料理人が見た知られざる冬の滋賀。寒い時期こそ出合える美味しさがある。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

雪の積もったにんじん畑で、『みなくちファーム』のみなさんと一緒に。

ローカルファインフードフェア滋賀雪降る北部から、快晴の南部まで、琵琶湖をぐるりとまわる。

東京都内で活躍する料理人や和菓子職人が、滋賀県産食材を使った料理をそれぞれの店で提供する期間限定のフードフェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。食材が育まれる土地を自分の目で見て、生産者の思いを直接聞くため、4人のシェフとバイヤーが1泊2日で滋賀を訪ねました。

米原(まいばら)駅から車で移動すること約30分。滋賀に到着して一行がまず向かったのは、長浜市西上坂町の『ワボウ産業』です。案内されたのは、まるで工場のような建物。この敷地のどこに海老がいるのだろう、と不思議な気持ちになりそうですが、実は『ワボウ産業』は、もともと半導体製造を続けてきた企業です。自社の設備とノウハウをいかして、「食」の分野で新たな挑戦ができないか。そんな思いから、2020年夏に独自の方法でバナメイエビの養殖を始め、翌年から自社ブランド「おうみ海老」の出荷を始めました。

工場内に入ると、一面に設置された大きな水槽に圧倒されます。ここがまさに、「おうみ海老」を養殖している現場。水槽の水に、伊吹山の地下50mから湧き出る清冽な地下水と、フランス産の岩塩が使われています。

最大の特徴は、半導体事業で築いた技術力で、この水槽の水を循環利用していることです。まず、水質を保つことで抗生物質などを一切投与しない環境をつくり、安全性の高い海老を養殖します。
そして、海老を養殖した後、窒素分がたまった水を別の水槽に移し、今度はこの水で海ぶどうとアオサを栽培します。すると、海ぶどうとアオサが天然のろ過装置となり、水を澄んだ美しい状態に戻してくれるのです。その水で、再び海老の養殖を始める。こうして、複数の食材の養殖を介しながら、工場内で水を循環させているのです。「地球にやさしく、そして、本当に美味しい食材を人々に。それが、私たちが実現したいことなのです」と、第一事業部技術課課長の宮本和徳氏は言います。
こうした環境で育った「おうみ海老」は、臭みがなく、澄んだ味わい。さらに、身が引き締まっていて、噛むほどに海老本来の甘みが広がります。冷凍して出荷されますが、解凍後、生のままでも美味しく食べることができるほど品質が高いことも特徴です。

「今回の視察でも特に楽しみにしていたのが、この『おうみ海老』です」と話すのは、インド料理「ニルヴァーナ ニューヨーク」の料理人、引地翔悟氏。「ひとつのお皿に、このワボウ産業の海老と海ぶどう、アオサが乗る料理を考えて、この工場のストーリーをお客さまに伝えたい」と、語ります。

元イタリアンのシェフで食材バイヤーの山本敦士氏は「小ぶりの海老だけを集めて真空冷凍した商品があれば、飲食店にアヒージョ用に提案できそう」と、宮本氏に相談していました。

【関連記事】滋賀食材フェア/琵琶湖の豊かな水が育む、瑞々しい食材。料理人たちが見た滋賀県の食材の底力。

“天然のろ過装置”、アオサ、海ぶどうを用いて浄化した水で、「おうみ海老」は養殖される。

20gから31gまで、大きさごとに並んだ「おうみ海老」に見入る4人と、宮本氏。

「生でも十分美味しいので、タンドールとして強火で外側をバリッと焼き、中をレアにして提供しても美味しそう」と引地氏。

海老を養殖した後の水は、アオサを栽培しながらろ過していく。

ローカルファインフードフェア滋賀ヤマトタケル終焉の地で育つ伝統野菜・伊吹大根。

お昼休憩を兼ねて向かったのが、米原市大久保の蕎麦屋『久次郎』。岐阜県との県境に近く、姉川源流に位置する、こじんまりとした趣深いお店です。なんといっても、ここは日本百名山の一峰と知られる伊吹山の麓。この山には、日本神話の英雄、ヤマトタケルを死に追いやった強力な山の神様がいるという言い伝えもあります。

『久次郎』の店主、谷口隆一氏は、元米原市の職員をされていた方。在職中は、米原市に伝わる伝統野菜の「伊吹大根」と伊吹在来そばの「伊吹そば」の広報活動に勤しんでいたそう。そのうちに「この素晴らしさを人々に伝えていくには、自分が現場に入り込むしかない」という情熱にかられ、57歳で市役所を早期退職し、『いぶきファーム』を発足。伊吹大根と伊吹そばの栽培のかたわらで、後に『久次郎』をオープンしました。

雪のため畑の見学はかないませんでしたが、谷口氏が用意してくださった大きさ違いの伊吹大根を見物。谷口氏は「冬は、雪の下でさらに甘味が加わり、伊吹大根にとって最高の時期です」と話したうえで「小ぶりのものは水分が少なくて肉質が固く、よく締まっているので煮崩れしにくい。ふろふき大根など煮物に最適です。大きめのものは、香りが強く、小気味いいすっきりとした辛味が最高です。すりおろして蕎麦に添えるのがおすすめ」と紹介します。

