宝石のように透き通る身に旨味を湛えたシラウオ。そのおいしさの秘密を求め船上へ。[NAMEGATA VEGETABLE KINGDOM/茨城県行方市]

なめがた ベジタブルキングダムOVERVIEW

日本有数の水揚げ量を誇る霞ヶ浦のシラウオ。
その透き通った美しい身と、クセのないおいしさから首都圏の鮨店や和食店でも重宝される特産品です。

シラウオ漁の解禁は毎年7月21日。そこから12月末まで、霞ヶ浦の漁師は湖上に出て網を引きます。近年は輸送技術が発達し、この時期、スーパーなどでも獲れたてのシラウオを目にすることがあるかもしれません。

では霞ヶ浦のシラウオが有名な理由は、その漁獲高や鮮度のためだけなのでしょうか?

そうではありません。魚体を傷つけぬように獲り、船上で氷漬けにし、陸に上がってすぐに選別、出荷する。実は霞ヶ浦のシラウオを知らしめ、プロの料理人をも虜にする理由は、「おいしいものを届けたい」という漁師のこだわりにありました。

弾力があり、旨味があり、甘みがあり、かつタンパクでどんな味付けにも合う。そんな霞ヶ浦が誇るシラウオの秘密に迫ります。

【関連記事】現場でしか知り得ぬ環境、気候、生産者の思い。神保佳永シェフが訪ねた行方市の食材生産者たち。[NAMEGATA VEGETABLE KINGDOM/茨城県行方市]

Photographs:TSUTOMU HARA
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(supported by なめがたブランド戦略会議(茨城県行方市))

現場でしか知り得ぬ環境、気候、生産者の思い。神保佳永シェフが訪ねた行方市の生産者たち。[NAMEGATA VEGETABLE KINGDOM/茨城県行方市]

なめがた ベジタブルキングダムOVERVIEW

2021年秋。
茨城県行方市に『HATAKE AOYAMA』の神保佳永シェフの姿がありました。旅の目的は、行方市の食材を見て、味わい、生産者と話し、その魅力の本質を知ること。厨房を飛び出し、食材生産の現場に立つことで、新たなレシピの切り口を見つけることです。

茨城県行方市のさまざまな野菜の魅力をお伝えしてきた「NAMEGATA VEGETABLE KINGDOM」。我々『ONESTORY』は繰り返し行方市を訪れ、四季折々の野菜を探り、その生産者に話を伺ってきました。そしてそれら旬の野菜の魅力を、野菜料理のスペシャリストであり、いばらき食のアンバサダーも務める神保シェフが考案するオリジナルレシピでお伝えしてきました。

これまで1年間でお届けしてきたのは、春夏秋冬の8品目の旬野菜を主役にした8種類の料理。毎回、神保シェフの元には旬を迎えた野菜がどっさりと届き、シェフはそれを試食し、その魅力を感じ取った上で、その個性が際立つ料理を考案してくれました。

そんなあるとき、ふと神保シェフがつぶやきました。

「根っこの泥がきれいに落とされ、葉がぴったりと揃っている。きっととても真摯な生産者さんがつくった野菜でしょうね」

その言葉が今回の旅につながりました。
自身の店では、可能な限り生産者と直接話し、食材を理解してから使用するという神保シェフ。畑では率先して収穫を手伝い、その場で食材にかぶりつき、すぐに生産者と打ち解ける姿からも、生産者への敬意と食材への思いが窺えます。

果たして今回の旅で神保シェフはどんな食材と出合い、どんなレシピをひらめいたのでしょうか。

(supported by なめがたブランド戦略会議(茨城県行方市))

「武者修業」の延長戦。松本日出彦、クラフトジンの世界へ。

『尾鈴山蒸留所』にて、香りと味を入念に感じ取る松本氏。いくつもの原液をブレンドし、一本を形成するゆえ、その方程式は無限。

HIDEHIKO MATSUMOTO日出彦さん、僕とも酒を造ろう。名乗りを上げたのは、日本酒蔵ではなく焼酎蔵。

「百年の孤独」。

小説のタイトルとしても知られるその名は、明治18年創業の老舗焼酎蔵『黒木本店』が手がける人気銘柄です。

その五代目・黒木信作氏こそ、「自分も日出彦さんと一緒に酒が作りたい」と名乗りを上げた人物。

「日出彦さんとは昔から仲良くさせていただいており、ご自身の蔵を離れるかもしれないという話も伺っていました。まさか現実になってしまうとは……。その後の『武者修業』の活動はずっと見ていました。自分も日出彦さんと一緒に酒が作りたい、そう思っていました」。

そんな黒木氏は、宮崎の自然豊かな山奥で『尾鈴山蒸留所』というもうひとつの蔵も運営しています。そして今回、松本氏との酒造りに提案したのは、焼酎をベースにし、麹から生まれた新たな蒸留酒「ジン」。

『黒木本店』は、老舗でありながらアグレッシブ。黒木氏の父、敏之氏が生み出した銘酒が前出の「百年の孤独」であれば、息子、信作氏が生み出した銘酒は「OSUZU GIN」。雄大な自然に囲まれた『尾鈴山蒸留所』でそれを醸します。

歴史や伝統に寄りかかるだけでなく、最新最善を追求し、常にものをゼロから生み出す情熱は、酒種は違えど確実に受け継がれています。

「せっかく蔵を離れたのであれば、これまでと全く違うことに触れてもらいたかった」と黒木氏。

テーマは、ふたつ。香りとブレンド。

「日本酒を桶で貯蔵していた時代は、新しいロットと古いロットを切り替える際、味を安定させるためにブレンドしていたと言われています。しかし、現代においての解釈は少し異なり、意図的に味の違いや個性を出すためにブレンドさせることがあります。しかし、自分はそれをあまり好まず、米を混ぜることはしていました。加えて、香りを纏わせない日本酒造りもしてきたので、今回の取り組みは真逆の世界。だからこそ、学びがあると思いました」と松本氏。

秋田『新政』、栃木『仙禽』、滋賀『七本鎗』、福岡『田中六五』、熊本『花の香』と五蔵を巡り、ようやく仕上がった酒の余韻に浸ることなく、宮崎『黒木本店』へ。

「武者修業」の延長戦、スタートです。

※WAKOオンラインストア(上記バナー)では、松本日出彦×尾鈴山蒸留所「OSUZU GIN」とオリジナルの「OSUZU GIN」を10セット限定販売。
※2021年10月1日(金)にリニューアルした『和光アネックス』地下1階のグルメサロンでは、松本日出彦×尾鈴山蒸留所「OSUZU GIN」とオリジナルの「OSUZU GIN」の単品購入も可能です。

宮崎県の高鍋町に位置する『黒木本店』。重厚感のある建物には風格が漂う。屋号とともに掲げるのは「焼酎一筋」。

大小合わせ30以上とも言われる尾鈴山瀑布群を擁する山の奥深くに位置する『尾鈴山蒸留所』。森の木々に囲まれ、人里離れたこの地で『黒木本店』の酒は醸される。

『黒木本店』のある高鍋駅も走る列車。海の上を走る際は、ゆっくりと走行してくれるため、乗客は景色を堪能できる。そんな優しさも宮崎の人柄の良さ。「宮崎の人は、みんな優しいですね!」と松本氏。

HIDEHIKO MATSUMOTO香りから感じる味の輪郭を表現したい。味の記憶は薄れても、香りの記憶は薄れない。

「武者修業」における松本氏の酒造りは、蔵の中だけでなく、蔵の外にも目を向けてきました。土地に触れ、環境を知ることによって、その蔵だからこそできる味と理由があるからです。

『黒木本店』においても、それらを学ぶために足を運びます。まず向かった先は畑。約40ヘクタールにも及ぶ広大な土地に広がるのは、原料となる芋。

「宮崎は、太陽と緑の国を謡うほど、日本の中でも長い日照時間を誇る県。小丸川の水とこの土地で育った芋で酒を造ることに意義があると思います。加えて、『黒木本店』は、土作りから携わり、循環も生んでいます。そんな背景こそ『黒木本店』の価値であり、だからこそ銘酒が生まれているのだと思います」と松本氏。

あまり知られていませんが、焼酎の製造過程で排出されてしまう焼酎粕は産業廃棄物に分類されます。『黒木本店』では、それを堆肥化させるシステムを数年かけて構築。土地の恵みから生まれたものを健全なかたちで土地に返す循環を生み出したのです。もちろん、松本氏が訪れた畑の土にもこの肥料は採用されています。

「昨今の世界的な情勢もあり、SDGsという言語を目にします。しかし、自然や土地と深い関わりを持ってきた我々にとって持続可能な環境を目指すのは当然の社会」とふたり。

そんな土地から生まれた芋・ジョイホワイトは、熟成させることによって独特な香りが生まれます。ライチのような優しい土の香りとふくよかな芋の香りは、嗅ぐ度、癒しへと誘われます。

「柑橘や薔薇と同じ香り成分も含まれています。癒しを感じるのはそのせいかもしれません」と黒木氏。「でも、日出彦さんにはこっちの言い方の方がしっくりくると思うのですがロウリュのアロマオイルなんかにも含まれている成分です(笑)」。

それを聞き、サウナ好きとしても知られる松本氏は、納得の笑みを浮かべながら「特に身と皮の間やヘタの部分がよく香る」と分析。

「この香りは、蒸留しても残ります」と黒木氏。

宮崎では、「疲れた」を「だれた」と話す方言があります。そのだれを止める(やめる)ために一杯呑むことを「だれやみ」と呼び、一日の疲れを癒すために晩酌することや焼酎を飲んで一日の疲れを癒そうという時に「だれやみしよう」と使用するのです。

つまり、焼酎とは癒し。そんな文化が根付いている土地こそ、宮崎なのです。

「今回は、香りから感じる味の輪郭を表現したい。味の記憶は薄れても、香りの記憶は薄れない。むしろ、同じ香りを嗅ぐことによって、その時の思い出や出来事がくっきり情景として浮かび上がる」と松本氏。

それを聞いた黒木氏は、ゆっくりと記憶を手繰り寄せるようにこう話します。

「今回の酒造りでは、ふたりの思い出の香りをジンで表現しようと思いました」。

黒木氏が運営する『甦る大地の会』が所有する畑は、広大な敷地面積。「風の通りも良く、作物が良質に育つ環境が整っていると思います。小丸川の水も合わさるため、まさにメイド・イン・宮崎の素材ですね」と松本氏。

芋の収穫は、まず葉を取り除き、芋を掘り起こし、その後、手作業で選別。この日も芋を積んだ『甦る大地の会』のトラクターがテンポ良く行き交う。

小丸川は、その源を宮崎県東臼杵郡椎葉村三方岳(標高1,479m)に発し、山間部を流下。渡川などを合わせながら木城町の平野部を貫流する。その後、下流部において切原川、宮田川を合わさり、日向灘に注ぐ幹川流路延長75㎞、流域面積474kmの一級河川。

焼酎生産で出た廃棄物を堆肥化して畑に戻すためのハウス。遡ること1998年に廃棄物を堆肥化する有機肥料工場を設立。2004年にはその肥料を使用し、焼酎の原料を栽培する農業生産法人「甦る大地の会」を立ち上げ、農場も運営。

焼酎粕が持つ酸性を中和するために石灰を合わせる。加えて、窒素を担うために鶏糞なども混ぜ、肥料化する。

土作りからしている畑で育った芋・ジョイホワイトの香りを確かめる松本氏。「丁寧な土の香り、美しい土の香りがします」。

ジョイホワイトを割るとより香りが広がる。「季節や天候などにもよりますが、概ね6日ほど熟成させています」と黒木氏。

酒造りは農業から。蔵の中だけでなく、蔵の外へも積極的に足を運ぶ黒木氏。「素材や環境を知らずして、良い酒造りはできません」と黒木氏。

 『尾鈴山蒸留所』の木桶は、地元の杉で造られる。「こうして土地で生まれた素材を正しい形に加工することは美しい循環。酒造りの道具は木材が多いため、林業とも密接な関係」と松本氏。

