京都の海を未来へつなぐ『Chefs for the Blue 京都』始動。[Chefs for the Blue 京都/京都府]

『Chefs for the Blue 京都』を立ち上げたシェフたち。手前右から、代表の『cenci』坂本健シェフ、『Bini』中本敬介シェフ、『Cenetta Barba』藤田紘一シェフ。奥右から、『cenci』渥美彰人氏、『MOTOI』前田元シェフ、『リストランテナカモト』仲本章宏シェフ。

Chefs for the Blue 京都東京から京都へ。広がりを見せる料理人発、水産資源への取り組み。

トップシェフが主導し、日本の漁業、水産資源の未来を考える一般社団法人『Chefs for the Blue』。
2021年、その京都チームが発足し、活動をスタート。メディア向けの試食会が2022年1月、京都で開催されました。

会場は、京都信用金庫『QUESTION』8階にあるコミュニティキッチン。試食会の主催者であり『Chefs for the Blue 京都』のリードシェフを務める『cenci』の坂本健シェフを筆頭に、『リストランテ ナカモト』仲本章宏シェフ、『MOTOI』前田元(もとい)シェフ、『Bini』中本敬介シェフら、京都のガストロノミー界をリードするトップシェフ5人に、生産者3人も加わり、豪華な顔ぶれが揃いました。

一般社団法人『Chefs for the Blue』の発足は、2017年。料理ジャンルの枠を超え、東京を拠点とするシェフを中心に50人もの料理人が活動に参加しています。発起人であり、代表理事を務めるのは、フードジャーナリストの佐々木ひろこ氏。

海に囲まれた島国であり、古くから魚食文化が根付く日本ですが、1984年のピークを境に、漁獲高は減少傾向に。2019年には、年間の総漁獲高はピーク時の約1/3(416万トン)まで落ち込んでいます。

状況への危機感を共有した上で、主たる要因とされている過剰漁業の規制を呼びかけ、海の環境や生態系の保全に努め、漁師コミュニティや産地の地域コミュニティを守る。この3本を柱に、さまざまな活動を続けています。

フルオープンの広々としたキッチンを備えた『QUESTION』8階にあるコミュニティスペースが会場に。スペースを運営する株式会社Q'sと、『cenci』を運営するThe Old Curiosity株式会社の共同企画により試食会が開かれた。

エントランスに並ぶ、この日の食材。到着した参加者は、着席前に解説に読み入った。

Chefs for the Blue 京都生産者も会場へ。漁業者、料理人が刺激し合う。

もともと『Chefs for the Blue』の活動に注目していた坂本シェフは、『Chefs for the Blue 京都』立ち上げの経緯を次のように話します。

「水産物の枯渇問題については、ずっと気がかりだったんです。東京で先にスタートした『Chefs for the Blue』の活動に興味を持ち、代表の佐々木さんを招いて単発勉強会を開いたりしていたんですが、やはり京都でもしっかりチームを組んで活動していくべきだと思い、昨年立ち上げを決めました。また京都でレストランをやっていても、京都の魚を使う機会は少なく、知識も乏しい。まずは自分たちの足下を学ぶところからはじめ、行動の機会を増やしていこうという想いがあったんです」。

坂本シェフの言葉の通り、一般にも「京都」と「海」のイメージはにわかに結び付きません。府南部の内陸部に都市機能、商圏が集中していることが一因と考えられますが、府北部は日本海に面し、伊根湾や宮津湾など、豊かな漁場が残されています。

本イベントの2ヶ月前、『Chefs for the Blue京都』を中心としたメンバーは宮津湾へ足を運び、漁師や漁業協同組合を訪ねたといいます。生産の現場を見て初めて知った、京都の海ならではの魅力、地域漁業の現状と課題。「生産者と手を携えて、料理人だからできることを」という、活動の出発点を確かめた時間でした。

訪問を経て開かれたイベントも、まずは食材の紹介から始まりました。会場入口には、その日に使われる食材がずらり。ブリにハモ、立派なナマコも目を引き、それらすべてが京都産。食材として上質で、料理人のクリエイションを刺激するものであることに加え、水産資源のサステナビリティの観点から意味を持つものが選ばれています。

例えば宮津湾産の青ナマコ。かつて、乱獲で漁獲量が激減した時期がありましたが、地元漁業者を中心とした『宮津ナマコ組合』が、漁獲量の上限を定め、厳格な資源管理に取り組んだ結果、漁獲高は規制前の1.4倍に回復。サイズの平均値も上がり、それに伴い、乱獲期と比べて3倍近くの価格で取引されるように。

9kgを超える大きな養殖ブリは、伊根湾から。水温が低いゆえ養殖に向かないといわれてきた伊根の海の特徴をポジティブに捉え、ゆっくり、時間をかけて育てることで、品質を高め、全国ブランドに育て上げたのは、橋本水産の橋本 弘氏。養殖の新たな可能性を示した、「海の特徴を生かした」漁業や、海への環境負荷を減らすため生簀に入れる魚の数を抑え、抗生物質も使わないなど海の未来を考えた取り組みが、やはり全国で注目を集めています。

イベントに参加した橋本氏から、次のような話がありました。
「太平洋側の主な養殖産地におけるブリの養殖は、エサにカタクチイワシを与えるのが一般的。そこに、カロリーを補うために魚油を加える。一方で、私たちがエサに使うのは若狭湾のアジやサバ。極力、抗生物質も魚油も使わず、2年間かけてゆっくり育てるため、脂のりがよく、脂の質はさらりとしているのです」。

宮津湾産の青ナマコ。乱獲を止め、漁獲量を規制することで価値が上がった、資源保護の成功例として。

新たな京都産ブランド食材として期待がかかる宮津湾産オオトリガイ。生産者の本藤 靖氏は未来につながるブランド食材としてトリガイに次いで、このオオトリガイの育成技術開発を始めた。日本で初めての取り組みは、未知なる食材の発掘例として、多くの漁業者に影響を与えているといいます。

コハダ、シンコの成魚、コノシロ。若き漁師が、情熱をもって「新しい価値」の創出に挑戦している。

Chefs for the Blue 京都未利用魚を含む、知られざる魚をガストロノミーの舞台に。

食材についての解説が一段落し、その味への関心、期待が高まったところで、いよいよ料理のサービスが始まります。

最初にテーブルに運ばれてきたのは、『Bini』中本シェフと、『cenci』坂本シェフによるナマコの料理。

中本シェフは、イタリアではポピュラーなタコとセロリの組み合わせから着想を得た、ナマコとセロリの一皿。坂本シェフは、自家製柿酢でのマリネ。なまこ酢と同じく酸味を合わせ、米麹と鮎魚醤で和えた即席の“このわた”を添えた、日本人になじみ深く、かつ発酵の旨みがワインを呼ぶ味です。

お次は宮津湾産のオオトリガイ。京都府産のブランド食材に指定されている丹後トリガイの養殖過程で発見された稚貝で、新たに養殖がスタートしたばかりですが、成長が良く、弊死率も低く、旨みと甘味が非常に強い貝として、高い期待が寄せられています。

シェフたちが産地訪問の際に出会い、その甘味、旨味に着目し、今回のイベントにも使用されることに。「未知の食材の発掘」も、活動の大事なテーマです。
仲本シェフは、イタリアの伝統料理「ズッパ・ディ・ペッシェ」を作り、ひと口大のクロスティーニに。坂本シェフは軽く蒸して冬キャベツ、完熟山椒を合わせます。

同時進行で、それぞれの料理を仕上げるシェフたち。

「ナマコとセロリ 発酵トマトとほうじ茶のジュレとオリーブオイル」は『Bini』中本シェフによる一皿。低温の昆布だしとほうじ茶で炊いたナマコが、コリコリとよい食感を残す。

坂本シェフによる「蒸したオオトリガイと冬キャベツ 完熟山椒」。産地で食べたときに感じた海藻のような風味を生かした一皿。

コハダ、シンコの成魚である、コノシロも登場します。

ご存じの通り、未成魚は寿司種として引っ張りだこですが、成魚になると、とたんに値が下がるもの。
水産資源のサステナビリティの観点でいえば、産卵を経た成魚を獲るほうが環境負荷が低く、未来につながります。また、成魚であってもきちんと下処理をすればおいしい一皿になるといいます。


若干25歳、宮津湾に隣り合う内海である阿蘇海の若手漁師・村上純矢氏が獲ったコノシロは、徹底した処理と品質管理の下、地元の宿泊施設や東京の飲食店に出荷。まだ京都市内に流通していない、大きな可能性を秘めた魚です。

「初めて使ってみて、小骨をどう処理するかが課題になると思いました」と、話すのは前田シェフ。

「多めの油で皮側をソテーし、ビネガーをベースにしたマリネ液で短時間マリネすることで、骨が柔らかくなり、口に残らなくなる」。
前田シェフの「コノシロのエスカベッシュ」は、ほどよく火の入ったふわっとした身の食感と、酸味、合わせた野菜の甘みがバランスした、春らしさも楽しめる軽やかな一皿です。

中本シェフは、小骨をハモ同様に骨切りし、ビニェに。シェフたちの素材使いで、コノシロの可能性が十分に表現されていました。

阿蘇海でコノシロのブランド化に奮闘する村上純矢氏。

前田シェフによる「コノシロのエスカベッシュ」。目にも春らしく、サワークリームの酸もアクセントに。

「コノシロのビニェ サルサヴェルデ」も中本シェフによる一皿。フキノトウのパウダーを添えて。

伊根湾産・橋本氏による巨大ブリは、仲本シェフがアニョロッティに。
「アラを180℃のオーブンで焼いてから出汁を取る、和食の技法に倣いました。生ハムのブロードと合わせて澄んだコンソメにしました」。

身はアニョロッティの詰め物とコンフィに、骨などのアラはコンソメに。一尾を余すところなく活用するための、一つの提案です。

最後は、栗田漁港のハモ。

京都の夏の風物詩としてもてはやされる一方で、冬場は水揚げされても値が付かず、未利用魚、または低利用魚となってしまうことが多いのだといいます。ところが、実際に脂をたくわえ、味が乗って来るのは秋から冬にかけて。
こうした未利用魚に適正な価格が付くよう活用するのも、海と漁業の持続可能性を考えるうえで非常に重要なこと。

