味わうだけでなく地域を体験するワイン・ツーリズムに出かけよう。[つくばワイン/茨城県つくば市]

つくばのワインと食を旅するワイン・ツーリズムに出かけた真藤さん、大越氏、白土さん(左から)。筑波山の麓、なだらかな山裾に開かれた『つくばワイナリー』のブドウ畑を訪れるなど、都心から近いつくば市内で日帰り旅を楽しんだ。

つくばワイン日本を代表するソムリエをはじめ3人のワインのプロが「つくば市」へ。

茨城県つくば市をご存じでしょうか? 県南地域に位置する市で、都内なら秋葉原駅や北千住駅からつくばエクスプレスに乗ると、60分もあれば中心地にある「つくば駅」に到着します。

古代から名峰として信仰を集めた筑波山の麓に広がる田園地帯は、豊かな古の人々の生活を想起させる一方で、駅周辺は機能的に街が作られ、さながら近未来都市のような趣があります。さらに、つくば市が目指す未来型教育も注目され、移住者も増加。人口減少が問題視されている日本にあって、30年以上人口が増え続けている自治体でもあります。

また、住むだけでなく、旅やビジネスの目的地になっているのも、つくば市の特徴です。筑波山周辺で登山やキャンプなどのアウトドアを目的にくる人もいれば、JAXAをはじめ先端技術の研究・開発のために訪れる研究者や技術者がいる街は、日本でも珍しいのではないでしょうか。

住む人、訪れる人、さまざまな人が行き交う街、つくば。この街に、また新しい目的をもった人たちが集まり始めています。

近年、筑波山周辺につぎつぎに開園しているワイナリーをまわる人たちです。現在は、ワイナリーやヴィンヤード(ワイン用ブドウ園)が5つあり、これらを中心にした食の旅「ワイン・ツーリズム」に期待が寄せられているのです。

今回、つくば市のワイナリーやヴィンヤードを訪れたのはフランス料理の老舗『銀座レカンの元シェフソムリエで、現在はJALのワインディレクターとして活躍するソムリエの大越基裕(おおこし・もとひろ)氏と、人気酒販店『いまでや』に勤務しながらさまざまな活躍を展開する白土暁子(しらと・あきこ)さん、やまなし大使として山梨ワインの魅力を発信する料理家の真藤舞衣子(しんどう・まいこ)さんです。

ワイナリーやヴィンヤードだけでなく、市内の野菜の直売所やパン屋やチーズ屋などをめぐってワインに合うフードも購入しながら、テイスティングをしました。1日でめぐるつくばのワイン・ツーリズムの可能性を探っていきます。

日本を代表するソムリエの一人、大越基裕氏。第一線の飲食の舞台で活躍してきた知識と経験で、つくばワインの魅力を言葉にしてくれた。

料理家であり、フランスのリッツエスコフィエにてディプロマを取得しワインにも精通する真藤舞衣子さん。ワイン・ツーリズムを日本で先駆けて取り組んだ山梨県のワインにも詳しい。

白土暁子さんは、じつは茨城県出身。転勤の多い家庭だったこともあり、幼少期に関西へ。茨城県の記憶はほとんどないが、その後、仕事で数回訪れている。

つくばワイン筑波山周辺の土壌にあったハイブリッド品種でワインを造る。

つくばエクスプレスの「つくば駅」から旅をスタートさせた3人は、筑波山を目指して車で北上します。

はじめにたどり着いたのは、2013年からワイン用ブドウを育て、市内ではもっとも古いワイナリーである『つくばワイナリー』です。

筑波山麓の風光明媚な地、北条地区に開かれた圃場は、新年度のブドウ栽培の最初の仕事である剪定が終わったばかり。病気に強く筑波山麓の気候風土や土壌にも合うと、11年前に植えたヨーロッパ品種と日本の山葡萄品種をかけ合わせたハイブリッド品種である北天の雫(白ワイン用、行者の水×リースリング)や富士の夢(赤ワイン用、行者の水×メルロー)、ヨーロッパで注目を集めている黒ブドウ(赤ワイン用)のマルスランの樹が並んでいます。

圃場を案内するのは、岡崎洋司(おかざき・ようじ)氏。その後の試飲で3人が選んだのは北天の雫100%の「TSUKUBA BLANC プレミアム 2020」と富士の夢100%の「TSUKUBA ROUGE プレミアム 2020」でした。

「『TSUKUBA BLANC プレミアム 2020』は、フルーティでリースリングの遺伝子を感じるよね。野菜とか葉っぱもの、ハーブの感じと相性がいいかもね」と大越氏。
「もう1本の『TSUKUBA ROUGE プレミアム 2020』は、山葡萄特有の野性味とグレーピー(ブドウジュースのよう)な風味が特徴的。酸がしっかりとあり、濃い割りにはタンニンが少ないことがポイントになるので、油脂分はそこそこで、テクスチャー(質感)の柔らかな煮込み系の料理などが相性が良さそう。豚を角煮にしたり、プルーンを使って一緒に煮込んだりとかかな」と感じたようです。

真藤さんも「スモークチキンとか燻製したものとかにもあいそうだから、ターキーとクランベリーのソースとか良いかもしれないよね」と料理家の目線で家庭料理の提案もしてくれます。