「シャープでキレがよく、辛さが口の中に残らず、後味がすっきりしていますね」と興奮気味なのは、和菓子と日本酒のマリアージュを提案する『薫風』のつくださちこさん。「生のまま辛味を生かしてもいいし、火を通して自然に出てくる甘さを砂糖がわりにするのも、どちらも良さそう」と、少しずつアイデアが浮かんできているようです。

イタリアン「KNOCK」の料理人、犬亦真太朗氏は「この土地に伝わる歴史や伝統を感じさせる強い味わいが魅力。辛味を生かした料理をつくりたい」と、メモをとっていました。

つくださんがさらに関心を見せていたのは、谷口氏が販売しているそば茶。在来種の「伊吹そば」のそばの実は、小粒で、香りが強く、さらに旨みや甘みも優れています。煎ってそば茶にすると、香ばしさが増し、実をそのままポリポリと食べても美味しさを感じられます。「バニラアイスにそば茶用のそばの実をまぶして食べると、アイスクリームの食感にアクセントがうまれ、味にメリハリもつくんです」と谷口氏に紹介されると、「和菓子にも使えそう」と、つくださんはうなずいていました。

伊吹大根は、大きさによって煮物や大根おろしなど使い分けると、魅力が増す。

昼食をとりながら谷口氏の解説に耳を傾ける一行。

伊吹そばをぶっかけスタイルで。薬味に伊吹大根が添えられ供される。

伊吹そばの実をまぶしたバニラアイス。

ローカルファインフードフェア滋賀滋賀県の「海」、琵琶湖で冬にだけ獲れる氷魚(ひうお)。

次に訪れたのは、琵琶湖の北岸の大浦漁港にある「西浅井漁業協同組合(漁協)」です。滋賀県といえば、琵琶湖。地元の人はこの琵琶湖を「海」と呼ぶほど、特別な思いを寄せています。さて、冬の琵琶湖には、どんな食材が眠っているのでしょうか。

「本日、皆さんに見てもらいたいのは、鮎の稚魚である氷魚(ひうお)です」と、一行を迎えるのは、漁協の代表理事・礒崎和仁氏。シラスより少し大きめで、つやつや、ぷりっとした見た目が特徴の氷魚は、琵琶湖の冬の風物詩。「琵琶湖の西か北で食べることが多く、生きている時は透明で氷のような美しい見た目をしていることから、氷魚と言われています」と、礒崎氏は教えてくれます。

その隣に添えられているのは、ビワマスの刺身です。ビワマスは、一般的なマスと異なり、海に出ず、一生を淡水域で終える魚。サケ科ではあるものの、その脂はサーモンよりも上品なのが特徴です。漁の最盛期は7月。琵琶湖の水温が下がる1~2月は、脂がのってよりいっそう美味しくなります。
「よく見ると、お皿の手前にあるビワマスの刺身は赤みが強くて、後方に並んでいるのは白っぽいですよね。実は、ビワマスが何を食べて育ったかによって、身の色が変わるのです」と、礒崎氏。捌いて中を見るまではわからないそうですが、エビ類を多く食べたビワマスは身が赤くなり、コアユを多く食べると身が白っぽくなるといいます。「白っぽい方が、より脂がのっています」と、礒崎氏が解説してくれました。

手前の二切れが赤みが強く、後方の三切れは白っぽい。コアユかエビ類、どちらを多く食べたかで身の色が変わる。

冬限定の琵琶湖で獲れる氷魚。

引地氏は、夏にはビワマスをタルタルにして提供したことがあるそう。

礒崎氏の話に真剣に耳を傾ける犬亦氏。

ローカルファインフードフェア滋賀明るく、朗らかに、常に新しいチャレンジを続ける『みなくちファーム』。

1日目の最後に一行が訪れたのが、琵琶湖の北西、高島市にある『みなくちファーム』。就農からわずか8年ながらも、見た目が美しく、みずみずしくてフレッシュな野菜をつくることで定評のある生産者です。農薬や化学肥料を使わずに、持続可能な循環型農業を実践しながら、年間100種以上の野菜を栽培しています。そして、シェフやバイヤーからのニーズに応じて、新しい野菜の栽培にも積極的に取り組んでいくチャレンジ精神の持ち主でもあります。

シェフやバイヤーは、すでに代表の水口 淳氏とも親しく、今回は、冬に旨味を増すしいたけの試食を行いました。「せっかくシェフが集まっているので、プロによる調理で試食しませんか」という水口氏の提案により、引地氏がキッチンに立つことに。「実はお店で使っている野菜用のオリジナルスパイスを持参しました」と、引地氏も乗り気の様子。早速、しいたけを一口大に切り分け、フライパンで手際良く炒めていきます。

和気藹々とした雰囲気で、一同はしいたけをはじめ、『みなくちファーム』の野菜の試食をすすめていきます。山本氏は「いろんな産地の農家さんにも足を運びますが、ここの野菜はトップレベル。水洗いしたら、そのまま丸ごとかじっておいしい。『みなくちファーム』さんのファンの飲食店もたくさんいます」と、太鼓判。菊芋や大根を、パリっ、カリっと頬張ります。