 ジョイホワイトと米麹のもろみ。「ステンレスだと、結露してしまったり、そこからカビが発生してしまうこともありますが、木桶は湿気を吸ったり、断熱作用があったりと理にかなっている。それに、人と同じで、ヒノキ風呂に入った方が気持ちいと感じるように麹もそう感じると思うんですよね!(笑)」と黒木氏。それを聞くと、もろみも喜んでいるように見える。

HIDEHIKO MATSUMOTO人と土地をブレンドすることによって、ふたりの思い出が蘇る。

『尾鈴山蒸留所』の焼酎・ジンは、地元の材料を多く使用しています。しかし、「今回は、宮崎の材料と日出彦さんの出身、京都の材料をブレンドしたいと思っています。その時にふと頭に浮かんだのがふたつありました」と言います。

ひとつは、昔、京都に訪れた際に紹介された松本氏の同級生が営む宇治茶の生産家『丸利吉田銘茶園』のほうじ茶。

もうひとつは、松本氏が蔵を離れることになった際、京都の『建仁寺』にて共に坐禅を行った際に見た庭園の松。

「確か坐禅をした後に飲んだお茶もほうじ茶でしたね」とふたり。

そんな黒木氏の計らいもあり、ブレンドに用意した材料は、宮崎のキンカン、生姜、山椒、ジェニパーベリー、そして、京都の松と『丸利吉田銘茶園』のほうじ茶。

「松とほうじ茶は、いずれもこれまでのOSUZU GINにはなかった材料なので初めての試み」と黒木氏。

そして、それぞれの香りと味を確認し、どうブレンドするかを考える松本氏。

実験と検証を繰り返し、「これは潔い。この味には意志を感じる。こっちはカウンターで飲んでるシーンが浮かぶ……。ストレートで飲むのか、ソーダで飲むのか、トニックで飲むのか……。うーん……」。初めてのブレンドゆえ、当然、なかなか決まりません。実は松本氏は、ジンラバーでもあります。プライベートでも松本氏と親交の深い黒木氏は、それを知っての提案でもありました。これまで飲み手だっただけに、造り手の想いだけでない、客視点の比重も大きいのです。

「きっとテイスティングした日や季節、天気、温度、湿度によって味の感覚は変わると思います」と黒木氏。

だかこそ、香りが重要なのかもしれません。

結局、この日は決まらず、また別の日に再度、ブレンドとテイスティング。しかし、その日にも決まらず……。

「ただ、方向性は見えた」と松本氏。

「自分であれば、絶対にこのブレンドはしない。これは完全に日出彦さんの味」と黒木氏。

だから、ブレンドはおもしろい。

ひとつ言えることは、ただ香りや味をブレンドしたものではないジンが醸されたということ。

なぜなら、これは土地をブレンドした酒であり、人をブレンドした酒、そして、ふたりの心をブレンドした酒だから。

そして、その香りは、黒木氏と松本氏にしか見えない情景を浮かび上げ、思い出を蘇らせるでしょう。ふたりだけの特権です。

果たしてどんなジンになるのか。仕上がりは、乞うご期待。

ミリ単位でブレンドしながら、細かく香りと味を形成していく。

ブレンドをしながら、自然と思い出話にも花が咲くふたり。「今回、信作とジンを造ることができたのは、蔵を離れたからかもしれません。辛いことも多かったですが、それ以上に人の想いとたくさんのギフト(体験)をいただきました」と松本氏。

今回のキーポイントとなる素材は、松の葉と宇治茶の生産家『丸利吉田銘茶園』のほうじ茶。

「実は、京都のおばんざいのローカルルールで、掛け合わせる食材は奇数と言われているんです。それを考えると……、何種合わせようか……」と松本氏。

大地の香水と形容できるクラフトジン「OSUZU GIN」は、伝統的な手仕事で造った本格焼酎に地元の素材を中心とした様々なボタニカルを漬け込んで蒸留。今回、松本氏が介在することによって、どんな化学反応を見せるのか!?

※WAKOオンラインストア(上記バナー)では、松本日出彦×尾鈴山蒸留所「OSUZU GIN」とオリジナルの「OSUZU GIN」を10セット限定販売。
※2021年10月1日(金)にリニューアルした『和光アネックス』地下1階のグルメサロンでは、松本日出彦×尾鈴山蒸留所「OSUZU GIN」とオリジナルの「OSUZU GIN」の単品購入も可能です。

住所:宮崎県児湯郡高鍋町大字北高鍋776 MAP
TEL:0983-23-0104
https://www.kurokihonten.co.jp
https://osuzuyama.co.jp/store/

1982年生まれ、京都市出身。高校時代はラグビー全国制覇を果たす。4年制大学卒業後、『東京農業大学短期大学』醸造学科へ進学。卒業後、名古屋市の『萬乗醸造』にて修業。以降、家業に戻り、寛政3年(1791年)に創業した老舗酒造『松本酒造』にて酒造りに携わる。2010年、28歳の若さで杜氏に抜擢。以来、従来の酒造りを大きく変え、「澤屋まつもと守破離」などの日本酒を世に繰り出し、幅広い層の人気を集める。2020年12月31日、退任。第2の酒職人としての人生を歩む。

Photographs&Movie Direction:JIRO OHTANI
Text&Movie Produce:YUICHI KURAMOCHI

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鹿児島から生まれる世界基準の芋焼酎。若き蔵元の情熱に、鹿児島焼酎の革新と核心を見た。[World SAKE KAGOSHIMA/鹿児島県]

鹿児島本格焼酎を巡る旅OVERVIEW

焼酎王国、鹿児島。江戸時代中期に芋焼酎が広まり、現在、鹿児島県内では112軒の蔵元が焼酎造りをしています。すべての蔵の本格焼酎の銘柄をあわせると、その数は2000以上。どれも、鹿児島県内の各地域の風土や文化、酒蔵の個性がぎゅっと詰まった逸品です。

「近年、鹿児島の焼酎がますます洗練されてきて、全体的にフルーティーで香り豊かで飲みやすいものが増えています。かつ、蒸溜酒なので味わいがすっきりとしていて、食中酒にも最適。こんなに魅力的な飲み物なのに、日本酒やビールと比べるとほとんど注目されていない。どうしてもっと流行らないのだろうと、長い間不思議に思っていました」
と話すのは、日本屈指の美食家として知られる本田直之氏。日本全国のみならず、世界中を自分の足で歩き、各地の食や酒に精通してきた本田氏が「もっとたくさんの人に鹿児島焼酎の素晴らしさを伝えたい」と、焼酎蔵と手を組み、動き始めました。

そこで開催されたのが、東京都内の料理シーンを牽引する料理人を招いての蔵元巡り。事前に本田氏と、日本を代表するワインテイスターの大越基裕氏が30近くの銘柄のテイスティングを行い、「特に香り高くて、強い個性が表れている」と感じた5銘柄の造り手を訪ねました。

「酒蔵の人々の情熱に触れることで、より深く、焼酎に惚れ込むことができる。そして東京に戻ったら、自分で体感してきたストーリーを、お店でお客様に熱く語りたくなる。そんなふうに、焼酎の造り手と料理人の情熱と情熱を掛け合わせて、パワフルに焼酎の魅力を広めていきたい」という本田氏の言葉から始まった、今回の蔵元巡り。ツアーに参加した3人の料理人も、焼酎を味わい、造り手の熱量を知り、自身の店のドリンクメニューへのオンリストを想定。
それぞれの焼酎にどんな個性があり、造り手はどんな思いを込めているのでしょうか。その熱量に触れたら、きっとあなたも鹿児島焼酎に魅了されるはずです。

Photograph:YOHEI MURAKAMI(Digital Homeless)
Text:AYANO YOSHIDA

(Supported by 鹿児島県酒造組合 / think garbage)

若き蔵人が守り抜く伝統と歴史。鹿児島の大地が生んだ麗しき芋焼酎。後編[World SAKE KAGOSHIMA/鹿児島県]

いちき串木野市・白石酒造にて。

鹿児島本格焼酎を巡る旅鹿児島の自然をそのままボトルに詰める。自らさつま芋栽培をてがける杜氏。

「鹿児島の蔵人が焼酎にこめる熱い思いに直にふれてほしい」
十数年に渡り世界を旅しながら各地の食や酒に精通してきた美食家・本田直之氏のそんな願いから始まった、酒蔵巡り。目黒『鳥しき』の池川義輝氏、麻布十番『十番右京』の岡田右京氏、渋谷『酒井商会』の3名とともに、5軒の焼酎蔵を訪ねました。

「いま、鹿児島の若手蒸溜家たちは、なんとかして焼酎業界を盛り上げようと並々ならぬ努力を積んでいます。その表現方法のひとつとして、思いを味わいに変える技術を磨いている。事前に東京でテイスティングした際にも、一口飲んだだけで、酒蔵の熱量が伝わってくるんです。というのも、香りが華やかで洗練されているほど、酒蔵の努力が結実しているということだから。今回の蔵元巡りでは、その中でも特に個性の強かった5軒をピックアップしています」とは、今回の参加者の一人であり、ワインテイスターの大越基裕氏。

作り出す味わいや香りの表現方法は酒蔵によってさまざまです。小規模だからこそ実現できる手作業にこだわる造り手、大規模な敷地と工場を持つ強みをいかす蔵元。実際に訪問してみることで、そうした個性が見えてきます。

いちき串木野市の『白石酒造』の五代目当主の白石貴史氏は、10年ほど前から地域の休耕畑を借りて、自社で無農薬のさつま芋栽培に取り組み始めました。除草剤も肥料も使わない理由は、そうすることで畑の土や芋が野生化し、自分の力で生きようとするようになるから。すると、虫に食われにくい強い芋が育つのです。

「焼酎は、さつま芋や水、大地が融合したお酒。発酵具合も含めて、自然の産物としてできあがる飲み物なので、自分はなるべく手を加えずに、自然のままの味をとどけたい」と、白石氏。
ただし、白石氏の手法では、畑を休ませながら芋を栽培する必要があるため、生産量がごくわずかになってしまいます。農薬や堆肥などを使った、一般的な芋農家のつくり方に比べ、同じ面積の畑でとれる芋の量は半分ぐらいといわれています。採算が悪くてもこの方法にこだわるのは「自分のやり方で栽培したさつま芋のほうが果物のように甘くて味わいも豊かで、他の芋より圧倒的に美味しかったんです」という至極シンプルな理由。それゆえ、できあがる芋焼酎は心地よい芋の香りと風味があって、余韻も長く残るのは当然でしょう。小さな蔵だからこそ貫ける職人の手仕事。白石氏は、愚直なまでにそれを追求しています。

こうして完成した『白石酒造』の代表銘柄「天狗櫻」は果物感を感じる独特の風味があり、総甕壺仕込みによる丸みもあるのが特徴。「沁み渡るようなやわらかい飲み口ですね」と大越氏も、しみじみと味わっていました。

杜氏の白石氏が開墾した畑で、自然栽培したさつま芋。その芋で造る焼酎は甘く、香りも豊か。

テイスティングする池川氏。「無農薬、無肥料で栽培した芋で造る焼酎はテクスチャーがやわらかく、しみ入りますね」。

白石酒造の代表銘柄「天狗櫻」をモチーフにした外装。

鹿児島本格焼酎を巡る旅大規模な酒蔵の強みを生かし、鹿児島焼酎ファンの裾野を広げる。

一方、日置市の『小正醸造』は年間の焼酎の生産量約2万石を誇る大手酒蔵。100名以上の従業員とともに、全国大手スーパーに流通する焼酎を大量生産するかたわらで、限定生産のこだわりの焼酎まで幅広く造っています。仕込みの時期には1日に30〜50トンもの大量の芋を選別しますが、地域社会とのつながりを大切にしているのも『小正醸造』のこだわり。工場内のホワイトボードには、常に、その日に扱っている芋の生産者の顔写真と名前が掲示されているのです。