『つくばワイナリー』の自家醸造所にはショップが併設されており、購入することもできる。営業時間13:00〜17:00(日・祝は10:00〜17:00)定休日なし。

『つくばワイナリー』では、ハイブリット品種の北天の雫や富士の夢のほか、ヨーロッパ品種のメルロー、シャルドネ、マルスランの合わせて5品種を1.5haの畑で育てている。

2019年には、つくば市初となる自家醸造所が完成。国内複数の醸造所での経験をもつ北村 工氏が醸造責任者に就任し、さらに高いクオリティのワイン造りを目指している。

『つくばワイナリー』の醸造所兼ショップの建物の前の庭で昼休憩。向かう途中にある「ベッカライ・ブロートツァイト」でパンを、「ラ・マリニエール」でヨーロッパチーズを購入してきた。

「ベッカライ・ブロートツァイトのパンは味がしっかりしているので、この『TSUKUBA BLANC プレミアム 2020』の樽を少し使用して作られている白の方が、テクスチャーもしっかりしているので良く合いますね」と大越氏。

つくばワイン霊峰・筑波山を仰ぎ見るブドウ栽培に適した場所。

続いて3人が向かったのは、同じく筑波山麓の沼田地区と臼井(六所)地区に圃場をもつ『ビーズニーズヴィンヤーズ』です。

今村(いまむら)ことよさんは、守谷市出身でもともとは製薬会社の研究員でした。40歳を期に脱サラし、筑波山周辺は、日本では珍しい花崗岩質の土壌だったこともありワイン造りをつくばで始めました。

ビーズニーズヴィンヤーズでは、2カ所の圃場を見学後、今村さんが用意したテント内で試飲を行った。快晴で汗ばむほどに晴れたこの日、筑波山から吹き降ろす風が心地よい、ヴィンヤード(ワイン用ブドウ園)ならではのロケーションです。

ティスティングはまず、「Episode 0 (zero) 2019」から。黒ブドウのシラーを3割、残りはシャルドネとセミヨンから造ったスパークリングワインです。そして栽培している白品種をすべて混醸して造った「Spiral 2020」と、シラーとヴィオニエを混醸した「Purple Peaks 2020」と続けて試飲していきます。Purple Peaksは、筑波山の山肌が斜陽で紫に染まることから「紫峰」と呼ばれているところからつけた名前だそうです。

そんな中、大越氏が気に入ったのはティスティングの最後に出された「Overdrive Oak 2018」、シラー、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、タナなどのヨーロッパ品種を2タンクに分けて発酵後、樫材のチップ(オークチップ)で樽の風味付けをしたものです。

「口のなかでアルコールやタンニンを総合的に感じたときのテクスチャー(質感)が好きです。凝縮感もあります。この年のようなスタイルが、ある程度コンスタントにできればいいですね」と、本格的なアドバイスを今村さんに送っていました。

標高877m、男体山と女体山の2つの峰を持ち、古くから信仰の山として崇拝されてきた筑波山。今回のツーリズムで訪れた圃場のうち、筑波山にもっとも近いのが『ビーズニーズヴィンヤーズ』の圃場だ。

白ワイン品種は、シャルドネ、セミヨン、ヴィオニエ、ヴェルデーリョ、赤ワイン品種は、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、プティ・ヴェルド、タナなど、多くの人が一度は聞いたことがあるようなヨーロッパを代表するワイン用ブドウの品種を2つの圃場で合計1.5haで育てている。

「いわゆる自然派ワインによくある、クセのある匂いが出ないように、きれいに醸造して素直に食事に合うワインを造りたい。ただ、今は委託醸造をしていて、委託先ごとに設備が違ってくるのでそこは仕方ないですね。将来的に醸造も自分でやるなら瓶詰め時の窒素置換は必須ですね」と今村さん。

つくばワインこの小さなエリアに、これだけの良い食のプロダクトが揃っているのは珍しい。

3つ目の訪問地『つくばヴィンヤードは、筑波山から12㎞ほど南にある栗原地区にあります。すこしだけ筑波山から遠くなりましたが、まだしっかりと山容を確認することができます。いつも旅人を筑波山が見守ってくれる、それもまたつくばを旅する特別な楽しみ方といえます。

つくばヴィンヤードでは、旅の合間に買ったワインに合うフードを食べながらの試飲会にしようと髙橋 学(たかはし・まなぶ)氏が炭火を起こして待っていてくれました。

髙橋氏が勧める白ブドウ品種、プティ・マンサン100%の「Tsukuba Series プティマンサン」やつくばワイナリーでも栽培している富士の夢100%の「Tsukuba Series Kurihara」などとともに、即席の野外レストランです。

3人が購入してきたのは、レンコンや原木椎茸、ハーブといったつくば市産の野菜に『手づくり工房ぴあらハム』と『筑波ハム』のハムやソーセージといった加工食品。さらに県外の人もわざわざ買いにくる人気のベーカリー『ベッカライ・ブロートツァイト』とチーズショップ『チーズ専門店 ラ・マリニエール』では、パンとチーズです。

「『筑波ハム』は、社会的な食のニーズや地元の声を聴く中で無添加のハムを作り始めたとおっしゃっていました。腐敗防止発色のために使われる硝酸不使用なので、時間をかけてていねいに作るのでまだ肉本来の風味や食感が残ってとてもおいしい。製造量は少ないそうですが、こういった取り組みが根付いていってほしいですね」というのは、白土さん。

