冬の青森で、雪に包まれたゲルに泊まる。日常から大きく離れた、記憶に刻まれる体験。[つがる地球村/青森県つがる市]

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つがる市にあるキャンプ場『つがる地球村』に設置された1基の「ゲル」。旧車力村と交流があったモンゴルから、約20年前に寄贈されたもので2021年9月に復元。

つがる地球村温泉やレストランを備えた通年営業の複合施設。

「冬の青森でキャンプをする」。

そう聞くとまるで大冒険のように聞こえるかもしれません。しかしそれを可能にする場所があります。青森県つがる市『つがる地球村』。そこには、モンゴルから取り寄せた本物の「ゲル」が設置され、予約があれば冬でも利用可能なのです。

青森市から弘前市を経てつがる市に向かうルートは、津軽の象徴・岩木山に見守られるような道です。

青森市からは遠く霞んで見えていた姿が、弘前に近づくに連れてはっきりと見えてきます。それは「山」という漢字の成り立ちを思わせる、3つの頂が連なる美しい姿。山裾は広くなだらかに広がり、悠然とした佇まい。その「岩木山」の麓をぐるりと廻るようにつがる市方面へ向かうと、またも山は姿は形を変えます。今度は鋭く尖ったひとつの頂上と、ゴツゴツと雄々しい山肌。どれも同じ「岩木山」。しかし見る場所によりこれほどまでも姿を変えるのです。

きっと世の中の物事も、この岩木山と同じことなのかもしれません。名峰に見守られたそんなことを考えているうちに、やがて目的地に到着します。
宿泊施設やレストラン、温泉施設も併設された『つがる地球村』は、季節を問わず快適に過ごせる施設です。しかし、「ゲル」があるキャンプ場は、先の温泉やレストランからも少し離れた場所。深い雪に覆われています。その白一色の光景は、あまりに日常とかけ離れているがゆえに、わずかな不安を呼ぶかもしれませんが、心配は無用。「ゲル」の中はいたって快適。薪ストーブに火がある間は、寒さに凍えることもありません。薄暗く、静寂に包まれた幕のなかにいると、きっといつもとは違う思考を加速させてくれることでしょう。

 『つがる地球村』までの道のりにおいても白銀の世界が広がる。鋭く尖った頂が特徴の山は、名峰「岩木山」。くっきりと山肌まで見えるのは、冬の澄んだ空気ゆえ。寒さは険しいが、この季節に訪れた者のみが望める特権だ。

「ゲル」の空間は、天井も高く、ベッドやテーブルセットも用意。中央には暖炉も設置され、快適に過ごすことができる。モンゴルの建築様式においても、非日常な旅情を演出する。

つがる地球村不便や寒さを楽しむことが、旅の記憶を思い出に変える。

「ゲル」の中で火を使った調理はできないため、夕食はレストランに歩くか、屋外で調理するかを選択。風呂に入りたければ、温泉施設まで歩きます。帰り道で凍えぬよう、少し長めに湯に浸かっておく方が良いでしょう。日没は早く、ストーブとランタンの灯りしかないゲルの中は、読書をするにも心もとない明るさ。しかし、そんな何もない時間が、きっと心満たされる豊かなひと時となるはず。

ベッドはありますが、ストーブの薪が燃え尽きると凍える寒さになるため、寝袋は必須。夜半、寒さで目が覚め、何度も薪を足す必要もあります。薪が切れれば外の薪棚まで取りに行くこともあるでしょう。さまざまな便利と快適に満たされた現代にあって、なぜわざわざそんな体験をするのか疑問に思うかもしれません。

しかし、雪の中の「ゲル」で本物の静寂を体験し、そして夜明けを迎え、翌朝扉を開いて朝日に輝く雪を見れば、きっと誰もがこの地を訪れたことに満足するはず。そして日常からかけ離れた希少な体験は、いつまでも心に刻まれる素晴らしい思い出となるのです。

「ゲル」の中では調理不可のため、外で行う。道中、県産の食材などを買い込み、地物をゆっくりと味わいたい。

青森は、バゲットやシードル、ハムなどの名品も揃う。外は極寒、中は暖か。そんな「ゲル」の中でいただく青森の味は、格別。

暖房ではなく、火で暖を取る。便利ではなく、不便。旅を通して得る原始的な体験は、生きる上で大切な何かに気付きを与えてくれるのかもしれない。

住所:青森県つがる市森田町床舞藤山244 MAP
TEL:0173-26-2855
http://chikyuumura.co.jp/

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