「大規模な酒蔵ならではの生産力をいかして、全国に本格焼酎を流通させ鹿児島焼酎の飲み手の裾野を広げている一方で、ハンドメイドの心意気も持ち合わせたマルチプレーヤー」と評価するのは、岡田氏。限定生産の「蔵の師魂 The Green」は、ワイン酵母「ソーヴィニヨン・ブラン」から採取された酵母を使用して発酵、蒸溜した焼酎で、爽やかな香りと、まろやかなコクが特徴です。
「テクスチャーがまろっとしていてふくよかで、コクがある。メロンのような甘さ、程よい酸味のある味わいで、白ワインを感じるような香味もすばらしいですね」と岡田氏は続けます。

さらに『小正醸造』では、地域の小中一貫校・日吉学園と手を組んで「My焼酎づくり」と称したプロジェクトも実施しています。これは、中学3年生の生徒が卒業記念に、自分たちで育てた芋を使い、焼酎を造り、ラベル・化粧箱もすべて手造りし、20歳になる日まで熟成させる、という内容。開始からすでに15年ほど続いているプロジェクトなのだそう。
「鹿児島には数多の焼酎があれども、やっぱり、自分が住んでいる地域の味を大事にしたい、という思いが強い。“おらが村の焼酎”という言葉は、その象徴。鹿児島の焼酎、と一緒くたにしてしまうのではなく、日置市には日置市の味がある、と地域の子ども達に認識してもらえる機会にしています」と、社長の小正倫久氏は話します。

広大な敷地を誇る『小正醸造』の日置蒸溜蔵。

蒸溜後の原酒を熟成させる貯蔵タンク。この工程を経て、焼酎の味わいがよりまろやかになる。

大規模な酒蔵の強みを生かした、豊富なラインナップ。中央の緑のラベルが「蔵の師魂 The Green」。

鹿児島本格焼酎を巡る旅鹿児島の若手蔵人の情熱に触れた2日間。

5蔵を巡ってみて見えてきたのは、江戸時代中期から続く芋焼酎の伝統と歴史を自分なりに解釈し、それぞれの「最高の焼酎」を表現しながら、若手蔵人たちが切磋琢磨しているということ。

日本酒造りの経験を活かし、その麹造りのノウハウを焼酎に持ち込んだり、焼酎業界のタブーに切り込みシェリー樽で熟成した焼酎を造ったり、ジン造りなども積極的に行い、香りに焦点をあて焼酎を造るなど、革新的な焼酎造りに挑む蔵がある一方で、さつま芋栽培から手掛けるテロワールを感じる焼酎造り、地元とのつながりを大切にしたプロジェクトを続ける、地域・風土を感じさせる焼酎造りを行う蔵もある。それぞれが違うベクトルを示しつつも、根底にあるのは美味しい焼酎を造ることであり、素晴らしき鹿児島の焼酎文化をより多くの人に知ってもらうこと。

こうした強い情熱を持つ5蔵を実際に訪問してみて、目黒『鳥しき』の池川氏は「5蔵の焼酎のいずれかをお店に入れさせてもらいながら、焼鳥と焼酎のより具体的なペアリングを提案していきたい」と言います。たとえば、フルーティーな香りがウリの焼酎には、焼鳥のなかでも特に脂の少ない部位と合わせてみるなど、焼酎のフレーバーが豊富で、酒蔵の個性も豊かになっているぶんだけ、ペアリングの楽しみ方も奥深くなっていくはず、と感じたそう。また、渋谷『酒井商会』の酒井氏も「お店では常時20種類ほど焼酎を揃えているので、5蔵のお酒のどれかを加えたいです」と、鹿児島焼酎の魅力を堪能した様子。麻布十番『十番右京』の岡田氏の「ソーダ割の爽やかさや、飲みやすさを、普段焼酎を飲まない人にも伝えていけるメニューを展開していきたいです!」と、感想を述べています。

世界中を旅してきた本田氏は、最後にこの言葉で今回の旅を締めくくりました。
「鹿児島はとにかく土地のパワーが強い。この地で育った人が、この土地で育った芋で焼酎を造るわけだから、できあがった焼酎もパワフルで奥行きの深いものになる。一口飲めば、味からその情熱が伝わってきます。これだけ鹿児島焼酎が盛り上がっているんだ、ということを、全国のみなさんにも飲んでいただき、ぜひ感じてみてほしいですね」

焼酎をソーダで割る飲み方も一般的になってきた。炭酸とともに弾ける焼酎の香りが鼻孔をかすめ、爽やかに飲める。

住所:鹿児島県いちき串木野市湊町1丁目342 MAP
電話:0996-36-2058
https://www.honkakushochu.or.jp/kuramoto/741/

住所:鹿児島県日置市日吉町日置3309 MAP
電話:099-292-3535
http://www.komasa.co.jp/

住所:東京都品川区上大崎2-14-12 MAP
電話:03-3440-7656

住所:東京都港区麻布十番2-8-8 ミレニアムタワー B1F MAP
電話:03-6804-6646
https://jubanukyo.localinfo.jp/

住所:東京都渋谷区広尾1-12–15 リバーサイドビル 1F MAP
電話:080-8040-4822
https://sakai-shokai.jp/

Photograph:YOHEI MURAKAMI(Digital Homeless)
Text:AYANO YOSHIDA
(Supported by 鹿児島県酒造組合 / think garbage)

鹿児島芋焼酎の新たな可能性。模索する若き蔵人たちの情熱に触れる旅。前編[World SAKE KAGOSHIMA/鹿児島県]

鹿児島本格焼酎を巡る旅日本酒蔵での修業で得た麹の知見。蔵に眠る種麹菌が焼酎造りを変える。

東京都内で活躍する料理人が、世界各地の酒と食に精通する美食家・本田直之氏と、日本有数のワインテイスターである大越基裕氏のアテンドで鹿児島の焼酎蔵を巡る2日間。その焼酎旅に参加したメンバーも、やはりすごい顔ぶれでした。目黒『鳥しき』の池川義輝氏、麻布十番『十番右京』の岡田右京氏、渋谷『酒井商会』の酒井英彰氏の3名という、いずれも東京を代表する名店の店主たちです。

この旅で最初に訪れた霧島市『中村酒造場』の新銘柄「Amazing」は、実は酒井氏がすでに『酒井商会』にボトルを置いている銘柄でした。ハロウィンスイート(オレンジ芋)という品種のさつま芋を使用し、グレープフルーツやライムのようなフルーティーな香りと、紅茶のアロマが重なった、繊細かつ華やかさが特徴の焼酎です。「飲み口がやわらかくて、かつ芋の香りと柑橘の香りが調和して清涼感があります。僕はこの味が大好き」と、酒井氏はこの焼酎が好きな理由を語ります。

では、その秘密はどこにあるのか。酒井氏が絶賛する「やわらかさ」を演出している要因のひとつに、1888年の創業時から使用している麹室に生息する「室付き麹」の存在があります。
六代目の中村慎弥氏は、東京農業大学醸造科学科で酒造りの科学的な側面を学んだ後、山形の日本酒蔵に弟子入り。2012年に蔵に戻り、2017年から杜氏(製造責任者)となり家業を継いだ際、「焼酎造りに、日本酒造りから学んだ麹造りの知恵を取り入れたら、蔵の新たな代表作を造れるはず」と志します。
そこで、多くの酒蔵が専門業者から種麹を入手しているところ、中村氏は蔵で一から種麹を育てるための研究を始めます。その矢先、『中村酒造場』の蔵にはすでに生の種麹菌が生息していることを発見、微生物を育て、発酵を経て、焼酎を造り上げることに成功しました。焼酎造りにおいて、芋の扱いにはどの蔵も力を入れていますが、芋と同じように麹にこだわる人はまだ少ない。
「麹をもっと重視することで焼酎の味わいがまろやかになるという“気付き”と、実は酒蔵に種麹菌が住んでいたという僕自身の“驚き・発見”にちなみ、『Amazing』と名付けました。飲んだ方がワクワクするような酒質を目指します」と、中村氏。

焼鳥職人の池川氏も「とてもなめらかで、口のなかで余韻が続くので、焼鳥の脂をきってくれる力もありそう」と、焼き鳥とのマリアージュに期待します。

『中村酒造場』の創業当時から使い続けている麹室にはオリジナルの種麹菌が生息していた。

渋谷『酒井商会』の料理人、酒井氏は、もともと「Amazing」の大ファン。

鹿児島本格焼酎を巡る旅もっと自由な芋焼酎造りを追求した“ユートビア”。

中村氏が麹を通じて焼酎作りに新たな風を送り込んでいるように、若手蔵人たちは芋焼酎の魅力を引き出しつつ、進化させる方法を模索しています。次に訪ねた『小牧醸造』の専務・小牧伊勢吉氏は、今秋、「あえて焼酎造りのタブーに踏み込んだ」という新作を発表しました。その名も「ユートピア」。『小牧醸造』の代表銘柄「一尚シルバー」をバーボン樽で 熟成させたあと、さらにシェリー樽で熟成させた原酒 を加えた芋焼酎です。原酒が持つスモーキーさと樽の 香りが相まってドライな風味を生み出し、かつ、甘味 とフルーティーさがやわらかく調和した力作だそう。

「焼酎造りにおいて、液体に色を帯びさせるのはご法度とされてきました。焼酎は透明でなければならない。でも、『ユートピア』は洋酒の木樽で熟成させて、ほんのりとした黄金色に仕上げているんです」
すると芋の香りがさらにまろやかになり、香りも豊かになるのだという。
「もっと自由に、もっと楽しみながら、もっと美味しい芋焼酎を造りたい。その理想郷としてこの焼酎がある」と、ネーミングに込めた思いを語ってくれます。

ただ、画期的な取り組みを行いながらも、芋焼酎の歴史とアイデンティティへの敬意も失っていません。『小牧醸造』では、通常の何倍もの時間と労力をかけて、芋の選定と水洗いを行っています。芋を水洗いし、人間が目視で芋の選定作業を行うのは、ほかの多くの蔵元に共通する工程ですが、『小牧醸造』では、さらに芋を3種類の機械に通して洗浄。そのうえでたわしを用いて人の手で細かな溝に入った泥を丁寧に落としていき、痛んでいる部分を取り除いていきます。
その徹底した仕事に対して、「ここまで手をかけることにより、雑味のない、クリアで洗練された味わいの焼酎に仕上がっていますね。ソーダ割にしたら、普段強いお酒を飲まない人にも好まれそう」と、岡田さんは話します。

蒸したばかりのオレンジ芋。フルーティな香りが特徴。

本田氏と大越氏を含めて、3人の料理人が木樽を熟成させる蔵の前でテイスティング。

右から3番目が「ユートピア」。アルコール度数が40度を超える銘柄は、透明のボトルを使用。

焼酎を熟成させる甕。地中に埋まっているスタイルが特徴だ。

鹿児島本格焼酎を巡る旅華やかな香りの焼酎を、シュワっとソーダ割で楽しむ。

ところで、お湯割にして飲むイメージが強い芋焼酎ですが、鹿児島焼酎の若手蔵人たちが最近お勧めしているのは、シュワシュワっとした爽快感や開放感が魅力のソーダ割。香り高い焼酎が増え、炭酸と相性の良さをウリにする銘柄も数多く誕生しています。そんな傾向に対してソムリエの大越基裕氏はこう語ります。
「なんといっても、焼酎はフレーバーを楽しむ飲み物。蒸溜させて造るので味わいやボディがすっきりと仕上がり、ほぼ無味に近くなる分、フレーバーの個性が際立ってきます。そのうえで、最近は各酒蔵が、いわゆる“芋臭さ”を取り除き、芋がもつフルーティーな香りやあまやかさを引き立てる造り方を極めてきています。銘柄の数だけフレーバーの選択肢が増えているといっても過言ではなく、自分のお気に入りのフレーバーの焼酎を見つける愉しさも生まれてきているのです」