「プティ・マンサンがきれいでおとなしい印象があるので、無添加で味が決まりきっていない肉本来のやさしい味わいのハムが、風味と味わいの強さとしても一緒に飲んでもおいしくいただけるよね」と大越氏もワインとの相性の良さを感じていました。

「『ラ・マリニエール』で買ってきた12カ月熟成のコンテや羊乳のシェーブルと食べてもいいですよね。とくにコンテを食べた後に飲むと、コンテにつられて、ワインのうま味も出てくるように感じます」(白土さん)。

「いろいろな地域でワイン・ツーリズムだったり、地域おこしをしていますが、これだけいい食のプロダクトが小さなエリアのなかに揃っているのは、珍しいですよね」(真藤さん)と、筑波山を遠望する気持ちのいい空間で、ざっくばらんにつくばワインと、つくばの食についての会話が続いていました。

筑波山を背景に、『つくばヴィンヤード』の圃場内で『つくばヴィンヤード』のワインの試飲とともに、購入してきた地元の食材といっしょに食べ飲みをしてみる。自然にあふれ開放感がある場所は、それだけでワインと料理の最高のスパイスになる。 

つくば市産の原木椎茸やレンコンのような地元の食材を、地元の調味料で食べながらその土地で作られたワインを飲む。「場所は畑の中や通りかかった公園などでも十分で、そういう楽しみ方ができるのがワイン・ツーリズムの良さですよね」と白土さん。

つくば市にワイン特区の申請を勧めたのは、髙橋氏。「僕のように一人でブドウを育てて醸造もしている人たちにとって、製造量が少ないところから始められるのが、すごくありがたい」と髙橋氏。

平日でも午前中からたくさんの人が集まる人気の直売所『みずほの村市場』では、カラフルトマト、レンコン、原木生椎茸、芽キャベツといったつくば市産の産直野菜のほか「ぴあらハム」のハムとソーセージを購入した。

ドイツパンの専門店『ベッカライ・ブロートツァイト』では、ドイツの田舎パン「バウアンブロート」(ホール、1,000円)と「レーズンパン」(ホール、1,300円)を購入。しっかりと焼かれてガリっと香り高い表面のテクスチャーとは対照的に中は、やわらかくうま味が強い。

『ベッカライ・ブロートツァイト』から歩いて3分ほどにある『チーズ専門店 ラ・マリニエール』。フランスやイタリアの輸入チーズをメインとした輸入食材を扱う。12カ月熟成のコンテ(950円)と、ブイゲット(山羊のチーズ、1,950円)を購入した。

1981年に創業した『筑波ハム』は、茨城県のブランド豚を使ったハムやベーコンを手造りで販売している。自然派志向のニーズを受けて発色剤や食品添加物を使わずに、ゆっくりと熟成させた無添加商品も開発している。無添加つくば豚ボンレスハム(5,642円)などを購入した。

つくばワイン突出した生産者の存在が、産地全体のレベルアップにつながる。

「ワイン・ツーリズム」という言葉は、1996年に初めて使われるようになった比較的新しい言葉であり概念です。

ワインのティスティングやワイン産地の気候風土を体験することが最大の動機になるような旅のことをいい、その訪問先は今回のようにワイナリーやヴィンヤードのほか、ワインフェスティバルやワイン展示会なども含まれます。日本では、2000年代になって使われるようになりました。

もちろん、ヨーロッパには、ワイン・ツーリズムという言葉で呼ばれなくとも、ワインを目的にした旅の楽しみは以前からありました。日本でも日本酒の銘醸地への旅や、旅先で地酒と地域の食を楽しむ旅のスタイルは昔からあり、ワイン・ツーリズムに近いものといえます。
ヨーロッパのワイン文化にどっぷりと浸かってきた大越氏にとってワイン・ツーリズムは、そもそもの「旅」の本質でもある「地域体験」にあると考えています。

「ワインは、『どこで作られているか』ということが最も大事です。この地に合っているから、このブドウを使っていますっていうのが本来のワインの姿。だからこそ地域のこともよく知る必要があり、総合的に土地の個性を打ち出すことができる存在になるのです」と、大越氏。

つくばのワイン生産者をまわり、それぞれが個性的で意欲的なワインを造っていることを感じとったという大越氏。なかでも土地の個性をより強くワインで表現していたのは、最後に訪れた『ル・ボワ・ダジュール』の青木 誠(あおき・まこと)氏だったといいます。

「試飲させてもらったシャルドネは、『ビーズニーズヴィンヤーズ』の今村さんから買い取ったブドウで青木氏が醸造したもの。もう1つのヒムロットも、借りている圃場に昔からあった樹齢50年という生食用のブドウ品種だといいます。その中でしっかり味わいののったワインを目指して補酸や補糖もせず、ナチュラルな味わいのバランスをアルコール度数に頼らず作り上げている。多くの人が『何のブドウ品種を使っているか』から話を始めるなか、根本的な考え方があると思いました」(大越氏)。

この意見に、白土さんも「一番『こういうワインを造りたい』というのが伝わってきたよね」と賛同します。

日本におけるワイン・ツーリズム発祥の地・山梨県でやまなし大使としてワイン・ツーリズムの取り組みを見つめてきた真藤さんは、「突出した生産者の存在が、産地全体のレベルをアップさせるのをみてきました。海外でしっかりとワイン醸造を学ばれてきた青木氏は、その生産者になる可能性がある」とも話してくれました。