このハモを、前田シェフはパイ包み焼きとスープ・ド・ポワソンに。坂本シェフは、ハモのすり身のポルペット(団子)を添えたリゾットを提供。
ゲストの多くがその豊かな味に唸り、フレンチやイタリアンの食材としてのポテンシャルを確かめました。

仲本シェフによる「ブリのコンフィ、ブリと生ハムのコンソメ、ブリを詰めたアニョロッティ 山城ねぎオイル」。脂のピュアな旨味がたっぷりの、伊根湾のブリを余すところなく味わえる。

『MOTOI』前田シェフによるハモのパイ包み焼き。フランス料理の技法が集約された一品だ。

『cenci』坂本シェフによるハモのリゾット。ハモの旨みが米の一粒一粒に。九条ネギとも鉄板の相性。

「ハモのスープドポワソン」。この日の個体は頭が大きく「良質なゼラチン質を含め、旨味が豊かだった」と前田シェフ。温かく滋味深いスープは秋冬にこそ食べたく、脂ののったこの時期のハモが生きる。ハモは、卸売業者の視点から未利用魚の活用や販路の開拓に力を入れている『山一水産』の手配によるもの。

Chefs for the Blue 京都小さな一歩を、ブランドありきの流通を見直すことから。

料理の提供を終えた坂本シェフに、再び話を聞きました。

「今回、5種の食材を料理に使わせて頂き、改めてそれぞれの食材のポテンシャルに気付きました。冬場のハモのように適正な値が付かないものから、オオトリガイのように、現状の生産量の少なさゆえ、まだ価格が高いものまでさまざまですが、共通していえるのは、すべてがガストロノミーの素材になり得るということ。私自身、実感しましたし、仲間たちの料理が、それを示してくれたと思います」。

そう話す表情から、手ごたえと充実感が見て取れます。

そして、「ブランドありきの流通を、真剣に見直さなくてはいけない時期に差し掛かっている」とも。

「一流の料理人たちがこぞって頼りにする、いわゆる“カリスマ”漁師や仲卸業者がいて、私も彼らの魚を分けてもらうこともあり、その状態や味は本当に素晴しいと思う。でも、すべての料理人が、右へ倣えで、同じ魚を欲しがっていいのか。質も状態も素晴らしい魚は、生で、ほんのわずかの塩で、美味しくなるから、素材を知る料理人ほどなるだけ手をかけたくないと思う。すると、料理まで均質化してこないか、と」。

自身に問いかけるような、坂本シェフの表情が印象的でした。

魚の需要が偏り、環境に負荷を与える漁業が続いた結果、魚が減り、消費地での市場価格が高騰する。漁業者はもちろん、料理人にとっても、対価を払い食事に出かけるゲストにも、いいことはありません。
現実的には、小さなレストランで扱える魚の量はごくわずかで、根本的な解決にはならないかもしれない。

「でも、今、何もしないでいることはできない」と、坂本シェフ。

まだまだ始まったばかり。知られざる「京都産」の魚介に光を当て、海の未来を考えた今回のイベントが、京都の漁業と、ガストロノミーのあり方を、少しずつ、変えていくはずです。



Text:KEI SASAKI
Photographs:YUTA MIZUNO

トップシェフとパティシエによる料理が伝えた、生産者も気付かなかった滋賀の食材の底力。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

滋賀の食材を使い、東京のトップシェフ、パティシエの4人が11品のコースを生産者のみなさんにふるまった。

ローカルファインフードフェア滋賀自らの食材がどう調理されるか。生産者にとっても勉強の場に。

東京都内で活躍する料理人やパティシエ、和菓子職人が、滋賀県産の食材を使った料理をそれぞれの店で提供するメニューフェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。
2021年度は夏と冬の2回にわたって東京の料理人が滋賀を訪ね、食材が生産されている現場を視察しました。

そのなかで、ほぼすべての生産者が口にしたのが「食材が東京でどんなふうに料理されているのか、とても興味がある」という言葉。とはいえ、日々、食材の生産に携わっていると、なかなか滋賀県を離れて東京のレストランに赴くことができません。

そこで今回は、滋賀の食材を日頃から愛用しているシェフ、パティシエが感謝の気持ちを込めて滋賀に集結し、「県内レセプション」と称した食事会で、生産者のみなさんに向けて腕をふるうことに。

参加料理人は、イタリアン『sel sal sale』の濱口昌大シェフ、フレンチをベースに、精進料理や日本料理のテイストをフュージョンさせた料理を提供する『MOSS CROSS TOKYO』の増山明弘シェフ、フレンチ『Cheval de Hyotan(シュヴァル ドゥ ヒョータン)』の川副藍シェフ、パティスリー『INFINI(アンフィニ)』の金井史章シェフパティシエの4人。

コース仕立てで前菜からデザートまでを生産者のみなさんに提供すべく、それぞれの得意分野を生かしながら合計11品の料理を作りました。

一方で、生産者にただ食べてもらうことだけが目的ではありません。生産者たちが、自分たちの食材がシェフたちの手によりどのように姿を変えるのかを目の当たりにし、味わい、そして何を感じるのか。
よりよい食材を生み出すためのヒントや活路を見出してもらうために設けられた場であり、そこには滋賀県の「Local Fine Food」の未来があるといっても過言ではないかもしれません。

【関連記事】滋賀食材フェア/降雪のち快晴。シェフたちが目の当たりにした豊かな自然、そして滋賀県の素晴らしき食材。

「県内レセプション」に集まった生産者のみなさん。写真左から『グッドワン』永濱三智子氏、『クサツパイオニアファーム』中山欽司氏、『グッドワン』坂上良一氏、『FARM KEI』藤田氏、『みなくちファーム』水口良子氏、忍ネギの生産者千代傳男(つたお)氏、『みなくちファーム』水口淳氏、『JAこうか』上田健司氏、『いぶきファーム』谷口隆一氏。

琵琶湖の名産のひとつであるビワマスを調理する『sel sal sale』の濱口昌大シェフ。

近江鴨のローストを作る『MOSS CROSS TOKYO』の増山明弘シェフ。

根菜のサラダを和えている『Cheval de Hyotan』の川副藍シェフ。

デザートの仕込みをする『INFINI(アンフィニ)』の金井史章シェフ。

ローカルファインフードフェア滋賀シェフたちが一目をおく『みなくちファーム』の野菜でコースはスタート。

コースの最初に提供されたのは、『sel sal sale』の濱口シェフによる、『みなくちファーム』の菊芋を使ったスープです。生産者である水口良子氏は「菊芋は形や味にクセのある食材なので、どう調理してもらえるのかが気になる」と、期待を語ります。

濱口シェフは「『みなくちファーム』の菊芋は、アクが少ないながらもコクがあり、生で食べてもおいしい。レストランでもずっと使っています。今回も、皮ごとスープにし、他の調味料や具材はほぼ何も入れず、コトコト煮込みました」と紹介。さらに、スライスして揚げた菊芋を最後に添え、サクサクした食感を加えています。

これには水口淳氏も「火を通すことで菊芋のコクが増している。こんなに美味しくなるなんて」と嬉しそうに反応します。

続いて濱口シェフが提供したのは、『みなくちファーム』のサラダゴボウを使ったパンです。「生で食べられるほどフレッシュで、上品なゴボウです。火を通すと甘みが引き立ち、お店ではこのパンを焼き立てで提供しています」と、濱口シェフ。

実はこのサラダゴボウは、東京の料理人のあいだで大人気の食材。「東京からたくさん注文をいただいているのだけど、いつも、何に使っているのか不思議だった」と水口良子氏は笑います。パンから豊かに湧き立つゴボウの香りを確かめ、生地に練りこまれた刻みゴボウを見ながら「丹精を込めて作った食材と、こんなに素敵な形で再会できてうれしい」と、パンをほおばります。

『みなくちファーム』は、農薬や化学肥料を使わずに、持続可能な循環型農業を実践していて、イタリアンの元料理人で食材バイヤーの山本敦士氏も「業界でもトップレベルの野菜をたくさん生産している」と高く評価しています。

どんな野菜も、味の良さと見た目の美しさが抜群で、ファンの多い生産者です。

濱口シェフによる、『みなくちファーム』の菊芋を使ったスープ。「器の底に入れたブラッターチーズと甘い菊芋のスープをからませながら楽しんでほしい」と濱口シェフ。

「火を通すことで菊芋のコクが増している。こんなに美味しくなるなんて」と、『みなくちファーム』水口淳氏も嬉しそう。

サラダゴボウのパン。みりん粕のバターと生ハムの深い旨みが、洗練されたサラダゴボウの味に奥行きを加える。

2021年夏に山本氏が『みなくちファーム』の農場を訪ねたときの様子。「土ごと食べてもおいしい!」と、掘り立てのサラダゴボウをかじる場面も。

『みなくちファーム』では4ヘクタールの畑を擁し、年間100種以上の野菜を栽培している。

ローカルファインフードフェア滋賀ビワマス、忍葱、伊吹大根、近江鴨……。滋賀の食材が互いに魅力を高め合う。

滋賀といえば琵琶湖。400万年もの歴史をもち、地元の人々が「海」とも呼ぶ、この日本一の大きな湖が、滋賀県独特の食材や食文化を数多く生み出しています。

琵琶湖の北岸の大浦漁港にある『西浅井漁業協同組合(漁協)』のビワマスは、そんな食材のうちのひとつ。脂が上品で刺身で食べて美味しく、もちろん、煮ても焼いても楽しめます。
川副シェフは今回、このビワマスを「ブレゼ」と言われる、やさしい火でしっとりと仕上げるフレンチの技法で調理。「ビワマスが繊細で上品な味なので、この調理法を選びました」と解説します。

