統括編集長・倉持裕一が振り返る、2021年の『ONESTORY』。

想像以上に長いコロナ禍。メディアを沈滞させた決断。

2020年2月。この時期を皮切りに、新型コロナウイルスという言語が一気に日本中を騒がせました。当時、まだその実態が分からず、死に追いやる感染病として国民の恐怖心は加速し、同時に経済も破綻。『ONESTORY』も例外ではなく、『DINING OUT』を含め、さまざまなプランは全て白紙に。

コロナ禍以前に取材した記事も遅延に遅延を重ねる結果になってしまいました。『エタデスプリ』、『グラン・ブルー・ギャマン』、『レヴォ』などがそれです。

すでに取材したのであれば、痺れを切らして公開する選択もありましたが、日本は緊急事態宣言や自粛の真っ只中。これらの記事をきっかけに、県をまたぐ移動の加担やそれによって感染者を出してしまったら、はたまたもっと最悪の事態を招いたらというメディアとしての責任を強く感じました。

誰もが情報発信できる今だからこそ、メディアの役割は重大だと認識しています。個人とメディアは、異なるものだと考えます。大袈裟に言えば、日本だけでなく世界が難局と対峙する中、活発な記事の更新は、社会に不要だと思ったのです。結果、メディアを沈滞させる決断をしました。

過去の振り返り記事において、自分は取材で出会った方々をこのように綴っていました。

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「働く姿」ではなく「生きる姿」、「仕事」ではなく「人生」を目の当たりにしてきたような気がします。
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今まさに我々において、それが問われている。そう感じました。

メディアやイベントではない別のカタチを持って自分たちにできることは何か。地域に貢献できることは何か。社会の一員になれることは何か。

それに向かって走り続けた1年となりました。
 

「ハレ」だけではない。「ケ」と向き合う覚悟。

前述、自分は過去の振り返り記事において、このようにも綴っています。

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まだここでは発表できないプロジェクトを水面下で進めています。それもまた、イベントでもメディアでもないカタチのものです。
『ONESTORY』は、既成概念にとらわれることなく、時代と目的に合った表現をより強固にしていきます。カタチのないカタチ、その活動体が『ONESTORY』です。
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そのカタチのひとつは、2021年に発表できた長野県塩尻市の奈良井宿における『杉の森酒造』プロジェクトでした。

中山道に位置する奈良井宿は、「木曽の大橋」のかかる「奈良井川」沿いを約1kmにわたって形成している日本最長の宿場です。そんな風景の中に200年以上も町のシンボルとして存在し続けていた場所が『杉の森酒造』でした。長い歴史に幕を下ろしたのは、2012年。以降、時は止まったままでしたが、2021年に『BYAKU -Narai-』として新たに息吹を取り戻しました。

酒蔵も復活させ、宿泊施設、温浴施設を備える中、我々はかつて蔵だった場所をレストランとバーにするプロジェクトに参画。そこでは、さまざまな学びがありました。

地域との共生、その魅力を伝えるなどは、これまでメディア及びイベントでも実践してきましたが、大きな違いはカタチとして「場」が残り続けるということです。

例えば、『DINING OUT』であれば、2日(準備期間を除く)。言わば「ハレ」の日です。しかし、1年を通して見れば、残り363日「ケ」の日があるのです。

カタチとして、「場」として、残り続ける関わりには、この「ケ」といかに向き合うかが大事になってきます。

そして、もうひとつのカタチは、銀座『和光アネックス』地階グルメサロンのリニューアルプロジェクトへの参画です。『ONESTORY』は、本件のプロデュース及び商品のキュレーションに携わりました。

日本全国に眠る知られざる名品の発掘や商品開発、季節の商材、ソムリエや唎酒師たちとの企画などを展開。その好例は、酒職人・松本日出彦氏による「武者修業」シリーズでした。発売当日に完売という結果を残すこともできましたが、やはり本件においても重要なことは「ケ」との対峙。

完売した1日ではなく、残りの364日。イベントのあった1週間ではなく、残りの358日。「カタチ」のある場、地域、もの、こと、人と向き合うことは、そんな日々と向き合い「続ける」ことなのです。

それぞれ準備期間に数年を有し、ようやく具現できた2021年。弊社代表・大類知樹と一番議論したテーマが、この「ハレ」と「ケ」でした。
 

ONESTORYのやり方でONESTORYらしく。

未だコロナ禍の尾を引いたまま2022年を迎える。

我々もさまざまな変化に順応していかなければいけません。テクノロジーの進化も手伝い、そのスピードは、日に日に加速しています。

しかしながら、大地や海から生まれるものや植物、季節の訪れなど、地球の動きに時短や効率はなく、一足飛びに何かを成し得ることはできません。

つまり、物事が生まれる正しい時間の見極めが必要だと考えます。「命」の時間です。

我々は、表現者として、活動体として、何ができるのか。そして、人としてどう生きるべきなのか。

その解は、そう易々と得ることはできませんが、波に呑まれず、『ONESTORY』のやり方で『ONESTORY』らしく、自分たちにできる最良の道を歩んでいきたいと思います。

そして、2021年も多くの読者様、取材先及び地域の皆様には大変お世話になりました。この場を借りて、出会った全ての方々に深く御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

どんなに時代が変わろうとも、『ONESTORY』は、まだ見ぬ日本の感動を探し続けます。

それでは、日本のどこかでお会いしましょう。画面上ではなく、どこか大切な場所で。

2022年、そんな出会いが叶う一年になることを願います。

『ONESTORY』統括編集長・倉持裕一