つくばエクスプレスの「つくば」駅から車で10分ほどの住宅地にある『ル・ボワ・ダジュール』は、フランスのワインの銘醸地域であるジュラとブルゴーニュの4軒のワイナリーで3年半研修し2019年に帰国した、青木氏が2021年に開いたワイナリー。

フランスから帰国した青木氏は、2020年から実家のブドウ園に入って生食用の巨峰栽培を手伝いながら、ワイン用のブドウも栽培。ワイン造りをスタートさせた。

「酸を足した方がいいという人もいますが、僕はあえて酸を足すことを考えなくてもいいのかなと思っています。アルコールののったワインを作って、熟成させれば隠れた酸が出てくるのかなって思っているからです」と、自身の考えを伝える青木氏。

「シャルドネとヒムロットはとてもユニークです。とくにヒムロットのアロマティックな個性は、スパークリングにも向いてそうです。巨峰は、このように濁り系で作りあげるスタイルと、とてもよくあっていると思います。樽熟成でテクスチャーも加わり、厚みが感じられます。その分巨峰らしいアロマが控えめになりますが、バランスはいいです。ワインとしては、熟成というよりは早いうちに楽しむほうがあっていそうです」と大越氏。

つくばワインつくばが、ワインの銘醸地と世界から認められるために必要なこととは。

そして最後に3人が指摘したのは、ワイン生産者だけでない横のつながりを作っていくことだといいます。

「つくばのワイン・ツーリズムの可能性を探るということでまわりましたが、熱意あるワイナリーの方々とともに、『ベッカライ・ブロートツァイト』や『チーズ専門店ラ・マリニエール』、『筑波ハム』といった素晴らしい食べ物を作っている人たちがいるわけですから、そういう人たちともどんどんつながって意見交換をしていった方がいいと思うんです」(大越氏)。

「ワイン・ツーリズムにこだわりすぎないことも考えていいかもしれないですよね。つくばにワインを買いにくる人たちは、完璧なマリアージュとかペアリングを、必ずしも求めてないんじゃないですかね。今回私たちも、できるだけつくば市のものを食べたいって思ったし、別にそれは手の混んだ料理とかじゃなくて、地元の味噌とか郷土料理とか、今回でいえばレンコンやトマトといった普通の野菜だったりするんです」(白土さん)。

「都心から60分ちょっとで着く、近いのもいいですよね。どこからでも筑波山が見渡せるようなロケーションがすごくいいですよね。ワイン・ツーリズムとしてまわったときに楽しくできそうな気がする。収穫時期とか新酒の時期とかでもいいので、イベント化してワイン・ツーリズム用の巡回バスなんかがあると、都心からでも参加しやすいですよね」(真藤さん)。

今回はまわれませんでしたが、意識ある野菜や畜産の農家もつくばにはたくさんいます。そうした食にまつわるすべての人たちを、ワインという線で繋いでいくことがつくばらしいワイン・ツーリズムの姿かもしれません。

つくばのワイン・ツーリズムはまだまだ始まったんばかり。最適なルートも立ち寄りスポットもまだまだ確立されていませんが、今回紹介したワイナリーやフードショップで気になった"推しスポット"を2、3カ所まわってみてください。旅のガイドブックをたどるのとはひと味違う「地域体験」ができるはずです。

 

つくばワイナリーの圃場で、筑波山を背景に。

つくばエクスプレスの研究学園駅近くの「地酒本舗 美酒堂 研究学園店」は、つくば ワインを揃える地元のワインショップ。ワイン・ツーリズムの最後の目的地にピッタリだ。

1976年生まれ、北海道出身。国際ソムリエ協会認定 、International A.S.I. Sommelier DiplomaWSET Sake Level 3 Educator、モダンベトナム料理店「An Di」(外苑前)「An Com」(広尾)オーナー。渡仏し栽培、醸造の分野を学び、帰国後銀座レカンのシェフソムリエに就任。2013年6月ワインテイスター/ソムリエとして独立。IWC、IWCCのシニアジャッジとして国際的なワインと日本酒の品評会にも招待されており、日本酒や焼酎のペアリングで、和食以外のレストランで明確に提案したパイオニアの一人。

東京生まれ。主に発酵料理を得意とし、料理を通じて環境を考えた暮らし方や食育を提案。 IT関連の会社勤めを経て、京都の禅寺にて1年間生活をし、その後フランスのリッツエスコフィエにてディプロマを取得。レシピ開発やレシピ本の執筆、 料理教室、テレビ、ラジオ出演や、食育、ワイン、日本酒など酒と食との講演会などで活動。山梨との二拠点居住の後、現在は東京に拠点を戻し、やまなし農業6次産業化戦略会議アドバイザーや、日本各地の商品開発、メニューのアドバイザーなどで活動中。

営業企画部 前職で家具屋で働いていた時に仲良くなった酒蔵の社長の影響で飲食にまつわる仕事をしたいと思い転職。現在は海外・日本ワインの仕入れや、イベント企画を担当。 特に日本国内の造り手の元には頻繁に訪問し、現地で聞いた情報を飲食店や小売店のお客様に伝え、造り手と消費者を繋ぐ仕事を主に行っている。



Text:ICHIRO EROKUMAE
Photographs:JIRO OTANI
(Supported by シェフと茨城)
【問い合わせ先】
つくば市経済部農業政策課 農業政策係
Tel:029-883-1111