このビワマスに添えたのが、忍葱としいたけのソース。忍葱は、滋賀県甲賀市で12月初旬から3月中旬に収穫されるねぎで、味わいが濃厚で、火を通すととろりと甘みが出てくるのが特徴です。
『JAこうか』の上田健司氏は「忍葱の甘みが最大限に引き出されていますね!」と、嬉しそう。忍葱の生産者千代傳男(つたお)氏も「鍋に入れたり、焼いて食べたりすることが多かったので、こんな調理の仕方があるなんて思わなかった」と笑顔を見せます。

続いて川副シェフが提供したのが、『いぶきファーム』の伊吹大根とフォアグラです生産者である谷口隆一氏も、「伊吹大根とフォアグラを合わせたことはないですね」と、興味津々。
「伊吹大根は煮崩れしにくく、お出汁をぐんぐん吸い込むのが特徴。そこで、近江鴨やひき肉から作ったコンソメで煮込みました」と、川副シェフ。さらに、フォアグラは、同じく谷口氏が生産するそばの実を挽いたものをまとわせ、外側の食感をパリッと仕上げています。

食事会が始まるまでは、緊張気味の表情を見せていた生産者も、シェフの美味しい料理を食べるうちに少しずつ心がほぐれてきた様子。また、生産者本人でさえも思いつかなかったような調理法や、意外な食材との組み合わせに好奇心をくすぐられたようです。

「丹精込めて育てた食材が大切に料理されている姿を実際に見ることができて嬉しい。しかも、なかなか予約の取れないお店のシェフの料理を食べられるなんて、とても貴重な機会」と、近江鴨を生産する『グッドワン』の坂上良一氏が話します。

川副シェフによる、『西浅井漁協』のビワマスを使ったブレゼ。

琵琶湖の北岸、大浦漁港にある『西浅井漁協』から湖を望む。

ビワマスは、7月が漁の最盛期。琵琶湖の水温が下がる1~2月は、脂がのってよりいっそう美味しくなる。

2022年の冬に甲賀市の忍葱の畑を訪れたときの様子。シェフたちが上田氏の言葉に耳を傾ける。

川副シェフによる、『いぶきファーム』の伊吹大根とフォアグラ。

「うちのそばの実が、こんなに美味しくなって嬉しい」と、谷口氏。

増山シェフによる、近江鴨のロースト。『グッドワン』の洗練された近江鴨を、塩胡椒でシンプルに焼いた。

「東京にもっと近江鴨を広めたい。シェフの手でこんなに美味しく料理できることがわかり、自信がついた」と坂上氏。

増山シェフによる『クサツパイオニアファーム』の赤米と『西浅井漁協』の氷魚(琵琶湖で冬にだけ獲れる鮎の稚魚)のお茶漬け。

金井シェフによる、いちごのデザート。滋賀県東近江市の『愛東いちごハウス』のよつぼしとあきひめをソルベに。

ローカルファインフードフェア滋賀食事会を終え、シェフたちが滋賀の生産者、食材を改めて語る。

すべての料理を提供し終えた後は、料理人たちと生産者のみなさんとで座談会を行いました。

濱口シェフは「日本全国、さまざまな生産者さんを訪ねてきたけれど、滋賀県のみなさんは 特に仕事が丁寧で、人があたたかい。一対一の関係性を築くことができている」と、コメント。

川副シェフも「琵琶湖を中心に、自然とともに良い食材が揃っていて、さらに、生産者が自然に寄り添いながら作っている」と、魅力を語ります。
増山シェフと金井シェフは「どの食材にも自然とともにストーリーがあるので、東京で、料理とともにこのストーリーをお客様に語っていきたい」「生産者のみなさんたちと今後もコミュニケーションをとり続けていきたい」と語り合い、盛況のなかで食事会を締め括りました。

自然豊かな滋賀県で育まれた食材が料理人にインスピレーションを与え、その食材で作られた料理が巡り巡って生産者たちに驚きや感動、次の生産に向けたアイディアを与える。

まさに、美味しさが深まる好循環。今後も滋賀の生産者と東京の料理人の交流は続いていきます。

「生産者のみなさんには『自分たちはこんなに素晴らしい食材を作っているんだ』と自信をもってほしい」と、4人の料理人。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:AYANO YOSHIDA

(supported by 滋賀県)

【関連記事】料理人たちによる視察の様子は、こちらから

大地の香り、海の香り。嗅覚から味覚へ送る、美味しいシグナル。[和光アネックス/東京都中央区]

木桶で醸した「和轍」の香りと「四万十川天然鮎のコンフィ」の鮎が持つ青い香り、オイルの香りが絶妙に合うペアリング。今回提案してくれたソムリエ・ドリンクディレクターの外山博之曰く、「更に美味しく楽しむ続きもある」とのこと。その答えは、本文後半にて!

WAKO ANNEX天井知らずの止まらない食欲。胃袋の箍(たが)を外す、ペアリング。

「木桶が持つヒノキの香りと鮎の青い香り、オイルの香りが食欲を掻き立てます」。

今回、提案するペアリングに対してそう分析するのは、ソムリエ・ドリンクディレクターの外山博之氏です。

合わせたのは、『秋元商店 籠屋ブルワリー』の「和轍」と『道の駅 よって西土佐』の「四万十川天然鮎のコンフィ」。

「和轍」は、杉の香りとモルトの旨みが凝縮された木桶仕込みのジャパニーズビールです。木桶は国産材ブランドである吉野杉を使用。木桶は呼吸し、住み着く微生物が時間をかけて発酵を進め、木桶でしか出せない深い味わいを育みます。生産量も希少な国産麦芽を使用し、繊細できめ細かく優しい味わいを生んでいます。

味はもちろん、今回の決め手は、何と言っても木桶の香り。香りのペアリングは、外山氏の得意分野でもあります。それに引き合わせたのは、「四万十川天然鮎のコンフィ」です。

日本の清流四万十川の象徴である天然鮎を使用する「四万十川天然鮎のコンフィ」は、鮎の香りを残しつつ、ハーブやオリーブオイルの香りも加わり、上品な味わいに仕上がっています。

「ビールの香り付けに使われる木桶が持つ杉の香り、ホップの香ばしい香りが、天然のアユの青い香りや塩味とつながり、絶妙な相性を生みます」。

また、最後に外山氏がこっそりと教えてくれたのは、ペアリングの続き。「ビールと鮎のペアリングも最高ですが、残ってしまうコンフィのオイルで作ったパスタやサラダにビールを合わせていただくのもおすすめです」。

想像しただけでも美味しいのは間違いなし。天井知らずの止まらない食欲。余すところなく食材を堪能し、〆まで楽しみたい。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日(金)にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロン及び和光オンラインストア(上記バナー)にて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、外山博之氏と千葉麻里絵さんがセレクトするペアリングをご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

『秋元商店 籠屋ブルワリー』の「和轍」は、吉野杉を使用した木桶仕込みのビール。味わいは艶やかで奥深く、色合いは深みのあるゴールド。口に含めば、木桶の香りがほんのり漂い、優しい甘みとほろ苦いコクが広がる。程よいボリュームや長い余韻も特徴。

四万十川の天然鮎を低温のオリーブオイルで長時間煮込んだ道の駅 よって西土佐』の「四万十川天然鮎のコンフィ」。四万十川が持つ自然の美味しさの全てを閉じ込め、鮎本来の風味が香草とともに広がる。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日(金)にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロン及び和光オンラインストア(上記バナー)にて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、外山博之氏と千葉麻里絵さんがセレクトするペアリングをご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

埼玉県出身。バーテンダーとしてレストランやホテルなどに勤務した後、ソムリエに転身。以降、様々なレストランで経験を積み、2012年より代々木上原『Gris』(現『sio』)のマネージャーに就任。2018年より調布市にある『Maruta』のドリンクを監修、2019年より京都『LURRA゜』のドリンクディレクションなど、ペアリングを行いながら活躍の場を広げている。

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8  MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp

Photographs:KOH AKAZAWA
Text:YUICHI KURAMOCHI​​​​​​
(Supprtted by WAKO)

決め手は、「温度」。王道のペアリングに一石を投じる新提案。[和光アネックス/東京都中央区]

「上喜元 純米吟醸 赤磐雄町 きもと仕込 熟成生酒」と「八葉塩幸 四種詰合せ」の食べ合わせを提案するのは、『GEM by moto』の店主・千葉麻里絵さん。「生酛造りのお酒に合うのは、塩辛4種の中でも、いか糀漬がおすすめです」。

WAKO ANNEX日本酒と塩辛。誰もが知る食べ合わせだが、ものの選び方とひと手間で別世界になる。

世のお父さん、日本の男性諸君のほとんどが食べ合わせた経験を持つであろう日本酒と塩辛。

今回、『GEM by moto』の店主・千葉麻里絵さんが提案してくれたのは、王道ともいえるそれですが、ものの選び方とひと手間で普通は普通でなくなります。

まず、ものの選び方。千葉さんが手に取るのは、『酒田酒造』の「上喜元 純米吟醸 赤磐雄町 きもと仕込 熟成生酒」と『気仙沼水産食品事業協同組合』の「八葉塩幸 四種詰合せ」です。

「上喜元 純米吟醸 赤磐雄町 きもと仕込 熟成生酒」は、氷点下−3℃にて3年以上貯蔵した無濾過生原酒です。偉大な酒造好適米「赤磐雄町米」の力を最大限発揮するために手間暇のかかる「生酛仕込」にて醸造しました。奥深いコク、やわらかく広がる旨味、嫌みのない熟成感は、他の上喜元とは一線を画したオンリーワンの味わいです。

そして、「八葉塩幸 四種詰合せ」。気仙沼で水揚げされ、通常ならばお刺身で食べるような新鮮なスルメイカを使用。気仙沼岩井崎の昔ながらの手作り塩100%にこだわり、低塩でまろやかな風味の塩辛に造り上げました。また、いか塩辛、いか明太子、いか糀漬、いか青唐辛子味噌と4種ある中、「上喜元 純米吟醸 赤磐雄町 きもと仕込 熟成生酒」との合わせには、いか糀漬を押します。