無農薬で育てた原木しいたけ。肉厚で旨味がぎゅっと詰まっている。

しいたけをサッと炒める引地氏。

すべて、みなくちファームで栽培している大根。紅くるり、京むらさき、紅芯大根など。

「雪に埋もれていますが」と言いながら、にんじん畑に案内してくれた水口氏夫婦。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:AYANO YOSHIDA

(supported by 滋賀県)

料理人が見た知られざる冬の滋賀。寒い時期こそ出合える美味しさがある。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

雪の積もったにんじん畑で、『みなくちファーム』のみなさんと一緒に。

ローカルファインフードフェア滋賀雪降る北部から、快晴の南部まで、琵琶湖をぐるりとまわる。

東京都内で活躍する料理人や和菓子職人が、滋賀県産食材を使った料理をそれぞれの店で提供する期間限定のフードフェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。食材が育まれる土地を自分の目で見て、生産者の思いを直接聞くため、4人のシェフとバイヤーが1泊2日で滋賀を訪ねました。

米原(まいばら)駅から車で移動すること約30分。滋賀に到着して一行がまず向かったのは、長浜市西上坂町の『ワボウ産業』です。案内されたのは、まるで工場のような建物。この敷地のどこに海老がいるのだろう、と不思議な気持ちになりそうですが、実は『ワボウ産業』は、もともと半導体製造を続けてきた企業です。自社の設備とノウハウをいかして、「食」の分野で新たな挑戦ができないか。そんな思いから、2020年夏に独自の方法でバナメイエビの養殖を始め、翌年から自社ブランド「おうみ海老」の出荷を始めました。

工場内に入ると、一面に設置された大きな水槽に圧倒されます。ここがまさに、「おうみ海老」を養殖している現場。水槽の水に、伊吹山の地下50mから湧き出る清冽な地下水と、フランス産の岩塩が使われています。

最大の特徴は、半導体事業で築いた技術力で、この水槽の水を循環利用していることです。まず、水質を保つことで抗生物質などを一切投与しない環境をつくり、安全性の高い海老を養殖します。
そして、海老を養殖した後、窒素分がたまった水を別の水槽に移し、今度はこの水で海ぶどうとアオサを栽培します。すると、海ぶどうとアオサが天然のろ過装置となり、水を澄んだ美しい状態に戻してくれるのです。その水で、再び海老の養殖を始める。こうして、複数の食材の養殖を介しながら、工場内で水を循環させているのです。「地球にやさしく、そして、本当に美味しい食材を人々に。それが、私たちが実現したいことなのです」と、第一事業部技術課課長の宮本和徳氏は言います。
こうした環境で育った「おうみ海老」は、臭みがなく、澄んだ味わい。さらに、身が引き締まっていて、噛むほどに海老本来の甘みが広がります。冷凍して出荷されますが、解凍後、生のままでも美味しく食べることができるほど品質が高いことも特徴です。

「今回の視察でも特に楽しみにしていたのが、この『おうみ海老』です」と話すのは、インド料理「ニルヴァーナ ニューヨーク」の料理人、引地翔悟氏。「ひとつのお皿に、このワボウ産業の海老と海ぶどう、アオサが乗る料理を考えて、この工場のストーリーをお客さまに伝えたい」と、語ります。

元イタリアンのシェフで食材バイヤーの山本敦士氏は「小ぶりの海老だけを集めて真空冷凍した商品があれば、飲食店にアヒージョ用に提案できそう」と、宮本氏に相談していました。

【関連記事】滋賀食材フェア/琵琶湖の豊かな水が育む、瑞々しい食材。料理人たちが見た滋賀県の食材の底力。

“天然のろ過装置”、アオサ、海ぶどうを用いて浄化した水で、「おうみ海老」は養殖される。

20gから31gまで、大きさごとに並んだ「おうみ海老」に見入る4人と、宮本氏。

「生でも十分美味しいので、タンドールとして強火で外側をバリッと焼き、中をレアにして提供しても美味しそう」と引地氏。

海老を養殖した後の水は、アオサを栽培しながらろ過していく。

ローカルファインフードフェア滋賀ヤマトタケル終焉の地で育つ伝統野菜・伊吹大根。

お昼休憩を兼ねて向かったのが、米原市大久保の蕎麦屋『久次郎』。岐阜県との県境に近く、姉川源流に位置する、こじんまりとした趣深いお店です。なんといっても、ここは日本百名山の一峰と知られる伊吹山の麓。この山には、日本神話の英雄、ヤマトタケルを死に追いやった強力な山の神様がいるという言い伝えもあります。

『久次郎』の店主、谷口隆一氏は、元米原市の職員をされていた方。在職中は、米原市に伝わる伝統野菜の「伊吹大根」と伊吹在来そばの「伊吹そば」の広報活動に勤しんでいたそう。そのうちに「この素晴らしさを人々に伝えていくには、自分が現場に入り込むしかない」という情熱にかられ、57歳で市役所を早期退職し、『いぶきファーム』を発足。伊吹大根と伊吹そばの栽培のかたわらで、後に『久次郎』をオープンしました。