味わうだけでなく地域を体験するワイン・ツーリズムに出かけよう。[つくばワイン/茨城県つくば市]

つくばのワインと食を旅するワイン・ツーリズムに出かけた真藤さん、大越氏、白土さん(左から)。筑波山の麓、なだらかな山裾に開かれた『つくばワイナリー』のブドウ畑を訪れるなど、都心から近いつくば市内で日帰り旅を楽しんだ。

つくばワイン日本を代表するソムリエをはじめ3人のワインのプロが「つくば市」へ。

茨城県つくば市をご存じでしょうか? 県南地域に位置する市で、都内なら秋葉原駅や北千住駅からつくばエクスプレスに乗ると、60分もあれば中心地にある「つくば駅」に到着します。

古代から名峰として信仰を集めた筑波山の麓に広がる田園地帯は、豊かな古の人々の生活を想起させる一方で、駅周辺は機能的に街が作られ、さながら近未来都市のような趣があります。さらに、つくば市が目指す未来型教育も注目され、移住者も増加。人口減少が問題視されている日本にあって、30年以上人口が増え続けている自治体でもあります。

また、住むだけでなく、旅やビジネスの目的地になっているのも、つくば市の特徴です。筑波山周辺で登山やキャンプなどのアウトドアを目的にくる人もいれば、JAXAをはじめ先端技術の研究・開発のために訪れる研究者や技術者がいる街は、日本でも珍しいのではないでしょうか。

住む人、訪れる人、さまざまな人が行き交う街、つくば。この街に、また新しい目的をもった人たちが集まり始めています。

近年、筑波山周辺につぎつぎに開園しているワイナリーをまわる人たちです。現在は、ワイナリーやヴィンヤード(ワイン用ブドウ園)が5つあり、これらを中心にした食の旅「ワイン・ツーリズム」に期待が寄せられているのです。

今回、つくば市のワイナリーやヴィンヤードを訪れたのはフランス料理の老舗『銀座レカンの元シェフソムリエで、現在はJALのワインディレクターとして活躍するソムリエの大越基裕(おおこし・もとひろ)氏と、人気酒販店『いまでや』に勤務しながらさまざまな活躍を展開する白土暁子(しらと・あきこ)さん、やまなし大使として山梨ワインの魅力を発信する料理家の真藤舞衣子(しんどう・まいこ)さんです。

ワイナリーやヴィンヤードだけでなく、市内の野菜の直売所やパン屋やチーズ屋などをめぐってワインに合うフードも購入しながら、テイスティングをしました。1日でめぐるつくばのワイン・ツーリズムの可能性を探っていきます。

日本を代表するソムリエの一人、大越基裕氏。第一線の飲食の舞台で活躍してきた知識と経験で、つくばワインの魅力を言葉にしてくれた。

料理家であり、フランスのリッツエスコフィエにてディプロマを取得しワインにも精通する真藤舞衣子さん。ワイン・ツーリズムを日本で先駆けて取り組んだ山梨県のワインにも詳しい。

白土暁子さんは、じつは茨城県出身。転勤の多い家庭だったこともあり、幼少期に関西へ。茨城県の記憶はほとんどないが、その後、仕事で数回訪れている。

つくばワイン筑波山周辺の土壌にあったハイブリッド品種でワインを造る。

つくばエクスプレスの「つくば駅」から旅をスタートさせた3人は、筑波山を目指して車で北上します。

はじめにたどり着いたのは、2013年からワイン用ブドウを育て、市内ではもっとも古いワイナリーである『つくばワイナリー』です。

筑波山麓の風光明媚な地、北条地区に開かれた圃場は、新年度のブドウ栽培の最初の仕事である剪定が終わったばかり。病気に強く筑波山麓の気候風土や土壌にも合うと、11年前に植えたヨーロッパ品種と日本の山葡萄品種をかけ合わせたハイブリッド品種である北天の雫(白ワイン用、行者の水×リースリング)や富士の夢(赤ワイン用、行者の水×メルロー)、ヨーロッパで注目を集めている黒ブドウ(赤ワイン用)のマルスランの樹が並んでいます。

圃場を案内するのは、岡崎洋司(おかざき・ようじ)氏。その後の試飲で3人が選んだのは北天の雫100%の「TSUKUBA BLANC プレミアム 2020」と富士の夢100%の「TSUKUBA ROUGE プレミアム 2020」でした。

「『TSUKUBA BLANC プレミアム 2020』は、フルーティでリースリングの遺伝子を感じるよね。野菜とか葉っぱもの、ハーブの感じと相性がいいかもね」と大越氏。
「もう1本の『TSUKUBA ROUGE プレミアム 2020』は、山葡萄特有の野性味とグレーピー(ブドウジュースのよう)な風味が特徴的。酸がしっかりとあり、濃い割りにはタンニンが少ないことがポイントになるので、油脂分はそこそこで、テクスチャー(質感)の柔らかな煮込み系の料理などが相性が良さそう。豚を角煮にしたり、プルーンを使って一緒に煮込んだりとかかな」と感じたようです。

真藤さんも「スモークチキンとか燻製したものとかにもあいそうだから、ターキーとクランベリーのソースとか良いかもしれないよね」と料理家の目線で家庭料理の提案もしてくれます。