「塩辛の4種の中でも、いか糀漬が特にフィットします。王道の合わせ方ですが、この日本酒はフレッシュの状態でゆっくりと“温度”をキープしながら熟成するので、艶っぽさ、旨味のバランス感が良くなり、塩辛の糀の旨みがマッチします。フレッシュならではの熟成感をお楽しみください。冷酒から常温でお楽しみいただけます」。

今回、塩辛に補足すべきは、「しおから」ではなく「しおさち」と呼ぶ品であること。海の幸ならぬ塩の幸でもあるそれは、前出の通り全て手作り。塩における鮮度と旨味も酒との好相性に一役買っているのです。

王道の日本酒と塩辛のペアリング。それは、酒の造り方、食材の鮮度、温度などの方程式を正しく解くことによって、普通を感動へと導くのです。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日(金)にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロン及び和光オンラインストア(上記バナー)にて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、外山博之氏と千葉麻里絵さんがセレクトするペアリングをご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

『酒田酒造』の「上喜元 純米吟醸 赤磐雄町 きもと仕込 熟成生酒」。「生酛仕込」にて醸造された酒は、奥深いコク、やわらかく広がる旨味、嫌みのない熟成感が漂う。ほかの「上喜元」とは一線を画したオンリーワンの味わい。

『気仙沼水産食品事業協同組合』の「八葉塩幸 四種詰合せ」。4種の内容は、いか塩辛、いか明太子、いか糀漬、いか青唐辛子味噌。気仙沼岩井崎の昔ながらの手作り塩100%も旨さの決め手。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日(金)にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロン及び和光オンラインストア(上記バナー)にて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、外山博之氏と千葉麻里絵さんがセレクトするペアリングをご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

岩手県出身。保険会社のSEから日本酒に魅了されたことで飲食業界に転身。新宿の『日本酒スタンド酛(もと)』に入社後、利酒師の資格を取得。日本全国の酒蔵を訪ね、酒類総合研究所の研修などにも参加し、2015年に『GEM by moto』をオープン。化学的知見から一人ひとりに合わせた日本酒を提供する。口内調味やペアリングというキーワードで新しい日本酒体験を作り、日本のみならず海外のファンを魅了し続けるかたわら、様々なジャンルの料理人や専門家ともコラボレーションし、新しい日本酒のスタイルを日々模索する。2019年には日本酒や日本の食文化を世界に発信する「第14代酒サムライ」に叙任。。主な作品は、『日本酒に恋して』(主婦と生活社)、『最先端の日本酒ペアリング』(旭屋出版)など。出演作は、映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』(配給:シンカ)。https://www.marie-lab.com/

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8  MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp

Photographs:JIRO OHTANI
Text:YUICHI KURAMOCHI​​​​​​
(Supprtted by WAKO)

14oz インディゴxインディゴセルビッチデニムストレート

--

     
  • 経糸、緯糸共にインディゴロープ染の糸を使用したセルビッチストレート
  •  
  • 一見して黒に見えるほどの濃いインディゴですが、履いていくうちにダイナミックな色落ちがでてきて、他のどのジーンズとも違う色合いに変化していきます

素材

     
  • 綿:100%

生産国

     
  • 日本

納期

     
  • 11月上旬ごろ

14oz セルビッチデニムダブルニーロガージーンズ

--

  • 【822】21ozセルビッチデニムダブルニーロガージーンズの14ozバージョン
  • 前身の腰から裾に近い位置までをダブルニー仕様にすることで、強度と丈夫さを2倍にアップ
  • 3本針のトリプルステッチや巻き縫いのダブルステッチ等、押さえるべき所はしっかり押さえたこだわり仕様
  • 脇の縫製のみ、インターロックの3本針縫い仕様にすることで、巻き縫いよりも硬さが解消され、履きやすい仕様にしています
  • 後ろポケットは力布を下半面貼り
  • リベットは昔ながらの真鍮無垢タイプ
  • ワンウォッシュ済み

素材

     
  • 綿:100%

生産国

     
  • 日本

納期

     
  • 10月上旬ごろ

14ozヘビーコーデュロイストレート

--

     
  • 経糸、緯糸共に双系の二重織りコーデュロイで、通常のコーデュロイより風を通しにくい生地
  •  
  • 機屋さんが廃業となるため、今季のみの生地となります

素材

     
  • 綿:100%

生産国

     
  • 日本

納期

     
  • 9月中旬ごろ

料理人が見た知られざる冬の滋賀。寒い時期こそ出合える美味しさがある。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

雪の積もったにんじん畑で、『みなくちファーム』のみなさんと一緒に。

ローカルファインフードフェア滋賀雪降る北部から、快晴の南部まで、琵琶湖をぐるりとまわる。

東京都内で活躍する料理人や和菓子職人が、滋賀県産食材を使った料理をそれぞれの店で提供する期間限定のフードフェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。食材が育まれる土地を自分の目で見て、生産者の思いを直接聞くため、4人のシェフとバイヤーが1泊2日で滋賀を訪ねました。

米原(まいばら)駅から車で移動すること約30分。滋賀に到着して一行がまず向かったのは、長浜市西上坂町の『ワボウ産業』です。案内されたのは、まるで工場のような建物。この敷地のどこに海老がいるのだろう、と不思議な気持ちになりそうですが、実は『ワボウ産業』は、もともと半導体製造を続けてきた企業です。自社の設備とノウハウをいかして、「食」の分野で新たな挑戦ができないか。そんな思いから、2020年夏に独自の方法でバナメイエビの養殖を始め、翌年から自社ブランド「おうみ海老」の出荷を始めました。

工場内に入ると、一面に設置された大きな水槽に圧倒されます。ここがまさに、「おうみ海老」を養殖している現場。水槽の水に、伊吹山の地下50mから湧き出る清冽な地下水と、フランス産の岩塩が使われています。

最大の特徴は、半導体事業で築いた技術力で、この水槽の水を循環利用していることです。まず、水質を保つことで抗生物質などを一切投与しない環境をつくり、安全性の高い海老を養殖します。
そして、海老を養殖した後、窒素分がたまった水を別の水槽に移し、今度はこの水で海ぶどうとアオサを栽培します。すると、海ぶどうとアオサが天然のろ過装置となり、水を澄んだ美しい状態に戻してくれるのです。その水で、再び海老の養殖を始める。こうして、複数の食材の養殖を介しながら、工場内で水を循環させているのです。「地球にやさしく、そして、本当に美味しい食材を人々に。それが、私たちが実現したいことなのです」と、第一事業部技術課課長の宮本和徳氏は言います。
こうした環境で育った「おうみ海老」は、臭みがなく、澄んだ味わい。さらに、身が引き締まっていて、噛むほどに海老本来の甘みが広がります。冷凍して出荷されますが、解凍後、生のままでも美味しく食べることができるほど品質が高いことも特徴です。

「今回の視察でも特に楽しみにしていたのが、この『おうみ海老』です」と話すのは、インド料理「ニルヴァーナ ニューヨーク」の料理人、引地翔悟氏。「ひとつのお皿に、このワボウ産業の海老と海ぶどう、アオサが乗る料理を考えて、この工場のストーリーをお客さまに伝えたい」と、語ります。

元イタリアンのシェフで食材バイヤーの山本敦士氏は「小ぶりの海老だけを集めて真空冷凍した商品があれば、飲食店にアヒージョ用に提案できそう」と、宮本氏に相談していました。

【関連記事】滋賀食材フェア/琵琶湖の豊かな水が育む、瑞々しい食材。料理人たちが見た滋賀県の食材の底力。

“天然のろ過装置”、アオサ、海ぶどうを用いて浄化した水で、「おうみ海老」は養殖される。

20gから31gまで、大きさごとに並んだ「おうみ海老」に見入る4人と、宮本氏。

「生でも十分美味しいので、タンドールとして強火で外側をバリッと焼き、中をレアにして提供しても美味しそう」と引地氏。

海老を養殖した後の水は、アオサを栽培しながらろ過していく。

ローカルファインフードフェア滋賀ヤマトタケル終焉の地で育つ伝統野菜・伊吹大根。

お昼休憩を兼ねて向かったのが、米原市大久保の蕎麦屋『久次郎』。岐阜県との県境に近く、姉川源流に位置する、こじんまりとした趣深いお店です。なんといっても、ここは日本百名山の一峰と知られる伊吹山の麓。この山には、日本神話の英雄、ヤマトタケルを死に追いやった強力な山の神様がいるという言い伝えもあります。

『久次郎』の店主、谷口隆一氏は、元米原市の職員をされていた方。在職中は、米原市に伝わる伝統野菜の「伊吹大根」と伊吹在来そばの「伊吹そば」の広報活動に勤しんでいたそう。そのうちに「この素晴らしさを人々に伝えていくには、自分が現場に入り込むしかない」という情熱にかられ、57歳で市役所を早期退職し、『いぶきファーム』を発足。伊吹大根と伊吹そばの栽培のかたわらで、後に『久次郎』をオープンしました。

雪のため畑の見学はかないませんでしたが、谷口氏が用意してくださった大きさ違いの伊吹大根を見物。谷口氏は「冬は、雪の下でさらに甘味が加わり、伊吹大根にとって最高の時期です」と話したうえで「小ぶりのものは水分が少なくて肉質が固く、よく締まっているので煮崩れしにくい。ふろふき大根など煮物に最適です。大きめのものは、香りが強く、小気味いいすっきりとした辛味が最高です。すりおろして蕎麦に添えるのがおすすめ」と紹介します。

「シャープでキレがよく、辛さが口の中に残らず、後味がすっきりしていますね」と興奮気味なのは、和菓子と日本酒のマリアージュを提案する『薫風』のつくださちこさん。「生のまま辛味を生かしてもいいし、火を通して自然に出てくる甘さを砂糖がわりにするのも、どちらも良さそう」と、少しずつアイデアが浮かんできているようです。

イタリアン「KNOCK」の料理人、犬亦真太朗氏は「この土地に伝わる歴史や伝統を感じさせる強い味わいが魅力。辛味を生かした料理をつくりたい」と、メモをとっていました。