焼酎は「香りを楽しむ飲み物」だと、もっと多くの人に知ってほしい。そんな思いから、指宿市『大山甚七商店』の専務・大山陽平氏は大胆なチャレンジを続けています。2021年に「お酒に振りかける香水」としてビターズ「PUSH BITTERS」を製造開始。さらに、今年夏には新ハイブリッド蒸溜機を導入。明治8年の創業以来培ってきた焼酎の蒸溜のノウハウを生かして、同じ蒸溜酒であるクラフトジン造りにも力をいれています。また、東京都内でシナモンやコーラの実を使ってクラフトコーラ造りをしている伊良コーラとコラボレーション。クラフトコーラのスパイスの風味と芋のフルーティーな香りを見事に融合させた「伊良コーラ酎」を販売しました。

「遊び心を盛り込んだ存在感のある焼酎で、まずは若い飲み手に親しみをもってもらう。それを入り口に、伝統的な芋焼酎の世界に興味を持っていただけたら」と話すのは、陽平氏の父であり、代表取締役社長の修一氏。
「当蒸溜所の理念は温故知新。スピリッツ・リキュールの製造といった新しい分野を開拓しながらも、先代から受け継いだ本格焼酎の秘伝の製法や味わいも守り抜いています」とその思いを語ります。

代表銘柄のひとつ「甚七」は、黄金千貫という品種のさつま芋を原料とし、黒麹で醸した銘柄。仕込み水は蔵のある宮ヶ浜から湧き出るミネラル豊富な地下天然水を使用し、初代から受け継いだ甕壺で仕込み、常圧蒸溜で蒸溜という伝統的製法で造っています。
「原酒をタンクで長期間貯蔵熟成することで、焼き芋のような香ばしさが引き出されている。また、黒麹特有のきめの細かい旨みがありながら、すっきりとキレの良い焼酎ですね」と酒井氏はコメントします。

修一氏は、若手たちの挑戦をあたたかく見守っています。
「20代、30代の造り手を中心に『焼酎業界をもっと盛り上げるぞ』という意気込みを感じています。私は63歳で、自分の近い世代の感覚としては、伝統的なお湯割の文化をもっと広めたいという思いもあります」
それと同時に、ソーダ割で飲んだり、フルーティな香りを強調したりといった、若い造り手たちの新しい感覚にも共感。
「焼酎の世界って、割と新しいものに対して柔軟なんです。酒税法の範囲内で遊ぶ分にはいいでしょ、って(笑)。作り手が楽しみながら生産した焼酎を、県外の人にも面白がりながら飲んでもらえるとを期待しています」

長期貯蔵所「甚七伝承蔵」。甕熟成、ステンレスタンク熟成、樽熟成を行う。

醸造所の脇にある事務所の一画にはバーカウンターが備えられ、テイスティングを行うことができる。

今年夏に導入した新ハイブリッド蒸溜機。中央には香りのもととなるボタニカル専用のバスケットを内蔵。

住所:鹿児島県霧島市国分湊915 MAP
電話:0995-45-0214
http://nakamurashuzoujo.com/

住所:鹿児島県薩摩郡さつま町時吉12番地 MAP
電話:0996-53-0001
https://komakijozo.co.jp/

住所:鹿児島県指宿市西方4657 MAP
電話:0993-25-2410
http://www.jin7.co.jp/

住所:東京都品川区上大崎2-14-12 MAP
電話:03-3440-7656

住所:東京都港区麻布十番2-8-8 ミレニアムタワー B1F MAP
電話:03-6804-6646
https://jubanukyo.localinfo.jp/

住所:東京都渋谷区広尾1-12–15 リバーサイドビル 1F MAP
電話:080-8040-4822
https://sakai-shokai.jp/

Photograph:YOHEI MURAKAMI(Digital Homeless)
Text:AYANO YOSHIDA
(Supported by 鹿児島県酒造組合 / think garbage)

プリマロフト(R)キルティングマフラー

保温性抜群のプリマロフト(R)マフラー

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「合餐」 これが私たちの正解。[Gohsan 7chefs in Fukuoka/福岡県福岡市]

「世界的に活躍しているシェフのみんなが福岡に集ってイベントを開催できるのは、今回が最初で最後かもしれません」と話すのは、『合餐2021 ― 7Chefs in Fukuoka ―』の発起人、『La Maison de la Nature Goh』の福山 剛シェフ(一番右)。。会場となったのは、福岡天神に位置する『QUANTIC(クアンティック)』。

合餐2021 ― 7Chefs in Fukuoka ―「合餐」の再開と再会。今の自分たちに迷いはない。

去る11月某日。福岡にて、あるイベントが開催されました。

合餐2021 ― 7Chefs in Fukuoka ―』。

発起人は、2021年「アジアのベストレストラン50」30位にもランクインする福岡の名店『La Maison de la Nature Goh(ラ・メゾン・ドゥ・ラ・ナチュール・ゴウ)』の福山 剛シェフです。

加えて、参加シェフにおいても世界レベル。

「ミシュランガイド東京2021」二つ星、2021年「アジアのベストレストラン50」7位、2021年「世界のベストレストラン」39位の『Floriege(フロリレージュ)』川手寛康シェフ。

「ミシュランガイド京都・大阪+和歌山2021」二つ星及び「グリーンスター」、2021年「アジアのベストレストラン50」64位の『Villa aida(ヴィラ・アイーダ)』小林寛司シェフ。

初台の名店『Anis(アニス)』を経て、現在は『傳』と『Floriege』が共同運営するレストラン『デンクシフロリ』の料理長を務める清水 将シェフ。

「ミシュランガイド京都・大阪+和歌山2021」二つ星、2021年「アジアのベストレストラン50」8位、2021年「世界のベストレストラン50」では惜しくも50以内からは外れるものの76位の健闘を見せた『LA CIME(ラシーム)』の高田裕介シェフ。

「ミシュランガイド東京2021」一つ星、2021年「アジアのベストレストラン50」27位の『Ode(オード)』生井祐介シェフ。

「ミシュランガイド東京2021」二つ星、2021年「アジアのベストレストラン50」3位、2021年「世界のベストレストラン」11位の『傳』長谷川在祐シェフ。

これまでの社会情勢により、シェフたちが顔を合わせるのも実にひさかたぶり。「大規模なイベントは約2年ぶり」と皆が口を揃えます。

イベントの再開、人との再会。様々な想いが交錯するも、「今の自分たちに迷いはない」。言葉にせずとも、厨房内で喜びを分かち合いながら料理を作る姿を見れば、容易にそれを感じ取れます。

合餐2021 ― 7Chefs in Fukuoka ―』(以下、合餐』)の幕が上がる。

厨房の中での福山シェフ(左)と長谷川シェフ(右)。互いの近況報告をし合いながら、和やかな空気が流れる。

コース料理の最後の皿、デザートを合作する生井シェフ(左)と高田シェフ(右)。久々の再会に笑顔が溢れる。

小林シェフ(中央)と長谷川シェフ(奥)が同じキッチンに立ち、同じ料理を作るという異色の風景が生まれるのも、このイベントの醍醐味。

清水シェフ(左)の火入れに興味津々の生井シェフ(右)。互いの料理を間近で見ることは、学びや技術の習得につながる。

合餐』では、7人のシェフ以外に福岡をはじめ、九州のレストランもサポートに入る。川手シェフ(中央)とともに皿を仕上げるのは、赤坂「こみかん」の拓ちゃんこと末安拓郎シェフ(手前)。

メインの肉料理(下記参照)は、『デンクシフロリ』、『Villa aida』、『La Maison de la Nature Goh』の合作。こちらは、その中のひとつ、『Villa aida』が手がけるカブと柿のミルフィーユ仕立て。

上記と同じく、メインの肉料理(下記参照)にもうひとつ添えるのは、焼いたミカン。こちらも『Villa aida』が手がける。

上記と同じく、メインの肉料理(下記参照)に使用する和牛シンシン。火入れの魔術師の異名を持つ『デンクシフロリ』の清水シェフが、驚異の約8時間をかけてじっくり火入れする。清水シェフの友人でもある台湾の原住民が作った石板の上に肉を置き、手で転がしながら指先で温度を感じ取り、真まで熱を伝える。

シェフ自らテーブルまで足を運び、料理をサーブする場面も。そんな自由もゲストを大いに楽しませた。

この日のドリンクは、全てペアリング。「ドン ペリニヨン」から糸島「田中六五」まで、バリエーションに富んだプレゼンテーションを披露。

合餐2021 ― 7Chefs in Fukuoka ―想いは人を強くする。連鎖を生んだ幸福と口福。

今回、供された料理は全8品。シェフがそれぞれ料理するものもあれば、合作もあり。様々な手法で舌と目を楽しませてくれます。

しかしながら、各シェフが『合餐』について語る際、「料理は味わっていただきたいのですが……」という開口が多く見られました。その理由は、改めて様々を見直した空白の2年間を生きた在り方にあったのかもしれません。

「これまでのレストランは、“個”がクローズアップされていたと思います。ですが、これからは、“個”から“全”へ。料理も大事ですが、今回のバックテーマは“全員で楽しむこと”。美味しかったよねよりも楽しかったよね。後に、そんな風に思い出していただけたら開催した甲斐があったなと思います。そして、それぞれの生活の中で当たり前だった様々なことを考え直す良い機会になるといいなとも。事実、当たり前だったイベントもできなくなり、『合餐』を開催できたことがこれほどまでに幸せな時間だったから」と川手シェフ。

「みんなと会うには久々。いや、久々でもないかな? どっちだろう(笑)。お客様には申し訳ありませんが、まず何より自分自身がこの日を一番楽しみにしていました。普段はひとりで料理していますが、今日は尊敬できるシェフたちと一緒にキッチンで過ごすことができる。本当に幸せ」と小林シェフ。久々の再会だったシェフたちでしたが、顔を合わせれば瞬時に距離は縮まり、結実。昨今、主流の「オンライン」では成すことができないグルーヴです。

「普段、実はシェフは孤独なんです。ですが、今日は、みんなで分かち合える。それが嬉しい。料理の手法や味、スタイル、哲学など、それぞれ違いますが、だからこそ共有できる。そんな自分たちの高揚感がお客様への満足にもつながると思っています。今日をきっかけに、またレストランの価値を向上させたいです」と清水氏。

「この約2年間では、色々考えることが多かったです。レストランの経営の仕方、シェフとしての在り方……。サスティナブルという言葉もよく耳にしますが、実際に自分たちがどうそれを行動できるのか。苦しかった分、強くもなれた。対応能力やできることも増えた。明日に追われてしまう日々もありましたが、もっと先を見ることができるようにもなった。今日、この『合餐』から、また新しい一歩を踏み出したい」と高田シェフ。

「人とのつながり、喜びの分かち合い、皆で場を囲むこと。当たり前にできていたことがこれほどまでに大事なことだったのかと再確認しました。楽しみ過ぎて、料理をお待たせしたこともありましたが、それも含めて熱量があった。『合餐』に参加していただいた全員に助けられたので、それが良い時間を生んでくれました」と生井シェフ。実際、生井シェフが担当だった料理の提供は、予定よりも約30分遅れ。しかしながら、ワクワクが止まらないゲストの表情を見れば、そんなハプニングや料理を待っている時間すら愛おしかったのかもしれません。

「このメンバーの中では、以前から何かやろうかという話は出ていたのですが、僕らが集まって何かやることによって多方面にご迷惑をかけてしまう可能性がある。そんなことから色々な件の実施を決断できずにいました。当たり前だったことが当たり前でなくなったと思う反面、今までが当たり前じゃなかったのだとも思うようになりました。食事においても、どこで誰と何を食べ、共有したいのかなど、レストランの在り方も問われてくると思います」と長谷川シェフ。