『つくばワイナリー』の自家醸造所にはショップが併設されており、購入することもできる。営業時間13:00〜17:00(日・祝は10:00〜17:00)定休日なし。

『つくばワイナリー』では、ハイブリット品種の北天の雫や富士の夢のほか、ヨーロッパ品種のメルロー、シャルドネ、マルスランの合わせて5品種を1.5haの畑で育てている。

2019年には、つくば市初となる自家醸造所が完成。国内複数の醸造所での経験をもつ北村 工氏が醸造責任者に就任し、さらに高いクオリティのワイン造りを目指している。

『つくばワイナリー』の醸造所兼ショップの建物の前の庭で昼休憩。向かう途中にある「ベッカライ・ブロートツァイト」でパンを、「ラ・マリニエール」でヨーロッパチーズを購入してきた。

「ベッカライ・ブロートツァイトのパンは味がしっかりしているので、この『TSUKUBA BLANC プレミアム 2020』の樽を少し使用して作られている白の方が、テクスチャーもしっかりしているので良く合いますね」と大越氏。

つくばワイン霊峰・筑波山を仰ぎ見るブドウ栽培に適した場所。

続いて3人が向かったのは、同じく筑波山麓の沼田地区と臼井(六所)地区に圃場をもつ『ビーズニーズヴィンヤーズ』です。

今村(いまむら)ことよさんは、守谷市出身でもともとは製薬会社の研究員でした。40歳を期に脱サラし、筑波山周辺は、日本では珍しい花崗岩質の土壌だったこともありワイン造りをつくばで始めました。

ビーズニーズヴィンヤーズでは、2カ所の圃場を見学後、今村さんが用意したテント内で試飲を行った。快晴で汗ばむほどに晴れたこの日、筑波山から吹き降ろす風が心地よい、ヴィンヤード(ワイン用ブドウ園)ならではのロケーションです。

ティスティングはまず、「Episode 0 (zero) 2019」から。黒ブドウのシラーを3割、残りはシャルドネとセミヨンから造ったスパークリングワインです。そして栽培している白品種をすべて混醸して造った「Spiral 2020」と、シラーとヴィオニエを混醸した「Purple Peaks 2020」と続けて試飲していきます。Purple Peaksは、筑波山の山肌が斜陽で紫に染まることから「紫峰」と呼ばれているところからつけた名前だそうです。

そんな中、大越氏が気に入ったのはティスティングの最後に出された「Overdrive Oak 2018」、シラー、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、タナなどのヨーロッパ品種を2タンクに分けて発酵後、樫材のチップ(オークチップ)で樽の風味付けをしたものです。

「口のなかでアルコールやタンニンを総合的に感じたときのテクスチャー(質感)が好きです。凝縮感もあります。この年のようなスタイルが、ある程度コンスタントにできればいいですね」と、本格的なアドバイスを今村さんに送っていました。

標高877m、男体山と女体山の2つの峰を持ち、古くから信仰の山として崇拝されてきた筑波山。今回のツーリズムで訪れた圃場のうち、筑波山にもっとも近いのが『ビーズニーズヴィンヤーズ』の圃場だ。

白ワイン品種は、シャルドネ、セミヨン、ヴィオニエ、ヴェルデーリョ、赤ワイン品種は、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、プティ・ヴェルド、タナなど、多くの人が一度は聞いたことがあるようなヨーロッパを代表するワイン用ブドウの品種を2つの圃場で合計1.5haで育てている。

「いわゆる自然派ワインによくある、クセのある匂いが出ないように、きれいに醸造して素直に食事に合うワインを造りたい。ただ、今は委託醸造をしていて、委託先ごとに設備が違ってくるのでそこは仕方ないですね。将来的に醸造も自分でやるなら瓶詰め時の窒素置換は必須ですね」と今村さん。

つくばワインこの小さなエリアに、これだけの良い食のプロダクトが揃っているのは珍しい。

3つ目の訪問地『つくばヴィンヤードは、筑波山から12㎞ほど南にある栗原地区にあります。すこしだけ筑波山から遠くなりましたが、まだしっかりと山容を確認することができます。いつも旅人を筑波山が見守ってくれる、それもまたつくばを旅する特別な楽しみ方といえます。

つくばヴィンヤードでは、旅の合間に買ったワインに合うフードを食べながらの試飲会にしようと髙橋 学(たかはし・まなぶ)氏が炭火を起こして待っていてくれました。

髙橋氏が勧める白ブドウ品種、プティ・マンサン100%の「Tsukuba Series プティマンサン」やつくばワイナリーでも栽培している富士の夢100%の「Tsukuba Series Kurihara」などとともに、即席の野外レストランです。

3人が購入してきたのは、レンコンや原木椎茸、ハーブといったつくば市産の野菜に『手づくり工房ぴあらハム』と『筑波ハム』のハムやソーセージといった加工食品。さらに県外の人もわざわざ買いにくる人気のベーカリー『ベッカライ・ブロートツァイト』とチーズショップ『チーズ専門店 ラ・マリニエール』では、パンとチーズです。

「『筑波ハム』は、社会的な食のニーズや地元の声を聴く中で無添加のハムを作り始めたとおっしゃっていました。腐敗防止発色のために使われる硝酸不使用なので、時間をかけてていねいに作るのでまだ肉本来の風味や食感が残ってとてもおいしい。製造量は少ないそうですが、こういった取り組みが根付いていってほしいですね」というのは、白土さん。