つくださんがさらに関心を見せていたのは、谷口氏が販売しているそば茶。在来種の「伊吹そば」のそばの実は、小粒で、香りが強く、さらに旨みや甘みも優れています。煎ってそば茶にすると、香ばしさが増し、実をそのままポリポリと食べても美味しさを感じられます。「バニラアイスにそば茶用のそばの実をまぶして食べると、アイスクリームの食感にアクセントがうまれ、味にメリハリもつくんです」と谷口氏に紹介されると、「和菓子にも使えそう」と、つくださんはうなずいていました。

伊吹大根は、大きさによって煮物や大根おろしなど使い分けると、魅力が増す。

昼食をとりながら谷口氏の解説に耳を傾ける一行。

伊吹そばをぶっかけスタイルで。薬味に伊吹大根が添えられ供される。

伊吹そばの実をまぶしたバニラアイス。

ローカルファインフードフェア滋賀滋賀県の「海」、琵琶湖で冬にだけ獲れる氷魚(ひうお)。

次に訪れたのは、琵琶湖の北岸の大浦漁港にある「西浅井漁業協同組合(漁協)」です。滋賀県といえば、琵琶湖。地元の人はこの琵琶湖を「海」と呼ぶほど、特別な思いを寄せています。さて、冬の琵琶湖には、どんな食材が眠っているのでしょうか。

「本日、皆さんに見てもらいたいのは、鮎の稚魚である氷魚(ひうお)です」と、一行を迎えるのは、漁協の代表理事・礒崎和仁氏。シラスより少し大きめで、つやつや、ぷりっとした見た目が特徴の氷魚は、琵琶湖の冬の風物詩。「琵琶湖の西か北で食べることが多く、生きている時は透明で氷のような美しい見た目をしていることから、氷魚と言われています」と、礒崎氏は教えてくれます。

その隣に添えられているのは、ビワマスの刺身です。ビワマスは、一般的なマスと異なり、海に出ず、一生を淡水域で終える魚。サケ科ではあるものの、その脂はサーモンよりも上品なのが特徴です。漁の最盛期は7月。琵琶湖の水温が下がる1~2月は、脂がのってよりいっそう美味しくなります。
「よく見ると、お皿の手前にあるビワマスの刺身は赤みが強くて、後方に並んでいるのは白っぽいですよね。実は、ビワマスが何を食べて育ったかによって、身の色が変わるのです」と、礒崎氏。捌いて中を見るまではわからないそうですが、エビ類を多く食べたビワマスは身が赤くなり、コアユを多く食べると身が白っぽくなるといいます。「白っぽい方が、より脂がのっています」と、礒崎氏が解説してくれました。

手前の二切れが赤みが強く、後方の三切れは白っぽい。コアユかエビ類、どちらを多く食べたかで身の色が変わる。

冬限定の琵琶湖で獲れる氷魚。

引地氏は、夏にはビワマスをタルタルにして提供したことがあるそう。

礒崎氏の話に真剣に耳を傾ける犬亦氏。

ローカルファインフードフェア滋賀明るく、朗らかに、常に新しいチャレンジを続ける『みなくちファーム』。

1日目の最後に一行が訪れたのが、琵琶湖の北西、高島市にある『みなくちファーム』。就農からわずか8年ながらも、見た目が美しく、みずみずしくてフレッシュな野菜をつくることで定評のある生産者です。農薬や化学肥料を使わずに、持続可能な循環型農業を実践しながら、年間100種以上の野菜を栽培しています。そして、シェフやバイヤーからのニーズに応じて、新しい野菜の栽培にも積極的に取り組んでいくチャレンジ精神の持ち主でもあります。

シェフやバイヤーは、すでに代表の水口 淳氏とも親しく、今回は、冬に旨味を増すしいたけの試食を行いました。「せっかくシェフが集まっているので、プロによる調理で試食しませんか」という水口氏の提案により、引地氏がキッチンに立つことに。「実はお店で使っている野菜用のオリジナルスパイスを持参しました」と、引地氏も乗り気の様子。早速、しいたけを一口大に切り分け、フライパンで手際良く炒めていきます。

和気藹々とした雰囲気で、一同はしいたけをはじめ、『みなくちファーム』の野菜の試食をすすめていきます。山本氏は「いろんな産地の農家さんにも足を運びますが、ここの野菜はトップレベル。水洗いしたら、そのまま丸ごとかじっておいしい。『みなくちファーム』さんのファンの飲食店もたくさんいます」と、太鼓判。菊芋や大根を、パリっ、カリっと頬張ります。

無農薬で育てた原木しいたけ。肉厚で旨味がぎゅっと詰まっている。

しいたけをサッと炒める引地氏。

すべて、みなくちファームで栽培している大根。紅くるり、京むらさき、紅芯大根など。

「雪に埋もれていますが」と言いながら、にんじん畑に案内してくれた水口氏夫婦。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:AYANO YOSHIDA

(supported by 滋賀県)

料理人が見た知られざる冬の滋賀。寒い時期こそ出合える美味しさがある。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

雪の積もったにんじん畑で、『みなくちファーム』のみなさんと一緒に。

ローカルファインフードフェア滋賀雪降る北部から、快晴の南部まで、琵琶湖をぐるりとまわる。

東京都内で活躍する料理人や和菓子職人が、滋賀県産食材を使った料理をそれぞれの店で提供する期間限定のフードフェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。食材が育まれる土地を自分の目で見て、生産者の思いを直接聞くため、4人のシェフとバイヤーが1泊2日で滋賀を訪ねました。

米原(まいばら)駅から車で移動すること約30分。滋賀に到着して一行がまず向かったのは、長浜市西上坂町の『ワボウ産業』です。案内されたのは、まるで工場のような建物。この敷地のどこに海老がいるのだろう、と不思議な気持ちになりそうですが、実は『ワボウ産業』は、もともと半導体製造を続けてきた企業です。自社の設備とノウハウをいかして、「食」の分野で新たな挑戦ができないか。そんな思いから、2020年夏に独自の方法でバナメイエビの養殖を始め、翌年から自社ブランド「おうみ海老」の出荷を始めました。

工場内に入ると、一面に設置された大きな水槽に圧倒されます。ここがまさに、「おうみ海老」を養殖している現場。水槽の水に、伊吹山の地下50mから湧き出る清冽な地下水と、フランス産の岩塩が使われています。

最大の特徴は、半導体事業で築いた技術力で、この水槽の水を循環利用していることです。まず、水質を保つことで抗生物質などを一切投与しない環境をつくり、安全性の高い海老を養殖します。
そして、海老を養殖した後、窒素分がたまった水を別の水槽に移し、今度はこの水で海ぶどうとアオサを栽培します。すると、海ぶどうとアオサが天然のろ過装置となり、水を澄んだ美しい状態に戻してくれるのです。その水で、再び海老の養殖を始める。こうして、複数の食材の養殖を介しながら、工場内で水を循環させているのです。「地球にやさしく、そして、本当に美味しい食材を人々に。それが、私たちが実現したいことなのです」と、第一事業部技術課課長の宮本和徳氏は言います。
こうした環境で育った「おうみ海老」は、臭みがなく、澄んだ味わい。さらに、身が引き締まっていて、噛むほどに海老本来の甘みが広がります。冷凍して出荷されますが、解凍後、生のままでも美味しく食べることができるほど品質が高いことも特徴です。

「今回の視察でも特に楽しみにしていたのが、この『おうみ海老』です」と話すのは、インド料理「ニルヴァーナ ニューヨーク」の料理人、引地翔悟氏。「ひとつのお皿に、このワボウ産業の海老と海ぶどう、アオサが乗る料理を考えて、この工場のストーリーをお客さまに伝えたい」と、語ります。

元イタリアンのシェフで食材バイヤーの山本敦士氏は「小ぶりの海老だけを集めて真空冷凍した商品があれば、飲食店にアヒージョ用に提案できそう」と、宮本氏に相談していました。

【関連記事】滋賀食材フェア/琵琶湖の豊かな水が育む、瑞々しい食材。料理人たちが見た滋賀県の食材の底力。

“天然のろ過装置”、アオサ、海ぶどうを用いて浄化した水で、「おうみ海老」は養殖される。

20gから31gまで、大きさごとに並んだ「おうみ海老」に見入る4人と、宮本氏。

「生でも十分美味しいので、タンドールとして強火で外側をバリッと焼き、中をレアにして提供しても美味しそう」と引地氏。

海老を養殖した後の水は、アオサを栽培しながらろ過していく。

ローカルファインフードフェア滋賀ヤマトタケル終焉の地で育つ伝統野菜・伊吹大根。

お昼休憩を兼ねて向かったのが、米原市大久保の蕎麦屋『久次郎』。岐阜県との県境に近く、姉川源流に位置する、こじんまりとした趣深いお店です。なんといっても、ここは日本百名山の一峰と知られる伊吹山の麓。この山には、日本神話の英雄、ヤマトタケルを死に追いやった強力な山の神様がいるという言い伝えもあります。

『久次郎』の店主、谷口隆一氏は、元米原市の職員をされていた方。在職中は、米原市に伝わる伝統野菜の「伊吹大根」と伊吹在来そばの「伊吹そば」の広報活動に勤しんでいたそう。そのうちに「この素晴らしさを人々に伝えていくには、自分が現場に入り込むしかない」という情熱にかられ、57歳で市役所を早期退職し、『いぶきファーム』を発足。伊吹大根と伊吹そばの栽培のかたわらで、後に『久次郎』をオープンしました。

雪のため畑の見学はかないませんでしたが、谷口氏が用意してくださった大きさ違いの伊吹大根を見物。谷口氏は「冬は、雪の下でさらに甘味が加わり、伊吹大根にとって最高の時期です」と話したうえで「小ぶりのものは水分が少なくて肉質が固く、よく締まっているので煮崩れしにくい。ふろふき大根など煮物に最適です。大きめのものは、香りが強く、小気味いいすっきりとした辛味が最高です。すりおろして蕎麦に添えるのがおすすめ」と紹介します。