「振り返れば、自分が最後に大きなイベントをしたのは『DINING OUT RYUKYU-URUMA』でした。その後、色々なことを予定してみましたが、自粛や緊急事態宣言の繰り返しで全て実現が叶いませんでした。今回のメンバーは、公私ともに皆仲も良く、コースにおいても料理の流れではなく、人の流れが感じられたと思います。性格も出ていましたし(笑)。お客様にとって、自分たちにとって、何か前を向ける良いきっかけになれば、この上なく嬉しく思います」と福山シェフ。

それぞれの想いが幾十にも重なった『合餐』。ほんの数時間の出来事は、まるで夢のごとく幕を閉じました。

『LA CIME』が手がけた1品目、柑橘の果汁と魚を合わせたセビーチェ「魚介 ヘベナ 島唐辛子 ココナッツ さつまいも」。五島の石垣鯛や九州の柑橘、そして高田シェフの出身でもある奄美大島の島とうがらしなどを使用。柑橘は5種類ほど絞ってピューレにし、「虎のミルク」の意味を持つ「レチェ・デ・ティーグレ」と大阪に拠点を持つレストランということで、某球団をイメージした虎柄の生地も添えて。生地にはタイのアラ汁も練り込む。

2品目は、『Floriege』と『傳』の合作、「トマト チーズ 牛 スグキ」。発酵をテーマに、和洋を融合。上は、スグキを葉で発酵させ、チーズを加えたトースト。下は、トーストに使用したチーズの皮と牛乳を合わせ、もう一度発酵させたムースを経産牛のカルパッチョに添える。トマトのテリーヌとガスパチョのような味わいのソース、沖縄のバニラをアクセントに。

3品目は、『La Maison de la Nature Goh』が手がける「黒大豆 肝 黒無花果」。三層から成るそれは、福岡の朝倉、クロダマルの黒大豆のケーキ、黒イチヂクとチャツネ、フォアグラとコーヒーを合わせた前菜ケーキ。

4品目は、『Villa aida』が手がけた「かぼちゃみりん粕漬 ほうずき 柑橘ピール 卵黄」。カボチャを丸ごとローストし、皮を剥ぎ、実のみガーゼで包み、みりんとレモンチェッロに漬け込む。『Villa aida』横の畑で育てたほおずき、オレンジピールを添え、みりんと卵黄で作ったソースとともに。

5品目は、『Ode』が手がけた「ノドグロ 菊 ターメリック」。カボチャとノドグロを挟み込み、パイで包む。ソースにはシナモン、ハッカク、バニラに、乾燥させたカボチャのタネを野菜出汁で煮出し、香りを移したところに豆乳とターメリックで合わせる。全てのパーツに菊を採用しているため、まとまりのある味わいと香りもアクセントに。

6品目は、『デンクシフロリ』、『Villa aida』、『La Maison de la Nature Goh』が手がける「和牛シンシン カブと柿のサワークリームマスタード 赤ワインソース」。お肉は、清水シェフが担当。うちももの柔らかい部位、シンシンを約8時間(!)かけて火入れ。その火入れにセオリーはなく、感覚と直感で温度を調整する。添えてあるカブと柿のミルフィーユ仕立てとミカンは、小林シェフが担当。ミカンは皮ごと焼いて丸ごと食べられるように調理。塩と砂糖に浸け、最後に表面を黒く焼き、自家製の七味唐辛子を振る。ソースは福山氏が担当。

7品目は、『傳』と『Floriege』の合作、「桜海老ご飯 ビスクがけ」。桜海老の香り豊かな炊き込みご飯は、長谷川シェフが担当。それに、川手シェフが手がけた蟹の旨味を効かせたビスクを合わせる。添えられたミントは、『デンクシフロリ』清水シェフのアイディア。「最後に何か添えたいなと思っていたのですが、さりげなく、清水シェフが“ミントがいいんじゃない”とひと言。川手シェフと自分にはなかった発想でした。色々なシェフの感性が重ね合わせることによって、想像を超えた味になっていく楽しみは、合作の醍醐味」と長谷川シェフ。

8品目のデザートは、『La Cime』、『Ode』、『La Maison de la Nature Goh』の合作。高田シェフが手がけたロールケーキには、奄美大島の砂糖や塩などの食材をふんだんに使用。それに、生井シェフが作った卵黄とコーヒーのフレーバーを効かせたコンブチャのソースと合わせる。 添えてあるアイスクリームは、福山シェフが担当。食材には、福岡の柿、秋王を使用。砂糖などは一切使用ぜず、自然の甘さのみで調理。料理にある『LA CIME』のロールケーキと『Ode』(系列店のカフェ『BGM』) のコーヒーは、各公式HPのオンラインストアでも購入可能。

合餐2021 ― 7Chefs in Fukuoka ―「合餐」が教えてくれたこと。それは、「進化」ではなく「深化」。

今回、『合餐』のテーブルを彩ったのは、花人・赤井 勝氏です。特筆すべきは、そのプレゼンテーション。供されるコース料理の8品に合わせ、8つの花材をライブパフォーマンスで生けてゆき、8品目と共に作品が完成するという演出手法です。

シェフは食材、自分は花材。材は違いますが、自然からの恵みをいただいて表現している同じ立場として、シェフの方々をとてもリスペクトしています。自分自身、この2年間を経て、もう一度、仕切り直して花と向き合っていきたいと思っています。今回の『合餐』では、喜びが新鮮でした。人との触れ合いが新鮮でした。一輪ごとに生ける度、お客様の表情も変化してゆき、それを感じることができました。一品ごとに刺激を受け、お腹を満たすように花を通して心と目を満たしたいと思っていました」と赤井氏。

そして、司会を務めたのは、「アジアのベストレストラン50」及び「世界のベストレストラン50」の日本のチェアマンや『DINING OUT』のホストを務めるコラムニスト・中村孝則氏。

「世界中においてコロナ禍を経験し、レストランの価値も変わってきていると思います。美味しい以外に大切なことは、“JOYFULL”と“SHARE”。これは、国際的に議論されるレストラン業界でも話題に出るキーワードです。ただお腹を満たすだけでなく、人と分かち合う、喜びを感じる、そんな精神的な豊かさを享受できるレストランが必要とされるのではないでしょうか」と中村氏。

これからのレストランに必要なことは、「進化」ではなく「深化」なのかもしれません。より深く食材とつながり、より深く生産者とつながり、より深く地域とつながり、より深くお客様とつながり……、結果、より深いレストランになる。

今回、参加したシェフたちは、名だたるタイトルを受賞しているも、そこに驕りはありません。トップランナーであり続けるために大切なことは、シェフ力ならぬ人間力。

そんな7人だからこそ、『合餐』を決断できたのです。

以前ならば、何が正解で何が不正解かわからない。そう感じていたと思います。しかし、長い時間を経て、ようやくその難問の答えを得たのかもしれません。

だから、今ならはっきりと言えます。

これが私たちの正解。

より「深化」するレストランへ。

今回、独自の芸術的表現を見せた花人・赤井氏。作品が完成するまでのプロセスも含めたライブパフォーマンスにゲストも興奮。長谷川シェフとは、パリ『ルーブル美術館』にて開催された『JAPAN PRESENTATION in PARIS』でも饗宴。

苔の島にひとつの生態系が形成されたかのような世界。8品ごと8花が生けられたそれは、まるで8人の集いのようにも見える。

合餐』の司会を担ったコラムニストの中村氏。今回のシェフは、自身がチェアマンを務める「アジアのベストレストラン50」及び「世界のベストレストラン」にランクインするレストランばかり。一番側で苦しみも活躍も見てきただけに、「この日は感慨深かった」と話す。

『合餐2021 ― 7Chefs in Fukuoka ―』は、ただのイベントではなく、何か一歩を踏み出すきっかけやこれまでの節目、そして、新たなスタート。全ての料理を出し終え、シェフたちが舞台に集まるも、なぜか手をつなぐ!?場面も。そんなチャーミングな仕草からも、7人の深い絆を感じる。


Photographs:SHINJO ARAI
Text:YUICHI KURAMOCHI

似ている味、同系統の香り、相反する要素。決まった答えがないから、ペアリングはおもしろい。[和光アネックス/東京都中央区]

千葉さんが提案するペアリングは、飲み物と飲み物の組合わせ。ミクソロジーすることによって、また違った味わいも堪能でき、2倍おいしい。

上記の品は、『富田酒造』龍宮原酒 らんかん 2016(¥3,520税込)、『川平ファーム』パッションフルーツジュース1 0 0 無糖(¥2,700税込)。

WAKO ANNEX力強い原酒を、華やかな味わいに。

2021年10月1日(金)にリニューアルした和光アネックス 地階のグルメサロンに『ONESTORY』は、そのプロデューサーとして参画しています。

「FIND OUT ABOUT NIPPON」をテーマに掲げ、日本全国から見つけ出した「おいしいニッポン」を集約。

日本酒ソムリエ・『GEM by moto』店主・第14 代酒サムライの千葉麻里絵さんや調布市『Maruta』のドリンクディレクターを務める外山博之氏らともコラボレーションし、これまでに類を見ない「食べ合せ」のプレゼンテーションも提案しています。

今回、千葉さんが提案するのは、ドリンクとドリンクの合わせ。『富田酒造』龍宮原酒 らんかん 2016と『川平ファーム』パッションフルーツジュース1 0 0 無糖です。

「ドリンクにドリンクを合わせる。意外性のある組合せですが、これもペアリングの楽しさのひとつ。熟成することによりねっとりと口に広がる黒糖の甘みと、パッションフルーツの酸味と華やかな味わいが抜群の相性。両方をロックにして交互に味わうのがおすすめ。ただし焼酎の原酒は強いので、氷を溶かしながら少しずつ味わうなど、好みに合わせて楽しんでください。さらにひと捻りするなら、焼酎、炭酸、ジュースを2:7:1で割ってもおいしく味わえます」と千葉さん。

そのまま合わせるも良し、ミックスさせるも良し。1+1の先にある答えは、楽しみ方次第で無限に広がるのです。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日(金)にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロン及び和光オンラインストア(上記バナー)にて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、外山博之氏と千葉麻里絵さんがセレクトするペアリングをご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

石垣島でパッションフルーツを始め、トロピカルフルーツの加工品製造をしている『川平ファーム』パッションフルーツジュース1 0 0 無糖。自然の甘さは、果物を直接飲んでいるかのよう。南国らしい香りも口福を増す。

『富田酒造』龍宮原酒 らんかん 2016。奄美大島でも珍しい1次・2次とも甕仕込みによるこだわりの伝統製法によって醸された龍宮原酒を熟成させた黒糖焼酎。国産米を用いることで味わいにふくらみが増し、黒麹で仕込むことにより、甕仕込み特有のしっかりとした味にキレを加える。

WAKO ANNEX重ねて広がる香りの相乗効果。

続いて、外山氏が勧めるペアリングは、香りの合わせ。

『COPECO かたすみ』ブラッドオレンジのフルーツティー 3種セットと『道の駅 よって西土佐』四万十川天然鮎のコンフィです。

「砂糖や香料を使用せず、すっきりと仕上げたブラッドオレンジのフルーツティー。その爽やかな香りに、天然鮎の清流を思わせる青い香りや、ローズマリーをはじめとしたハーブの香りが優しく寄り添います。香りを起点にするペアリングでは、このように同系統の要素で、相乗効果を狙うのが王道。単体で楽しむ以上の香りの広がりをお楽しみください。さらにコンフィの旨みや塩味に対して、お茶の持つ天然素材の酸味が広がり、さっぱりとした後味を演出します」と外山氏。

