル野菜ピクルス」。旬の野菜をグリルしてからクミンとニンニクの利いたオイルに漬け込むことで、スパイスの香りと野菜本来の甘みを引き立てる逸品です。そして外山氏は、それらの香りの要素を、パズルのピースをはめるように寄り添わせました。マスカットの香り、発酵の香り、ニンニクの香り、クミンの香り。系統の異なるそれぞれの香りが一体となるのは、実は外山氏が明確な根拠をもって香りを合わせているから。
「食材の香りの成分を分析し、紐解いてみると、そこに隣接する香り、ぶつかる香り、増強する香りなど考えの方向性が見えてきます」。
これこそが外山氏のペアリングの特徴。単に感性と経験だけに頼るのではなく、香りの構成成分を見極め、科学的根拠のある相性を考える。だからこそ外山氏の提案するドリンクと食品は、まさに「腑に落ちる」説得力を持っているのです。
それは香りだけに限らず、味わいの組み合わせも同様。ミードの甘みとピクルスの酸味を合わせた根拠は、次の通り。
「一般的に人の舌は味を感じる順序があり、まず酸味、次に甘みを感じるようにできています。そしてこれらを口内調味で合わせることで感じる味にタイムラグが生まれ、伸びのある、余韻の長い味わいになります」。
まるで科学の授業のような論理的な説明です。

実験と検証を繰り返し、ペアリングの結実を導く外山氏。出合うことのなかったふたつが合わさる瞬間、感動が生まれる。

『完熟屋』の「ミサキミード」(右)と『GOOD MORNING FARM』が作る「グリル野菜ピクルス」(左)は、共に愛媛県のもの。香りを軸にしつつ、味わい、風味、余韻など、さまざまな相性を探る外山氏のペアリング。

一般的な海外産ミードのハチミツ含有量が35%ほどなのに対し、「ミサキミード」は60%。贅沢な原材料が、ふくよかな味わいを生む。

産地、原料、製法、度数。パッケージから読み取れる情報も、外山氏の貴重な判断材料。
WAKO ANNEX同系統の香りを合わせ増幅させる、王道のペアリング。
次いで外山氏が取り出しのたは、能登『松尾栗園』の「能登の焼き栗棒」。従来、栗といえば渋味を寄り添わせるために日本茶と合わせるか、あるいは洋菓子のようにブランデーなどの苦味と合わせるのが定説です。
しかし、外山氏が選んだのは、意外にもフルーティなシードルでした。シードルの酸味と栗の甘み。外山氏はこれをどう合わせるのでしょうか?
「そもそも栗にはバラ系の香りが含まれています。更に、こちらは焼き栗ということで、より重心の低い香りです」。
外山氏の言う「重心の低い香り」とは、ややスモーキーな、どっしりとした香りのこと。バラ系の成分に、焼くことで加わった硫黄化合物の香りが合わさり、バラの系統ではありつつ力強く、骨太な香りとなっています。
「一方で合わせるシードルも、複雑な香りの中にバラ系の香りを含みます。その共通項に注目しながら、まずは栗を口に含み、次いでシードルを口にしてみてください。同系統の香りが強固になり、非常にフルーティで華やかなおいしさが際立ちます」。
同系統の香りを合わせ、増幅させる。それは「自分がやり続けてきたセオリー」という、外山氏の十八番です。

『弘前シードル工房kimori』の「kimoriシードル」(右)と能登『松尾栗園』の「能登の焼き栗棒」(左)。それぞれに微かに潜むバラの香りが、合わせることで華やかに広がる。

糖度30度以上の焼き栗のみを丁寧にペーストにし、棒状に固めた「能登の焼き栗棒」は、しっとりと滑らかな食感。

「kimoriシードル」の主原料は、甘みと酸味のバランスが良いサンふじ。無濾過製法でリンゴそのままの風味を伝える。
WAKO ANNEX生ハムと番茶。ペアリングの伝道師が提案する新機軸。
最後の一品は、岩手県『肉のふがね』が丹精込めてつくる「長期熟成和牛生ハム いわて短角和牛Cesina」。
希少ないわて短角和牛を塩に漬け込んでから冷燻し、その後1年ほど熟成させるという手間暇かけた生ハムです。燻製香のある加工肉は、重い赤ワインだとタンニンで旨味が消えてしまい、フルーティ過ぎる白ワインだとえぐ味が出てしまう、というペアリング難易度の高い食品。
「定番はイタリアのちょっと甘口のスパークリングワインなどですね」と言いながら外山氏が合わせたのは、またも意外なことに、滋賀県『茶縁むすび』の「政所番茶」でした。生ハムと番茶。奇をてらったわけではありません。ここにも明確な根拠が隠れています。
「番茶と生ハムの共通項は、燻製香。両者の、個性は異なっても系統が同じ熟成香が非常にマッチし、ふくよかな香りをつくり出します」。
更に、味の上でも「番茶に含まれるミネラル分とスモーキーな渋みが、いわて短角和牛の旨味成分を際立てる」とか。
合わせ方はまず生ハムを咀嚼し、口の中にある状態で番茶を含むこと。「旨味が口の中にブワッと広がります。きっと驚くと思いますよ」と、外山氏は不適に笑いました。
甘いミード、フルーティなシードル、そしてノンアルコールの番茶で食品を引き立てた外山氏のペアリング。すべて科学的な、論理的な根拠に基づいた組み合わせですが、決して機械的なわけではありません。
例えば、最新のAIが香り成分と相性を完璧に分析し、今回のペアリングをはじき出せるかといえば、きっとそうではありません。なぜなら外山氏の発想は、その工程のなかに科学的根拠があろうとも、起点はいつも「誰かを驚かせたい、楽しませたい」という心だから。そもそもの原点が「お酒を飲む人も飲まない人も、平等に楽しんでほしい」という優しさだから。
「例えば、ホームパーティなら、お酒が大好きな人もいれば、好きだけど弱い人も、事情があって飲めない人もいる。でもせっかくのパーティなら、みんな楽しんでほしいじゃないですか」。
そう話す外山氏。これが、論理的思考に人の情が加わった最高のペアリングの形なのかもしれません。

『茶緑むすび』の「政所茶・平番茶」と『肉のふがね』の「長期熟成和牛生ハム いわて短角和牛Cesina」(左)は、意外なマリアージュ。香りの調和はもちろん、番茶が持ち上げる和牛の旨味も圧巻。

「甘いものはデザート、お茶は締め、という常識を一度忘れてください」と新たな組み合わせに挑む外山氏。
※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日(金)にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロン及びWAKOオンラインストア(上記バナー)にて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、外山博之氏がセレクトする18種の食品やお酒などをはじめ、9種のペアリングをご用意しております。WAKOオンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。
埼玉県出身。バーテンダーとしてレストランやホテルなどに勤務した後、ソムリエへ転向。以降、様々なレストランで経験を積み、2012年より代々木上原『Gris』(現『sio』」)」のマネージャーに就任。2018年より調布『Maruta』のドリンクを監修、2019年より京都『LURRA゜』のドリンクディレクションなど、ペアリングを行いながら活躍の場を広げている。
住所:東京都中央区銀座4丁目4-8 MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp
Photograph:SHINJO ARAI
Text:YUICHI KURAMOCHI
(Supprtted by WAKO)