ローカルファインフードフェア滋賀自らの食材がどう調理されるか。生産者にとっても勉強の場に。
東京都内で活躍する料理人やパティシエ、和菓子職人が、滋賀県産の食材を使った料理をそれぞれの店で提供するメニューフェア『Local Fine Food Fair SHIGA』。
2021年度は夏と冬の2回にわたって東京の料理人が滋賀を訪ね、食材が生産されている現場を視察しました。
そのなかで、ほぼすべての生産者が口にしたのが「食材が東京でどんなふうに料理されているのか、とても興味がある」という言葉。とはいえ、日々、食材の生産に携わっていると、なかなか滋賀県を離れて東京のレストランに赴くことができません。
そこで今回は、滋賀の食材を日頃から愛用しているシェフ、パティシエが感謝の気持ちを込めて滋賀に集結し、「県内レセプション」と称した食事会で、生産者のみなさんに向けて腕をふるうことに。
参加料理人は、イタリアン『sel sal sale』の濱口昌大シェフ、フレンチをベースに、精進料理や日本料理のテイストをフュージョンさせた料理を提供する『MOSS CROSS TOKYO』の増山明弘シェフ、フレンチ『Cheval de Hyotan(シュヴァル ドゥ ヒョータン)』の川副藍シェフ、パティスリー『INFINI(アンフィニ)』の金井史章シェフパティシエの4人。
コース仕立てで前菜からデザートまでを生産者のみなさんに提供すべく、それぞれの得意分野を生かしながら合計11品の料理を作りました。
一方で、生産者にただ食べてもらうことだけが目的ではありません。生産者たちが、自分たちの食材がシェフたちの手によりどのように姿を変えるのかを目の当たりにし、味わい、そして何を感じるのか。
よりよい食材を生み出すためのヒントや活路を見出してもらうために設けられた場であり、そこには滋賀県の「Local Fine Food」の未来があるといっても過言ではないかもしれません。
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ローカルファインフードフェア滋賀シェフたちが一目をおく『みなくちファーム』の野菜でコースはスタート。
コースの最初に提供されたのは、『sel sal sale』の濱口シェフによる、『みなくちファーム』の菊芋を使ったスープです。生産者である水口良子氏は「菊芋は形や味にクセのある食材なので、どう調理してもらえるのかが気になる」と、期待を語ります。
濱口シェフは「『みなくちファーム』の菊芋は、アクが少ないながらもコクがあり、生で食べてもおいしい。レストランでもずっと使っています。今回も、皮ごとスープにし、他の調味料や具材はほぼ何も入れず、コトコト煮込みました」と紹介。さらに、スライスして揚げた菊芋を最後に添え、サクサクした食感を加えています。
これには水口淳氏も「火を通すことで菊芋のコクが増している。こんなに美味しくなるなんて」と嬉しそうに反応します。
続いて濱口シェフが提供したのは、『みなくちファーム』のサラダゴボウを使ったパンです。「生で食べられるほどフレッシュで、上品なゴボウです。火を通すと甘みが引き立ち、お店ではこのパンを焼き立てで提供しています」と、濱口シェフ。
実はこのサラダゴボウは、東京の料理人のあいだで大人気の食材。「東京からたくさん注文をいただいているのだけど、いつも、何に使っているのか不思議だった」と水口良子氏は笑います。パンから豊かに湧き立つゴボウの香りを確かめ、生地に練りこまれた刻みゴボウを見ながら「丹精を込めて作った食材と、こんなに素敵な形で再会できてうれしい」と、パンをほおばります。
『みなくちファーム』は、農薬や化学肥料を使わずに、持続可能な循環型農業を実践していて、イタリアンの元料理人で食材バイヤーの山本敦士氏も「業界でもトップレベルの野菜をたくさん生産している」と高く評価しています。
どんな野菜も、味の良さと見た目の美しさが抜群で、ファンの多い生産者です。
ローカルファインフードフェア滋賀ビワマス、忍葱、伊吹大根、近江鴨……。滋賀の食材が互いに魅力を高め合う。
滋賀といえば琵琶湖。400万年もの歴史をもち、地元の人々が「海」とも呼ぶ、この日本一の大きな湖が、滋賀県独特の食材や食文化を数多く生み出しています。
琵琶湖の北岸の大浦漁港にある『西浅井漁業協同組合(漁協)』のビワマスは、そんな食材のうちのひとつ。脂が上品で刺身で食べて美味しく、もちろん、煮ても焼いても楽しめます。
川副シェフは今回、このビワマスを「ブレゼ」と言われる、やさしい火でしっとりと仕上げるフレンチの技法で調理。「ビワマスが繊細で上品な味なので、この調理法を選びました」と解説します。
このビワマスに添えたのが、忍葱としいたけのソース。忍葱は、滋賀県甲賀市で12月初旬から3月中旬に収穫されるねぎで、味わいが濃厚で、火を通すととろりと甘みが出てくるのが特徴です。
『JAこうか』の上田健司氏は「忍葱の甘みが最大限に引き出されていますね!」と、嬉しそう。忍葱の生産者千代傳男(つたお)氏も「鍋に入れたり、焼いて食べたりすることが多かったので、こんな調理の仕方があるなんて思わなかった」と笑顔を見せます。
続いて川副シェフが提供したのが、『いぶきファーム』の伊吹大根とフォアグラです。生産者である谷口隆一氏も、「伊吹大根とフォアグラを合わせたことはないですね」と、興味津々。
「伊吹大根は煮崩れしにくく、お出汁をぐんぐん吸い込むのが特徴。そこで、近江鴨やひき肉から作ったコンソメで煮込みました」と、川副シェフ。さらに、フォアグラは、同じく谷口氏が生産するそばの実を挽いたものをまとわせ、外側の食感をパリッと仕上げています。
食事会が始まるまでは、緊張気味の表情を見せていた生産者も、シェフの美味しい料理を食べるうちに少しずつ心がほぐれてきた様子。また、生産者本人でさえも思いつかなかったような調理法や、意外な食材との組み合わせに好奇心をくすぐられたようです。
「丹精込めて育てた食材が大切に料理されている姿を実際に見ることができて嬉しい。しかも、なかなか予約の取れないお店のシェフの料理を食べられるなんて、とても貴重な機会」と、近江鴨を生産する『グッドワン』の坂上良一氏が話します。
ローカルファインフードフェア滋賀食事会を終え、シェフたちが滋賀の生産者、食材を改めて語る。
すべての料理を提供し終えた後は、料理人たちと生産者のみなさんとで座談会を行いました。
濱口シェフは「日本全国、さまざまな生産者さんを訪ねてきたけれど、滋賀県のみなさんは 特に仕事が丁寧で、人があたたかい。一対一の関係性を築くことができている」と、コメント。
川副シェフも「琵琶湖を中心に、自然とともに良い食材が揃っていて、さらに、生産者が自然に寄り添いながら作っている」と、魅力を語ります。
増山シェフと金井シェフは「どの食材にも自然とともにストーリーがあるので、東京で、料理とともにこのストーリーをお客様に語っていきたい」「生産者のみなさんたちと今後もコミュニケーションをとり続けていきたい」と語り合い、盛況のなかで食事会を締め括りました。
自然豊かな滋賀県で育まれた食材が料理人にインスピレーションを与え、その食材で作られた料理が巡り巡って生産者たちに驚きや感動、次の生産に向けたアイディアを与える。
まさに、美味しさが深まる好循環。今後も滋賀の生産者と東京の料理人の交流は続いていきます。
Photographs:JIRO OHTANI
Text:AYANO YOSHIDA
(supported by 滋賀県)
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