「シャープでキレがよく、辛さが口の中に残らず、後味がすっきりしていますね」と興奮気味なのは、和菓子と日本酒のマリアージュを提案する『薫風』のつくださちこさん。「生のまま辛味を生かしてもいいし、火を通して自然に出てくる甘さを砂糖がわりにするのも、どちらも良さそう」と、少しずつアイデアが浮かんできているようです。

イタリアン「KNOCK」の料理人、犬亦真太朗氏は「この土地に伝わる歴史や伝統を感じさせる強い味わいが魅力。辛味を生かした料理をつくりたい」と、メモをとっていました。

つくださんがさらに関心を見せていたのは、谷口氏が販売しているそば茶。在来種の「伊吹そば」のそばの実は、小粒で、香りが強く、さらに旨みや甘みも優れています。煎ってそば茶にすると、香ばしさが増し、実をそのままポリポリと食べても美味しさを感じられます。「バニラアイスにそば茶用のそばの実をまぶして食べると、アイスクリームの食感にアクセントがうまれ、味にメリハリもつくんです」と谷口氏に紹介されると、「和菓子にも使えそう」と、つくださんはうなずいていました。

伊吹大根は、大きさによって煮物や大根おろしなど使い分けると、魅力が増す。

昼食をとりながら谷口氏の解説に耳を傾ける一行。

伊吹そばをぶっかけスタイルで。薬味に伊吹大根が添えられ供される。

伊吹そばの実をまぶしたバニラアイス。

ローカルファインフードフェア滋賀滋賀県の「海」、琵琶湖で冬にだけ獲れる氷魚(ひうお)。

次に訪れたのは、琵琶湖の北岸の大浦漁港にある「西浅井漁業協同組合(漁協)」です。滋賀県といえば、琵琶湖。地元の人はこの琵琶湖を「海」と呼ぶほど、特別な思いを寄せています。さて、冬の琵琶湖には、どんな食材が眠っているのでしょうか。

「本日、皆さんに見てもらいたいのは、鮎の稚魚である氷魚(ひうお)です」と、一行を迎えるのは、漁協の代表理事・礒崎和仁氏。シラスより少し大きめで、つやつや、ぷりっとした見た目が特徴の氷魚は、琵琶湖の冬の風物詩。「琵琶湖の西か北で食べることが多く、生きている時は透明で氷のような美しい見た目をしていることから、氷魚と言われています」と、礒崎氏は教えてくれます。

その隣に添えられているのは、ビワマスの刺身です。ビワマスは、一般的なマスと異なり、海に出ず、一生を淡水域で終える魚。サケ科ではあるものの、その脂はサーモンよりも上品なのが特徴です。漁の最盛期は7月。琵琶湖の水温が下がる1~2月は、脂がのってよりいっそう美味しくなります。
「よく見ると、お皿の手前にあるビワマスの刺身は赤みが強くて、後方に並んでいるのは白っぽいですよね。実は、ビワマスが何を食べて育ったかによって、身の色が変わるのです」と、礒崎氏。捌いて中を見るまではわからないそうですが、エビ類を多く食べたビワマスは身が赤くなり、コアユを多く食べると身が白っぽくなるといいます。「白っぽい方が、より脂がのっています」と、礒崎氏が解説してくれました。

手前の二切れが赤みが強く、後方の三切れは白っぽい。コアユかエビ類、どちらを多く食べたかで身の色が変わる。

冬限定の琵琶湖で獲れる氷魚。

引地氏は、夏にはビワマスをタルタルにして提供したことがあるそう。

礒崎氏の話に真剣に耳を傾ける犬亦氏。

ローカルファインフードフェア滋賀明るく、朗らかに、常に新しいチャレンジを続ける『みなくちファーム』。

1日目の最後に一行が訪れたのが、琵琶湖の北西、高島市にある『みなくちファーム』。就農からわずか8年ながらも、見た目が美しく、みずみずしくてフレッシュな野菜をつくることで定評のある生産者です。農薬や化学肥料を使わずに、持続可能な循環型農業を実践しながら、年間100種以上の野菜を栽培しています。そして、シェフやバイヤーからのニーズに応じて、新しい野菜の栽培にも積極的に取り組んでいくチャレンジ精神の持ち主でもあります。

シェフやバイヤーは、すでに代表の水口 淳氏とも親しく、今回は、冬に旨味を増すしいたけの試食を行いました。「せっかくシェフが集まっているので、プロによる調理で試食しませんか」という水口氏の提案により、引地氏がキッチンに立つことに。「実はお店で使っている野菜用のオリジナルスパイスを持参しました」と、引地氏も乗り気の様子。早速、しいたけを一口大に切り分け、フライパンで手際良く炒めていきます。

和気藹々とした雰囲気で、一同はしいたけをはじめ、『みなくちファーム』の野菜の試食をすすめていきます。山本氏は「いろんな産地の農家さんにも足を運びますが、ここの野菜はトップレベル。水洗いしたら、そのまま丸ごとかじっておいしい。『みなくちファーム』さんのファンの飲食店もたくさんいます」と、太鼓判。菊芋や大根を、パリっ、カリっと頬張ります。

無農薬で育てた原木しいたけ。肉厚で旨味がぎゅっと詰まっている。

しいたけをサッと炒める引地氏。

すべて、みなくちファームで栽培している大根。紅くるり、京むらさき、紅芯大根など。

「雪に埋もれていますが」と言いながら、にんじん畑に案内してくれた水口氏夫婦。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:AYANO YOSHIDA

(supported by 滋賀県)

雪深い北部から、快晴の南部へ。料理人が琵琶湖周辺をめぐる、食材探しの旅。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

1日目と打って変わって、滋賀の南東部では晴れやかな空が広がっていた。

ローカルファインフードフェア滋賀雪の下、春に向けてすくすくと成長している食材に思いを馳せる。

東京都内で活躍する料理人や和菓子職人が、滋賀県産食材を使った料理をそれぞれの店で提供する期間限定のフードフェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。滋賀に分け入り、食材が育つ環境、育てている人を自分の目で見に行くべく、4人のシェフとバイヤーによる生産者巡りもいよいよ2日目です。

2日目は、大雪のなかでの出発となりました。雪化粧をまとった滋賀の山々を眺めながら一行が向かったのは、米原市の『薬草の里文化センター』。雪深くなっているため薬草園を散策することはかないませんでしたが、センターの室内で、四季折々に伊吹山に生えてくる薬草を紹介してもらいました。

「大昔、伊吹山の麓で暮らしていた人々は病院に行ったり、医者に診にきてもらったりすることがままならなかったので、薬草の力で治療していたそうです」という、薬草園の園長・谷口康氏による解説に、和菓子職人のつくださちこさんは興味津々。「昔の人々の暮らしや、日本の歴史は、和菓子を作るうえで欠かせない知識。古来の人々が、伊吹山の麓で薬草をどんなふうに取り入れていたのかとても気になります」と、積極的に質問を繰り返していました。

ツクシ、ドクダミ、フキ、シソ、ナズナ、セリなど多くの薬草が伊吹山には自生しますが、つくださんが特に目を輝かせながら話を聞いていたのが、ヨモギ。草餅を筆頭に、和菓子にもよく用いられる薬草です。春先に芽を出し、腹痛、下痢、腰痛に効果があり、生の葉をすりつぶして体に塗ると、止血効果もあるそう。「伊吹山でとれた薬草で和菓子を作り、昔の人々が医者がわりに重用していた、というストーリーを添えながらお客様に提供できたら、とても楽しそう」と、つくださんは声を弾ませていました。

【関連記事】滋賀食材フェア/琵琶湖の豊かな水が育む、瑞々しい食材。料理人たちが見た滋賀県の食材の底力。

雪化粧の伊吹山。暖かくなってくると、数々の薬草が芽吹き出す。

『薬草の里文化センター』で写真を見ながら薬草の効能を学ぶ4人。

『薬草の里文化センター』の谷口康氏。

伊吹山の麓で暮らす人々の生活と密接に関わる薬草の歴史を、やや興奮気味で学ぶつくださん。

ローカルファインフードフェア滋賀真っ赤な宝石、たわわに実ったいちごをほおばる。

琵琶湖の東へと移動し、一行が到着したのは東近江市の愛東いちごハウス。『aito budo labo』のメンバー・漆崎厚史氏は、初秋はぶどうを、初春にはいちごを出荷しています。冬は寒さのため、いちごの色づきがゆっくり。収穫できるまで時間がかかる分、甘さをため込む時間も長くなり、一粒一粒の味わいが濃厚になっていくのが特徴です。

ここで栽培しているいちごは、オレンジがかった色味が美しい「よつぼし」と、はちみつのような甘さが特徴の「かおりの」、やわらかくてジューシーな「あきひめ」の3種。すでに真っ赤に熟したいちごを試食しつつも、一行にとって新たな発見となったのは、“赤くなる前のグリーンのいちご”にも魅力があるということ。「さくさくしていて、爽やかな味なのでお菓子に使いたい」とつくださんも絶賛。「野菜と同じ感覚で、サラダや天ぷらにしても美味しいかも」と料理人の犬亦真太朗氏や引地翔悟氏も気に入った様子。

実際にはグリーンのいちごは出荷されていませんが、まだ世に出ていない食材を発掘できるのも、視察の意義のひとつ。料理人たちの反応を受け、バイヤーの山本敦士氏が「どのように体制を整えればグリーンのいちごを出荷できますか」と、漆崎氏に相談する場面も。いつか飲食店に向けてグリーンのいちごが流通していく日がくるかもしれません。

『aito budo labo』の漆崎厚史氏、青山彰宏氏、横田紳矢氏の案内のもと、いちごハウスを見学する4人。

赤く熟す手前の、グリーンのいちごの美味しさを知った、バイヤーの山本氏。

ローカルファインフードフェア滋賀地下水が育む、ジューシーなトマト。

朝は大雪のなかでの出発となりましたが、琵琶湖を中心に東へと車を進めていくと、まるで同じ滋賀県とは思えないほどの快晴。目の前に広がる畑や山々にも雪はまったくなく、県内でも気候が違うことに気づきます。滋賀県の多様な地域性を実感する瞬間です。

