自然とともに生きる昔ながらの生活を垣間見る。絶景の棚田を一望するツリーハウス。[星峠宿/新潟県十日町市]

架空の旅人が日本を巡るツーリングエッセイ『Grand Touring NIPPON』

星峠の棚田を目下に臨むロケーション。朝、昼、夕、夜、刻一刻と表情を変える自然芸術の絶景に身を興じる時間は、感動を超えた体験となる。

星峠宿300年続く集落に誕生した樹上のキャンプ場。

かの有名な星峠の棚田。

朝靄に煙る情景、柿色の夕焼け、紫の残照に照らされる日没。さまざまなメディアに登場する新潟県十日町市を代表する景観です。そんな星峠に、1日1組限定のツリーキャンプ施設ができました。美しい景色を眺めながらコーヒーを飲み、食事を食べ、眠りにつき、目覚めたることができるという素晴らしい施設をご紹介しましょう。

十日町の市街地を過ぎ山道をしばし進むと、やがて星峠に到着します。最初に目に入るのは、噂に違わぬ絶景です。 高台から見渡す一面の棚田。匂いがあり、音があり、肌に触れる空気がある。写真だけではわからないリアルな絶景です。 

受付に訪れた『星峠宿CHAYA』で、施設のオーナーである粂井貴志氏が出迎えてくれました。学生時代の同級生にここ出身の友人がいた縁で訪れてみて惹きつけられ、やがてこの地に暮らすようになった人物。もちろん、山間の集落に余所者が受け入れられるまでには、幾多のハードルもあったことでしょう。

「もちろん簡単ではありませんでした。最初の数年は“自分がここで何をやりたいか”ではなく、“自分がここのために何ができるか”だけを考えていました」。 と粂井氏は振り返ります。

粂井氏の晴れやかな笑顔は、その迷いのない生き方の象徴。彼との会話も、この施設を訪れる楽しみのひとつ。

星峠の棚田を舞台にツリーキャンプを堪能出来る『星峠宿』。ここでは、移りゆく景色の変化をただ望むことが何よりも特別な体験になる。

200枚の田圃がある星峠だが、手掛けるのは粂井氏を含め9名だけ。2022年には、7名まで減少する。

ツリーハウスの受付を兼ねた『星峠宿CHAYA』。コーヒーやグッズのほか、目の前の田で育った米も販売されている。

4mの樹上に作られたウッドデッキ。道路の一段上から星峠を見渡す、宿泊者のためだけの特等席だ。

粂井氏が精魂込めて育てた星峠の棚田米。品種はコシヒカリ。ミネラル豊富な雪解け水とこの地の土壌により甘み豊かに育つ。

棚田を眺めながら、その地で育った米を炊きたてで味わう。この地の住人にとっては当たり前のことでも、遠来のゲストにとっては何よりのご馳走。

宿泊者専用の風呂小屋も完備。湯船に浸かりながら里山を望むことができる。

星峠宿観光地ではなく住民が暮らす里山だからこその、生きた絶景。

観光地として脚光を浴びた星峠の棚田ですが、ここはあくまで地元住民の生活の場。年々増加する観光客に困っている部分もあったといいます。実は駐車場も公衆トイレも整備された道路も、すべて地元の方の土地を切り取ったもの。道路の整備やトイレの清掃をしても、地元には一銭の収益にならぬばかりか、手間ばかりがかかる。その解決策を次々に提示するうち、やがて粂井氏は集落に受け入れられていったのです。今ではこの棚田に土地を持ち、米も育てる粂井氏。いわば正式に住人として迎えられたのです。

そんな話をしながら粂井氏が、ツリーハウスのデッキへと導いてくれました。 

「集落の人と話し合って、一番の絶景ポイントにツリーハウスを建てました」。

4mの木の上で目に飛び込んできたのは、日本の原風景のようでいて既視感のない、まっさらな里山の風景です。

ただ美しい景色という以上に、この風景に今も血が通い、動き続けている事実が胸に迫ります。300年前の先祖が開墾し、代々それを守り続けているという住民の誇り。記録画像ではなく、進行形で動き続ける生きた絶景。施設では眼の前の棚田で収穫された米も販売されています。この景色を前に、その場所で収穫された米を味わう。それはどれほど豊かで、貴重な経験でしょう。

12月に入るとここは4mもの雪に閉ざされ、施設は雪解けまで閉鎖となります。そんな自然の成り行きに任せる姿も、またこの地の魅力。自然とともに生きる豊かな暮らし。このキャンプ場での体験は、そんな遠い世界のほんの一端を垣間見せてくれます。

雨、風、霧、雪。山間だけに自然の厳しさもあるが、それもまたこの地の魅力。

住所:新潟県十日町市峠728 MAP
TEL:025-594-7600
https://hoshitoge.jp

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