果物の香り、お茶の香り、鮎の香り……。舌だけでなく、香りのペアリングは、外山氏ならではの提案。ぜひ、お試しあれ。

鮎とお茶。意外な組み合わせ提案は、さすが外山氏。コンフィの旨味とお茶の酸味が見事に結実する。

使用した品は、『COPECO かたすみ』ブラッドオレンジのフルーツティー 3種セット(¥1,080税込)、『道の駅 よって西土佐』四万十川天然鮎のコンフィ(¥2,646税込)。

オーブンで加熱することによって、より豊かな香りが広がる。添えられたハーブの香りもひらく。

ティーバッグをくぐらせると瞬時に色と香りが広がる。鮎のオイリーな味わいにお茶がバランス良く寄り添う。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日(金)にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロン及び和光オンラインストア(上記バナー)にて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、外山博之氏と千葉麻里絵さんがセレクトするペアリングをご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

岩手県出身。保険会社のSEから日本酒に魅了されたことで飲食業界に転身。新宿の『日本酒スタンド酛(もと)』に入社後、利酒師の資格を取得。日本全国の酒蔵を訪ね、酒類総合研究所の研修などにも参加し、2015年に『GEM by moto』をオープン。化学的知見から一人ひとりに合わせた日本酒を提供する。口内調味やペアリングというキーワードで新しい日本酒体験を作り、日本のみならず海外のファンを魅了し続けるかたわら、様々なジャンルの料理人や専門家ともコラボレーションし、新しい日本酒のスタイルを日々模索する。2019年には日本酒や日本の食文化を世界に発信する「第14代酒サムライ」に叙任。。主な作品は、『日本酒に恋して』(主婦と生活社)、『最先端の日本酒ペアリング』(旭屋出版)など。出演作は、映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』(配給:シンカ)。https://www.marie-lab.com/

埼玉県出身。バーテンダーとしてレストランやホテルなどに勤務した後、ソムリエへ転向。以降、様々なレストランで経験を積み、2012年より代々木上原『Gris』(現『sio』」)」のマネージャーに就任。2018年より調布『Maruta』のドリンクを監修、2019年より京都『LURRA゜』のドリンクディレクションなど、ペアリングを行いながら活躍の場を広げている。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8  MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp

Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

(Supprtted by WAKO)

3品の合わせ技。発見、驚き、楽しさ。ペアリングとは未知なる体験。[和光アネックス/東京都中央区]

千葉麻里絵さんがお勧めするペアリングは、20年以上熟成された古酒にチーズとドライフルーツを組み合わせたおつまみ。チーズは軽く焼くことによって更に味わいをプラス。

上記に使用した品は、左より『手取川』純米大吟醸 古酒 梅舞花 -1996-(¥4,400税込)、『Fattoria Bio Hokkaido』イタリア職人がつくる カチョカヴァロ(¥3,024税込)、『Ami Nature』宝玉ピオーネのドライフルーツ(¥756税込)。

WAKO ANNEX古酒特有の熟成感と余韻を増幅。

2021年10月1日(金)にリニューアルした和光アネックス 地階のグルメサロンに『ONESTORY』は、そのプロデューサーとして参画しています。

「FIND OUT ABOUT NIPPON」をテーマに掲げ、日本全国から見つけ出した「おいしいニッポン」を集約。

日本酒ソムリエ・『GEM by moto』店主・第14 代酒サムライの千葉麻里絵さんや調布市『Maruta』のドリンクディレクターを務める外山博之氏らともコラボレーションし、これまでに類を見ない「食べ合せ」のプレゼンテーションも提案しています。

今回の面白さは、組み合わせの妙だけではありません。1+1のペアリングに加え、更に+1した3つのペアリング。

まず、千葉さんが提案するのは、『手取川』純米大吟醸 古酒 梅舞花 -1996-と『Fattoria Bio Hokkaido』イタリア職人がつくる カチョカヴァロ、『Ami Nature』宝玉ピオーネのドライフルーツです。

「このお酒は20年以上の時間をかけてじっくりと熟成させた古酒。その熟成感とドライフルーツの濃厚な風味、そして古酒の長く続く余韻とチーズの香り、それぞれのトーンを組み合わせました。カチョカヴァロチーズをフライパンで香ばしく焼き、その上にドライフルーツのピオーネを細かく刻んで振りかけてお酒と合わせてみてください」と千葉さん。

それぞれの個性が一体となった味わいと、長く続く香りの余韻が楽しめます。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日(金)にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロン及び和光オンラインストア(上記バナー)にて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、外山博之氏と千葉麻里絵さんがセレクトするペアリングをご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

外山氏がお勧めするひとつ目のペアリングは、もはや料理! 味わい豊かなのり佃煮と大山こむぎを使用した香り豊かなタリアテッレを和え、濃厚なトマトジュースとともにいただく。

上記に使用した品は、左より『LaLaLa Farm』フルーツトマトジュース(¥3,240税込)、『大山こむぎプロジェクト』鳥取県産 大山こむぎ 大山パスタ タリアテッレ(¥378税込)、『三福海苔』佐賀有明 香味のり佃煮 65g(¥810税込)。

WAKO ANNEX山と磯の香り、その意外なる親和。洋梨×乳製品でチーズケーキのコク。

続いて、外山氏が勧めるペアリングは2種。こちらにおいても、3種の組み合わせになります。

まずは、『LaLaLa Farm』フルーツトマトジュースと『大山こむぎプロジェクト』鳥取県産 大山こむぎ 大山パスタ(タリアテッレ)、『三福海苔』佐賀有明 香味のり佃煮です。

「北海道ニセコ町『LaLaLa Farm』のトマトジュースは、完熟有機トマトを使ったフレッシュな香りが特徴。その青い緑の香り、いわば土の香りの成分に、あえて磯の香りを合わせてみました。香りの成分は似た系統のものだけではなく、一見、相反する系統のもの同士を合わせても、意外な魅力が引き出されることがあるもの。この組合せも、海苔の香りがトマトの香りと調和し、それぞれの旨みがいっそう引き出されます」と外山氏。

ふたつ目の食べ合わせは、『Le Verger ヤマヨ果樹園』ル レクチエジュースと『NORTH FARM STOCK』北海道クラッカー(プレーン)、『オオヤブデイリーファーム』ヨーグルトディップ プラスワンです。

「新潟県特産の最高級洋梨・ル レクチエをそのまま搾ったストレートジュース。まず着目したのはふわりと広がるその豊かな香りです。洋梨のフレッシュな香りと乳製品の発酵由来の香りが繋がり、口の中で調和します。味の面でも洋梨の甘みにヨーグルトディップの適度な塩気が加わり、まるでチーズケーキのような味わいに変化。北海道産小麦が香るクラッカーと合わせ、よりカジュアルに楽しむのもおすすめします」と外山氏。

食べ物と飲み物でもなければ、1+1でもない。食べ物と食べ物、はたまた料理にも近い合わせ。様々な視点から組み合わせ、食べあわせることによって、ペアリングの口福は倍増するのです。

外山氏がお勧めするふたつ目のペアリングは、ホームパーティにも最適。濃厚なヨーグルトをクラッカーに乗せた味は、まるでチーズケーキのよう。フレッシュなル レクチェのストレートジュースとともに。

上記に使用した品は、左よりLe Verger ヤマヨ果樹園』ル レクチエジュース 500ml (¥2,484税込)、『NORTH FARM STOCK』北海道クラッカー プレーン(¥405)、『オオヤブデイリーファーム』ヨーグルトディップ プラスワン(¥1,080税込)。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日(金)にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロン及び和光オンラインストア(上記バナー)にて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、外山博之氏と千葉麻里絵さんがセレクトするペアリングをご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

岩手県出身。保険会社のSEから日本酒に魅了されたことで飲食業界に転身。新宿の『日本酒スタンド酛(もと)』に入社後、利酒師の資格を取得。日本全国の酒蔵を訪ね、酒類総合研究所の研修などにも参加し、2015年に『GEM by moto』をオープン。化学的知見から一人ひとりに合わせた日本酒を提供する。口内調味やペアリングというキーワードで新しい日本酒体験を作り、日本のみならず海外のファンを魅了し続けるかたわら、様々なジャンルの料理人や専門家ともコラボレーションし、新しい日本酒のスタイルを日々模索する。2019年には日本酒や日本の食文化を世界に発信する「第14代酒サムライ」に叙任。。主な作品は、『日本酒に恋して』(主婦と生活社)、『最先端の日本酒ペアリング』(旭屋出版)など。出演作は、映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』(配給:シンカ)。https://www.marie-lab.com/

埼玉県出身。バーテンダーとしてレストランやホテルなどに勤務した後、ソムリエへ転向。以降、様々なレストランで経験を積み、2012年より代々木上原『Gris』(現『sio』」)」のマネージャーに就任。2018年より調布『Maruta』のドリンクを監修、2019年より京都『LURRA゜』のドリンクディレクションなど、ペアリングを行いながら活躍の場を広げている。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8  MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp

Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA
(Supprtted by WAKO)

奈良井宿のリアルな一瞬を切り取り、伝える。「季節感」という言葉に込められた料理人の思い。[BYAKU-Narai-/長野県塩尻市]

BYAKU -Narai-全体のコンセプトは、「リアルな季節感」を伝えること。

奈良井宿の老舗酒蔵『杉の森酒造』を再生して生まれた宿泊施設『BYAKU -Narai-』。その同じ屋根の下に、レストラン『嵓 kura』はあります。塩尻市でレストラン『ラ・メゾン・グルマンディーズ』を営んでいた友森隆司氏をシェフに迎え、『傅』の長谷川在佑氏が監修を担う店。今回はその料理の内容を紐解いてみます。

「リアルな季節感を伝える料理」。

『嵓 kura』の料理長・友森隆司氏に料理のコンセプトを聞くと、即答でそんな答えが返ってきました。

ただの「季節感」ではなく、「リアルな季節感」。それは山の斜面に見える植物であり、風に混じる香りであり、田舎の食卓に上る漬物のこと。秋だからキノコを食べるのではなく、キノコが出てきたから秋を感じるような、自然中心の考え方のこと。

友森氏はこのコンセプトを軸に、料理監修を担う長谷川在佑氏と協議を重ねます。そして導き出した結論。それは奈良井宿の伝統を踏まえつつ、極力シンプルな調理にすること。そしてそのシンプルさのために食材は徹底的に吟味すること。

食材にこだわる。ある意味ありふれた言葉ですが、友森氏の行動は想像の上を行きます。何しろ毎日5時間、車に乗って山を一周回るのですから。それもただ生産者の元で食材を集めて回るだけではありません。ある時は山に踏み込み野草を集め、ある時は畑で直接収穫を手伝い、ある時は長靴に履き替えて水をかき分ける。「厨房よりも野山にいる時間が長いかもしれません」と笑う友森氏ですが、これこそが友森氏。生産者と話す時間も、季節の変化を肌で感じる時間も、すべて『嵓 kura』の料理に生き生きと表現されているのです。

『嵓 kura』のメインホールは、かつて『杉の森酒造』だったころ、蔵として使われていた場所。

『嵓 kura』の対面式カウンター。眼前の窓から緑を望む心地よい席。手前の遺構が当時の面影を残す。

BYAKU -Narai-

素朴で力強く、素材感が際立つ。奈良井らしさが宿る8品。

「夏は植物が上に向かって伸び、繁り、実る季節。秋はその方向が逆になり、地中に向かって伸びるイメージ。だからキノコや根菜のように土を感じる素朴さ、力強さが中心になってきます」。

友森氏はそう言いました。

では、全8品の料理を見ていきたいと思います。

一品目「清香」は、信州の伝統野菜・松本一本葱と出汁だけで仕上げたすり流し。出始めである秋のネギの、甘みよりも爽やかな青みのある味わいを上品な出汁でまとめます。「まずは土に潜って行くネギで、物語の始まりを連想させる」という友森氏の狙いです。

続く一品は「暮らし」と名付けられた信州名物のおやきです。その名前は、おやきが長野において、生活の一部というほど一般的だから。その定番の料理に驚きをもたせるため、餡にアカヤマドリというキノコと信州ぎたろう軍鶏のミンチを使用しました。