雪のため畑の見学はかないませんでしたが、谷口氏が用意してくださった大きさ違いの伊吹大根を見物。谷口氏は「冬は、雪の下でさらに甘味が加わり、伊吹大根にとって最高の時期です」と話したうえで「小ぶりのものは水分が少なくて肉質が固く、よく締まっているので煮崩れしにくい。ふろふき大根など煮物に最適です。大きめのものは、香りが強く、小気味いいすっきりとした辛味が最高です。すりおろして蕎麦に添えるのがおすすめ」と紹介します。

「シャープでキレがよく、辛さが口の中に残らず、後味がすっきりしていますね」と興奮気味なのは、和菓子と日本酒のマリアージュを提案する『薫風』のつくださちこさん。「生のまま辛味を生かしてもいいし、火を通して自然に出てくる甘さを砂糖がわりにするのも、どちらも良さそう」と、少しずつアイデアが浮かんできているようです。

イタリアン「KNOCK」の料理人、犬亦真太朗氏は「この土地に伝わる歴史や伝統を感じさせる強い味わいが魅力。辛味を生かした料理をつくりたい」と、メモをとっていました。

つくださんがさらに関心を見せていたのは、谷口氏が販売しているそば茶。在来種の「伊吹そば」のそばの実は、小粒で、香りが強く、さらに旨みや甘みも優れています。煎ってそば茶にすると、香ばしさが増し、実をそのままポリポリと食べても美味しさを感じられます。「バニラアイスにそば茶用のそばの実をまぶして食べると、アイスクリームの食感にアクセントがうまれ、味にメリハリもつくんです」と谷口氏に紹介されると、「和菓子にも使えそう」と、つくださんはうなずいていました。

伊吹大根は、大きさによって煮物や大根おろしなど使い分けると、魅力が増す。

昼食をとりながら谷口氏の解説に耳を傾ける一行。

伊吹そばをぶっかけスタイルで。薬味に伊吹大根が添えられ供される。

伊吹そばの実をまぶしたバニラアイス。

ローカルファインフードフェア滋賀滋賀県の「海」、琵琶湖で冬にだけ獲れる氷魚(ひうお)。

次に訪れたのは、琵琶湖の北岸の大浦漁港にある「西浅井漁業協同組合(漁協)」です。滋賀県といえば、琵琶湖。地元の人はこの琵琶湖を「海」と呼ぶほど、特別な思いを寄せています。さて、冬の琵琶湖には、どんな食材が眠っているのでしょうか。

「本日、皆さんに見てもらいたいのは、鮎の稚魚である氷魚(ひうお)です」と、一行を迎えるのは、漁協の代表理事・礒崎和仁氏。シラスより少し大きめで、つやつや、ぷりっとした見た目が特徴の氷魚は、琵琶湖の冬の風物詩。「琵琶湖の西か北で食べることが多く、生きている時は透明で氷のような美しい見た目をしていることから、氷魚と言われています」と、礒崎氏は教えてくれます。

その隣に添えられているのは、ビワマスの刺身です。ビワマスは、一般的なマスと異なり、海に出ず、一生を淡水域で終える魚。サケ科ではあるものの、その脂はサーモンよりも上品なのが特徴です。漁の最盛期は7月。琵琶湖の水温が下がる1~2月は、脂がのってよりいっそう美味しくなります。
「よく見ると、お皿の手前にあるビワマスの刺身は赤みが強くて、後方に並んでいるのは白っぽいですよね。実は、ビワマスが何を食べて育ったかによって、身の色が変わるのです」と、礒崎氏。捌いて中を見るまではわからないそうですが、エビ類を多く食べたビワマスは身が赤くなり、コアユを多く食べると身が白っぽくなるといいます。「白っぽい方が、より脂がのっています」と、礒崎氏が解説してくれました。

手前の二切れが赤みが強く、後方の三切れは白っぽい。コアユかエビ類、どちらを多く食べたかで身の色が変わる。

冬限定の琵琶湖で獲れる氷魚。

引地氏は、夏にはビワマスをタルタルにして提供したことがあるそう。

礒崎氏の話に真剣に耳を傾ける犬亦氏。

ローカルファインフードフェア滋賀明るく、朗らかに、常に新しいチャレンジを続ける『みなくちファーム』。

1日目の最後に一行が訪れたのが、琵琶湖の北西、高島市にある『みなくちファーム』。就農からわずか8年ながらも、見た目が美しく、みずみずしくてフレッシュな野菜をつくることで定評のある生産者です。農薬や化学肥料を使わずに、持続可能な循環型農業を実践しながら、年間100種以上の野菜を栽培しています。そして、シェフやバイヤーからのニーズに応じて、新しい野菜の栽培にも積極的に取り組んでいくチャレンジ精神の持ち主でもあります。