「プティ・マンサンがきれいでおとなしい印象があるので、無添加で味が決まりきっていない肉本来のやさしい味わいのハムが、風味と味わいの強さとしても一緒に飲んでもおいしくいただけるよね」と大越氏もワインとの相性の良さを感じていました。

「『ラ・マリニエール』で買ってきた12カ月熟成のコンテや羊乳のシェーブルと食べてもいいですよね。とくにコンテを食べた後に飲むと、コンテにつられて、ワインのうま味も出てくるように感じます」(白土さん)。

「いろいろな地域でワイン・ツーリズムだったり、地域おこしをしていますが、これだけいい食のプロダクトが小さなエリアのなかに揃っているのは、珍しいですよね」(真藤さん)と、筑波山を遠望する気持ちのいい空間で、ざっくばらんにつくばワインと、つくばの食についての会話が続いていました。

筑波山を背景に、『つくばヴィンヤード』の圃場内で『つくばヴィンヤード』のワインの試飲とともに、購入してきた地元の食材といっしょに食べ飲みをしてみる。自然にあふれ開放感がある場所は、それだけでワインと料理の最高のスパイスになる。 

つくば市産の原木椎茸やレンコンのような地元の食材を、地元の調味料で食べながらその土地で作られたワインを飲む。「場所は畑の中や通りかかった公園などでも十分で、そういう楽しみ方ができるのがワイン・ツーリズムの良さですよね」と白土さん。

つくば市にワイン特区の申請を勧めたのは、髙橋氏。「僕のように一人でブドウを育てて醸造もしている人たちにとって、製造量が少ないところから始められるのが、すごくありがたい」と髙橋氏。

平日でも午前中からたくさんの人が集まる人気の直売所『みずほの村市場』では、カラフルトマト、レンコン、原木生椎茸、芽キャベツといったつくば市産の産直野菜のほか「ぴあらハム」のハムとソーセージを購入した。

ドイツパンの専門店『ベッカライ・ブロートツァイト』では、ドイツの田舎パン「バウアンブロート」(ホール、1,000円)と「レーズンパン」(ホール、1,300円)を購入。しっかりと焼かれてガリっと香り高い表面のテクスチャーとは対照的に中は、やわらかくうま味が強い。

『ベッカライ・ブロートツァイト』から歩いて3分ほどにある『チーズ専門店 ラ・マリニエール』。フランスやイタリアの輸入チーズをメインとした輸入食材を扱う。12カ月熟成のコンテ(950円)と、ブイゲット(山羊のチーズ、1,950円)を購入した。

1981年に創業した『筑波ハム』は、茨城県のブランド豚を使ったハムやベーコンを手造りで販売している。自然派志向のニーズを受けて発色剤や食品添加物を使わずに、ゆっくりと熟成させた無添加商品も開発している。無添加つくば豚ボンレスハム(5,642円)などを購入した。

つくばワイン突出した生産者の存在が、産地全体のレベルアップにつながる。

「ワイン・ツーリズム」という言葉は、1996年に初めて使われるようになった比較的新しい言葉であり概念です。

ワインのティスティングやワイン産地の気候風土を体験することが最大の動機になるような旅のことをいい、その訪問先は今回のようにワイナリーやヴィンヤードのほか、ワインフェスティバルやワイン展示会なども含まれます。日本では、2000年代になって使われるようになりました。

もちろん、ヨーロッパには、ワイン・ツーリズムという言葉で呼ばれなくとも、ワインを目的にした旅の楽しみは以前からありました。日本でも日本酒の銘醸地への旅や、旅先で地酒と地域の食を楽しむ旅のスタイルは昔からあり、ワイン・ツーリズムに近いものといえます。
ヨーロッパのワイン文化にどっぷりと浸かってきた大越氏にとってワイン・ツーリズムは、そもそもの「旅」の本質でもある「地域体験」にあると考えています。

「ワインは、『どこで作られているか』ということが最も大事です。この地に合っているから、このブドウを使っていますっていうのが本来のワインの姿。だからこそ地域のこともよく知る必要があり、総合的に土地の個性を打ち出すことができる存在になるのです」と、大越氏。

つくばのワイン生産者をまわり、それぞれが個性的で意欲的なワインを造っていることを感じとったという大越氏。なかでも土地の個性をより強くワインで表現していたのは、最後に訪れた『ル・ボワ・ダジュール』の青木 誠(あおき・まこと)氏だったといいます。

「試飲させてもらったシャルドネは、『ビーズニーズヴィンヤーズ』の今村さんから買い取ったブドウで青木氏が醸造したもの。もう1つのヒムロットも、借りている圃場に昔からあった樹齢50年という生食用のブドウ品種だといいます。その中でしっかり味わいののったワインを目指して補酸や補糖もせず、ナチュラルな味わいのバランスをアルコール度数に頼らず作り上げている。多くの人が『何のブドウ品種を使っているか』から話を始めるなか、根本的な考え方があると思いました」(大越氏)。

この意見に、白土さんも「一番『こういうワインを造りたい』というのが伝わってきたよね」と賛同します。

日本におけるワイン・ツーリズム発祥の地・山梨県でやまなし大使としてワイン・ツーリズムの取り組みを見つめてきた真藤さんは、「突出した生産者の存在が、産地全体のレベルをアップさせるのをみてきました。海外でしっかりとワイン醸造を学ばれてきた青木氏は、その生産者になる可能性がある」とも話してくれました。