「ポルチーニのような風味のあるアカヤマドリは洋食ではお宝のような存在。こうしたメニューが生まれるのも、和食の長谷川さんと洋食出身の私が一緒にやるおもしろさです」。

友森氏はそう話しました。

お造りはシナノユキマス。通年手に入る川魚に季節感を出すため、山で採った天然山クルミと柿を使用しました。川魚という定点に、季節の素材で味わいを添える。これもまたシェフの言う「リアルな季節感」のひとつです。

海のない長野県において、鯉は何よりも貴重なタンパク源でした。しかし、交通が発達し、遠方の食材が簡単に手に入るようになると、次第にその文化も失われていきました。今ではお祝いや産前産後の妊婦さんが栄養を摂るために食べる風習が残っている程度。その文化をなくさぬために、魚料理には鯉が登場します。

「地元に人に“え、これが鯉!?”と言わせたい」。友森氏はそう不敵に笑います。

地元で鯉が敬遠されがちな理由は、泥臭さと小骨の多さ。ここに料理人の技が光ります。身は1週間、ペーパーに水分を吸わせながら寝かせることで、水分とともに泥臭さも抜け、透明感ある味わいに変化。さらに小骨は鱧のように骨切りして食べやすくします。これを根菜と合わせて揚げ出しに。友森氏と長谷川氏はこの料理をあえて「伝承」と名付けました。

コースは中盤です。

「里山」と名付けた料理は、その名の通り、友森氏がその日に目にした里山の景色を皿の上で表現したサラダ。長谷川氏の店である『傅』の名物「傅サラダ」をベースに、それぞれの食材に最適な調理を施した上で盛り合わせます。無論、内容は日替わり。この日はホオズキやマイクロキュウリなど、15種の食材が盛り込まれました。

肉料理は友森氏が「秋口がおいしくなってくる」という鴨。松本で育てられるフランス原産のバルバリー鴨を治部煮に仕立てました。全身に血が回るように締めるエトフェという手法がとられる希少なフランス鴨。長野県の懐の深さを改めて感じさせる一品です。

食事は、長谷川氏が得意とする土鍋ごはん。7〜8種類のキノコをソテーし、出汁で炊いたご飯に混ぜて提供する秋らしい料理です。米、水、キノコ、すべてが地元産のため「水脈がつながっているため、味の調和が取りやすい。これは成分だけでは測れない部分」と友森氏。その繊細な感覚に訴える美味こそが、当地で食事を味わう醍醐味なのでしょう。

デザートは洋梨のパイ包み焼き。実は奈良井宿のある塩尻市は10種以上の品種が栽培される洋梨の名産地。季節の移ろいとともに使用する品種を使い分け、秋口の清涼感から晩秋、初冬の濃厚さまで季節の移ろいを感じてもらえるデザートです。

「レストランでは食後に帰宅しますが、ここは宿ですから食べたら部屋に戻るだけ。ボリュームや食後感も含め、やり尽くすことができます」友森氏はコース全体の流れをそう語りました。主食材が際立つ8品の料理それぞれはもちろん、コース全体を俯瞰することで、シェフが伝えたかった物語、この奈良井宿という場所の魅力が浮かび上がります。

ネギのすり流し「清香」と松本一本葱。辛味を抑えつつ、この時期のネギ本来の爽やかな風味を引き出した。

おやき「暮らし」と信州ぎたろう軍鶏、キノコのスープ。軍鶏とキノコをこの地の味噌が結びつける。

お造り「水明」とシナノユキマス。新鮮なシナノユキマスの透明感ある身を、クルミダレと柿のガリという2種の味付けで。

地元の鯉食文化の継承を目指す「伝承」と骨切りした鯉。この時期、味わいを増す里芋やカボチャとともに揚出しに。

野菜やハーブのサラダ「里山」と野菜たち。近隣農家の野菜やハーブを、それぞれに適した味付け、下処理をした上で盛り付けた。

鴨の治部煮「嵓シシ」とバルバリー鴨。旨みが濃縮されたフランス鴨を蕪の出汁や松本一本葱とともに炊いた一品。

土鍋ごはん「饗」とキノコ。水、キノコ、米をすべて地元産で揃えることで、バランスの取れたおいしさを実現。

「Mizu-Gashi」と洋梨。黒文字のシロップでコンポートした洋梨をパイ包みに。パイを使いつつ、洋梨の瑞々しさを残す。

BYAKU -Narai-

シンプルな料理を支えるのは、真摯な生産者の手による食材たち。

友森氏が食材の解説をしてくれる時、必ずそこに「誰々さんの」という冠が付けられていました。そしてまるで友人を自慢するかのように、その人のエピソードも教えてくれるのです。

「松本の笹井酒造の蔵人さんだった人が、突然鴨を育て始めたんです」。

「この一本葱はつむぐ農園のもの。まるで子どもを育てるように、丁寧に育てる方です」といった具合。

なぜこれほどまで、友森氏が地域に溶け込んでいるのでしょう。そのヒントは、視察に訪れた塩尻の自然栽培農園『with earth』で見えてきました。

1000年持続できるライフスタイルを目指し、東京から家族で移住して自然栽培に挑む『with earth』の大塚直剛氏は話します。

「たとえば米。人間の手で植えた米ですが、彼ら自身が生きようとします。その力に雑草たちがOKを出し、米は自然に育っていく。人ができるのは、その環境を整えること」。大塚氏の言葉は時に哲学的で、素人の理解が及ばない範囲にまで及びます。何とか理解しようとする取材陣を横目に、友森氏は言います。

「僕は知識がないから、どうすれば米や野菜がおいしくなるかわかりません。わからないから、飛び込んでいくしかない」。

例えば、大塚氏が「泥の柔らかさは赤ちゃんの肌が理想」と言えば、真っ先に靴を脱いで田んぼに入るのが友森氏。何度も足を運び、顔を合わせ、純粋な疑問を真っ直ぐにぶつける。そうすることで料理人と生産者という垣根がなくなり、いわばひとつのチームとして、良いものを生む好循環ができあがるのです。

友森氏が「相手が長谷川さんだから(シェフ就任の話を)受けたんです」という長谷川氏も同様。東京に店を構えつつ、時間が許す限り生産者の元をめぐる長谷川氏。実際に自分が会って、生産者と互いに納得するまで話すのが長谷川氏のスタイル。地域を大切にする気持ちが根底にあるからこそ、長谷川氏の表現する郷土料理は、単なる上辺の踏襲ではなく、地元の人さえ揺り動かす重厚感があるのでしょう。

シナノユキマスの養殖場『田川浦養魚場』のオーナー・百瀬陽一氏との関係値も同様。湧水を直接引いて、常に流れの中で魚を育てるこの養魚場。流れがあるから薬も使えず、自然に任せる養殖法は「運任せの部分もある」と百瀬氏。出荷まで3〜5年かかり通常の3〜5倍の餌を与えて育てるこの希少なシナノユキマスの養殖場を、友森氏は毎日訪れます。

「シナノユキマスは、この地域の宝物。ただ1日で鮮度が落ちてしまうから、使う分だけ毎日仕入れるしかない」と友森氏。それを横で聞いた百瀬氏は「毎日来る人なんて他にいないけどな」と笑います。そんな言葉にも、商売を超えた信頼関係が垣間見えました。

友森氏は、作った料理は生産者に食べていただくようにしているといいます。それは生産者の方々に、自身のやり方と食材に対して自信と誇りを持ってもらうため。

「あなたの食材にはこういう価値があります、ということをしっかりと伝えたい。そのためには僕自身がある程度の地位にいることが必要」。友森氏はそう語ります。

『with earth』を訪れた友森氏と長谷川氏。大塚氏の理念や情熱に真剣に耳を傾ける。

深い山々が連なる塩尻市。この山を駆け巡るのが友森氏の日課。

大塚氏の米作りは、自然本来の力を引き出す自然農法。都心からの移住者である大塚氏は試行錯誤しながら挑む。

雪解け水が地中で濾過された湧水は地域の財産。米も野菜も魚も肉も、この水によって支えられている。

撮影時は7月、眩しいほどの緑に囲まれていた塩尻も現在は稲穂の黄金色。訪れる度に景色が変わるのも、この地の魅力のひとつ。

湧水が流れ続ける『田川浦養魚場』の養殖池。水温は年間通して13〜15℃という冷たさ。

各地で養殖が試されたシナノユキマスだが、成功したのは一部。完全民間で営まれるのは、この『田川浦養魚場』のみ。

百瀬氏の話を聞く友森氏と長谷川氏。話はシナノユキマスの身質のみならず、餌や飼育方法にまで及んだ。

先代が亡くなり、一度はやめようと思ったという百瀬氏だが全国から要望が届き継続を決意。「水が出る限りやるしかない」と笑った。

BYAKU -Narai-

日々、刻々と移り変わる今を切り取り、食という体験に落とし込む。

「例えば、同じ10月でも、初旬のキノコと下旬のキノコは別物です。そして来年、同じ時期なら同じものがあるかといえば、それも違う。リアルな季節感とは、瞬間的なものです。だからその瞬間を、ストレートに体験していただきたい」。友森氏は言いました。自身の店の合間をぬって繰り返しこの地に足を運ぶ長谷川氏もその気持ちは同じ。食とは体験である。友森氏と長谷川氏がつくり上げた秋のコースからは、そんな思いを強く感じます。

夏、上に向かって伸びる力が秋になると地中に向かう。友森氏が言っていた秋の食材の特徴。さらに冬になると熟成し、滋味深い味わいが加わってくるのだとか。野山をフィールドにする友森氏の実感がこもった言葉に、改めてこの地の自然の美しさが感じられます。

『杉の森酒造』の跡地に生まれた『嵓 kura』では、やがてこの地の水で仕込んだ日本酒も生まれます。その酒樽を横目に見つつ、奈良井の「リアルな季節感」が込められた料理を楽しむ。それは訪れる人の心に長く残り続ける、体験となることでしょう。

フレンチと和食、地元と東京。異なる部分も多いが、地域に対する思いは同じという友森氏と長谷川氏。「ふたりだからこそできることがある」と友森氏。

住所:長野県塩尻市奈良井551 MAP
電話:0264-34-0001
受付時間 : 10:00〜17:00
https://byaku.site

Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA

奈良井宿のリアルな一瞬を切り取り、伝える。「季節感」という言葉に込められた料理人の思い。[BYAKU-Narai-/長野県塩尻市]

BYAKU -Narai-全体のコンセプトは、「リアルな季節感」を伝えること。

奈良井宿の老舗酒蔵『杉の森酒造』を再生して生まれた宿泊施設『BYAKU -Narai-』。その同じ屋根の下に、レストラン『嵓 kura』はあります。塩尻市でレストラン『ラ・メゾン・グルマンディーズ』を営んでいた友森隆司氏をシェフに迎え、『傅』の長谷川在佑氏が監修を担う店。今回はその料理の内容を紐解いてみます。

「リアルな季節感を伝える料理」。

『嵓 kura』の料理長・友森隆司氏に料理のコンセプトを聞くと、即答でそんな答えが返ってきました。

ただの「季節感」ではなく、「リアルな季節感」。それは山の斜面に見える植物であり、風に混じる香りであり、田舎の食卓に上る漬物のこと。秋だからキノコを食べるのではなく、キノコが出てきたから秋を感じるような、自然中心の考え方のこと。

友森氏はこのコンセプトを軸に、料理監修を担う長谷川在佑氏と協議を重ねます。そして導き出した結論。それは奈良井宿の伝統を踏まえつつ、極力シンプルな調理にすること。そしてそのシンプルさのために食材は徹底的に吟味すること。

