Sakiko SILENCE/NIGHT/DIVEお酒と写真で提供したい、言葉もいらない特別な時間。
1923年、下関市幡生の445人の地元農家によって設立された『下関酒造』は、蔵の地下160メートルに流れる水を汲み上げ、山口県産の酒米を使用する、地元に根付いた酒造です。
設立当時の幡生は田んぼが広がり水質も良く、酒は評価されて第一回目の「全国新酒鑑評会」から優等賞を受けています。地域の人々に気軽に楽しんでもらえる酒を提供してきましたが、近年、世界でも親しまれる酒造りを目指し、香り高く上質な純米系高級酒の開発を始めました。
そうして生まれた純米大吟醸の『獅道(シド)38』と純米吟醸の『蔵人の自慢酒』は、ロンドンの日本酒品評会「LONDON SAKE CHALLENGE」で金賞と最高賞を受賞しています。
海外への展開を進めたのは、芸術大学に進学し英国留学を経験、酒蔵としては異色の経歴を持つ内田喬智常務。『下関酒造』は世襲制ではありませんが、豪快で優れた経営手腕を買われた5代目の祖父が営業を立て直し、現社長で6代目の父が機械設備やシステムの近代化を促進。
「自分がすべきことは、伝統を守りながら縛られず、新しい可能性に踏み込んで遊ぶこと。『下関酒造』の企業理念は“酒と食と心の感動”で、酒の味だけに限りませんから」と内田氏は言います。
そんな『下関酒造』の新たな挑戦は、下関市綾羅木出身の写真家・野村佐紀子さんとコラボレーションした日本酒『sakiko』の発売です。内田氏は「企画が立ち上がった時、これまでにない価値観の日本酒を生み出せると思った」と話します。
野村さんは世界で評価を受ける写真家・荒木経惟さんに師事し、自身も『テート・モダン』(ロンドン)に作品がコレクションされるなど、国内外での活動が活発。
ちょうど、地元で初めての大規模な写真展「海」が『下関市立美術館』にて開催されるタイミングでした。
「振り切ったことをしよう。写真をきっかけに、お酒が手助けをして、言葉がいらなくなる。そんなものが欲しいな」。
野村さんとの雑談からコンセプトが固まり、『sakiko』は、何も施されていない黒いボトルと、繊細で湿度を感じる力強い写真を同梱した商品になりました。ラベルに写真が刻印されているのではなく、プリントでボトルが包まれています。
恋人と、友人と、日本酒を飲み写真を眺める空間。時にロマンチックであったり、言葉も必要のない時間を提案できる日本酒の味とは何か。
「穏やかにリラックスできなければ、親密な時間にはなり得ないと考えました」と内田氏。山口県産酒米と米こうじがほのかな甘みと味わい深さを残しながら、柔らか過ぎない中軟水の蔵の地下水が調和し、雑味の少ない滑らかな喉越しの純米大吟醸となりました。
もちろん、響灘、関門海峡、周防灘でとれる下関の良質な海産物や、食事との相性も良いですが、内田氏のおすすめは食後のゆったりとした時間に味わうこと。野村さんのモノクロ写真が2人を同じ世界に引き込み、その静かな空間で、安らぎを共有します。自然と、相手との特別な時間を演出してくれる日本酒と写真。ぜひお試しください。
山口県下関市出身。神戸芸術工科大学環境建築デザイン学科卒業。神戸と東京で3年間の異業種経験を積む。2014年より『下関酒造株式会社』に就職。事業である酒造りを学んだ後、英国の『Frances King School of English London』に入学。卒業後、北アフリカ各国を巡り、途上国の食文化やそこで暮らす人々、その国民性と直に触れる。帰国後、主に商品のブランディングに力を注ぐ。自身がデザインした主な銘柄に『獅道(シド)38』(純米大吟醸酒)と『蔵人の自慢酒』(純米吟醸酒)がある。現在は海外事業を主軸としながら、日本酒の新たな可能性の発信に努める。
山口県下関市出身。九州産業大学芸術学部写真学科卒業。91年より荒木経惟に師事。 主に男性の裸体を中心とした湿度のある独特な作品世界を探究し続ける。93年より東京を中心に国内外で精力的に個展、グループ展をおこなう。主な写真集に『裸ノ時間』(平凡社)、『闇の音』(山口県立美術館)、『黒猫』(Taka Ishii Gallery)、『夜間飛行』(リトルモア)、『NUDE/A ROOM/FLOWERS』(MATCH and company)、『TAMANO』(libroarte)、『愛について』(ASAMI OKADA Publishing)、『春の運命』(Akio Nagasawa Publishing)など。2022年3月27日まで、下関市立美術館にて写真展「海」が開催中。
住所:山口県下関市幡生宮の下町8番23号 MAP
TEL:083-252-1877
https://www.shimonoseki.love/
Text:ASAMI OKADA