シェフやバイヤーは、すでに代表の水口 淳氏とも親しく、今回は、冬に旨味を増すしいたけの試食を行いました。「せっかくシェフが集まっているので、プロによる調理で試食しませんか」という水口氏の提案により、引地氏がキッチンに立つことに。「実はお店で使っている野菜用のオリジナルスパイスを持参しました」と、引地氏も乗り気の様子。早速、しいたけを一口大に切り分け、フライパンで手際良く炒めていきます。

和気藹々とした雰囲気で、一同はしいたけをはじめ、『みなくちファーム』の野菜の試食をすすめていきます。山本氏は「いろんな産地の農家さんにも足を運びますが、ここの野菜はトップレベル。水洗いしたら、そのまま丸ごとかじっておいしい。『みなくちファーム』さんのファンの飲食店もたくさんいます」と、太鼓判。菊芋や大根を、パリっ、カリっと頬張ります。

無農薬で育てた原木しいたけ。肉厚で旨味がぎゅっと詰まっている。

しいたけをサッと炒める引地氏。

すべて、みなくちファームで栽培している大根。紅くるり、京むらさき、紅芯大根など。

「雪に埋もれていますが」と言いながら、にんじん畑に案内してくれた水口氏夫婦。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:AYANO YOSHIDA

(supported by 滋賀県)

雪深い北部から、快晴の南部へ。料理人が琵琶湖周辺をめぐる、食材探しの旅。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

1日目と打って変わって、滋賀の南東部では晴れやかな空が広がっていた。

ローカルファインフードフェア滋賀雪の下、春に向けてすくすくと成長している食材に思いを馳せる。

東京都内で活躍する料理人や和菓子職人が、滋賀県産食材を使った料理をそれぞれの店で提供する期間限定のフードフェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。滋賀に分け入り、食材が育つ環境、育てている人を自分の目で見に行くべく、4人のシェフとバイヤーによる生産者巡りもいよいよ2日目です。

2日目は、大雪のなかでの出発となりました。雪化粧をまとった滋賀の山々を眺めながら一行が向かったのは、米原市の『薬草の里文化センター』。雪深くなっているため薬草園を散策することはかないませんでしたが、センターの室内で、四季折々に伊吹山に生えてくる薬草を紹介してもらいました。

「大昔、伊吹山の麓で暮らしていた人々は病院に行ったり、医者に診にきてもらったりすることがままならなかったので、薬草の力で治療していたそうです」という、薬草園の園長・谷口康氏による解説に、和菓子職人のつくださちこさんは興味津々。「昔の人々の暮らしや、日本の歴史は、和菓子を作るうえで欠かせない知識。古来の人々が、伊吹山の麓で薬草をどんなふうに取り入れていたのかとても気になります」と、積極的に質問を繰り返していました。

ツクシ、ドクダミ、フキ、シソ、ナズナ、セリなど多くの薬草が伊吹山には自生しますが、つくださんが特に目を輝かせながら話を聞いていたのが、ヨモギ。草餅を筆頭に、和菓子にもよく用いられる薬草です。春先に芽を出し、腹痛、下痢、腰痛に効果があり、生の葉をすりつぶして体に塗ると、止血効果もあるそう。「伊吹山でとれた薬草で和菓子を作り、昔の人々が医者がわりに重用していた、というストーリーを添えながらお客様に提供できたら、とても楽しそう」と、つくださんは声を弾ませていました。

【関連記事】滋賀食材フェア/琵琶湖の豊かな水が育む、瑞々しい食材。料理人たちが見た滋賀県の食材の底力。

雪化粧の伊吹山。暖かくなってくると、数々の薬草が芽吹き出す。

『薬草の里文化センター』で写真を見ながら薬草の効能を学ぶ4人。

『薬草の里文化センター』の谷口康氏。

伊吹山の麓で暮らす人々の生活と密接に関わる薬草の歴史を、やや興奮気味で学ぶつくださん。

ローカルファインフードフェア滋賀真っ赤な宝石、たわわに実ったいちごをほおばる。

琵琶湖の東へと移動し、一行が到着したのは東近江市の愛東いちごハウス。『aito budo labo』のメンバー・漆崎厚史氏は、初秋はぶどうを、初春にはいちごを出荷しています。冬は寒さのため、いちごの色づきがゆっくり。収穫できるまで時間がかかる分、甘さをため込む時間も長くなり、一粒一粒の味わいが濃厚になっていくのが特徴です。

ここで栽培しているいちごは、オレンジがかった色味が美しい「よつぼし」と、はちみつのような甘さが特徴の「かおりの」、やわらかくてジューシーな「あきひめ」の3種。すでに真っ赤に熟したいちごを試食しつつも、一行にとって新たな発見となったのは、“赤くなる前のグリーンのいちご”にも魅力があるということ。「さくさくしていて、爽やかな味なのでお菓子に使いたい」とつくださんも絶賛。「野菜と同じ感覚で、サラダや天ぷらにしても美味しいかも」と料理人の犬亦真太朗氏や引地翔悟氏も気に入った様子。

