架空の旅人が日本を巡るツーリングエッセイ『Grand Touring NIPPON』

日本の渚百選に入選した風光明媚な鯨波海水浴場。天気が良い日は海の向こうに佐渡ヶ島を望む。
サウナ宝来洲サウナで温まり、浜辺を走り、海に飛び込む。
新潟に海が見えるサウナがある。
そんな噂を聞きつけ、向かった先は、新潟県柏崎市。施設の名は『サウナ宝来洲(ホライズン)』。訪れてみるとそこは、“海が見える”どころではありませんでした。いうなれば海そのもの。道路を挟んで向かいにある『小竹屋旅館』で水着に着替え、水着のまま道路を渡れると、そこがサウナです。
サウナ室に入ると、目線の高さの窓から海を一望。時計とにらめっこしながら「あと5分、あと3分」と我慢するのではなく、ただ海に見惚れていると時間が過ぎていきます。体が十分温まったら、サウナ室を出て浜辺へ。このサウナに水風呂はありません。代わりにあるのが海です。
サウナ室を出て浜辺を走り、そのまま海に飛び込む。火照った肌を冷たい日本海が冷やします。皮膚がきゅっと収縮し、心が溶ける。海水の浮力に任せ、海の上に大の字に浮かべば、波が体をやさしく揺らします。その贅沢な開放感こそ、このサウナの醍醐味です。
体が冷えたら、サウナ室の屋上にあるデッキへ。無論、ここからも海を望みます。施設すべての中心に据えられるのは、海。海辺の適地があったからサウナを作ったのではなく、この海を見せるためにサウナという手段を選んだような、海中心の施設です。

サウナ室には目線の高さから海を望む窓がある。ストーブには300kgのサウナストーンを設置した。

熱を逃さない建て付けや給排気のシステム、メンテナンスの利便性など、見えない部分にまでこだわりが溢れる。

浜辺や施設屋上のデッキチェアや浜辺に設置されたハンモックなど、思いお思いの場所で外気浴ができる。
サウナ宝来洲海辺の旅館で育ったオーナーの思いの結晶。
このサウナへの思いを、オーナー・杤堀耕一氏に伺ってみました。
栃堀氏の祖父と両親がこの地に海の家を開き、その後『小竹屋旅館』を開いたのは今から半世紀以上前のこと。その家に生まれ、賑わう海水浴場を見て育った栃堀氏ですが、やがて時代が流れます。価値観の多様化が、人々の興味を少しずつ海から逸していったのです。
一度は故郷を離れていた栃堀氏はこの地に戻り、さまざまな手を打ちました。しかし天候や海況など自然の力には抗うことはできず、夏の海水浴客減少も止まりません。
それでも杤堀氏は、この海を、ただ寂れさせたくはなかったといいます。「何かしないと、何か」そう考え抜いた栃堀氏の目に、偶然「サウナ」の文字が飛び込んできました。「これしかない」栃堀氏の心は決まりました。
人気のアウトドアサウナを見学に行き、勢いのままそのオーナーに施設のプロデュースを直談判し、地元工務店と話し合い、日々サウナについて学び、最上級のサウナ専用薪ストーブを準備し、フィンランドからサウナストーンを取り寄せる。思いついてから施設のオープンまで、わずか9ヶ月の出来事でした。
まるで一遍の物語のように開業秘話を聞かせてくれた杤堀氏。その端々から伝わる、この海への思い。これだけの施設を作るのだから、大きな決断だったことでしょう。しかし杤堀氏の言葉からは、先への不安ではなく、新たなことを始めるキラキラとした高揚が伝わってきます。
「自然が相手ですから、0点の日もあれば200点の日もあります」。
秋の日本海を見ながら、杤堀氏は言いました。そして「だからこそ面白い」と笑いました。そして最後に「どの海も大好きだけど、とりわけ海に夕日が沈んでいく時間が好き」と言いました。
日本海を赤く染めながら海に沈む夕日。その壮絶なまでの絶景も、このサウナの財産のひとつなのでしょう。

オーナー・栃堀氏の言葉の端々には、この海への愛着がにじむ。
住所:新潟県柏崎市鯨波2-3-6 小竹屋旅館敷地内 MAP
TEL:0257-41-6270
https://www.odakeya.com/sauna/
架空の旅人が日本を巡るツーリングエッセイ『Grand Touring NIPPON』
(supported by SUBARU)