やがてたどり着いたのが、蒲生郡日野町『FARM KEI』のトマトハウス。社名は、代表の井狩けいこ氏の名前に由来したもの。元は車の販売をしていたという井狩さんは、5年前にトマトの栽培を始めました。

『FARM KEI』のトマトは、小粒で、色彩豊か。味や食感も、種類豊富です。たとえば黄色い「ナポリターナカナリア」は、さくさくとした食感で、柑橘のような爽やかな風味が特徴です。一方、丸くてぷっくりとした形状で、赤く熟れた「プチぽよ」はさくらんぼのようにみずみずしく、ふくよかな甘味が魅力。

一同が特に感動したのは、フレッシュな緑色の「カプリエメラルド」。「緑色のトマトは青臭いイメージだったけれど、カプリエメラルドはほんのちょっとの酸味と甘味のバランスがよくて、緑色のトマトの概念を覆す美味しさ」と、つくださんは話します。

「これだけ見た目が美しく、種類ごとに個性的な味わいをもっているから、あまり手を加えずに素のままの美味しさを伝えたい。ひとつのお皿に何色ものトマトが入るようにして、シンプルなサラダにして提供したら良さそう」と、引地氏。『FARM KEI』のトマトに相当惚れ込んだようです。

「美味しさの秘密は地下水」と、井狩さん。『FARM KEI』のほど近くにある「鈴休(すずやみ)神社」は、江戸時代の参勤交代の際に、水飲み休憩場として使われていたそう。当時は井戸で地下水を汲み上げていて、その美味しさに人々が惚れ込んでいたといいます。どうも、『FARM KEI』はこの地下水の恩恵をうけているそう。「トマトが美味しくなる条件は、すでにこの土地に揃っている。トマトがすくすくと元気に育つ環境をつくることが、私の仕事なんです」と、井狩さんは言います。

『FARM KEI』では約10種類のジュエリートマトを栽培している。

『FARM KEI』代表の井狩けいこ氏。

トマトハウスでほんのり黒みを帯びた見た目で、りんごのような食感と甘味が特徴の「ブラッディタイガー」を見る犬亦氏。

『FARM KEI』では、10月から翌6月にかけてトマトを出荷する。

ローカルファインフードフェア滋賀質実剛健がウリの忍葱の畑を見学。

2日にわたる視察の旅も、いよいよ終盤。最後の目的地は、甲賀市の忍葱(しのぶねぎ)畑です。

「忍葱」という名前は、甲賀市が甲賀忍者の里であることにちなんだもの。12月初旬から3月中旬に収穫されるねぎは、甲賀市の冬の特産品としても知られています。
甲賀市は風が強く吹く寒冷な地域でありながら雪があまり降らないため、栽培に長い時間をかけてもねぎが傷みません。こうした気候的条件を利用し、一般的な白ねぎよりも1.5倍の太さになるまでじっくりと育てていきます。

こうしてできあがった忍葱は、長くて太く、ぎゅっと身が詰まっていて味が濃厚なことが特徴です。火を通せばとろりと甘みが出てきて、やさしい味わいになり、焼いたり、鍋に入れたりするのに向いています。

JAこうかの上田健司氏の案内のもと、一同は畑を見学。「もともと忍葱の大ファンで、愛用しています」と笑顔を見せるのは、犬亦氏。
「この太さをお客様にも伝えたくて、なるべく形を残したまま、焼いたり、コンフィにしただけで提供しています」と、愛用してきた食材が育つ現場を目の当たりにできて、嬉しそうにしていました。

上田氏とともにねぎ畑を見学。

朝見ていた雪景色とは打って変わって、穏やかな夕暮れとともに視察の旅を終えた。

ローカルファインフードフェア滋賀2日間で見えてきた滋賀県の生産者と食材に宿る奥深きストーリー。

2日間を通して、出会ってきた滋賀の生産者と食材。「東京で暮らしていると、全国各地の美味しい食材を手に入れることができる。ただ単に美味しいから、という理由でその食材を使うのではなくて、僕たちは、その一歩先に行きたい。つまり、育った土地や生産者のストーリーもお客様に伝えたいのです。だから、この旅に参加しました」とは、犬亦氏。隣で話を聞くつくださんと引地氏も、大きくうなずきます。食材の素晴らしさとともに、生産者たちの思いは、今回の視察に参加した4人の胸に確実に刻まれたことでしょう。

今回の視察で巡った生産者たちの食材を使った料理は、2022年2月14日(月)~3月25日(金)に開催される『Local Fine Food Fair SHIGA』で味わうことができます。ぜひ、料理の美味しさを堪能しつつ、シェフたちから生産者の熱き思いを聞いてみてください。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:AYANO YOSHIDA

(supported by 滋賀県)

雪深い北部から、快晴の南部へ。料理人が琵琶湖周辺をめぐる、食材探しの旅。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

1日目と打って変わって、滋賀の南東部では晴れやかな空が広がっていた。

ローカルファインフードフェア滋賀雪の下、春に向けてすくすくと成長している食材に思いを馳せる。

東京都内で活躍する料理人や和菓子職人が、滋賀県産食材を使った料理をそれぞれの店で提供する期間限定のフードフェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。滋賀に分け入り、食材が育つ環境、育てている人を自分の目で見に行くべく、4人のシェフとバイヤーによる生産者巡りもいよいよ2日目です。

2日目は、大雪のなかでの出発となりました。雪化粧をまとった滋賀の山々を眺めながら一行が向かったのは、米原市の『薬草の里文化センター』。雪深くなっているため薬草園を散策することはかないませんでしたが、センターの室内で、四季折々に伊吹山に生えてくる薬草を紹介してもらいました。

「大昔、伊吹山の麓で暮らしていた人々は病院に行ったり、医者に診にきてもらったりすることがままならなかったので、薬草の力で治療していたそうです」という、薬草園の園長・谷口康氏による解説に、和菓子職人のつくださちこさんは興味津々。「昔の人々の暮らしや、日本の歴史は、和菓子を作るうえで欠かせない知識。古来の人々が、伊吹山の麓で薬草をどんなふうに取り入れていたのかとても気になります」と、積極的に質問を繰り返していました。

ツクシ、ドクダミ、フキ、シソ、ナズナ、セリなど多くの薬草が伊吹山には自生しますが、つくださんが特に目を輝かせながら話を聞いていたのが、ヨモギ。草餅を筆頭に、和菓子にもよく用いられる薬草です。春先に芽を出し、腹痛、下痢、腰痛に効果があり、生の葉をすりつぶして体に塗ると、止血効果もあるそう。「伊吹山でとれた薬草で和菓子を作り、昔の人々が医者がわりに重用していた、というストーリーを添えながらお客様に提供できたら、とても楽しそう」と、つくださんは声を弾ませていました。

【関連記事】滋賀食材フェア/琵琶湖の豊かな水が育む、瑞々しい食材。料理人たちが見た滋賀県の食材の底力。

雪化粧の伊吹山。暖かくなってくると、数々の薬草が芽吹き出す。

『薬草の里文化センター』で写真を見ながら薬草の効能を学ぶ4人。

『薬草の里文化センター』の谷口康氏。

伊吹山の麓で暮らす人々の生活と密接に関わる薬草の歴史を、やや興奮気味で学ぶつくださん。

ローカルファインフードフェア滋賀真っ赤な宝石、たわわに実ったいちごをほおばる。

琵琶湖の東へと移動し、一行が到着したのは東近江市の愛東いちごハウス。『aito budo labo』のメンバー・漆崎厚史氏は、初秋はぶどうを、初春にはいちごを出荷しています。冬は寒さのため、いちごの色づきがゆっくり。収穫できるまで時間がかかる分、甘さをため込む時間も長くなり、一粒一粒の味わいが濃厚になっていくのが特徴です。

ここで栽培しているいちごは、オレンジがかった色味が美しい「よつぼし」と、はちみつのような甘さが特徴の「かおりの」、やわらかくてジューシーな「あきひめ」の3種。すでに真っ赤に熟したいちごを試食しつつも、一行にとって新たな発見となったのは、“赤くなる前のグリーンのいちご”にも魅力があるということ。「さくさくしていて、爽やかな味なのでお菓子に使いたい」とつくださんも絶賛。「野菜と同じ感覚で、サラダや天ぷらにしても美味しいかも」と料理人の犬亦真太朗氏や引地翔悟氏も気に入った様子。

実際にはグリーンのいちごは出荷されていませんが、まだ世に出ていない食材を発掘できるのも、視察の意義のひとつ。料理人たちの反応を受け、バイヤーの山本敦士氏が「どのように体制を整えればグリーンのいちごを出荷できますか」と、漆崎氏に相談する場面も。いつか飲食店に向けてグリーンのいちごが流通していく日がくるかもしれません。

『aito budo labo』の漆崎厚史氏、青山彰宏氏、横田紳矢氏の案内のもと、いちごハウスを見学する4人。

赤く熟す手前の、グリーンのいちごの美味しさを知った、バイヤーの山本氏。

ローカルファインフードフェア滋賀地下水が育む、ジューシーなトマト。

朝は大雪のなかでの出発となりましたが、琵琶湖を中心に東へと車を進めていくと、まるで同じ滋賀県とは思えないほどの快晴。目の前に広がる畑や山々にも雪はまったくなく、県内でも気候が違うことに気づきます。滋賀県の多様な地域性を実感する瞬間です。

やがてたどり着いたのが、蒲生郡日野町『FARM KEI』のトマトハウス。社名は、代表の井狩けいこ氏の名前に由来したもの。元は車の販売をしていたという井狩さんは、5年前にトマトの栽培を始めました。

『FARM KEI』のトマトは、小粒で、色彩豊か。味や食感も、種類豊富です。たとえば黄色い「ナポリターナカナリア」は、さくさくとした食感で、柑橘のような爽やかな風味が特徴です。一方、丸くてぷっくりとした形状で、赤く熟れた「プチぽよ」はさくらんぼのようにみずみずしく、ふくよかな甘味が魅力。

