BYAKU -Narai-愛され続けてきた「杉の森酒造」に再び命が宿る。
知る人ぞ知る、日本最長の宿場町として名高い奈良井宿。しかし、その本質は長さだけでなく、町の風景にあります。
古き良き町並みを守り続けることは容易なことではありません。当時の面影を残す、もとい、そのままの姿を成しているのは、「作る」のではなく「直す」繰り返しをしてきたからこそ。まるで秘伝のタレのごとく、修復という名の継ぎ足し、継ぎ足しは、奈良井宿の味を変えず、保たれてきたのです。
それは、長きにわたり、住民ひとり一人がそのイズムを受け継いできたことを意味します。
しかし、歴史の中から消えてしまう灯火があるのも事実。2012年に幕を閉じた『杉の森酒造』もそのひとつです。
創業は、1793年(寛政5年)。200年以上、この町並みを象徴する建物として愛され続けていました。
今回、その『杉の森酒造』が再び息吹を取り戻します。2021年8月4日、大きな大きな杉玉をシンボルに『BYAKU -Narai-』として再生を迎えました。
酒蔵の再生(2021年秋頃開業予定)はもちろん、宿泊施設と温浴施設、レストランやバー(2021年秋頃予定)という新たな役目を備え、もう一度、街の風景を形成する一端となります。
もちろん、その姿はそのままに。
BYAKU -Narai-
再生の条件は、「継ぐ」こと。決して、町の文脈から外れてはいけない。
『BYAKU -Narai-』の容姿は、『杉の森酒造』だった当時と変わりありません。
前述、大きな大きな杉玉においても、当時のシンボルを再現。建物の構造もできるだけ残し、もともとあった使用できるものにおいても再び役目を与え、『杉の森酒造』を継いでいます。
大きな梁や土壁、レストランに使用する食器の一部などはその好例。まさに泊まりながら歴史を体感できる宿なのです。
客室においては、全12室を用意。
「百一」から「百十」までの客室名によって構成されるそれぞれには、建物の既存が活かされています。
宿場町を目の前に中山道に面した「百二」、梁が露わになった「百三」、中庭を望む「百四」、蔵の中に設けた「百八」、天井高のある「百九」など、どれも個性豊か。
泊まる度、もとはどんな空間だったのかと想いを馳せるも良し。先人や過去の旅人と同じ景色を見ているのかもしれない時空を超えた邂逅体験は、必ずや特別な時間を紡いでくれるに違いありません。
BYAKU -Narai-
百にひとつの宿、それが「BYAKU -Narai-」。
『BYAKU -Narai-』には、温浴施設『山泉 SAN-SEN』も備えます。
ここにおいても町を継ぎます。湯の恵みは、信濃川の源流である山の湧き水を引き込み、旅人を癒します。
この湧き水は、古来より奈良井宿の生活を支え、今なお、その軌跡は宿場内に残っています。『BYAKU -Narai-』の前にある水場もそのひとつ。
奈良井川しかり、奈良井宿は、水とともに生きた町でもあるのです。
料理に使用する水や2021年秋頃再生予定の酒蔵における仕込み水もまた、同様の水を採用します。
宿、湯、食、酒……。それぞれの体験の向こう側には、必ず土地があり、歴史があり、文化があります。
『BYAKU -Narai-』の「BYAKU」とは、宿から得る「百」の物語を体感してほしいという願いを込め、「宿」の言語の中にある「百」から命名。
この宿には、この宿場町には、そこに身を置くからこそ感じる何かが潜んでいるのです。その何かとは、決してSNSやテクノロジーでは得られるものではありません。むしろ、真逆な世界。
百年の歴史をぜひ。
百味薬々のおもてなしをぜひ。
酒蔵の完成時には、百薬の長をぜひ。
百にひとつの宿、それが『BYAKU -Narai-』。
百分は一見に如かず。まずは、自分だけの百分の一の物語を探してみてください。
住所:長野県塩尻市奈良井551 MAP
電話:0264-34-3001
受付時間 : 10:00〜17:00
https://byaku.site
Photographs:ROCOCOPRODUCE INC.&KOJI FUJITA(TOREAL)
Text:YUICHI KURAMOCHI