食材にこだわる。ある意味ありふれた言葉ですが、友森氏の行動は想像の上を行きます。何しろ毎日5時間、車に乗って山を一周回るのですから。それもただ生産者の元で食材を集めて回るだけではありません。ある時は山に踏み込み野草を集め、ある時は畑で直接収穫を手伝い、ある時は長靴に履き替えて水をかき分ける。「厨房よりも野山にいる時間が長いかもしれません」と笑う友森氏ですが、これこそが友森氏。生産者と話す時間も、季節の変化を肌で感じる時間も、すべて『嵓 kura』の料理に生き生きと表現されているのです。

『嵓 kura』のメインホールは、かつて『杉の森酒造』だったころ、蔵として使われていた場所。

『嵓 kura』の対面式カウンター。眼前の窓から緑を望む心地よい席。手前の遺構が当時の面影を残す。

BYAKU -Narai-

素朴で力強く、素材感が際立つ。奈良井らしさが宿る8品。

「夏は植物が上に向かって伸び、繁り、実る季節。秋はその方向が逆になり、地中に向かって伸びるイメージ。だからキノコや根菜のように土を感じる素朴さ、力強さが中心になってきます」。

友森氏はそう言いました。

では、全8品の料理を見ていきたいと思います。

一品目「清香」は、信州の伝統野菜・松本一本葱と出汁だけで仕上げたすり流し。出始めである秋のネギの、甘みよりも爽やかな青みのある味わいを上品な出汁でまとめます。「まずは土に潜って行くネギで、物語の始まりを連想させる」という友森氏の狙いです。

続く一品は「暮らし」と名付けられた信州名物のおやきです。その名前は、おやきが長野において、生活の一部というほど一般的だから。その定番の料理に驚きをもたせるため、餡にアカヤマドリというキノコと信州ぎたろう軍鶏のミンチを使用しました。

「ポルチーニのような風味のあるアカヤマドリは洋食ではお宝のような存在。こうしたメニューが生まれるのも、和食の長谷川さんと洋食出身の私が一緒にやるおもしろさです」。

友森氏はそう話しました。

お造りはシナノユキマス。通年手に入る川魚に季節感を出すため、山で採った天然山クルミと柿を使用しました。川魚という定点に、季節の素材で味わいを添える。これもまたシェフの言う「リアルな季節感」のひとつです。

海のない長野県において、鯉は何よりも貴重なタンパク源でした。しかし、交通が発達し、遠方の食材が簡単に手に入るようになると、次第にその文化も失われていきました。今ではお祝いや産前産後の妊婦さんが栄養を摂るために食べる風習が残っている程度。その文化をなくさぬために、魚料理には鯉が登場します。

「地元に人に“え、これが鯉!?”と言わせたい」。友森氏はそう不敵に笑います。

地元で鯉が敬遠されがちな理由は、泥臭さと小骨の多さ。ここに料理人の技が光ります。身は1週間、ペーパーに水分を吸わせながら寝かせることで、水分とともに泥臭さも抜け、透明感ある味わいに変化。さらに小骨は鱧のように骨切りして食べやすくします。これを根菜と合わせて揚げ出しに。友森氏と長谷川氏はこの料理をあえて「伝承」と名付けました。

コースは中盤です。

「里山」と名付けた料理は、その名の通り、友森氏がその日に目にした里山の景色を皿の上で表現したサラダ。長谷川氏の店である『傅』の名物「傅サラダ」をベースに、それぞれの食材に最適な調理を施した上で盛り合わせます。無論、内容は日替わり。この日はホオズキやマイクロキュウリなど、15種の食材が盛り込まれました。

肉料理は友森氏が「秋口がおいしくなってくる」という鴨。松本で育てられるフランス原産のバルバリー鴨を治部煮に仕立てました。全身に血が回るように締めるエトフェという手法がとられる希少なフランス鴨。長野県の懐の深さを改めて感じさせる一品です。

食事は、長谷川氏が得意とする土鍋ごはん。7〜8種類のキノコをソテーし、出汁で炊いたご飯に混ぜて提供する秋らしい料理です。米、水、キノコ、すべてが地元産のため「水脈がつながっているため、味の調和が取りやすい。これは成分だけでは測れない部分」と友森氏。その繊細な感覚に訴える美味こそが、当地で食事を味わう醍醐味なのでしょう。

デザートは洋梨のパイ包み焼き。実は奈良井宿のある塩尻市は10種以上の品種が栽培される洋梨の名産地。季節の移ろいとともに使用する品種を使い分け、秋口の清涼感から晩秋、初冬の濃厚さまで季節の移ろいを感じてもらえるデザートです。

「レストランでは食後に帰宅しますが、ここは宿ですから食べたら部屋に戻るだけ。ボリュームや食後感も含め、やり尽くすことができます」友森氏はコース全体の流れをそう語りました。主食材が際立つ8品の料理それぞれはもちろん、コース全体を俯瞰することで、シェフが伝えたかった物語、この奈良井宿という場所の魅力が浮かび上がります。

ネギのすり流し「清香」と松本一本葱。辛味を抑えつつ、この時期のネギ本来の爽やかな風味を引き出した。

おやき「暮らし」と信州ぎたろう軍鶏、キノコのスープ。軍鶏とキノコをこの地の味噌が結びつける。

お造り「水明」とシナノユキマス。新鮮なシナノユキマスの透明感ある身を、クルミダレと柿のガリという2種の味付けで。

地元の鯉食文化の継承を目指す「伝承」と骨切りした鯉。この時期、味わいを増す里芋やカボチャとともに揚出しに。

野菜やハーブのサラダ「里山」と野菜たち。近隣農家の野菜やハーブを、それぞれに適した味付け、下処理をした上で盛り付けた。

鴨の治部煮「嵓シシ」とバルバリー鴨。旨みが濃縮されたフランス鴨を蕪の出汁や松本一本葱とともに炊いた一品。

土鍋ごはん「饗」とキノコ。水、キノコ、米をすべて地元産で揃えることで、バランスの取れたおいしさを実現。

「Mizu-Gashi」と洋梨。黒文字のシロップでコンポートした洋梨をパイ包みに。パイを使いつつ、洋梨の瑞々しさを残す。

BYAKU -Narai-

シンプルな料理を支えるのは、真摯な生産者の手による食材たち。

友森氏が食材の解説をしてくれる時、必ずそこに「誰々さんの」という冠が付けられていました。そしてまるで友人を自慢するかのように、その人のエピソードも教えてくれるのです。

「松本の笹井酒造の蔵人さんだった人が、突然鴨を育て始めたんです」。

「この一本葱はつむぐ農園のもの。まるで子どもを育てるように、丁寧に育てる方です」といった具合。

なぜこれほどまで、友森氏が地域に溶け込んでいるのでしょう。そのヒントは、視察に訪れた塩尻の自然栽培農園『with earth』で見えてきました。

1000年持続できるライフスタイルを目指し、東京から家族で移住して自然栽培に挑む『with earth』の大塚直剛氏は話します。

「たとえば米。人間の手で植えた米ですが、彼ら自身が生きようとします。その力に雑草たちがOKを出し、米は自然に育っていく。人ができるのは、その環境を整えること」。大塚氏の言葉は時に哲学的で、素人の理解が及ばない範囲にまで及びます。何とか理解しようとする取材陣を横目に、友森氏は言います。

「僕は知識がないから、どうすれば米や野菜がおいしくなるかわかりません。わからないから、飛び込んでいくしかない」。

例えば、大塚氏が「泥の柔らかさは赤ちゃんの肌が理想」と言えば、真っ先に靴を脱いで田んぼに入るのが友森氏。何度も足を運び、顔を合わせ、純粋な疑問を真っ直ぐにぶつける。そうすることで料理人と生産者という垣根がなくなり、いわばひとつのチームとして、良いものを生む好循環ができあがるのです。

友森氏が「相手が長谷川さんだから(シェフ就任の話を)受けたんです」という長谷川氏も同様。東京に店を構えつつ、時間が許す限り生産者の元をめぐる長谷川氏。実際に自分が会って、生産者と互いに納得するまで話すのが長谷川氏のスタイル。地域を大切にする気持ちが根底にあるからこそ、長谷川氏の表現する郷土料理は、単なる上辺の踏襲ではなく、地元の人さえ揺り動かす重厚感があるのでしょう。

シナノユキマスの養殖場『田川浦養魚場』のオーナー・百瀬陽一氏との関係値も同様。湧水を直接引いて、常に流れの中で魚を育てるこの養魚場。流れがあるから薬も使えず、自然に任せる養殖法は「運任せの部分もある」と百瀬氏。出荷まで3〜5年かかり通常の3〜5倍の餌を与えて育てるこの希少なシナノユキマスの養殖場を、友森氏は毎日訪れます。

「シナノユキマスは、この地域の宝物。ただ1日で鮮度が落ちてしまうから、使う分だけ毎日仕入れるしかない」と友森氏。それを横で聞いた百瀬氏は「毎日来る人なんて他にいないけどな」と笑います。そんな言葉にも、商売を超えた信頼関係が垣間見えました。

友森氏は、作った料理は生産者に食べていただくようにしているといいます。それは生産者の方々に、自身のやり方と食材に対して自信と誇りを持ってもらうため。

「あなたの食材にはこういう価値があります、ということをしっかりと伝えたい。そのためには僕自身がある程度の地位にいることが必要」。友森氏はそう語ります。

『with earth』を訪れた友森氏と長谷川氏。大塚氏の理念や情熱に真剣に耳を傾ける。

深い山々が連なる塩尻市。この山を駆け巡るのが友森氏の日課。

大塚氏の米作りは、自然本来の力を引き出す自然農法。都心からの移住者である大塚氏は試行錯誤しながら挑む。

雪解け水が地中で濾過された湧水は地域の財産。米も野菜も魚も肉も、この水によって支えられている。

撮影時は7月、眩しいほどの緑に囲まれていた塩尻も現在は稲穂の黄金色。訪れる度に景色が変わるのも、この地の魅力のひとつ。

湧水が流れ続ける『田川浦養魚場』の養殖池。水温は年間通して13〜15℃という冷たさ。

各地で養殖が試されたシナノユキマスだが、成功したのは一部。完全民間で営まれるのは、この『田川浦養魚場』のみ。

百瀬氏の話を聞く友森氏と長谷川氏。話はシナノユキマスの身質のみならず、餌や飼育方法にまで及んだ。

先代が亡くなり、一度はやめようと思ったという百瀬氏だが全国から要望が届き継続を決意。「水が出る限りやるしかない」と笑った。

BYAKU -Narai-

日々、刻々と移り変わる今を切り取り、食という体験に落とし込む。

「例えば、同じ10月でも、初旬のキノコと下旬のキノコは別物です。そして来年、同じ時期なら同じものがあるかといえば、それも違う。リアルな季節感とは、瞬間的なものです。だからその瞬間を、ストレートに体験していただきたい」。友森氏は言いました。自身の店の合間をぬって繰り返しこの地に足を運ぶ長谷川氏もその気持ちは同じ。食とは体験である。友森氏と長谷川氏がつくり上げた秋のコースからは、そんな思いを強く感じます。

夏、上に向かって伸びる力が秋になると地中に向かう。友森氏が言っていた秋の食材の特徴。さらに冬になると熟成し、滋味深い味わいが加わってくるのだとか。野山をフィールドにする友森氏の実感がこもった言葉に、改めてこの地の自然の美しさが感じられます。

『杉の森酒造』の跡地に生まれた『嵓 kura』では、やがてこの地の水で仕込んだ日本酒も生まれます。その酒樽を横目に見つつ、奈良井の「リアルな季節感」が込められた料理を楽しむ。それは訪れる人の心に長く残り続ける、体験となることでしょう。

フレンチと和食、地元と東京。異なる部分も多いが、地域に対する思いは同じという友森氏と長谷川氏。「ふたりだからこそできることがある」と友森氏。

住所:長野県塩尻市奈良井551 MAP
電話:0264-34-0001
受付時間 : 10:00〜17:00
https://byaku.site

Photographs:SHINJO ARAI
Text:NATSUKI SHIGIHARA