一同が特に感動したのは、フレッシュな緑色の「カプリエメラルド」。「緑色のトマトは青臭いイメージだったけれど、カプリエメラルドはほんのちょっとの酸味と甘味のバランスがよくて、緑色のトマトの概念を覆す美味しさ」と、つくださんは話します。

「これだけ見た目が美しく、種類ごとに個性的な味わいをもっているから、あまり手を加えずに素のままの美味しさを伝えたい。ひとつのお皿に何色ものトマトが入るようにして、シンプルなサラダにして提供したら良さそう」と、引地氏。『FARM KEI』のトマトに相当惚れ込んだようです。

「美味しさの秘密は地下水」と、井狩さん。『FARM KEI』のほど近くにある「鈴休(すずやみ)神社」は、江戸時代の参勤交代の際に、水飲み休憩場として使われていたそう。当時は井戸で地下水を汲み上げていて、その美味しさに人々が惚れ込んでいたといいます。どうも、『FARM KEI』はこの地下水の恩恵をうけているそう。「トマトが美味しくなる条件は、すでにこの土地に揃っている。トマトがすくすくと元気に育つ環境をつくることが、私の仕事なんです」と、井狩さんは言います。

『FARM KEI』では約10種類のジュエリートマトを栽培している。

『FARM KEI』代表の井狩けいこ氏。

トマトハウスでほんのり黒みを帯びた見た目で、りんごのような食感と甘味が特徴の「ブラッディタイガー」を見る犬亦氏。

『FARM KEI』では、10月から翌6月にかけてトマトを出荷する。

ローカルファインフードフェア滋賀質実剛健がウリの忍葱の畑を見学。

2日にわたる視察の旅も、いよいよ終盤。最後の目的地は、甲賀市の忍葱(しのぶねぎ)畑です。

「忍葱」という名前は、甲賀市が甲賀忍者の里であることにちなんだもの。12月初旬から3月中旬に収穫されるねぎは、甲賀市の冬の特産品としても知られています。
甲賀市は風が強く吹く寒冷な地域でありながら雪があまり降らないため、栽培に長い時間をかけてもねぎが傷みません。こうした気候的条件を利用し、一般的な白ねぎよりも1.5倍の太さになるまでじっくりと育てていきます。

こうしてできあがった忍葱は、長くて太く、ぎゅっと身が詰まっていて味が濃厚なことが特徴です。火を通せばとろりと甘みが出てきて、やさしい味わいになり、焼いたり、鍋に入れたりするのに向いています。

JAこうかの上田健司氏の案内のもと、一同は畑を見学。「もともと忍葱の大ファンで、愛用しています」と笑顔を見せるのは、犬亦氏。
「この太さをお客様にも伝えたくて、なるべく形を残したまま、焼いたり、コンフィにしただけで提供しています」と、愛用してきた食材が育つ現場を目の当たりにできて、嬉しそうにしていました。

上田氏とともにねぎ畑を見学。

朝見ていた雪景色とは打って変わって、穏やかな夕暮れとともに視察の旅を終えた。

ローカルファインフードフェア滋賀2日間で見えてきた滋賀県の生産者と食材に宿る奥深きストーリー。

2日間を通して、出会ってきた滋賀の生産者と食材。「東京で暮らしていると、全国各地の美味しい食材を手に入れることができる。ただ単に美味しいから、という理由でその食材を使うのではなくて、僕たちは、その一歩先に行きたい。つまり、育った土地や生産者のストーリーもお客様に伝えたいのです。だから、この旅に参加しました」とは、犬亦氏。隣で話を聞くつくださんと引地氏も、大きくうなずきます。食材の素晴らしさとともに、生産者たちの思いは、今回の視察に参加した4人の胸に確実に刻まれたことでしょう。

今回の視察で巡った生産者たちの食材を使った料理は、2022年2月14日(月)~3月25日(金)に開催される『Local Fine Food Fair SHIGA』で味わうことができます。ぜひ、料理の美味しさを堪能しつつ、シェフたちから生産者の熱き思いを聞いてみてください。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:AYANO YOSHIDA

(supported by 滋賀県)

酵母とツナ。造り手の情熱が生んだ、「想い」のペアリング。[和光アネックス/東京都中央区]

「甘い日本酒には、ピリリと辛い島唐辛子のツナがよく合います」とおすすめするのは、今回のペアリングを提案してくれる『GEM by moto』の店主・千葉麻里絵さん。

WAKO ANNEX味だけではない。合わせることによって感じたいのは、背景の物語。

日本酒をワイングラスでいただく。近年、ポピュラーになっている飲み方ですが、「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」という大会の存在を知る人はまだ少ないはず。2021年、プレミアム純米部門でその金賞に輝いたのが、今回ご紹介する神奈川県『中沢酒造』の『松みどり S.tokyo』です。

まず、特筆すべきはその酵母。1909年に発見されるも日本酒造りに一切使われなかった幻の酵母こそ、酒名にもある「松みどり」。

「現代主流の酵母では表現できない味にこだわりました」とは、「松みどり」の復活を果たした『中沢酒造』11代目・鍵和田 亮氏の言葉。

明治時代からやってきた酵母は、ほんのりとした甘味と爽やかな酸味が特徴。アルコールも14〜15%の原種のため、味わい深さを残しつつ、滑らかな喉越しは、よく冷やしてぜひ。杯はもちろん、ワイングラスで。

それに合わせるのは、東京都世田谷『JIN』の『おつな』。店主の関根 仁氏は、世田谷区池尻で10年間小料理屋『仁』を営むも、どうしても多くの人に本当においしい「マグロのオイル漬け」を食べて欲しいという情熱が止められず、2017年、「おつな」作りに専念し、現在に至ります。

ツナ缶発祥の地としても知られる静岡県焼津で作るそれは、美しく透き通ったオイルに純白のツナが特徴。素材のビンチョウマグロ、海洋深層水仕込みなど、こだわった製法は、全て手作り。食べた瞬間、しっとりしたオイルと柔らかな身が自然の旨味を口いっぱいに広げます。

10種以上ある味の中でも、今回の食べ合わせ提案をしてくれた『GEM by moto』の店主・千葉麻里絵さん選んだのは、島唐辛子。

「甘い日本酒に合わせるツナの塩味。青唐辛子の香りとお酒の甘味がマッチし、余白としての青唐辛子が引き立ちます。スパイシー感が気持ち良く、どんどんお酒が進みます」と千葉さん。

甘味と辛味。対局の味わいを合わせることによってひとつに。ぜひ、お楽しみください。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日(金)にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロン及び和光オンラインストア(上記バナー)にて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、外山博之氏と千葉麻里絵さんがセレクトするペアリングをご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

『松みどり S.tokyo』の「S」は、使用している酵母「Saccharomyces tokyo NAKAZAWA(サッカロマイセス・トーキョー・ナカザワ)」という清酒酵母の意味。この清酒酵母は1909年に農学博士の中沢亮治先生によって発見され、現存する清酒酵母の中で2番目に古いものと言われている。

『JIN』の『おつな』(右)を営む関根 仁氏は福島県出身。人気店にまで上り詰めた小料理屋『仁』を営むも、2017年、ツナへの愛が止まらず「おつな」作りに専念。今なお、探究心が止まらない。

※今回、ご紹介した商品は、2021年10月1日(金)にリニューアルオープンした『和光アネックス』地階のグルメサロン及び和光オンラインストア(上記バナー)にて、購入可能になります。
※『和光アネックス』地階のグルメサロンでは、今回の商品をはじめ、外山博之氏と千葉麻里絵さんがセレクトするペアリングをご用意しております。和光オンラインストアでは、その一部商品のみご案内となります。

岩手県出身。保険会社のSEから日本酒に魅了されたことで飲食業界に転身。新宿の『日本酒スタンド酛(もと)』に入社後、利酒師の資格を取得。日本全国の酒蔵を訪ね、酒類総合研究所の研修などにも参加し、2015年に『GEM by moto』をオープン。化学的知見から一人ひとりに合わせた日本酒を提供する。口内調味やペアリングというキーワードで新しい日本酒体験を作り、日本のみならず海外のファンを魅了し続けるかたわら、様々なジャンルの料理人や専門家ともコラボレーションし、新しい日本酒のスタイルを日々模索する。2019年には日本酒や日本の食文化を世界に発信する「第14代酒サムライ」に叙任。。主な作品は、『日本酒に恋して』(主婦と生活社)、『最先端の日本酒ペアリング』(旭屋出版)など。出演作は、映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』(配給:シンカ)。https://www.marie-lab.com/

住所:東京都中央区銀座4丁目4-8  MAP
TEL:03-5250-3101
www.wako.co.jp

Photographs:KOH AKAZAWA
Text:YUICHI KURAMOCHI​​​​​​
(Supprtted by WAKO)

10.6ozヘリンボーンカーゴ

商品詳細

     
  • 生地の硬さと丈夫さが特徴のヘリンボーン織りの素材を使った1本
  •  
  • 硫化染料を使った染色なので、履いていくうちの色落ちを楽しめます

サイズスペック

  ウエスト 前ぐり 後ぐり ワタリ ヒザ巾 裾巾 股下
W28 72.0 24.0 34.0 31.2 22.5 19.5 88.0
W29 74.5 24.5 34.5 32.0 23.0 20.0 88.0
W30 77.0 25.0 35.0 32.8 23.5 20.5 88.0
W31 79.5 25.5 35.5 33.6 24.0 21.0 88.0
W32 82.0 26.0 36.0 34.4 24.5 21.5 88.0
W33 84.5 26.5 36.5 35.2 25.0 22.0 88.0
W34 87.0 27.0 37.0 36.0 25.5 22.5 88.0
W36 92.0 28.0 38.0 37.6 26.5 23.5 88.0
W38 97.0 28.5 38.5 38.4 26.5 23.5 88.0
W40 102.0 29.0 39.0 39.2 27.0 24.0 88.0

素材

     
  • 綿:100%

生産国

     
  • 日本