つくばエクスプレスの「つくば」駅から車で10分ほどの住宅地にある『ル・ボワ・ダジュール』は、フランスのワインの銘醸地域であるジュラとブルゴーニュの4軒のワイナリーで3年半研修し2019年に帰国した、青木氏が2021年に開いたワイナリー。

フランスから帰国した青木氏は、2020年から実家のブドウ園に入って生食用の巨峰栽培を手伝いながら、ワイン用のブドウも栽培。ワイン造りをスタートさせた。

「酸を足した方がいいという人もいますが、僕はあえて酸を足すことを考えなくてもいいのかなと思っています。アルコールののったワインを作って、熟成させれば隠れた酸が出てくるのかなって思っているからです」と、自身の考えを伝える青木氏。

「シャルドネとヒムロットはとてもユニークです。とくにヒムロットのアロマティックな個性は、スパークリングにも向いてそうです。巨峰は、このように濁り系で作りあげるスタイルと、とてもよくあっていると思います。樽熟成でテクスチャーも加わり、厚みが感じられます。その分巨峰らしいアロマが控えめになりますが、バランスはいいです。ワインとしては、熟成というよりは早いうちに楽しむほうがあっていそうです」と大越氏。

つくばワインつくばが、ワインの銘醸地と世界から認められるために必要なこととは。

そして最後に3人が指摘したのは、ワイン生産者だけでない横のつながりを作っていくことだといいます。

「つくばのワイン・ツーリズムの可能性を探るということでまわりましたが、熱意あるワイナリーの方々とともに、『ベッカライ・ブロートツァイト』や『チーズ専門店ラ・マリニエール』、『筑波ハム』といった素晴らしい食べ物を作っている人たちがいるわけですから、そういう人たちともどんどんつながって意見交換をしていった方がいいと思うんです」(大越氏)。

「ワイン・ツーリズムにこだわりすぎないことも考えていいかもしれないですよね。つくばにワインを買いにくる人たちは、完璧なマリアージュとかペアリングを、必ずしも求めてないんじゃないですかね。今回私たちも、できるだけつくば市のものを食べたいって思ったし、別にそれは手の混んだ料理とかじゃなくて、地元の味噌とか郷土料理とか、今回でいえばレンコンやトマトといった普通の野菜だったりするんです」(白土さん)。

「都心から60分ちょっとで着く、近いのもいいですよね。どこからでも筑波山が見渡せるようなロケーションがすごくいいですよね。ワイン・ツーリズムとしてまわったときに楽しくできそうな気がする。収穫時期とか新酒の時期とかでもいいので、イベント化してワイン・ツーリズム用の巡回バスなんかがあると、都心からでも参加しやすいですよね」(真藤さん)。

今回はまわれませんでしたが、意識ある野菜や畜産の農家もつくばにはたくさんいます。そうした食にまつわるすべての人たちを、ワインという線で繋いでいくことがつくばらしいワイン・ツーリズムの姿かもしれません。

つくばのワイン・ツーリズムはまだまだ始まったんばかり。最適なルートも立ち寄りスポットもまだまだ確立されていませんが、今回紹介したワイナリーやフードショップで気になった"推しスポット"を2、3カ所まわってみてください。旅のガイドブックをたどるのとはひと味違う「地域体験」ができるはずです。

 

つくばワイナリーの圃場で、筑波山を背景に。

つくばエクスプレスの研究学園駅近くの「地酒本舗 美酒堂 研究学園店」は、つくば ワインを揃える地元のワインショップ。ワイン・ツーリズムの最後の目的地にピッタリだ。

1976年生まれ、北海道出身。国際ソムリエ協会認定 、International A.S.I. Sommelier DiplomaWSET Sake Level 3 Educator、モダンベトナム料理店「An Di」(外苑前)「An Com」(広尾)オーナー。渡仏し栽培、醸造の分野を学び、帰国後銀座レカンのシェフソムリエに就任。2013年6月ワインテイスター/ソムリエとして独立。IWC、IWCCのシニアジャッジとして国際的なワインと日本酒の品評会にも招待されており、日本酒や焼酎のペアリングで、和食以外のレストランで明確に提案したパイオニアの一人。

東京生まれ。主に発酵料理を得意とし、料理を通じて環境を考えた暮らし方や食育を提案。 IT関連の会社勤めを経て、京都の禅寺にて1年間生活をし、その後フランスのリッツエスコフィエにてディプロマを取得。レシピ開発やレシピ本の執筆、 料理教室、テレビ、ラジオ出演や、食育、ワイン、日本酒など酒と食との講演会などで活動。山梨との二拠点居住の後、現在は東京に拠点を戻し、やまなし農業6次産業化戦略会議アドバイザーや、日本各地の商品開発、メニューのアドバイザーなどで活動中。

営業企画部 前職で家具屋で働いていた時に仲良くなった酒蔵の社長の影響で飲食にまつわる仕事をしたいと思い転職。現在は海外・日本ワインの仕入れや、イベント企画を担当。 特に日本国内の造り手の元には頻繁に訪問し、現地で聞いた情報を飲食店や小売店のお客様に伝え、造り手と消費者を繋ぐ仕事を主に行っている。



Text:ICHIRO EROKUMAE
Photographs:JIRO OTANI
(Supported by シェフと茨城)
【問い合わせ先】
つくば市経済部農業政策課 農業政策係
Tel:029-883-1111