実際にはグリーンのいちごは出荷されていませんが、まだ世に出ていない食材を発掘できるのも、視察の意義のひとつ。料理人たちの反応を受け、バイヤーの山本敦士氏が「どのように体制を整えればグリーンのいちごを出荷できますか」と、漆崎氏に相談する場面も。いつか飲食店に向けてグリーンのいちごが流通していく日がくるかもしれません。

『aito budo labo』の漆崎厚史氏、青山彰宏氏、横田紳矢氏の案内のもと、いちごハウスを見学する4人。

赤く熟す手前の、グリーンのいちごの美味しさを知った、バイヤーの山本氏。

ローカルファインフードフェア滋賀地下水が育む、ジューシーなトマト。

朝は大雪のなかでの出発となりましたが、琵琶湖を中心に東へと車を進めていくと、まるで同じ滋賀県とは思えないほどの快晴。目の前に広がる畑や山々にも雪はまったくなく、県内でも気候が違うことに気づきます。滋賀県の多様な地域性を実感する瞬間です。

やがてたどり着いたのが、蒲生郡日野町『FARM KEI』のトマトハウス。社名は、代表の井狩けいこ氏の名前に由来したもの。元は車の販売をしていたという井狩さんは、5年前にトマトの栽培を始めました。

『FARM KEI』のトマトは、小粒で、色彩豊か。味や食感も、種類豊富です。たとえば黄色い「ナポリターナカナリア」は、さくさくとした食感で、柑橘のような爽やかな風味が特徴です。一方、丸くてぷっくりとした形状で、赤く熟れた「プチぽよ」はさくらんぼのようにみずみずしく、ふくよかな甘味が魅力。

一同が特に感動したのは、フレッシュな緑色の「カプリエメラルド」。「緑色のトマトは青臭いイメージだったけれど、カプリエメラルドはほんのちょっとの酸味と甘味のバランスがよくて、緑色のトマトの概念を覆す美味しさ」と、つくださんは話します。

「これだけ見た目が美しく、種類ごとに個性的な味わいをもっているから、あまり手を加えずに素のままの美味しさを伝えたい。ひとつのお皿に何色ものトマトが入るようにして、シンプルなサラダにして提供したら良さそう」と、引地氏。『FARM KEI』のトマトに相当惚れ込んだようです。

「美味しさの秘密は地下水」と、井狩さん。『FARM KEI』のほど近くにある「鈴休(すずやみ)神社」は、江戸時代の参勤交代の際に、水飲み休憩場として使われていたそう。当時は井戸で地下水を汲み上げていて、その美味しさに人々が惚れ込んでいたといいます。どうも、『FARM KEI』はこの地下水の恩恵をうけているそう。「トマトが美味しくなる条件は、すでにこの土地に揃っている。トマトがすくすくと元気に育つ環境をつくることが、私の仕事なんです」と、井狩さんは言います。

『FARM KEI』では約10種類のジュエリートマトを栽培している。

『FARM KEI』代表の井狩けいこ氏。

トマトハウスでほんのり黒みを帯びた見た目で、りんごのような食感と甘味が特徴の「ブラッディタイガー」を見る犬亦氏。

『FARM KEI』では、10月から翌6月にかけてトマトを出荷する。

ローカルファインフードフェア滋賀質実剛健がウリの忍葱の畑を見学。

2日にわたる視察の旅も、いよいよ終盤。最後の目的地は、甲賀市の忍葱(しのぶねぎ)畑です。

「忍葱」という名前は、甲賀市が甲賀忍者の里であることにちなんだもの。12月初旬から3月中旬に収穫されるねぎは、甲賀市の冬の特産品としても知られています。
甲賀市は風が強く吹く寒冷な地域でありながら雪があまり降らないため、栽培に長い時間をかけてもねぎが傷みません。こうした気候的条件を利用し、一般的な白ねぎよりも1.5倍の太さになるまでじっくりと育てていきます。

こうしてできあがった忍葱は、長くて太く、ぎゅっと身が詰まっていて味が濃厚なことが特徴です。火を通せばとろりと甘みが出てきて、やさしい味わいになり、焼いたり、鍋に入れたりするのに向いています。

JAこうかの上田健司氏の案内のもと、一同は畑を見学。「もともと忍葱の大ファンで、愛用しています」と笑顔を見せるのは、犬亦氏。
「この太さをお客様にも伝えたくて、なるべく形を残したまま、焼いたり、コンフィにしただけで提供しています」と、愛用してきた食材が育つ現場を目の当たりにできて、嬉しそうにしていました。

上田氏とともにねぎ畑を見学。

朝見ていた雪景色とは打って変わって、穏やかな夕暮れとともに視察の旅を終えた。

ローカルファインフードフェア滋賀2日間で見えてきた滋賀県の生産者と食材に宿る奥深きストーリー。

2日間を通して、出会ってきた滋賀の生産者と食材。「東京で暮らしていると、全国各地の美味しい食材を手に入れることができる。ただ単に美味しいから、という理由でその食材を使うのではなくて、僕たちは、その一歩先に行きたい。つまり、育った土地や生産者のストーリーもお客様に伝えたいのです。だから、この旅に参加しました」とは、犬亦氏。隣で話を聞くつくださんと引地氏も、大きくうなずきます。食材の素晴らしさとともに、生産者たちの思いは、今回の視察に参加した4人の胸に確実に刻まれたことでしょう。

今回の視察で巡った生産者たちの食材を使った料理は、2022年2月14日(月)~3月25日(金)に開催される『Local Fine Food Fair SHIGA』で味わうことができます。ぜひ、料理の美味しさを堪能しつつ、シェフたちから生産者の熱き思いを聞いてみてください。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:AYANO YOSHIDA

(supported by 滋賀県)

雪深い北部から、快晴の南部へ。料理人が琵琶湖周辺をめぐる、食材探しの旅。[Local Fine Food Fair SHIGA/滋賀県、東京都]

1日目と打って変わって、滋賀の南東部では晴れやかな空が広がっていた。

ローカルファインフードフェア滋賀雪の下、春に向けてすくすくと成長している食材に思いを馳せる。

東京都内で活躍する料理人や和菓子職人が、滋賀県産食材を使った料理をそれぞれの店で提供する期間限定のフードフェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。滋賀に分け入り、食材が育つ環境、育てている人を自分の目で見に行くべく、4人のシェフとバイヤーによる生産者巡りもいよいよ2日目です。

2日目は、大雪のなかでの出発となりました。雪化粧をまとった滋賀の山々を眺めながら一行が向かったのは、米原市の『薬草の里文化センター』。雪深くなっているため薬草園を散策することはかないませんでしたが、センターの室内で、四季折々に伊吹山に生えてくる薬草を紹介してもらいました。

「大昔、伊吹山の麓で暮らしていた人々は病院に行ったり、医者に診にきてもらったりすることがままならなかったので、薬草の力で治療していたそうです」という、薬草園の園長・谷口康氏による解説に、和菓子職人のつくださちこさんは興味津々。「昔の人々の暮らしや、日本の歴史は、和菓子を作るうえで欠かせない知識。古来の人々が、伊吹山の麓で薬草をどんなふうに取り入れていたのかとても気になります」と、積極的に質問を繰り返していました。

ツクシ、ドクダミ、フキ、シソ、ナズナ、セリなど多くの薬草が伊吹山には自生しますが、つくださんが特に目を輝かせながら話を聞いていたのが、ヨモギ。草餅を筆頭に、和菓子にもよく用いられる薬草です。春先に芽を出し、腹痛、下痢、腰痛に効果があり、生の葉をすりつぶして体に塗ると、止血効果もあるそう。「伊吹山でとれた薬草で和菓子を作り、昔の人々が医者がわりに重用していた、というストーリーを添えながらお客様に提供できたら、とても楽しそう」と、つくださんは声を弾ませていました。

【関連記事】滋賀食材フェア/琵琶湖の豊かな水が育む、瑞々しい食材。料理人たちが見た滋賀県の食材の底力。

雪化粧の伊吹山。暖かくなってくると、数々の薬草が芽吹き出す。

『薬草の里文化センター』で写真を見ながら薬草の効能を学ぶ4人。

『薬草の里文化センター』の谷口康氏。

伊吹山の麓で暮らす人々の生活と密接に関わる薬草の歴史を、やや興奮気味で学ぶつくださん。

ローカルファインフードフェア滋賀真っ赤な宝石、たわわに実ったいちごをほおばる。

琵琶湖の東へと移動し、一行が到着したのは東近江市の愛東いちごハウス。『aito budo labo』のメンバー・漆崎厚史氏は、初秋はぶどうを、初春にはいちごを出荷しています。冬は寒さのため、いちごの色づきがゆっくり。収穫できるまで時間がかかる分、甘さをため込む時間も長くなり、一粒一粒の味わいが濃厚になっていくのが特徴です。

ここで栽培しているいちごは、オレンジがかった色味が美しい「よつぼし」と、はちみつのような甘さが特徴の「かおりの」、やわらかくてジューシーな「あきひめ」の3種。すでに真っ赤に熟したいちごを試食しつつも、一行にとって新たな発見となったのは、“赤くなる前のグリーンのいちご”にも魅力があるということ。「さくさくしていて、爽やかな味なのでお菓子に使いたい」とつくださんも絶賛。「野菜と同じ感覚で、サラダや天ぷらにしても美味しいかも」と料理人の犬亦真太朗氏や引地翔悟氏も気に入った様子。

実際にはグリーンのいちごは出荷されていませんが、まだ世に出ていない食材を発掘できるのも、視察の意義のひとつ。料理人たちの反応を受け、バイヤーの山本敦士氏が「どのように体制を整えればグリーンのいちごを出荷できますか」と、漆崎氏に相談する場面も。いつか飲食店に向けてグリーンのいちごが流通していく日がくるかもしれません。

『aito budo labo』の漆崎厚史氏、青山彰宏氏、横田紳矢氏の案内のもと、いちごハウスを見学する4人。

赤く熟す手前の、グリーンのいちごの美味しさを知った、バイヤーの山本氏。

ローカルファインフードフェア滋賀地下水が育む、ジューシーなトマト。

朝は大雪のなかでの出発となりましたが、琵琶湖を中心に東へと車を進めていくと、まるで同じ滋賀県とは思えないほどの快晴。目の前に広がる畑や山々にも雪はまったくなく、県内でも気候が違うことに気づきます。滋賀県の多様な地域性を実感する瞬間です。

やがてたどり着いたのが、蒲生郡日野町『FARM KEI』のトマトハウス。社名は、代表の井狩けいこ氏の名前に由来したもの。元は車の販売をしていたという井狩さんは、5年前にトマトの栽培を始めました。

『FARM KEI』のトマトは、小粒で、色彩豊か。味や食感も、種類豊富です。たとえば黄色い「ナポリターナカナリア」は、さくさくとした食感で、柑橘のような爽やかな風味が特徴です。一方、丸くてぷっくりとした形状で、赤く熟れた「プチぽよ」はさくらんぼのようにみずみずしく、ふくよかな甘味が魅力。

一同が特に感動したのは、フレッシュな緑色の「カプリエメラルド」。「緑色のトマトは青臭いイメージだったけれど、カプリエメラルドはほんのちょっとの酸味と甘味のバランスがよくて、緑色のトマトの概念を覆す美味しさ」と、つくださんは話します。

「これだけ見た目が美しく、種類ごとに個性的な味わいをもっているから、あまり手を加えずに素のままの美味しさを伝えたい。ひとつのお皿に何色ものトマトが入るようにして、シンプルなサラダにして提供したら良さそう」と、引地氏。『FARM KEI』のトマトに相当惚れ込んだようです。

「美味しさの秘密は地下水」と、井狩さん。『FARM KEI』のほど近くにある「鈴休(すずやみ)神社」は、江戸時代の参勤交代の際に、水飲み休憩場として使われていたそう。当時は井戸で地下水を汲み上げていて、その美味しさに人々が惚れ込んでいたといいます。どうも、『FARM KEI』はこの地下水の恩恵をうけているそう。「トマトが美味しくなる条件は、すでにこの土地に揃っている。トマトがすくすくと元気に育つ環境をつくることが、私の仕事なんです」と、井狩さんは言います。

『FARM KEI』では約10種類のジュエリートマトを栽培している。

『FARM KEI』代表の井狩けいこ氏。

トマトハウスでほんのり黒みを帯びた見た目で、りんごのような食感と甘味が特徴の「ブラッディタイガー」を見る犬亦氏。

『FARM KEI』では、10月から翌6月にかけてトマトを出荷する。

ローカルファインフードフェア滋賀質実剛健がウリの忍葱の畑を見学。

2日にわたる視察の旅も、いよいよ終盤。最後の目的地は、甲賀市の忍葱(しのぶねぎ)畑です。

「忍葱」という名前は、甲賀市が甲賀忍者の里であることにちなんだもの。12月初旬から3月中旬に収穫されるねぎは、甲賀市の冬の特産品としても知られています。
甲賀市は風が強く吹く寒冷な地域でありながら雪があまり降らないため、栽培に長い時間をかけてもねぎが傷みません。こうした気候的条件を利用し、一般的な白ねぎよりも1.5倍の太さになるまでじっくりと育てていきます。

こうしてできあがった忍葱は、長くて太く、ぎゅっと身が詰まっていて味が濃厚なことが特徴です。火を通せばとろりと甘みが出てきて、やさしい味わいになり、焼いたり、鍋に入れたりするのに向いています。

JAこうかの上田健司氏の案内のもと、一同は畑を見学。「もともと忍葱の大ファンで、愛用しています」と笑顔を見せるのは、犬亦氏。
「この太さをお客様にも伝えたくて、なるべく形を残したまま、焼いたり、コンフィにしただけで提供しています」と、愛用してきた食材が育つ現場を目の当たりにできて、嬉しそうにしていました。

上田氏とともにねぎ畑を見学。

朝見ていた雪景色とは打って変わって、穏やかな夕暮れとともに視察の旅を終えた。

ローカルファインフードフェア滋賀2日間で見えてきた滋賀県の生産者と食材に宿る奥深きストーリー。

2日間を通して、出会ってきた滋賀の生産者と食材。「東京で暮らしていると、全国各地の美味しい食材を手に入れることができる。ただ単に美味しいから、という理由でその食材を使うのではなくて、僕たちは、その一歩先に行きたい。つまり、育った土地や生産者のストーリーもお客様に伝えたいのです。だから、この旅に参加しました」とは、犬亦氏。隣で話を聞くつくださんと引地氏も、大きくうなずきます。食材の素晴らしさとともに、生産者たちの思いは、今回の視察に参加した4人の胸に確実に刻まれたことでしょう。

今回の視察で巡った生産者たちの食材を使った料理は、2022年2月14日(月)~3月25日(金)に開催される『Local Fine Food Fair SHIGA』で味わうことができます。ぜひ、料理の美味しさを堪能しつつ、シェフたちから生産者の熱き思いを聞いてみてください。

Photographs:JIRO OHTANI
Text:AYANO YOSHIDA

(supported by 滋賀県)